デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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のんびりペースで書き進めてますどうもいかです。第十話。お楽しみいただけたら幸いです


第十話『疑念と思惑』

 精霊。臨界に存在する特殊災害指定生命体。

 

 対処法1。武力をもってこれを殲滅。

 

 対処法2。――――デートして、デレさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもーし、おにーちゃん?』

 

「琴里か? 俺だ」

 

 朝のホームルームが終わるなり、士道は脇目も振らず窓際へ移動して携帯を取り出し画面をタップし妹の琴里に繋げる。幸い、向こうも出てくれる時間帯だったのだろう、司令官モードとは違ういつもの〝妹〟のどこか間延びした声が聞こえてくる。

 

『オレオレ詐欺なら間に合ってるぞー。どーしたのこんな時間に。あと十秒早く携帯が鳴ってたら先生に――――』

 

「――――狂三が、精霊だった」

 

『――――――』

 

 琴里の冗談を聞いている余裕もない。直球に用件を伝えると、沈黙の後に聞こえてきたのは布が擦れるような音。恐らく、妹から〝司令官モード〟になるためだろう。士道の予想通り、琴里はさっきとは打って変わった調子で言葉を発した。

 

『……冗談にしては笑えないわね。士道、ついに頭おかしくなったんじゃ――――』

 

「冗談なんかじゃねぇ!!」

 

 琴里が息を呑む様子が電話越しに伝わってきて、士道はハッと我に返る。慌てて後ろを見回すが、幸いにも周囲の生徒たちは皆一様に〝転校生〟に夢中のようであった。

 

「……すまん。急に怒鳴って」

 

『……その様子じゃ、タチの悪い冗談ってわけじゃなさそうね』

 

 ああ、冗談であればどんなに良かった事だろう。今からでも冗談と言って欲しいと士道は願わずにはいられない。〝転校生〟が、五河士道の友人が――――時崎狂三が、精霊だったなんて。

 

「今日うちのクラスに転校生が来て、それが狂三で……狂三が言ったんだ。『わたくし精霊ですのよ』……って」

 

『……どういうこと? 〈フラクシナス〉で確認した時、あの子に精霊の反応は確実になかった筈よ。それなのにどうして……』

 

「分かんねぇ……本当に、訳が分からねぇよ。なんで狂三が精霊なんだ……どうなってんだよ一体……!」

 

 苛立ちを隠さず髪をガリガリと乱雑に髪を毟る。何度も士道と出会って、四糸乃を助けるのを手伝ってくれた狂三が実は精霊でした? これで混乱するなという方が無理な話だ。さっきから、とてもではないが考えがまとまったものでは無い。

 

『落ち着いて士道。とにかく、すぐにこっちで調べてみるわ。今回はかなり特殊なケースになりそうだから、冷静に対処するのよ』

 

「あ、ああ。分かった、頼む琴里」

 

 それじゃあね、と言い琴里からの通話は切れた。これでもし、本当に時崎狂三が精霊だったとしたら……どうする? 精霊を相手にする事は一つに決まっている。だが、正体を隠していた彼女の目的が分からない以上それが通用するのかさえ不明だ。何よりもし、もしもだ、狂三があの少女の言っていた精霊であったとしたら――――

 

「シドー?」

 

「ッ……!」

 

 独特なイントネーションで士道の名を呼ぶのは一人しかいない。慌てて振り向いた先には思った通り十香がいて、何やら彼を心配してか不安そうな表情でこちらを見ていた。

 

「お、おう。どうした十香」

 

「どうしたも何も……シドーの方こそどうしたのだ? 顔色が悪いぞ」

 

「え?」

 

 そ、そうか? と思わず自分の顔をぺたぺた触るが、当然ながらそれで自分の顔色が分かるわけがない。いやそんな事より、十香に心配をかけてしまうほど体調が悪そうに見えてしまったらしい。このせいで十香の精神状態が悪くなったのでは目も当てられない。

 

「大丈夫だ、なんでもねぇよ。ちょっと……考え事を、な」

 

「そうなのか? ……あの狂三とかいう女のことか?」

 

「ッ! あ、ああ。まあな」

 

 突然狂三の話題を投げかけられた動揺のあまり、咄嗟に答えてからハッとなりしまった、と顔を顰める士道。十香は士道が他の女の子と仲良くしているしていると拗ねてしまう、と琴里も言っていたのだから馬鹿正直に答えるのではなく、もっと気の利いた言葉で返答しなければならないのに。

 

 そう思った士道だが、答えを聞いた十香は拗ねた……という感じではなく、何やら複雑そうな表情で何かを考えている、といったように思えた。

 

