探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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真犯人が判明する回となります。
  


真犯人との対峙(1)

 

スピアリンク邸の書斎で、屋敷の主であるジェームズは書類に筆を走らせていた。

ちょうど、最後の自分の名前を書ききったところで扉をノックする音が響いた。

 

「旦那様」

「グレルか…入ってくれ」

 

主人の許可が下り、執事のグレルは扉を開けて入室した。

 

「何の用だ?」

「お、お疲れかと思いまして…お茶を準備いたしました」

 

グレルはシルバーのトレイに乗せたティーセットを運んできた。

 

「夜ですので…ローズヒップのハーブティーをご用意しました」

 

グレルが淹れたローズヒップティーをジェームズは一口飲む。

 

「…ありがとう。いい眠気覚ましになった」

「きょ、恐縮でございます…」

 

主人からの褒め言葉に、グレルは謙虚な返事をする。

 

「エレオノーラの様子はどうだった…?」

 

「メリッサさんから聞いた話では…夜会で知り合った友達を招いて話に花を

咲かせていたそうです」

 

ジェームズは仕上げた書類を封筒に入れる傍ら、グレルに質問を投げかけていく。

 

「ハウスメイドのエリスは…落ち着いたかい?」

「は、はい…モーリスさんのおかげで。…暫くはエレオノーラ様付になるみたいです」

「…そうなると、『あの人』付のメイドを探さないといけないな」

 

自ずと眉間に眉を寄せるジェームズ。

『あの人』とは、スピアリンク子爵夫人…アドリアナの事だ。

実の母親の事を『あの人』と呼んでいる時点で、ジェームズが彼女をどう思っているのか

…その事実を俄かに示している。

 

そうなっても仕方ない…とグレルは思う。

夫人…いやあの女の事を、家族だけでなくこの屋敷の使用人全員が忌避している。

我儘な子どもが、そのまま大人になってしまった事例だ。

 

聞けば、あの女は生家で末娘という事で両親から甘やかされて育ったようだ。

それが原因で歪な成長をしてしまい、トラブルメーカーと化してしまった

…実家の使用人達からの評判も底辺だったらしい。

家同士の繋がりのために、そんな難のある女性を妻にしなければならなかった

先代も憐れな人物である。

 

先々代を筆頭に、嫁を教育するのに四苦八苦した

…結果は、あまり功を為さずに今に至る訳だが。

 

そして、そのツケを先代が亡くなった今、子ども達が払っている

…なんともやりきれない現状である。

 

 

「メイドの募集要項を見直すか…っ!」

 

 

ジェームズが呟いていた時、咳をしだした。

 

「だ、旦那様…!」

「ゴホゴホッ…すまない、水を…持ってきてくれ…」

 

咳込む主人の命令に、グレルは慌てて水を用意した。

ジェームズは机に置いていた錠剤を数粒口に入れ、水を一気に流し込んだ。

 

「旦那様、お休みになられた方が…」

「いや…いい」

 

おろおろと不安そうにグレルが休息を取るように勧めるが…

ジェームズはやんわりそれを断った。

 

「薬を飲んだから大丈夫だ。それよりも…グレル」

「はい…?」

「これを…明日、郵便で出してもらえないか?」

 

ジェームズが、机に置いているいくつかの分厚い封筒を指さした。

 

「かしこまりました…あの、旦那様…どちらに?」

 

部屋を出て行こうとするジェームズに、グレルは不思議そうに尋ねると…

 

「やっぱり…君の言う通り、仮眠をとる事にするよ」

「そ、それでは準備を…」

「一人でできるよ…その代わりに、エレオノーラのところへ行ってくれるか?」

 

主人の言葉に、グレルは「…はい?」と目を瞬かせる。

 

「今いる使用人の中で、あの子がメリッサと同じくらい懐いているのは、グレル…君だ。

多分、今日のあの人の癇癪でまた怯えているはずだ」

 

だから傍にいてあげてほしい…微笑んでそう告げると、ジェームズは退室した。

 

「…懐いている、ね」

 

グレルは、室内に設置されている時計に目を向ける…時刻は午後八時。

天候は未だにすぐれない。

夜だというのに、鬱陶しい灰色の雲が闇と共に空を支配している。

 

また、雨が降り出すかもしれない。

グレルは軽く溜息を吐いた。

 

「この家に来てから約三年…時の流れって早いものだわ」

 

部屋にいるのは、グレル一人だけ。

緊張感が緩んだのか、彼はだんだんと素の口調へ戻りつつある。

 

「それにしても…こんな天気に【夜の散歩】なんて、いい趣味してるじゃない」

 

グレルは感知していた。

屋敷内にいるはずの人の数が足りない事を…。

 

「でも…これってチャンスかも」

 

グレルは、口元をにんまりと大きく吊り上げる。

その姿は、普段の気の弱そうな彼とは全く異なっていた。

 

  

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