デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百六十話『焔の誓い』

 

 

「――――どーして教えてくれやがらなかったんですか!?」

 

 キーン、と。司令席真横の耳元で、特徴的な日本語をお使いの少女が大声で叫ぶものだから、思わず頭にそんな効果音が通り過ぎていった。

 耳を塞いでいた手を下げ、お冠な少女――――士道の実妹、崇宮真那へため息を吐きながら声を返した。

 

「急に乗り込んできたかと思えば……なんのこと?」

 

「あれですよ!! あれ!!」

 

 何ともまあ身体の状態に反して元気なことで、ビシィっと勢いよく突きつけた指が示す方向には、とある二人――――などと隠すまでもなく、士道と狂三を観測するためのメインモニタが存在している。

 現在は、教室から連れ出されたがちゃっかりデート用に用意していた服に着替え、手を繋いで仲睦まじく並んで道を歩く姿が映し出されている。

 モノトーン調に紅を加えた色合いはいつもと変わらないものであるが、余程気合いを入れているのだろう。それは、少なくない日数狂三と関わっていた琴里が一度も見た覚えがない服だった。

 

『服。すげぇ似合ってる。今日のために、着てくれたんだな』

 

『ふふっ。当然ですわ。今日は特別。わたくしの時間はあなた様に、あなた様の時間はわたくしに。最高の時間には、最高の準備を。士道さんも、よくお似合いですわ』

 

『ああ。俺も同じこと考えて、今日のために考えに考えたんだ――――やっぱ俺たち、似たもの同士かもな』

 

『ええ、ええ。そうかもしれませんわ。だとしたら、こんなに嬉しいことはございませんこと』

 

 狂三は言いながら、士道の腕に自身の腕を絡ませ、士道もそれを拒むことなく優雅で完璧な合わせ歩調で歩みを進める。さながら、名家の令嬢とどこかの王子か、とでも言いたくなる絵面だ。

 口に含んだチュッパチャプスが即溶けしそうな甘ったるさに関しては……まあ、いつものことであると琴里は割り切っていた。

 こうなることを仕向けた責任の一端は琴里にあるとはいえ、兄がここまでできるようになるとはと呆れ半分の気持ちで琴里は監視を続ける。が、見慣れていない真那にとっては、文字通り全身に鳥肌が立つほどの光景のようで、全身を震わせてから琴里に肩に掴みかかった。

 

「どうしてこうなるまで教えてくれやがらなかったんです!! 悪逆非道人面獣心、ついでに性格最悪焼肉定食の〈ナイトメア〉が、兄様と、こんな……こんな……っ!!」

 

「あー……」

 

 そういえば、琴里たち以外だと狂三の印象は変わっていないので、こういう反応も当然かぁと新鮮な気分を味わう。

 というより、狂三のスタンスが大きく変化したわけではない、ということだ。単純に、見せる優しさの域が士道や精霊たちに大きく傾いたに過ぎず、依然として真那――は他二つに比べ百倍はマシだが――、AST、DEMにとって時崎狂三とは〝最悪の精霊〟に違いないのである。

 万由里の一件や経路(パス)の狭窄事件で多少は蟠りも溶けたかと思いきや、狂三と顔を合わせれば殺し合いが始まりかねない空気感。内面はともかく、表面上は馴れ合うような関係でもないのだから仕方がないとはいえ、間に挟まる琴里からすればたまったものではない。

 ので、琴里も真那に関しては相応の言い分、という名の言い訳を用意していた。

 

「まあ落ち着きなさい。そもそも、私だってあなたに教えようとしたわよ。なのにあなた、私からの連絡には居留守使うんだもの」

 

「うぐ……っ。ち、ちげーますよ琴里さん。私は別に逃げようとしたわけねーですよ?」

 

「ふーん……」

 

 一転攻勢。琴里の冷たい視線に押し返され、一歩二歩と頬に汗を垂らして後退る真那。足を組みかえ、肘をついて拳の上に頬を乗せ、ここぞとばかりに『私は怒っています』アピール。我ながら完璧な攻勢だ、なんて自画自賛してみたり。