「なあシドー。狂三はシドーの……〝トモダチ〟なのだな?」

 

「――――そう、だな」

 

 言葉に詰まったのは、今はもうそう断言出来なかったから。友達、確かについ数時間前までなら言えたのに。そして、愕然とする。士道は狂三について……何も、知らなかったのだと。ただ探し物があると言っていた。異様な雰囲気だった狂三を放って置く事が出来ず、頼ってくれと〝約束〟した――――それしか、知らなかった。

 

 

「友達……なんだよ、な……」

 

 

 色んな人に囲まれる狂三を見遣る。笑って愛想を振りまく彼女が――――酷く、遠く見えた。

 

 

 

 

 

『結論から言うわ。時崎狂三は精霊よ。なんの間違いでもなく、ね』

 

「……そうか」

 

 耳に届けられた報告に対して、今度こそ士道は現実を受け入れざるを得なかった。虚偽でも冗談でもなく時崎狂三は精霊……夢なら今すぐ覚めて欲しいと悪あがきを試みるが今の時刻は放課後。夢なら、とっくに覚めている時間である。

 

『あの時どうやって偽装してたのか知らないけど、精霊が相手なら〈ラタトスク〉がするべき事に変わりはないわ。戸惑う気持ちは分かるけど、腹を括ってもらうわよ、士道』

 

「……ああ、分かってる」

 

 放課後になっても考えがまとまった訳では無い。お陰様で授業は殆ど耳に入ってこなかったし、狂三の顔を見る事も出来ず俯いてばかりだった。だが、そうして止まっている事で事態が好転するわけでもなく、時は無情に進み続けるだけだ。

 

 〈ラタトスク〉の使命、そして五河士道が望む精霊の保護の為にも、精霊・時崎狂三と接触しなければならない。

 

『良い返事ね。思ったより落ち着いてるようで良かったわ。空間震警報が鳴ってない以上、ASTも簡単に介入は出来ないでしょう。今のうちに時崎狂三と接触を――――いいえ、向こうから来たわね』

 

「――――士道さん」

 

 ドクン、と心臓が高鳴る。急に落ち着かなくなった心臓を抑えるように手を当て、その聞くだけで蕩けそうな声の主へ向かってゆっくり士道は振り向いた。

 

「……狂三」

 

「はい。お久ぶりですわ……ずっと、お会いしたかったですわ」

 

「っ……ああ、俺も会いたかったぜ」

 

 直視するのは朝以来だが、やはり見間違うものか。その一挙動に至るまで全てが優雅に満ち溢れた仕草。作り物でも果たしてその美しさを再現出来るか分からない顔。こんな状況でなければ、ずっと眺めていたいと思えるその少女は間違いなく、時崎狂三その人だ。

 

 うふふ、と士道の返答を聞き笑う狂三。以前までよく目にしていたそれは、しかしどこか違う(・・)と士道は感じた。

 

「そうでしたの? 士道さん、今日はずっと俯いてばかりでしたので、てっきりわたくしとは顔を合わせたくないのだと思っていましたわ」

 

「それは……」

 

「――――精霊」

 

 その呟きに士道が目を見開くと、また狂三は可笑しそうにクスクス笑う。そうして、今まで見せたことが無い挑戦的な表情で声を発する。

 

「間違いではありませんわ。四糸乃さんや十香さんと同じ……人類に対する絶対的脅威(・・・・・)、それがわたくしですのよ」

 

「どうして……!」

 

 どうして、その先が出てこなかった。言いたいことが、聞きたいことが山程ありすぎて出てきてくれなかった。どうして精霊だと隠していたのか。どうして今この場でそれを明かしたのか。どうして――――士道と関わりを持ったのか。

 

 言葉が詰まった事で二人の間に沈黙が訪れ……ポン、と良い事を思いついたと言わんばかりに狂三が両手を叩いた。

 

「士道さん。わたくし、転校してきたばかりでこの学校の事がよく分かりませんの。ですので、士道さんに案内していただきたいですわ」

 

「は? お前、急に何言って……」

 

「うふふ、早く参りましょう」

 

「お、おい!」

 

 返事をするより前に呆気に取られる士道を置いて、狂三は足取り軽やかに教室から出ていってしまった。更に、潜り抜けた扉からピョコっと顔を出し、早く早くと言わんばかりに手招きまでしている――――正直、凄く可愛い。

 

『ちょっと、何主導権握られた挙句ボサっとしてんのよ。アホ面かましてないでさっさと追いかけなさい』

 

「はっ……だ、誰がアホ面だよ!」

 

