デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百二十六話『純粋で不純な物語』

 

 同人誌売り上げ勝負の決着。本の完売からおよそ一時間後。士道たちは一通りの片付けと着替えを済ませ、天宮スクエア裏手の公園へとやってきていた。

 同人誌を読んでもらうにしても、精霊に関わる事柄である以上、部外者のいない場所が適切だと判断しての行動だった。

 これであとは、二亜に本命の同人誌を読んでもらうだけ――――――

 

「……少年、大丈夫?」

 

「あ、ああ……気にしないでくれ」

 

 なの、だが。士道が苦しげに呻いているのには理由がある。全身に重しを付けたようにぎこちない動きをする士道だったが、それはそうだ。

 如何に軽いとはいえ、四人分(・・・)の体重をモロに組みつかせるのは、身体に響くというものだった。

 

「五年ぶりですわね、士道さん。わたくしのこと、覚えていらして?」

 

「そりゃあな、忘れるわけないだろ」

 

「わたくし!! わたくしは如何がですの?」

 

「いや、お前とは初対面だよな? というかどこか怪我してたり……ってわけじゃないのか」

 

「ずるいですわ『わたくし』。士道さん、わたくしのこともしっかり見てくださいまし」

 

「見るって言っても、この体勢じゃあな……あ、写真撮らせてもらっていいか?」

 

「もちろんですわ!! このわたくしが到達した真理、日本風ロリヰタ!! 心ゆくまでご堪能くださいませ!!」

 

「こ、こういう状況じゃなきゃ、ずっと堪能してたいんだがな……」

 

 ちなみに上から、五年前に出会った『狂三』。全身あちこちに包帯を巻いた『狂三』。甘ロリゴシック衣装の『狂三』。曰く『ロリヰタ』ファッションの『狂三』、である。

 まあ、言うまでもないことではあるのだが、士道の全身にくまなく組み付いて離れる気配がない。なお、同時に飛び込む蛮行に及ぼうとした折紙、及び作戦功労者の某アイドルは十香たち総掛かりで取り押さえられていた。

 二亜に案じられてしまうくらいには大惨事な光景なのだが、士道としても頑張ってくれた『狂三』たちを無下にできずにいた。如何に軽いとはいえ、人四人に高校生一人。またまた言うまでもなく、士道の身体は悲鳴を上げて全身汗びっしょりだった。

 いよいよ身の危険を――色々な意味で――感じ、どうしたものかと苦笑していると――――――ダン!! という地響きかと聞き違う音が公園に響いた。

 

『あーれーぇぇっ!!』

 

 何ともわざとらしい、打ち合わせでもしたのかという声を上げ、『狂三』たちが揃って士道の身体から剥がれていく。

 軽くなった身体で後ろを振り返ると、微笑む狂三と小さくなっていく彼女の〝影〟があった。微笑みとはいうものの、額には怒りを表す血管が見えているように思えたが。

 

「――――失礼いたしました。二亜さん、続きをどうぞ」

 

「……え、いや――――――」

 

「つ・づ・き・を!! どうぞ?」

 

 さも何事もありませんでしたという狂三の圧に、さしもの二亜も困惑気味に「えぇ……」と頬をかく。

 ちなみに、経験則でこうなった狂三はテコでも動かないと知っている士道は、コホンと気を取り直して声を発する。時崎流ゴリ押し術を正面から相手にするには、少しばかり手間がかかるのだ。それをしていると、日が暮れてしまいそうだった。

 

「じゃあ、二亜」

 

「……わかってるよ。言っておくけど、あたしが了承したのはあくまでこの本を読むことだけ。そっから先はまた別の話!! 変な期待はしないでおいてよ?」

 

「……ああ」

 

 視線を鋭くしてそう言った二亜を、士道は緊張を滲ませて頷き返す。全ては、この本が二亜の心に届くか、それだけにかかっていた。

 精霊たちも士道と似たような面持ちで二亜を見つめていたが、それが集中力を阻害するのか二亜がシッシッ、と手を払った。

 

「うんじゃ、ちょっとあっちに行っててよ。漫画を読む時にいちいち『ナズェミテルンディス!!』とか言いたくないのよね、あたし」

 

「お、おう……?」

 

