探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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こ爵邸パーティ編の完結。
  


幕は下りた…?(1)

 

冷たい夜風が、頬を通り過ぎる。

扉が開かれたバルコニーで、リエとセバスチャンは向き合っていた。

 

「どちらでも。好きな名前で呼んでくださいませ」

「まさか、貴女がこの会場へ足を運んでいるとは思いもよりませんでした」

「いつからお気づきでしたか?」

 

リエは率直に訊いた。

セバスチャンは妖しく笑みを浮かべる。

 

「会場に入った瞬間からです。

人間達とは違う気配をいくつか感じ取っていました」

 

「あら、素晴らしい気配感知能力ですね」

「これでも“あくま”で、執事ですから」

 

さて…とセバスチャンは話を切り替えるように本題に移る。

 

「リエ・クローチェ様…貴女が何故、このパーティー会場にいらっしゃるのでしょうか?」

「“秘密”です」

 

リエはウインクして人差し指を口元に押し当てる。

 

 

「なるほど…そちらのお仕事に関わる機密事項だとお見受けしました。

ならば、深く追及は致しません」

 

「ご理解頂けてホッとしました」

 

「主人の命令も受けていませんからね。

おっと…そろそろ行かなければ」

 

ダンスフロアからの音楽が終盤に差し掛かっている事を察知したセバスチャン。

ダンスが終了したと同時に、エリザベスは女装した主の元へいくだろう

…それを止めなければならない。

 

「貴女も…一旦、こちらから“出ていく”のでしょう?

今宵は寒くなりますゆえ、長時間の外出は控える事をお勧めします」

 

「アドバイスありがとうございます。

それでは…セバスチャンさん。ごきげんよう」

 

シュッと瞬時に姿を消したセバスチャン。

彼を見届けると、リエは背中から妖精のような純白に輝く光翼を出し、

バルコニーから飛び去って行った。

 

 

◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 

 

(ここ…どこだ…)

 

 

ふっ…と意識が浮上した。

シエルは未だ眠気が残る中、自らの身に何が起きたのか回想する。

 

 

ドルイット子爵に声をかけられ、大人になりたがっているおませな令嬢を

演じながら情報を探ろうとした。

子爵は思いの外、好意的に接してくれたが…

 

『わがままなお姫様だね、駒鳥。もっと楽しいことをご所望かい?』

 

同時に腰に手をかけたり、甘ったるい砂糖を吐くような言葉を囁いてきた。

 

『ドルイット子爵って、女性の守備範囲バリ広みたいよ』

 

叔母であるマダム・レッドが事前にこんな忠告をしていた事を思い出し、納得した。

この男…全てが終わったらすぐに始末してやる。

本当なら、すぐにでも殴りたい気分だったが、感情のままに手を下したら今までの努力が水の泡。

そう…潜入するために、セリアと共に一日かけてスパルタ淑女講座で叩き込まれた事が

無駄に終わってしまう!

 

だから、シエルは耐えた。

顔を引きつかせ、青筋を立てて演技に徹する。

 

『君にはまだ早いかもしれないよ』

 

もったいぶるな、と苛立つシエルに新たな試練が訪れる。

ワルツの音楽が鳴り止んで、踊っていた紳士淑女が挨拶をし、拍手と歓声があがる。

 

まずい…ダンスの時間が終了した合図だ。

ずっと、こちらを見ていたエリザベスがここぞとばかりに早足で近づいてくる。

 

『さっきから何を気にしてるんだい?』

 

顎に手を添えて、口説き文句を言う子爵と、どんどん距離を縮めてくる婚約者の

双方に視線が彷徨うシエル。

 

(もう終わりだ…)

 

ここで万事休すかと硬く眼を瞑ったその時…

 

 

  ドォオオン!

 

 

『宴の酣 お集まりの紳士淑女の皆様にここで一つ。

このクローゼットを使った魔術をご覧に入れましょう』

 

 

大きなクローゼットと共に、仮面をつけたセバスチャンが颯爽と現れた。

セバスチャンは劉を指名して、手品を披露すると宣言。

エリザベスは勿論、他の紳士淑女たちの視線が彼に釘付けになっている。

 

『手品なんか頼んだ覚えはないんだが…?』

『…! 子爵、私手品も見飽きてますの…だから…ね?』

 

