探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(2)の続き。
  


真犯人との対峙(3)

「【切り裂きジャック】さん、貴方は…」

 

リエの言葉を遮るように、男性…切り裂きジャックは所持していたナイフでリエの頭から

剣線を浴びせようとした。リエは瞬時にバックステップして、その攻撃を避ける。

 

「まだ話している最中ですが…」

「うるせえっ!」

 

切り裂きジャックは間髪入れずに攻撃を仕掛けていく。

 

「まったく…忙しない方ですね」

 

リエは眉を顰めつつ、それを紙一重に回避していく。

 

 

(…あの女、只者じゃない…)

 

 

シエルは思った。

『リエ・クローチェ』という女性が、単なる珍しい女探偵ではない…と。

切り裂きジャックの猛攻撃をかわしていくあの身体能力は、人間の域を超えていた。

 

「この女ァ…ちょこまかと逃げやがって!」

 

切り裂きジャックが懐から別のナイフを取り出し、足元を狙って投げる。

 

 

  バァン!

 

 

リエは軽く浮遊してナイフをかわすが…その刹那、頬を素早い物が掠った。

視線を戻すと…切り裂きジャックが右手に拳銃を握り締めていた。

 

「武器が刃物ばかりだと思ったかァ~、ざーんねん!

使えるモンは使う主義なんだよ」

 

「なるほど、盲点でしたね」

 

リエは頬から流れ出る血を指先で拭い取る。

 

「おぅ、どうした? 顔に傷ができて言葉も出ねえほどショックだったか?」

 

くくくっと喉元を鳴らして笑う切り裂きジャック。

フードで顔は見えないが、その表情は下品な笑みを浮かべているに違いない、と

シエルは顔を歪める。

 

しかし、すぐに彼の笑い声は止まった。

何故なら…

 

「頬は痛いけれど、そんな事よりも聞きたい事があります」

「…な、に…ッ!」

 

リエの顔に焦りや恐怖の色がなかったからだ。

弾丸を放った犯人を冷静に見据える彼女…その姿に異様な気迫が漂っている。

じんわりと首の後ろに汗が流れ落ちるのが、シエルには分かった。

 

一歩後方にいるセバスチャンに視線を向ける

…彼も猟犬のように身体を緊張させているようだ。

 

「やはり、彼女は…」

 

セバスチャンが意味深げに呟いたのが耳に伝わった。

リエの事で、セバスチャンは何か思い当たる節があるのだろうか…。

シエルがその事を尋ねる前に、リエと犯人とのやり取りに意識が向いてしまった。

 

「どうしました? 寒さが身体に浸透してきましたか?」

 

リエが質問を投げかける。

彼女の言葉通り、切り裂きジャックは喉をヒュッと鳴らし、震えていた。

…目の前にいる虫をも殺せないような女に、得体のしれない恐怖を感じているのだ。

 

「もうこれ以上、罪を重ねるのはやめてください」

「…なんだ…と…」

「どんな事情であろうと、人の命を奪い取り、魂を甚振る行為はいけない事です」

 

 

 バァン!

 

 

「…何も知らねえくせに…綺麗事抜かしやがって…ッ!」

 

リエの言葉が神経を逆なでしたのか、切り裂きジャックは持っていた銃の引き金を

弾いていた。二発目の弾丸で反対側の頬にも傷ができたが、リエの顔に感情の揺れは

見られない。

 

「私は…よほどの事でない限り、殺生はしない主義です。命の糧を求める時や…大事な人を守る時、そういう時にしかその手段を使わない事にしています」

 

リエは一歩ずつ、切り裂きジャックに近づいていく。

 

 

「く…来るな…!」

 

「貴方も分かっているんじゃないですか?」

 

「来るんじゃねえ!!」

 

「切り裂きジャックさん…“もう一人の貴方”の声が聞こえているのでしょう?

彼の心は…悲鳴を上げていますよ」

 

「来るなァアアア!!」

 

 

  バァン、バァン、バァン!

 

 

複数の銃声音が夜の街に響く。

弾丸は、リエの身体の首、胸、腹部を貫通した…かに見えた。

 

「…う、そ…だろ…」

 

切り裂きジャックは…そして、隠れた場所で見ていたシエルは目を疑った。

弾丸は、リエの身体に命中する事無く、彼女の目の前で止まっていた。

あたかも、時が停止したかのように…。

 

「い、一体何者なんだ………お前は…!?」

 

「-―――ただの【探偵】です」

 

リエ・クローチェは、ハッキリと自らの身分をそう告げた。

いつのまにか、覆っていた雲空が晴れ、薄らと青白く輝く月が出現していた。

今まさに犯人を追い詰めている、彼女の味方をするように…。

 

 

 

【真犯人との対峙】

 

 

 

眼前にいる女性が、敵わない相手だと察知したのか…切り裂きジャックは踵を返して駆け出した。

 

「セバスチャン!」

 

シエルの命令に、セバスチャンは大きく跳躍して、切り裂きジャックの行く手を阻んだ。

 

「っ!…仲間、か…」

 

セバスチャンとシエルの登場に、リエは驚いた様子はなく二人に会釈する。

 

「ご無沙汰しております、伯爵、セバスチャンさん」

「…リエ・クローチェ殿、貴女が何故ここにいるのかは後でじっくり聞かせてもらう」

 

最優先すべき事を終わらせた後でだ…と言うと、シエルは犯人へ鋭い視線を向ける。

 

「今度は、ガキと執事…か。どいつもこいつも…俺の邪魔をしやがって…ッ」

 

歯ぎしりをする切り裂きジャックに対して、シエルはふんっと鼻で笑う。

 

「セバスチャン、いますぐ…」

「待って、シエル」

 

シエルが命令を下そうとしたその時、第三者の声がそれを阻んだ。

 

「「マダム・レッド…!」」

 

「…アンさん」

 

シエル、セバスチャン…そしてリエは声が重なる形で、その人物の名前を呼んだ。

その第三者は…トレードマークである真っ赤な衣装に身を包んだアンジェリーナであった。

 

「裁きを下す前に、その男と話をさせてちょうだい」

「マダム、だが…」

「お願い……覚悟はできてるから」

 

アンジェリーナの真剣な表情を横目で見たシエルは、首を縦に振った。

 

「…な、な…ぜ…き…み…が…」

 

突如現れたアンジェリーナに、切り裂きジャックは狼狽し始めた。

アンジェリーナは、カツカツと前に歩むと…彼に向けて口を開いた。

 

「貴方が犯人だなんて信じたくなかった。

けれど…現実から目を背けて、全てを見過ごすだなんて…私にはできない」

 

アンジェリーナは悲哀に満ちた顔で、言葉を続ける。

 

「だから…私は、貴方の凶行を止める選択をするわ。

切り裂きジャック…いえ、『ジェームズ・スピアリンク』!」

 

アンジェリーナは、決意していた。

犯人である【友人】を…なんとしてでも止めようと。

 

 

 

【つづく】

  

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