探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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こ爵邸のパーティー編、スタートです。

  


潜入! 子爵邸パーティー(1)

 

「それで…その容疑者は誰だったの?」

 

セバスチャンの用意した午後の紅茶と菓子を味わいながら、アンジェリーナ達はセバスチャンの報告を聞いていた。

 

『医学・解剖学に精通する者』『事件発覚前夜にアリバイのない者』、そして『秘密結社や黒魔術に関わりがある者』

この条件を満たしている者はただ一人…ドルイット子爵 アレイスト・チェンバー様だけです」

 

…『ドルイット子爵』

 

アンジェリーナもその名は知っている。

自らと同じく医大を卒業しているが、病院への勤務や開業はしていない若い青年だ。

社交界でも名は広く知られており、年頃の若い女性人やマダムからも人気が高い貴族である。

 

「社交期には何度か自宅でパーティーを催しております…が、どうやら裏では彼と親しい者だけが参加できる秘密パーティーが催されているという話です」

「そういえば、黒魔術みたいなのにハマってるって噂は聞いたことあるわね」

「つまり、その『裏パーティー』で儀式的なことが行われていて…娼婦達が供物にされてるっていう疑いがあるってことか」

 

アンジェリーナと劉の言葉に対して、「ええ」とセバスチャンは肯定しつつ、言葉を続ける。

 

「本日の19時よりドルイット子爵邸でパーティが行われます。

もうすぐ社交期も終わりますし、潜り込めるチャンスは今夜が最後だと思っていいでしょう」

 

シエルはカチャッとフォークを皿へ置くと、アンジェリーナへ目を向ける。

 

「マダム・レッド、“そういう”わけだ…なんとかなるか?」

「舐めないでくれるかしら? 私、結構モテるのよ。招待の一つや二つどうにでもしてあげるわ」

 

得意げに笑みを浮かべ、髪をかき上げるアンジェリーナ。

 

「決定だな。なんとしてもその【裏パーティー】に潜り込むんだ。

ファントムハイブの名を一切出さないこと。取り逃がすことになりかねん」

 

―――『チャンスは一度きり』

 

かくして、シエル達は裏パーティーへ潜り込むための準備に取り掛かった。

 

 

◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇

 

 

「招待状は入手できたし…他にやる事はないわね~」

 

パーティーに行くためのドレスも用意したし、シエルやセリアの潜入のための準備も行った。

後は、時間がくるまで待つのみだ。

 

「退屈ね~…」

 

屋敷の二階にある部屋で、アンジェリーナは背伸びをする。

シエルとセリアは、セバスチャンの指導を受けている最中であり、劉は仕事関係で一旦屋敷を離れている。

時間を潰すにしても、話し相手がいないとつまらない。

 

「あーあー…なんか面白い本でもないかしら」

 

本棚を見ながら、指先で書籍のタイトルをなぞってみるが、読んだ事があったり、興味のないモノばかり。

 

「もうちょっと、レディが楽しめる作品位購入しておきなさいよ~…」

 

ぶーと口を尖らせて文句を言っていると、携帯の音が鳴り響いている事に気付いた。

画面に「リエ・クローチェ」の名前が表示されてる。

 

「もしもし…リエ?」

『こんにちは、アンさん。お変わりないようで何よりです』

「そういう貴女も元気そうね…で、電話をかけてきた理由はなーに?」

『そちらの方は調査は進んでいますか? 気になってしまいまして…』

「ぼちぼちよ~…そっちの方はどう?」

 

丁度、暇を持て余していた所だ。

さりげなく、依頼の方がどうなったのか探りを入れてみた。

 

『…そうですね。思ってた以上に複雑な内容で、暫くはこの案件に集中する事になりました』

「へぇ…それで、私の推理は当たってた?」

『ふふっ…さてどうでしょう』

 

「ちょっと~、教えなさいよー」

『個人情報に関わるためコメントは控えますね』

「もぉー、ケチ~」

 

こちらが事件に関わっていない時、リエの口は堅い。

依頼主の個人情報は部外者には口外しない。

…いわば、基本中の基本を忠実に守るタイプだ(但し、アンジェリーナも助手の立場で協力する場合は教えてくれる)。

 

「こっちの事件が片付いたら助手として手伝うから…教えてくれない?

