探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(2)の続きとなります。
原作の1巻では、携帯電話がさらりと登場しているので…マダム・レッドも所持している設定にしています。  
  


The trap after a tea party(3)

 

「あの…皆さん、大丈夫ですか?」

 

フィリアは、思わず部屋の外へ出て声をかけずにはいられなかった。

寸胴鍋とおたまを交互に持ち、ネズミにシチューをぶっかけようとしているバルド。

しかし、ネズミには当たらずに綺麗なカーペットはところどころ変色している。

 

自らも猫の衣装をきて、ネズミを追いかけるも逆に集めてきた猫達にかまれているフィニ。

折角、設置したネズミホイホイに逆に自分が捕まってしまったメイリン。

そして…ネズミを虫とり網でのほほんとおいかけるタナカさん。

 

「おう、嬢ちゃん! すまねえが、今オレ達は見てたら分かるだろーが、取り込み中だ!」

「ギャー! かまないでぇええ!!」

「足にネズミホイホイがぁ―――! 助けてですだぁ~!」

「ほほほっ~」

 

「…はい。大変そうですね」

 

「悪いが、この戦に巻き込まれたくなけりゃ部屋で大人しくしてな!

あっ、ごらっ待ちやがれェ!」

 

ちょろちょろと素早いネズミに、四人(約一名楽しそう)は悪戦苦闘しているようだ。

 

 

♪♪♪~ ♪♪♪~

 

 

そんな彼等を少し後方から眺めているフィリアは…ハミングをし始めた。

 

「へっ…」「あれっ?」

「はい?」「ほほほっ」

 

すばしっこく逃げていたネズミ達が、ぞろぞろとバルド達の足元をかいくぐり、

一斉にある方向へ駆けていく。

そう…ハミングしているフィリアのもとへ。

 

 

「ふんふんふーん♪ ふんふんふーん~♪」

 

ちゅー ちゅちゅ? ちゅちゅちゅー!

 

 

フィリアの足元にぞろぞろと輪を囲む形で集まるネズミ達。

 

「すごーい! ネズミ達が、お客様の歌聞いてるよ~!」

「あんなにたくさん…今なら捕まえられますだ!」

 

フィニとメイリンがそろ~とネズミ達のもとへ近づこうとするが、「いや、待て…」と

バルドが制止する。

 

「今一歩踏み出すと、あいつらこっちに気付いてまた逃げちまうぞ」

「じゃあどうするだか?」

 

バルドの目がフィリアに向かう…すると、彼女は視線に気付いたようだ。

ぱちぱちと数回瞬きして、アイコンタクトしてきた。

 

「…あの嬢ちゃんに任せてみるか」

 

バルドの言葉で、四人は様子見する事にした。

 

「ふんふんふーん♪ ふんふふふーん♪」

 

フィリアはにこっと微笑むとそのままハミングしながら、歩いて移動する。

つられるようにネズミ達も、ちょこちょこと彼女の後を追っていく。

窓が開いたバルコニーへやってくると、屈んでネズミ達にこう言った。

 

 

「さぁ、お帰りなさい」

 

ちゅー、ちゅちゅ~、ちゅちゅちゅー!

 

 

フィリアの言葉に、「YES!」と言うように、ネズミ達は一列ずつ並ぶと二階の壁を

つたって、外へでていった。

その光景を壁に隠れてみていた四人は、おおっ~! と歓喜する。

 

「嬢ちゃん、やるなぁー!」

「あのネズミ達を歌で追い出すだなんて…!」

「すごいです! どーやったらそんな事できるんですか?」

 

「ふふふっ…ちょっとしたネズミよけの歌を創作しただけですよ」

「創作…って今作ったのかよ!?」

「どんなマジックですだか!?」

「その歌教えてくださーい♪」

 

バルド、メイリン、フィニが、フィリアに次々と質問攻めをしていると…

 

「まったく…何してるんですか。あなた方は」

 

タイミングを待っていたかの如く、後方から別の声がした。

ぎくっと三人が一斉に振り返ると…

 

「お客様になんて事をさせているんですか…」

 

そこには、愛想よく笑っているもののこめかみに青筋を立てている執事の姿があった。

 

「「「あっ(げっ)! セバスチャン(さん)」」」

「あらっ…先程の執事さん」

 

次の瞬間、廊下の一部で雷が鳴り響いた。

 

 

 

10分後…廊下の隅で正座している四人(タナカさんはお茶を飲んでいる)をよそに、

セバスチャンは恭しく頭を下げた。

 

「フィリア様、大変申し訳ございません。

使用人達が騒がしい上に、あろうことか大事なお客様にネズミ退治をさせるなど…

なんとお詫び申し上げたら…」

 

「いいえ、ただ…私も手伝いたかっただけですから」

 

フィリアは苦笑して、気にしないでくださいと言う。

 

