デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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原作再構成物でオリジナルキャラが一人だけ存在します。それでもよろしい方はお進み下さい


狂三フェイト
プロローグ『運命』


 

 時間。それは取り戻せない、決して変えることの出来ない筈の世界の摂理。過ぎた時が戻らぬのは必然であり、それを否定するは神に逆らう行為である。

 

――――これは、そんな神に抗おうとする少女(ヒロイン)と、それを救わんとする少年(主人公)の物語。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「本当にこの街にいるんですの?」

 

 トントン、とリズムに乗るように靴音を鳴らしふわりふわりと揺れながら少女が問いかける。ビルや住宅街が光を放つ宵闇の中でも美しく……いや、妖艶と言える赤と黒のドレスを纏う少女。

 

「――――精霊を封印出来る、なんてお方が」

 

 そうして振り向いた少女の瞳は可憐な紅玉と数字と針が存在する時計その物のそれで、言葉を投げかけた相手を映し出した。

 

「えぇ、確かにこの地に存在しますよ……〝彼〟はね」

 

 白。ドレスの少女を黒とするならば少女に答えた者の姿はまさにそうとしか表現出来ぬ程に純白だった。ドレスの少女と違い、顔までローブに包まれた者を判別できるのは女性の声、と辛うじて分かる程度の物。

 しかしドレスの少女はそんな彼女の姿を気にすることなく言葉を紡ぐ。

 

「それは結構なことですわ。わたくしの〝悲願〟もようやく果たせる日が近づく、と言うものですわ」

 

「まぁ今はほとんど精霊も封印されていないでしょうけどね。空っぽの器というやつです」

 

「……わたくしをおちょくっているというのなら、その喧嘩喜んで買わせていただきますわぁ」

 

 いつの間にか手にしていた古風な銃を片手に掲げ、ニッコリ、と微笑む少女。だが額に青筋が見えるような気がしてくる辺り確実に笑っていない。

 

「いやですねぇ、私は精霊を封印出来る人間がいる、とは言いましたけどもう既に精霊が封印されているー、なんて一言も言っていませんよ?」

 

「……はぁ、もう良いですわ。相変わらず口達者なお方ですけど、あまり出鼻をくじくような事をおっしゃらないでくださいまし」

 

 全く、と手にしていた銃を手品のように消し去りながら呆れ顔で嘆息するドレスの少女に、ローブの少女はイタズラが成功した子供のようにクスクスと笑った。

 

「ふふっ、ですけどそう遠いお話ではないと思いますよ。だからこそ、貴方をこの地に案内したのですから――――狂三」

 

「えぇ……えぇ!! えぇ!!」

 

 ドレスの――――狂三と呼ばれた少女が歓喜の声を上げ、そして笑う。それは“悲願”を果たす喜びか、それとも――――

 

 

「きひ、きひひひひひひひひ!! そうでなくては困りますわぁ!!」

 

 

――――文字通りの、狂うような悲しみか。

 

「何があってもわたくしは辿り着きますわ、必ず!!」

 

「では、改めて始めるとしましょう」

 

 並び立つ、地を見下ろす黒と白の少女。見せつけるように、物語の鐘を鳴らすように、少女は言葉を紡いだ。

 

 

「貴女の〝悲願〟と……私の〝計画〟を」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 四月三日。春というか季節に違いなく暖かな空気と風は平和そのものと言える。当然それは人間として正常な眠気を誘うものであり、極めて健全健康な高校生、五河士道もその例外ではなかった。

 

「あー……眠い」

 

 人通りが多いとは言えない歩道を歩きながら、気だるさを隠すことも無く大あくび。共に歩く人がいるなら呆れ返るところだろうが、悲しいかな、彼は1人寂しくこの慣れた土地、天宮市を歩いていた。

 

「急に仕事の予定が前倒しになるとか、流石にブラック過ぎないか……?」

 

 その理由は単純明快。両親の急な不在による家事全般、ひいては人間の3大欲求の1つ食欲を満たすための買い出しであった。

 大手のエレクトロニクス企業に勤める両親はかなりの頻度で家を空けるため、食事に限らず家の家事は士道が担当する事が多い。

 

 ちなみに春休みという事もあり彼女いない歴=年齢の士道は、本来ならまだ睡眠を貪っている時間帯だったりするのだが、愛すべき妹によるスクリュードライバー(全身)により容赦のない覚醒を余儀なくされたのだった。