 対士道をこなせる琴里にかかれば、似たタイプの真那もこんなものである。

 ――――教えようとしたことまでは本当。ただし、電話一回に出なかった時点でこれは好都合と直前まで黙っていたことを伏せていいなら、だが。

 自分の身体の状態をわかっていながら無理をする真那には、このくらいの方がいい薬になるだろう。と、鏡を見たらさぞ悪い顔をしていのだろう己に苦笑し、勢いを失った真那を説き伏せにかかる。

 

「とにかく。こうなった以上、あなたは〈フラクシナス〉で大人しくしてること。何があっても手を出すな、っていうのが士道のオーダーよ」

 

「な……!?」

 

 琴里の言葉に驚いた様子で目を見開き、真那が声を荒らげる。

 

「正気でいやがりますか!? そんなの〈ナイトメア〉が何をしやがるか……!! 琴里さんは、兄様が心配じゃないんですか!!」

 

「……私は〈ラタトスク〉の司令官よ。士道を信じて、最大限サポートするのが仕事――――それが、士道と私の信頼なの」

 

「っ……!!」

 

 たかが小娘の威圧、真那ほどの戦士が怯む理由はない。しかし、僅かでも真那が慄いた理由があるとするならば――――きっと、琴里の中にある感情を見抜いたのだろう。

 〈ラタトスク〉の司令官・五河琴里。それが琴里に課せられた義務であり、艦の全責任を背負うものとして、超然としていなければならない所以。

 艦を預かるものが、その場において不安を口にするなど以ての外。部下の意見を取り入れこそすれど、部下の顔色を伺って態度を変えることが許されないのと同じ。

 だから、そう。五河琴里が司令ではなく、今この瞬間泣き喚きたい(・・・・・・)妹しての顔をさらけ出してはいけないのと、また同じ。

 

 信頼があるから、心配していない? ふざけるんじゃない――――――琴里は、士道が好きだ。

 

 いつだって、琴里の心には不安があった。次の瞬間には、士道がいなくなってしまうのではないかという絶望があった。

 それらを断ち切る要因が時崎狂三であったのなら、それらを持ち込む原因もまた、時崎狂三。

 

 今すぐ、叫び出したい。おにーちゃんを、取らないで(・・・・・)、と。

 

 

「だから今、士道の信頼に応えるためなら――――真那、あなたにだって容赦しないわ。それが私に託された……狂三を救う(・・)ための、役割なのよ」

 

 

 故に、琴里は司令として牙を剥く。本来であれば、真那と同じ立場にいてもおかしくない琴里は、それでも士道のために全ての私情を封じる。

 今、〈ラタトスク〉がすべきこと。精霊保護、霊力封印のためやるべきこと。それは、誰であろうと立ち入らせない(・・・・・・・)

 士道が必要だと言うなら、琴里は応えるまで。ただそれだけ。そのためなら、誰であっても容赦しない。

 あらゆる策、あらゆる外道な手段を用いて、士道と狂三の領域を死守する。

 実妹の真那でも、精霊たちでも――――琴里自身であっても、だ。

 

「……」

 

「……」

 

 無言の睨み合いが数秒、或いは数分。殺気立つ司令と妹の対面は、

 

「……わかりましたよ」

 

 どうにか、妹に身を引かせることで終結した。

 女の命である髪を片手で掻き毟る真那から、未だやり切れない思いは伝わってくる。それでも、納得を撤回はしなかった。

 

「私にも、部隊に所属してた経験がありやがります。その目は、汚れ仕事だろうと喜んでやる、って良い上司の目でいやがりますね……」

 

「あら、どうも」

 

「……琴里さん。立派な司令官でやがりますよ」

 

「ありがと。最高の褒め言葉よ」

 

 毅然と、面の皮を厚くしてニッコリと兄受け売りの返しをしてあげれば、今度こそ真那が呆れ返って大きなため息を吐いた。

 ちなみに、これでも真那が行くと言ったら、待機させているマリアに侵入者用のトラップを起動してもらわねばならなかったのだが、そんな骨を折らずに済んで助かった。

 琴里が悪魔のような発想をしているとは露知らず、真那が再び眉根を吊り上げて声を発した。

 

