デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百三十三話『私に、さよなら』

「――――ふうん。これはまた」

 

 宙に浮かぶ一冊の本。そんな摩訶不思議な光景の真っ只中、ベッドから上半身だけを起こした少女は左手を本に翳し、輝く頁より得た情報を吟味する。

 

「……〈封解主(ミカエル)〉――――十人目。いえ、八舞を二人とするなら十一人目ですか。どこにいるのかと思えば……」

 

 残された最後の一人(・・・・・)の行方。新たに借り受けた(・・・・・)力を使い、粗方の情報を探り終えた少女は、かの精霊がいるであろう方角、直上(・・)へ視線を向けた。

 最も、そこにあるのはこの1ヶ月過ごした病室の天井だけで、該当する人物が見つかるわけでもない。

 そのような場所に雲隠れしていれば、最後に回るのは当然といえば当然の話であるし――――これは、今の士道でなければ到底手に負えない難物だろう。

 そうして、次の情報を探っていた少女だったが、ふと現在の光景(・・・・・)が頭に流れ込み、ピクリと眉根を上げた。

 

「……暇潰しの有言実行ですか。まあ、あちらが動かなければ始まることもないでしょうけれど……あの時、微かに力が流れましたか。まったく、これだから魔術師(ウィザード)という人種は……」

 

 とはいえ、できることなどたかが知れている。せいぜい、このように離れた相手の位置を長い時間をかけて探る程度のことしかできない。

 寧ろ、そちらより激突した際の対応だろう。一応、この力を利用してやれるだけの手(・・・・・・・)は加えはした。

 さて、どうなることやらと、少女は長い髪を右手でかき上げた(・・・・・・・・・・・・)

 扉の外からノックの音が聞こえたのは、まさにその時だった。誰かなどわかりきっている。間を置かず、少女はノックに声を返した。

 

「……どうぞ」

 

「……失礼するよ」

 

 扉を開けたのは、わざとらしいくらい深く刻まれた分厚い隈と、軍服のポケットに鎮座した傷だらけのクマのぬいぐるみが特徴的な女性、村雨令音だった。

 だが、いつもは感情の起伏が感じられない令音の目が大きく見開かれ、酷く驚いた様子を見せている。それは少女が扱う〝天使〟を見てか……或いは、白い少女の素顔(・・)を見てか。

 

「……私じゃなかったら、と聞くのは野暮かな?」

 

「野暮ですね。まあ、その面白みのない反応こそ野暮ですけれど」

 

 驚きはあっさり引っ込んで、状況の判断をきっちりしてしまうのは、わかってはいたが本当に可愛げがないことだと少女はため息を吐く。少女に可愛げを見せたところで、どうなるというものでもないのだが。

 

「あなたが来るのはわかってましたし、監視などその他諸々は先に目を潰してます、ご安心を。生憎、私は狂三と違って二つの天使を同時に扱えるほど器用じゃありませんので」

 

 言いながら、少女は宙に浮かせた本――――〈囁告篇帙(ラジエル)〉を閉じ、消失させる。すると、機能を自主的に半停止させていた天使、〈擬象聖堂(アイン・ソフ・アウル)〉が即座に少女の身を覆う衣を出現させた。

 それこそ、調べてさえいればこの短期間で誰がこちらを尋ねてくるかも容易に把握できてしまうし、機能の大半が扱えないと言っても、手馴れた天使は軽く応用して、なるようになってしまうものだ。

 

「……さすがだね。もう〈囁告篇帙(ラジエル)〉を使いこなしているなんて」

 

「……まさか。見様見真似です。本条二亜や、狂三ならもう少し上手く扱えるのでしょうが」

 

「……君は、いつも自身と比べる時には狂三がいるね」

 

「一番わかりやすいでしょう。あの子なら、本当に軽く扱ってみせますよ」

 

