探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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今回、オリ主の過去が少し明らかになります。

  


絡み合う点と線(1)

 

『初恋っていつごろだった?』

 

 

二年ほど前、リエと例の如く茶会をしていてその話題を振った。

私の初恋の相手は、姉の旦那。

馬車の事故に巻き込まれる直前まで、ずっと未練がましく慕っていた。

 

姉が羨ましかった。

好きな男と結婚して、子どもも生まれて、幸せに満ち足りていた。

いつも感じていた…胸に灼けつく感情。

…私は姉に嫉妬していた。

 

でも、大好きな姉と愛した男…二人の仲を引き裂く事なんてできなかった。

なにより、二人の間は見えない強い絆で結ばれていた。

私はどこにも付け入る余地すらなかった。

 

『…あの事件がなきゃ、私…ずっと義兄さんの事しか愛せなかったかもしれない。

ふふっ…馬鹿な女でしょ』

 

『そんな事ありませんよ』

 

リエは首を緩慢に振ってそう返答すると、自らの初恋を語ってくれた。

 

 

リエが、初めて恋をしたのは14歳の時。

元々はある異世界の小国の生まれで、城の召使いとして働いていた。

ある日、彼女は傭兵だった8歳年上の男と出会った。

その男は気難しい性格で、その国の宰相すらも手を焼く程扱いづらい人物だったらしい。

そんな問題の多い男が心を開いた数少ない異性がリエで…彼女も男の不器用な優しさに惹かれていった。

 

『それから半年後に、私と【あの人】は結ばれました』

『…って早くない!?』

『宰相の方が、準備をアレコレしてくれて…トントン拍子で結婚まで進んでいきました』

 

話を聞いてて思った。

その宰相は、リエの旦那を少しでも懐柔するために、政略結婚を仕立てたんじゃないかって。

リエもそんな裏事情も感づいていたようだけど、気にならなかった。

それだけ、夫となった男の事を愛していたから。

 

『【あの人】と結ばれて娘も授かって…とても幸せでした』

 

初恋の人と結婚して、子どももできてごくありふれた家庭を築けた。

彼女の話はとても眩しくて、聞いている私ですら微笑ましいものだった。

 

『ずっと…続いてくれたらよかったのに』

 

次に飛び出したその言葉に、私はハッとした。

リエが悲しそうに笑っていた。

 

ああ、そうか…。

彼女の当たり前だった日常は何かが原因で壊れてしまったのだ。

 

『…この続きは長くなりますから、また次の機会に話してもいいですか?』

 

気分を切り替えるように、リエは別の話題を振った。

 

思えば、私はリエの事をまだまだ知らない。

家庭事情や種族の事…今まで契約してきた人物の事だって…一部しか明かしていない。

三年という月日を経ても、私は彼女の内側へ入りこめていないのだろう。

 

けれども、それで彼女を責める気はない。

誰にだって触れられたくない秘密はひとつやふたつあるもの。

本音で人と接する事ができる人間なんてそうはいない。

心の内側を曝け出す事は、相手によっては弱味を握られる事にもなるからだ。

 

 

(それでも…ちょっとぐらい私にだけ秘密を教えてくれてもいいじゃない)

 

 

…とはいえ、不満がないといえば嘘になる。

探偵の助手として、一人の友人として、相棒として…私はまだ力不足なのだろうか?

馬車の中で悶々と思考しながら、私はあそこへ向かっていた。

 

―――『秘密の花園』へ。

 

 

◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 

 

「あら、いらっしゃいませ」

 

トンネルを通り抜けて、早歩きでレンガ道を進んでいくと、リエが待っていた。

ちょうど、庭の花々に水やりをしている最中だった。

 

「用事があるんでしょう? 急いで馬車に乗ってやってきちゃったわ」

「お電話でもよかったのに…」

「情報が漏れるのを防ぐ為よ。だから適当に理由つけて帰ってきたの」

 

屋敷の電話であれ、自分の携帯電話であれ、あそこにいたら、シエル達に聞かれる可能性があった。

切り裂きジャック事件の捜査のやり直しでそれどころではなさそうだが、念には念を…である。

 

「それではそちらで待っててください。お茶を準備します」

「ん、ありがとう」

 

庭に設置されているガーデンテーブルへ案内され、アンジェリーナは木製の肘掛椅子に腰を下ろす。

暫くして、リエが銀のトレイを運んできた。

 

「本日のスイーツは、庭で採れたオレンジを使ったケーキです」

 

持ってきたケーキをその場でカットして、小皿に乗せてアンジェリーナの前に置いた。

 

輪切りにしたオレンジをのせて焼き上げたケーキ。

オレンジの爽やかないい香りが鼻をかすめる。

フォークで一欠片切り取って口に運ぶ。

 

「うーん…しっとり柔らか」

 

上質のバターを使った風味豊かな生地に、オレンジピールの程よいの甘みと苦み、

それでいて後味がさっぱりしている。

 

いつもは紅茶が定番だが、今日の飲み物は趣向を変えてコーヒーだ。

ケーキを咀嚼しながら、コーヒーを口に含む。

苦みよりも酸味が強い味だ…焙煎度合を浅くしたのだろうか。

けれども、オレンジケーキとは相性がいい。

交互に味わう事で、口の中で見事なハーモニーを奏でている。

 

「ところで、アンさん。事件の方は如何ですか?」

 

同じくコーヒーを味わっていたリエがその話題を口にした。

ケーキを半分まで食べ終えていたアンジェリーナは持っていたフォークを置いた。

 

 

「そうね…近況報告しましょうか、‟お互い”に」

  

 

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