デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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推薦書いてもらいました。最高に嬉しいです。そんなこんなで六喰編も無事書き終わりました。次の章は自分で緊張しています。









第百四十一話『過去を目指し、未来を視る』

 

 

「な……」

 

 〈ゲーティア〉内部。最強の魔術師(ウィザード)が駆る戦艦内部。その艦橋は、〝艦橋〟と言うよりは一種のコックピットブロックだ。エレンが座するポッド状の座席に、ワイヤリングスーツに繋がる幾本のコード。

 この機体はエレン専用の大型CR-ユニットともいえる仕様であり、如何な〈ラタトスク〉の新型空中艦といえど、比類することなどありえない。ありえてはいけない(・・・・・・・・・)

 

「なんですか、これは……!!」

 

 だと、いうのに。エレンは無様に呻いた。無様な言葉を吐き散らして、拳を握りしめてしまった。

 〈ゲーティア〉の高速駆動に比肩する〈フラクシナス〉の駆動。なるほど、偶然(・・)にしてはよく出来ていると言えた。が、中身が違う。違いすぎる。伊達や酔狂ではなく、この〈ゲーティア〉はエレンが駆るからこそ最強足り得るのだ。その猿真似など、僅かな反応速度の差から埋められない隔たりを生み出すだけ。

 事実、ほんの数秒前までは〈フラクシナス〉を捉えかけていた。あと少し、だが確実に越えられるだけの力量差――――――それが、今はどうだ?

 

「ッ……!!」

 

 目も眩むような高速度。しかし、エレンの意識は〈ゲーティア〉と一体となり、何者も超えることができない超越と呼べる感覚を手にしている。

 それを以て〈フラクシナス〉へ肉薄し――――――また(・・)、逃れられた。

 

「く――――」

 

 接的さえすれば、その瞬間に〈フラクシナス〉を守る随意領域(テリトリー)は〈ゲーティア〉の随意領域(テリトリー)と接触を起こし、その隙に魔力砲を撃ち込む。これで、たったこれだけで全てが終わる。が、その一手があまりにも遠い。

 そんな思考をしてしまった自分に目を見開き、乱雑に拳を艦内に叩きつけた。

 

「馬鹿な、そんなことが!!」

 

 エレンは最強だ。最強の魔術師(ウィザード)なのだ。その自分が、詰める一手があまりにも遠いなどと思ってしまった瞬間に、自らの敗北を認めているも同義。

 これ以上の失態は許されない。一体何度、この〈ラタトスク〉に煮え湯を飲まされてきたか。一体何度、アイクの期待を裏切ってきたか。

 今ようやく、汚名を雪ぐチャンスが巡ってきたというのに。また、それが遠のいていく感覚。何度も、何度も、何度も。

 どうして、何故、いつも。あと一手というところで、誰か(・・)の邪魔が入る。今だって――――――

 

「――――――ぁ」

 

 小さく、漏れ出した声は、そこにいる悪夢(・・・・・・・)を察したものだったのかもしれない。

 反応速度で上回る敵艦に惑わされる理由。そう多く見当たるものではない。ましてや、出来るものでもない。

 再びの、接的。今度こそ、〈フラクシナス〉を捉えた〈ゲーティア〉の主砲が伸びる――――――敵艦の姿が、消えた。

 

 瞬間、エレンは己の敗北を悟った。

 

 

「――――――ナイトメアァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 怨嗟と、確信に満ちた声。血走った目。銀色の炎を纏った〈フラクシナス〉も、それがもたらす霊波反応も、緊急アラームも、何もかもがエレンの視野には入らない。

 最強の魔術師(ウィザード)に有るまじき失態。しかし、エレン・メイザースの目には、嘲笑う悪夢の顔が確かに映っていて――――――最強だった(・・・)空中艦は、二撃目の魔力砲によって黒煙を上げ地球へ墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「――――はっ、ざまあみなさいってのよ」

 

 立てた親指を、ビッと下に向けて墜ち行く〈ゲーティア〉へ最低で最高の別れを告げてやる。

 艦長席に座った琴里は、そこから伸びた電極のような装置を身体の各所に張り付けており、更に艦長席の後方には円柱状の装置にポカンとした表情の精霊たちが手を翳していた。

 ――――システム・ブロート。

 精霊霊力砲〈グングニル〉と同じく、精霊から霊力を直接供給することで随意領域(テリトリー)に限界を超えた力を付与することが可能となる、〈フラクシナスEX(エクス・ケルシオル)〉に搭載された新たなる奥の手。

