探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(2)の続き。
最後の方でオリキャラが登場しています。
  



執事の神業(3)

「さっきの話で大分絞れるな」

 

帰りの馬車の中で、シエル達は葬儀屋から手に入れた情報をもとに

犯人像を推定していた。

 

「そうですね…まず『医学・解剖学に精通する者』。

その中で『事件発覚前夜にアリバイのない者』。

そして臓器などを持ち去っていることから儀式性…

『秘密結社や黒魔術に関わる者』も挙げられます」

 

セバスチャンが口にした犯人の特徴。

 

「ちょっとどこが絞れてるのよ。

この社交期に一体どれだけの人が首都に集まってると思うの!?」

 

だが、あくまで大まかな目安が判明しただけであり、明確な犯人への手掛かりに

繋がってはいない。また、アンジェリーナが指摘したように、今は大勢の貴族や

富裕層が集う時期だ。

 

ロンドン市内で働く医者だけでなく、貴族が地方から連れてきた医者、

医者になっていない医大卒大生、人体に詳しい渡来人…

あまりにも容疑者の数が多すぎる。

 

「あと一週間もしない内に社交期が終わって、主治医は地方に戻ってしまうわよ、

どうやって…」

 

「では、それまでに調べれば良いのです」

 

アンジェリーナの言葉に重ねる様に、セバスチャンがそう言い切った。

 

「なんだって…?」

「社交期が終わる前に全ての人物を尋ね、アリバイを確認すればいいのです」

「いやいや…いくらなんでもそれは難しいんじゃない?」

「そうよ、まだ正確な数も分かってないのに、どう確認するのよ!?」

 

1週間以内に、容疑者を割り出すなんて不可能だ。

劉とアンジェリーナが否定的な見解の中、セバスチャンはにこっと笑う。

 

「お任せ下さい。ファントムハイヴ家の執事たる者、それくらい出来なくて

どうします?」

 

セバスチャンのあまりにも余裕な態度とその発言に、アンジェリーナ達はぽかーんとしてしまう。

周囲が呆然とする一方、シエルだけはふっ…と微笑んでいる。

 

「では、早速容疑者名簿を作り、全ての人物をあたってみようと思います」

「ん、任せる」

「えっちょっ…早速って今、馬車走ってるのよ!」

 

ツッコむアンジェリーナをよそに、セバスチャンは馬車の扉を開ける。

 

「では失礼します」

 

礼儀正しく挨拶をすると、馬車の扉をパタンと閉めた。

 

「って、大丈夫なの…!?」

「かなりのスピードで走ってますけど…!?」

 

慌てるアンジェリーナとセリアに、シエルは「問題ない」と即座に返答する。

実際、後ろの窓から確認すると、セバスチャンらしき男性の姿はなく、

忽然と姿を消していた。

 

「セバスチャンはああ言ったけど…いくら優秀な執事でも、時間がかかるでしょうに」

 

「あいつがやると言ったんだ。必ず何か掴んで帰って来るだろう。

僕らは紅茶でも飲みながら待っていればいい」

 

シエルは動じる事無く、頬杖をついて窓を眺めながら言った。

 

「えらい信頼してるのねぇ…」

「……別にそう言う訳じゃない。ただ『あいつ』は嘘だけはつかない。絶対に」

 

〝嘘だけはつかない”

 

彼の発したその言葉が…アンジェリーナの脳裏にある記憶を蘇らせる。

 

 

『アンさん、―――…以上…―――…これだけは守ってください。

どうか、自分自身に嘘は付かないで。素直になってくださいね』

 

 

あの時、彼女とあの誓約を交わした。

自分の心に嘘をつかないように…と。

今の私は…あの誓約を守れているのだろうか…?

 

「…様、アン様」

「えっ…ああごめん。なに?」

「もう町屋敷に着きましたよ」

 

セリアに言われて、初めて気づいた。

馬車は屋敷前にとっくに留まっており、自らが随分と長く考え事をしていたのだ…と。

 

「マダム、どうしたんだい? ずーと上の空だったけど…?」

「あ…うん。ちょっと仕事のことを思い出してたの」

 

心配する劉に、アンジェリーナは曖昧に笑って適当に思いついた理由を

言って誤魔化した。些細だが、違和感のある態度…この時、彼女は甥が静かに

観察していた事に気付かなかった。

 

「セバスチャンも時間かかるだろうし…セリア、紅茶淹れてくれる?」

「かしこまりました」

 

「じゃあ、お菓子は我が持ってきた中国の手土産でもあけようか?

