探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(1)の続き。
  


執事の神業(2)

「伯爵、そういうことなら我にまかせなさい」

 

すると、劉が自信ありげに前へ出てきた。

 

「上海では“新年会の眠れる虎”と呼ばれた我の神髄…とくとごらんあれ!!」

 

率先して、葬儀屋を笑わそうと意気込んでいる劉。

果たして、どんな方法で笑わせるつもりだろうか…?

 

 

「ふとんがふっとんだ」

「……」「……」

「……」

「??? えっと…どういう意味ですか?」

「……(劉、あんたねぇ…)」

 

「…あれ?」

 

 

寒いギャグをかました結果、見事に周囲の空気を凍らせた。

 

「だらしないわね、劉…仕方ない」

 

この微妙になってしまった空気を変えるのは自分しかいない!

 

「社交界の花形、このマダム・レッドがとっておきの話を聞かせてあげるわ!」

 

アンジェリーナはふふふっ…と得意げに笑みを浮かべて立ち上がった。

セリアはおおっ…と、雇い主がどんな話を語るのか、とドキドキしながら見守る。

シエルとセバスチャンも注目する中、アンジェリーナは口を開いた。

 

 

「―――でね、そいつったら(ピーッ)が(ピーッ)だったの!!

さらに(プー)が(バキューン★)だったワケ!」

 

「あ、アン様ぁああああ―――…!」

 

 

アンジェリーナが語りだしたのは、お子様には到底きかせられない

R指定な内容(下ネタ)だった。

突如、雇い主の赤裸々な体験談を聞かされて、セリアは顔をゆでだこのように

真っ赤にしながら大混乱に陥っている。

これは坊ちゃんの耳に入るには刺激が強すぎる…と判断したのか、

セバスチャンはシエルの両耳を塞いだ。

 

話を一時間続けたものの…葬儀屋は全く無反応。

 

「さて残すは伯爵のみだよ」

 

ひひっと愉快そうに笑いながら告げる葬儀屋。

彼を笑わせる事ができなかったアンジェリーナと劉は、口にバツ印のマスクを

被せられてしまった。当人たちはブーブーと文句を言いたそうだ。

 

「前回はチョットおまけしてあげたけど…今回はサービスしないよ」

 

シエルはうっ…と冷や汗を流しながらたじろく。

彼が前回どうやって、葬儀屋を笑わせたのかは不明だが、今回は笑いのレベルが

それ相応に高くなければ、葬儀屋は認めないようだ。

 

「仕方ありませんね」

 

「くそ…」と悪態をつくシエルに助け舟を出したのは、セバスチャンだった。

 

「へぇ…今回は執事君が何かしてくれるのかい?」

「セ…セバスチャン」

 

おい、大丈夫なのか…と不安そうに目線で訴えるシエルに、

セバスチャンは「ご安心を」といつも通りに答える。

 

「みなさん、どうぞ外へ…絶対に覗いてはなりませんよ…」

 

ギラリと目を光らせ、警告をすると葬儀屋を除いた全員を一旦、外へ出させた。

ぱたむ、と扉を閉めてし…んと静寂が漂う。

…次の瞬間だった。

 

 

《ギャハハハ! ブフォッ、ア”ハハハ!! ヒィ…もう…やめ…》

 

 

葬儀屋の盛大な笑い声が響き渡った。

その凄さは、店の看板さえも傾かせる程に…。

「中はどうなってるの!?」とアンジェリーナとセリアがドキマギしていると

…ガチャッと扉が再び開いた。

 

「どうぞお入り下さい。話して頂けるようです」

 

セバスチャンが爽やかな笑みで入室を促した。

葬儀屋はというと…

 

「さて…話の続きだね。ぐふっ…なんでも教えてあげるよ…」

 

小生は理想郷を見たよ…と涎まで垂らして至福の気分を味わっていた。

 

「何したんだ…」

 

葬儀屋があまりにもヘヴン状態に陥っている事に、シエルはドン引きしながら

セバスチャンに尋ねるが、彼は「いえ、大した事は」と真顔で返した。

 

…兎にも角にも、これで重要なネタを聞く事が出来る。

 

時間をおいて、落ち着きを取り戻した葬儀屋がその事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

「昔からねぇ、ちょくちょくいるんだよ…〝足りない”お客様が」

「…足りない?」

「そう、足りないのさ…『臓器』がね」

 

人体模型の頭を持って見せる葬儀屋の言葉に、その場にいる全員は息を飲み込んだ。

 

「お客様には棺で眠る前にキレイになってもらわないとだろ?

