探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(2)の続き。
シエルとセバスチャンsideとなります。
  




絡み合う点と線(3)

 

ザアザアと激しい雨が降り注ぐ。

シエルは、寝室の窓からちらりとその鬱陶しい天候を眺めていた。

 

 

―――コンコンッ

 

 

扉をノックする音が響く。

入れ、と指示すると執事のセバスチャンが姿を見せた。

 

「…どうだ?」

「何度シュミレーションしても子爵以外に一連の事件に関われる人物はいませんね」

 

セバスチャンに命じて、あれから容疑者リストを作成し直した。

しかし、彼が再調査を行ってもドルイット子爵以外に該当者はでてこなかった。

 

「調査条件を変えるか…」

 

シエルは前髪を掻き上げながら、ハッーと溜息を吐く。

 

「そうですね。あの時間帯にいた、子爵以外の条件を満たす人物には不可能ですから」

「とりあえず、明日には―――」

 

シエルはピタッと髪を弄るのを止めた。

セバスチャンの『ある発言』が、彼の頭の中で強烈な違和感を感じさせたからだ。

 

「セバスチャン…まさか…」

 

主人が勘付いたのだと分かり、セバスチャンはフッと口角を上げる。

 

 

「何でも言ってるでしょう。私は嘘をつきません、と」

 

 

セバスチャンの悪びれない態度に、シエルはギリッと歯ぎしりする。

 

 

「私は貴方の『力』であり、『手足』であり、『駒』。

全てを決め、選び取るのは自分だと…そのための『力』になれと。

【あの日】、貴方がそう仰ったのです」

 

 

シエルの脳裏に、【あの日】の光景がフラッシュバックする。

思い出したくない…けれども、忘れる事なんてできない。

すべては、ファントムハイブを裏切り、汚した人間を見つけ出し、自分に与えた同等の屈辱を与えるために…。

 

「“あの時、あそこにいた”、子爵以外の“該当者”には不可能なんだな」

「ええ、そうです」

「……よし、セバスチャン。命令だ…」

 

シエルは真っ直ぐに彼を見据えてある指示をした。

 

 

 

【絡み合う点と線】

 

 

 

アンジェリーナは、リエに同行する形である場所へ移動していた。

 

「…で、依頼人とはどこで待ち合わせなの?」

「この先にある公園です」

 

つい一時間前までは、雷も鳴り響いていた豪雨も止んでおり、傘を広げる必要がないため、

歩くスピードも速くなる。

 

(リエに依頼してきた子ってどんな人物かしら…?)

 

依頼を受ける前は、彼是と推理して二人とも同じ意見でまとまったが、いざその当事者と対面するとなると妙に緊張する。

切り裂きジャック事件とも糸が繋がっているとなれば、事件の被害者関係かも…?

 

「アンさん。着きましたよ」

 

脳内で色々と思案していると、目的地まであっという間だった。

つい先刻まで雨天だったため、人気がなく閑散としていた。

 

「…先方はもういらっしゃるようですね」

 

リエのその言葉に視線を変えると、すぐ近くの並木に二人の人物が立っていた。

一人は、40代くらいの中年のご婦人…以前、【秘密の花園】ですれ違ったあの女性だ。

そして、もう一人の方を目にした瞬間、アンジェリーナは絶句した。

 

 

何故…彼女が此処にいるの?

 

心の声が反芻していく。

それだけ今のアンジェリーナの胸中は混乱と動揺が生じていた。

 

その依頼者とは――― 先日、友人から紹介された妹…エレオノーラだったのだから。

 

 

 

【つづく】

  


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