 あれほど扱いづらい〈刻々帝(ザフキエル)〉を手懐ける才女だ。少女はそれが出来ると狂三に信頼を置いているし、出来ないとも思っていない――――――変な話だ。力の行使にはこれほど信頼を置いているのに、他のことはお互いに踏み入らないままなど。

 けれど、もうすぐ終わる(・・・・・・・)。〈囁告篇帙(ラジエル)〉を手にした少女は、元々あった確信を更に強めることができた。

 

「……ま、持って欲しいとは思いませんけどね。意外と、わかりすぎるというのはつまらないものでしたよ。迂闊に話して、先入観を持たれたら台無しです。良いことなんて殆どない」

 

「……今日は、やけに饒舌のようだけど」

 

「ええ――――そろそろ、お別れですから」

 

 今日くらいは、まあいいだろうと思ったまでだ。

 少女の突然の発言に驚くわけでもなく、しかし何も感じていないわけではないらしい。令音が眉根を下げて、言葉を返す。

 

「……琴里たちが寂しがるね」

 

「何かにつけて頻繁に皆さん訪ねて来ましたからね。退屈はせずに済みました――――ううん、こういう言い方は、ずるいか」

 

 正直な答えさえ満足に出せない自身の愚かさに、自嘲を込めた笑みをこぼす。

 思い返せば、何かと騒がしいと表現できる人たちだった。十香は元気づけのつもりなのか、やたらと食料を持ち込むし、八舞姉妹はいつの間にか話がヒートアップして姉妹対決を始めて、しばらくしてから現れた琴里に怒鳴られてしまうし、美九は相変わらず隙をついてローブを剥ぎ取ろうとするし、七罪と四糸乃は……平和すぎて困惑した。敢えて言えば、七罪のネガティブ病が発動して四糸乃と二人で困ったくらいか。

 折紙は、唐突に現れたかと思えば車椅子で外へ連れ出してくれたか。それは、率直に言うと悪くなかった。有り体な言い方をすれば、楽しかったというべきだろう。

 士道と狂三は――――本当に、目が離せない子たちだと、思わせてくれる。

 

 ああ、そうだ――――愛おしい(・・・・)。彼らの日常が、平和が、当たり前の全てが、少女にとっては愛おしい。狂三もきっと、同じ想いを抱いている。

 ならば、少女が成すべきことは決まった。否、元より決まっていたのだ。

 

「ここまで来たのは、少し意外でした。あなたからすれば、想定通りの状況なのでしょうけど」

 

「……いいや。私にとっても予想外のことはある。恐らく、君と考えは同じだよ」

 

「……ん。本当、最後まで引っ掻き回されそうですね」

 

 揃って、思い浮かべた二人が同じだと笑い合う。

 最後まで、あの二人はお互いのカードを手放さない。少女も、令音も、あそこまで情熱的な想いをぶつけ合いながら、どちらの願いも叶っていないというのは最初から予測することなど不可能だ。それだけは、ある意味で最初から揺るがなかったと言うべきかもしれない。

 

「……あ、私が送った例のデータ、〝秘密兵器〟に付け加えてくれました?」

 

「……ああ。けど、かなり急な話だったからね。ほぼ急造品同然のものになりそうだ」

 

「十分じゃないですか。この一回を乗り切る前提で、言ってしまえば使い捨てです」

 

 それも、特定の一人専用の機能を付け加えるという、一歩間違えればデッドウェイト同然の設備。時期を考えれば、よくもまあ作業に付け加えられたものだと素直に賞賛を抱いた。

 

「……うん、十分。私としてやるべきことは、もう殆ど残ってないですね」

 

「…………」

 

 残すべきものは残して、やるべきことは全て終わらせる。

 残された最後の力。それを円満に導くことができたなら、その時は――――――

 

 

「――――ねぇ、『私』」

 

 

 そう、だからこれは、ズルいお願いだ。

 ローブに手をかけ、再び顔をさらけ出す。ここからは、私ではない『私』としての願い。

 『私』がどれだけの想いでここにいるのか知っている。

 『私』がどれほどの願いを抱いているかも知っている。

 