 何を言っているかはよくわからないが、要は口出しどころか見ているところも見るなということだろう。

 今更、どう足掻いたところで変わりはない。士道は二亜の言葉に従い、少し離れた場所で精霊たちと共に静かに二亜の判決を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大口を叩いておいて、全くしてやられたと二亜はため息を吐いた。

 

「……分身がいることは知ってたけど、まさかあんな〝濃い〟とはねぇ」

 

 自身の魅力を最大限理解した上での、ギリギリまで自身の存在を伏せる戦術。

 一瞬あれば、己が人の視線を釘付けにできるとわかった上での、インパクトを残す五つ子(・・・)の登場。

 そこまで積もりに積もった奇策があってこそだが、ダメ押しは間違いなくあの子だろう。まったく、予測してやったというならとんでもない大物だ。

 

 ――――――そんな彼女が士道に力を貸そうと思う理由は、何なのか。

 

「……少年め、好き勝手言ってくれやがって」

 

 その少年、五河士道。彼もまた、とんでもない大物だ。二亜の心に遠慮も容赦もなしに、よくあそこまで踏み込んで来ようと思う――――――彼の言っていたことが、全てにおいて図星なのが、余計に腹が立って仕方がない。

 

「……あれだけ大口叩いてくれたんだ。パンパな出来じゃ許さないからね」

 

 表紙には、士道を模したと思しきキャラクターが描かれている。どうやら、本気で〝士道〟というキャラクターを作り出したようだ。その上、荒さはあるものの絵はかなりしっかりしている。

 

「ふうん。ま……でも重要なのは中身だよね」

 

 どれだけ綺麗だろうが、内容が二亜のお眼鏡に叶うようなものでなければ無意味だ。

 ぱらり、ぱらりとじっくり読み進めていく。色眼鏡を持つことなく、真摯に、丁寧に――――――そして、最後のページを読み解き、二亜は数分ぶりに大きく息を吐き出した。

 

「……なるほど、ねぇ」

 

 感想としては――――想像の上を行く完成度ではあった。これを二日で作ったなど、二亜でなくても信じられない出来をしている。そこは、素直に褒め称えてやってもいいだろう。

 だが、逆に言えば、そこまでだった。五河士道という少年が、精霊と出逢い、それぞれの心を救い出していく物語――――――その中で、始まりに出逢っていた(・・・・・・)少女が精霊であり、少年の命を狙う存在だった。余興を経て、二人は恋に落ちてしまい……命を奪い合う関係にも関わらず、誰より信を置く関係へと発展していく。話の流れとしては、そんなものだ。

 まず、〝士道〟をヒーローとして描きすぎた結果、あまりに現実感がない。加えて、ヒーローとして純然に描かれた士道の中にある、恋をした精霊とのやり取りが、ある種の不純(・・)としてあってしまうこと。

 少女を救うために全身全霊を尽くしている少年が、唯一と言っていいほど特別な感情を持ってしまっている。これはキャラクターとして矛盾していた。二亜をデレさせたいなら、他に描き方があっただろうに――――まあ、結局は現実感がないのは同じなのだが。

 

「残念だったね、少年。頑張ってくれたみたいだけど――――――」

 

『ただし――――――命の取り合いをする仲の、ですけれど』

 

『友だちさ。ちょっとばかし、物騒だけどな』

 

「っ……」

 

 締めくくろうとした二亜の脳裏に、そんな二人の言葉が蘇った。

 ありえない。命を奪い合う関係で、信頼を築けるはずがない。

 強大な力を持つ者への感情は、まず恐怖である。少年と精霊の純粋で不純な信頼関係など、現実感のない馬鹿げた想像上の話でしかない――――――けれど、二亜は、気づいた時には〈囁告篇帙(ラジエル)〉を手にしていた。

 

「…………」

 

 違う。二亜はただ、この漫画の制作過程に興味があっただけのこと。ごく短期でこれだけのクオリティに仕上げたやり方を、知っておきたかっただけだ。

 全知が記す文字に手を触れ、二亜の頭の中に求めたもの全てが映し出されていく。

 

『ここの士道さんはもっと詳しく描くべきですわ!! わたくしの目から見て、惚れ惚れする活躍でしたもの!!』

 

