デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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面白い話を書くのって本当に難しいなって最近思います。無い物ねだりしても仕方が無いので私は自分の書きたいもの書いて完結させられるように頑張っていくつもりです


第十三話『悪夢は幸福な夢を見るか』

 

「っ、と」

 

「きゃっ……」

 

 トン、と軽くぶつかり合う形になり両者が声を発する。早歩きで廊下を進んでいた士道が、階段から下りて来た生徒に気づかなかったためぶつかってしまったのだ。焦る気持ちもあって、角から現れたとはいえ完全に前方不注意だ。

 

「悪い、俺の不注意だ――――狂三!?」

 

「いえ、わたくしの方こそ……士道、さん?」

 

 軽く頭を下げて謝る士道、がその相手が狂三だと分かると驚きで一歩下がり、狂三も士道を認識して目を見開いていた。

 

 そんな彼女の様子に、彼の頭に少しばかりの疑問が浮かぶ。自分はともかく、狂三がこんなにわかりやすく動揺……というより焦り(・・)だろうか? を見せているのが珍しいと思ったのだ。今し方あのような(・・・・・)映像を見たのだから、尚更気にかかってしまう。

 

「……狂三は上から来たのか? ……もしかして、何かあったのか……?」

 

「ええ、まあ……少し野暮用(・・・)がありましたの。もう終わりましたので、士道さんがご心配なされることはありませんわ」

 

 野暮用? ここより上の階といえばほとんど出入りがない屋上しかないのだが、狂三はいったい何の用事があったのだろうか。気にはなったが先程の焦りは幻であったのだろうか、と思ってしまうほどにこやかな笑みの狂三にそれ以上の追求は難しそうであった。

 

「それより、士道さんこそそんなにお急ぎになられてどうなさいましたの?」

 

「あー……俺は、だな……」

 

 逆に聞き返され、口ごもる。彼が急いでいた理由は単純明快、というより急いでいた理由の本人(・・)が目の前にいた。てっきり狂三は教室にいると思い込んでいたから、いきなり本人と出会ってしまうと緊張してしまい言葉が出てこない。

 

 つい数時間前までの士道なら、強く意識している彼女を前にこの時点でしどろもどろになったかもしれない……しかし今の彼は違った。口の中は緊張でカラッカラだ。唾を飲み込み喉を鳴らしてそれを誤魔化す。

 

それ(・・)を考えた時、動悸が激しくなりこんなにも緊張が全身を満たすのは人生で初めてのことだ。それでも、士道は狂三へ告げなければならない言葉があった。

 

「……俺は、狂三に用があるんだ」

 

「? わたくしに、用事ですの?」

 

「ああ、用事っていうか……明日、開校記念日で学校が休みだろ? だから、その……良かったら二人でその辺に遊びに行ったりとか、どうかなって……」

 

「っ……それは――――」

 

「ちょ! ちょっと待った!」

 

 狂三が言い切る直前で待ったをかけ、士道は深く、ふかーく深呼吸して気を落ち着かせる。幾分か冷静になった頭で考える。それより先の言葉は、自分の口から先に伝えたかった。なんとなくだが、男としてのこだわりというもの、だろうか。

 

 ……考えていなかったわけではない。精霊とかそんな事を抜きに、士道は狂三をいつかこうして誘うために密かに〝訓練〟していたのだ。無論、〈ラタトスク〉特製の訓練ではなく、彼が鏡の前で自主的に行っていた〝訓練〟だ。かなり前倒しになったとはいえ、士道は様々な感情や事情を抜きに狂三とそれをしたい(・・・・・・)と思っていた。

 

 だからこれは、心からの本心。出来うる限りの真剣な顔で、士道は自分の心を解き放った。

 

 

 

「――――狂三、俺とデートしよう」

 

 

 

 真摯に、直球に、簡潔なそれは戦争(デート)を始める開戦の狼煙。彼からの砲撃(お誘い)に狂三は――――

 

「……ぇ…………ぁ……!」

 

