デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!(最終巻に精神崩壊オタク)





第百三十二話『救う者の過去/救われし者の未来』

 

 

「――――あの時は驚いたわよ。いきなり倒れるんだから」

 

 晴れ着を着た琴里が腕を組み、士道の隣でそう言ったのを聞き、士道もバツが悪い顔で言葉を返した。

 

「悪い……心配かけたな」

 

「別に。私は慣れてるわ――――私より、あの子でしょ」

 

「っ……」

 

 琴里が言いながら真っ直ぐに見つめた視線の先には、神社の境内で二亜と言葉を交わす狂三の姿がある。

 思わず士道が顔を顰めてしまったのは、後に聞いた話があるからだ。今は素っ気なく平気そうにしている琴里も、真那から相当狼狽えていたと聞いていたが、狂三はそれ以上だったというのだ。

あの狂三に(・・・・・)、そこまでの動揺をもたらしてしまったのは、単純ながら士道の心に強い罪悪感を残していた。

 

「……平気そうにしてるけど、あんな取り乱した狂三は初めて見たわ。……なんか、改めて考えると不思議ね。狂三がそこまで、士道のことを考えてるなんて」

 

「そうだな。俺も、夢みたいだと思うよ」

 

 でも、現実だ。夢なんかじゃない。士道は狂三に恋をして、狂三は士道に恋をして。

 もうすぐ、一年。狂三との出逢い。狂三との約束。狂三との戦い――――戦争(デート)。今なお続く、お互いの命運をかけた争い。

 

「不思議だって思うのに、受け入れてる自分が何だか怖いわ。士道が狂三のことを考えてるのもね」

 

「……一年前だったら、どう思ってた?」

 

「おにーちゃんを精神科へ問答無用で叩き込んでたわね」

 

「はは……」

 

 割と本気(マジ)なトーンで言うものだから、士道は乾いた笑いで曖昧な返答をする。多分、いや確実に、実行されていたに違いない。

 それくらい、自覚はあるのだ。真っ当な考えじゃないのは理解している。自分を殺しにきた少女と、殺される対象。常識を、論理を問えば、士道は立派な精神異常者だ。

 けど、だからこそ、五河士道は五河士道として歩いていける――――たとえ、秘められた記憶がなんであろうと。

 

「……何か、思い出した? その……ミオって人のこと」

 

「……全然だ」

 

 いろいろ、考えたりはしてみたのだが……結局、反応らしい反応があったのはあの時だけだった。

 『ミオ』という名を聞いて引き起こされた幻聴も、幻覚も、一切現れることはない。それに、狂三の前では意図的に『ミオ』の話題を避けていたのも大きかったかもしれない。

 

「狂三に、何か聞いたりしてないよな?」

 

「当たり前よ。封印前だからこそ、狂三ほどの精霊の精神を不安定にする話題なんて、聞けるわけないでしょ」

 

 渋面を作って答えた琴里に、そっか、と気のない返事をしてしまう士道。けど、事の重大さを理解しているからこその返答だった。

 〈ラタトスク〉の司令官として琴里がそう判断したなら、士道は迂闊に意見を述べるべきではない。というより、士道も琴里と同じような意見だった。

 十中八九、狂三は『ミオ』という人物が誰なのかを知っている、ないし知識にある――――士道の失われた記憶の中にある名前を、だ。

 

「偶然、なんて言葉で片付けられないわ。ミオって人の名前を出した瞬間、狂三が激しい動揺を見せて、それは士道の記憶にまで関わっている名前だった」

 

「…………」

 

 狂三に焦燥を抱かせるだけの名前。それが、士道の口から迸った。

 謎が多すぎる。というのが率直な感想だった。何故、一体いつ、士道は『ミオ』を知ったのか。狂三と『ミオ』はどういう関係なのか。そして何よりも、狂三が隠し、秘めたる過去――――彼女の言う犯した過ち(・・・・・)と、何か関係があるのか。

 

「それだけじゃない。〈アンノウン〉のことも、私たちはいろいろなものを見てきて、知って、それでも……今、何も知らないのと同じなのかもしれない」

 

「何も知らない、か」

 

 琴里の言う通りかもしれない。いろいろ知ったつもりになって、士道たちは何もわかっていない。

 精霊のこと。狂三のこと。〈アンノウン〉のこと。自身の記憶でさえも。

 

 けど、それでも(・・・・)

 