 それを以て、〈フラクシナス〉は〈ゲーティア〉を下した――――というのは筋違いというものだろう。一人、状況を見守っていた二亜が納得の言っていない顔をしているのがその証拠だ。

 

「……妹ちゃん、ちょっと聞いてもいい? 駄目って言われても聞くけど」

 

「いいわよ。〈ゲーティア〉が完全に沈黙するまでの間なら受け付けるわ」

 

「じゃあ遠慮なく――――――何これ、チート?」

 

 ゲームなどにも精通している二亜らしい表現とはいえ、遠慮なしの問いに琴里は苦笑する。

 〝チート〟とは、まさに正しい表現だと言わざるを得ない。ゲームの仕様上、ありえないような行為を行っていることを〝チート〟と表現することがあるが、エレンを相手にここまで一方的な蹂躙(・・)は〝チート〟と呼ぶ他ないだろう。

 

「〝チート〟……ね。ま、概ね合ってるんじゃないかしら」

 

『そのような表現で片付けられるのは遺憾です。狂三も心外だと言っています』

 

 と。スピーカーからマリアの声が届く。内容としては、適当な一括りへのクレームといったところか。

 

『〝チート〟という行為は苦労をせずに成果を得る物の意です。この場合、私たちの苦労を考えてもらえれば、そのような表現には当てはまりません。二亜の子供のような発言に引き込まれないでください』

 

「……あたし、そんな悪いことした?」

 

 あまりに辛辣がすぎる態度のマリアに少し涙目の二亜はともかく、早めに訂正しなければマリアの機嫌を損ねてしまいそうだと琴里は言葉を返す。

 

「ごめんなさい、訂正するわ。これは〝合法チート〟よ」

 

「あ、結局チートなのは変わらないんだ……」

 

「当たり前よ。相手がどう動くか全部わかる(・・・・・・・・・・・・・)だなんて、どんなゲームでもチートでしょう?」

 

 両手を上げて肩を竦めて、琴里は自嘲しながら二亜たちにそう言ってのける。

 やっていることは、至極単純。ゲームという表現で例えるなら、琴里たちは相手の打つ手を全て知っている(・・・・・・・・・・・・・・)状態でプレイしていたのだ。

 

「……【五の弾(ヘー)】の未来予測? けど、いくらなんでも今のは……」

 

「ええ。強化された【五の弾(へー)】の未来視にも限界はあるわ。あくまで、狂三の五感や知識から演算結果を導き出す。連続の予知なんて以ての外――――――狂三だけならね」

 

 意味深に付け加えられたそれに、二亜はこれまでのことで大方の当たりをつけたのだろう。頬をひくつかせながら声を返した。

 

「――――まさか、顕現装置(リアライザ)を応用して、くるみんと〈フラクシナス〉を一時的にシンクロさせてる……の?」

 

 二亜を見て、琴里はニヤッと鋭い歯を見せびらかすような笑みを返した。察しのいい(・・・・・)二亜へ、それだけで十分〝正解〟だと伝わると確信して。

 

「百点満点よ。今の狂三はマリアという〈フラクシナス〉の全てと一体になってるの。それはつまり、狂三が受け取る情報は〈フラクシナス〉と直結していると言っていいわ。この状態の狂三は、並行して複数人(・・・・・・・)の未来を予知できる」

 

顕現装置(リアライザ)を応用し、狂三の意識データをマリアと共存させる。結果、〈刻々帝(ザフキエル)〉の予知、予測演算は飛躍的に上昇する。

 何せ、膨大なデータ量を捌くことが出来る巨大なデータベースと融合しているのだ。それは、如何に精霊とはいえ一個体の情報処理能力とは訳が違う。

 

「けど、本質は未来予測を肥大化させることじゃないの。観測、演算した人たちの未来。さらにそこから最適解(・・・)を導き出して、相手に送り届ける(・・・・・・・・)

 

 琴里はチュッパチャプスの棒を握り、スっと投げるようなジェスチャーをしてみせる。

 通常、【五の弾(へー)】の未来予測は狂三の中でのみ行われるもの。それを外部へ伝えるためには、どうしてもタイムラグが生じてしまう。結果、それを活かせるのは伝えられた予知を実行できる〝神速〟を持つ者に限られてしまう弱点がある。

 が、その送り届ける演算結果をタイムラグなしで随時更新し続けられるなら――――――随意領域(テリトリー)で繋がる空間内で、任意の対象へ転送することが出来るなら、どうなる?

