デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百三十四話『四番目の記憶』

 

 

「映像、どうしたの!?」

 

「駄目です!! 自律カメラからの反応がありません!!」

 

「くっ……〈封解主(ミカエル)〉で『閉じられた』ってこと?」

 

 六喰が最後に放った言葉、【(セグヴァ)】。

 文字通りに、自律カメラの機能を『閉じた』ということだろう。艦橋から指示を出す琴里が小さく舌打ちをしたのを耳にしながら、士道はノイズの海に呑まれたヘッドセットを外し――――

 

「――――ぷ、はぁ!!」

 

 溜め込んでいた〝素〟を吐き出すように、ドっと息を吹き出した。

 

「……すまん琴里。上手くいかなかった」

 

 士道なりに考えをぶつけて、対話を試みたつもりだったが……結果は、無慈悲に〝拒絶〟という二文字を叩きつけられただけ。

 対面するだけで、相当な精神力を持っていかれた気分だ。掴みどころない、というより、掴めない(・・・・)。六喰という精霊の感情が、文字通り〝ない〟のであれば、士道の言葉は本当に意味を成していない。

 後方の椅子に座り、士道の補佐をしてくれていた琴里に頭を下げると、彼女は気にするなと言うように首を横に振った。

 

「あなたのせいじゃないわ。それより、よく言い負かされなかったわね」

 

「ああ……ま、今更だしな」

 

 外したヘッドセットをクルーの一人に預け、士道は指で軽く服の襟を広げながら琴里の元へ歩く。

 

「俺は俺がやりたいから、精霊を救いたいと思ったからここにいる。俺の意地とか、エゴでどこかのお嬢様(・・・・・・・)を縛り付けてるのに――――――あんな言葉一つで、今更止まってられないだろ」

 

今更(・・)というのは、そのままの意味だ。

 エゴで、自己満足で、精霊を救う愚か者。ああ、その通りだとも。だけど士道は、その結果の果てに誰かが救われるのを知ってしまった――――――だから今回も、無理だと思えるまで己の押し通す。

本当の六喰(・・・・・)を知り、それでも六喰が士道を拒絶するなら、またその時に悩むだけだ。今、あれくらいの言葉で怯んでいたら、狂三に嘲笑われること間違いなしだ。

 

「……?」

 

 と。士道がそれを口にした時、どこからか物音のような何かが司令室に響いた気がした。

 何かが動いたような雰囲気は感じられず、僅かに首を傾げる士道だったが、琴里はそれに気づいた様子はなく、複雑そうな表情でチュッパチャプスの棒を下げた。

 

「……手がかからなすぎるのも考えものね。躾のしがいがないわ」

 

「俺は犬か!?」

 

「にしても、言い負かされないだけならともかく、よくあそこまで踏み込めたわね」

 

 抗議は軽々とスルーされ、琴里は不思議そうな顔でそう問いかける。

 扱いに関しては慣れたものとはいえ、司令官は傍若無人だ。汗で張り付いた髪をかき上げ、士道は気疲れを押し殺し声を返した。

 

「ん……経験則、だな」

 

「経験則? 星宮六喰のような精霊なんていたかしら……」

 

「いたというか……ほら、狂三が学校に転入してきた時あっただろ? その時も、似たような違和感があったんだ」

 

 もう半年以上も前の話に、士道は少しばかりの懐かしさを感じる。半年だというのに、随分と濃いお付き合いになったものだと冗談を口にしたくなるくらいには、衝撃の連続で懐かしさも何もないのだが。

 

「その人と話してるのに、違う、っていうかな……上手く言葉にできるかわからないけど、狂三はあの時、自分を押し殺す〝仮面〟みたいなのを付けてた。だから、狂三と話してるのに、狂三じゃない誰かと話してるみたいな感覚になる時が俺にはあったんだ。六喰は、狂三でも比べられないくらいの〝違和感〟があったってだけだな」

 

「……何? 将来は人生相談で人を騙す職業にでも着く気?」

 

「人の将来を勝手に捏造しないでもらえるかな!?」

 

 真面目な話をしているのに、また一段と酷いことを言ってくれる。両手を上げた士道の抗議も涼しい顔で左から右――――の際、また物音がしたことには士道も何かを察して受け流す。

 まあ、人に理解してもらえる特技とは思えないし、まさかあの経験が役に立つとも思っていなかった士道は、琴里の気持ちがわからなくもないと腕を組んで息を吐いた。本当の六喰を知らないというのに、違和感を感じ取れたのは確かなのだが、現状はわかったところで(・・・・・・・・)、といった状況なのだ。