「邪魔はしねーです。けど、ここで兄様を見守らせてください」

 

「もちろんよ。みんなに(・・・・)、その権利はあるわ」

 

みんな(・・・)と強調したことに、真那が不思議そうに首を傾げた。

 その答えは、すぐさま理解できるはずだ。光り輝く転送装置から――――個性豊かな面々が、揃って姿を見せたのだから。

 

「いえーい、一番乗りー!! ――――って、マナティ!? くっ、実妹に負けた……っ!!」

 

「全員で来たのに一番も二番もないでしょ……」

 

 呆れ顔の琴里に、それもそうかーと適当極まる立ち直りで笑う二亜。

 無論、彼女だけではない。六喰、七罪、四糸乃に加え、学生組の十香、折紙、耶倶矢、夕弦、美九……つまるところ、全員集合というわけだ。

 十香たちが制服なのを見るに、着替える間もなく〈フラクシナス〉へ拾われたということだ。まあ、許可を出したのは琴里ではあるが、迷いのなさに敬意すら評したくなった。

 仕方のない表情でチュッパチャプスの棒を手に取り、琴里は精霊たちへ声を向けた。

 

「……まったく。結局みんな揃って学校をサボちゃって。教師の涙が目に浮かぶわ」

 

「騒ぎに乗じて抜け出すのは、造作もなかった」

 

「うむ、あの行事は中々に楽しめたぞ」

 

「逃避行騒ぎを行事にされたらたまらないわね……」

 

 折紙と十香のしたり顔に、教師の苦労を思い浮かべ顔に出して同情した。

 あれやこれやと、今も尾ひれをつけて大混乱に違いない。別クラスの耶倶矢や夕弦まで十香と似たような顔で誇っているところを見るに、来禅高校は実に愉快な学校のようだ。

 士道の関係者が全員揃って早退となれば、明日には様々な憶測が飛び交う誤解が、学校中に知れ渡っていることだろう。なお、別高校の美九に関しては……女の子を誑かして何とかしていそうなので、敢えて触れないでおこう。

 

「ふふーん。二亜ちゃんはその辺は無問題(モーマンタイ)だもんねー」

 

 えっへん、と胸を張る二亜だったが、はてと琴里は顎に手を当て疑問の声を返した。

 

「でも、あなた原稿は――――――」

 

「ここでやらせてもらっていいですか!?」

 

『非承認。艦に汚れがつきます』

 

「うわーん!!」

 

 ……特に、考えていなかったようだ。とはいえ、マリアの不許可は当然のものであるし、締切は二亜が真面目にやれば泣くことはなかったはずなので同情はしない。

 

「さて、と。それじゃあ、見守ってあげましょうか――――――」

 

 司令席に腰を落ち着かせ、琴里はモニタに視線を集中させる。

 通常であれば、士道と精霊のデートを他の精霊に見せるのはありえない。士道に一定の好意を持つ精霊にとって、他の精霊の攻略はよい影響を与えるとは言い難いからだ。

 けれど、その理屈を上回るほど――――士道と狂三の終局を……否、始まりを(・・・・)、精霊たちは見届けたいと強く願っているのだ。

 選択肢も、介入も存在しない。自由気ままなデートを、琴里は声に乗せて紡いだ。

 

 

「――――甘くて苦い、長い戦争(デート)の行方を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「懐かしい――――そう、考えてしまいますわねぇ」

 

 並び腕を組んだ狂三が、該当の建物を見つめてポツリと呟いた。

 彼女の言葉を聞き、士道も正直に首を前に倒して返す。

 

「ああ。もう、半年以上も前の話なんだな……」

 

 人の大切な記憶を思い起こすという行為は、どうしても感慨深くなってしまうものだ。それが、好きな女の子との初デート(・・・・)の経験ならば、尚さら。

 デート、という定義を提唱し、確定させるための条件が整い、二人が明確にそれ(・・)だと認知していた日――――去年の六月、あの日だ。

 巡った場所を、士道は一つも逃すことなく覚えている。つまり、目の前の建物――――ゲームセンターは、その一つということだ。

 来てみたかった。数々の仮面を被りながらデートに望んだ狂三が、本気でこぼした本音の一つをよく覚えている。今日初めにここを選んだ意味合いは、少し逸れて、けれど想いは同じなのだろうと思ったのだ。

