デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百二十一話『全知の天使』

 

 日常の中に紛れ込んだ非日常というのは後々になって自覚するものだ。思い返せば、行き倒れの少女と出会った時点で、とても日常のものではないと気がつく必要があったと言うべきか。何にせよ、後の祭りというやつだろう。だからこそ、紛れ込んだ(・・・・・)と表現される。

 

 士道が出会った少女、本条二亜。歳は士道の一つか二つほど上に見え、深い疲労の色がなければ非常に端整な顔立ちの少女だ。

 二亜は一言で言えば、初めの頃の狂三とは違う意味で掴みどころがない。悪い言い方をすれば、調子が良い人物だった。まあ、そんな少女を放っておくことができない自分にも少しだけ呆れてしまったが。

 この現代社会で空腹で行き倒れるという貴重な体験をしていたかと思えば、住んでいる場所は高級なマンション。かと思えば、セキュリティ面は本人によって弱々しいと言わざるを得ない。あれよあれよという間に二亜の家に上がり込むことになり――実は狂三へどう釈明をするか戦々恐々だった――何と行き倒れより驚いたのは、二亜がプロの漫画家であり士道も知る漫画の作家だということだった。

 そこからはまた、あれよあれよと飯を作り何とプロの漫画家のお手伝いを――黒歴史を掘り返されたことで――する事となり、それが終わったかと思えば、今まさに予想外の提案を士道は二亜から受けていた。

 

「あたしこの原稿終わったら一日休みができるから、デートしたげるよ。ああ、もちろん費用はこっち持ちでさ」

 

「へ……?」

 

「あ、でもその代わり場所はこっちに指定させて。最近全然買い物できてなかったから、久々にアキバに行きたいんだよねー」

 

 目を丸くする士道へ気安く笑いかけてそう言う二亜に、一転して髪を掻きながらため息を吐いた。万国共通として、それはデートとは言わないと士道は知っている。

 

「……それって、荷物持ちって言うんじゃないのか?」

 

「ぎくっ」

 

 ぎくっ、と口でわざとらしく表現する人を見るのは『狂三』以来人生で二回目だが、意外といるものだなと呆れなんだか感心なんだかを感じてしまう。

 

「はあ……悪いけど、他を当たってくれないか? 友だちに頼んでみたらどうだ?」

 

 悪いとは思うが、ただの荷物持ちを喜んでやれるほど士道も暇ではない。というか、荷物持ちではなくても引き受けるわけにはいかなかった。

 士道に浮気の趣味はないし、積極的な自殺願望も当然ながら持ち合わせていない。一般人を相手に無条件でデートなど、脳内で狂三の反応を想像しただけで全身が震え上がり冷や汗をかくこと間違いなしだ。

 

「……いやー、はは。あたし友だちいないからさー」

 

 返答をした二亜は、気のせいか、ほんの少し表情を曇らせていた。だが、それも一瞬のこと。すぐに先程までと同じ調子を見せ――――――鋭く目を細めた。

 

「――――――ていうか、キミは本当にいいんだね、それで」

 

「え?」

 

 含みのある、強い口調――――――士道にとってそれは、どこか馴染みのあるもの。それだけでは語弊があるかもしれないが、それ以外にも士道の第六感が何かを告げている。

 そして二亜は、彼女が知るはずがないことを、平然と口に出してのけた。

 

 

「精霊をデレさせるのが、キミの仕事じゃなかったのかな、少年――――――いや、五河士道(・・・・)くん?」

 

 

 ――――――本条二亜との出会いは、日常の一部などではなく、意図して紛れ込んだ非日常なのだと、士道は後に気づくこととなったのだ。

 

 

 

「二亜、お前は……」

 

 本条二亜。漫画家・本条蒼二を名乗る少女。

 

 精霊をデレさせる。五河士道の使命。その通り。何一つ間違っていない。間違っていないからこそ、不条理なものとして存在する。

 当然の話ではあるが、〝精霊〟という存在は一般常識ではない。日常の裏に存在する、非常識側の天災と呼ばれる生命体。秘匿にされた存在が〝精霊〟なのだ。それを知っているだけならいざ知らず、五河士道という存在まで知っているのは明らかにおかしい。

