マダム・レッドが苦悩する回。
そして……
※作中に流血シーンなどの残酷描写があります。
そういった描写が苦手な方は、読む事を控えてください。
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《父親似の赤毛が大嫌いだった。
赤い色が大嫌いだった》
まだ世の中を知らない純粋な少女だった頃、私は父親から受け継いだ赤い髪が
コンプレックスだった。そばかすがある自分の容姿にも自信が持てず、優しくて
美人で、亜麻色の髪の姉が羨ましかった。
『君は何故、そんなに前髪を長く伸ばしてるの?』
そんな私を変えたのは…あの人だった。
『人と違うのは“恥”じゃない、個性だよ。
アンの赤毛はとても綺麗だ。
――――地に燃える【リコリス】の色』
優しい笑顔で、私の髪を褒めてくれた。
身内以外でそんな事を言われるのは初めてだった。
『君には赤がよく似合う。もっと自信を持っておいで』
貴方のあの言葉は、魔法だった。
みすぼらしい服装の灰かぶりの少女を、白銀のドレスと装飾品で着飾った美しいお姫様に
変身させてくれた魔法使いのように…
私に自信と勇気をくれた。
《そして、私は前髪を切った。
父親似の赤毛が好きになった。
赤い色が好きになった。
―――“あの人”が大好きになった》
『アン、良い知らせがあるの!』
でも、私はあの人の特別になれなかった。
あの人が選んだお姫様は…姉さんだった。
《―――私は硝子の靴を履けなかった。
それでも、魔法が解けてしまわないように…
私は自分を守るために、新しい魔法をかけた》
振り返ると、私は自分の心が壊れないように何重にも衣を重ねて本心を偽っていた。
義理兄と姉が二人で仲睦まじくいる姿を見るたびに、傷ついて…嫉妬して…
そんな感情を悟らせないように必死だった。
《赤い色が、また嫌いになった》
私は大嫌いだった夜会に、沢山出席するようになった。
派手なメイク、真っ赤なドレスで夜会を渡り歩く
…いつしか私は【レディ・レッド】と呼ばれるようになった。
そして、子どもの頃からの夢を叶えるために両親の反対を押し切って、医師免許も
手に入れた。
義理兄と姉は夫婦の絆を深めていった。
政略結婚が多い貴族階級の間では、【オシドリ夫婦】だと言われるくらいの仲睦まじさ。
可愛い子ども達にも恵まれて、温かくて幸せな理想の家庭を築き上げていった。
彼等は私を邪見する事無く、受け入れて信頼してくれていた。
――――私の大好きな人達。
同時に、灼けつくような感情をいつもどこかで感じていた。
『ごめんなさい、忘れられない人いるの』
『それでもいい。君が傍にいてくれるなら』
やがて、私は夜会で知り合った人と結婚した。
夫は、私が初恋の人を忘れられないにも関わらず、私を愛してくれた。
…今振り返ると、あの時の私は夫にどれだけ酷い事をしていたのだろう。
私はいつも失ってばかり。
…初恋の人だった義理兄。
…嫉妬していても大好きだった姉。
…私だけを愛してくれた夫。
過去を後悔しても、時間が戻る訳ではない。
…誰かがそんな言葉を言った気がする。
まさにその通りだ。
一度失ったモノを取り戻す事は難しい。
…地位や名誉、夢、信頼、愛情がそのいい例。
ましてや…命を落とした者を蘇らせる事なんて不可能だ。
――――私が大好きな人達はもういない。
私が必死に追いかけて行っても、もう手の届かない場所にいるのだから。
《魔法が解けてしまった私は悲しみに暮れた。
ガラスの靴は履けず、最も愛を注いでくれた人を見極められず…どちらも失ってしまった》
『それでも、貴女は生きる事を選んだ』
そう…私は選んだ。
絶望から闇に飲まれかかった私に手を差し伸べた人がいた。
『貴女はまだ希望を失ってはいなかったから』
夫が残してくれた…私の身に宿っていた【命】
プライドも何もかも捨てて、藁をも縋る思いだった。
最後に残った希望を守るために、私は選択した。
『貴女は運命を覆す選択をした。
たった一つの【光】を繋ぎ止めるために…
願いを叶えるために…私と契約をした。
その【対価】として、貴女は○○○を捧げた』
《迷いなんてなかった。
もしあの時、選択を突きつけた相手が【彼女】じゃなかったとしても…
神であろうとも、悪魔であろうとも…
――――私の答えはとっくに決まっていたのだ》
これから生きていく上で、私は常に選択し続けていくのだ。
それが辛い結果を生む事になるとしても…
たったひとつの願いのために、私は生きていかなければならないのだから。