グレルの告白と、主人公の実力が一部明かされる話。
※作中に流血シーンなどの残酷描写があります。
※原作キャラがオリキャラに対して、厳しい態度を取っています。
※女性に対する差別・蔑視を含んだ発言があります。
そういった描写が苦手な方は、読む事を控えてください。
その光景はスローモーションのように、アンジェリーナの視界に移される。
グレルによって、切り裂かれた皮膚からは血が溢れ出ていた。
「―――ジェームズッ!」
上空から真っ逆さまに落ちていく切り裂きジャック。
思わず名前を叫んでいた。
アンジェリーナの声に反応したのか、切り裂きジャックの瞳の色が赤から
ブラウンへと変化した。
盛大な音を立てて、切り裂きジャックは地面へ激突した。
…だが、体内に取り込んでいたシャドウ達が地に辿り着く直前に外へ出て
クッション替わりになったために大したダメージは受けていなかった。
「…忌々しいワ、あのぬいぐるみもどき。
あれをデスサイズでも完全に狩れないのがネックなのよネ」
グレルは愚痴を零しながら、トンッと地に立った。
「…死神が【執事】をしているとは、初めて見ますね」
同じく、地上に戻ったセバスチャンもグレルを見据える。
「あら★ アナタ…アタシに興味があるの?」
「貴方個人というよりも…そちらの方との関係性が気になります」
倒れたまま動かない切り裂きジャックを、セバスチャンはじっと観察している。
瞳の色が変化しているようだが…何か関係しているのかもしれない。
そう思案していると、グレルが軽く溜息を漏らした。
「ふぅ…アナタみたいな色男は好みだけど、
ストレートに情報をバラすほどアタシは軽くないわヨ?」
「そうですか、大体は予想できますから構いませんよ」
「冷たい人ネ!? でも、そういうとこが心擽られちゃうじゃないv」
恍惚とした顔で、セバスチャンを見つめるグレル。
どうやら、セバスチャンは彼女?の好みにどストライクのようだ。
「それにしても、悪魔が執事してるなんて初めて見るワ。
アナタと契約してるあの子に…どんな物語があったのかしら?」
「ファントムハイヴ家の執事たる者、部外者に当家の事情を易々語るなど
…愚かな真似はいたしません」
「ンフv 機密情報はきっちりシークレット…執事の鏡だワ」
やたらと親しそうに話しかけるグレルに、セバスチャンはポーカーフェイスを
心掛けているものの目は笑っていなかった。
「そうね…セバスちゃんと出会えた記念に、大サービスで教えてあげましょうか。
―――アタシがご主人様に仕えていた【理由】を」
グレルは目を細めて、未だに動かない切り裂きジャックへ視線を向ける。
「死神のお仕事はハードなのヨ。だから、各地区で担当を決めてるの。
そんなハードな回収課の一人として、アタシも日夜頑張ってるワケ」
でも…とグレルは険のある表情となり、言葉を続ける。
「ある時期から、あのぬいぐるみもどき…ハートレスの数が急に増えてきた。
アレは放っておくと厄介なのヨ。
…人間の魂を食べてしまう【悪魔】みたいにネ」
「その原因に…ジェームズさんも関わっていたんですか?」
リエが会話に参加する形で尋ねると、グレルは怪しい笑みを浮かべる。
「正解♪ あくまで要因のひとつみたいだけど、
ソレは他の同僚の担当だから説明はパス。
…で、アタシはご主人様の動向を探る役目になったの。
わざわざ出向しなきゃいけなくなったのは苦痛だったワ」
「グレル…きみは…最初から…わたしを殺す気だったのか…?」
切り裂きジャックが悲しそうな口調で問いかけてきた。
声音がジェームズに戻っており、アンジェリーナはハッとした。
「ジェームズが元に…」
「マダム・レッド、ダメだ」
駆け寄ろうとしたアンジェリーナを、シエルが手で制止した。
切り裂きジャックが、こちらを油断させようと演技している可能性がある。
…迂闊に近づくと攻撃されかねない。
甥の言いたい事を察したアンジェリーナは、もどかしい気持ちを堪える。
「あらヤダ、ご主人様。もしかしなくても戻れるの?