 

「お前は一体――――――」

 

 何者なんだ。そう叫ぼうとした士道の本能を、培われた理性という名の経験が塞き止める。

 奪われるな、会話の主導権を。二亜が何者であれ、士道は既に彼女のテリトリーとも言える場所に連れ込まれてしまっている。だからこそ、冷静に。だからこそ、状況を俯瞰しろ。

 気づかれないように小さく息を吸い、吐き、士道は久しい感覚に身を浸す。

 

「……二亜、お前は一体何者だ? なんで、精霊のことを知ってる?」

 

「――――ふぅん。冷静だねぇ、少年」

 

 作業のためにつけていた眼鏡を外し、様になるように前髪を搔き上げる。そんな仕草の中、二亜はどこか感心と驚きを含めた顔をしていた。

 

「猪突猛進なタイプかと思ったけど、意外と駆け引きも出来ちゃう系?」

 

「どうかな。俺が出来るわけじゃないさ」

 

 仰々しい不敵な笑みを作り、二亜の考察に応じる。実のところ彼女の言う通り、士道はどちらかと言えば考えるより先に身体が動くタイプだ。自慢ではないが、損得勘定が苦手な人間でもある。

 だからこれは、今しているこの行動は、ただ単純に士道ではない別の人物の模範。士道なりに、未知の相手との対話(・・)に必要な冷静さを身につけたという話に過ぎない。

 

「それより、教えてくれないか。お前が……何者なのか」

 

「ふふん。焦らない焦らない。今教えてあげるから」

 

 あくまでも軽い調子で、しかし口にしたその名は、重大な意味が込められたものだった。

 

 

「――――〈神威霊装・二番(ヨツド)〉」

 

「な……!?」

 

 

 眩い光が二亜の周囲から渦をまくように発せられ、彼女の身体に絡みつき――――鎧となる。

 光に目を細める士道だが、だとしてもこの現象を見間違えるはずもない。

 

「霊、装……ッ!!」

 

 精霊を守護する絶対の鎧。彼女たちだけに許された究極の衣。光が途切れ、先程まで悪ふざけで着込んでいたメイド服から全く別の城が姿を見せた。

 

「これで、ご理解いただけた?」

 

 今度は二亜が不敵に微笑んで見せる。それに圧倒され、士道はゴクリと唾を飲み込んだ。

 霊装特有の美しく淡い幻想的な輝き。要所に施された十字の意匠に頭部を覆うケープ。さながら法衣……修道女を思わせる。

 まさか、とは思った。だが、予測と現実として認識する事とは意味合いが異なる。

 

「二亜、お前は……精霊、なのか?」

 

「うん。まあ、こんな芸当ができる生物に、他の心当たりがあるならそっちの方かもしれないけど」

 

 恐らくは、あるわけがないとわかっていて二亜が笑う。未だ士道は、精霊以外にこの現象を起こせる者と知り合っていない。つまり、二亜は寸分たがわず士道が知る〝精霊〟という生命体に他なるまい。

 合点がいく。二亜の容姿からは信じられない、十年もの前から商業誌でデビューしていたというその経歴。精霊ならば、全て納得がいってしまう。精霊という力を持つ者は、その容姿さえ変わらない。過去(・・)で士道が見て、証明してきたことだ。

 二亜が正体を見せて、士道も仄かに警戒の色を滲ませる。一体、彼女は何を考え正体を明かしたのか――――――すると、彼女はそんな士道を見て口をへの字に曲げて不満げな声を発した。

 

「何よー。もうちょっとリアクションないの? なんかもったいぶって変身したあたしがバカみたいじゃん」

 

「……へ?」

 

「もっとこう、『な、なんだってー!?』みたいなやつとかさぁ。もしくはパターン変えて突然変貌した女の子の姿にドキッ!! みたいな。ほらほらぁ、結構この霊装エロいと思わない? 足の付け根んとこスリットずっばー入ってんの。全体的に不思議素材で半透明だからうっすら身体のライン見えちゃうしさぁ」

 