 

「……つっても、あの六喰と話して……いや、話したとも、言えないかもしれないな。言い方は悪いけど、機能を忠実に実行する『人形』と話をしてるみたいだった」

 

「『人形』、ね」

 

「――――あながち、シンの表現は間違っていないかもしれないね」

 

 すると、士道と琴里の会話を聞いていた令音が、これを見てくれ、とモニターに表のようなものを表示させる。

 琴里とそれをマジマジと見つめ、それが何なのかを二度見してから察した。二度、確認しなければならなかった理由は単純。ひたすらに並行な線(・・・・)が描かれた、六喰の精神状態や好感度を表す表だったからだ。

 

「……シンが六喰と会話をしている間、ずっとモニタリングを続けていたのだが、感情値、及び好感度には一切変化が見られなかった――――『心を閉じた』というのは冗談でも、慣用句的表現でもないようだ」

 

「それじゃあ、本当に……」

 

「……ああ。六喰の持つ鍵の天使〈封解主(ミカエル)〉。鍵を閉めた対象の力を封印してしまう力。それを自らの心に使ったとしたなら――――彼女の心は、外部からかけられるどんな言葉にも、さざ波ひとつ立てないということになってしまう」

 

 改めて、令音からその事実を聞くと、士道と琴里は愕然と言葉が出てこない。

 予測はしていた。しかし、それでは封印などできない(・・・・・・・・)。士道が行う霊力の封印には、精霊との信頼関係が必要不可欠なのだ。今まで、好感度が最低値からスタートする精霊はいたが、そもそも好感度が変動しない(・・・・・・・・・)精霊は初めての経験だ。

 

「……まずいわね。遠距離の対話が意味をなさない上に、彼女にとって人間は十把一絡げよ。もう一度DEMが六喰へ攻撃を始めたとして、その報復が起こらない保証はないわ」

 

 どうやったかは不明だが、そもそも事の発端はDEMが六喰を発見し攻撃。そして、それを返り討ちにした六喰が地球の各所に〈封解主(ミカエル)〉で『扉』を開き、報復としてDEM艦の残骸を『弾丸』として放った。

 被害規模はまだマシな方だ。六喰がその気になれば、地球に甚大な被害を及ぼす攻撃行動すら可能だろう。その驚異を、はいそうですかと見逃せるはずもないのは〈ラタトスク〉であり――――彼女が一人、宇宙を漂うことを捨て置けないお節介焼きが、士道だ。

 顎に手をやり、深刻な顔で告げる琴里に頷きを返し、声を発する。

 

「ああ。DEMの連中に手を出すな、なんて平和主義は通じない。それこそ、今更だ」

 

「そうよ。だから私たちには、六喰の心を解きほぐして、彼女の霊力を封印するしかない……んだけど」

 

「……どうやって六喰と話をするかが問題、か」

 

 対話が必要不可欠だというのに、その対話をする相手が鍵をかけて声が届かない領域に引きこもっているようなものだ。その上、放っておこうものなら地球の危機ときた。

 兄妹揃って腕を組んで考え込んでみるが、それで解決してしまうような案件ではない。重々承知してしまった士道は、仕方なしに司令室の扉へ目を向けた。

 

「ちょっと知恵を貸してもらえないか、狂三」

 

「え……」

 

 琴里が目を丸くして扉を見ると、その前の地面が淀み(・・)、じわりと影が蟠る。それは一瞬にして拡大し始め――――――

 

『……え?』

 

 と。そんな風に兄妹揃って意外な声を上げたのは、その見慣れた〝影〟が数人どころではない規模(・・・・・・・・・・・)に拡がり、勢いよく人が飛び出してきたからだ。

 

「話は聞かせてもらった!! 人類は滅亡する!! それはとてもとても困るので――――」

 

「途中からだけど、話は聞かせてもらった。私たちにも、出来ることはあるはず」

 

「あちょ、あたしの台詞を取らないでよオリリン!!」

 

「お、お前ら……」

 

 二亜、折紙だけではなく、別室で待機していたはずの精霊たちが次から次へと現れ、司令室は一気に騒動の真っ只中に呑み込まれた。

 

「な、何やってるんだ。狂三の影の中に入ってまで……」

 

「むう……すまぬ。だが……」

 

「十香さんは悪くありませんよー!! だいたい、こんな状況でだーりんの心配をするなって方が間違ってます!! ……っていう時に、ちょうど狂三さんが通りかかったので、力を貸してもらったんですよー」

 