「その通りかもしれない。けど――――俺たちがやることは変わらない、だろ?」

 

「……!! ええ、そうね」

 

 快活に琴里に笑いかけ、琴里も目を見開いてから、即座に頷き言葉を返す。

 変わらないさ。士道は、助けたいと思った人を助けて、救いたいと思う人のために力を使う。何も知らなくても、何かをしたいと思うのだ。

 

「昔のこと、今は何も思い出せないけどさ……たとえ思い出しても、俺は俺でいたいと思う。狂三も、そう言ってくれたからな。琴里だって、そう思ってくれてるだろ? 何せ、俺の世界一可愛い妹さんなんだからな」

 

「な……あ、当たり前でしょ!? どっかに行こうとしたって、絶対に引き止めてやるんだからね!!」

 

「おう。頼むぜ」

 

 へへ、と笑う士道に、頬を赤くした琴里が誤魔化すようにフンッと腕を組んだまま胸を張る。

 生まれもわからない。どうして、精霊を封印する力があるのかさえ、わかっていない。己に疑問を持つことも、ある。

 

 けれど、〝五河士道〟はここにいる。

 

「……いかないで、か」

 

 空を仰いで、今一度呟く。

 誰でもない彼女が、士道を愛しているから、士道が誰であれ関係ないと言ってくれた彼女の言葉だから。

 

 

「――――いかないさ、どこにも」

 

 

 強く、胸に刻みつける。どんなに恐れる真実(・・・・・)が待っていようと、五河士道は消えてなんかやらない。

 

 

「琴里」

 

「何よ」

 

「俺、決めた。次に狂三を泣かせる時は、絶対に嬉し泣きさせてやるって」

 

 

 流れる雲を仰いで、一部の迷いもなく決意を口にする。あの泣かないお嬢様を、絶対に泣かせてやると。

 すると琴里は、ポカンと目を丸くしたのち……プッと吹き出して笑いながら声を返した。

 

「あはははっ!! そりゃ、いいわね。乗ったわ――――私も、決めたの」

 

「ん?」

 

「私が、私たちが目指すのは完膚なきまでのハッピーエンドよ。狂三も、あの子も、揃って笑える未来。付き合って、くれるわよね?」

 

 ニヤリと不敵に微笑む司令官様に、士道も同じだけ不遜な笑みを返してゆっくりと握った手を上げた。

 否定の答えは望まれていないし、持ち合わせてはいない。

 

「当然。頼りにしてるぜ、司令官」

 

「そっちこそ。頼りにしてるわよ、世界最強のプレイボーイさん」

 

「せめて他の名前にしてくれって」

 

 苦笑しながら、同じく琴里が掲げた拳とコツンとぶつけ合う。

 やるべきことは変わらない。何が待ち受けていようと、誰が何を企んでいようと――――士道たちは、未来(ハッピーエンド)を創って見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ねー、くるみん」

 

「はい?」

 

 絵馬掛所で、適当に絵馬をくるくると振り回しながら、二亜は世間話と変わらないトーンで声を発した。

 

「言わなくて正解だったよね? いろいろと(・・・・・)

 

「……ええ」

 

 表情はいつもと変わらない微笑みだというのに、頷いた時の声色は酷く神妙なものだった。

 本当、どこまでも芸達者な子だなと二亜はその神妙な空気を流し切るべく、深く息を吐いた。

 

「あー、よかったよかった。どこまで話していいか、結構困っちゃったのよね。あたしはベッドと同居。くるみんは少年と付きっきりで、あの時はサシで話す時間もなかったし」

 

「申し訳ありませんわ。わたくしが頼み事をしたばかりに、二亜さんに余計な心労を負わせてしまいましたわね」

 

「ノンノン、ノープロブレム。秘密の共有ってなかなか楽しいもんだしねぇ」

 

 指を立てて左右に揺らし、茶化すように二亜は言葉を発する。

 そういう意味では、このタイミングで偶然二人きりになれたのはちょうどいい……というより、半分は狙ってのことなのだろう。

 

「くるみんは隠し事が多そうだったからねー。一応、気をつけながら喋ったんだけど、二亜ちゃんやっぱり演技派じゃない?」

 

「どちらかと言えば、余計なことを口走って物語の途中で退場してしまう重要キャラに見えますわ」

 

「わお、辛辣ぅ。……〈囁告篇帙(ラジエル)〉のこと考えたら、割と間違ってないのがまたね」

 

