探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(1)の続き。

  


潜入! 子爵邸パーティー(2)

 

「ドルイット子爵ってのはイイ男なのかしら? それによってはヤル気に差がでるわぁ~!」

「輝いているね、マダム!」

 

ギラギラと瞳を光らせるアンジェリーナに、劉はハハハと笑う。

 

「苦しい…重い(服が)…痛い(足が)…帰りたい」

 

対照的に、シエルはずーんと沈んだ面持ち。

女装する羽目になった事に加え、慣れないコルセットとヒールが辛くてげんなりしている。

 

「ふわぁ…」

 

セリアは、初めて見る舞踏会に感嘆の息を漏らす。

まさか、自らが変装とはいえ、上流階級の社交の場に赴けるなんて思いもしなかったからだ。

 

「セリア」

「は、はい…アン様」

 

アンジェリーナに呼ばれて、緩んでいた気を引き締める。

すると、アンジェリーナは所持していた扇で口元を隠しつつこう囁いた。

 

「これは任務だけど…そう硬くならなくていいの。思いっきり楽しんじゃいなさい」

 

主人の思いがけない言葉に、セリアはきょとんとするが、すぐにその意味を理解し、蕾が開いたような笑みを浮かべる。

 

「アン様…ありがとうございます!」

「ふふっ、シエルには内緒よ☆」

 

ぱちりとウインクするアンジェリーナ。

 

「マダムって、意外とお茶目さんだね」

 

「あの子には、秘書として様々な経験をさせてあげたいのよ。

それに…女の子は一度はこういう舞台に憧れるものでしょ」

 

アンジェリーナがクスッと笑って理由を語ると、劉は「なるほどー」と納得したように頷く。

 

「さーて、私もパーティーを満喫しようっと」

「マダムも結局それなんだー」

 

協力するとは言っても、実際に子爵の犯行を裏付ける捜査をするのはシエルとセバスチャンだ。

彼等の特別な指示がない限り、こちらも好きにして構わない…とアンジェリーナは柔軟な思考でそう判断した。

劉もその意見に賛成のようで、ワインとってくるねーとその場を離れていった。

 

そういえば、シエルとセバスチャンの姿が見えない。

どこにいったのやら…とアンジェリーナは頭に疑問符を出して扇子を仰ぐ。

その当人達が、正体がバレるか否かの瀬戸際に置かれている状況なのが後ほど判明するのだが、この時点で彼女は全く想像もしていない。

 

 

 

「アンジェリーナじゃないか!」

 

名前を呼ばれ、反射的にその人物の方へ振り向いた。

 

「あっ…ジェームズ」

「君もドルイット子爵のパーティーに招かれていたのか」

 

ついこの間再会したばかりの級友のジェームズだった。

 

「あらあら、奇遇ねー」

「ああ、そうだね。僕も君に会えてうれしいよ」

「お上手ね~…ところで、ドルイット子爵とは知り合いなの?」

「医学校の後輩さ。…どちらかといえば弟の方と付き合いがあるんだけど」

 

そう言って苦笑いするジェームズ。

彼のその発言から、アンジェリーナは「ああ…兄弟他にもいたんだっけ」と思い出した。

ジェームズは、亡くなった兄と末の妹、それから二歳違いの弟がいる。

尤も、アンジェリーナが知ってるのは故人の兄だけで、下の弟妹とは面識はない。

 

「今日は妹と一緒なんだ。ほら、あそこにいる…」

 

ジェームズが示した先にいる少女。

ウェーブがかった長い金色の髪、ジェームズと同じブラウン色の瞳、薄緑色の絹のドレスを纏っている。

目が悪いのか、やや厚めの眼鏡をかけている事と自信なさげな雰囲気がマイナスポイントだが、それらを除くと紳士の胸をときめかせる素質を秘めている。

 

「エレオノーラ、こっちにおいで」

 

兄の呼びかけに、妹…エレオノーラはビクッと肩を震わせ、オロオロと困った様子で立ち止まっている。

付き添っている執事のグレルが「お嬢様…は、早く行った方がよろしいかと…」と小声で助言すると、緊張した足取りでこちらへやってきた。

 

「お、お初にお目にかかります。マダム・レッド。エレオノーラ・スピアリンクと申します」

「ええ、お会いできて光栄だわ」

 

アンジェリーナが笑って話しかけると、エレオノーラは気恥ずかしそうに俯いて「は、はい…」と返事するのみ。

 

「すまないね。妹は社交の場に慣れていなくて…エレオノーラ、もういいよ」

「……! し、失礼…しました」

 

ジェームズがもう下がっていいよと許可を降ろすや、エレオノーラはドレスの裾を上げて会釈するや、その場からそそくさと立ち去って行った。

その際の足の素早さに「はやっ…!」とアンジェリーナは内心思った。

 

「…ちょっと変わった子ね」

「ハハハ…昔から引っ込み思案なところがあってね…でも優しい子なんだ」

 

ジェームズは穏やかな表情で話を続ける。

 

「父と兄が亡くなってから忙しくなって…心に余裕がなくなる事も多かった。

そんな時に、エレオノーラともう一人の弟がよく励ましてくれたんだ。

…本当にあの二人がいなかったら、僕は完全に壊れていたかもしれない」

 

意味深げな発言をするや、ジェームズの顔に陰りが生じる。

その時、彼の目の色が…赤く光った気がした。

 

「えっ…?」

 

なんだろう…今の現象は?