『だったら狂三の方を力強く描くべきだろ!! 俺の目から見て、惚れ惚れする活躍だったぞ!!』

 

『だぁぁぁぁぁッ!! もうキリがないわ!! 狂三、あなた【一〇の弾(ユッド)】でみんなに記憶を共有してちょうだい!!』

 

『わたくしに死ねと!?』

 

『誰もそこまで言ってないわよ!!』

 

 何だか恐ろしくどんちゃん騒ぎをしていて、出来れば見なかったことにしてあげたい二亜だった。

 

「……なるほど。話をみんなで決めたあとは、七罪って子をメイン作画に据えて分業か……でも、あんまり参考にはならないかなぁ。あれだけの数のデジアシ集めるなんて現実的じゃないし。さすが〈ラタトスク〉。無茶するなぁ」

 

 二日で仕上げたカラクリは、この無茶苦茶な力技にあったということか。無論、作画班の努力の賜物なのだろうが――――そこまで読み解き、二亜は一人の言葉に眉を動かした。

 

『あの二亜っていう分からず屋にも……早く教えてあげたい――――――友だちって、素敵だよ……って』

 

「……ふん」

 

 七罪の声を聞いて、しかし二亜の心に変化はない。

 当然だ。その程度の綺麗事で、揺らぐような心は持っていない。不快そうに顔を歪めるのが精々だ。

 

「はいはい……ご高説どうも。悪いけど、キミたちの漫画じゃ、あたしは――――――」

 

 その時だった。〈囁告篇帙(ラジエル)〉が光り輝いた(・・・・・)のは。

 

「え……?」

 

 光は、文字。新たな英知。主が望んだもの(・・・・・・・)を刻み、知恵とするのが全知の天使。

 

「これ、は……」

 

 二亜は、思ってしまった。ほんの僅かでも、今、そして直前に――――――知りたいと。聞くに耐えない戯言を、信じられない関係を築く士道たちに、何があったのかを、二亜は己で知ってみたいと思ったのだ。

 だからそれを、最高で最悪の天使は正しく叶えたに過ぎない。

 七罪だけではない。折紙、美九、耶倶矢、夕弦、琴里、四糸乃、十香。彼女たちにも過去があり、闇があった。精霊として、辛い過去や残酷な自分自身を抱えていたのは、二亜だけではなかった。

 人であれば、挫けてしまうだろう絶望。

 人であれば、打ち砕かれてしまうであろう心の闇。

 

 だが、五河士道だけは、違った。

 

「あ……あ……」

 

 現実ではありえない。二亜はそう断言した――――――違ったのだ。この本で描かれたことは、全て真実。偽りのない、五河士道という少年が紡いだ道。

 全身全霊を懸けて、ただ救いたいという希望のため、己が身を顧みず戦った少年の軌跡。

 

 そして、二亜は、最も大きな闇に触れた。

 

「……ぁ」

 

 絶望があった。狂気があった。しかし、精霊は絶望に沈むことはなかった。沈んでしまえば、精霊は精霊でなくなってしまうから。

 長い、長い軌跡の欠片。それでもなお、精霊の闇は深淵を思わせる色――――――それを照らす、たった一つの感情。

 

 

『――――――好きだ、狂三』

 

 

 たった、それだけ。それだけで、精霊(少女)の心象風景は輝きを取り戻した。

 輝かしい感情は、どこまでも矛盾した感情は、だからこそ嘘偽りのない愛情(・・)という光。

 〝士道〟と士道が、重なる。綺麗事なんかじゃ、ない。士道は全てを本気で、受け止めてくれる人なのだ。

 

 みんなの勇者(ヒーロー)――――――それが五河士道だ。

 

「は……ははっ。無茶苦茶だなぁ、少年……っ」

 

 何があっても諦めず、心の闇を溶かす光。

 

 ただ好きという感情のために、誰よりも非情を演じる少女を救わんとする者。

 

 どちらも真摯で、どちらも本当。大切な者へ向ける感情に、壁などありはしない。士道にとって、どちらも大切だから、必要とあらば迷いなく命をかける。

 自身の命を狙う精霊の心さえ解きほぐして、その善性を認めさせるなんて――――――本当に、無茶苦茶(素敵な話)だ。

 

