デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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終末の鐘は鳴り続ける。止める術は、果たしてあるのか




第百二話『VS〈救世魔王〉』

 

『え……?』

 

 折紙の意識が目覚めた(・・・・)時、彼女の前に広がったのは果てしない真っ白な空間だった。立っているのか、浮いているのか、それすらも曖昧な場所。

 地平の彼方、というものがあるのなら、この地平に果てなどない。そんな空間に折紙はいた。

 

『なに、ここ……』

 

 確かに折紙は、ほんの少し前まで士道と共にいたはずだ。ああ、そうだ。彼の目――――――時を数える羅針盤(・・・・・・・・)。それを見た瞬間、いつものように意識が遠退いていった。それがいつも通りなら、時間が経てば意識を取り戻すはずだった……だが、今折紙はこのような奇妙な空間で目を覚ました。

 夢にしては酷く現実的で、けれど現実からはかけ離れていて。それより、士道の目があのようなものになっていたことが気になった。目の錯覚と普段の折紙なら判断する。一瞬だけ自身の頭が何かを誤認し、貧血によって意識を失ってしまったのだ、と。

 

『……え?』

 

 しかし、折紙は知っている(・・・・・)。目の前に現れた、虚ろな瞳の『折紙』はそれを知っている。その羅針盤を一度は確実に目にしたことがあった彼女なら。

 

 

『――――――!!』

 

『――ぁ――――――』

 

 

 時の渦巻きは、交わらざりし平行する双極を巻き込み螺旋する。

 

 無くしたはずの世界(折紙)と、新たに生まれた世界(折紙)が、混ざり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 如何に強力な攻撃といえど、当たらなければ意味がない。〈救世魔王(サタン)〉から生まれる羽は破壊の意志を持つ飛翔体。煌めく光は、威力だけでなく速度もあり回避は困難だ。

 

「かか!! 我らは風に愛されし颶風の御子!!」

 

「呼応。追いつける者はこの世界に存在しません」

 

 だがそれは、並の速度に常識を当て嵌めればの話。風を司る八舞姉妹には、放たれる光線など掠りもしない。空という空間範囲を活かし、追う羽を縦横無尽に回避していく。

 加えて、囮となった二人をフォローするように無数の『狂三』と〈アンノウン〉が羽を迎撃し始めた。

 

「五河士道、鳶一折紙を!!」

 

 こくりと頷いた士道は、真っ直ぐに折紙を見据える。空と羽の大半は彼女たちに託す。士道はただ、ひたすらに折紙の元へ駆け抜けることを考える。

 

「頼む、みんな!!」

 

 そのために、全員の力を借りる。士道の声に答えて、まずは美九――――――そして、七罪が彼女と全く同じ天使(・・・・・・)を発現させた。

 

 

「〈破軍歌姫(ガブリエル)〉――――【輪舞曲(ロンド)】!!」

 

「〈破軍歌姫(ガブリエル)〉――――【行進曲(マーチ)】!!」

 

 

 美九の歌が、〈世界樹の葉(ユグド・フォリウム)〉の拘束があってなお、飛び立とうとする折紙を更に抑える戒めの楽曲。

 七罪の歌が、士道たちを勇気づける勇猛果敢な曲調の応援歌となった。

 

 〈贋造魔女(ハニエル)〉・【千変万化鏡(カリドスクーペ)】。万物に変化する天使の最大変化。他の天使に化けられる(・・・・・)七罪の切り札に、美九が頬を膨らませて不満と驚きを顕にした。

 

「あーん!! 七罪ちゃんたら真似っ子ですー!!」

 

「ふふ、いいじゃないの。これも士道くんのため、よ」

 

「ぶー。あとでちゃーんと著作権使用料払って貰いますよー。アイドルは権利関係厳しいんですからー」

 

 自らの天使を再現されたのが悔しいのか、音楽家としてのプライドがあるのか。何にせよ、美九の力を攻防一体で活かせるのはこの状況において最高の助けだ。

 

「あら、あら。皆様、便利な〝天使〟をお持ちですこと」

 

「お前がそれを言うのかよ……」

 

