探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(1)の続きとなります。

  


見かけに判断されるべからず(2)

 

持参してきた写真をリエに見せる。

そこに映っているのは、茶髪の長い髪をまとめた大人しそうな印象の女性。

名前は『ヘレン・ブライズ』、18歳。

2年前に、田舎からでてきたガヴァネス(女家庭教師)だ。

 

 

「彼女の父親は牧師をしててね、慈善事業で何度か会った事があるの。

貧しい実家を支えようと、ガヴァネスになってロンドンまで来たみたい」

 

「いなくなったのは二週間前。

新しい雇い先へ面接へ向かったのを最後に行方が分からなくなった。

ガヴァネスの寄宿舎にも戻らず、連絡がこない事を不審に思った知り合いの方に

よって発覚した…ようですね」

 

「真面目で恋人がいたとか浮付いた噂はなかったようだし…もしかしたら事件に巻き込まれたんじゃないかってご両親が知人経由で私に相談があった訳」

 

「市警(ヤード)に捜索願は?」

「とっくに届けてるわ。あんまり期待してなさそうだったけど…」

 

 

ロンドン警察(スコットランドヤード)は捜査に熱心な反面、大した成果をあげられない。

上記の事から、一部の市民から彼等があてにならないと揶揄される事もある。

 

「…ブライズさんは、以前貴族の屋敷にいたようですが、辞めた具体的な理由は

なんでしょうかね?」

 

リエが、資料を一枚ずつめくりながら疑問を口にする。

 

「あくまで勘だけど…追い出された可能性大よ。

まだ若い女性だし、雇われ先で扱きつかわれてたかもね」

 

この時代、ガヴァネスは結婚をしない女性の数少ない職業だ。

自立したレディの姿として憧れを抱く者もいるが、現実は使用人と同等の扱いをされる。

メインである子どもへの教育は勿論、子守や裁縫と言った雑用までこなさくてはならず、就寝時間以外はフルタイムの労働を強いられていた。

 

 

「女性の社会進出が叫ばれてるけど、公に仕事するなんて御法度! 的な空気があるもの問題よ。そこから根本的に変わらなきゃ、意味ないと思わない?」

 

「そうですね。どこの国でも、社会問題が取り上げられる時、必ずと言っていいほど

女性関連の問題はあがります。長年の男性優位の封建社会と概念を覆すにはまだまだ

時間がかかりますよ、きっと…。

それをいかに解決していくのかは…指導者の発想と手腕次第ですけれど、ね」

 

 

私の愚痴に対して、リエがやんわりと意見を言うと、読み終えた資料をテーブルにおいた。

 

「この依頼、承りました。調査には少し時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」

「そう、じゃあ調査が済んだら連絡頂戴ね」

 

こうして、本日のお茶会は終了した。

あの不思議なトンネルを今度は逆戻りすると…見慣れたロンドンの街並みだった。

 

(時間かかるって言ってたし、一週間ぐらいかかるかも…

依頼人に連絡しておいて、根気強く待つしかないわね)

 

そう考えながら、私は帰路へ着いた。

 

 

 

 

翌日…自室の書斎で書類のチェックをしてると、来客がやってきた。

 

「おはようございます。マダム・レッド」

「リエっ…!」

 

いつもとは違う身だしなみ…控えめな色だけれども上品な英国風淑女の服装に

身を包むリエだった。

 

「例の依頼の調査、完了しましたので報告に上がりました」

「えっ、完了って…まだ一日しか経ってないじゃない!」

「はい。一日ちょっとかかりました」

 

そう言うと、持っていた鞄からどさっと資料の束をデスクにおいた。

念のために一枚一枚ぺらぺらと内容を確認していく。

 

「今回、情報収取するのは思いの外苦戦しましたよ。

例えば、同じ寄宿舎に住んでいるガヴァネスや前の職場に住んでいる使用人、雇い主、彼女がよく通っているパン屋や雑貨屋……etc」

 

スラスラと綺麗な発音の英語で喋るリエに、思わず脱帽してしまう。

…彼女が詳細を説明している通り、資料にはヘレン・ブライズがここ数年関わった人物の詳細や動向などが記述されていた。

 

毎回思うのだが、彼女の情報網は半端ない。

以前の事件も、市警(ヤード)さえも迂闊に調べられないイーストエンドの暗黒街の情報を入手していたし…。どうやってコネをつくったのか、過程がとても気になる。

 

「それで調査中に、ある噂を聞きました」

「噂?」

 

「ここ数ヶ月の間に、ロンドン市内で行方不明が多発しているようです。

行方不明者数は六人。いずれも市警(ヤード)に届け出がでています」

 

「へぇ…でも、今回の件と関係があるの?」

 

英国の年間の行方不明者数とか、その辺の情報は疎いため、本筋とどう関係しているのか、

疑問符が浮かぶ。

 

 

「その行方不明になった方々は、10代後半から20代の若い女性

…しかも『ガヴァネス』です」

 

「あっ…!?」

 

「さらに、そのガヴァネス達は寄宿舎の求人情報で、ガヴァネスを求めている

ある好条件の『家庭』へ面接に行っています。その後、行方が分からなくなった…」

 

「全員、ヘレン・ブレイズと同じじゃない…」

 

「そして、ブレイズさんもまた、彼女達と同じ住所の家庭へ面接に向かった

…これは偶然でしょうか?」

 

 

リエは、あたかも大学教授が生徒を試すような感じで問いかける。

若い女性、ガヴァネス、好条件の求人広告…これだけ共通しているのに偶然なんてありえない。一連の失踪は…明らかにつながっている。

 

「それで彼女達が面接に行ったっていう家庭は割り出せたの?」

「ええ、すぐにその住所まで行きましたが…誰もいませんでした」

「…という事は、偽の求人で若い女性達を誘き出して拉致した」

 

導き出した答えに、リエが「正解です」と言った。

けれど、そうなると連続行方不明の事件の背後には裏社会に携わる連中の仕業になる。

 

「犯人は…目星ついてる?」

「はい。ある外国の会社が今回の事件に関わっています。でも…」

「何か問題があるの?」

 

「直接、会社先へ問い詰めても上手くはぐらかされるか、門前払いされるのがオチです。

だから…別の手段で攻めた方がいいですね」

 

リエは、そう言いながら出された紅茶を優雅に飲む。

 

「そのためには、アンさんの力が必要なんです。協力していただけますか?」

 

ティーカップを皿において、ニコリと笑うリエ。

傍からみれば、花のような微笑みを浮かべる可憐な女性だ。

男性がみたら運命を感じずにはいられないだろう。

 

しかし、私は知っている。

彼女が…案外、策士な所があるしたたかな女である事を。

 

 

 

【見かけに判断されるべからず】

 

 

 

それから、私達は打ち合わせをした。

 

「それじゃあ三日後…私はいくわ。貴女も…OK?」

「はい、かしこまりました」

 

犯人は、裏社会に身を置く人間。

実は、私も目にした事がある人物かもしれない。

その人物は、三日後ロンドンから少し離れた屋敷で行われる茶会に出席する。

私も…その茶会の参加者だ。

 

「用心しておいたほうがいいわよ。

あそこに集まるのは表社会の貴族とは違う意味で厄介なのばかりだから」

 

リエに限ってあり得ないが…犯人が感付いて彼女に害を与えるリスクはある。

念のために注意喚起すると、リエは面白そうに…まるで難解な謎解きに直面した数学者が挑戦心を駆り立てられた時の如く、愉悦を含んだ笑みを浮かべた。

 

 

「それは…気をつけないといけません、ね」

 

 

 

【つづく】

 

 

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