デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百五十話『別れの時』

 

 流れる星々の海は、近いようで、遠い。手を伸ばせば掴めそうで、けれどどこまでも遠くて――――星といえば、以前に狂三とプラネタリウムを見に行った時、彼女の問いに士道なりの答えを返したら、狂三史上類を見ない笑い声で返されたことがあったか。士道は別に笑わせる気はなかったので、少しばかり拗ねた気持ちになったのを覚えている。

 なぜそんなことを思い起こすことになったかといえば、理由は至極単純。

 六喰の霊力を封印してから数日。彼女のご所望で、精霊マンションの屋上に揃って寝転び、夜空を眺めているからである。

 

「六喰」

 

「むん。なんじゃ、主様」

 

「本当によかったのか? 夜空が見たいなら、琴里がもっと見晴らしのいい場所を用意してくれるって言ってたけど……」

 

「よいのじゃ。むくはこれからここに住まうことになるのじゃろ。ならば、ここがよい」

 

「そっか」

 

 六喰自身がいいと言っているのなら、いいのだろう。

 口元を緩め、六喰に向けていた視線を星空に戻す。そうして、右手を伸ばして先の指を閉じて、開き、また閉じて……すっかり元通り(・・・)になった腕に、奇妙な思いを抱いてしまい士道は苦笑いをした。

 文字通りに弾け飛んだ士道の右腕だったが、現在自由に動かせているように再生させることができた。……とは簡単にいうものの、物質の分解という驚異的な力で消滅した部位を短期間で再生させるには、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉だけでなく顕現装置(リアライザ)に頼らざるを得なかったのだが。

 それに加えて、六喰の収容、事態の隠蔽は思いの外早急に対応されることとなった。六喰の霊力封印に呼応して、記憶を『閉じ』られていた皆が一斉に士道のことを思い出し、手を尽くしてくれたというのが大きかった。

 まあその際に、士道の怪我の大きさを見て、記憶を失っていた自分を責める精霊たちを宥める方がよほど大事だったかもしれない。

 ちなみに、この件に関しては、士道の痛覚を狂三が引き受けていると皆にチクって、素知らぬ顔でいた狂三へターゲットを向けさせることで事なきを得た。……狂三からは恨みがましい視線が飛んできていたが、特に気にすることは無いだろう。

 そして六喰は、士道の言葉を受け入れてくれたことからか、琴里や令音の言うことも素直に聞き入れてくれたようで、各種検査は驚くほど順調に進んだ。

 それから数日、つまりは今日この日、それぞれの治療や検査が終わり久方ぶりに顔を合わせた六喰が、一緒に星が見たいと言ってきたのである。

 

「――――昔」

 

「え?」

 

 静寂の中でぽつりとこぼれ落ちた呟きに、士道は視線を六喰へ向ける。

 

「こうして、あねさまと星を眺めたことがある。むくは……その時間がたまらなく好きじゃった」

 

「ああ……そうだな」

 

 知っているように、静かに返す。

 正確に、知っている(・・・・・)から。六喰と擬似的な経路(パス)が結ばれ、彼女の記憶と士道の記憶が混ざり合い、夢を見るようにその光景を目にした。

 心からの安堵と、幸せ。好きな人と過ごす、何気ない時間。士道の感じたそれは、まさに六喰の心そのものだったのだろう。

 

「なぜ……あのとき気がつかなかったのかのう。むくが心配せずとも、あねさまは……ととさまは、かかさまは、むくのことを愛してくれていたと」

 

「仕方ねぇよ。誰だって、一人になんてなりたくない。自分の居場所を守ろうとした六喰の気持ちは、間違いなんかじゃない。……俺にだって、わかる。ただ、やり方を間違えちまっただけさ」

 

「主様……」

 

