デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百三十七話『ゲームスタート』

 

 

 その影に気配はなく、その影に圧はない。あるのはただ、彼女がここにいるという、目視した事実のみ。

 左右非対称に結われた黒髪。白のフリルが付いた黒のロングスカート。見た目麗しい彼女を着飾る、純白のカチューシャ。隠されたスカートの下とは対照的に、大きく開かれた胸元が男を狂わせる魔性の魅力を引き出している。

 

「――――『狂三』!?」

 

 そう。士道が名を叫んだ通り、それは『時崎狂三』に違いない。士道が初めて見る分身体――――いいや、違う。

 この奇妙な雰囲気は、僅かではあるが知っている。恐らくではあるが、二亜の反転事件の折、一人目の白い少女(・・・・・・・・)を演じた分身体と、同じだ。

 どうして、彼女がここに現れたのか。それを誰かが問うより速く、銃声が部屋に響き渡った(・・・・・・・・・・・)

 

「きゃ……っ」

 

「ちょっと狂三……!?」

 

 突然の銃声に身体を竦める四糸乃を庇いながら、狂三を咎めるように呼ぶ七罪。しかし、普段の狂三からは信じられないほど冷淡な表情で、結われた髪と顔の間を正確に狙撃した狂三は、底冷えするような声を発した。

 

「何のつもりですの、『わたくし』」

 

「っ、落ち着け狂三」

 

「士道さんは下がっていてくださいまし。これは、わたくしの問題ですわ」

 

 士道が静止に対して、取り付く島もない。このままだと今度は本気で『狂三』を撃ちかねない勢いで、狂三は彼女をギロリと睨みつけていた。

 状況を完璧に把握できたわけではないが、この『狂三』は狂三の意図しない行動を取っていると見て間違いない。そして狂三は、自身の手足と呼ぶ分身体たちの度が過ぎた専行を許さないというスタンスを持っている。

 だからといって、放っておくわけにいくかと士道は焦り顔を隠して、冷静な表情を作りながら短銃を握る狂三の手を取った。

 

「だから落ち着けって!! どうしたんだよ急に……」

 

「……わたくしはこの場所を、この『わたくし』に共有した覚えはありませんわ」

 

「え……?」

 

「わたくしの領域で、他の『わたくし』の介入を許したつもりもございません。わたくしの〝影〟と切り離された〝影〟から出現したというのに、知るはずのない場所を知っている……あら、あら、冗談のような話があったものですわねぇ」

 

 狂三の証言に士道や精霊たちは訝しげな表情になる。

 ここは〈ラタトスク〉の中枢施設。おいそれと明かすことができる場所ではない……琴里はそう言っていた。だからメイド服の『狂三』がここを知るには、オリジナルの狂三、もしくは影の中の『狂三』がこの場所を教える必要があるはずだ。が、唯一その権限がある狂三がこうも怒り心頭の様子を見せる限り、場所を共有したとはとても思えない。

 

「それに、この『わたくし』にはある程度の権限を与えてはいますが、これは明らかな越権行為。曲がりなりにも琴里さんの信用を得たわたくしが、これを許すわけにはいきませんわ」

 

「…………ぐ」

 

 ……なんか少し琴里が何か言いたげだったが、まさか自分が話の腰を折るわけにはいかないと思ったのか、複雑そうな表情で微かな呻き声を上げて堪えていた。

 そんな狂三の圧が籠った声色に焦ることなく、『狂三』はくすくすと微笑をこぼした。

 

「あら、あら。『わたくしたち』より、琴里さんを信頼するだなんて。『わたくし』は随分と、大人(・・)になられましたわねぇ」

 

「――――余程、死に急ぎたいようですわね」

 

「ひっ……」

 

 怒りの感情を表していた狂三の顔から、スっと表情が消える。

 士道でさえ冷や汗をかくほど、怒りを通り越した冷徹な顔なのだ。誰かが短く悲鳴を上げたのも無理はない。

 いよいよ、血が見えそうな予感が頭をよぎる。咄嗟に、士道は手を広げて狂三と『狂三』の間に立ち塞がった。

 

「っ……士道さん」

 

「待てって。とにかく、『狂三』から話を聞こう……な?」

 

