探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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本編軸に入ります。
マダム・レッド視点で物語は進みます。
原作の主人公(シエルとセバスチャン)との絡みはもう少し先の話となります。
  



第1章:誘拐事件は危険な出会いの始まり
見かけに判断されるべからず(1)


私の名前は、アンジェリーナ・ダレス。

今亡き夫、バーネット男爵の妻であり、王立ロンドン病院の医師でもある。

父親譲りの赤い髪と真紅のドレスを普段から愛用しているから、社交界では【マダム・レッド】と言われている。昔はコンプレックスであったこの髪の色は、今では私のトレードマークになっている。

 

3年前、私は馬車に轢かれてしまい、生死の境を彷徨った。

その時に、不思議な体験…世に言う『臨死体験』をしてしまった。

当時、妊娠していた私は子どもを助けるために、とある人物と取引をした。

それ以来、その人物とこの現世においてちょくちょくコンタクトをとっている。

今日は、仕事も休みであり、その張本人…もとい“彼女”の住む家へ向かっているのだ。

 

 

ゆらゆらと揺れる馬車の中で回想するアンジェリーナ。

ロンドンの町中にくると、そこで降りた。

人々で賑わう街道を、カツカツとヒールの音を立てて歩き出す。

途中、パン屋と雑貨屋が並ぶ道の角を曲がった。そこから少し歩くと…大きなトンネルがあった。

 

 

(…毎回思うけど、これってどんな仕掛けになってるのかしら)

 

 

不思議の国のアリスが白いウサギを追いかけていき、穴に落ちて別世界にきた気分とはこんな感じだろう。本来、此処は住宅が並んでいる道であるはずなのだ。

アンジェリーナはトンネルの中へ入る…中は所々にランタンが設置しているが、ほのかに暗い空間はどこか異質な世界に迷い込んだ錯覚を起こさせる。

ほどなくして、向こう側に陽の光が差し込んでおり、トンネルの出口が見えてきた。

 

トンネルを抜けるとそこには…花と植物に囲まれた一軒家があった。

薄黄色と白桃色のクライミングローズを纏わせたアーチに囲まれたレンガ道を歩いていく。

道の周りに咲く花々を横目で鑑賞しながら、その一軒家の門まで進んでいく。

 

古びた雰囲気の木材とレンガを使用したガーデンハウスだ。

開かれた門をくぐると、私の視線は家の傍にある樹にとまった。

蜜柑がなっている樹だ…そこで、脚立を使用して蜜柑の実をもぎとっている人物の姿があった。

 

「美味しそうに実ったわね~」

 

挨拶代わりに、蜜柑の感想を少しわざとらしく口にしたら、その人物はくるっと首だけこちらに向けた。

 

「いらっしゃいませ。アンさん」

 

前髪の上部分で、少量の髪が内側方向に飛び跳ねている、薄い栗色の長いストレートヘアー。

それを髪の中間でリボンでまとめている。

透き通った青空に似ているスカイブルーの瞳。

黒色のノースリーブのハイネックで、上から白いワンピースを着ている。

ふんわりとした優しいバニラアイスのような雰囲気の女性。

 

「御機嫌よう―――『リエ』」

 

…彼女は、リエ・クローチェ。

この『秘密の花園』に住む、私の『悪友』である。

 

 

 

*** ***** ***

 

 

 

家に入って、リビングルームへ案内された。

私は、座り心地の良い椅子に腰かけると紅茶の準備をするリエに話しかけた。

 

「顔見せるのは数か月ぶりだったわねぇ…【旅行】は楽しかった?」

 

「ええ、二、三カ国ほど回りましたね。

知り合いの方を尋ねて用事を済ませた後は、専ら観光してました」

 

「いいわねぇー、異国への旅行…私なんて暫くしてないわよ」

 

夫が生きていた頃は、仕事や貴族主催のパーティに出席する時とか、近隣諸国へ赴く事もあった。息子が生まれて以降は、ほとんど旅行していない。

…というか、マジ羨ましい~と頬杖ついてぼやくと、リエは「あらあら」と苦笑する。

 