美味しいって評判なん…だ…」

 

午後の紅茶(アフターヌーンティ)の話題を喋りながら、馬車を降りて劉が

町屋敷の扉を開けると…

 

 

「お帰りなさいませ、お待ちしていました」

「「「―――ッ!?」」」

 

 

なんと…つい先程、情報収集にいったはずのセバスチャンが出迎えてくれたのだ。

 

「今日のおやつは?」

 

シエルは何時の間にか帰宅していた執事に対し、ごく普通に「午後の紅茶の準備ができたのか」と聞く。

 

「はい、洋梨とブラックベリーのコーンミールケーキです」

「ちょっ…あんた何でココに!?」

 

容疑者のリストを作るために情報収集しに行ったんじゃないのか、と驚く

アンジェリーナに対し、セバスチャンはにこやかに笑う。

 

 

「用事が済みましたので先に戻らせて頂いておりました」

「用事って、もう名簿が作れたの!?」

 

「いえ? 先程の条件に基づいた全ての方の名簿を作り、

全ての方に直接お話を伺ってきただけですよ」

 

貴族の主治医まで調べていたので少々時間がかかりましたが…と語るセバスチャンに、

全員はぽかんと開いた口が塞がらない。

 

「ちょっとセバスチャン…そりゃあんた、いくらなんでも無理があるんじゃない?」

 

馬車で屋敷まで着く間…途中下車したとはいえ、そんな短時間で調べてあげるなんて、

人間には到底不可能だ。

しかし、セバスチャンはフッと口角を上げると所持していた数本の長い巻物を

一本ずつ広げながら喋り出した。

 

 

「チェインバーズ伯爵家主治医 ウィリアム・サマセット メアリ・アン・ニコルズ殺害時ハーウッド伯爵主催パーティーに出席にてアリバイあり 秘密結社等の関与なし…~~etc」

 

 

スラスラと巻物に書かれている容疑者の名前、事件前後の足取り、アリバイを一名ずつ早口であげていくセバスチャン。

シエルは執事のその仕事ぶりに満足げに笑い、劉は感心し、セリアはうそ…と目をパチクリさせて感嘆する。

アンジェリーナは被っていた帽子がズルッと落ちそうになる位に、絶句してしまう。

 

「…以上の調査結果より―――条件を満たす人間はただ一人にまで絞り込めました。

詳しいお話はお茶にしてからにしましょう」

 

「…ははっ、一体どんな手を使ったのよ、セバスチャン?

あんた…本当にただの執事?

O.H.M.S.S.(女王陛下秘密情報部)とかなんじゃないの?」

 

アンジェリーナは半信半疑な感じで尋ねるにはいられない。

セバスチャンは爽やかに微笑みながらこう返した。

 

 

「…いいえ 私は―――あくまで 執事ですから」

 

 

 

【執事の神業】

 

 

 

その頃、リエはロンドン郊外にある広大な屋敷に招かれていた。

 

「初めまして。私立探偵、リエ・クローチェと申します」

「お、お初にお目にかかります」

 

上等そうな椅子に腰を掛けている依頼主。

ウェーブがかった長い金色の髪、ブラウン色の瞳、眼鏡をかけており、

派手でもなく地味でもない華美な普段着のドレスに身を包んでいる。

とても謙虚で大人しく…可愛らしい庇護欲を駆られそうな容姿の美少女だ。

 

「あ、あの…その…依頼…内容はですね…」

「慌てないでください。落ち着いてお話ししてください」

 

リエがふわりと微笑みながら、依頼主の少女にアドバイスする。

少女は「は、はい」と少し落ち着いた感じで返事をすると…すぐに本題を話し出した。

 

「実は…探偵さんにお願いがあります。非常に…言いにくい事なのですが…」

 

少女が沈んだ表情で語りだした依頼内容

―――リエは耳を傾けながら微かに眉を寄せた。

 

 

(これは……とても“深刻な依頼”だわ)

 

 

 

【つづく】

  

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