 冷静な狂三らしくない行動を諌めるように笑いかけると、頭に血が上った狂三を少しは落ち着かせることができたのだろう。僅かに眉根を下げて、銃を握る力を弱めた素振りを見せる。

 先ほどまでの事といい、狂三の気が立っているタイミングで現れたのは、振り向いた士道を見て悠然と微笑んでいる『狂三』を見れば、わざと(・・・)なのは士道ですら見抜くことができた。

 

「『狂三』。お前、狂三をわざと煽っただろ?」

 

「きひひひ!! これは、これは、謂れのない立派な濡れ衣ですわ。わたくし、純然たる事実を述べただけですのに」

 

「士道はそういうところを言ってるのよ。何、あなたもしかして自殺願望者の分身体なのかしら?」

 

 琴里が煽るように口を挟む。だが、辛辣な琴里の言葉を受けてなお、『狂三』はあくまで超然とした微笑みを崩さない。

 

「さて――――依頼者(・・・)に、少しばかり似てしまったのかもしれませんわねぇ」

 

「依頼者……?」

 

 誰かから頼み事を受け取り、『狂三』はこの場に現れたということか。

 わざわざ死の危険を冒してまで、狂三を煽りに来たのではないだろうとは思っていたが、その狂三の依頼ではないなら、誰だというのか。

 

「ええ、ええ。その方の依頼で、わたくしはこの場に導かれた、ということになりますわ」

 

「どういうことよ。誰だか知らないけど、この基地の場所を知る人間なんてそうそういるわけが――――」

 

 言葉の途中、中途半端な位置で琴里は息を詰まらせた。士道と同じく、思い至ったのだろう。その不可能を可能にし得る力に。

 

「〈囁告篇帙(ラジエル)〉……!!」

 

 全知の天使〈囁告篇帙(ラジエル)〉。かの天使ならば、如何なる手段で巧妙に隠された場所と言えども、世界という枠にある限りは全知の知識の中。

 そして今、〈囁告篇帙(ラジエル)〉の霊結晶(セフィラ)を持っているのは二亜でも、ましてや反霊結晶(クリファ)として奪おうと目論んだウェストコットでもなく――――――

 

「まさか、〈アンノウン〉か!?」

 

「え、マジ? あたしの〈囁告篇帙(ラジエル)〉ちゃんNTR(ネトラレ)? あたしの立場はどうなるの? まさかのただめし食らい? アイデンティティークライシス? NTR、くやしい……!!」

 

『…………』

 

 わざとらしく肩を抱いてビクビクと身体をくねらせる二亜に、一同場の空気が別の意味で凍りついた。

 なんだか、さっきまで見せていたシリアスな二亜は、全くの別人格なのではないかと思えてくる。というか、よりにもよって自身の天使の話題でふざけるのかと、士道は顔の筋肉をひくつかせた。

 〈アンノウン〉の名前が出たのもあってか、ひとまずは銃を下げた狂三が士道の隣に立ちながら、深々とため息を吐く。

 

「…………二亜さん。少し、お静かに願いますわ」

 

「うふふ。『わたくしたち』とは違って、二亜さんには甘い対応ですこと……ああ、そう銃を向けないでくださいまし。わたくしの役割が果たせませんわ」

 

 口を開けば狂三(オリジナル)を挑発することが癖になっているのだろうか。それを行い、再び銃を向けられているにも関わらず、ものともしない態度で肩を竦める『狂三』。

 直球ではないとはいえ、ここまで喧嘩腰の分身体は初めて見たなと、士道は額に汗を浮かべて分身体の動向を見守る。

 『狂三』が相変わらず意図の読めない微笑みのまま、壁に浮かべた〝影〟に手を入れ何かを取り出した。それは、〈ラタトスク〉内で使われているようなタブレット端末に見えた。

 

「? それは……」

 

「ご安心を。ただの連絡用の機材ですわ。わたくしは仲介役を頼まれたに過ぎませんので」

 

「待ちなさい。この基地で通信は――――」

 

「ああ、ああ。それもご心配なく。先ほど、〈フラクシナス〉に立ち寄り、村雨先生に通信の中継を了承済みですわ」

 

 その手際の良さは、彼女が狂三の分身体なのだと改めて認識させられる。

 とはいえ、己の信頼をある意味で利用された狂三は面白くなさそうな顔をしている――――どうにも、この分身体は他の子とは訳が違うらしく、士道は僅かな警戒を持って声を発した。