 六喰の気持ちが過ちなのではない。取ってしまった手段が、出来てしまえた力が間違いだった。

 一度受けた心の痛みは、消えない。

 一度手を犯した過ちは、残り続ける。

 罪を犯した人は、ずっと背負っていかねばならない――――けれど、それは決して、何もかもが進めなくなるということではない。

 痛みを知った六喰なら、過ちを犯した六喰なら、ここからまた進んでいける。遠回りで、取り返せないものもあるかもしれないけど、これから手にしていけるものが、必ずある。

 目を伏せた六喰が、ゆっくりと受け入れるように言葉を紡ぐ。

 

「そうか……そうであったの。主様も、むくと同じじゃった。じゃからむくは……主様といると安心したのかもしれぬの」

 

 頬を緩めながらそのようなことを言われると、士道もさすがに照れくさくて誤魔化すように頬をかいた。

 そう。士道が六喰の夢を見たということは、同時に六喰も士道の記憶を夢としてしっているということになる。

 

「むん、そういえばいくつか見た夢の中で、気になるものがあったのじゃが」

 

「へえ、どんなだ?」

 

「何やら、学校の屋上で好きだ好きだとおなごに何度も――――――」

 

「ぶふっぅ――――――ッ!?」

 

 あまりに予想外の方向からの右ストレートを受け、呼吸の吸う部分を忘れてしまうほど息を吹き出した。

 動揺した士道の様子など何のその。六喰は関係ないと言わんばかりにそのまま続ける。

 

「むん。あのような告白をしたというのに、他のおなごに現を抜かすとは、士道はやはり浮気性じゃの」

 

「ちがっ……いや、その、違くはないかもしれないんですけどね? これには、時を超えるより深い事情があってですね……」

 

 浮気ではないと強くは言えない上に、ある意味で公認なのだが毎度毎度後ろめたさが物凄いのは事実。

 なんと説明して誤解でもない誤解を解こうか、などと士道が目をぐるぐると泳がせていると、六喰が可笑しそうに口元を緩ませた。

 

「冗談じゃ。わかっておるよ。家族とは、向ける感情が違う。しかし、それは繋がりを否定するものではない、のじゃろう?」

 

「……うん。ごめんな、最初に話してやれなくて」

 

 本当なら、始めに話さなければならないことなのだ。それを話せないのは、精霊の攻略には向いていないから――――本当で、あれば。たぶん士道は、誰か一人に特別な感情を抱くことは許されていないのだろう。

 精霊を救うものが、一人の精霊に固執する。誰かを愛する時、誰か一人を選び取る。なんと愚かで、なんと救えない傲慢か。

 ――――だとしても、貫くと決めたのが、この五河士道だから。

 せめて士道にできることは、真摯に思いを込めて言葉を伝えることだけだ。それに六喰は、首を横に振って返してくれた。

 

「いいや。どの時であれ、むくがこのような言の葉を聞き入れたとは思えぬ。今でよかったと、心から思うておるのじゃ」

 

「六喰……」

 

「じゃが、次からはどのようなことであっても話してほしいのじゃ。むくと主様の間に、そういう隠し事はなし、じゃ」

 

「ん……わかってる。俺たち、家族だからな」

 

 言って、六喰の頭を優しく撫でてやる。

 家族の間に事情の隠し事はなし。それは、新たに追加された家訓となるのかもしれない。

 家族だから、伝えたい。これから知ってほしいことは、沢山あるんだから。 

 

「俺と狂三のこと、まだまだ話せてないからさ。ちょっと長くなるかもしれないけど、聞いてもらえるか?」

 

「むん。いくらでも、構わんのじゃ。いつか――――家族になるかもしれんのじゃろう。むくも、よく知りたいのじゃ」

 

「……!! ああ。ついでに、次に狂三に会う時には、あいつをからかえる方法も教えておくよ」

 

「それは楽しみなのじゃ。あの不遜な顔を、どうにか歪ませてやりたいと思うていたからの」

 

 ニヤリと笑ってそう宣言する六喰を見て、士道も同じような笑みを返す。これは、強力な味方ができたかもしれない。

 次に二人が会う時は、いつになるか。まあ、少なくとも六喰と狂三の唇をかけた胃にくる勝負は勘弁だなと内心笑っていると、六喰が笑みを収めて穏やかな声音で言葉を紡いだ。

 