はみ出したものをしまったりさ…その時にちょっとだけ検死させてもらうのが

小生の趣味でね」

 

アンジェリーナとセリアは紅茶の入ったビーカーにハッと目を向けた。

まさか、その趣味の時に使用しているものでは…と嫌な想像が頭をよぎり、

ぞぉーと背筋に悪寒が走る。

 

「皆、臓器が片方ないとかそういうことかい? だとすると金融業とか?」

「窟(あなぐら)に住む中国人は考えが物騒だねぇ」

「ムッ、失礼な」

 

おおコワいコワいと人体模型を抱きしめて頭を擦る葬儀屋に、劉は青筋を立てる。

 

「そういうことじゃない。そうだ…そこにいるお嬢さん」

「わ、私ですか…?」

 

「ココでクイズを出そう。

女性にしかできない一生涯にくるイベントってなーんだ?

答えてもらえるかい?」

 

葬儀屋は突然、セリアにクイズを出題した。

セリアは戸惑いを露わにしながらも、うーん…と両目を閉じて一生懸命考える。

すると、ピーンときたのか瞼を開けてこう答えを口にした。

 

「もしかして出産…?」

 

女性が人生に一回、遭遇するかもしれないイベント…それは男性にはできない事。

その二つのヒントをもとに考えられるもの…それは、すなわちお腹に生命を宿し、

この世に生み出す行為―――【出産】だ。

 

「ヒヒッ、正解。つまり、殺された娼婦達には、その出産のためには

絶対不可欠な臓器がなかったのさ。―――『子宮』がね

 

告げられた事に、セリアは顔面蒼白になり、ひっ…と口を両手で塞ぐ。

犯人のあまりにも酷い行為に、シエルとアンジェリーナも顔を歪める。

 

「最近、急にそういう『お客』さんが増えてねぇ。

しかもどんどん血化粧(メイク)は派手になる。小生も大忙しってワケ」

 

「しかし、いくら人通りが少ない路上で…しかも真夜中となると、

的確にその部位を切除するのは素人には難しいのでは?」

 

セバスチャンの言う通りだ。

夜の時間帯、街頭の灯りがない場所は視界に慣れるまでにかなりの時間を要する。

さらに、そんな視界の悪い中で子宮だけを切り取るのは難しい。

 

「鋭いね、執事君。小生もそう考えているんだ」

 

葬儀屋も同じ意見のようだ。

 

「『手際の良さ』…それから『ためらいのなさ』から考えて

まず表の人間ではないね。多分『裏の人間』だ」

 

葬儀屋は腰を上げて後ろからシエルに近づき、耳元で囁く様に話しかける。

 

 

「伯爵がくるって分かったのはそういうことさ。

犯人が『裏の人間』の可能性があるなら、必ず君が此処へ召喚されると思った。

きっとまた殺されるよ。ああいうのはね、誰かが止めるまで止まらないのさ。

止められるのかい? 『悪の貴族』 ファントムハイヴ伯爵」

 

 

葬儀屋は試すような口調で、シエルを挑発する。

 

「裏社会には裏社会のルールがある。

理由なく表の人間を殺めず、裏の力を似て侵略しない」

 

シエルは、ガタッと棺から立ち上がるとセバスチャンにコートを着せて

もらいながら言った。

 

「女王の庭を穢す者は、我が紋にかけて例外なく排除する。

どんな手段を使ってもだ」

 

シエルは迷いのない冷徹な顔でそう言い切ると、「邪魔したな、葬儀屋」と告げて

店から出ていく。

 

「私達も行きましょうか」

「そうだねー」「は、はい!」

 

犯人の手掛かりも掴んだ…後は情報を頼りに犯人を割り出すのみ。

 

「チョットいいかな? マダム」

 

シエルの後を追おうと席を立とうとした時、葬儀屋に呼び止められた。

 

「えっ、私?」

 

「そうそう、マダム・レッド…だったね。

つかぬことを伺うけど、昔…事故とかに遭遇したことあるかい?」

 

「…数年前に馬車の事故にあったわ。それが何か?」

 

おかしな事を訊いてくる葬儀屋に、アンジェリーナは眉を潜めて返すと…

 

「いやいや…単に気になっただけだよ。

そう、君から〝あの匂い”が漂っていたから」

 

「…!」

「アン様…?」

 

葬儀屋から遠回しにある事を指摘された事に、アンジェリーナは目を見張る。

その様子が妙だと思い、セリアが声をかけると…

 

「ふふふ、なんでもないわ…急ぎましょう」

 

アンジェリーナは笑って誤魔化すと、「えっえっ…」と戸惑うセリアの背中を

押して、そそくさと店を後にした。

パタンと扉が閉まり、客人がいなくなった店内で、葬儀屋はニンマリと口端を

吊り上げる。

 

 

「久しぶりだよ…あの系統の種族と契約を交わした人間を見るのは」

 

  

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