 赤面。一瞬、目をぱちくりとさせた狂三は、士道の言葉を飲み込んだかと思えば凄まじい勢いで顔を真っ赤に染め上げた。今までも、士道は失言で二度彼女が照れた表情を拝んだ事があったが、ボフン、と音が鳴りそうなほど真っ赤になった彼女を見るのは初めての事で……何故か、士道まで顔が赤くなってきた気がする。

 

「……く、狂三、サン?」

 

 勢い、ノリ、というか……そういったものが切れて、急に正気に返ったとでも言えば良いのだろうか。とにかく、狂三の予想外の反応に士道もどうして良いか分からなくなる。彼の予想だと、にべもなく断られる事はないにしろ、いつものように余裕を持って対応すると思っていた。なのに、こんな可愛らしい(・・・・・)乙女の反応を見せられたら、彼の脳髄に直球ど真ん中ストレートで弾丸が突き刺さってしまう。つまるところ、いつも通りなのだが。

 

「! は、はい! 分かっていますわ、分かっていますわ! デート、デートですわね!! えぇ、えぇ、わたくし知っていますもの!」

 

「お、おう、取り敢えず落ち着け!?」

 

 落ち着けと言ったが、言った本人も落ち着いていないのは言うまでもない。とはいえ、士道の言葉も無駄ではなかったようで、息を短く吐き気を落ち着かせる仕草をする。いつもの余裕があり超然とした彼女からすると、とてもではないが信じられない動揺っぷりだった。

 

「も…………申し訳ありませんわ。わたくし、こんなにも真摯に殿方から逢引に誘われたのは初めての経験でして……お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ」

 

「いや、俺も急に悪かった……」

 

 お見苦しいどころか、士道にとっては最高級の眼福だった。五河士道の脳内狂三フォルダに永久保存である。

 

「そ、それで……だな……どう、かな?」

 

「……とても光栄ですわ。わたくしでよろしければ、士道さんのお誘い……喜んでお受け致しますわ」

 

「! そっか、良かった……」

 

 ホッと一息つくように言葉を吐く。本当に、断られたら立ち直れなかったかもしれないと冗談交じりに思う。琴里曰く少なくとも観測出来る範囲での好感度は高い状態だから、断られる事はまずないだろう……とは言っていたがそれでも不安なものは不安だった。兎にも角にも、最初の高いハードルはクリアだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 が、何故か二人揃ってそこから会話が出てこない。というか、気恥しさで士道は目も合わせられないと視線を逸らし頬を掻き誤魔化している。ちなみに、狂三も似たような状態なのだが良いのか悪いのか士道が気づくことは無い。

 

 しかし今は昼休み。廊下でこんな事をしていればとにかく目立つ。ここ数ヶ月〝噂〟に事欠かない士道と〝噂〟の転校生である狂三が頬を桜色に染めて向かい合っているのだ。それはもう、意味深な視線と会話が降り注ぐ。事情を知らなければただのハーレム男にしか見えない士道だが、当然これ以上の誤解――中身の実態はともかく誤解は誤解である――が増えるのはたまったものではない。

 

「と、取り敢えず教室に戻るか! 十香も待ってるしな!」

 

「そ、そうですわね。十香さんもお待ちになられていらっしゃいますもの」

 

 

 二人が歩く距離は微妙に離れていたが、どこか初々しく初デート前のカップルのようだった……とは、後の誰かの証言である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「シドー……そ、そのだな」

 

「お、おう……?」

 

 どうして、こうなった。ここ数ヶ月で何度も士道の頭の中で繰り返されてきたフレーズが、また過ぎった回数を増やした瞬間であった。目の前には、服をはだけさせその豊満な谷間にチケットを挟み込み、トマトより真っ赤になった顔で士道を〝悩殺〟しようとする十香の姿。

 

 ――――――本当に、どうしてこうなった。

 

 最近の出来事のせいで事態を把握するために、妙にこういう場合の状況整理が早くなった気がすると嬉しいのか悲しいのか分からなくなる事を思いながら、彼は煩悩を振り払いながら状況を整理する。

 昼休み。狂三と教室に戻った時から、妙にもじもじとした視線を感じていた気はした。しかし、放課後までは狂三とも仲良く話していたしそれだけだったのだ。そして、授業も終わり狂三にそれとなく明日の時間と場所を伝え――やけに折紙が狂三に向ける視線が厳しかったが――十香と帰宅し、夕飯の準備を……というところで、今に至る。