『どこからどう見てもアホ面よ。いつも通りこっちから必要な限り支援はするけど、前の察しの良さが本物なら露骨な動きは危険ね。通信の返事は控えた方が良いわ』

 

 確かに、狂三がどこまで知っているか分からないが〈フラクシナス〉からの通信がバレて余計な警戒をされては困る――――彼女の場合、これすら織り込み済みなのかもしれないが。彼女は、あの時共に居た四糸乃の事も〝精霊〟だと知っているのだから。

 

 了解。と通信を返し狂三の後を追う形で廊下に出る。士道を待ってくれていたのか、近くで立ち止まってこちらを見るなりニッコリ笑みを浮かべていた。ただ立っているだけなのに、それだけで絵になるのだから恐れ入る。

 

「たくっ、急に行かないでくれ。ビックリするだろ……案内くらいならいくらでもするけどさ」

 

「ふふっ、申し訳ありませんわ。さあ士道さん、まずはどこへ案内して下さりますの?」

 

「……そうだな。取り敢えず食堂なんかどうだ? 色々と世話になるかもしれないしな」

 

「ええ、士道さんが案内してくださるならどこからでも構いませんわ」

 

 参りましょう。と士道の隣に立ち廊下を歩き始める。……心臓に悪い事をサラッと言ってくれるな、と思いながらも何とか平静を装い狂三の歩幅に合わせる形で歩き出した。

 

 食堂を選んだのは咄嗟に出てきたからだが、無難な選択ね、と琴里からの声も飛んできたので間違ってはいなかったらしい。狂三が初対面だったなら、もう少し攻めた選択肢が〈フラクシナス〉から提示されたのかもしれないが……。

 

 ちらりと隣を歩く狂三に何気なく視線を向ける。すると、士道の視線に気づいた彼女は微笑みをこぼす。そう、何度見ても慣れることがないいつもの(・・・・)笑顔だった。

 

「どうかなさいまして?」

 

「っ、いや、なんでもない……」

 

「うふふ、おかしな士道さん」

 

「…………」

 

 クスクスと口元に手をやり笑うその仕草も、ああやはりいつもの時崎狂三だ。ここだけ見ていれば感じた違和感(・・・)だって無視する事が出来ただろう。自分を映す紅の瞳も、触れれば折れてしまうんじゃないかと思える白い腕も、隣から香るその独特な芳香すら否応なしに士道の心を揺さぶる。

 

 ああ、時崎狂三がここにいるのだと。こんな状況でも感情が高ぶってしまい――――

 

「……っ!」

 

 落ち着け、いつものようではダメだ。なまじ何度も狂三と会い、その全てに見惚れて(・・・・)しまうのだから厄介極まりない。これではやっている事が逆ではないか。

 

「士道さん?」

 

 冷静になれ。彼女はどこまで知っている? 彼女はどこまで知っていて自分と関わりあっていた?

 

「士道さん、どうかなされましたの?」

 

 〝精霊〟というワードを使い、自分を試すように挑発している。士道が何をしようとしているのか、それも知っているのだろうか……あの少女(・・・・)と同じように。

 

「……しーどーうーさーん?」

 

 考えれば考えるほど疑念が湧いてしまう。疑っているようで気分が悪い。しかし、四糸乃の事も知っていたのだとしても、あの時(・・・)見せていた表情が嘘だとは士道にはむにゅ。

 

 ………………むにゅ?

 

 なんだろうこの感触は。なんかシリアスな感じで物思いに耽っていたのを全て吹き飛ばす素晴らしい感触。これこそ人類の宝と言える男としてこれ以上の幸せがあるだろうかいや無い断じて無いと断言してしまえそうなこの天上の柔らかさを感じる先は、士道の腕。

 

 具体的には、狂三が抱きしめる形でしがみついている腕からの感覚である。

 

「――――――――狂三サン!? 一体何をしていらっしゃるのでございましょうか!?」

 

 動揺のあまり若干カタコトになっている。こんな形で狂三とボディタッチしているのだ、むしろ喋れただけ凄いと思った。

 

「……わ、わたくしが呼んでも士道さんが反応なさらないのが悪いのですわ」

 

 さっきまでの超然とした雰囲気とは打って変わって、本当に照れくさそうに……少し拗ねた表情で士道の腕にしがみつく狂三。

 

 あーヤバい。それはヤバいってヤバいヤバい。その表情はズルいだろ具体的に言えば士道の脳内狂三フォルダに永久保存されるヤバさだ。天使とかそんなあまっちょろい表現ではこの可愛さは表せないな時崎狂三サイコーありがとう狂三フォーエバーくる――――