 

「……遅くなったけど、さ。あの日のデート、途中だったろ」

 

「だから、今一度、と?」

 

「うん。今の俺なら、もっと狂三を楽しませられる。中途半端なまま記憶に残しておくのは、何かモヤッとしてさ」

 

 そう思ったから、士道は初デートをもう一度(・・・・)行うと決めて、今日のルートを選んだ。

 想いは同じ、と考えているものの、いきなりこれを外したら目も当てられないな、なんて頬を掻きながら苦笑した。

 ただ――――言葉を聞いて微笑んだ狂三を見て、間違いはないと確信した。

 

「わたくしも、一緒ですわ。あの日は未熟な我が身により、あのような(・・・・・)別れになってしまいましたが――――お互い、そのようなことはもうないでしょうから」

 

「……」

 

 無言は肯定。数々の対話で、その程度のことは学んでいる。

 真実、あの日のようなことは起こりえない。今日この日、決着をつけるために士道と狂三はデートをする。

 清算、とでもいうのか。お互いに、後悔を残してしまったデートを、今一度。そう、思ったことは確かだ。

 

「それに――――他の意味合いもありますわ」

 

「え……?」

 

 意外な声を上げた士道に、狂三はフッと笑い続けた。

 

「わたくしたち、刺激的な戦争(デート)は幾つも持ち合わせていますけれど、普通(・・)のデートは、あまり経験がないのではなくて?」

 

「あ……」

 

 あまりに普通のことを、今更ながらに指摘されて呆気にとられた。

 狂三が共にいる場所が、二人の戦争(デート)。そんな想いで駆け抜けてきた士道は、いつも狂三が共に戦うことが自然で、刺激的な戦場ばかりだと気付かされた。

 狂三は、どこかでそのことを気にしていたのかもしれない。何も気にすることのない、普通(・・)。それができない自身へ、ずっと。

 

 

「今日は、高級な贈り物も、用意された風景も、必要ありません。ただ……普通で、素敵なデートを――――最後に、士道さんと送りたかった」

 

「狂三……」

 

「うふふ。大正解ですわね、士道さん」

 

 

 笑う瞳には、最後と定めた悲しい決意が。ああ、まただ(・・・)。彼女はまた、そうやって最後を受け入れようとする。

 士道がもし失敗(・・)したら、本当に最後のデート。世界が変われば、二度と今の士道と今の狂三は、出逢わない。永劫、狂三の記憶は、今日で止まる。

 だから、欲しいのだろう。常に戦場を駆けた精霊は、記憶に残る〝特別な普通〟を求める。

 

「――――だったら、残してやるよ」

 

 なら、どのような結末になろうと(・・・・・・・・・・・・)、今この瞬間に応えずして何が男か。

 決して離さぬよう、狂三と手の指を絡ませ、ニヤッと笑いながら強く手を引く。

 あの日と同じやり方で――――でも、伴う歩は士道が引くまでもなく、強かった。

 

 

「あの時の俺たちが羨ましいって思うくらい、最高の記憶(デート)をな」

 

「あら、あら」

 

 

 目をわざとらしくぱちくりとさせた狂三は、赤く染めた頬を隠すこともなく返した。

 

「本当に、様になっていましてよ」

 

「そりゃ、相手がいいんだろうさ」

 

 お互いをデレさせるための言葉の応酬(こぜりあい)を繰り広げながら、士道と狂三は第一の記憶(デート)を更新するために歩みを進めた。

 

 ゲームセンターの中身は、半年以上も経てば筐体が入れ替わったり、配置が変わっていたりなどはよくあることだ。そうならないゲームは、一定以上に人が入るゲーム――――たとえば、今からやろうとしているシューティングゲーム、とか。

 

「うーん……やはり、別の銃というのは違和感がありますわねぇ。一度練習させてくださいませんこと?」

 

「いいけど……全国の女子高生たちの中でも、それ(・・)を言えるのは狂三くらいだろうな……」

 

「あら、心外ですわ。折紙さんも同じことが言えましてよ」

 