 

「仲介役、ってことは……」

 

「ええ。あの子からの緊急連絡、ということになりますわね」

 

 タンと、軽く端末の画面をタッチし、どこかしらへ連絡を繋いだのだろうか、僅かなノイズ音と共に、聞き慣れた声が端末の音声出力から送り届けられた。

 

『――――はぁい。皆々様、ごきげんよう。宇宙旅行の準備、捗ってます?』

 

「〈アンノウン〉……」

 

 道化師のような、この妙に気取った声色も耳にするのは久方ぶりだと思えた。

 白い少女、〈アンノウン〉。今、〈ラタトスク〉の地下施設で治療を受けている少女の声であることは確かなようだ。

 

「……ええ。とっても順調よ。あなたの方こそ、ちゃんと大人しくしているのかしら?」

 

『私が連絡を繋いだことが、何よりの答えじゃないですかね』

 

「ああ、そう。それで、私たちは今その準備で忙しいのだけれど、何の用かしら」

 

 頭が痛いわぁ、と言わんばかりにしかめっ面で額を抑えながらも、声だけは凛としたもので琴里は白い少女との通信に対応する。

 

『ふむ、そうですね。あまり時間もありませんし、単刀直入に――――――星宮六喰を捕らえるための攻勢、その第二波が準備されています』

 

「な……っ!?」

 

 六喰に対する第二波。それが意味するものは、当然士道たちが想像する通りのものだろう。

 DEMインダストリーの仕業。どうやったのかは知らないが、DEMは六喰の居場所を探り当て、彼女の霊結晶を得ようとしている。

 

『あちらの戦力は、説明するのも面倒な雑魚が三隻。まあ、この程度なら捨て置いて問題ないと思ったのですが、あとの一隻は――――――〈ゲーティア〉』

 

「……!!」

 

 放たれた空中艦の名に、琴里が眉根を上げてチュッパチャプスの棒をピタリと止めた。

 空中艦〈ゲーティア〉。カレンの姉、エレン・メイザースが操るDEMの高速起動艦にして――――『前の世界』で、〈フラクシナス〉が辛酸を嘗めた相手だ。

 最初の攻勢は様子見で、こちらが本命ということだろう。滲んだ汗をそれごと舐め上げるように、琴里がぺろりと唇を舐めた。

 

「……上等じゃない。新生〈フラクシナス〉のデビュー戦には、相応しい相手だわ」

 

『ああそれと、いつもの人形兵と、鳶一折紙の顔馴染みもいらっしゃるようですね』

 

「――――アルテミシア・アシュクロフト」

 

 顔に表情という表情をあまり浮かべない折紙が、珍しく緊張を孕んだ顔色でその名を発した。

 無理もない。それは、最強の魔術師(ウィザード)、エレン・メイザースに次ぐ実力を持つ魔術師(ウィザード)の名なのだから。

 士道は無意識のうちに唾を飲み込み、全身の緊張を緩和させる。最高戦力の惜しみない投入は、士道だけでなく全員に緊張感を行き渡せるのに十分すぎた情報だった。

 

「DEMも本気……ってことか」

 

「せっかく指の先に触れかけた霊結晶(セフィラ)は手に入らなかった。焦る気持ちもわかるというものですわね」

 

「…………」

 

 本当に、そうなのだろうか?

 狂三の嘲笑混じりの微笑みを見て、士道は珍しく彼女の言葉を肯定することができなかった。

 あの時のウェストコットの顔は、悔しさの欠片すら見られなかった。どうして、あいつはあの時――――――

 

「とはいえ、わたくしたちも後があるとは言えませんわ」

 

「っ……!!」

 

 続けられた狂三の言葉にハッとなり、士道は頭を振ってウェストコットのことを一旦は頭から追い払う。

 狂三の言うことは最もだ。今考えなければならないのは、攻勢に晒される六喰と、その六喰の対応なのだから。

 

「エレンたちと戦えば、六喰も最初のようにはいかない。六喰が勝とうが負けようが、六喰に危険が及ぶなら放ってはおけない」

 

「その通りよ士道。それに、六喰がDEMを追い払ったとして、待ってるのは六喰が遥か彼方に引きこもるか――――――」

 