「礼も……伝えねばな」

 

「ん?」

 

「主様と、むくを繋いでくれた礼を、まだしていないからの」

 

「はは。『わたくしは自分自身のために、役割を果たしたに過ぎませんわ』、とか言って、恥ずかしがって受け取らなそうだけどな」

 

 すると、そんな話をした途端、初めから感じていた気配(・・・・・・・・・・・)がフッと消えて、それがまた士道の笑いを誘って六喰が小首を傾げた。

 

「主様?」

 

「ああ、いや……なんでもない。ただ――――――」

 

 そう、ただ。

 

 

「――――恥ずかしがり屋でお節介焼きな子が、見ていただけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「まったく。此度の戦争(デート)も、まるで実入りがありませんでしたこと」

 

 誰もいない夜道に、事実だけを口にした愚痴が小さく響き渡った。

 あったのは霊力と分身体の消耗と、予知や二重加速による負荷ばかり――――そのようなことは重々承知の上なのだから、言っていて恥ずかしくなるだけのことを口に出すべきではないのに。などと、自分の性格を恨むことになったのだが。

 

「――――の割には、とても嬉しそうですね。我が女王」

 

 それと、いつの間にか背後に現れる主様に反抗的な従者に対しても。

 

「……どこの『わたくし』を見て、そのような発想に至るんですの?」

 

「言ってほしいです?」

 

「ぜひ止めてくださいまし。撃ちますわよ」

 

 自分のことは自分でよくわかっている。熱を灯した頬と耳は、誤魔化しきれないほど赤くなっていることだろう。ポーカーフェイスだの、表情がわかりづらいだの文句をつけられた時崎狂三が笑ってしまう。

 振り向いて、笑う従者に銃を向ける仕草をした狂三が――――ふと、違和感を持った。

 

「……あなた、何かありましたの?」

 

 雰囲気に、言いようのない妙なものがある、気がする。それほど曖昧であるにも関わらず、どこかで気になって口に出してしまった。

 しかし、少女自身にどこかおかしな様子はなく、当の本人も外装の下で小首を傾げて声を返した。

 

「え? どこか変ですか? これ(・・)もちゃんと返してもらいましたし、何も変わっていないと思うんですが……」

 

 少女が言いながら、外装をペラペラとはためかせる。

 少女が語る通り、その雰囲気も、力も、変わりはない。狂三が借り受けていた力と全く同じものが、今の少女の手に戻っていた。

 気のせい、なのだろうか。事が一つ終わったことで、気が立っているのかもしれないと、狂三は軽く手を振って返した。

 

「ふふっ、どうやらわたくしの勘違いだったようですわ。忘れてくださいまし」

 

「なーんだ、驚かせないでくださいよ。――――ああそれより、星宮六喰の様子はどうでした?」

 

「安定していらっしゃいましたわ。あれほど暴れていた精霊が、嘘のようですわね」

 

 あれなら、霊力を暴走させる心配もないだろうと狂三が表情を和らげるほど、六喰の状態は安定していた。

 吐き出すものを吐き出し、得るものを得て、一つ成長したということかもしれない。巡りに巡って迷惑をかけられたが、ああなったのなら狂三が茶々を入れることはないだろう。

 苦労はさせられたが、見合うものはあった。大仰に手を広げ、狂三は続ける。

 

 

「さあ、今宵はこれにて幕引きですわ。また一つ、悲願に近づく力を士道さんへ導くことが――――――」

 

 

 

 

 

 

 

「――――はい。これで、終わり(・・・)です」

 

 

 

 

 

 

 その、言葉に。

 

 

「――――――は?」

 

 

 そんな、在り来りで美しくない声を、返してしまった。

 心臓が、音を立てる。嫌な音だ。幾度も体験した――――士道の命が、消えゆく時に鳴る音色。

 