 ……なるほど。額に先程までとは違う汗を滲ませ、士道は影から現れた最後の一人を見遣る。

 士道の考えでは、狂三一人が騒動を聞き付け耳を立てていると思っていたのだが、とんだ意表の突かれ方をされた。

 大方、そんな士道の考えを読み取ったのだろう。相変わらず悠然とした微笑みで頬に手を当て、狂三が士道へ向けて声を発した。

 

「話をきいているだけでも、成長いたしましたわね、士道さん。けれど――――士道さんがわたくしの行動を読み切るなど、百年早いというものですわ」

 

 読み負け、というものがそこにはあった。士道は狂三がいることまでは読めたが、狂三が精霊たちを巻き込むことを良しとする動きが出来ると、それを読み切ることができなくて――――今回は無性に悔しくて、負け惜しみを口に出してしまう。

 

「……さっきはちょっと動揺してたくせに」

 

「あら、士道さんにしては的外れなことを仰いますのね。断じて、わたくしは、動揺など、し・て・い・ま・せ・ん・わ」

 

「いーやしてたね。絶対してたね。俺が狂三の話をした時、ちょっと嬉しそうにしただろ!?」

 

「ええ嬉しかったですわ。けれど、動揺などありませんでしたわ。ええ、ええ。一切ありませんわ」

 

「ははは、お嬢様は本当に負けず嫌いだなぁ」

 

「うふふ、あなた様ほどではありませんわぁ」

 

 ははは、うふふ、ははは、うふふ――――それだけだと愉快で終わる笑い合いだが、士道と狂三の間では目線で激しい火花が散っている。

 

「ねーなっつん。少年って、あんなに負けず嫌いだっけ? 諦めが悪いのは知ってるけど」

 

「……いつもはどっちかが大人になるけど、たまにどっちも馬鹿になるのよね」

 

「ああー……」

 

 七罪の呆れを果ての果てにした声を聞き、そこで心の底から納得したような声をもらすのはやめてほしい。他者から見ればそうなのかもしれないが、士道と狂三は至って真面目に戦っているだけである。

 狂三と二人でじゃれ合っていると、琴里が頭を悩ませるように手を額に当て、司令室に集った精霊たちを見回した。

 

「あなたたちの気持ちは嬉しいけど……」

 

「ふん、出し惜しんでいる場合ではなかろう?」

 

「同調。このままでは、地球そのものが危険です。なら、夕弦たちも無関係ではありません」

 

「六喰さんも、この世界のいいところを知れば、壊そうなんて思わないはずです……!! お願いします、私たちにも、手伝わせてください……!!」

 

「みんな……」

 

 琴里の考えはわかる。出来うる限り精霊たちの危険を減らすのが〈ラタトスク〉の使命であり、琴里当人の気持ちでもある。

 だが、今は多くの力が必要な状況で、尚且つ琴里の心中を皆が察しているからこその決断だった。

 ふう、と士道との戯れを終えた狂三が息を吐き、見かねたように前に出て声を発した。

 

「もう良いではありませんの。琴里さんのお気持ち、十二分に伝わっていますわ」

 

「狂三……」

 

「仮にわたくしが力を貸していなくとも、この未来は訪れていましたわ。その程度、〈刻々帝(ザフキエル)〉に頼る必要すらない必然の予測。……大切になさる気持ちもわかりますが、彼女たちの気持ちも汲み取ってあげてくださいまし」

 

「…………はぁ」

 

 狂三にそこまで口を出されて、琴里はため息を吐いて令音へ視線を向けた。

 令音の答えも、この流れでは当然の首肯(・・)だったわけだが……今一度、大きくため息を吐いた琴里は、諦めたように言葉を発した。

 

「……わかったわ。あなたたちもここにいてちょうだい」

 

 押していた自分たちの要求が通った証明に、精霊たちの表情が一気に明るくなる。が、琴里は気を引き締め直すように強い口調で続けた。

 

「でも、今回の精霊は力押しで何とかなるような相手じゃないわ。好感度を上げないと霊力が封印できないのに、そもそもそれ自体が封じられているようなものだもの」

 

「質問。六喰の閉じられた心を、再度開ける方法というのは、存在するのでしょうか」

 

「……断言はできないが、方法があるとすれば、一つだろう」

 

「!! 方法があるのか!?」

 

 十香が目を丸くして、半ば令音に詰め寄るような勢いで前のめりになり、他の精霊たちもそれに続いた。

 

「……期待をさせて悪いが、天使によって閉じられた心は、天使によって開くしかない。鍵の天使〈封解主(ミカエル)〉を、もう一度六喰に使うしかないだろう」

 