「……訂正するよ。お前を含めて二人、だ」

 

 士道が言うと、狂三は満足げに頷き、筐体へ姿勢を戻して妙に様になる構えでゲームの銃を持った。

 ていうか、〝別〟の意味合いが強すぎるだろうと。そりゃあ、究極の幻想が形になった〈刻々帝(ザフキエル)〉の古銃と、ゲーセンに用意されたガンコンを比べたら違和感の塊に決まっている。

 以前、シューティングゲームがやたら強いと驚いていたが、今に考えると誰にものを言っているのだという話だ。相手は、どんな小さな標的だろうと正確無比に撃ち抜いてみせる超一流の銃使い。

 ――――そこまで考えて、士道は「ん?」と疑問の声を上げた。

 

「でも、あの時はそれなりにミスしてたよな……」

 

 顎に手を当て記憶を呼び起こすと、その時の光景が楽々と思い起こされた。

 そうなのだ。やたら強い、と驚いたのは事実なのだが、中身には士道と共に挑む初挑戦にしては、という意味合いが込められていた。

 何でもこなしてしまう狂三にしては珍しいことで、もしかして銃への違和感というのが原因なのかと思ったが――――――あっという間に流れた、パーフェクトクリア(・・・・・・・・・)の音に、士道は目を丸くした。

 

「……あれ?」

 

「ふふっ。士道さん、覚えておいてくださいまし――――小手先の技術は、淑女の処世術ですのよ」

 

 フッと銃口を吹く仕草をして、狂三は答え合わせを行う。

 士道は頬をひくつかせながら理解した――――さては、狂三のいいように接待されていたなと。

 なるほど。狂三を楽しませていたと記憶していたが、実は狂三の処世術――という名の偽装を込めた猫被り――だった、と。ならば、彼女がそれを行う必要がないと決めたのなら、狂三と組んでゲームを楽しませるためには――――――少なくとも、狂三を呆れさせない程度の腕は必要、ということになる。

 

「さて……」

 

 カチャリ、と。二P用のガンコントローラーを手に取り、くるりと反転させた銃を、いつかの士道とは逆に狂三から差し出した。

 

 

「士道さん。わたくしに――――ついて来れまして」

 

 

 そんな、楽しませてみろ(・・・・・・・)という挑戦的な微笑みに――――――誰かさんの負けず嫌いが移った士道が返すものは、一つだった。

 

 

「ああ、ああ――――狂三こそ、ついて来てくれよ」

 

 

 そう言って受け取って――――揃って、可笑しそうに吹き出した。

 

「くっ、ふふ」

 

「き、ひひっ」

 

 これではいつもと変わらないじゃないかと、自分たちが見せる大仰さに、お互いが顔を見合わせて笑ってしまったのだ――――それが愛おしく楽しいのも、いつだって変わらなかったから。

 

 それは、さておき。

 

「っていうか、ランキング一位の『Kaguya』と『Yuduru』って……」

 

「……はてさて、何番目の勝負だったのでしょう」

 

 狂三と揃えて、頭に浮かぶ二人を想像して微笑ましくなる。

 両者パーフェクトで超協力プレイしていた形跡を見るに、仲睦まじい四十九分けの一部ということは確かだろう。

 これは強敵だなと士道は苦笑し――――彼女たちを超えるという目標が追加された楽しい協力ゲームに、熱中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お……」

 

 あの日と同じようにゲーセン内を狂三と巡っていた士道の目に、またもや懐かしいものが目に入った。

 クレーンゲーム機の中にある可愛らしい猫のぬいぐるみ。そう、かつて狂三にプレゼントした黒猫のぬいぐるみの白猫、つまり色違いが置かれていたのだ。

 それに目を奪われたのは何も士道だけではなく、目線を柔らかくし狂三も思い出に浸るように声を発した。

 

「懐かしい子ですわ。士道さんがわたくしの〝ハジメテ〟をいただいた時のものですわね」

 

「大分誤解が生じる表現だな!?」

 

 〝ハジメテ〟に込められた意味がわからないと、恐ろしい方向にぶっ飛びそうな発言に叫びを返すと、くすくすと相変わらず人を揶揄う笑いを狂三は見せた。

 