 ――――別の光が、ページに零れ落ちる。

 

「……っ」

 

 それは、二亜の感情全てを乗せた――――――涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!! 二亜――――」

 

 士道たちが待つこと、数十分。待ち望んでいた人物が現れ、士道たちは各々弾かれるように立ち上がった。

 

「くく……来おったか」

 

「緊張。結果はどうだったのでしょう」

 

「……?」

 

 精霊たちと共に、ごくりと喉を鳴らす。が、士道は近づいてきた二亜を見て思わず眉根を寄せた。

 眼鏡をかけていてもわかるくらいに、二亜の目が充血していたのだ。気にするな、というのは無理な話だった。

 

「二亜、どうかしたのか……?」

 

「……、いやー、別にー……」

 

 とはいえ、当の本人が軽い調子で答えてしまえば、士道から追求することは難しくなる。

 

「で……どうだった、二亜。俺たちの本は」

 

「…………」

 

 それに、今はこうして真っ先に聞きたいことがある。

 この是非で、士道たちと二亜の命運が決まってしまうのだ。

 結果は――――――

 

「――――なかなかよくできてたけど、さすがにこれ一冊であたしを落とそうなんて、見通しが甘すぎるんじゃないかなぁ。悪いけど、そこまで安い女になったつもりはないよ」

 

「う……」

 

「――――――でも、まあ」

 

 駄目だったのか。全身を無力感が突き抜けようとした瞬間、二亜は言葉を止めることなく続けた。

 

「見所がないわけでもないみたいだし……なんていうの? もう一回くらいチャンスをあげてもいいよ」

 

「へ……?」

 

 今、二亜はなんと言ったのか。聞き間違えでなければ、その二亜が恥ずかしげに頬を染めているのが、間違いでなければ、彼女は。

 

 

「……だから、もっかいだけデートしてあげるって言ってんのさ。少年も男なら、そこで決めてみなよ」

 

「…………!!」

 

 

 今一度、チャンスをくれると言ったのだ。

 突き抜けたのは、無力感ではなく歓喜。思わず、周りの騒音も気にせず叫んでしまいそうになるのをグッと堪えるのに必死だった。

 

「シドー!!」

 

 感情の発露は、十香たちも同じだったようだ。迷いなく士道に飛びかかって、全身で喜びを顕にする。

 

「きゃー!! だーりんやりましたーっ!!」

 

「すごい……です!」

 

「当然。士道の魅力の賜物」

 

「ははは……やめろってお前ら。……って、美九と折紙はホントにやめてもらえますかね。あの、ちょっと? なんかどさくさに紛れて服脱がそうとしてないか!?」

 

「えぇー? そんなことしてませんよー。ねー?」

 

「していない。結果的にそうなっていたとしても、それは不幸な事故。誰のせいでもない」

 

「さっきのこと全く反省してないな!?」

 

「まあまあ、よいではありませんのよいではありませんのー」

 

「よくないから!! てか眼帯と包帯と甘ロリと和服の狂三はどうやって脱出してきた!?」

 

 なんと、どうやって脱出したのかわからない『狂三』たちまで参戦してさあ大変。折紙、美九、『狂三』を引き剥がそうとする他の精霊たちまで参加するものだから、士道を中心にもみくちゃの状態にされてしまった。

 無事なのは、仕方ないと言わんばかりに頬に手を当て息を吐く狂三と、堪えきれない笑顔を見せる二亜だけだ。

 

「……ぷ、はは、あははははっ。ほんっと、面白いなぁキミたちは」

 

「まったく、目が離せませんわ」

 

「――――けど、それが悪くないんでしょ?」

 

 狂三の中の何かを、覗くような。気づかいにも似た顔で二亜が言う。目を見開く狂三に、優しく微笑んだ二亜が言葉を続ける。

 

「……うん、いいなぁ――――――ねぇ少年、もしかして、キミなら」

 

 ――――刹那。

 

 『異常』は、二亜を、そして士道を襲った。

 

 

「え……? あ、あ、あ、ああああああ、あああああああああああああ……ッ!?」

 

 