「……なに?」

 

「『私』からのお願い。どうか――――あの子たちの決断を、最後の一瞬まで待ってあげて。どうなるかは、わからないけど……その時までは、士道(・・)を信じてあげてほしい」

 

 『私』の顔が僅かに歪む。当然のことだ。その決断の果てに、『私』の願いの全てが無に帰す可能性がある。

 けれど、彼女は『私』。いいや、少女が願うのならば『私』になれる。そうであるならば――――三十年の祈りの中に、慈悲があると信じたい。

 精一杯、慣れていない不器用な顔で笑いかけた。

 

「お願い。これは『私』だけじゃなくて……それなりに頑張ってきたつもりな、私の最初で最後のワガママです」

 

「……ずるいね」

 

「ええ、ずるいですよ。だから、お願いしますね――――私の、神様」

 

 ここぞという時に狡賢いのは誰に似たのか――――誰かの影響で、そうなっただけかもしれない。

 なまじ、元の影響下を受けて生まれただけあって、他の誰かの影響を受けやすいというのは否定できない。

 

「……おかしいなぁ。『私』の邪魔を、私がするつもりは全然なかったのに。ほんと、ごめんね」

 

「……いいよ。君の頼みなら、一瞬だけでも――――『私』が彼を手に入れる時間を、待とう」

 

「……ありがとう、『私』」

 

 全く、意味がないのかもしれない。その結果、誰かの願いが叶わなくなるだけなのかもしれない。

 だが、未来は神にさえわからない。だったら、最後まで悪足掻きでも何かをしてあげたいと思った――――――どの道、最後まで見届けることができそうにないのが、少しばかり残念だ。

 けど、嗚呼、嗚呼。〝計画〟さえ果たされればいいと思っていたのに、見届けたい(・・・・・)。そんな思い上がりを、少女は抱いてしまっていた。

 

「……嫌な、未練ですねぇ。まあ、いろいろ楽しくいさせてもらいましたし――――ありがとう、村雨令音。もう、私が会うこともないでしょうけど」

 

「……そうか。私からも感謝を。ずっと、彼と彼女を守ってくれたことへ」

 

 一つ頭を下げ、令音が扉の向こうへ戻っていく――――――次に会う時は、もういない(・・・)

 だから、なのだろう。最後に令音は、それを口にした。

 

 

「さようなら――――――私の、妹」

 

 

 彼女の表情は、遂に見えることはなく、薄い一枚を隔てて消える。

 

「……は、はは。なに、それ……」

 

 乾いた笑いだけが感情を表し、腕で顔を覆い隠すようにベッドに少女は背を預けた。

 最後の最後で、何だそれは。だから、話したくなんかなかったんだ――――――こんなモノにすら、慈悲をかける人だと知っていたから。

 

 

「……名無しの妹なんて、バカみたい」

 

冷たい何か(・・・・・)と共に流れたのは、取るに足らない感情の発露だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……五回は死んだな、これ」

 

無数に放たれた光線(・・・・・・・・・)に蜂の巣にされ、冷静なんだかヤケになっているのか、恐らくは半々の声をもらす士道。

 とは言うものの、実際に蜂の巣にされたのは士道の立体映像(・・・・・・・)。映るのは、果てしなく広がる漆黒と星々の光――――揺蕩う、長い、長い金色の髪を持つ少女。

 そう、士道は今まさに前代未聞の宇宙に住む精霊(・・・・・・・)と交信を試みていた。

 ……結果は、ご覧の通りの散々なのだが。光線、機械の破片、手に持った錫杖の一撃、機械の残骸、無数の光線――――ざっと、死亡回数は五回と言ったところか。

顕現装置(リアライザ)を活用した鮮明すぎる立体映像の力で、ご丁寧にさも士道が攻撃を喰らっているように錯覚させてくれる。以前に経験した、未来予知による半臨死体験(・・・・・)がなければ、もう少し動揺していたかもしれない。どちらが良いと言う話ではなく、どちらも心臓に悪いという話だが。