 〈フラクシナス〉を贅沢にも一機の巨大なセンサーとし、その空間内の対象の未来を個別に、最速で、更に複数予知し、最適な未来をタイムラグ無しに導いてみせる。導き出される答えなど、目に見えていた。

 

「あとは単純よね。最適化された予測結果に対して、最適な行動を取れる人間、今だったら折紙や神無月たちがいるんだから――――――ゲームエンドよ」

 

 指し示したチュッパチャプスを再び口へ含み、ようやく沈み始めた〈ゲーティア〉を哀れみを持って見送る。

 確かに、〈ゲーティア〉とエレンは最強の空中艦足り得る実力を持っていた。システム・ブロートを駆使して、本来ならようやく勝ちを得る相手だろうとも――――――運がなかったのは、時崎狂三という精霊に目の敵にされていたことだろうか。

 すると、そんな琴里を見て二亜たちが戦慄を込めた目をして慄いていることに気がついた。

 

「恐怖。これが悪の大魔王ですか」

 

「あ、悪魔だ……悪魔がいる……」

 

「ちょ、失礼ね。これを考えたのは私じゃないわよ!! 令音よ令音!!」

 

 元々、原案を持ち込んだのは令音なのだ。諸悪の根源みたいに言われる筋合いはない。……まあ、最終的に開発許可を出したのは琴里ではあるのだが。

 指を指して責任転嫁を行うものの、当の本人はのほほんと涼しい顔でコンソールと向き合っており、ぐぬぬと琴里はあらぬ誤解を受ける羽目になった。

 

「……っと、遊んでる暇はないわね。各種確認急いで!! 残りの敵を速攻で片付けるわよ。状況が整い次第、士道と折紙の援護を!!」

 

『はっ……!!』

 

 〈ゲーティア〉が復帰する可能性を消すことができた時点で、琴里たちが足を止める理由はなくなった。あとは折紙と交戦中のアルテミア、本命の星宮六喰を残すのみ。

 その援護に回るべく、琴里はクルーに指示を飛ばし――――――手元に点灯したモニタの表記時間(・・・・)を確認する。

 三分。システムが起動してから計られた時間は、琴里にある判断を下させるには十分な時間だった。

 

「――――タイムリミットね。マリア!!」

 

『了解。システムを――――――まだ、やれますわ』

 

 声を上げた琴里と応えるマリア。そのマリアの声を遮るように、狂三の意志が発される。

 予想していた展開に短く舌打ちをし、琴里は苛立ちを隠すことなく声を荒らげた。

 

「駄目よ、これ以上は許可できないわ。〈ゲーティア〉を抑え込んだだけでも十分すぎる戦果よ。戻ってきてちょうだい」

 

『いいえ、折紙さんを限界までフォローいたしますわ……っ。〈ゲーティア〉を墜すことが叶ったとはいえ、状況は絶対のもの……とは言えませんもの』

 

「かもしれないわね。けど――――悪いわね、狂三。あなたに無理させたら、おにーちゃんに叱られちゃうわ」

 

 まったく、疲労を見せないのが上手いと言うべきか――――けど、狂三の口から限界まで(・・・・)なんて言葉が出てきてしまう時点で、琴里の判断基準では限界だと断じるべきなのだ。

 

「マリア」

 

『はい。上位権限により、システムリンクを強制終了(・・・・)――――――き、ひひ……抜け目、ありませんわ……ねぇ』

 

 途切れ途切れの電子音声が、ゆっくりと沈黙していく。抵抗の間もなく、やはり(・・・)限界だったのだと察することができた。

 

「琴里さん……狂三さんは、大丈夫なんですか?」

 

「安心して。ちゃんと医療班を待機させてるから」

 

 琴里が用意していた返答に、一旦は納得したようだがなおも不安な様子を見せる四糸乃。見回すと、他の精霊たちも同じ顔をしている。

 相手はあの時崎狂三、というのは時代遅れな理由だろう。不謹慎ではあるが、不思議と微笑ましい気持ちでクスリと声を零し、琴里は精霊たちへ声を返した。

 

「けどそうね。意地張って引きこもる可能性もあるし……士道のことは私たちに任せて、狂三を迎えに行ってあげてちょうだい」

 

『……!!』

 

