探偵は秘密がお好き   作:ねことも

47 / 51

(2)の続き。
  



赤執事の告白と、リエの実力(3)

 

「さて、これで…どうなると思いますか?」

 

リエが薄らと笑みを浮かべ、意味深げな発言をする。

彼女が発動させた術はまだ解除される事無く、闇の魔物を消滅させ続けている。

あまりにも信じがたい現状に、切り裂きジャックは思考が追い付かず…

形容しがたい怖れに全身を震わせていた。

 

「クローチェ様、ご助力感謝いたします!」

「ナイス・アシスタント★」

 

そして、切り裂きジャックがその言葉の意味を理解するよりも

…早く行動を起こす者達がいた。

 

セバスチャンが腹部に向けて複数の銀食器を放ち、グレルは背中を右斜めに

斬りつける。

 

「ぐっ…あぁアアアア!」

 

先程はまるで歯が立たなかった銀食器が、切り裂きジャックの腹部に刺さり、

紫がかった黒い色の煙が出てくる。

背中の方も、グレルのデスサイズによる一撃が効果覿面だったようだ。

デスサイズによって切り裂かれたところから、シャドウが五体ほど具現化して

離れていった。

 

「やはり、クローチェ様の術は切り裂きジャックにも効いているようですね」

「おかげで、さっきよりヤりやすくなったワ」

 

リエの術は、切り裂きジャックと一体化しているシャドウにも影響を及ぼしている。

そのため、切り裂きジャックの強固な鎧と化していた肉体も弱体化しているようだ。

 

 

 

「くそ…くそくそくそぉおおお!

 

切り裂きジャックは、両手で頭を抱えながら咆哮する。

容赦ないセバスチャンとグレルの攻撃をなんとか退けながら、

彼はリエを睨み付ける。

 

「なんでお前みたいな女がいるんだ!

何故、強い!? 外見詐欺だろ!!

俺は認めねえ、認めてたまるものか!!

この世に強い女なんていねえはずだ!!」

 

その目に映した先程の光景を…切り裂きジャックは必死に否定しようとしている。

肯定すれば、己の中のアイデンティティが崩れ去ってしまう。

それを防ぐために、『リエの実力は紛れである』『リエは女装した男なんだ』という

自分の都合のいい思考で無理に納得しようとしているのだ。

 

「私の事をどう思われようと構いません。

でも…一方的な女性に対する固定観念は捨てるべきです」

 

切り裂きジャックの暴言に対して、リエはハッキリした口調で言い返した。

 

「私以上に強い女性はいますよ。

物理的な力だけではない、強い心を持つ方々を…私は知っています。

切り裂きジャック…いえ、ジェームズさん。

貴方の身近にもいるじゃないですか」

 

「そんな奴いねえ…」

「本当にそうですか?」

 

真剣な眼差しのリエに問いかけられ、切り裂きジャックは言葉を詰まらせる。

 

 

「ジェームズさん、辛くて悲しい記憶がたくさんあると思います。

忘れたくて、目を逸らしたくて仕方ない事ばかりかもしれません。

でも…それだけではなかったはずです」

 

(そうだ…【彼女】は立ち向かっていた)

 

 

切り裂きジャック…ジェームズの脳裏に、あの時の記憶が蘇る。

かつて、医学生時代に【彼女】…アンジェリーナがたった一人で

理不尽な言いがかりをつける男達と戦っていた。

 

荊の道を、確固たる意志を持って進んでいくアンジェリーナは

あたかも異国の聖女を連想させるくらいに…強い女性だった。

 

 

「その人と過ごした日々は、貴方にとって心休まる日々だった

…そうではありませんか?」

 

 

アンジェリーナと友人となり、医学生として共に過ごした月日は穏やかで

満ち足りたものだった。どうして、今まで忘れていたのだろうか…。

 

 

「その思い出は、貴方にとって大切な宝物。

捨ててしまえば、二度と戻らないかけがえのないものです。

その記憶を失ってまで、手に入れようとしているものに価値はありますか?」

 

 

リエのその言葉を聞いた瞬間、切り裂きジャックの瞳の色がブラウンへ戻った。

 

「…あの記憶を捨てて、得る物…そんなものあるわけない」

「ジェームズ…」

 

「嫌だ、この記憶は…僕の心の支え…この思いだけは…

失いたくないッ…!

 

ジェームズは首を左右に振り、自分自身に言い聞かせるように大声で本音を吐露する。

残虐な【もう一人の自分】を奥へ押し込めて、封印しようと必死のようだ。

アンジェリーナはジェームズの様子に思わず駆け寄ろうとしたが…

 

「や…めろ……ジェームズ…やめろ!」

 

瞳の色が赤く染まり、再び切り裂きジャックが表に出てくる。

 

「惑わされるんじぇねえ! 記憶がどうした!