 

「……ふむ、まさかこんなにも攻撃的とはね。立体映像での接触にしたのは正解だったようだ」

 

「!! 待ってください。精霊が!!」

 

 クルーの椎崎が叫んだ拍子で、士道は顔を上げると――――精霊が、幾度目かの再生を遂げた士道の顔を興味深げに覗いていた。

 

 

 

 

『断る』

 

 結果からいえば、拒絶された。

 識別名〈ゾディアック〉。人としての名は、星宮六喰。

 士道の第一印象は、無機質が過ぎる、というものだった。そして、六喰という少女に、嘘は通用しない。そんな末恐ろしさすら感じさせる冷たい印象が士道を貫いた。

 が、怯んだわけではない。士道に必要なのは精霊への恐れではなく、精霊を救うという気持ちである。偽りを好かぬ、と言った彼女のため、士道は自身の所属、目的、想いを誠心誠意話した――――話した結果が、少しの逡巡もない拒絶だった。

 しかし、ここでも怯むわけにはいかない。士道は真っ直ぐに六喰を見つめ、言葉を続ける。

 

「……確かに、急に現れてこんなことを言う俺を信用はできないかもしれない。でも、俺はお前を――――――」

 

『別に、疑ってなどおらぬ』

 

「え……?」

 

 それは、士道からすれば想定外の返答だ。士道が言う精霊を救いたい、だから地上へ降りてきて欲しいなどという話は、馬鹿げたことだと初見で判断してしまうのが普通のはずだ。

 

『うぬの言うことは、きっと本当なのだろうよ。うぬの言葉には、純粋な善意が窺える』

 

「じゃあ、他の理由があるってことか……?」

 

『簡単な話よ――――――むくにはその施しを受ける必要がない、ということじゃ。むくは、ここを漂っていられればそれでよい』

 

「っ、でもそれじゃあ、またDEMから攻撃を受けるかもしれない!! 六喰が強いのはわかるけど、さっきみたいな連中とは比べ物にならない魔術師(ウィザード)だっている!! このままじゃ六喰が危ないんだ!!」

 

 士道なりに必死に訴えかける。だが、六喰の表情は一つとして変わらない(・・・・・・・・・・)

 

『うぬが案ずることはない。むくの天使に勝てるものなど存在せぬ――――――もし仮にいたとして、〈封解主(ミカエル)〉で「孔」を開けて逃げれば済む話じゃ。別に彼の星に未練があるわけでもなし。〈封解主(ミカエル)〉の気の向くまま、銀河を泳ぐのも楽しいじゃろうて。それとも、うぬの言う、でー、いー、えむには、光年の先までむくを追ってくる怪物がいると申すか?』

 

「それは……!!」

 

 言葉に詰まる――――――同時に、酷い違和感を覚えた。

 星宮六喰。相応の知と力を兼ね備え、己が天使を最強と謳うに相応しい能力をも備えている。自由自在に物質に『鍵』をかけ、『鍵』を開く。凄まじい力だ。

 だが、なんだ、この違和感は。士道の中で培われた経験が、六喰に対する()を感じ取っている。まだ、確信に至るまでは足りない。なら、至るまで言葉を尽くすまでだと士道は小さく首を振って、続ける。

 

「でも、地上には楽しいことが沢山あるんだ。お前と同じ精霊たちだってたくさんいる。こんなところに一人でいたら、寂しいだろう……?」

 

『寂しい、とな。心配痛み入るが、問題はない。むくは寂しさというものを感じぬのじゃ』

 

「……!!」

 

 感情のない精霊。そんなものはありえない、と否定する気にはならなかった。

 何故なら彼女の手の中には、士道の知識が正しいのなら、それを可能にしてしまえる絶対の奇跡(・・・・・)が握られているのだから。

 

「ま、さか……〈封解主(ミカエル)〉で……っ!?」

 