 勢いよく首肯をし、四糸乃たちが転送装置へ足を踏み入れ、転送先へ消えていく。唯一、この場に残った二亜を除いて。

 

「確かに、〝チート〟で片付けるには難しそうだねぇ。〝あの〟くるみんで三分が限界時間?」

 

現状の(・・・)限界時間は、そうね。もっとも、二度目を使わせる気はないけど」

 

 並行未来予測。このような乱戦化において、多方面に戦略的な価値を付加できるこのシステムは、一見便利な物に見える。

 が、欠点はある。それは、大元として扱う者の精神があくまで人である(・・・・)、という一点だ。

 マリアと融合しているとはいえ、根本的に必要となるのは時崎狂三の霊力、及び精神力。最適な未来を選んだ対象に転送するということは、演算した未来の中から即座に最適解を算出しなければならない。演算された中にはもちろん、不利益な未来、非人道的な予測も含まれている。

 ――――端的に言えば、あらゆる死の未来(・・・・)。数多に到る、絶望の未来。誰かを犠牲にした、論理的思考から外れた戦術を導き出す予測。

 システムが稼働している間、それら全てを払い除け、複数人に未来を送り届けなければならない負荷が、狂三にはかかり続ける。

 ああ、強い。時崎狂三という女は、鉄の女だ。だが、こんなものは人が扱う代物ではない。狂三が持つ潜在能力や精神力を全て熟知していなければ、システムの基礎はともかく限界時間(・・・・)を見誤り、狂三に致命的な過負荷を強いる危険性もあった。

 それを見誤ることなく、さらに狂三の性格まで読み切って、彼女に負荷がかかり過ぎないラインでこちらから強制終了をかけられる設計。初めからきな臭いとは思っていたが――――――

 

 

「……こんなものを使わせて、あなたは何を望んでるっていうの?」

 

 

 どんな未来を、望むというのか。答えは――――きっと、問いかけたところで、返ってこないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ふ――――ッ」

 

「っ……」

 

 折紙の〈エインヘリヤル〉と、アルテミシアの魔力光剣が拮抗。暗い宙に激しい魔力光が迸る。

 鍔迫り合うアルテミシアが動きを見せ――――逃がさない。

 

「――――〈絶滅天使(メタトロン)〉!!」

 

 瞬間、折紙の背後に浮遊する幾つもの『羽』が折紙ごとアルテミシアを囲い込み、その先端から光線を放つ。

 

「っ、と」

 

 逃げ場のない四方八方からの狙撃。だが、アルテミシアは何とか折紙を払い除けながら攻撃の被害を最小限(・・・)に留めてみせた。

 

「ち……ッ」

 

 舌打ち混じりに、次の行動を。ことごとく先手を打つ。

 宇宙を自在に飛ぶ〈絶滅天使(メタトロン)〉の半数が〈エインヘリヤル〉の先端へ、残りを全てアルテミシアへ。光線の連続掃射による追い込み。

 

「はぁッ!!」

 

 そして、魔力と霊力が融合した槍が神々しい光を放ち、予測地点(・・・・)のアルテミシアへ向かって疾走する。

 無論、彼女もタダではやられてくれない。折紙が行う何度目かの先読みに眉をひそめながら、アルテミシアのバックパックに付いていた羽のようなパーツを動かし、集結した〈絶滅天使(メタトロン)〉に拮抗できるだけの魔力砲を解き放った。

 

「く……!!」

 

 二つの光がもたらす凄まじい衝撃波。だが、このまま行けば確実に押し切れる――――――そう、確信を持った決定的な一撃。しかし、刹那。

 

『――――リミットです、折紙』

 

「……!!」

 

 脳に響いた声に折紙は目を見開く。

 僅かな間、拮抗を崩すには至らない間だろう。が、常に隙を伺っていたアルテミシアは生み出された一瞬の隙間に、手にしたレイザーブレイドを遠慮なしに折紙の頭目がけて投擲。

 

「ッ!!」

 

 結果として、それを避けるために身体を逸らすことを余儀なくされた折紙は、勝敗を決める決定的なチャンスを逃してしまった。

 素早く身を翻し、折紙から大きく距離を取ったアルテミシアを鋭く睨みつける。

 ――――仕留め損ねた。表情にこそ大きく出さないが、苦々しい気分だ。

 責任は、間違いなく折紙にある。頂上的なアドバンテージがありながら、あと一手を取り損ねたのは折紙のミスであり、アルテミシアがそれほど強敵だとも言える。

 