目を指先で擦って再度見直すと…ブラウン色だった。

 

「なんだい?」

「ううん、なんでもないわ」

 

気の所為か…単なる見間違いだろう。

 

「おっと…もうこんな時間だ」

 

ジェームズが、懐から懐中時計だして時刻を確認するやそう言った。

 

「実は…今日、客人に会う約束をしててね。僕だけパーティーの途中で帰宅しないといけないんだ」

「あら、そうなの…」

「それじゃあ…僕はこの辺で」

 

また会おうと小さく手を振ると、踵を返して他の招待客に会釈しながら去って行った。

 

「大変ね、ジェームズも…」

 

語ってくれた話から、ジェームズが苦労している事が如実に伝わってきた。

また機会があれば、相談に乗ってあげた方がいいかも…と考えていると…

 

 

「あー! アン叔母さまぁ♪」

 

 

うん? この呼び方と声は…

その方向へ視線を変えると、一人の少女がパタパタと早足でやってきた。

 

「あらまぁ…リジー」

「ご無沙汰しています。アン叔母様」

 

うふふと無邪気な笑顔でドレスの裾をあげるこの少女は…エリゼべス・ミッドフォード。

シエルの1歳年上の従姉で婚約者であり、英国騎士団長のミッドフォード伯爵の娘だ。

アンジェリーナは、彼女が幼い頃から時間があれば世話を焼いていた事もあり、仲がいい。

 

「リジー、貴女も招待されてたのね」

「はい! かわいくて素敵なドレスの人達がいっぱいで私嬉しいvv」

 

エリザベスは可愛いモノに目がない。

それゆえに、シエルの屋敷に時折、突撃訪問しては、使用人達の服や屋敷の内装を自分好みにしてしまう困った所もある。

彼女の性格に、シエルも頭を悩ませる事もしばしば…。

 

「そういえば、さっきとってもかわいいドレスを着たツインテールの女の子がいました」

「へぇ~…(リジー…その子多分、貴女の可愛いフィアンセよ)。その子どこにいたの?」

「二階へ上がる階段のところで、ドルイット子爵とお喋りしてました。でも、途中でどこかに消えちゃって…」

 

どうやら、シエルはドルイット子爵と接触できたようだ。

セバスチャンの姿も見えないし、犯行の証拠を探っている最中か…。

 

(途中でヤバくなったら…さすがに逃げられるわよね…)

 

そうは思えど、やはり甥が無茶をしていないか気になってしまう。

まさか、ドルイット子爵に変な事をされていないだろうか?

噂では、彼は女性の守備範囲がバリ広との事だ。

 

(…洒落にならない事態になっていませんように…)

「叔母様、どうしたの?」

 

口元を扇で隠して、悶々と思考に入っているアンジェリーナの様子を不思議がるエリザベス。

 

 

 ♪♪♪~ ♪♪♪~

 

 

シエルの安否を気にかけていたその時…広間に美しい歌声が響き渡った。

 

 

 

【潜入! 子爵邸パーティー】

 

 

 

「この歌は…」

「うわぁ~…綺麗な歌vv」

 

エントランスホールにいる招待客がその歌声に耳を傾け、聞き惚れている。

 

“何の曲名かしら?”

”心が癒されるわ ”

“ドルイット子爵はオペラ歌手にも依頼していたのか…”

 

深夜に囀る鳥のように、紳士淑女の囁きが波となって伝わってくる。

 

「警察だ! この広場にいる方々は決して外へ出ない様に!」

 

その歌声を遮る形で、出入り口の扉がバーンと派手な音を立てて開いた。

ぞろぞろと入室してきたのは、ランドル卿をはじめとする市警(ヤード)の警官達。

突如現れた彼等に、招待客達は驚きと困惑が入り混じったようにざわめく。

 

(…シエル達、やったのね)

 

市警へ通報をしたのは、セバスチャンだろう。

…任務は成功したようだ。

しかし、アンジェリーナはまだ個人的な謎が一つだけ解けていない。

 

「ごめんなさい、リジー…お手洗いに行ってくるわ」

「えっ、叔母様…トイレは逆方向」

 

きょとんとトイレの方向を指さすエリザベスをよそに、アンジェリーナはドレスの裾を持ち上げるや素早く階段を上がっていく。

二階の廊下を見渡す…すると、バルコニーから人影が見えた。

 

 

 ♪♪♪~ ♪♪♪~

 

 

先程とは違う軽快でアップテンポな歌が響く。

バルコニーへ一歩一歩足を進めていき、その歌を口ずさむ人物の背中に向かって、アンジェリーナはこう言葉をかけた。

 

「まさか、同じパーティーに出席してたとはね…『リエ』」

 

彼女の声に反応して、その人物…リエは振り返って微笑した。

 

 

「その言葉そっくりそのままお返ししますよ、アンさん」

 

 

 

【つづく】

 

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