 余計なことを知れてしまうし、そのくせ戦闘能力は大したことがないのだから本気で『君は知りすぎた』、という定番の台詞を言われるタイプだと二亜は自分で自分の立場を苦笑した。

 と。冗談を口にした狂三が、眉を下げて申し訳なさそうな顔を見せた。

 

「……本当に、申し訳ありません。あの方たちに隠し事をする立場など、わたくしだけで十分でしたのに」

 

「いいよいいよ。憎まれ役は年長の仕事ってね。個人的な相談事の中身を、本人に許可なく話すつもりもないしね」

 

 それこそ、信用問題だろう。

 仮に、狂三が士道たちのと関わりが浅ければ何かの拍子で話題にしたかもしれないが、狂三は彼らと密接な関係を持っている。だから、その狂三が士道たちに隠したがっているということは……そういうことだ。

 

「感謝いたしますわ」

 

「気にしないでよ。……こっちも、いろいろ(・・・・)勝手に()ちゃった罪滅ぼしみたいなところもあるから、さ」

 

 眉根を下げ、小さく謝罪するように手を作ってみせると、狂三は大きく目を見開いてから、納得したように悲しげな微笑みを浮かべた。

 

「……視て、楽しい記憶ではありませんでしたでしょう?」

 

「あはは。得られたのは、少年もまだ知らないくるみんの記憶を視れた優越感くらい、かなぁ」

 

 記憶は全てではなく、所詮は断片的なものだ。けど、それでさえ狂三が抱えるものの大きさを感じさせるには十分すぎた。

 〈ナイトメア〉時崎狂三。世界に現存する精霊の中で、〝最悪の精霊〟と呼ばれる者。世界の災厄、大悪人――――そこに至るまでの道を、彼女は決して言い訳しない。

 

「ごめん。視るつもりはなかった……なんてのは体のいい言い訳だね。〈囁告篇帙(ラジエル)〉は、あたしが望んだものを視せただけなんだから」

 

「構いませんわ。それで、あの時の二亜さんが納得したなら、わたくしの過去の記録など安いもの――――――けど、知らないままで、いてほしいですわ」

 

 憂いを帯びた顔と、声音。

 それは、恐らく、二亜に向けられたものではない。彼女が誰より愛しいと思う少年に向けて、慈悲を以て形になった言の葉。

 慈悲であり、傲慢なまでに抱え込んだ罪業だった。

 

「……いいの?」

 

「よくはありませんわね。わたくしも、知りたいと思うことは多くありますもの。知らなかった結果を、わたくしは誰よりも知っているつもりですわ――――――同時に、知ってほしくない気持ちも、わかってしまいますのよ」

 

 その分かり切った二律背反。

 知りたくない。知ってほしくない。でも、あの人はきっと知りたいと思う。

 

「あたしも、なまじあんな天使を持ってたから気持ちはわかる。でもね、くるみん。知らないでいた方がいい時と、知らなきゃいけない時は別だよ。少年だって、それはわかってる」

 

「……知らずに全てを終わらせられるなら、何も問題はありませんわ」

 

「あらら、くるみんがそれ言っちゃう? 少年はそういうの、嫌いそうだけどな」

 

 結果を求めて道中にある〝何か〟を取りこぼす。それは、士道という勇者(ヒーロー)が見過ごせないものだ――――それをしたら最後、狂三は何もかも救われず、物語が終わってしまうのだから。

 

「漫画家として忠告しておくとね、何もかもどんでん返しで全てが丸く収まるなんて方法、そうそうないんだよ。都合のいい話には、何かしらの落とし穴(・・・・)があるってのが定番だからね」

 

「……っ!!」

 

「あんまり説教臭いのは嫌だから、あたしから言えるのはこれだけ――――――後悔だけは、しないようにね」

 

 狂三が何をしようとしているのかは、あくまで二亜の憶測に過ぎない。けど、本当にそれ(・・)を実行しようとして、何もかもを覆そうとしているのなら――――――せめて、この時間で狂三が後悔しない選択をしてほしい。

 我ながら似合わない真剣な顔だと内心で自嘲しながら、言葉を噛み締めるように沈黙を保つ狂三を見守る。

 やがて、表を上げた狂三が、その重々しい表情で唇を離した。

 

「……何だか、二亜さんが年上なのだと実感いたしましたわ」

 

「第一声がそれ!?」

 