『左様。もっと正確に言うのなら、孤独のみではなく、痛痒も、悲哀も、憤激も、あるいは興奮も、歓喜も、京楽も――――愛も、感じぬのじゃ。心に、「鍵」を掛けてな』

 

 指し示したのは、六喰が手にした鍵のような錫杖。

 天使〈封解主(ミカエル)〉。その力はあらゆる権能に干渉が可能なのだろう――――――彼女の言うように、目には見えない感情(・・)という人としての機能でさえも。

 

「なんで、そんなこと……!!」

 

『さて……なぜだったかのう。必要がなかった……いや、違うな。それを持つことこそが不幸であると、かつてのむくが思ったからではないかの。今のむくには、もうよくわからぬがな』

 

「それで、お前はいいのかよ!? だって、こんなところを独りで彷徨って……そんなの、悲しすぎるだろ……!! 俺は、お前に、幸せになってほしいんだ!!」

 

『むくの幸福を、うぬが勝手に決めるでない』

 

「……っ!?」

 

 ただ、淡々と。六喰は事の本質を貫いた。それだけで、士道の言葉を止めて見せた。

 

『確かにうぬに救われた精霊もいるのじゃろうよ。むくはそれを否定しようとは思わぬ。じゃが、むくはむくじゃ。なぜ今の状況に満足しているむくに、余計な手を差し伸べようとするのじゃ?』

 

「…………」

 

『それに、大人しく聞いておれば、救うだの幸せだのと……お節介も甚だしいわ。それはうぬのエゴを押しつけているだけではないか? うぬの達成感のために、むくを利用するでない』

 

 お節介。確かに、そうだろう。六喰の言葉は刃となって、士道の心を突き刺す。

 エゴの押し付け――――息を詰まらせ、言葉が止まった。

 

 

「――――そうだ。俺は、エゴでお前を救おうとしてる」

 

 

 けれど、士道はそれを肯定する。

 

「六喰の言う通りだ。俺の想いは善なんかじゃない。俺がしたいと思ったからする、偽善の押しつけだよ。その為だけに、六喰に会いに来た」

 

『……ふむん。それがわかっているなら、むくの答えは決まっている。むくは――――――』

 

「違う。俺が欲しいのは――――――星宮六喰の答えだ。今の六喰じゃない(・・・・・・・・)

 

 士道のその言葉でさえ、六喰は眉一つ動かさない。言語を伝える機能は残っている。それ以外を、本当に『閉じて』しまったのだろう。

 しかし六喰は、たった一つだけ士道に違和感を抱かせる回答をしていた。

 

「偽りは好かない。六喰はそう言ったよな?」 

 

『然り』

 

「なら、俺の質問にもう一度答えて欲しい――――――どうして、心に「鍵」を掛けたんだ? 六喰、君に何があった?」

 

『…………』

 

「それを聞いてからでも、俺が引き下がるのは遅くないだろ? 六喰がそうしたこと自体に、もうとやかく言うつもりはない。けど、お前がここにいる理由を、心を閉じた理由を、俺に聞かせてくれないか?」

 

 警戒心、というものが生きているのかさえわからない。それでも士道は、立体映像で意味をなさないとしても、無表情の六喰へゆっくりと手を差し伸べた。

 士道が話をしたいのは今の六喰じゃない。何かしらの要因で、心を『閉じて』しまった星宮六喰――――――心を閉じてしまうような理由を誤魔化した、星宮六喰だ。

 空言を吐く度、星に礫を落とすとまで言った六喰が隠すこととは、何か。無神経でも、本当に六喰を救いたいからこそ、士道は言葉の限り全力でぶつかる。

 

 ほんの一瞬の、隙間がある。広大な宇宙に比べれば、ないも同然の間が。そうして、六喰は――――言葉を拒絶するように、錫杖の音を鳴らす。

 

『これ以上の問答は、不要じゃ』

 

「っ、六喰!!」

 