 シリアスな雰囲気など何のその。ブラックホールの如く重い空気は吸い込まれ、変わらない二亜らしい二亜がマシンガンのように言葉を紡ぐ。

 彼女が左足を手近な椅子に上げたせいで、大胆な切れ込みのスリットから、彼女の麗しい白い太腿がチラリと覗いて、士道は咄嗟に顔を背けた。

 

「おま……っ!!」

 

「おっ、それそれ!! そういうやつ!! えっへっへ、いいよいいよー少年。もしかして足派だった? なるほどなー。若いんだから貪欲にいこうよー」

 

 悪びれるどころか煽り立てる二亜に、士道は盛大に頭を抱え込む。恥じらいを持ってなお、いじらしくアピールするどこぞの淑女なお嬢様とはまるで真逆だ。ちなみに、士道は胸派でも足派でもなくその淑女なお嬢様派だ。無論、今さら言うまでもないことだが。

 服は貞淑な修道女を思わせるのに、中身を知った今となっては狂三の方がよっぽど向いていそうだと無駄に思考を逸らしながら、何とか士道は意識を二亜へ一点集中する。

 

「……茶化さないでくれ。お前が精霊だってことはよく理解できたし、受け入れられる。けど、どうして俺のことを――――――俺がしていることまで知っているんだ」

 

「ああ、それ? 職業柄あんまりネタバレするのは好きじゃないんだけど、まあ特別に教えてあげましょう」

 

 言いながら、二亜は片手を身体の前に持ち上げる。彼女の仕草に、不思議な既視感を覚えた。

 その理由は、すぐさま解きほぐされることとなる。幾度となく、士道は同じように己が半身(・・・・)の名を呼ぶ者たちを見てきたのだから。

 

 

「――――〈囁告篇帙(ラジエル)〉」

 

 

 撓んだ空間から、一冊の本が一瞬にして姿を現した。

 聖典を思わせる巨大な書物には、二亜の霊装と同じく十字の意匠が施されている。それだけではなく、感覚だけでその本がこの世ならざる奇跡であることが理解できる。これこそ、正しく。

 

「それは……天使!?」

 

「そう。あたしの天使、〈囁告篇帙(ラジエル)〉。この世の全てを見通す、全知の天使だよ」

 

「全知……?」

 

「そんなに難しく考えないでよ。読んで字のごとく、ってね。〈囁告篇帙(ラジエル)〉は森羅万象全てをあたしに教えてくれるんだよね。今世界のどこで何が起こっているのか、誰が何をしているのか。たとえば――――――そう、あの時キミが買い物を終えて、あの道を通ろうとしていたことなんかもね」

 

「な――――」

 

 単純ながら、恐ろしさを感じさせる力に戦慄する士道を面白がるように、二亜がくすくすと笑い言葉を続ける。

 

「まさか、本当に偶然だなんて思ってた? 偶然道に倒れてる女子を介抱したら、それが偶然精霊でしたって? いやいや、普通に考えたら有り得ないでしょ。少なくともあたしなら、そんな物語の導入はしないなぁ」

 

「……つまり、俺がお前を助けると踏んで、あそこでわざと倒れてたっていうのか?」

 

「まあ、そういうことになるね」

 

 どんなもんよと言わんばかりに大きく頷く二亜を見て、士道は緊張から身体が固まるような感覚を覚えた。

 今彼女が言っていることは、薄ら寒いものを感じさせる。二亜は今、これまでの一連の流れは全て自分の手のひらの上だと告げたようなものなのだ。それはつまり――――――

 

「……じゃあ、俺に原稿を手伝わせたのにも何かの意図が――――――」

 

「あ、そっちは普通に手伝ってもらっただけ」

 

「ないのかよ!?」

 

 訂正。二亜はやっぱり二亜だった。まあ、あの手伝った原稿に何かしらの意図があったりしたら、それはそれで困るのは士道なので良かったと言うべきか。

 しかし、そっちは(・・・・)と注釈を付けたからには、士道をこの部屋に誘い込んだことに嘘はないということになる。なら、その誘い込んだ相応の理由があって然るべきだろう。

 

「それで――――――二亜。お前は一体何が目的なんだ? なんで……俺をここに?」

 