 微笑んでそう言う狂三に、士道は呆れ気味に言葉を返してやった。便利さで言ってしまえば、狂三ほど特化した天使もそうない――――――のは、本人が一番よくわかっているのか。狂三がニィっと怪しげに笑みを歪めた。

 

「ですから、わたくしも負けていられないという話ですわ――――――〈刻々帝(ザフキエル)〉、【二の弾(ベート)】!!」

 

 その可憐で優雅な仮面の下には、確固たるプライドがある。不規則な動きで駆け回る漆黒の羽に、狂三が百発百中の精度で銃弾を次々と命中させていく。当てられた複数の羽は、他の羽に比べて動きが酷く緩慢なものとなる。

 対象の時間の流れを歪め、遅延する【二の弾(ベート)】。重ねるように、狂三が彼女の名を呼んだ。

 

「十香さん」

 

「任せろッ!!」

 

 士道の視界を覆い尽くすほどの光の軌跡。士道たちを狙っていた羽が、一気に後方へと吹き飛ばされる。

 〈刻々帝(ザフキエル)〉による支援と、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉による破壊力。相対する力は、ひとたび組み合わさればこれ以上ない相性の良さが生まれる。以前にも行われたコンビネーションだが、その精度に寸分の衰えも見られない。

 しかし、霊力を限定的な解放に留めている〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の力では羽を砕くことはできない。再度、羽が狙いを定め始めると、狂三と十香がそこへ立ち塞がった。

 

「あの羽は、私たちに任せろ」

 

「四糸乃さん……士道さんをお願いいたしますわ」

 

「は、はい……っ!!」

 

 声を返した四糸乃は、〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の前方に冷気を纏わせ、それを強固な盾のように展開した。

 

「士道さん、行きましょう!! 私の後ろにいてください……!!」

 

「あ、ああ!!」

 

 盾となった〈氷結傀儡(ザドキエル)〉を四糸乃が操り、その進行の影に守られる形で士道も折紙への道を進んでいく。が、力強い進軍もものの数秒で止められてしまう。

 

「う……、っうう――――っ」

 

『うぐぉぉぉ!! かったいねこりゃー!!』

 

 空間を歪ませ顕現した新たな羽が、〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の進軍を押し留める。攻撃ではなく、防御の構え(・・・・・)。集った羽が、新たな霊力障壁を生み出して力で押し通ろうとする〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の足を封じているのだ。これでは、攻撃を凌ぐことができても、防御の形を崩すことができない。

 

 

「四糸乃、よしのん!! 大丈夫か!!」

 

「四糸乃さん、今――――――」

 

「――――大丈夫、です……!!」

 

 

 こちらに援護を行おうとした狂三が、四糸乃の返答を聞いて目を見開く。声は苦しさを隠せていない――――――けれど、その視線は、その声色は、二人が出会った頃の四糸乃のものではない。誰より人を思いやることができて、それを表へと強く出せるようになった、強い少女のものだ。

 

 

「私は……弱虫で、泣き虫だけど……士道さんを、あの人のところに、届けるために――――――壁を打ち破る、力を」

 

 

 両手を大きく広げた四糸乃の手から、マリオネットを操るような糸がキラキラと輝きを放ち、それが〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の本体をも大きく光を放つ。

 

 

「〈氷結傀儡(ザドキエル)〉――――【凍鎧(シリヨン)】……っ!!」

 

 

 霊力の光が収束し、四糸乃の身体を光で包み込む。まるで、霊装を纏う瞬間の輝きのようなそれに、士道は驚きで声を発した。

 

「四糸乃……!?」

 

「っ、これは――――天使の、変性(・・)

 

 士道だけでなく狂三も声に驚きを乗せ四糸乃を見ている。

 

 本来ありえないものを、水晶が映した心が輝きを放ち――――――進化させる。

 

「――――はい、士道さん」

 

 強い意思を感じさせる四糸乃の声と共に、光が弾ける。変貌した彼女の姿が、隠された光から解き放たれ士道の眼前に現れた。

 

「鎧……?」

 

 氷の鎧。まるで〈氷結傀儡(ザドキエル)〉という天使そのものを身に纏い、表現しているかのような鎧。それが四糸乃の姿を変化させ、彼女の意思を貫き通す力として顕現した。

 