その様子だと…もう一人(ジャック)の事も認識してそうネ」
「……知るのが早ければ…よかった…
今でも…くやしくて…たまらない…ッ!」
ジェームズ自身は、もう一人の自分に気付いて日が浅いようだ。
誰よりも人を救いたいと願っていたのに、自分の闇が原因で人を殺めてしまった。
…その事実に傷つき、恥じて悔やんでいる。
目から一筋の涙が零れ落ちるその姿は、ジェームズ本人であるとアンジェリーナには分かった。
「はぁ…気付くのが遅すぎ。ソレが貴方の罪ネ」
グレルは溜息を吐いて、天へ顔を上げた。
「正体バラしちゃったし…この際だから本音を言っても構わないわよねぇ。
ご主人様…アタシ、前からスゴク言いたい事があったのヨ。
いえ、アンタだけじゃなくてもう一人(ジャック)に対してもネ」
改めてジェームズへ視線を向けたグレルは…嫌悪感を顔に滲ませていた。
「ハッキリ言って、アンタ達…スッゴクむかつくワ」
グレルが発した言葉に、ジェームズは狼狽する。
「グレル……ぼくは…君に何を…」
「まずは…ご主人様、アンタが苦労してたのはよーく分かってるワ。
先代と後継ぎが亡くなったから、子爵の地位をイヤでも継がなきゃダメだった。
その所為で、夢を諦めないといけなかったんだもの…
両立させるなんてあのババアが許さなかったんでしょ?」
そう言われるや、ジェームズは瞼を強く閉じて全身を震わせる。
その当時の事を思い出したのか、苦しい表情を浮かべている。
「慣れない領主の仕事に四苦八苦。
それに加えてババアが好き勝手に行動して、周囲に迷惑をかけてしまうワ、
懇意だった貴族が離れてしまうワで大苦戦。
ババアの所為で使用人達はヤメテしまうし、働き手が来ないワ
…まさにブラックでカオスな負のスパイラル!」
かく言うアタシも、任務じゃなきゃ速攻でおさらばしてたわよ…と
吐き捨てるようにグレルは言った。
アンジェリーナは、ズキッと胸が痛んだ。
グレルの語りを聞いて、ジェームズが想像していた以上に辛い境遇にあった
…その事実に心が苦しくなったのだ。
「でもね…それならもっと早くに元凶(ババア)をどうにかしなかったワケ?」
「それ…は……」
「ハッキリ言って、アンタは優柔不断なのヨ。
【血の繋がりがあるから】って理由で、今でも元凶を家に押し込めるだけで
問題を先延ばしにしてるダケ。
その所為で、被害にあったのはアンタだけじゃないのよ」
彼女?の言葉に、ジェームズは反論しない…いやできない。
きつく聞こえるが、グレルの言う事は正論である。
それが分かっているから、ジェームズは沈黙するしかないのだろう。
「エレオノーラちゃんが、どれだけ怖い思いしてたか把握してる?
アンタがいない時に、ババアの標的にされやすいのはあの子なんだから。
一方的に振り回される上に、さんざん他人への悪口のオンパレードに付き合わされる
…精神的な拷問そのモノ。
反抗的なマネをするなら、怒鳴り散らすし…よくもまあ耐えてるって思うわ。
理不尽に一部の元使用人からも、クビにされた腹いせで母親の代わりに
茶器をぶつけられそうになったりしたのよ」
アタシが対処してなかったら、どうなっていたか…とその時の事を
思いだしたグレルは苦い顔になる。
「あのダンディな家令のモーリスだって、物をぶつけられて生傷ができても、
無茶難題を言われてもイヤな顔せずに我慢してるワ。
世話係のメリッサなんて、ババアの我儘が原因で実の家族とすれ違った結果、
今じゃ手紙を送っても返事がこない状況よ」
スピアリンク家のあまりにも悲惨な家庭事情に、アンジェリーナは絶句する。
「他家の事情に口を出すのは無粋だが…」
会話の一部始終を聞いていたシエルが、厳しい顔で口を開いた。
「ジェームズ・スピアリンク…お前は当主として選択を誤った。
中途半端な善意で、身内だけでなく無関係の人々に悲劇をもたらしてしまった。
その事実に目を逸らし、闇に落ちてしまったのは紛れもなくお前自身の責任だ」
「…うるせぇ!」
突然、ジェームズが激昂した。
声音が切り裂きジャックへ変わり、瞳は鮮血色へ戻っていた。
「どいつもこいつもうるせえんだよぉおオオオ!
気色わりぃ女男とガキが説教垂れやがって、何様だッ!?」
「…どうやら、ジェームズ氏と切り裂きジャックの入れ替わりは、
ジェームズ氏の精神状態も関わっているようですね」
怒りを露わにする殺人鬼に対し、セバスチャンが冷静に分析する。
切り裂きジャックが憤怒の表情を浮かべ、八つ当たりのように壁や地面を破壊する。
「お前らにジェームズの何が…分かる!
俺はあいつの事を…一番知っている…ッ!!」
「ほぉ…では、ジェームズ様が心から何を望んでいらっしゃるのでしょうか?」
セバスチャンが探るような目で問いかけると、切り裂きジャックはニヤリと
口端を吊り上げる。
「あいつはもう現実には戻りたくねえんだ。
…口煩い無能で有害なババアや、泣いてばかりの目障りな妹、平気で子を捨てる
阿婆擦れ共がいるこの世界から離れたいんだよ!
だから、俺があいつの代わりになる。
そして、この英国中のすべての女を選別し、従順なモノだけ僕にしてやる!
逆らう者共は全員粛清だァアアアア!!」
切り裂きジャックは高らかにそう宣言した。
「バカね、そんなのムリに決まってるでしょう」
しかし、そんな彼の野望を叶える事が不可能だとグレルが断言した。
バッサリと即答で言われた事に、切り裂きジャックはへっ…と間抜けな声を
漏らしてしまう。
親友の闇の深さに心を痛めていたアンジェリーナも、グレルの発言にギョッとする。
「てっ…てめえ! ふざけた事抜かすんじゃね…ッ!」
グレルは、憤怒の表情で睨みつける殺人鬼に怯む様子もない。
それどころか、フッと冷笑を浮かべた。
「弱い者イジメしかできないアンタ如きが…女を舐めんじゃないワヨ。
アンタ以上の強さの女はもっといるんだから。
―――ねぇ、リエちゃん」
流し目をしてグレルが指名するように、リエの名を呼んだ。