『うぬの気持ちは理解した。が、やはり迷惑じゃ。それに……なぜそうまでして(・・・・・・・・)精霊の力を束ねようとするのじゃ(・・・・・・・・・・・・・・・)。うぬは、いや、うぬの後ろにいる者は、何を考えておるのじゃ』

 

「え――――?」

 

 六喰の言葉に、士道は己の信念とはまた別の意味で喉を詰まらせる。

 後ろにいる者。精霊の力を束ねようとする、理由。

 精霊の力を欲するものは――――狂三は似て非なる表現だ。彼女は、士道を救う建前として封印に助力してくれているだけだ。彼女がその気になれば、ここに至る前、とうの昔に士道は喰われている。だから、士道の後ろにいる者、というものが完全に正しいかと問われれば、断じて否と答えよう。

 ならばもう一つは、〈ラタトスク〉。士道をバックアップする組織にして――――――そこまで考えて、士道は彼らのことを殆ど知らないと気づいた。ただ、妹に信頼を置いているから、それだけの理由だ。

 それとも、第三の可能性が――――――

 

『――――話はしまいじゃ』

 

「なっ……待ってくれ、まだ――――」

 

『六喰が望むのは平穏のみじゃ。今のこの現状が続くことのみじゃ。もし性懲りもなく誰かが六喰の前に現れたならば――――そうさな。この星の巡りを、〈封解主(ミカエル)〉で止めてくれよう』

 

「っ……!?」

 

 星――――地球の自転を、止める。

 あまりに壮大であり、あまりに致命的な宣言に、琴里やクルーたちの動揺が士道の鼓膜を震わせた。

 それに気を取られ、士道自身も六喰の宣言に気を動転させてしまったのは、ここまで冷静に事を運んでいた士道らしからぬミスだった。

 

『でー、いー、えむとやらにもそう伝えよ。では然らばじゃ、士道。もう会うこともないじゃろう』

 

 そう。動揺があり、立体映像である士道から六喰の行動を止める術などありはしない。

 士道の唇が動くよりも早く、六喰の無機質な声が魔力と霊力の漂う宙に響いた。

 

 

『――――【(セグヴァ)】』

 

 

 士道を投影していた自律カメラ。つまりは、士道と六喰を唯一繋ぐ存在へ六喰は錫杖の先端を突き刺し、鍵を回す。

 刹那、激しいノイズが走り――――士道の視界は、闇へと還った。

 




『私』に向けてのさよならか、(わたし)に向けてのさよならか。

村雨令音と〈アンノウン〉は、ここで終わり。思えば筆者としても不思議な関係でした。正直、ここのシーンも元はなかったはずのものですし。けど、二人を書いているうちに必要だなぁって……。
万由里の時もそうなのですが、ある一言だけはこの子からは口に出していないんですよね。それが未練なのか、ずるさなのか。
メタな生みの親的には好かれる要素あるのか?と最初から思っている子なのですが、この子の計画も最終段階です。不器用ながら道化を演じる子を、見守っていただければ幸いです。
〈アンノウン〉お見舞い編は希望があればそのうち書くかもしれません(言った時は大体やらない)

そして士道側。六喰攻略RTAかな???? 言うても予想出来てた人はいるんじゃないかなぁとか。リビルドの士道って自分の欲を肯定して、それがしたいから無理をして、勝手をしてるって認めてるんですよ。根本的には彼の善性と、何よりも狂三のために。
ある意味原作より強メンタルで狂メンタル。なのですが、一定の方向に強くなるものは一定の方向に弱くなるのが必然。もちろん原作より弱かったり致命的な弱点となる部分が幾つも存在します。何事も代償ですし……六喰編の本番って、後半戦ですからねぇ。

感想、評価、お気に入りなどなどありがとうございます!!ラストスパートに向けて大変に励みになっております。後書き解説したがりおじさんみたいになっているのですが、ここに書いてあることだったり、それ以外でも感想もらえると物凄く嬉しいのでお待ちしておりますー。
それでは本日はこの辺で。次回をお楽しみに!!
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