(3)の続き。
『グレルさん、お願いがあります』
「リエちゃんから直々にね、なーんかイヤな予感がするんだけど…」
『このたびの件…切り裂きジャックの処遇に関して、こちらに任せて頂けませんか?』
リエからの打診に、グレルははぁ~…と大きく溜息をついて肩を竦める。
「それは困るワ~。コッチだって数年越しの任務を終わらせたいもの。
それに…ここでアタシがヤラなくても、その男の運命は変えられないわヨ?」
『勿論、承知の上です。貴方の仕事を妨害するつもりはございません。
ただ、お願いしたい事はひとつ…【時間】を頂きたいのです』
その要望を告げるや、グレルは眉を顰めて眼光が鋭くなる。
「つまり…ジェームズ・スピアリンクの魂の回収を遅らせろって事?」
『ジェームズさんの寿命は、まだ残っています。
この事件が終わった後、この世に未練が残らないように…
懺悔を兼ねた準備期間を、彼に残してくださいませんか』
「そもそも、切り裂きジャックをどうにかできるワケ?
優柔不断なジェームズ(ご主人様)がアイツに勝てると思えないワネ」
『いいえ、勝ちますよ』
疑わしそうに探りを入れるグレルに対して、リエはハッキリと断言した。
『私と、優秀なパートナーであるアンジェリーナ・ダレスが必ず呼び戻します』
「リエ…」
リエの言葉が、アンジェリーナは驚きで目を見張る。
言われた事に、嬉しい気持ちが徐々に沸き上がってきたのか口元が緩んでいった。
一方、グレルは渋い表情は変わらずにあまり気乗りしていないようだ。
「言いたい事は分かったワ。
で・も・ね! こっちのメリットが、ナッシングじゃない。
一方だけ、美味しい蜜を味わうなんてズルすぎデショ」
『それでしたら、こういうのは如何でしょうか?』
「…なによ?」
『今回の件を承諾してくださるなら、見返りとして…
こちら側が入手できる異世界関連の情報をいくつか提供しましょう』
リエからの提案に、グレルは「なんですって!」と仰天した。
『お困りでしょう?
近年、この世界に出始めている【外側】絡みの問題に…』
「…魅惑的な報酬ネ。その言葉に偽りはない?」
『はい。話し合いの席は後日で…招待状を送ります』
リエがYESと即答するや、グレルは先程とは打って変わり、
「んふv」と上機嫌に口角を吊り上げた。
「交渉成立♪ 柔軟な発想ができるのが優秀な死神なのヨ」
『お気遣い痛み入ります』
傍らで話を聞いていたアンジェリーナは、内心安堵の息を漏らした。
説得時の会話に不穏な内容が紛れていたのが気にかかるが、それよりもやるべき事がある。
『それでは、アンさん…準備はいいですか?』
「ええ、大丈夫」
アンジェリーナは聞こえてくるリエの声に頷くと、鍵の剣を再び両手で構えた。
剣先に真っ白な光が集まっていく。
「てめぇ…何する気だ…!?」
騒ぎ立てる切り裂きジャックを、アンジェリーナは射るように見つめる。
「さぁ…悪い部分を取り除くための手術(オペ)の時間よ」
「や、やめろ…やめろォオオオ!!」
アンジェリーナの呟きと切り裂きジャックの悲鳴が重なる。
その直後、剣先から真っ直ぐに光が放たれ、切り裂きジャックの胸に命中した。
同時に、彼の身体全体を眩い光が包み込んでいき、次第に辺り一面を覆い尽くしていった。
「待っててね…ジェームズ」
【契約者の術披露と、謎の人物との遭遇】
「誤算だった。あれほどの力を発揮できるとは…」
建物の屋根から、一連の戦いを眺めていた人物がいた。
黒いコートを身に纏う銀髪の青年…ゼアノートは舌打ちしそうになる。
数年前に見つけ出した分裂した精神の主。
言葉巧みに唆した結果、心に闇を増幅させていく事に成功した。
だが、本来の主である男ともう一人の殺人鬼は思いの外、精神は脆かったようだ。
(『器』の候補にはならないが、このまま離脱させるのは早いか…)
ゼアノートは手を翳して、戦っている最中の切り裂きジャックに力を与えようとした。
シュッ、ガッ!
視界に銀に光る何かを捉え、ゼアノートは一歩後退する。
屋根に突き刺さったのは…東方の国にある苦無に似ている…暗器だ。
「感心しないな」
「…誰だ?」
ゼアノートの目に映ったのは、己とは異なる黒装束に身を包んだ人物だった。
「夜の町を散歩中の庶民だよ」
「随分と…目立つ服装の庶民だな」
「そんな事はどうでもいいさ。
それよりも、第三者が戦いにちょっかいをかけるなんて…
野暮な真似はしない方がいい」
余計な事はするな、と黒装束の男は忠告してきた。
「邪魔をするなら、消えてもらおうか」
ゼアノートは冷笑すると、手元から凝縮させた闇の力を男に向けて放った。
バシュッ!
「…なに?」
「問答無用に魔法を放つか…過激だねぇ」
黒装束の男は、面白そうな口調でそう感想を口にする。
左手に持つ…闇の力を切り捨てた…その剣を目にしたゼアノートは大きく目を見開いた。
「キーブレード…使いだと」
その男が所持している鍵の剣…間違いなくキーブレードであった。
混乱するゼアノートをよそに、男は被っているフードから見える口元に綺麗な弧を描いた。
「予定外だが、身体を動かすにはちょうどいい。
一試合しようじゃないか、【外側】からの侵入者さん」
【つづく】