探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(1)の続き。
  


暴かれた犯人と迫られる選択(2)

 

「アン…ジェリーナ…」

 

切り裂きジャックの声音が変化した。

その声は…リエも聞いた事のあるジェームズ・スピアリンク氏のもので間違いない。

 

「ジェームズ………残念だわ。こんな形で貴方と話す事になるなんて、ね」

「きみは……なんで…」

 

「切り裂きジャック事件の犯人を突き止めるための捜査に協力しているの。

…私、こうみえて裏の顔もあるのよ」

 

「驚いた?」と言い返すアンジェリーナ。

犯人と話をしている彼女は感情を表に出さないよう、冷静に話しかけている。

その胸中は、怒り、悲しみ、失望といった感情が渦を巻いている事を…

リエだけが感じ取っていた。

 

「正直言うと、まだ信じたくないの。親しい友人に…裏の面があったなんて」

「…それ…は…」

 

「ねぇ、ジェームズ……何故? 何故、貴方が【切り裂きジャック】なの?」

「やめ…ろ…」

 

「『医者として多くの人を救いたい』って言ってた貴方が…

どうして、〝人を殺す側”になってしまったの?」

 

「やめろ…やめてくれ…!」

 

アンジェリーナの問いかけに、ジェームズは頭を両手で抑えながら酷く狼狽する。

 

「ちがう…ちがうんだ…僕は…ぼくは……うッ…!」

「…! アンさん!」

 

 

  キンッ!

 

リエの声がしたと同時に、金属音が鳴り響く。

 

アンジェリーナはハッとした。

愛用の武器…白金色の星の形の結晶石をつけた杖を出現させて、リエがアンジェリーナの前に何時の間にか立っていた。そして…先程までの様子から一転し、険しい形相となったジェームズが持つナイフと鍔迫り合いをしている。

 

彼の凶刃から、自分を庇ってくれたのだとすぐに察した。

 

「…うっ、うぅううう……くっ…クハハハハッ!

 

「ジェームズ…」

 

「…あーあー、だから言ったろ? 『ジェームズ』

…女は信用しちゃいけないってよ」

 

声音がまたがらりと変わった。

目の前にいるのはジェームズのはずなのに…彼は高笑いしながら、己自身に言い聞かせるように独り言を言い出す。侮蔑を孕んだ眼差し、冷酷に口端を吊り上げる…まるで悪魔が憑依したかのように、別人となっていた。

 

「セバスチャン、あの男…『何か』が憑いているのか?」

 

後方にいるシエルが、セバスチャンに確認するように質問すると…

 

「いいえ、取り憑かれてはいません」

 

セバスチャンは、きっぱり憑依の可能性を否定した。

 

「なら、あの変化は…」

 

「そうですね。分かりやすく言うならば、あの人物は…

〝もう一人のジェームズ・スピアリンク氏”でしょうか」

 

「セバスチャンさんの仰る通りです」

 

彼の言葉を、前方にいるリエが肯定した。

ジェームズのナイフを杖で弾くや、一瞬生まれた隙をついて彼の腹部に蹴りを入れた。

その衝撃でジェームズは二、三歩後ずさりして膝をついてしまう。

 

「リエ…もう一人のジェームズって…」

 

「ジェームズ・スピアリンクさんには、アンさん達が知らない【二つ目の人格】が

存在します。その人物こそ…一連の事件の犯人である『切り裂きジャック』

 

杖を持ち直しながら、リエは説明を続ける。

 

「一人の人間に、別の人格が宿る…ですって?」

 

そんな事がありうるのか…と半信半疑のアンジェリーナに、リエは「実際にあるんです」と

しっかりした口調で返答する。

 

「あまり知られていませんが、ジェームズさんの症状は心の病の一種です。

彼は何かが原因で、もう一つの異なる攻撃的な人格を生み出してしまった…」

 

リエは蹲るジェームズ…切り裂きジャックを注視している。

凶器を放したとはいえ、油断できないのだろう。

警戒を怠らない彼女を見て、アンジェリーナは察した。

…目の前の友人の外見をしている殺人鬼は、まだ奥の手を隠している可能性がある、と。

 

 

「…所有者が変わりましたか」

 

 

セバスチャンがそう呟いた。

小さな囁きが耳に入り、シエルは横目でセバスチャンを見ると、彼の目がリエが所持している杖を捉えている事に気付く。

 

「気になるのか? あの杖が…」

「はい、アレを再び目にするとは思いませんでしたから」

 

彼の口調から、かなり珍しい貴重な物のようだ。

詳細を続けて訊こうとしたその時…

 

「…ッ! 坊ちゃん、失礼します!」

 

セバスチャンは急にシエルを抱きかかるや、跳躍する。

「いきなり、何事だ」と言おうとしたシエルは、宙から下を見てギョッとした。

自分達がいた…建物の影が当たっている場所が、まるで沼のように揺らいでいた。

そこからにょきっと金色の瞳をした黒い生物が顔を出し、次から次へと発生しだした。

 

「な、なんだ…あの生物は…!」

「…アレも久方ぶりに目にします」

 

「おい! さっきから【アレ】【アレ】と言ってるが、そもそもあの杖と黒い生物は

何なんだ!?」

 

「説明は後でいたします。今は…別の問題が浮上しそうです」

 

後方付近に着地するや、シエルを抱えたセバスチャンは目を細める。

あの黒い生物は、アンジェリーナとリエに向かって襲い掛かっていた。

 

「マダム・レッド!」

 

叔母の窮地にシエルは思わず声をあげた。

 

 

  シャッ パシュッ、バシュッ

 

 

彼の声に反応したのか、アンジェリーナは手元から医療用のナイフを出現させ、投げつける。

飛び上がっていた魔物を一匹、至近距離にいた二匹を一瞬で消滅させた。

 

「…まったく、空気を読めないありんこね」

 

苛立ちを露わにするアンジェリーナは、影から湧き出てくる魔物を睨みつける。

アンジェリーナのナイフ捌きに、シエルは目を疑った。

 

…叔母が、戦闘スキルを身に着けている事を知らなかった。

慣れた感じで、医療用のナイフを駆使して魔物を一発で仕留めていくアンジェリーナに、

セバスチャンもほぅ…と関心を抱いているようだ。

  

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