「ん……っ――――ああああああああ……っ!!」

 

 突き出した両手を組み合わせ、氷結の使徒を纏う四糸乃が冷気を召喚する。そこへ捻りを加え、正面にドリルのような錐を生み出し、霊力の壁を破壊する道を一気に切り開いた。

 

「士道さん……今です……っ!!」

 

「あ――――ああっ!!」

 

 未だ凍土の影響で冷気が残る道を駆け抜け、遂に士道は折紙の元へ辿り着く。

 

「折紙ッ!!」

 

 〈世界樹の葉(ユグド・フォリウム)〉と美九の【輪舞曲(ロンド)】の影響で、折紙は飛び立つことなく地上に留まっている。否、そうではない。今の折紙は、本能的にこの拘束に抗っているだけだ。でなければ、この二つの力をもってしても抑えることなどできない。かつて、反転した十香の力がそれほどのものだったのと同じだ。

 

「折紙ッ!! 心を開いてくれ、折紙ッ!!」

 

 絶望に染まった虚ろな瞳。前の世界と同じものだ。士道の言葉だけでは届かない――――――だが、今は違う。

 もう一人の折紙が干渉を与え封印を遮っているのなら、逆もまた然り。こちらの世界の折紙ももう一人の折紙へ影響を与えているはずだ。

 

 どちらも、鳶一折紙という少女なのだから。士道はそれを信じて呼びかけ続けた。

 

「折紙――――ぐぁっ!?」

 

「士道さん!!」

 

 だが、届かない(・・・・)。その壁の厚さを事象にするかのように――――――或いは、士道を拒絶するかのように霊力の塊が士道の身体を吹き飛ばす。地面に叩きつけられるすんでのところで、素早く士道と地面の間に身体を滑り込ませた狂三の手で助けられる。

 

 もう一度、と顔を上げた士道は――――――

 

「な――――――」

 

 深淵の絶望に、己が目を疑った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 折紙は『折紙』であり、『折紙』は折紙である。時崎狂三の分身体とはまた違う、もう一人の自分。

 

 違う世界を歩んだもう一人の私。

 

 絶望と、救い。地平の彼方で交わらざりし闇と光が、今この瞬間だけは相対することを許される。いいや、混ざり合うことを許される。

 五河士道。彼という存在を繋ぎ目として、折紙と『折紙』は世界を統合した。

 

 折紙は、絶望した現実を。

 

 『折紙』は、希望と優しさに満ちた両親の記憶を。

 

 折紙が殻に閉じこもる『折紙』に対して、成すべきことは一つだけ――――――その殻から、もう一人の自分を繋ぎ止めること。

 

『私は五年前、お父さんと、お母さんを――――――』

 

『この世界ではそんなこと起きてない!! 五河君のお兄さんが……ううん、五河君が助けてくれた……!!』

 

 精霊としての知識を共有し、記憶そのものを融合させた今の折紙ならわかる。あの時、両親を助けてくれたのは〈ナイトメア〉・時崎狂三の力を借りて時間遡行を行った士道その人なのだと。

 彼が希望を照らしてくれた。両親と過ごす、以前の世界にはなかった一年という優しく大切な時間を……士道が命をかけて生み出すきっかけを作ってくれたのだ。この記憶があるから今の折紙がいる。この記憶があるから、鳶一折紙は希望をもって、前を見て生きていられる――――――同時に。

 

 

『だったら、この記憶は何? 私の中にあるこの記憶を――――――二人を殺したことを、〝なかったこと〟にできるというの?』

 

『ぅ……ぁ……、あ……』

 

『私はあなた。あなたは私。世界が創り変えられても、記憶は消えない』

 

 

 過去の現実が、主観としての記憶として再現される。折紙は『折紙』で、『折紙』は折紙。当然の結実だ。

 炎に消える街。折紙の攻撃でできたクレーター。折紙が殺した両親(・・・・・・・・)。歴史は書き換えられ、〝なかったこと〟になる――――――だが、記憶はそうではない。両親を殺した精霊という折紙の記憶は、大罪は、未来永劫消えることはない。〝なかったこと〟になど、なりはしない。