 

「息子さんが大きくなられたら、一緒に行ってみたらどうです?」

 

「そうね…あの子にもいっぱい色んな事をさせてあげたい。

少なくとも…一人立ちできるまでには」

 

 

真面目な口調で言った…これは本音だ。

あの子は無事、現世で生まれる事ができた。

病院で産声を上げて、私の体内からでてきたあの子を見た時、こらえきれないほどの涙が流れ落ちた記憶が昨日のようだ。

 

…元気に成長しているあの子を眺めながら思う。

“私の選択はまちがってなかった”って。

 

でも、その平穏で幸せな時間を継続させられるために…

私は“ある事”をし続けなければならなくなった。

 

 

「お待たせしました」

 

 

思案にふけっていると、リエが紅茶を差し出した。

 

「この香り…セイロンね」

 

「お菓子は、シフォンケーキをご用意しました。

お好みで生クリームとブルベリージャムをどうぞ」

 

焼きあがったプレーンシフォンケーキをフォークで一口サイズにカットする。

生クリームを適度にぬって、口元へいれた。

 

「おいしぃ~…」

 

ふんわりしっとりした触感に、生クリームのなめらかさが絶妙に合わさり、舌を楽しませる。甘さがくどくなく、おかわりしてしまいそうだ。

 

「お口にあったようですね」

 

リエは満足そうに微笑む。

気付けば、五分でケーキを食べ終え、紅茶を飲んで一息ついていた。

かれこれ約3年の付き合いだが、リエの料理スキルは半端ない。

それこそ、一流の料理人レベルに相当するほどだと思う。

 

 

「貴女ほどの腕なら、貴族の専属シェフとしてやっていけるんじゃない?」

 

「そうですね。でも…そうなると時間が取られてしまいますし、都合上長期間居続けられるか分かりませんからね」

 

 

リエは、数年前まで“とある組織”に所属していた。

そこでの仕事は『世界』各地を回る大規模なもので、その中でも彼女はかなりの功績をあげていたようだ(詳しくはあんまり知らないけれど)。

 

その筋で、大分有名になった事もあって、彼女は組織から独立したようだ。

 

 

「それに『探偵』という職種に憧れていましたから♪」

 

 

そして…リエの現在の職業は『探偵』

ハッキリ言うと、似合ってない気がするんだけど…これはオブラートにしまっている。

 

私は本職の医師業の傍ら、時々リエの探偵の手伝いをしている。

リエはかれこれ、十年ほど副業をしながら探偵業を行っているのだ。

外見から、到底そんな事できるのかって疑う人の方が多いはず…

現に、私も彼女の仕事を手伝い始めたころはそんな感じだった。

 

だが、…彼女は大小はあれどどんな仕事も完遂していった。

人探し、浮気調査、近所の野良犬の追い出し(と言っても、強制的ではなく話し合い(!?)で交渉してた)とか…。貴婦人がスリにあった時なんか、走り去ろうとする犯人を背負い投げして、バタンキューさせた位だ。この一件で…リエが武術に長けている事を、私は知ってしまった(純粋にすごっ!って思ったもの)。

 

中には、殺人事件など大きな事案を担当する事もあって、それを解決に導いた。

余談だが、それがきっかけで、あの警視総監のアーサー・ランドル卿と面識ができて、たまに事件で相談されるようになったらしい。

 

私は甥関係で彼と既に知り合っていたけれど、ぶっちゃけあのプライドの高いランドル卿とタメで話せる奴なんて、そうそういない。

 

私の知る限りでは、甥とリエぐらいだろう。

前置きが長くなったから本題に入ろう。

今日、私がリエのもとを訪れたのは単に遊びに来ただけじゃない

…『探偵の依頼』をもってきたのだ。

 

 

「今回の依頼は『人探し』。この女性を探してほしいの」

 

  

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