デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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澪バッドエンド
第百六十四話『白は女王となりて(プロモーション)


 もしも、時を戻せるなら。

 

 

『……行け。その子を――――澪を頼んだぞ、坊主』

 

 

 もしも、後悔のない選択を出来たのなら。

 

 

『やれやれ、困ったな。私は嘘を吐いているつもりはなかったんだが』

 

 

 誰しもが、思うこと。神に等しい力を持つ者でさえも、思う。

 だが、神と崇められし少女は、等しい力と象徴があろうと、ただ一人の少女でしかなかった。

 空想上の神は全てを必然によって決める。ならば、運命という名の偶然によって生き方を定めた少女は、既に神ならざる身であったのだ。

 

 崇宮澪は、自身を高尚な存在とは認めない。

 

 けれど、無力な存在とも定義づけしなかった。

 

 

『そう……か……』

 

 

 失って、たった一人を取り戻すことが出来なくて。時を巻き戻すことができても、きっとまた同じことが起きる。

 たとえ起きなかったとしても……一度、人間の死という概念を知ってしまった澪に、有限の命は耐えられるものではない。無限に等しい命を持つ精霊だからこそ、それを知るべきではなかった。

 

 考えた。考えた、考えた、考えた。考えて考えて考えて考えて考えて――――――答えを、見つけてしまった(・・・・・・・・)

 

 

『――――作り直せば(・・・・・)……いいんだ』

 

 

 失ったのなら、取り戻せばいい(・・・・・・・)

 

 やり直すのではなく、作り直せばいいのだ。

 

 

『――――私が、もう一度産んであげる。

今度は絶対に死なないように(・・・・・・・・・・・・・)

今度は絶対に壊れないように(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 少年を生き返らせることは、できない。

 

 なら、澪がもう一度少年を産み落とす(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 今度は、死なないように。そのために、力を配置する。人間が器として適応できるように、少しづつ、少しづつ――――最初は、『力を吸収するための、力』。

 

 そう。そうすれば、完成する。澪と並び立つ、愛しい少年が。

 

 

『もう、絶対に離さない。もう、絶対間違わない』

 

 

 その時、少年と澪は永遠の時間を手に入れる。

 

 ああ、困った、ことに。世界すら覆す精霊は――――少年がいなければ、生きていけなかったのだ。

 それを悟るのが、あまりにも遅すぎた。それ、故に。

 

 

 

『だから……待っててね――――シン(・・)

 

 

 

 悲劇は、繰り返される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 音のない世界とは、今この瞬間を意味している。

 街の音が極限まで削り取られた世界で、士道はそれを体感していた。

 本当に消えているのではない。ただ、どうしても――――目の前の少女に全てを奪われそうになる。

 

「ぁ――――」

 

 二つの霊結晶(セフィラ)を慈しむように抱く、光を纏う少女。

 絹糸のように艶やかな髪。透き通るような白い肌。どこかで見たような(・・・・・・・・・)物憂げな双眸。その全てをもってしても、彼女の美しさ一握りしか表現できていない。

 しかし、それだけならば士道が思考を停止するはずもない。人外なる美しさなど、穴が空くほど見てきた。身体を抱き込むようにして腕の内に収めた狂三がそうなのだから。

 なら、この胸の高鳴りは、なんだ? 根拠のない想像を浮かべてしまいかねない、強烈な憧憬。

 それは、士道なのかと疑ってしまうほどの奔流。まるで、士道ではない士道(・・・・・・・・)が、彼女と出逢うために生きているような強い感覚。

 

 だが、まさに少女はそれ(・・)を口にしたのだ――――ようやく会えたね、シン(・・)、と。

 

 そうして、少女は霊結晶(セフィラ)を取り込んだ。

 

「っ……!!」

 

