探偵は秘密がお好き   作:ねことも

41 / 51
(2)の続き。
  


暴かれた犯人と迫られる選択(3)

「…あー、もう! なんで今日に限ってたくさん出てくるのよ!」

 

こちらの意思に反して、魔物…ハートレスがどんどん増殖していく。

アンジェリーナはその都度ナイフを投げているが、追い付かなくなっていく。

 

(ハートレスの数が…増えている?)

 

リエはある違和感を覚えた。

アンジェリーナの言う通り、出現するハートレス…シャドウの数が普段よりも多くなっている。

その疑問を思案していた次の瞬間、ある映像が頭を過る。

ハッと視線を前へ戻すや、その懸念が現実になろうとしていた。

 

「まずいです…!」

 

リエの慌てた声に、アンジェリーナとシエルの視線も前方に集中した。

視界に映った光景…そこには、腹部に手を当てて、よろりと立ち上がった切り裂きジャックの背後から、大量のシャドウが押し寄せていた。

 

彼等の顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

 

「くくっ…ハハッ…! まってたぞぉ…」

 

「…あいつ、何をする気だ!」

「ジェームズ!」

 

降りかかってくるシャドウを拒む事無く、全身で受け止める切り裂きジャック。

本来なら、シャドウに心を奪われてしまうはずだが、ジャックは自らの体内に

シャドウ達を取り込んでいく。肉体に闇の魔物を浸透させていくその行為に、

アンジェリーナは背筋に悪寒が走る。

 

「は…ハートレスと自分の肉体を一体化させるなんて…可能なわけ!?」

 

「どうやら…切り裂きジャックは闇属性のようですね。

ハートレスは闇の力を使える強い対象者には従うんです」

 

リエの言葉が正しければ、ジャックは今まで凶器だけでなく闇の力も扱っていた事になる。

それを証明するかの如く、ジャックの全身が膨れ上がり、見る見るうちに変貌を遂げていく。

 

「させません」

 

セバスチャンが両手に構えた銀食器を投げつけ、首、腹部などの急所を狙う。

深々と刺さったように見えたが…

 

「…ッ!」

 

体内に取り込まれていたシャドウの一部が顔を出し、銀食器を弾いていく。

 

「…一筋縄ではいきませんね」

 

変化を遂げた切り裂きジャックに、セバスチャンは眉を顰めてそう言った。

大量のシャドウを取り込んだ事により、肌の色は禍々しい黒紫色となり、体格が筋骨隆々と

した巨漢となった。髪の毛の色が黒色となり、生きているかのように蠢いている。

閉じていた瞼を開くや、鮮血の色と化した瞳が露わとなり、口が三日月のように吊り上がる。

 

「『不気味な雰囲気を漂わせる大柄の男』

…アニー・チャップマンの証言と一致するな」

 

「アレを使って、姿形を変えていたとは…切り裂きジャックの人格の方は随分と

狡獪なタイプのようです」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!」

 

話していたセバスチャンとシエルに、切り裂きジャックが体格に反した俊敏な動きで拳を

振り下ろしてきた。セバスチャンはシエルを担いで、咄嗟にその場から跳躍して離れる。

拳が直撃した地面の土が抉れ、中サイズのクレーターが出来上がる。

 

「なによあれ…反則技でしょ」

 

アンジェリーナは顔を青ざめる。

 

「一撃をお見舞いされたら、普通の人だと一気にぺしゃんこですね」

「…そうね」

 

簡単に言えば…そうなる。

リエはソフトな言葉で表現しているが、これがオブラートに包まない言い方だったら

(なおかつ、リアルに想像してみたら)…

 

アンジェリーナは、そんな刺激的な場面を思い浮かべてしまい、小さく首を左右に振る。

 

 

 ズシッ、バキッ!

 

 

切り裂きジャックは、攻撃を仕掛けてくるセバスチャンを標的にしたのか、執拗に

追いまわしている。セバスチャンはジャックを引き付けながら、建物を利用して

縦横無尽に駆けながら戦っている。

主人であるシエルがいる場所に危害が及ばないよう、距離を取っているようだ

…さすがは執事と言うべきか。

 

「アンさん」

 

二人の戦闘に気を取られていたアンジェリーナに、リエが声をかけた。

 

「単刀直入に言います。

アンさんは、切り裂きジャックをどうしたいですか?」

 

視線を合わせるや、リエがそう問いかけた。

ドクンと心臓が波打つ。

 

「私は、依頼人の意思をできる限り尊重したいと思います。

同時に、契約者であるアンさんの…貴女自身の意見を聞きたいんです」

 

裏社会の掟に沿って、切り裂きジャックを始末するのか?

それとも…

 

暗に提示された選択に、アンジェリーナは唇を震わせた。

 

 

 

【暴かれた犯人と迫られる選択】

 

 

 

ある人物がその現場を見下ろしていた。

目に映るのは、静かな夜に不釣り合いなバイオレンスな戦いの光景。

 

「介入すべきか否か…悩むな」

 

呟いた小さな囁きは、激しい轟音でかき消される。

飛んでくる小さな瓦礫を器用に避ける黒装束に身を包んだその人物は…

一連の出来事を観察していた。

 

最初は、心なき者の気配を感知し、“いつも通り討伐する”ために足を運んだ。

だが、現場に来てみるや『先客』がいた。

 

心なき者を吸収して化け物と化した憐れな男。

それを相手に戦いを挑むのは、庶民の服装をした少年と執事、赤い衣装を纏う貴婦人と

質素な服装をした女性。

 

…なんとも、ちぐはぐな組み合わせである。

 

「…ん?」

 

その中の一人に自ずと視線が向かう。

質素な服装の杖を武器にしている女性の顔を目にするや、その人物…『彼』は目を

微かに見開いた。

 

(あの人は…)

 

女性に視線を集中させていた時、別の方角から新たな気配を感じ取った。

…その気配の主は、目下の場へと着実に近づいている。

 

(おっと…見られるとまずい)

 

気配の主は、戦いの舞台へ降り立とうとしている。

ならば…自分は姿を現さない方がいい。

そう判断した『彼』は、傍観者の立場を継続する事にした。

 

 

 

【つづく】

  




※最後に登場したオリキャラが、本格的に登場するのはまだ先の話です。
  
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。