「危機。地球そのものの滅亡、ということですね」

 

 六喰がDEMの牙に喰われるか、六喰が遠い宇宙の彼方に独りぼっちで消え行くか、或いは報復として地球を襲う未曾有の大災害か、だ。

 そんなもの、どれも御免蒙る。覚悟を決め、強く拳を握って士道は声を上げた。

 

 

「――――行こう。六喰のところへ」

 

 

 それしか、道はない。

 覚悟を決める時間など、とうに過ぎ去った。士道の声に精霊たちが頷くのと同時に、白い少女が端末から声を届けてくる。

 

『そう言うと思いました。DEM側の作戦時間を軽く見積りましたが、そちらの新たな〈フラクシナス〉が全力で整備を終えることができたなら、先に星宮六喰の元へ辿り着くことが可能でしょう』

 

「それは吉報ね。情報提供、感謝するわ」

 

『いえいえ、こちらこそ――――――長い間、お世話になりました』

 

 白い少女の言葉に、皆が目を見開いた。

 パタン。と、通信の向こう側で本が閉じられたような音が部屋の静寂に響く。少女は、それから声を続けた。

 

『慣れない療養生活でしたが、あなた方のおかげで楽しかったです。通りすがりが、少しばかり入り浸りすぎたとは思いますけど』

 

「……このまま、居着いてくれてもいいんだぜ?」

 

『ご冗談を。私が仕える主は、ただ一人の女王様だけですよ』

 

 その言葉に、士道たちは狂三を見やる。すると狂三は、あくまで冷静さを見せる表情で通信の向こうへ声を返した。

 

「それが、あなたの選択ですのね?」

 

『もちろん。躊躇いも、情も、必要ありません。我が、愛しき女王よ』

 

「――――なら、わたくしからは何も言うことはありませんわ」

 

 元の形に、戻るだけ。それはつまり、少女の身が危険に晒されるということ。

 わかっていたことだ。士道が狂三を攻略しない限り、いつかこうなると。時崎狂三は白い少女の命を使うことに躊躇いを持つことはなく、白い少女もそれを望んでいる。

 

『さすがにそちらへ向かうには、私の準備が間に合いそうにありませんでした。ですので、私に出来るのはここまでです。どうかご武運を、我が女王』

 

「――――〈アンノウン〉!!」

 

 それを最後に、本当に途切れてしまいそうだった。だから、士道は考えるより先に少女の名を、仮の名を(・・・・)、呼んでいた。

 

「っ……」

 

 何を、言える。答えの一つさえ、持たぬ身で。

 覚悟は決めている。だが、狂三と白い少女、両者の手を取れるだけの〝答え〟を、士道はまだ見つけられていないのだ。

 そういう意味では、士道の知らない明確な目的を持つ白い少女の方が強いと言えた。だから、士道には白い少女を止めるだけの言葉がない。だとしても、何かを、伝えたかった。

 しかし、士道の決死の叫びも、数秒の沈黙が伝わっただけだった。けれど、通信は切られることなく続き――――――

 

『……仕方ないなぁ』

 

 道化師ではない少女の声が、聞こえた。

 

『……治療のお礼、してませんでしたね。そこまで私の霊力を封印したいなら、治療代の代わりにチャンスをあげますよ』

 

「え……」

 

『――――私を、捕まえられる?』

 

 初めて聞く、白い少女からの挑戦的な声音に、士道だけでなく狂三も目を見開いて驚きを露にする。

 

『初めの頃の魔女っ子ちゃんじゃありませんけど、ゲームをしましょう』

 

「ゲーム?」

 

『ええ。簡単なことです。誰でもいい、私を捕まえてみてください。私が敗北を認めるくらい、完膚なきまでに。そしたら、我が女王より先に霊力を封印されても構いません――――出来るものなら、ね』

 

「……なるほどね」

 

 琴里が困り顔の変わりなのか、眉根を下げて納得の声を発した。

 それは、過去最高難易度(・・・・・・・)のゲームの開始宣言だと、士道は半笑いで頬に汗を流す。

 

 

『私は狂三やあなた方ほど優秀な精霊ではありません。けれど、最強の(つるぎ)、永久凍土、灼熱の焔、最速の風、魅了の声、万象変幻、天の光――――――どれであっても、私を捉える(・・・)ことすら出来ない。その自負があります』