 冷静さを欠くつもりはないが、それでも相手に情報という圧倒的なアドバンテージを握られ続けている状況は負担がかかってしまう。

 だが二亜は、そんな士道の緊張感を和らげるようにリラックスした声色で応じた。

 

「そんなに構えないでってば。別に、用ってほどのことでもないよ。強いて言うなら、少年、キミを自分の目で見てみたかっただけ。いくら〈囁告篇帙(ラジエル)〉でキミのことを知れるっていっても、それはあくまで情報だからね。実物にはどうしても敵わないし――――――一応、お礼を言っておきたかったのもあるからね」

 

「お礼……?」

 

 怪訝な表情を作った士道に、ああ違う違うと二亜は否定と共に首を振る。

 

「今日のことじゃなくて――――――今月の頭、キミたち(・・)に助けられた件の方だよ」

 

「へ?」

 

 素っ頓狂な声を出してしまうのも、士道にとっては当然の話だ。

 今月の頭、と言われても。二亜と出会ったのは今日が初めてな上に、その時期はちょうど士道が経路(パス)の狭窄によって暴走を起こしていた時期だ。士道が誰かに助けられることはあれど、人を助けるような余裕はなかった。

 

「あっれぇ、覚えてない? ほら、あたしの呼びかけに応えて、輸送機を墜としてくれたじゃん。あたしあれのおかげで脱出できたんだから」

 

「呼びかけ……って、あ――――」

 

 覚えている、と言い切るのは語弊が生じるが、確かに二亜の言うことには身に覚えがある。誰かに呼ばれ、霊力を放出する感覚。そして、その時は――――――

 

「まさか、あれがお前の……? じゃあ、キミたちってのはもしかして……」

 

「そ。時崎狂三ちゃん、だっけ? なになに、もしかして少年のガールフレンドちゃんかなー? おうおう、隅に置けないねぇ」

 

「あ、いや、狂三は………………う、うん?」

 

 どう説明すれば正しく説明できるのか。当事者のくせにおかしな話だが、第三者に狂三との関係を説明しようとすると、どうしても言葉が出てこず士道自身が大きく首を傾げる結果となってしまう。

 士道の葛藤を見てか、はたまた別の理由があったのか、あははと笑うだがその顔は少し苦笑いのようなものを含んでいるように思えた。

 

「本当はその子にもお礼を言いたかったんだけど、どうにも見えづらくてね(・・・・・・・)。だからキミだけ先に、と思ったんだ」

 

「見えづらい……狂三がか? どういう意味だ?」

 

 〈囁告篇帙(ラジエル)〉と呼ばれた天使があれば、森羅万象の全てが読み解けると言い切ったのは二亜自身だ。その力があれば、様々な事情があり単独行動が少なくなっている狂三と接触する程度なら容易い。

 そう考えてみると、先程の士道と狂三の関係を知らないことにも疑問符が付く。天使の力があれば、情報として知っていてもおかしくはないだろう。

 訝しげに首を捻る士道に、二亜は誤魔化すように大仰な笑いを見せる。

 

「あはは、気にしない気にしない。こっちの話だから。まあとにかく、キミたちのおかげで助かったってこと――――――DEMインダストリーの手から、ね」

 

「……ッ!! DEM!?」

 

 予想外の方向からの名に、士道の思考はあっという間にそちらに誘導された。

 当然だ。DEM――――――デウス・エクス・マキナ・インダストリー。〈ラタトスク〉と対極の位置にある巨大企業。裏では非人道的な行為を平然とやってのけ、幾度となく士道たちと衝突を繰り返す相手だ。

 

 どうしてDEMの輸送機に。そう当然の疑問を口にすると、二亜は流暢に経緯を語り始めた。

 五年ほど前、DEMに囚われてしまったこと。それを実行したのは二亜曰く虚弱体質――――エレン・ミラ・メイザースだということ。結果的には、監禁されている時のことはよく覚えておらず、漫画を書けないことが酷くストレスになっていたこと。

 プロの漫画家である本人にとっては深刻な問題なのだろうが、士道には他のこと――――あの男が、ただ二亜を監禁していただけということが解せない気がしてならなかった。それにもう一つ、解せないことはまだあった。