チャンスは今しかない。

シエルは上目づかいで子爵にアプローチする。

そんな可愛らしい行動に、子爵は満更でもなさそうに「仕方ないな…駒鳥」と

キラキラと極上のスマイルを送る。

ぐょわ…と自らの行動と子爵の表情に鳥肌が現れるが、内心ガッツポーズをとった。

 

(…これで証拠を探し出せる)

 

子爵に案内され、奥の部屋へと進んでいく。

入るや、ふわん…と甘ったるい匂いに鼻についた。

 

(しまった!!…早く部屋から出…)

 

その匂いが、催眠作用のあるものだと気付いた時には遅かった。

 

「これから行くところは〝とてもいい所”だよ、駒鳥」

 

薄れゆく意識の中、ドルイット子爵が意味深げな言葉を発していたのは記憶に残っていた。

その直後で意識を失ってしまい、現状に至るのだ。

 

(暗い…いや目隠しか。何かで拘束されているな)

 

目を遮られ、両手も縄で縛られて身動きが取れない。

ただでさえ、コルセットで息苦しいのに…とシエルは舌打ちをする。

 

(とりあえず、ここはどこだ?)

 

愚痴を言っている暇もない。

問題は、自分がどこにいるのか…場所を特定するのと、そしてドルイット子爵は

何をするつもりなのかを探る事。

すると、耳元にざわざわと人の話し声が聞こえてくる。

 

 

『ご静粛に、お集まりの皆様。次はお待ちかね…目玉商品です』

 

 

ドルイット子爵が司会をする声が響く。

 

(商品…何の事だ?)

『ではご覧ください』

 

シエルがジッと子爵の声に耳を澄ませていたその時、バサッと布が取り払われる音がした。

同時に、ザワッと人のどよわきが起きる。

 

 

『観賞用として楽しむも良し。愛玩するも良し。

儀式用にも映えるでしょう。バラ売りするものお客様次第』

 

 

子爵が人々にそう説明しているのを聞き、シエルは確信した。

 

――――《闇オークション》

 

娼婦を殺して、彼女らの臓器もここで売りさばいていた

…そう考えると辻褄が合う。

 

 

「スタートは1000から!」

 

 

競売が始まった。

シエルの目を覆っていた目隠しが外される。

 

(犯人は分かった…なら、此処にはもう用はない)

 

契約印が浮かんだ瞳が露わになり、シエルは瞬きさせ、忠実な部下を呼ぼうとした。

 

 

  ♪♪♪~ ♪♪♪~

 

 

その直後、歌声が聞こえてきた。

…聞いた事のない曲。

真夜中の湖畔に映し出される青白く輝く月が脳裏にイメージとして浮かび上がる。

闇オークションのBGMにしては、不釣り合いな旋律だ。

 

「はぁ…」

「…すごくいい気分…」

「眠気が…」

 

会場内の様子がおかしい。

バタバタと人が倒れていく。

 

「この…曲……う…つく…しい…」

 

主催者の子爵がうっとりとした顔でばたりと倒れたのを最後に、会場内は寝息の合唱となった。

 

「セバスチャン、いるだろう?」

「ええ、こちらに」

 

シエルの呼びかけに、寝静まった観客席から姿を見せたセバスチャン。

寝ている観客を巧みに避けながら、檻に囚われている主の元へ歩を進めていく。

 

「やれやれ…本当に捕まるしか能がありませんね、貴方は。

呼べば、私が来ると思って不用心すぎるのでは?」

 

セバスチャンは呆れた口調で些か無防備な点を指摘するが、シエルは冷めた表情でこう返した。

 

 

「僕が契約書を持つ限り、僕が呼ばずともお前はどこにでも追って来るだろう?」

 

 

『契約書』は悪魔が契約人(えもの)を見失わぬ様につける【痕(しるし)】

『契約書』は目に付く場所にあればある程強い執行力を持つ。

その代わり…‟絶対に悪魔から逃れられなくなる”

 

 

「……もちろん、どこまでもお供します。最後まで」

 

 

セバスチャンは優雅に微笑み、そう断言した。

 

 

「たとえこの身が滅びようとも、私は絶対に貴方の傍を離れません。

地獄の果てまでお供しましょう」

 

 

檻の鉄格子を素手で強引に捻じ曲げ、シエルを出すと、指を軽く振って彼の拘束を解いた。

 

「私は嘘は言いませんよ、人間のようにね」

「……それでいい。お前だけは僕に嘘はつくな、絶対に」

「イエス・マイロード」

 

主の言葉に、セバスチャンは深々と頭を下げる。

    

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