 

 

 卑下にした評価とは裏腹に、自信だけが溢れ出るその言葉は、だが事実として士道たちにのしかかる。

 力だけなら少女を上回る精霊がいる。特異な異能力というだけなら、少女以上の力を発揮できる精霊もいる――――――しかしながら、士道たちは一度として、〈アンノウン〉という精霊の実体を捉えられたことがない。それだけで、あまりにも絶望的な勝負と言えた。

 何せ、少女には空間的な干渉に対する絶対の鎧と、最速の風に迫る足と翼がある。加えていえば、全知の天使まで少女の手の中。勝ち目など、あるはずもない。

 

『……ああ、オマケもつけましょうか。あなた方からすれば、こちらが本命になるかもしれませんが――――――私が知る全てを、お話しましょう』

 

「なに……!?」

 

 白い少女の知る、全て。それは士道の心臓を高鳴らせるには、十分すぎるものだといえた。

 少女はあらゆるものを知っている。精霊、霊結晶、もしかすれば、士道の封印能力や――――〈ファントム〉の行動理由までも。

 そして何より、少女自身と、少女の〝計画〟に関しても、少女は暗に語ると言い切ったのだ。無論、そのためには……。

 

『……ふふっ、私に勝てたら、の話ですけどね』

 

 少女との〝ゲーム〟に、勝たなければならない。

 道化師の仮面を外した少女の声には、絶対に負けない(・・・・・・・)という少女らしからぬ自信に満ちた余裕がある。

 目を閉じて、次の一言のために集中する。息を吐いて、目を開く。ふと、隣を見ると、呆れ顔の狂三が見えてぷっと緊張と共に余計な力が抜けていった気がした。

 琴里を、精霊たちを見回す。皆、少女の絶対の自信に思うところがあったのだろう。皆が皆らしい顔で、士道の返事を待っている。

 だから、叩きつけられた挑戦状に、士道が返す返答は一つだ。

 

 

「その勝負、乗った。待ってろよ、六喰を救って、それから――――――必ずお前を、捕まえてみせる」

 

 

 少女の言う通り、チャンスだ。ようやく〈アンノウン〉という精霊を、〈ラタトスク〉の謳う精霊攻略の場に引きずり出すことが出来た、と言っても過言ではない。

 勝ち目がなくても、勝ち目を作るのが士道たちのやり方だ。それを実行してきたのが士道であり、不敵に笑う司令官様ということだ。

 

「ふん。やっと、その気になってくれたわね。私たちを舐めたこと、絶対に後悔させてあげるわ」

 

『……私は正当な評価をしたつもりなんですけど』

 

「あら、そ。だったら言葉を変えるわ――――――私たちの戦場(フィールド)に上がったことを、後悔させてあげる」

 

 琴里の言葉を聞いて、少女は通信越しでフッと微笑みを浮かべた、ような気がした。

 

『……だったら、相応にお別れの言葉を工夫してみましょうか。では、五河士道、〈ラタトスク〉、女王の皆様方。その〝未来〟にあなたたちが辿り着けるのかどうか』

 

 少女からの宣戦布告。我が女王のためにと謳ってきた不明の少女から引き出した、少女自身の言葉。

 奇しくもそれは、少女がずっと傍らで聞いてきた開幕の狼煙を上げる言葉だった。

 

 

『さあ――――――私たちの戦争(デート)を、始めましょう』

 

 

 







この子がこの台詞を言う日が来るとは正直最初は夢にも思ってませんでした。
言ってしまえば勝ち目のないゲーム。こと隠れる、という一点に関してだけはどんな精霊よりも少女は上です。比類するのはそれこそ宇宙の果てまで行ける〈封解主〉くらいなものですからねぇ。けど、提示した条件は少女に対するメリットがない。はてさて、気まぐれのお遊びなのか、それとも……?

思ったより煽り力が高い分身というか、本体がいろいろと丸くなってるから尖って見えるというか。でも相手を挑発する煽り要素や謎要素が狂三って感じはあるので、そういう役割を担っていると見せれていれば嬉しい。

それではまた次回に。そろそろ六喰編の前編も終わり際。
感想、評価、お気に入りなどなどお持ちしておりますー。次回をお楽しみに!!

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