一つだけでも…」

 

『…個人情報はダメですが、一つだけならいいですよ』

「ほんと!」

 

これは聞き漏らすまい、とアンジェリーナはきらりと目を光らせて耳を傾ける。

 

『依頼主の要望で今日、とある貴族のパーティーに出席する事になりました』

「あら、奇遇ね。私の方もよ」

『その依頼主の人と同席する事になりまして…ちょっと準備に時間がかかってしまいました』

「ドレスとか?」

『ええ…でもようやく整いました』

 

携帯越しにふぅーと息を漏らすリエ。

パーティーへの準備を行いながら、電話をかけていたのか…器用な事をする。

すると、別の第三者…声音から中年の女性…が彼女を呼ぶ声がした。

 

『時間のようです。アンさん、幸運を祈ります』

「貴女もね。上手くいけば、数日後に合流できそうだし、その時に近況報告しましょう」

 

通話を終えると、携帯をバッグへしまう。

時計の時刻を確認すると、出発まであと一時間となっていた。

 

「…シエル達の様子、見に行こうっと」

 

 

 

 

 

 

「割と盛大ねぇ…やっぱり今夜が今年の社交期、最後なのかしら」

 

19時…一行はドルイット子爵邸へと足を踏み入れた。

ザワザワと賑わう招待客を見ながら、真紅のドレスに身を包んだアンジェリーナは感想を口にした。

 

「楽しい夜になりそうじゃないか」

 

タキシードを身に着けた劉は、腕を組んで愉快そうに言う。

そんな二人に対し、シエルが厳しい口調で忠告する。

 

「一度警戒されれば終わりだ。いいか…遊びに来ている訳じゃない…気を抜くな」

 

…その姿は、淑女が纏う上質の厚手の絹のドレス。

ツインテールのウィッグを付け、いつも眼帯をつけている個所は花弁をあしらったミニの帽子のヘッドドレスで隠している。

 

「わかってるわよーう! んも~っ、かわいいわねっ♪」

 

あまりにも愛らしい甥の女装姿に、アンジェリーナはたまらなくなってギュッと抱擁してしまう。

 

「離せッ!! なんで僕がこんな恰好を…」

「なによ、気に入らなかったの? モスリンたっぷりフランス製ドレス」

 

流行のドレスなのに~、何が不満なのと不服そうに尋ねるアンジェリーナ。

 

「気に入るかッ!!」

 

シエルは顔を真っ赤にして「NO!」と言葉を返す。

 

「おやおや、レディがそんな大声を出すものではありませんよ」

 

騒ぐシエルを、変装をしたセバスチャンが窘める。

 

「セバスチャン…貴様」

「そーよー、設定どおりにちゃんとやってくれなきゃ…」

 

セバスチャンに続ける形で、アンジェリーナがその設定を語る。

 

「劉は私の若い燕役」

「アイジンでーす」

 

「シエルは田舎からでてきた私の姪っ子役」

「ムスッ…」

 

「セバスチャンはその姪っ子の若い家庭教師(チューター)役」

「僭越ながら、その大役拝命させていただきます」

 

「セリアは、社交界にデビューしたばかりの私の友達の娘役よぉ、なかなか素敵じゃないvv」

「そ、そんな勿体ないお言葉です…!」

 

セリアもいつものガヴァネスの服装ではなく、ベージュ色を基調としたドレスに身を包んでいる。

傍から見れば、上流階級のレディのように見える。

 

「だからっ…なんで僕が姪っ子役なんだ!」

「私、女の子が欲しかったのよねぇ。フワッフワなドレスの似合う可愛い子!」

 

きゃはっとにこやかに笑うアンジェリーナに、シエルはそんな理由で…とワナワナと青筋を立てる。

 

「ってのはまあ、冗談として…ファントムハイヴってバレたらまずいでしょう?」

「うっ…」

 

尤もな意見を耳打ちされ、シエルは反論できない。

 

「第一、身なりのいい執事を連れた隻眼の少年だなんて、見る人が見りゃすぐアンタだってバレるわよ!

それが一番いい変装じゃない」

 

「うぅ…そ、それは…」

 

アンジェリーナの意見に、シエルは押され気味だ。

 

「…おっと、此処だと訪れた他のお客様の邪魔になりますよ。

“お嬢様”、皆様…中へ進みましょう」

 

「おいっ…セバスチャン…!」

 

セバスチャンが口にした呼称に、シエルは文句を言いかけるが、場の空気を読んで歯ぎしりしつつ奥へ歩いていく。

 

「あの、アン様……この配役で大丈夫なんでしょうか?」

「なんとかなるでしょう、きっと♪」

 

前方の二人の様子を心配そうに見ながら尋ねるセリアに、アンジェリーナは気にしないで、いつもあんな感じだからと笑って言った。

 

「さて…まずはドルイット子爵を見つけなくてはいけませんね」

 

セバスチャンの言う通り、大勢の紳士・淑女がいる中で、このパーティーの主催者…ドルイットを探さなくてはならない。

子爵はどこにいるのだろうか…?

  

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