 

 カーテンは締め切られ、鍵もかけられている。雰囲気が、完全にイケナイことをしようとしているそれだ。

 

「な、なんだ……?」

 

「……で、デェト……に、行かないか?」

 

「……デート?」

 

 このままでは士道の精神面が危険だ、いろんな意味で。と意を決して問うた彼は、十香が恐る恐る口にしたその言葉に唖然となる。この場合、拍子抜けしたというのが正しいか。別に、デートをするならこんな大掛かりな事をしなくても士道は当然、なんの躊躇いもなく受け入れたというのに何があったのだろうか?

 

 ともかく、胸元に挟まれたチケットは受け取れというサイン、といったところだろう。受け取らない理由はないし、受け取らないとこれ以上はヤバい気がする。震える手で慎重にそのチケットへ手を伸ばし――――

 

「う、うむ! 明日(・・)、私とデェトしてくれ!」

 

「――――ッ!!」

 

 ――――震えが止まる。いや、震えだけでなく、伸ばしていた手の動きも止まる。さっきまで感じていた焦りとか、そう言ったものが一気に引いて行くのを彼は感じた。頭が冷える。十香は明日(・・)と言った。だが……それは、ダメだ。

 

「……明日は、ダメだ」

 

「え……?」

 

 ぽつりと、半ば無意識に呟いた士道の声に、十香は酷く悲しげな顔をする。士道とて、十香にそんな顔はさせたくないし、して欲しくはなかった。けど、ダメなのだ。明日だけは(・・・・・)ダメだった。

 

「こ、これではダメなのか……!? な、なら――――」

 

「違うんだ。聞いてくれ十香」

 

 三度テーブルの上の紙へ視線を移し、意を決して次の行動へ移らんとする彼女の肩を掴み、しっかりと目を合わせる。露出した肩が柔らかく殺人的だとか、相変わらず暴力的な美しさだとか、色んなものが士道の頭で渦巻くが無理やり振り払い、意を決して言葉を紡いだ。

 

「――――俺は明日、狂三とデートする」

 

「っ……! シドー……」

 

 士道の言葉を聞き、十香は目を見開いて驚いた後、次第に瞳を潤ませ捨てられた子犬のように視線を彷徨わせる。

 

 ……しまった、これでは言葉足らずだ。と焦る心を落ち着かせる。

 

「勘違いしないでくれ。後とか先とかじゃなく、俺は明日……狂三とデートして――――狂三を救ってやりたいんだ」

 

 こんなの卑怯な言い方だというのは士道だって分かってる。だが、十香なら分かってくれると信じていた。四系乃を救うために力を貸してくれた十香なら、きっと……!

 

「狂三は、十香や四系乃と同じ精霊だ。けど、あいつはASTに殺されかかってるんだ(・・・・・・・・・・)!!」

 

「なっ……!?」

 

 ASTを赤子の手を捻るより容易く振り払ってきた十香だ。士道の言葉を信じられないかもしれない。それでも、信じて貰えるように言葉を尽くす。狂三にもう傷ついて欲しくないから……狂三と、きちんと向き合って話してやりたいから。

 

「時間を置いたら、またあいつは襲われて今度こそ(・・・・)取り返しのつかない事になっちまうかもしれねぇ。だから!! 明日だけは俺に時間をくれ! 十香の好きな食い物だっていくらでも作ってやる! 明日じゃないなら、どこへだって一緒にデートに行こう!!」

 

「シドー……」

 

「――――俺に、狂三を救う為の時間をくれ」

 

 頭を下げる。こんなの、狂三を盾に断っている不誠実なものと思われても仕方がない。でも、士道にはこれしか無かった。〝精霊〟を救う方法を、彼はこの方法(デート)以外に持ち合わせていないのだから。

 

 ……数秒とも数分とも思える沈黙が辺りを支配した。

 

「…………そんな言い方、ズルいではないか」

 

「……っ……」

 

 沈黙を破ったのは十香の声だ。顔を上げた士道が見た彼女の表情は、怒ってこそいないようだが少し拗ねたように視線を士道から逸らしていた。更に、服装を元に戻しながら立ち上がっていつぞやと同じようにリビングから出ていこうとする。