 あまりに酷い言いように、さすがの二亜も無条件で傷つくいた。大仰に身振り手振り騒いでみせれば、調子を取り戻した狂三がくすくすと笑っていた。

 

「ありがとうございます。二亜さんのお言葉……肝に、銘じておきますわ」

 

「……ついでに言っておくとさ、いろいろ抱え込みすぎなんだと思うよ、くるみんは。少年にも言ったけど、ちょっとは遊び心を持ちなよ。重い荷物抱え込んで折れちゃったら、二亜お姉さんは悲しいからね」

 

「無用な心配ですわ。事を終えるまで、わたくしは決して倒れたりはしませんもの」

 

 だから、そういうところ(・・・・・・・)だと言っているのだが。結局、二亜が何かを言ったところで意見を曲げたりはしないのだろう。

 よくもまあ、これほどの頑固者と常日頃から対話をしていて折れないなぁ、なんて二亜は軽く息を吐いた。

 

「……はぁ。二亜さんは今後のくるみんの将来が不安だよ。今までの反動で、引きこもりのゲーム人間になって少年に世話されるシチュエーションとか展開しそうでさ」

 

「やけに具体例をお出しになりますわね……」

 

「もちろん、漫画家ですから」

 

 キランと歯を光らせるような仕草を見せたら、見事に笑われた。解せぬ気持ちである。やはり少年じゃないとダメかぁ、などとくだらないことを考えながら来た道を戻る。

 あまり長く話していては、怪しまれてしまうだけだろう。無言の行動だったが、二亜の意図を読んで狂三も同じ行動を取る――――その時、狂三が声を発した。

 

「――――先程の隠し事(・・・)に関してですが」

 

「うん?」

 

「わたくしが、士道さんと再び相対(・・)するようなことがあれば、遠慮せず話して差しあげてくださいまし。きっとあの方、わたくしが成すべきことは察してくださっているでしょうから」

 

「……そうかい。そうならないことを、あたしは祈ってるよ。できれば、自分から告げてくれってね」

 

 言って、ひらひらと手を振り士道の元へ歩いていく狂三を見送った。

 その背も、微笑みも、相変わらず変わりのないものだったけれど……僅かに見えた悲しみは、その未来を予期しているかのように二亜には感じ取れた。

 時崎狂三の、目的(・・)。『始原の精霊』を、討滅すること。

 士道が始原の情報へ達することを、狂三は間違いなく懸念している。それは、何故か……『ミオ』と呼ばれた名とも、関係があるのかもしれない。知らないまま、全てを終えたいと思っているのに、このように二亜に言伝を挟み込み、士道が一方的に不利になる事象は防いでいる。

 お互いに迷いのない好意を向けているのに、お互いの気持ちがすれ違って噛み合わない。物事は単純であるはずなのに、嫌に複雑化していると二亜は天を仰ぎたくなる。

 

「はー、めんどくさい子たちだなぁ。ねー、なっつん」

 

「ひゃいっ!?」

 

 びくぅ、と身体を揺らした拍子にガタガタと椅子も揺れ、大変に愉快な仕草で七罪が全身で体勢を整えていた。

 いやほんと、見てて飽きないなこの子と二亜はケタケタ笑いながら声をかけた。

 

「盗み聞きは感心しないなー。あたしみたいな悪い大人になっても知らないよん?」

 

「ぁ……ぅ」

 

 二亜が言った途端、七罪はテーブルに頭を俯かせ、恥ずかしそうに顔を隠す。

 

「……ご、ごめん。気になって……けど、話は殆ど聞こえなかったし……」

 

 まあ、そうだろう。精霊の力を失った七罪では、この広い境内で盗み聞きをしようにも限界があるはずだ。

 二亜が七罪の盗み聞きに気づけたのも単純な話で、七罪なら狂三のことを気にかけて悟っているのではないかと思っただけだ――――これは、他の子にも言えることだろうけど。

 

「あはは、そんな大層な話はしてないよ。ただ、あたしがお節介を焼いただけだから――――心配なんだね、少年とくるみんのことが」

 

「……当たり前じゃない」

 

 二亜の言葉を聞いた七罪は、さっきまでの弱気な声色とは違う、強い意志を持った声で顔を上げた。

 

「私はみんなに救ってもらった……なのに、あいつらだけ救われないのは嫌なの。どっちかしか報われないなんて、悲しいし……こんなの、ワガママなのかもしれないけど……」

 