「何を……言って、いますの」

 

 半笑いのぎこちない顔で返す言葉は、あまりにも滑稽。

 何を言っているのか――――狂三であればわかるから、少女は言ったのではないのか。

 だから少女は、慈悲などなく言葉を紡いでいるのではないのか。

 

 

「精霊は……五河士道が封印するべき精霊は、星宮六喰で最後です――――狂三。あなたを、除いて」

 

「――――――」

 

 

 言葉が浮かび上がらない。境界が、曖昧になる。

 それでも、狂三の優れた聴覚は、言葉を聞き逃すことをさせてくれない。優れた頭脳は、考えることを止めてはくれなかった。

 

 

「もう、わかっているのでしょう? 人から精霊へ至りし者。器を満たすために用意された、数々の屍の上に立つ者――――神化(しんか)に至るためにある、十の欠片」

 

 

 神に選ばれし者。それが――――――

 

 

 

「精霊。『始原の精霊』――――崇宮澪(・・・)が生み出した、神の御使い。とでも仰りたいんですの?」

 

 

 

 笑ってしまう出来の悪い妄想のような産物を、しかし少女は首肯を以て肯定した。

 

「私がお教えしたものは、精霊を、五河士道が封印できるというもの。ですが、封印できる精霊が無限に現れるわけではない」

 

「力を切り分けるが故か、満たす器の許容限界か――――どちらにせよ、反吐が出ますわ」

 

 何を思ったのか。何を得ようとしているのか――――士道を利用して(・・・・・・・)、何を企んでいるのか。

 今何よりも、狂三の心を苛立たせるのは、それに関してだった。

 巫山戯るな。士道は、誰かに利用されるために戦ってきたのではない。誰かを救いたいと思って――――――――

 

 

「――――はっ。同じ穴の狢、ですわねぇ」

 

 

 そこまで考えて、思考して、吐き捨てた。

 外道に堕ちているのは、狂三とて同じだろう。

 同じだけの屍を。

 同じだけの悲劇を。

 同じだけ――――士道を利用し、扱おうとしている。

 血が煮えたぎるように暴れている。握りしめた手の内が、焼けるように熱い。

 

「……我が女王。今一度、あなたの答えを聞かせてください」

 

 何を、などと。それこそ愚問極まりない。

 答えを、時崎狂三はずっと握りしめていた。

 わかっていた。いつの日か、この心地が良い温もりが失われると。

 わかっていた。いつの日か、苦しくも愛おしい繰り返しに終わりが訪れるのだと。

 わかっていた。いつの日か、自らの心を撃ち抜く行為でしかないと。

 わかっていた。わかっていた。わかっていたわかっていたわかっていたわかっていた――――――ピリオドを打つ者は、誰でもない『時崎狂三』であると。

 

 精霊・〈ナイトメア〉。世界の敵、世界の災厄。最悪の精霊は――――答えを、既に持っている。

 

 

「――――何があっても、わたくしは辿り着きますわ、必ず」

 

 

 故に、この地に降り立った瞬間と、全く同じだけの言葉を、決意と時を宿す瞳を以て返した。

 時は、無限。そして、有限。

 辿り着くべき地平をゼロとするならば、今このときを以て、その地平は、ゼロは時を数える度に離れ続ける。

 今は過去となり、明日は未来。明日は人々にとっての希望であり、狂三にとっての絶望。

 

 同じようで、けれど違うものを。

 始まりは、偶然だった。

 矛盾した感情を抱いたことは、必然だった。

 

 果てにあるのなら。その果て(かこ)に、『時崎狂三』が悲願を遂げることができるのなら――――救い(みらい)など、喜んで殺し切ろう。

 そこに、『時崎狂三』は必要ない。世界(みらい)に必要ないものは、澪と、狂三そのものだ。

 

 そのために。そのために。そのために。その、ために。

 誰よりも、愛しい人を。

 誰よりも、優しい人を。

 誰よりも、世界を救った人を。

 