 それを背負って生きていかねばならない。それを背負って、折紙は罪を償っていかねばならない。けれど……それを成せるだけの糧など、もう鳶一折紙の中に欠片も残ってはいなかった。

 

 だから、消える。闇の中へ。誰の手も届かない深淵へと。

 

 

『私はもうだめなの……だから、あなたも……』

 

『だめ、これじゃあ……いや、……うぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』

 

 

 闇が白を染めて、地平が閉じる。幸せな記憶を、絶望が塗り潰す。起こり得なかった過去ではなく――――――これから起こる、もう一度(・・・・)起こしてしまう凄惨な未来が折紙を襲う。

 差し伸べられる光さえ、深淵を照らす力には足りない。届かない。届きさえすれば、その声は折紙を引き上げるだけの力となる――――――それが今は、途方もなく遠い儚き希望だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 士道が己が目を疑うのは至極当然のことだった。狂三でさえ、声を詰まらせて僅かな動揺を見せているのを感じる。

 それほど、目の前の景色(・・)が圧巻の一言だった。そう、景色(・・)だ。もはや称するのであれば、表現するにはそう在らねばならないほど――――――一〇〇に迫ろうかという漆黒の羽(・・・・・・・・・・・・・・・)が、絶望の権化として空間の歪みから現れてしまった。

 

 濃密な光が一斉に煌めきを放ち、夜闇を深淵に染め上げた。

 

「『わたくしたち』――――!!」

 

「みんな、逃げろ――――――ッ!!」

 

 狂三と士道の叫びは全くの同時――――――漆黒の光線が視界の全てを覆ったのも、同時だった。

 

「【一の弾(アレフ)】――――!!」

 

「ぐ……っ!!」

 

 今までに感じた中でも最大級の加速。狂三は普段、士道を案じて速度を意図的に抑えているが、それでは避けきれないと踏んでの最大加速領域。急な衝撃で身体のどこかをやられたのか、内部から荒れ狂う熱を感じる。今は、そんなものに構っている暇はない。目を開けることすら困難な中、士道は必死に十香たちを探すため眼球運動を試みる。

 

 視界の先の光景を半分以上覆い隠す光線。まず最初に辛うじて確認できたのは八舞姉妹だ。

 

「く――――夕弦ッ!!」

 

「最大。耶倶矢、集中を――――!!」

 

 闇色に染まる空を、神速を活かして回避し続けている。さしもの彼女たちも無傷とはいかない。しかし、限定霊装で防げるギリギリのラインを見極め、掠めていく攻撃を敢えて受け流しながら、この状況において少しでも多くの攻撃を引き付けてくれているようだ。

 

「く、ぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

『ふぁいとだよ四糸乃ー!! 十香ちゃんも一緒にいくよー!!』

 

「無論だ!!」

 

 次に確認できたのは十香、四糸乃、よしのんだ。即席で氷の壁を作り出し、それを次々と重ねがけしていくことで光線を受け流している。十香も霊力の壁を作りそれを支えていた。

 

「……っ」

 

 無事を喜ぶ暇もなく、視界が旋回する。狂三が放たれる光線を避け続ける中、ようやく美九と七罪を見つけた。

 

「美九――――七罪!?」

 

 思わず悲鳴のような声を上げる。美九はまだわかる。【輪舞曲(ロンド)】に使っていた拘束の力を音圧の防壁として、更に『狂三』たちも彼女を守るため霊力障壁を展開し苦しい表情ながらも光線を凌いでいる。

 だが、七罪はそれをしていない(・・・・・・・・)。美九や『狂三』の防壁に守られてこそいるものの、七罪本人が元の演奏の手を止めていない――――――止められないのだと、士道はようやくそのことに気づいた。

 完全な力を振るうことができる狂三はまだしも、他の皆はそうではない。本来の霊力に遠く及ばない限定解放。それを根本から支えているのが、〈贋造魔女(ハニエル)〉によって再現された〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の【行進曲(マーチ)】だ。高揚の加護を失ってしまえば最後、このギリギリの防御網は完全に崩壊する。

 それを七罪はわかっているから、〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の演奏を止めていない。

 

『――――――ッ!!』

 