「ふう……手品(・・)は、もうおしまい?」

 

「…………」

 

 身につけたCR-ユニットは傷だらけながらも、アルテミシアはその気迫にまったくの衰えを見せない。随意領域(テリトリー)操作で剣を手に取り戻しながら、こちらの手段が一つ失われたことを目敏く察している。

 三分と三十秒。折紙の元に送り届けられる未来予測から、アルテミシアが逃げ切った時間だ。驚くべきことに、彼女は折紙が自身の行動を予測していると即座に感づき、ひたすら防戦を行い時間を稼いだのだ。

 これが最強という名に絶対のプライドを持つエレンなら、まだ話は別だったのかもしれない。だがアルテミシアは、自身の形勢不利を悟り、折紙の優位による挑発にも乗ることなく、ひたすらに機を待った。

 絶対有利による詰め将棋――――――ギリギリで、折紙は競り負けた。

 折紙とアルテミシア。これが仮に試合(・・)だったなら、凌ぎ切ったアルテミシアに賞賛を贈るべきなのだろう。けれど、折紙は試合をしているわけではないし、究極的に言えば、アルテミシアに勝つことが目的ではない(・・・・・・・・・・・)

 だから、視界の端に映った光景と、アルテミシアが動揺と絶句を見せたことで、折紙はこの言葉を放つことができる。

 

 

「そう――――だから、私たちの勝ち(・・・・・・)

 

 

 ――――〈ゲーティア〉が、墜ちる。青い地球の引力に引かれ、エレン・メイザースの駆る空中艦が墜落していく。

 

「エレン!? まさか、〈ゲーティア〉が……!?」

 

「あなたたちの負け。大人しく諦めて」

 

 折紙の戦術的な優位は失われた。しかし、戦略的な優位は既に〈ラタトスク〉が握っている。

 大局は決した。この状況でシステムが停止したのも、恐らく狂三への負担を考えてこそのもの。ならあとは、折紙が自らの力で切り開くのみ。

 油断なく槍の切っ先を向ける折紙を、ギロリと睨むアルテミシア。――――諦めとは、程遠い。

 

 

「……勘違いしちゃ駄目だよ。確かにエレンがやられたのは予想外だったけど、それで勝敗が決したわけじゃない。私たちの今日の目的は――――――」

 

「――――――」

 

 

 大局的な勝利は得た。だが、局所的(・・・)な負けの目は残っている。それは、当然。

 

 

「精霊を墜すこと、なんだから」

 

 

 士道と精霊を失うこと、だ。

 

「く……〈絶滅天使(メタトロン)〉!!」

 

 アルテミシアの視線が右方へ向くのを捉えた瞬間、折紙は〈絶滅天使(メタトロン)〉へ指令を発する。

 ――――遅い。離された距離が、致命的な差をもたらす。魔力砲は光子をすり抜け、伸びていく――――――今まさに、六喰へ〝鍵〟を突き刺した、士道のもとへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「――――い、今よ、士道っ!!」

 

「……ふむん――――――っ?」

 

 合図。士道に化けた七罪(・・・・・・・・)が、その姿を六喰の前に晒した。

 まさにその時、士道は六喰の背後を取る。十香、そして救援にきた七罪の力を借り、間違いなく六喰の意表を突く(・・・・・・・・)

 

「馬鹿な。うぬは、一体――――――」

 

 感情を閉じたとはいえ、状況を判断する力が失われたわけではない。今の六喰の表情を表すなら、それは間違いなく〝驚愕〟の二文字に違いない。

 この機を絶対に逃さない、外さない。故に士道は、己が知る中で鼓舞の意味を込めた記憶を呼び起こし、気取った声(・・・・・)を発した。

 

 

「――――通りすがりの、高校生さ」

 

 

 突き出した〈封解主(ミカエル)〉が、抵抗らしい抵抗もなく六喰の胸に吸い込まれる。次いで、士道は己が欲と願いのまま鍵を開けた。

 

「……【(ラータイブ)】ッ!!」

 

 時が、刻まれる。止まっていた時間。止まっていた感情。止まることで失われていたものが、光が、六喰の瞳に灯った。

 

「ぁ――――――あ、あ……」

 

 『閉じ』られた心が『開く』。それによって何が起きるのか。六喰が何を感じるのか。

 こんなところまでやってきた、究極のお節介焼きに何を感じるのか。自分勝手に六喰の心を開いたことへの怒りか、呆れか、それとも――――――

 