 

「ふんっ、シドーなど狂三と仲良くデェトしておれば良いのだ。ばーかばーか」

 

「お、おい、十香!?」

 

 やはり、これではダメだったのだろうか。琴里への言い訳やその他諸々、とにかく十香の機嫌を直さなければと大急ぎで立ち上がる士道を後目にリビングからさっさと出ていってしまう――――その直前、扉から少しだけ顔を出して言葉を発した。

 

 

「――――きっと、狂三を救ってやってくれ」

 

 

 ――――私と、同じように。

 

 言うなり、十香はあっという間にドアの向こうへ消えて行った。僅かな声量だったが、それは士道へ確かに届けられ彼に安堵の笑みをもたらす。

 

「……ありがとな、十香」

 

 以前、約束していた。十香と、必ず精霊を助けてやって欲しいと。ここまでして、十香にも無理を言って分かってもらったのだ。絶対に狂三を救わなければならない。終わったら、盛大に十香とデートしてワガママを全部聞いてやるくらいはしないとな、と士道は笑う。

 

 ――――それが叶うと、狂三を救ってやれると、彼は信じていた。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 一息。時間で言えばまだ夜の九時を回ったところで、健全な高校生である五河士道は普通ならまだまだ元気に活動していたい年頃なのだが、今日は一足早く床へ就いて暗くした部屋でぼんやり天井を眺めていた。

 

 別に天井を眺める趣味が士道にある訳ではなく、何となく落ち着かずそうしていただけだ。明日に備えて早めに寝ようとしたものの、やはり気持ちが高ぶり早々落ち着いてくれそうにはなかった。目を閉じて思い浮かぶのは、明日デートをする相手のこと。

 

「俺は……明日、狂三とデートする…………のか」

 

 まるで他人事のようだ。なのに、それを呟いた途端、彼の心臓はまたもやバクバクと鼓動を早めるのだからタチが悪い。そうだ、明日、五河士道は時崎狂三とデートに臨む。それは彼がある意味、最初から待ち望んでいたことで、色々な意味で想定外な形になったものだ。

 

 デートして、デレさせる。あの超がいくつ付いても足りない美少女を、あの不可思議な雰囲気を持つ美少女を、士道が、デレさせる。なんと難易度が恐ろしく高いデートだろう。だが、失敗すれば士道ではなく狂三の命が危機に晒されるかもしれない文字通りの戦争(デート)だ。引くことは決して出来ない。彼はこのデートで彼女をデレさせ、そして――――――

 

「………………ん?」

 

 ふと、目が冴えた。何やら一番肝心な事を今の今まで失念していたように感じる。精霊をデレさせる、前提条件だ。そこからはてどうするのだったか? それは勿論……。

 

「……狂三と…………キス、する?」

 

 次の瞬間、士道の鼻からなんの脈絡もなく一滴の雫が流れた。言うまでもなく、ただの鼻血なのだが。

 

「おわ……っ!? 待て待て待て! お、おおおおおおお落ち着け俺!!」

 

 大急ぎでティッシュを取り出しドッタンバッタン。既に落ち着ける様相ではない。悲しいかな、デートを重ねてもこの生涯、女性との交際経験なしの青少年、五河士道。意識している少女とのキスを想像しただけで興奮するチェリーボーイ(童貞)であった。

 

 決戦のデート前夜。五河士道が夢を見ることは無かった。一睡も出来ないという意味で、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「五河士道にデートへ誘われた、ですか」

 

「えぇ……平たく言えば、そういう事になりますわ」

 

「平たく言わなくてもデートでしょう。良かったじゃないですか、二人きりなら目的にも近づくんですから」

 

 邪魔も入らないし良いこと尽くめだ。だと言うのに、士道からデートに誘われた当の本人の狂三は何となく浮かない……というか、納得していないというか、とにかく小難しい表情でリビングのソファーに座っていた。それは決して、デート自体に不満があるといった表情ではなさそうなのだが。

 

「それは、そうですけど……」

 

「なんです? まさか、手玉に取ろうと思ったら五河士道のキメ顔に見惚れてしまいましたー、なんてこと――――」

 

