オリキャラの態度と言動で不快になる可能性がありますので、お読みの際はご注意ください。
「ご、ごぶさたして…お、おります…」
エレオノーラ・スピアリンクはあの夜会の時と同じくオドオドした挙動不審な感じで
挨拶をしてきた。
「アンさん」
「えっ、ええ…お久しぶりね」
アンジェリーナは一瞬、頭の思考が止まっていた。
リエの声で我に返り、ぎこちなく笑みを浮かべながら返事をした。
(別懇な間柄でしたか…)
(…まあね)
小声で話し合うリエとアンジェリーナ。
まさか、友人の妹とこんな形で再会するとは思わなかった。
…いや、それよりも「何故?」「どうして?」という疑問が心の中で渦巻いており、
頭で情報を上手く整えられない状況だ。
「あ、あの…」
アンジェリーナを思考の波から現実へ引き戻したのは、エレオノーラの消え入りそうな
声だった。
「こ、ここで…話すのもあれですから…や、屋敷にご、ご案内いたします」
「…そうね。お言葉に甘えますわ」
エレオノーラの提案により、アンジェリーナとリエはスピアリンクの屋敷へ招かれる事となった。
道中、こけそうになるエレオノーラを侍女である婦人(名前は「メリッサ」と言う)が支えたりする些細なアクシデントがあった事を除き、何のトラブルもなく、待たせてあった馬車で移動できた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
屋敷に到着すると、スピアリンク家の家令が迎えてくれた。
ロマンスグレーが印象的な、40代位の真面目そうな男性である。
アンジェリーナは彼に見覚えがあった。
まだ学生時代に、ジェームズを通じて数回顔を合わせた事があったからだ。
「モーリス、あの…」
「はい、お客様をゲストルームへご案内いたします」
「…よろしくね」
口下手なエレオノーラの言いたい事を翻訳したのか、家令…モーリスは恭しくお辞儀する。
エレオノーラは「ありがとう」と小さく感謝の言葉を呟いて、客人であるアンジェリーナ達へ目を向ける。
「お二人ともこちらへ…」
パリーンッ!
エレオノーラが言いかけたその時、二階から何かが盛大に割れる音が響いた。
それに怯えるように、エレオノーラはビクッと肩を震わし、モーリスが顔を強張らせた。
「何度言ったら分かるの!」
「も…申し訳ありません」
「お前のような者はクビよ、クビ! 即効荷物をまとめて出ていきなさい!」
飛び交う女性の怒号に、エレオノーラは祈るように手を重ねて目を閉じる。
…あたかも、嵐が通り過ぎるのを待つように。
モーリスが「少々失礼いたします」と断りを入れて、二階へと急いだ。
「メリッサさん、エレオノーラさんをお部屋へ」
「はい、かしこまりました」
エレオノーラを避難させるように、リエはメリッサに指示した。
彼女は二つ返事で、震える令嬢を守るように連れて行った。
「アンさん、無作法になりますが…様子を見に行きましょうか」
「そうね、『こっそり』ね」
…二階で何が起きているのか?
調べてみようというリエの誘いに、アンジェリーナは乗った。
『相手側に気付かれないように』というやや難易度の高い条件が付くが…。
「アンさん、これをどうぞ」
「…なにそれ?」
階段を上がっている最中に、アンジェリーナはリエからあるアイテムを渡された。
…星型を模した装飾品(ブローチ)だ。
リエに言われた通り、胸にその装飾品をつけた。
「これは、一時的に存在感をなくす事ができるアイテムです」
「…マジで?」
「例え、部屋に入りこんでも、他の人は私達がいる事に気付きませんよ。
一時間くらい効果がありますから」
リエの言葉から、これは魔法道具(マジックアイテム)の一種なのかもしれない。
小声で話をしつつ、先程の音が鳴ったと思われる部屋の前まで二人はやってきた。
扉は多少開いており、そこから部屋の様子が見える。
アンジェリーナとリエは、その隙間から中を覗いた(さすがに、堂々と中に
侵入するのは抵抗があった)。
部屋の中にいる人物は三名。
先程、状況を確認しに行った家令のモーリス。
彼の後ろに庇われる形で、年齢が10代後半程の目に涙を浮かべているハウスメイドが立っている。
彼等と向かい合うのは…多少派手な服装をした婦人だ。
外見は40代中頃…若作りをしようと濃い目のメイクを施しているが、逆にそれがマイナスに働いてしまい、きつい印象の中年女性に見えてしまう。
アンジェリーナはうわっ…と思わず、苦々しい表情となる。
何故なら、彼女はその女性と何度かお目にかかった事があるのだ…表の社交界で。
「モーリス、どういうつもり!」
「奥様、落ち着いてください」
「落ち着け? いつから、お前はこの屋敷の女主人である私に指図する権限を持ったの!?」
「この子が何か粗相をしてしまったならば、以後そのような事がないよう教育いたします」
「その必要はないわ、その女は今日解雇するの。さっさと屋敷から追い出しなさい!」
「詳細を教えてください…それに応じてご主人様の意見を聞かねばなりません」
「あの子に聞く必要はないの! 私の命令を無視するつもり!」
「奥様…」
感情的に怒鳴り続ける婦人。
彼女とは反対に、冷静に対応していく家令。
一種の修羅場を目にして、アンジェリーナはげんなりしてしまう。
「まっさか、あのスピアリンク夫人がいるなんて…聞いてないわよ」
「そういえば、アンさんはご存知でしたね…あの婦人の事を」
顔色一つ変えずに、扉の隙間から観察しているリエに対し、アンジェリーナは小さく頷く。
「アドリアナ・スピアリンク…社交界では『要注意人物』と言われてる人よ」
アンジェリーナが、彼の人…アドリアナ・スピアリンク夫人の存在を確認したのは、
社交界デビューをしてから間もない頃だ。
貴族図鑑には目を通していて、名前だけは知っていた。
当時のスピアリンク子爵…ジェームズの父親は、夫人を滅多に夜会に参加させず、
エスコートするパートナーは、実妹もしくは従姉妹が代わりを担っていた。
妻であるアドリアナを同行させなかったのは、病弱である事を理由にしていたが…
「実際は違っていた、と」
「初めて、彼女と会った夜会でね…すぐに理解したわ。本当の事情をね…」