お前の支えだっていうアンジェリーナは別の男を選んだろうがッ!!

昔の思い出なんかに女々しくしがみついたところで…

ぜんっぜん意味がねえんだよ!!」

 

「まったく、しぶとい人格ですね」

 

セバスチャンはうんざりした心情を顔を露わにして、喚く切り裂きジャックの頬に

そこらに落ちていた石を容赦なく投げつけた。

剛速球のそれは見事命中してしまい、切り裂きジャックはぶぼばっ!と

間抜けな声を漏らす。

 

「同感だワ。ご主人様もとっととねちっこいそいつから主導権を奪ったら、

コッチは楽に狩れるのに」

 

「狩られてなるものか! 俺の野望を…ッ」

 

グレルの嫌味を含んだ挑発に言い返そうとした瞬間、切り裂きジャックは苦悶の表情を浮かべ、

「げほっごほっ」と激しく咳をし出す。

 

そして、咳と共に…鮮血色の液体が盛大に地面へばらまかれた。

 

 

「ご…れば…ッ」

 

切り裂きジャックは、己の口から出たそれを見て愕然とした表情となる。

 

「あいつ…まさか病を患っているのか?」

 

喀血した彼を目にしたシエルは、訝しそうにその推測を口にする。

アンジェリーナは、もしやとグレルの方へ自ずと視線を移した。

浮かびあがった、信じたくない可能性を否定してもらいたかったが…

グレルは緩慢に被りを振った。

 

「そんな、ジェームズは…」

 

「最初に言ったでしょう?

そもそも、こいつが野望を叶えるなんて絶対にムリなのヨ」

 

己の異変に動揺している切り裂きジャックに、グレルは憐みの眼差しを向ける。

 

 

「切り裂きジャック……ジェームズ・スピアリンクは肺の病に侵されている。

だから、アタシは本業を遂行しないといけないのヨ」

 

 

 

【赤執事の告白と、リエの実力】

 

 

 

「…いつからなの」

 

「判明したのは一カ月前。本人は隠そうとしてたけどネ…バレバレよ。

ご主人様は…もうそんなに長くないワ」

 

「うそだ…ウソだ…嘘だァアアア!」

 

グレルの言葉に、切り裂きジャックは狼狽する。

 

「いえ、本当ですよ。私にも分かります。

スピアリンク様の生命力が徐々に弱まりつつあるのが…」

 

「ふざけんな! 俺は認めねえ、こんな…こんな理不尽な事あるか…ッ!!」

 

セバスチャンの足を掴んで壁へ投げつける切り裂きジャック。

飛ばされる途中で、セバスチャンは一回転して軌道を変えると

切り裂きジャックの背中へ蹴りを入れる。

 

「数年間、このアタシや同期の目を掻い潜って好き勝手やってきたでしょう。

アタシの貴重な時間を奪った上に、被害者の女達を血祭りにしてきたんだから

自業自得ネ!」

 

グレルは吐き捨てるように言うと、デスサイズを構えてすかさずに攻撃を

仕掛けていく。

 

 

 

 

再び激戦が繰り広げられる中、アンジェリーナは顔を俯けて沈黙していた。

 

「今から逃げたとしても、誰も貴女を責めたりしない」

 

シエルはそう言うしかなかった。

薄っぺらい同情や気休めの言葉なんて…何の意味もない。

残酷な事実が明かされた今、アンジェリーナが誰よりも絶望しているのだから。

 

「この結末は僕が責任を持って見届ける。だから…」

「いいえ、まだよ」

 

シエルが帰宅を促そうとしたその時、アンジェリーナが待ったをかけた。

予想外の事に、シエルはぱっと隣にいる彼女へ目を向けた。

 

「まだ…私にもできる事がある」

 

そう告げると、アンジェリーナはゆっくりした足取りで前へ進んでいく。

 

 

「リエ…いえ、『マリエル・レイディアン』

 

 

セバスチャン達を加勢しようと、呪文を唱えている最中のリエに対して、

その【名前】で呼んだ。振り返ったリエは、アンジェリーナに尋ねる。

 

「なんでしょうか?」

「……貴女の力を貸してちょうだい」

 

ギュッと拳を作り、アンジェリーナは協力してほしいと言った。

 

「…覚悟を決めたのですね」

「ええ、そうよ」

 

迷う事なく答える契約者に、リエは満足そうに頷く。

 

 

「分かりました。アンさんの【願い】を教えてください」

 

 

 

【つづく】




※グレルは今までの鬱憤を発散し始めた!

※リエは仲間である【グリューネ】を呼び出し、キーロッドと融合させた!

※アンジェリーナは覚悟を決めた!


※次回は、また出来上がり次第の投稿となります。
  
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。