「シドー!!」

 

「ッ!?」

 

 答えを得る前に、十香の叫びが随意領域(テリトリー)を伝い士道の鼓膜を大きく震わせた。

 何だ、など聞くまでもない。いいや、聞くだけの時間がない(・・・・・・・・・・)

 十香の叫びは警告だ。視界の端より至る、光の矢。それは六喰を貫かんと高速で迫り来る殺意の光。

 六喰は動けない。十香も七罪も間に合わない――――――士道しか、いない。

 

「六喰――――ッ!!」

 

「ぁ――――――」

 

 〈封解主(ミカエル)〉から手を離し、硬直する六喰の身体を抱きしめる。それは抵抗らしい抵抗もなく、あっさりと受け入れられた。

 だが、足りない。士道の身体は〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の再生能力を有してこそいるが、所詮は生身。鉄をも貫くだろう魔力光が相手では、盾の役割すら成すことが出来ない。

 冷静かつ正確に。危機的状況の今、手持ちのカードで最も士道と六喰を守れるもの。

 

「――――〈氷結傀儡(ザドキエル)〉ッ!!」

 

 堅牢なる凍土の壁。強い意志とイメージによって背後に生成された氷の壁は、見事その役割通りに魔力砲と衝突した。

 

「が、ぁ……っ!!」

 

 しかし、与えられた衝撃に士道は苦悶の声を上げる。完璧な形ならまだしも、咄嗟に作った氷の壁だけでは凄まじい威力の魔力砲の威力を殺し切ることは叶わず、六喰を抱えたまま士道は大きく吹き飛ばされ――――――強い力に引きずられた。

 それが随意領域(テリトリー)から外れたことによって訪れた、地球の引力によるものだと気づくのに数秒と使うことはなかった。

 

「ぐ――――〈颶風騎士(ラファエル)〉!! 〈氷結傀儡(ザドキエル)〉!!」

 

 戻ることは出来ない。だが、手をこまねいている余裕もない。大気圏の高熱が迫る中、暴風と氷結の壁を展開し、士道は史上初であろう生身での大気圏突入(・・・・・・・・・)への覚悟を決めた。

 自分の身を守るため。それもある。こんなところで死ぬわけにはいかない――――それ以上に、六喰を失うわけにもいかないと思った。

 

 

「大丈夫だ……六喰!! お前は……俺が、守るから……ッ!!」

 

「――――」

 

 

 士道が六喰の心を開いた。士道のエゴで、六喰はこのような危機に晒されたと言っても過言ではない。

 自分勝手に動く以上、責任は相応に伴う。そして、そんなものがなくても、士道は自分の目の前で誰かが傷つくのを許容できない我儘な人間なのだ。

 見捨てない、絶対に。強く、六喰の身体を抱きしめる。お互いの心臓の鼓動が、身体を通して伝わってくる。

 

 ――――黒との繋がりに、何かが触れる感覚。己が裡にある何かに触れ、輝き――――――青い星に、二人の身体は吸い込まれていった。

 

 

 






Q.実際エレンが折紙と戦ったらどうなってたの? A.普通に限界時間まで耐えきります。エレンですから。


元ネタ? 羽生えたガン〇ムに決まってるじゃないですか。
システムの根本を簡単に言ってしまえば展開された随意領域内の対象に、弾き出した最適な予測をラグなしで届ける。それだけです。ことこういった乱戦時に置いて、これほど凶悪なやり方もないですけどね。

ただ条件が、狂三の未来予測がこの領域まで到達し、なおかつ狂三が味方時にのみ活用でき、更に使用中は強力なユニットである狂三が戦闘に参加できない。そして決めきれなければ狂三が一時戦闘不能状態に陥る……多分、普通の戦闘だとジ〇ウⅡばりの予測発揮する狂三立てた方が早いこの始末。
単純にマリアと狂三にかかる負荷が相当なものなので、こういうピンポイントな盤面でしか活用しきれない、んじゃないかなぁと。通称・〈ゲーティア〉に乗ってくるエレンを完膚なきまでにギャフンと言わせたいだけのシステム。……冗談ですごめんなさい。

そんなわけで士道チーム以外がRTAばりの速度で攻略を進める中、遂に鍵は開けられました。開けられてしまった、という方が正しいかもしれませんけどね。
感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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