「けど、あなた様だけに通じる意味を持つのなら、悪くないと思いませんこと?」

 

「狂三、俺がお前の言葉なら大体肯定すると思ってやってないか……?」

 

「違いますの?」

 

「…………」

 

 違わないなぁ、としか言えない悲しい男の性というかなんというか。

 返す言葉を失い、コホンと咳払いを一つしてから士道は話の流れを戻すことにした。

 

「でも覚えててくれたんだな。俺が初めてプレゼントしたやつ。えーっと、確か二十……」

 

「二十二回、ですわ」

 

「……うん。二十二回の努力の結晶だな……」

 

 まあ、そうでもしないと商売が成り立たないのだから仕方がないのだが、改めて思うと〈ラタトスク〉の介入がないクレーンゲームはまさに〝沼〟そのものだった。

 狂三が士道を必死に止めることは数あれど、あれほど平和的に止めてくれたのはあの時くらいなものだな、なんてほほんと考えていると、狂三が財布から小銭を数枚取り出すところを目にし、キョトンとした顔を作る。

 

「狂三?」

 

「同じことでも、変化があれば楽しみは変わるもの――――せっかくですので、今度はわたくしが士道さんにプレゼントして差し上げますわ」

 

「え……――――――」

 

 さすがに、士道が持つには可愛らしすぎる。そう口にしかけたが――――その〝意味〟に気づいて、狂三が続けるであろう言葉を待った。

 

「うふふ。わたくしとのペアルック……受け取ってくださいまし」

 

「っ――――嬉しいよ。お嬢様」

 

 微笑みだけを、見るならば。愛する者に贈るための言葉。

 受け取る者の微笑みも、また同じである――――けれど、その悲劇的な覚悟の程を察すればそう返すしかないではないか。

 今は、まだ。顔に滲み出そうになる感情を押さえ込み、あくまで普通のデートを楽しむために士道は続けた。

 

「でも、取る前から言うには早すぎるんじゃ――――」

 

「取れましたわ」

 

「はやっ!?」

 

 僅か数コイン分の出来事に、狂三の行動力を知って慣れているはずの士道ですら驚きを隠せず戦いた。

 全くもって無駄のないアーム捌きは、とてもではないが初心者とは――――もしかして、隠れて遊びに来てたのか? なんて思いながら、上機嫌に取り出し口からぬいぐるみを手に取る狂三を見て、士道は感嘆を顕にした。

 

「……狂三ってさ、できないことを数えた方が早くないか?」

 

「あら、そんなことはありませんわ。到達し得ないものというのは、誰しも多いもの。わたくしであれば――――――」

 

 言って、士道の手に白猫のぬいぐるみを握らせ――――その隙に、人差し指を士道の唇に押し当てた。

 

 

「ッ……!!」

 

「あなた様の心を奪うことは、わたくしが人生でもっともできなかったこと(・・・・・・・・)に、当たりますわね」

 

 

 ニコリと、魔性が笑う。

 ああ、ああ。そう、なのだろう。きっと、時崎狂三という少女の世界で、一番愛しい男であり、一番手をやかされたのが五河士道という男なのだ。

 なんと愛しいことか。なんと光栄なことか。

 

 でも、少しだけ、間違っている。

 

 

「悪いな――――好きな女は、困らせたくなるタイプでね」

 

 

 不敵に微笑み返すその裡に――――心など、とうの昔に奪われていたのだと、少年は告白した。

 

 もう少し、あと少し――――気付かれていないのなら、この時間を。少女の手を握り、少年は切に願った。

 







多分それなりに思われてたであろうマナティって何してんの?の答え。琴里が綺麗に足止めしていた、でした。なお首謀者は琴里だが実は共犯もいた模様。一体村雨なに音なんだ……。


時計の針は巻き戻っているように見えて、少しつづ前へ進む。心は受け入れていても、想いは終わりを拒絶する。だから、あと少しだけと。――――さあ、最後に残された時崎狂三を、開け放ちましょう。

次回、『過日の罪業』。過ぎ去るはずの記憶は、今なお続いている。

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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