「天使には、天使……」

 

 毒には毒を、天使には天使を。思考の時間を作り、士道は口元に手を当て考えを巡らせる。

 天使の力は膨大な霊力の塊が作り出す、絶対の奇跡。見える形となった神の御業だ。

 〈封解主(ミカエル)〉が引き起こした感情の封印という事象を解消するには、天使の力で『閉じた』という結果を無くす他ない。

 だが、鍵を閉じたのが〈封解主(ミカエル)〉なら、開くのもまた〈封解主(ミカエル)〉が前提となっているはずだ。同時に、その〈封解主(ミカエル)〉を使ったのが、持ち主で感情を封じた六喰なのだ。

 鍵がない以上、宝箱は開かない。力で無理やり開けようとすれば、取り返しのつかない報復が待ち構えているし、力で開けられるものとも思えない。元より、力づくというのはナンセンス(・・・・・)な話で――――――

 

「……あ」

 

 と。士道がもらした声に導かれ、視線が集中する。

 妙案、というべきなのか。天使には天使。力づくで駄目なら、相応にスマートなやり方を行える天使ならどうだろうか。

 

「なあ、狂三」

 

「はい?」

 

「――――【四の弾(ダレット)】で、六喰の心が閉じる前まで戻せないか?」

 

 そう。〈刻々帝(ザフキエル)〉、第四の弾丸。かの銃弾なら、六喰を傷つけることなく彼女の心が〝閉じる〟前の状態まで、文字通り巻き戻す(・・・・)ことが可能かもしれないのだ。

 すると、二亜が士道の提案にポンと手を叩き、なるほどなるほどと相槌を打った。

 

「確かに、それなら〈封解主(ミカエル)〉の鍵がなくてもいけるんじゃない? いやー、少年ってば冴えてるぅ。よっ、天才ゲーマーS!!」

 

「お前なぁ……はぁ。どうだ狂三、やれそうか……って」

 

 士道は言いながら狂三へ視線を戻すが、訝しげな顔を作らざるを得なかった。

 なぜなら、狂三が呆気に取られるように目を見開いて士道を見ていたからだ。それに、狂三だけでなく精霊たちも奇妙な視線を士道へ向けてきている。

 そんな視線を見て、二亜が目をぱちくりとさせ困惑の声を発した。

 

「……え、どったのみんな。狐につままれたような顔しちゃって」

 

 二亜にも理由はわからないようで、士道は訝しげな顔を作ったまま視線を受け止めざるを得ない。

 そして、見開いた目を細く、鋭く尖らせた狂三が硬い声を発した。

 

「士道さん……どうして、【四の弾(ダレット)】の効力を知っていますの?」

 

「え……? どうしてって……」

 

「二亜さんは〈囁告篇帙(ラジエル)〉で知識があるのでしょうが――――――わたくしは一度たりとも、あなた様の前で【四の弾(ダレット)】を披露した記憶はありませんことよ」

 

「は?」

 

 そんな、馬鹿な。士道は確実に銃弾の効力を知っている。知らなければ提案のしようがないではないか。

 今度は士道が呆然と目を見開き、記憶の奔流を辿る。

 

「あ、……れ?」

 

 そうして、ようやく記憶の齟齬を自覚した。

 ない。狂三が〈刻々帝(ザフキエル)〉で数々の弾丸を、見惚れてしまうほど美しく撃ち尽くしてきた中で、士道はただの一度であっても【四の弾(ダレット)】という銃弾を見たことがないし、聞いたことさえない。

 存在しない記憶を探そうと必死になっていると、頭に鈍痛が走って思わず顔を顰めてしまう。

 

「シドー、大丈夫か?」

 

「あ、ああ……。なんで、俺……」

 

 駆け寄ってくれた十香に声を返しこそしたが、呆然とした心は未だ返っては来ていない。

 見てはいない、扱ってもいない、記憶にすらない。なのに、士道は〈刻々帝(ザフキエル)〉のまだ見ぬ弾丸を識っていた。

 焦燥した士道を見て、狂三が眉を下げて令音へ助けを求めるような視線を送った。どちらかと言えば、狂三自身と言うよりは士道の困惑を解消するための気遣いだったのかもしれない。

 助け舟を求められた令音が、ふうむと顎に手を当て考えを言葉にする。

 

「……可能性としては、シンが以前〈刻々帝(ザフキエル)〉を現出させたことで、まだ見ぬ力の知識が流れ出た、という説が提唱できる」

 