 

『ちょっと士道! あなたが攻略されてどうするのよ!! しっかりしなさい!!』

 

「はっ! す、すまん狂三!!」

 

 琴里からの罵倒もとい叱責によって現実世界へ帰還した士道は、何とか狂三の抱擁から腕を脱出させ少し距離を取って体勢を立て直す。……腕を引き抜く時に感じたふくよかな物に名残惜しさを感じてしまったのは、末代まで秘密にしなければと心に誓う。

 

『ああ! ダメですよ士道くん!! そこは寂しい思いをさせてしまって済まないね、マイハニーと抱き返すとこ――――』

 

『ふんっ!!!!』

 

『へぶんっ!!』

 

 何やら腹に渾身のストレートパンチが入ったような良い音が響き、誰か(神無月)が倒れる音が聞こえてきた気がしたが上気した全身を冷やすのに必死な士道がそれを追求する余裕はなかった。というか、一生涯の人生でもしてたまるかそんな恥ずかしいこと。

 

「……く、狂三? あんまり男にこういうこと(・・・・・・)をするのは勘違いされちまうぜ」

 

「あら? 心外ですわぁ。わたくし、このような事をするのは士道さんだぁけ、でしてよ」

 

「か、からかうなよ……!」

 

 照れていたかと思えば小悪魔のように士道を幻惑させてくる。くるくるくるくる、気まぐれのように狂三が近づいたり遠くなったりしている感覚だ。……まあ、結局どっちにしろ士道が翻弄されることには変わりないのだが。

 

「からかってなどおりませんわ。それで? 士道さんはわたくしを放り出して何を物思いに耽っていらしたのかしら?」

 

「それは…………っ、狂三の事を、考えてた」

 

 また遠くなった(・・・・・)と感じた狂三の言葉に、このままでは自分が落とされ(・・・・)かねないと躊躇いがちに一転攻勢の言葉を放った。……言ってから、照れくささに顔を背けてしまったのだが。

 

 やるじゃないのと言わんばかりの口笛がインカムから聞こえる中、恐る恐る狂三を見ると――――

 

「――――あら、あらあら」

 

「ぃ……!?」

 

 士道を……いや、世の男なら例外なく絡め取られてしまうのではないかとも思える妖艶な笑みを浮かべていた。開けた距離は、目を逸らした一瞬のうちに詰められている。1歩後ずさる――――前に、狂三が士道の両手(・・)を自身のそれぞれの手で握ってきた。

 

「く、狂三……さん?」

 

「嬉しい。とても嬉しいですわ。士道さんがそんなにもわたくしの事を慮ってくださるなんて……わたくし、嬉しくて泣いてしまいそうですわぁ」

 

「な、泣くってお前な……!」

 

「うふふ、本当ですのよ。――――――ねぇ、士道さん」

 

 ぞくり。その声を、唇の蠢きを、蠱惑の表情を、それら全てを認識した時、五河士道の思考は呑み込まれた。士道の両手を狂三の両手が包み込むような形になり、その柔らかくしなやかな指が絡みつく。

 

喰われる(・・・・)。脳裏を掠めたのはそんな現実離れした感情と――――狂三になら、良いかもしれない。なんて――――そして、狂三がその魅惑的な唇を動かし……。

 

 

「わたくし、士道さんに――――――」

 

 

 

「ぬわ……っ!?」

「……っ!」

 

 

 ドンガラガッシャン。まるでロッカーの中身を丸ごとぶちまけたみたいな音と、どこかで聞き覚えがある二人分の声が廊下に響き渡った。

 

「…………え?」

 

「…………はい?」

 

 士道も狂三も二人揃ってポカンとした表情で呆けてしまう。そりゃあ、突然騒音が響いたと思ったら二人が……十香と折紙が重なり合う形で廊下に倒れていたら、誰だって困惑するだろう。お陰様で、さっきまでの雰囲気とか思考も吹っ飛んで行ったが。

 

『……さっきから誰かがつけてる反応はあったけど、まさかこの二人とはね』

 

 知ってたなら教えて欲しかったのだが、多分狂三の事でいっぱいいっぱいだった俺が聞き逃してたんだろうなぁ、と他人事の様に思う士道であった。

 

 

 ちなみに全くの余談だが、翌日転入早々転校生を引っ掛けたスケコマシ野郎という噂が流れたのは、本当に全くの余談である。

 




シリアスを書いていたのにいつの間にかラブコメになっていた…

次回更新は来週になる予定です。果たして狂三の目的とは、士道くんは何を選択するのか。感想、ご意見、誤字報告等ありましたら是非お待ちしております
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