探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(2)の続き。
  


思わぬ依頼人と事件の鍵(3)

 

「エレオノーラさん。マダム・レッドは、私のプライベートにおける親友であり、信頼できる相棒(パートナー)でもあります」

 

「…探偵を…マダム・レッドが…ですか?」

 

リエの説明に、エレオノーラは目を大きく見開く。

瞳に星の煌めきが輝いているのは気の所為だろうか…。

 

「助手みたいなものだけどね」

 

アンジェリーナは苦笑しながら付け加える。

 

「すごい…すごいです! マダム・レッドはお医者様であると兄から伺っていましたが…

探偵業も兼任しているなんて、まるで物語の主人公みたい!」

 

「そ…そうかしら」

 

今まで自信のないたどたどしかったエレオノーラの口調が…スイッチが切り替わったように変化した。あまりの変わりように、アンジェリーナはやや引いてしまう。

 

「お嬢様、その辺にしておいた方が…」

「あっ、す、すみません…私ったら。はしたない事を…」

 

メリッサに注意され、エレオノーラはハッと我に返り、顔が湯船に浸かったかのようにだんだんと赤くなっていく。アンジェリーナは思わずクスッと笑ってしまう。

 

「構わないわ。むしろ、さっきの貴女、自然体で魅力的だったわよ」

「えっ…」

 

「ねぇ、レディ・エレオノーラ。自分のペースでいいから、貴女の趣味や好きな音楽…

ご兄弟の事とか、教えてもらえる?」

 

貴女の事をもっと知りたいの…と微笑を浮かべてアンジェリーナ。

エレオノーラは少しだけ顔を俯ける。

 

身に着けていたドレスの生地をキュッと指先で摘まんだり離したりしながら、

ゆっくりと顔を上げた。

 

「うまく喋れるか…自信はありませんが…聞いていただけますか?」

「ええ、もちろん」

 

エレオノーラは、ぽつりぽつりと語りだした。

読書が趣味で、空想上の登場人物の恋愛話や冒険物が大好き。

刺繍が得意で、チョコレートやマカロンなどの甘い物、肉よりも魚料理を好んで食べる事。

小さい頃から人見知りであり、知らない人を前にすると緊張してしまう事。

 

 

「そんな時、兄三人が励ましてくれました。

特にジェームズ兄様は…泣いている私をいつも慰めてくれました」

 

 

緊張がほぐれてきたのか、エレオノーラの口調がしっかりしてきた。

彼女は、兄弟と仲が良いようだ…中でもジェームズにとても懐いている。

 

 

「叔母様や兄達がいてくれたおかげで…私は孤独にならなかった…」

 

 

だが、エレオノーラは家族の話題を途中で終わらせてしまった。

…正確には、続きを口にしようとするのを躊躇っているようだ。

 

「…私…わたくし…」

「エレオノーラさん、交代しましょうか?」

 

上手く言葉が紡げないエレオノーラを見兼ねて、リエは代弁しようかと言うが、

彼女は首を左右に振った。

 

「いえ…言わせて、私は言わないと…いけない」

「…それは、貴女がリエに依頼をした事と関係があるのね」

 

アンジェリーナは、この時点である程度の覚悟を決めていた。

依頼人がエレオノーラであると分かった時に…

いや、それよりも前の…リエから『事件を見届けるつもりか否か』を聞かれた時から

嫌な予感はちらついていた。

 

 

「お願いです…マダム・レッド、リエさん。

どうか、どうか…助けてください…!」

 

 

目尻に涙を浮かべ、懇願するエレオノーラの姿を見て

…そして彼女が求める願いを聞いて、認めざる負えなかった。

アンジェリーナにとって受け入れづらい、最も信じたくない展開が待ち構えている事を…。

 

 

 

【思わぬ依頼人と事件の鍵】

 

 

 

「つまり…次に狙われるのは、この娼婦という事か」

 

 

一時間前、町屋敷でシエルはセバスチャンに確認を取っていた。

 

「はい、間違いありません」

 

彼が新たに作った複数の調査報告書に目を通して、切り裂きジャックが標的にするだろう人物を

特定した。

 

『あの時間帯に会場にいた、条件を満たす人物』には、犯行は不可能。

…お前のその言い方で勘違いしてしまったぞ」

 

「何度も申し上げましたが、調査結果にも“何一つ、嘘はついておりませんよ”

…坊ちゃん」

 

シエルは顔を顰め、チッと舌打ちをする。意地悪な笑みで反論するセバスチャンに仕返しで報告書を投げつけるが、あっさり避けられてしまう。

 

 

「僕とした事が…あの会場にいた人物ばかりに気を取られていた。

何もそこにこだわる必要はなかったんだ…」

 

『あの時間帯に会場から離れていた出席者』がいないとは限りませんからね…」

 

 

舞踏会に招かれた出席者は最後までいる…ある種の固定観念に囚われていた。

何かしら理由をつけて、途中退席する者もいない訳ではない。

 

「あの時間帯に、いらっしゃらなかった出席者は五名。

その中で条件を満たしているのは…一名しかおりません」

 

「その真犯人が次の犯行を起こすとしたら…」

「早ければ、今夜かと」

 

シエルは座っていた椅子から腰を上げると、セバスチャンに視線を向け、こう命じた。

 

「準備をするぞ、セバスチャン」

「イエス・マイロード」

 

犯人が出現するだろう現場へ二人は急ぐ。

 

そこで、事件の全容が明かされる事となる。

…“悲しい真実”といっしょに。

 

 

 

【つづく】

  

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