 生涯で、狂三が最後に愛した人を。

 

 

「誰の手にも渡さない。この手を汚すのはわたくしだけ。わたくしだけが手にする。わたくしだけの権利。わたくしが、わたくしが、この手で――――――」

 

 

 この先の未来で、彼の生きてきた全てから、狂三が消え去ったとしても――――――

 

 

 

 

「士道さんを、殺しますわ」

 

 

 

 

 殺すことで、彼の生きる未来を生み出そう。

 言霊のように身を焦がす痛みも、張り裂けてしまいそうな感情も、そのためならば、捨て去る。

 どんな企みが待ち受けていようと。あの女が、何を想っていようと。渡さない、譲らない。

 神すら超える、時を塗り替える天使の力で。

 

 全てを――――――〝なかったこと〟にしてみせる。

 

「――――では、私からは祝福を」

 

 道化師が手を掲げ、告げる。

 

 

「これまでのあなたに、感謝を。これからのあなたに、どうか――――最良の結末が、待っていますように」

 

「……わたくしからも、感謝いたしますわ」

 

 

 少女なくして、狂三はここに至ることはなかった。

 もしくは、全く別の未来が待っていたかもしれない。ああ、ああ。それは、今の狂三にとって酷く残酷で、悲しい。

 

 恐ろしいことに。哀れなことに。この期に及んで、時崎狂三という女は――――士道を愛したことを、後悔していないのだ。

 

 

「あなたがいたから、わたくしはここまで辿り着くことができましたわ。あなたがいたから、わたくしは士道さんと巡り会うことができましたわ。――――ありがとう。名もないわたくしの、従者様」

 

「……勿体なき、お言葉です」

 

 

 深々と頭を下げる少女を、狂三は最後まで見届けた。

 せめて、それが礼儀だ。最後の最後まで、変わることのなかった少女との関係への。

 嗚呼、嗚呼。本当に、最後だ。少女と、誰よりも連れ添って、けれど誰よりも理解することができなかった主と従者(偽りの関係)

 どこかで理解している。狂三の悲願が叶う時、少女がどうなってしまうのか。それでも、それでも、止まれない。止まることは、憐れむことはできないのだ。

 それは冒涜だ。少女に対する、何より『時崎狂三』に対する。狂三は『時崎狂三』を、遂に裏切ることができなかったのだから。

 

「――――決着は、わたくしの手でつけますわ」

 

 以前と同じ。だけど、背負うものが、知ったものが違う。

 後に引くことなどできない。有限の砂時計は、もはや返すことは叶わない。

 その決意を聞き届け、従者が最後の礼を取った。

 

「……それでは、ご武運を。我が女王」

 

「ええ、ええ。行って――――いいえ。終わらせて、参りますわ」

 

 そうして、新たに世界を創り出そう。

 歩みを進める。帰路ではなく、終わりを始めるために。

 一歩、一歩、一歩――――これまでの道が離れ行く中、狂三は振り返らずに、言った。

 

 

「――――叶うといいですわね。あなたの、願い」

 

 

 結局、知ることはなかったけれど。

 

 

「――――叶えてみせますよ。私の、悲願を」

 

 

 共に時間を過ごした狂三だから、なんであれ叶って欲しいと思った。

 

 

 これが――――『時崎狂三』が少女と交わした、最後の言葉となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その背は、もう見えなくなっていた。

 

 黒と紅の美しいドレスも。それを着こなす、世界で一番愛おしい背中も。

 

 その表情に滲むは、決意。

 その隻眼に灯るは、愛情。

 その未来(とけい)に宿るは、過去(みらい)

 

 誰より美しく。誰より気高く。誰より強情で。誰より優しくて――――――誰より、好きな人だから。

 

 

 

 

 

「さようなら、時崎狂三」

 

 

 

 

 

 卑怯な別れを、告げた。

 

 

 

 





NEXT TIME・『五河アンサー』


さあ――――運命の戦争(デート)を、終わらせましょう

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