「ああ、寛大なお言葉を頂けるとは…恐縮でございます。

―――バルド、いつ動いていいと言いましたか?」

 

足が痺れて態勢を変えようとしたバルドに、セバスチャンは間髪いれず静かに怒を孕んだ口調で指摘する。バルドは慌てて、背を伸ばして再び正座する。

 

「あなた方の声は、特別ルームのお客様にまで筒抜けでした。

何度も言ってますが、“密やか”にできないのですか?」

 

上司の気迫のこもった笑みに、バルド達は顔色を蒼白にして、ガクブルする。

 

「おい、セバスチャン!」

 

説教を続けようとしたら…主であるシエルがそれを妨げた。

 

「坊ちゃん」

「説教は後にしてやれ。それよりも、今夜ランドル卿の屋敷へ馬車を迎えに出せ」

「馬車を?」

「今夜は《夜会》を開く」

 

その意味を理解したセバスチャンはニコリと笑い、「かしこまりました」と言った。

 

「では、場所の手配を済ませましたら、お部屋にアフターヌーンティをご用意いたします。

それから、坊ちゃん…こちらの方がマダム・エルベットです」

 

「フィリア・エルベットと申します。

ファントムハイヴ伯爵様、本日はご多忙の中、お時間を割いてくださりありがとうございます」

 

「いや…マダム・レッドの頼みです。

僕としても困っている方々のお役に立ちたいのでね。話は僕の書斎で行いましょう」

 

シエルは愛想よく笑いそう言葉を返した。

 

「後ほど、お茶菓子をお持ちいたします。

本日のお茶菓子は『リンゴとレーズンのディープパイ』をご用意しております。

焼きたてをお持ちしますので、少々お待ちください」

 

「ああ」

「すみません、伯爵…マダム・レッドはどちらに?」

 

「あの人は、急用が入り一旦お帰りになりました。

また、こちらに戻ってきますよ。こちらです」

 

シエルが、フィリアを自室へ連れて行った。

二人を見届けると、セバスチャンは「さて…」と正座している四人に視線を戻す。

 

「さ、貴方達も仕事なさい。

今後、ネズミ退治は騒がしくしないようにお願いします。返事は?」

 

「ふ ぁ い……」

 

バルド、フィニ、メイリンはげんなりした雰囲気で返事した。

ちなみに、彼等のやりとりの背後で、タナカさんがほほほっと穏やかに笑って、虫取り網で残っていたネズミ数匹とっていた事に…全然、誰も気づいていなかった。

 

 

書斎に入っても、相変わらず使用人達の騒がしい声が響く。

 

「賑やかな方々ですね」

 

フィリアがクスッと笑って感想を言うと、シエルはハァ…と溜息を漏らす。

 

「いえ、お恥ずかしい限りです。あの者達は少々平和すぎて…」

 

シエルが振り返り、弁解しようとしたその時、フィリアの背後から何者かが忍び寄り、彼女の頭に銃を突きつけた。

 

「きゃっ…」

「おっと。ファントムハイヴ伯爵…此処で叫ぶと、このお嬢さんの頭に穴があくぜ」

「……何者だ……うっ…」

「あんたに名乗る程のもんでもねえよ」

 

シエルも背後から口元に布をあてがわれた。

睡眠薬がしみこまされていたため、抵抗しようするが、すぐに意識を失ってしまった。

 

『よし…連れてくぞ』

『その女は?』

『捕獲対象だとよ。“あの人”の命令だ』

 

『時期がきたら売るのか、上物なのにもったいねえな~。一回ぐらいは…』

『おこぼれ預かれる立場じゃねえだろ…それにいい女はどーせ、【あの人】が独占するんだ』

『くっそ、うらやましいぜぇ…』

 

英語とは違う言語で喋る侵入者二人。

凶器を突き付けられ、為す術のないフィリア。

 

しかし…彼女は恐れ怯えるどころか、静かに大人しくしていた、いやあまりにも冷静だ。

そんな態度を不審に思う事無く、侵入者の男達は意識を失ったシエルとフィリアを抱えて開いた窓から脱出し、連れ去った。

 

 

 

【The trap after a tea party】

 

 

 

一方、ファントムハイブ家を離れたマダム・レッドは馬車に乗って、あるところへ向かっていた。後方にはもう数台の馬車が走っている…その中にはまだ誰も乗っていない。

 

「もしもし、ロンドン警察(スコットランドヤード)ですか?

私…アンジェリーナ・バーネットと申します。

ええ、はい。そうです…すみませんけど、ランドル卿をお願いできます?」

 

馬車の中で、電話をするマダム・レッド。

 

 

「御機嫌よう、ランドル卿。実はお話ししたい事があって

…とっておきの《ネタ》がありますの」

 

 

 

 

【つづく】

  

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