「ありえない話ではありませんけど……そうですわね。士道さん――――【六の弾(ヴァヴ)】の効力はご存知でして?」

 

「……いや、名前も初耳だ」

 

 それは断言できると、士道は首を否定の意味で振る。

 本当に不思議なことに、【四の弾(ダレット)】だけが士道が見聞きしていない知識として、すんなりと把握できてしまっていた。

 まるで、士道が忘れているだけで、効果が発揮される様を見た(・・・・・・・・・・・・)としか思えない。問いを放った狂三が、考えを纏めるためか令音と同じように顎に手を当てブツブツと呟く。

 

「……わたくしと士道さんの経路(パス)が? いえ、しかしそれにしても……【六の弾(ヴァヴ)】ではなく、【四の弾(ダレット)】だけというのは一体……」

 

「――――考えても答えが出ないなら、今は考えても無駄でしょ」

 

 謎の行方をそう断ち切ったのは、司令席に座り直した琴里の一声だった。続けざまに、琴里は士道へ言葉を向ける。

 

「士道、体調に問題はない? あ、嘘ついたその瞬間、メディカルルームへ叩き込むからそのつもりでね」

 

「……だ、大丈夫だよ。ちょっと、戸惑っただけだ」

 

 多少の頭痛はあったが、それも今は収まりつつあるし、また精密検査の連続は士道としては御免こうむりたい。

 士道の答えに満足げに頷いた琴里は、チュッパチャプスの棒をピンと上げて今度は狂三に視線を向けた。

 

「狂三。気になるのは私も同じよ。けど、今はこっちを優先してちょうだい。――――簡潔に教えて欲しいのだけど、その【四の弾(ダレット)】って弾で、六喰の心を開くことは可能?」

 

 問いかけに、狂三は言葉を選ぶような言い淀みを見せた。

 

「……六喰さんがいついかなる時間に心を止めたかわからなければ、込める霊力を定めることができませんわ。出来るなら他の方法を推奨いたします――――それにまず、わたくしたちには、推奨する方法をこなすだけの〝足〟がありませんわ」

 

 トントンと足をステップさせて地面を踏んでみせた狂三を見て、夕弦が難しげな顔で頷いて声を返す。

 

「補足。仮にやり方を見つけても、六喰のいる宇宙にまで行く方法がない、ということですね」

 

「うぐ……そりゃー、颶風の御子の力でバビューンって…………無理、だよね」

 

「……まあ、いくらなんでもな」

 

 【颶風騎士(ラファエル)】の風が如何に優れてると言えど、さすがに大気圏を超えた宇宙旅行は現実的とは言えない。それに、やれたとしても行けるのは風の力を纏える者だけ。

 耶倶矢が困り顔で意気消沈したのに合わせ、士道も口ごもってしまう。

 六喰の閉じた心を開く方法にばかり気を取られていたが、そもそもそれを実行に移すためには士道たちも宇宙へ足を踏み入れなければならない。

 地上へ降りて来て欲しい、と説得は試みたものの、結果はあのザマだったのだ。こちらの覚悟が本物だということを封じられた六喰の心に示すためにも、宇宙へ上がることは決定事項だ。が、そんな都合の良い方法など、六喰が降らせた隕石のように簡単に降ってくるわけが――――――

 

「宇宙……宇宙、ね」

 

 しかし、神は士道たちを見放してはいなかったらしい。

 

 

「――――グッドタイミングよ。何とかなるかもしれないわ」

 

「え……?」

 

 

 唇の端を歪めた頼れる司令官様には、どうやら士道の知らない勝算があるようだ。

 

 

 






大体の物事を狂三基準で考える上にスーパー洞察力を発揮するタイプの士道くんです。狂三が味方だと無敵なのかこの子は。

たまには子供っぽい喧嘩をというかなんというか。狂三は負けず嫌いですけど引き際はわかってるし、士道も比較的大人びているのであんまりない一コマ。ちなみに長引くと喧嘩に見せかけて惚気始めるので外野がさっさと別の話題に移るが吉。

原作では大活躍の【四の弾(ダレット)】ちゃん、リビルドではようやく言及されるの巻。なぜ狂三が見せていないと断言する力を士道が知っているのか……たとえ記憶に残らなくても、本質を理解する機会があったのかもしれませんねぇ。ちなみに作者的にはこの伏線が前すぎて正確に覚えてる人は凄いと思ってます。

そんなこんなで次回、秘密基地へGO。そしてここのイベントと言えば可愛いAIと……さて、どうなることでしょうねぇ。
感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!

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