 

「ていうか、二亜。お前の天使は何でも知ることができるんだろう? なら待ち伏せなんて……」

 

 あらゆる事象を持ち主に伝える天使なら、それこそ、狂三に危機を伝える〈刻々帝(ザフキエル)〉のような高度な未来予測と同じようなことができるのではないかと士道は考えた。が、二亜は言葉を遮るように手をパタパタと振って否定する。

 

「あー、違う違う。そうじゃないの」

 

「そうじゃない、って……」

 

「〈囁告篇帙(ラジエル)〉は確かに全知の天使だけど、あくまであたしが求めた情報を引き出してくれるだけなの。未来のことまで覗けるわけじゃないし、自動的に危機を感知してくれるわけでもない――――――要は、あたしが思いも寄らないことは避けようがないってわけ。考え方としては、超々高性能検索エンジンっていうのが近いかもね」

 

「なる……ほど」

 

 調べようと思えば、どんなものでも調べられるインターネット検索……のようなものと考えればいいのかもしれない。

 全知の天使であって、全能の天使ではない。どんな強力な力にも必ず弱点らしい弱点があるのが通例だが、奇跡の天使といえど例外はないということか。

 

「凄い能力だとは思うが……結構制限があるんだな」

 

 これがもし、初めて見た天使だったなら士道もこのような感想は抱かなかった。しかし今まで様々な天使――――特に、狂三の〈刻々帝(ザフキエル)〉のように時間遡行や未来予測という条理から外れた力を目の当たりにした後では、なかなか実感の湧かないのも仕方がない。

 

「ふぅん。言ってくれるじゃないの、少年。どうやら今ひとつ〈囁告篇帙(ラジエル)〉の力がわかってないみたいだねぇ」

 

「え……?」

 

 ――――――そんな安易な考えは、二亜の不敵な微笑みによりたったの数分で崩されてしまうこととなった。

 

 

 

「――――――どうよ。〈囁告篇帙(ラジエル)〉の恐ろしさ、少しはわかってもらえた?」

 

「……はい。すごくすごいです。舐めた口きいてすいませんでした」

 

 ひれ伏すように頭を下げると、二亜は満足げに頷いて見せた。

 

 〈囁告篇帙(ラジエル)〉に記されたものは全て事実――――――未来記載。それが〈囁告篇帙(ラジエル)〉に秘められたもうひとつの力。二亜が漫画として描いたことが、先の未来として現実になる(・・・・・)

 因果さえも捻じ曲げる、凶悪無慈悲な力――――なのだが、プロの漫画家としてそちらを優先する二亜には、そこまで使い勝手が良くないらしい。世界さえも書き換えられる力も、二亜にかかればめんどくさいの一言で終わってしまうのだから、ある意味で持ち主が二亜で良かったと思うべきか。

 まあ、それはそれとして、〈囁告篇帙(ラジエル)〉の力で黒歴史(・・・)の漫画経験をプロの漫画家に完璧なまでに暴かれるという、今世紀最大の羞恥プレイをさせられた士道は完全にグロッキーで二亜に敗北した。

 

「すげぇな……ほんと」

 二亜に聞こえない程度に、〈囁告篇帙(ラジエル)〉の力に感心にも近い感情を吐露する。

 情報というものは、時に物理的な力を上回る切り札となる。狂三や白い少女から散々学んだことであったはずなのだが、どうやら人間自分が味わってみないとわからないものらしい。

 本当に、持ち主が力を悪用するような性格でなくて安心した――――――ふと、悪用しないような者だから〈囁告篇帙(ラジエル)〉を持てたのだろうか? という考えが頭に浮かぶ。何故かはわからないが、そんな気がしたのだ。

 

「まあ、あたしからはこんなところ。キミのおかげであそこから逃げられて連載も再開できたし、そこんとこはマジで感謝してるのよ」

 

 逸れた思考は、二亜の言葉でハッと引き戻された。この言葉に嘘はない。まだ短いが、二亜の漫画にかける情熱は痛いほど伝わってきている。自由の身になれて、二亜としては士道に感謝の気持ちがあるのは確かなはずだ。