 ビク! と肩を震わせてあからさまな動揺を見せる狂三にローブの少女も言葉と動きを止める。顔を俯かせて表情こそ見えないが、その普段の狂三からするとありえない迄の小刻みな震えが如実に事を物語っていた。

 

 マジか。キャラも忘れて少女の頭に浮かんだ一言である。

 

「………………なまらびっくり。狂三、あなた本当に――――」

 

「ありえませんわ。この、わたくしが、士道さんに見惚れた? まったくタチの悪い冗談ですわ。ただ余計な些事があったのと、不意打ちだったので不覚にも動揺を見せてしまっただけですわ!!」

 

 えー……と呆れる少女を無視して、これまたらしくもなくソファーを苛立たしげに何度も殴り、言い訳を重ねていく狂三に少女はローブの下で苦笑する。それは逆に認めた事になるのではないか、と思いはしたが言ったところで狂三は尚更意地を張ってしまうだろう。

 

 いつもの超然とした狂三を知っていると、とても信じられない動揺っぷりだ。心に余裕が無い(・・・・・)という事を考えても、これには驚かされる。いや――――五河士道と狂三が出逢ってから、彼女の変化に少女は常に驚かされているのかもしれない。

 

「大体! なんなんですのあなた。まるで見ていたように!!」

 

「私に当たらないでくださいよ……別に見てはいませんけど、五河士道なら鏡の前でデートに誘う練習くらいしてると思っただけですよ」

 

 釈然としないのかジトーっとした視線を向ける狂三だが、少女としてはこれ以上答えようがないので何食わぬ顔で受け流す。相変わらず、ローブに隠れて見えてはいないが。

 

 まあ、見惚れた云々は冗談だったが五河士道ならデートに誘う訓練をしていると思ったのは本当だ――――――これに関しては少女の経験ではなく記憶(・・)から推察しただけだが。

 

 しかし、デートの誘い一つで狂三がここまで動揺するとは……分身体に言った冗談(・・)は冗談ではなかった、のかもしれない――――それが、その想いが良い事ばかりではない事を少女は知っていた。出会い、惹かれ合い、思い合い、最後にはキスをしてハッピーエンド。ああ、時崎狂三がそれだけで終わる精霊だったのなら、恐らく今この場に二人はおらず、五河士道とも出会っていなかった事だろう。

 

 その想いは劇薬だ。時に人を――精霊すらも狂わせ、世界を変えるだけの禁断の果実。少女はその想いがなんなのかを知らないが知っている(・・・・・)

 

 けれど、それだけでは時崎狂三は止まらない(・・・・・)。彼女の揺るぎのない凄絶な意志は、相反する彼女の想いを呑み込んで前へ進むだろう。しかし、想いはその凄絶な意志ですら呑み込み切れずに前へと進む彼女を蝕む。

 

「……まあ良いですわ。明日に備えてわたくしは先に失礼いたしますわ」

 

「えぇ――――――」

 

 きっと、今も彼女は苦しんでいる。それを少女の前で彼女が表に出すことは決してない。もしかしたら、軋む己の心にすら彼女は気づいていないのかもしれない。気付こうとしていないのかも、しれない。ならばせめて――――

 

 

「――――――おやすみなさい、我が女王。どうか、良い夢を」

 

「はっ、悪夢(ナイトメア)へ良い夢をだなんて、皮肉の効いた冗談ですこと」

 

 

 

 せめて、我が女王に一時の安らぎを。

 

 夜は更ける。時計の針が進み続けるように、朝は近づく。そして運命の戦争(デート)が――――始まる

 





ちなみに十香ちゃんの出番はこんなもので終わらないぜ!狂三がメインヒロインと定められているとどうしてもこういったことになってしまうのですが、それでも原作ヒロインを蔑ろには絶対にしないです。でも優先は絶対狂三なこの小説。

というか十三話にもなってオリジナル精霊に関してまともに判明してないのもうちくらいな気がしますね。一体何者なんでしょうね本当に

感想、評価、誤字報告などなどあると私のモチベが爆上がりして有頂天になるのでお待ちしております。次回『戦争(デート)』お楽しみに

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