 

「たく、琴里のやつ年々技のバリエーション増えていってやがる――ん?」

 

 人通りが少ないということもあり独り言をこぼす士道の視界にひらり、と花弁が舞い落ちる。

 

「桜……もう満開って感じだな」

 

 開いた手の上にゆっくりと、しかし何枚も落ちる桜の花。掃除が大変そうだなぁ、と風情のないことを思いながらも士道はふと思いつく。

 

「まぁ急ぐ時間でもないし、少し見ていくか」

 

 気まぐれ。ただの時間潰し以外の理由はなかった。昼までに時間は有り余っているから、本当にただの思いつきの散歩だ。

 

 それが、その気まぐれの選択が、彼の運命を大きく狂わせる出会いが待っているとも知らずに、五河士道はその運命へ足を踏み入れてしまった。

 

 

 

「――――――――――ぁ」

 

 言葉が出なかった。否、ならなかったというのが正しい。

 そこにいたのは人でなかった。否、人とは思えぬほどに、美しかった。

 

 無論、咲き誇る桜の事などではない。もはや五河士道の目には、桜など映っておらず、ただそこに佇む少女しか映し出していなかった。

 

「――――――」

 

 絶句。彼が生きてきた中でこの衝撃に勝るものは無い。そう断言出来る程に、その少女は恐ろしい程に、美しかった。

 

 2つに結ばれた射干玉の髪、長い髪に隠された左目、黒いブラウスにスカート。

 黒。その色で統一されたそれは喪服を思い出させかねないが、艶やかな色の白い肌が暴力的な、それでいて清楚とすら思わせる組み合わせ。

 

 そんな言葉を並べても、最大級の賛辞すら遠く及ばぬ程に、絵に書いた絶世の美女より、五河士道の目には、目の前の少女が美しく見えてしまった。

 

「あら……」

 

 永遠とも呼べる時間を過ごしたとも思える士道だったが、佇んでいた少女が言葉を発した事ではっ、と動き出す。とはいえ、止まっていた思考が動いただけであって未だに体は衝撃から帰って来ないのだが。

 

「――――ごきげんよう」

 

 にこり。標準的な社交辞令なのだろう笑顔での挨拶。だが士道にはそれすら美しく……

 

「あっ、その……えー……お、おはこんばんにちは?」

 

··········沈黙。客観的に見て意味不明な挨拶を返してしまった。本当に時が止まってしまったような沈黙が数秒に渡って続いた。

 

(·····終わった。なんだかよく分からねぇ間に何が終わった)

 

「――――ふふっ、うふふふ。面白い挨拶をなさるのですね」

 

「えっ、あー……すいません、今のなしでお願いします!!」

 

「ふふふっ、なんですのそれ。おかしくて笑ってしまいますわぁ」

 

 士道の中で何かが終わりかけたようだが、唐突に少女が先程とは違った笑みをこぼし、更に士道が苦し紛れに頭を下げた謎の謝罪によって口元を抑え笑う少女。

 その仕草にすらドキッと胸が高鳴るのは、一体なんなのか。何かの病気なのかと思考したのは一瞬。

 

「こんにちは……俺は、五河士道って言うんだ」

 

 なに変な笑いを取った挙句、いきなり自己紹介をしているのか。それもただ偶然出会って見惚れた少女に対して。とか色々思い浮かんだが、沸騰した思考の中に浮かんでは消えていく。つまり、出会って数十秒でやけっぱちである。

 

「あら、あらあら、これはご丁寧に」

 

 そんな士道の面白おかしい言動が功を奏したのは、はたまた少女の気まぐれか。

 

 少女はスカートの裾をつまみ上げ、誰が見ても見惚れるほど優雅に礼をし、その名を口にする。

 

 五河士道のこれから始まる運命の日々。その最初に出会った少女の、絶対に忘れられぬその名を。

 

「わたくし――――時崎狂三と申しますわ」

 

 





四糸乃編までは書き溜めが進んだのでそこまでは順次投稿。それ以降は不定期になります。ちなみにこの小説のコンセプトはきょうぞうちゃんかわいいやったー頑張れ士道くん、です。勿論原作ヒロインも蔑ろにするつもりは一切ありませんので完結目指して細々と頑張って行こうと思います

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