 だが、自由の身になれたことを良かったですねと純粋に言える立場でないことは、二亜はよく知っているのだという言葉を続ける。

 

「でも、まあ、キミたちとしちゃあこれではいさよならってわけにもいかないんだろうねぇ。〈ラタトスク〉……だっけ? 精霊をデレさせて救うだなんて、なかなか面白いことやってるじゃない。やっぱあたしも口説かれちゃう感じ?」

 

「それは……」

 

 ――――――見て見ぬふりは、できない。

 〈ラタトスク〉としては、空間震の危険がある精霊を放ってはおけないだろうし、士道としてもDEMに一度襲われている二亜をそのままにはしておけない。全知の天使を持つとはいえ、不意打ちに弱いのであればそれまでだと、二亜自身が語っているのだからなおさらだ。

 

「よきかなよきかな。そーいうのも面白そうじゃん。秘密組織とか超ワクワクするしねぇ。それに、さっきも言ったけど、あたしキミには感謝してんのよ? だから、お礼に一回チャンスをあげようって言ってんの」

 

「チャンス――――あ」

 

 言葉の意味が繋がり、士道は目を見開く。二亜は先ほど言っていたのだ。原稿が終わったら、休みが取れる(・・・・・・)、と。

 

「ただし、場所はアキバ。これだけは外せないからね。五年も監禁されてたもんだから、身体が二次元を求めてるのよ。禁断症状マジヤバイ。あの漫画の続刊とかあの作者の新作とか、読みたくて読みたくて震える。それ終わったら次の仕事入ってるし、年末はコミコで忙しいから、当分時間取れなくなるんで、そこんとこヨロシク。自分、一応売れっ子なんで」

 

「こ、コミコ?」

 

「コミックコロシアム。いわゆる同人誌即売会よ。いやー、スペース取れてないし今年は見送りかなーと思ってたんだけど、急病で本作れなくなっちゃった人がいるらしくて、スペースを間借りさせてもらえることになったのよ。原稿自体はDEMに捕まる前に描いてたのがあるし。いやー、コミコも久々だなー」

 

 捲し立てるように聞き慣れない言葉を扱っていくものだから、圧倒される士道を見て、二亜はああごめんごめんと軽い謝罪をし――――自身の胸元を指差し、自信に満ちた笑みで宣言した。

 

 

「――――チャンスはあげる。デレさせられるもんなら、デレさせてみな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――それで、デートの結果は如何でしたの?」

 

「……烈火の如く、怒らせてしまいました。あと、コミコで売り上げ勝負をすることになりました」

 

「…………」

 

 なんというかこの流れ、美九の時もあった気がするなぁ。別に命じられたわけでもなく、地面に正座をする士道に冷たい視線を向ける狂三との作戦会議が始まるのだった。

 

 

 






オチがやりたかっただけだろシリーズ新作。二亜とのデート詳細が知りたい人はデート・ア・ライブ13巻『二亜クリエイション』のご購入よろしくお願いします(ダイマ)

事情知らない人に二人の関係なんですかと聞かれると……え、なんだろうとなる主役とヒロインがいるらしい。お前これ120話超えてんだぞ。
そんなわけで導入も終わり次回より二亜編本格始動。序盤はあんまり変化がないので申し訳ない。チョロっと士道の対応が変わってるくらいですね。でもこの回を外すわけにもいかないジレンマ。

ちなみに二亜編は既に書き終わって、ただ今番外編をノリと勢いで制作中。というのも、感想いただいた時にこういうのが読みたいと来たものが私の中に残ってた引き出しと一致した結果です。何か読んでみたい、見てみたいキャラの組み合わせやお話やらのネタがあれば、感想ついでにお持ちくださればもしかすると形になるかもしれません。
とはいえ、前科がある通り駄目と思ったら書く前に諦めるタイプなので、あんまり期待しすぎないくらいでよろしくお願いします。私の引き出しに偶然それっぽいネタが入っていることをご期待ください。ここまで言ってまあお前の番外編とか読みたいのねーよオチが見えてますけども。私は生の感想と高評価が好きなので媚びるタイプだ(直球)

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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