 息を詰まらせた二亜が、身体を激しく震わせる。耐えきれないというように、頭を抑え膝をついた。

 当然、士道は二亜に駆け寄ろうとした――――――彼女の身体から溢れる、漆黒の霊力(・・・・・)を目にするまでは。

 

「二亜……ッ、な、――――――!?」

 

 ――――――痛い。

 

「が、……ぁ、ああああああッ!!」

 

「士道さん!?」

 

 頭が割れる。〝何か〟が、持っていかれる。劈く悲鳴。嘆きの怨嗟。鏡に映し出された、絶望(憎悪)

 立っていられない。引っ張られる(・・・・・・)。全身の寒気が止まらない。

 あまりに強く握り過ぎたのか、自制を促すために掴んでいた両腕から血が流れ始めた。それすらも、気休めにしかならない。

 一度、手にしたことがあるから、わかる。これは、己であって己ではない。己であり、己である〝何か〟。一度は手放した〝それ〟が、唸り声を上げてせり上がってくる。

 このままでは、士道は士道でなくなる。その、時。

 

 

「シドー!! しっかりしろ、シドー!!」

 

「士道さん、気を確かに。受け入れるだけではいけませんわ。受け流して――――――あなた様の意思を貫いてくださいまし!!」

 

 

 二人の手が、触れた。

 狂三と士道だけではない。精霊たちの声が聞こえてくる。

 士道の意思。士道のやるべきこと――――――全てを変える――――否、今は、ただ――――――二亜を、救う(・・)

 

 全力で、自身の頭を殴りつけた。

 

「ぐ、あぁッ!!」

 

「士道!?」

 

 脳が揺れる。皆が受け止めたことで、何とか倒れることだけは防ぐことができた。自分に対して遠慮せず拳をぶつけたことで、頭が恐ろしく痛む。

 しかし、お陰様で帰って来られた(・・・・・・・)

 

「士道さん、士道さん。意識はハッキリしていまして? 何か、おかしなところはありませんか?」

 

「大、丈夫だ……今のは、二亜(・・)の……」

 

 寄り添う狂三に返事を返すと、不安げな表情の精霊たちもホッと息を吐いた。だが、すぐに表情を引き締め直す。

 士道の中の何かと、二亜から漏れ出た〝何か〟が、合致して、引っ張り合うように共振(・・)した。

 下手をすれば、いいや、戻ってこられたのは狂三たちがいたからだ。士道一人だったら、間違いなく取り返しがつかないことになっていた。漠然とした予感に、士道は顔を歪ませ吐き気を抑える。

 

「……ええ。一度抑え込んだからと油断なさらず。どうか強く気をお持ちになってくださいまし――――――来ますわ(・・・・)

 

「……ッ!!」

 

 切れた額から流れる血を乱雑に拭い、士道は立ち上がって正面を見やる――――――あまりに、絶望的な光景があった。

 近づいただけで、身体が溶けてしまうのではないかと思える濃密な霊力。それに呼応してか、空間震警報が街全体に響き渡った。

 霊力の塊は、汚染された泥だ。触れた地面が溶解し、聞くだけで心臓が潰れてしまいそうな二亜の絶叫が辺りの物をひしゃげさせていく。

 もはや、確かめるまでもない。士道たちの目の前にいる二亜は、普通の精霊ではなくなった。

 疑問、戦慄、呆然。あらゆる色を声に乗せて、士道は言葉を作った。

 

 

「――――反転、精霊……!!」

 

 

 ――――――世界を狂わせる『魔王』。絶望の権化が、顕現しようとしていた。

 






ヒーローとして完成されているが故の、個人的感情からもたらされる不純。言ってしまえば、このリビルドという物語は邪道で歪んでるんですよね。本気でありのままを伝えれば、そら歪んでるとなります。
だって、ヒーローとして存在する士道が、最初から狂三にだけは特別な感情を持って救おうとしているのですから。純粋な救いの中に紛れた、不純な動機。けどそれは、人として正しいものだと思います。
人を愛することが罪だとでも…(ユートピア!)ただ、やり方間違えたらバッドエンドまっしぐらな感情ですけどね、これ(フラグ構築)

さあ、今回もクライマックスの時間です。ショーの幕開けも近づいて参りました。果たして、反転した二亜と霊結晶の行方は……?
感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!

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