 恐怖を押し殺した顔で、皆を繋ぎ止めている。大人の姿の七罪と言えど、その恐怖は普通なら耐えきれるものではない。何しろ、一撃一撃が自らを殺す必滅の光が眼前に迫っていても、避ける行動を選ぶことさえできないのだ。美九の音防壁は七罪に届いてこそいるが、全てをカバーし切れはしない。七罪側が、見るからに押し込まれ始めている。

 それでも七罪は、演奏を止めない――――――己が身を顧みず、皆を守るために。

 

「ッ……狂、三!!」

 

「わかっていますわ!! わかって、いますけれど……ッ!!」

 

 近づけない。いや、近づいてはいる。しかし、狂三も数え切れないほどの砲門から狙われ続けている。その中を掻い潜り、七罪の元へ駆けつけるのは至難の業だ。だとしても、七罪を救うために士道は無理を言うしかない。

 

「な……!?」

 

 顔を歪める狂三と士道の視界の端で、魔力光(・・・)が閃光のように駆け抜けた。それが羽の一部分を吹き飛ばし、僅かだが攻撃に穴を作る。驚いてその方向を確かめると――――――

 

「〈フラクシナス〉!?」

 

 巨大な空中艦が、遮る雲を突き抜けその姿を晒していた。だが、見たところ攻撃を受けた箇所の損傷は補修されたわけではない。破損箇所はそのまま、士道たちの危機に再び駆けつけたのだ。

 

「琴、里……そんな状態じゃ……っ」

 

『こっちのことはいいから、早く七罪たちを――――――きゃぁっ!!』

 

「琴里!!」

 

 吹き飛ばされた羽が〈フラクシナス〉を敵性存在と認めたのか、艦体を容易く砕く攻撃を始めた。あれでは長くは持たない。通信がブツリと途切れ、一瞬好転した状況も混迷へと逆戻りしてしまう。

 

「七罪さんッ!!」

 

「七罪ッ!!」

 

 それでも、僅かながら生じた隙をついて狂三が死地をすり抜けて行く。あと数秒あれば、狂三が七罪の元へ到達し得る――――――その数秒が、遅い。

 

「っ――――――」

 

 美九と『狂三』の防壁が、その一部分が崩れる。堅牢な盾を打ち破り、二条の闇色が七罪へと迫る。

 強烈な重圧の中でそれを見た士道は、小さく声を洩らす。狂三では、間に合わない(・・・・・・)。『狂三』たちは咄嗟に身体を滑り込ませようとしている。美九は、悲痛な表情で音圧を飛ばしている。他の精霊たちも、事態には気がついている。

 

 けれど、遅い。それら全てが遅すぎる。七罪を守るには足りない。七罪自身も、思わず目を瞑って殺意の刃に身を硬くすることしかできていない。

 

『――――――ぁ』

 

 声が重なる。声だけでなく、見えるものも重なっていたのかもしれない。

 

 刃が、一条の闇を阻んだ。その衝撃で眩い光を放ち、一瞬だが士道の視界を覆い尽くす。遮る前の一瞬が確かなら、その刃は持ち主がいない(・・・・・・・)。刃は持ち主によって乱雑に投げられ、光線を防ぐ防具の役割を成した。

 

 なら、色のない刀の持ち主は、どこへ消えたのか。答えは、返ってきた視界の中にあった。それを見た時、士道は顔を凍り付かせた。

 

 

「か――――――ぁ……」

 

 

 対極の黒が、穢れのない白い外装を――――――〈アンノウン〉の身体を、一条の光が撃ち貫いた。

 

 

 







別に戦力が増えたからって元より展開が良くなってばかりとは言ってませんよ、私。
〈アンノウン〉は私が考えたキャラなのでどういう扱いしようが自由なのです(無慈悲宣告) まあ好かれるキャラ付けもしてませんしねこの子…狂三全振りという感じのデザイン。構想初期はかなり違ったキャラ付けだったのですがこれはそのうち語ることがあるかもしれません。なんかもう死んだみたいな発言してるなこいつ!!
酷い扱いはするけどこの子を好きになってくれる方がいるならそれは嬉しい作者心。酷い扱いはするけど(大事なことなので)

次回、折紙編クライマックス。世界を変える悲劇の連鎖、その終幕をどうかご覧下さい。感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!

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