「……ううん。全然、ワガママなんかじゃないよ」

 

 七罪の髪に手を触れさせ、軽く撫でて……軽くと思ったが、思った以上にふわふわしていて癖になると、二亜はわしゃわしゃと激しく手を振った。

 

「もう!! なっつんは本当良い子だなぁ!!」

 

「ちょ、やめて髪が崩れるから!! あー!!」

 

 癖っ毛でセットに苦労した七罪には悪いが、これは別の意味で癖になりそうだった。

 暴れる七罪を捕えて一通り戯れたあと、スッキリとした顔で七罪を解放する。逆に、七罪はぐったりとしていたが。

 

「……びょ、病人の癖に、なんでそんなに元気なのよ」

 

「あっはっは。漫画家はもっとヤバい状況に見舞われるものだからねぇ」

 

 締切とか締切とか、たとえば締切とか。

 エッヘンと無い胸を張って――喧しいわ、少しはあるわ――みせれば、七罪が呆れ果てた視線を向けていた。

 緊張感がありすぎる会話は、あまりに得意ではない。けれど、まあ少しは年上らしく頑張ってみましょうか、と二亜は微笑を作った。

 

「あたしも同じだよ、なっつん」

 

「え……?」

 

「いろいろと、辛い現実も見てきたけどさ……そんなどうしようもない絶望から救ってくれた人たちが、どっちかしか報われないなんて誰だって嫌でしょ――――良いもの(・・・・)、見せてもらっちゃったしね」

 

 かけがえのないものを見せてもらった。それだけで、どんな過去があっても新しく生きていける。

 そう笑いかければ、七罪が気恥しそうに頬をカァと赤く染めた。

 

「かか、何やら闇の会合が行われているようだな」

 

「拝聴。夕弦たちにも無関係ではありません」

 

 と。どこから聞き付けたのか、晴れ着姿の耶倶矢、夕弦が絵馬を持って二亜と七罪の元に現れた。

 いや……彼女たちだけではないようだ。残りの精霊たちも、ぞろぞろと惹かれ合うように、少し離れた場所に位置取っていた二亜たちの元へ集う。

 

「シドーと狂三の話か? 仲間外れは良くないと琴里も言っていたぞ!!」

 

「わ、私たちも……力になりたい、です……!!」

 

「秘密の作戦会議ですかー? 何だか楽しそうですー!!」

 

「……まだ借りを返しきれていない。何かをするなら、力になる」

 

「――――あーらら、愛されてるねぇ」

 

 全員が救われて、全員に迷いがない。かくいう二亜も、恩を返すことなく事が進み続けるのを許容する人間ではない。

 何ができるかはわからない。結果、最後は二人の選択に全てを委ねる他ない。けれど、そこに至るまでに――――二亜たちでも、何かを変えられるはずだ。

 

「それじゃみんな、集まった集まったー」

 

 ニカッと笑顔を浮かべ、みんなを集めて円陣の形を取る。その中心に二亜が手を翳して、意図を読んだ子たちと、流れに釣られた子たちが手を重ね合わせた。

 少々目立つが、第一声の気合いというのは大切だ。いっそ、見せつけてやろうと二亜は強く声を発した。

 

 

「それじゃ、『少年とくるみんを円満にくっつけちゃおうぜ!!』グループ、結成だー!!」

 

「その名は推奨しかねる」

 

「あれぇ!?」

 

 

 とまぁ、振り上げた手とは違い、意志が完璧というわけではなかったが――――――ハッピーエンドに向けて、自分たちなりに足掻いてみようと言うことだ。

 

 こういうのも、悪くないなぁ。そう、今の二亜なら思えるから。

 

 

 








それぞれの誓いを胸に、それぞれの未来を描く。さあ、終わりへ向かいましょう。

未来を予見する精霊となった狂三は、果たしてどこまで視えているのか。それとも、何も視ようとはしていないのか。
本当に二亜って子は勝手に動くというか、動いてくれると言うか。あれこんな頼れるキャラだっけ……?頼れるキャラだったわ(洗脳)みたいな感じです。

目指すべきは過去か、未来か。未来は過去によって培われる。過去を変えるということは、過去にあった何かを踏み躙るということ。かつて狂三が言った言葉ですね。そして、二亜は別の方面で苦言を呈する――――本当に、全てが救われるのかな?

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次話はついに六喰登場と、とある二人の未来(おわり)を語らいましょう。次回をお楽しみに!!

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