探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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葬儀屋さんの回。
原作と異なる場面も出てきます。
  


執事の神業(1)

町屋敷を出て、アンジェリーナ達は馬車でロンドン市内までやってきた。

途中で馬車を降りて、シエルを先頭に目的の場所まで徒歩で移動する。

…約10分後に、5人はそこへ辿り着いた。

 

「ふぅー、やっと着いたね…で、ここどこ?」

「ちょっと劉! あんた、さっき知ってる風だったわよね!?」

 

屋敷にいた時は、その場所を知っている感じでシエルと会話していたが…

どうやら、知ったかぶりをしていたようだ。

盛大にツッコむアンジェリーナを、セリアは落ち着いてくださいと

冷や汗を流して宥める。

 

「坊ちゃんのお知り合いが経営なさっている葬儀屋(アンダーテイカー)さんですよ」

「「葬儀屋?」」

 

言葉を反芻させるアンジェリーナとセリアに、シエルはついてきてくれ、と言うと

店の扉を開けた。

 

「なにここ…幽霊屋敷?」

 

眉を潜めたアンジェリーナの第一感想はそれだった。

必要最低限の蝋燭の灯りしかつけず、店全体が薄暗い。

内装は至って不気味だ…天井や壁に設置している絵画の所々に蜘蛛が巣を張っており、

壁には棺がいくつも立てかけてある。

 

東洋の葬式で使いそうな道具や臓器が入ったホルマリン漬け、怪しそうな薬品が

そこらに置いてあったり…万人が通いそうな店とは思えない。

 

「いるか? 葬儀屋」

 

シエルが呼びかけると、どこからか笑い声が…

 

 

《……ヒッヒッ…そろそろ来る頃だと思ってたよ…》

 

 

突如、聞こえてきた謎の声に、アンジェリーナの視線はすぐ近くにある棺桶へ

向いたその瞬間、ぎぃいいいと棺が開いた。

 

「よぅ~~~こそ。伯爵……」

「きゃああああ!」

 

距離的に棺に近かったセリアが盛大に叫び声をあげて腰を抜かしてしまった。

アンジェリーナと劉も、棺に潜んでいた怪しい男に言葉を失ってしまう程、

顔を青ざめて震えている。

 

「やっと小生特製の棺に入ってくれる気になったのかい…!」

「そんなワケあるか、今日は…」

 

シエルが言葉の続きを紡ごうとしたら、葬儀屋は彼の唇にピトッと人差し指を

つけてそれを遮った。

 

「言わなくていい。

伯爵が何を言いたいのか、小生にはちゃ~~~んとわかってるよ。

ああいうのは『表の人間』向きの『お客』じゃない。

小生がね、キレイにしてあげたのさ」

 

「……その話を聞きたい」

 

シエルが真面目な顔で用件を言った。

 

「じゃあ話をしよう。お茶でも出すよ…そのへんに座っててもらえるかい?」

 

そこらにあるのはソファーや椅子ではなく…床に置いてある棺。

 

(椅子=棺ってこと…!?)

 

なんて罰当たりな事させるんだ、此処の店の主人は…。

アンジェリーナは血の気の引いた顔で、内心ツッコみながらも、仕方なく棺に腰を下ろした。

シエル、劉、セリアも同様に座り、セバスチャンはシエルの後ろで立つ事にしたようだ。

 

「はい、どうぞ」

 

葬儀屋が温かいお茶を一人ずつに配っていく。

香り立つそのお茶は、おそらくダージリンだと思われる。

問題は、その紅茶をなんで普通のティーカップではなくビーカーに入れているのかだ。

 

「…此処って実験室も兼任してるのかしら」

「…あ、味は美味しいです」

 

セリアが恐る恐る口をつけて毒見をしてくれた。

どうやら、味は保証できるもののようだ。

 

 

「―――さて、聞きたいのは切り裂きジャックのことだろう?」

 

 

葬儀屋は、骨壺の蓋を開けながら話を再開した。

 

「今頃になってヤードは騒いでいるけれど…

小生がああいうお客を相手にしたのは今回が初めてじゃないよ」

 

「初めてじゃない? どういうこと?」

 

「昔から何件かあったんだよ。

娼婦殺しが…ただ、どんどん手口がハデで残酷になっている」

 

そう言いながら、葬儀屋は骨壺に入った骨型クッキーをシエルに差し出すが、

シエルは嫌そうな顔で「いらん」と断る。

 

「最初はそんなにスプラッタじゃなかったから警察も気づいてなかったけど、

ホワイトチャペルで殺された娼婦には皆共通点がある」

 

「共通点?」

「…ですか?」

 

シエルとセバスチャンが聞き返すと、葬儀屋は骨型クッキーを一枚食べ終え、

開けた骨壺の蓋を閉めながらニヤニヤと笑う。

 

「さてねぇ、なんだろう、なんだろうなぁ。気になるねぇ…」

 

(ふーん…なるほど)

「あの…アン様。葬儀屋さんはなんで話を途中ではぐらしているんでしょうか…?」

 

葬儀屋の態度の意味が分からず、セリアがこそっと小声で質問してきた。

 

「この先の話は有料って事。

情報屋って言うのは、重要なネタになるとそれ相応の金銭を要求してくるのよ」

 

アンジェリーナが小声で教えると、セリアは「へぇー」と理解したように小さく頷く。

それにしても…葬儀屋はどれほどの金額を請求してくるのだろうか?

 

「成程ね。そういう仕事か。葬儀屋は『表の仕事』という訳ね…

いくらだい? その情報は」

 

劉が口にした言葉に、葬儀屋はピクッと反応して、素早くずずずいっと詰め寄った。

 

「小生は女王のコインなんかこれっぽっちも欲しくないのさ」

 

急接近してきて、自らの対価はお金でない事を主張する葬儀屋に、

劉はビクッと震える。

それを見ていたアンジェリーナとセリアもまた、彼の行動を見ながら

「うわっ…」と顔色を青ざめて引いてしまう。

 

葬儀屋はぐりんと首を動かし、視線をシエルへ狙い定めると、

今度はシエルへ近づいていく。

 

 

「さあ、伯爵…小生に‟あれ”をおくれ…極上の《笑い》を小生におくれ…!!

そうしたらどんなことでも教えてあげるよ…!!」

 

 

ハァハァ…と頬を紅潮させながら愉悦をはらんだ笑みを浮かべて言う葬儀屋。

意外な対価に、アンジェリーナ達は呆然となった。

「変態め」とドン引きした顔でそう言い放つシエルに対し、

葬儀屋は自分の世界に浸ってるようで全然応えていない。

 

  

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