 そこでようやく、士道の目に警戒(・・)という二文字が浮かび上がる。

 正体不明の……精霊。手の中にいる狂三は、目を見開いて震えている。それは少女の消滅(・・・・・)に起因するものか。はたまた、この精霊に対してのものなのか。

 少なくとも、冷静な狂三はいない。ならば、自分が狂三を守らなければならない――――やっと、本当の意味で心を繋げることができたのに、どうしてこんなことになる。

 彼女は狂三を狙い、少女を殺した(・・・・・・)。その行為は、士道の心の裡にある呪いにも似た激情を超え、彼女に対して警戒を抱くに十分足るものだったのだ。

 

「……ん」

 

 けれど、彼女は……士道をシンと呼ぶ(・・・・・・・・)少女は、取り込んだ霊結晶(セフィラ)の残滓を眺め、手ですくい上げるようにして、言った。

 

 

「わかった――――それが君の願いなら、『私』が叶えないわけにはいかないね」

 

 

 慈しみの心と、願いを以て。殺したはずの少女に対して、血を分けた姉妹(・・・・・・・)のような愛を以て。

 

「な……」

 

 意味がわからない。少女を――――〈アンノウン〉を消し去ったのは、彼女だ。

 狂三を狙った光を庇い、霊結晶(セフィラ)を奪われた〈アンノウン〉。だが少女は、望んでいたようにその身を差し出し、謎の精霊もまた、少女を受け入れた。

 

「さて……」

 

「……!!」

 

 ふと、視線が向けられる。警戒し、狂三を彼女の視線から庇うようにより一層抱き込む。

 

「……ふふ」

 

 が、それさえも見透かしたように彼女は微笑んだ。微笑んで、近づいてくる――――逃げられ、ない。

 

「なん、で……」

 

 そうだ。未知の相手に、背を向けることだってできたはずだ。狂三の正気を無理にでも取り戻し、彼女に対抗することだって。

 それをしなかったのは――――士道ではない士道が、彼女という存在そのものを無条件に受け入れている(・・・・・・・・・・・)。そう、客観的に士道は感じ取った。

 少女の手が士道の額に触れる。刹那――――ハッと目を見開いた狂三が、士道を引き剥がした。

 

 

「士道さん、駄目――――!!」

 

「くる――――!?」

 

 

 しかし、遅い。

 

 凄まじい量の、記憶(・・)。【一〇の弾(ユッド)】のように共有するものではなく、言うなれば、自分の中の記憶が溢れ出る(・・・・・・・・・・・・)。不可思議で、理不尽な情報の渦。

 

「…………!! ……!?」

 

「士道さん!! しど――――ぁ、あぅ……っ!?」

 

 鋭く痛む頭と、倒れそうになる身体を狂三が支えようとする。けれど、狂三も同じように(・・・・・・)頭を抱えた。

 士道と同じものを、見てしまったかのように。

 

「あ……あ――――――」

 

 そして、溶け合う(・・・・)。士道の記憶と、士道ではない士道の記憶。

 それは、目の前の少女が誰なのか。判断するには容易くて。

 

 

「――――み、お……?」

 

 

 有り得ならざる、狂三の宿敵の名(・・・・・・・)を、呼んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「な……っ!?」

 

 琴里の狼狽を咎める者は、いなかった。

 指揮官とは、毅然としていなければならない。いつ如何なる時も、組織のトップは堂々と構えることが必要とされる。たとえそれが、己の命が危機に瀕した時であったとしても。

 なら、誰一人として琴里の狼狽に気が付かなかったとでもいうのか――――是である。

 皆、琴里と同じようにモニタに映し出された光景に、視線を釘付けにされてしまっていた。

 

「あ、〈アンノウン〉の生命反応……消失しました……」

 

 戸惑いと、現実感のないクルーの声が艦橋に響く。

 何が、起こったというのか。狂三と士道が分かり合ったその瞬間、一瞬、刹那――――〈アンノウン〉が、消えた。

 突如、今になって反応が現れた(・・・・・・・・・・・)精霊によって。

 あまりにも、呆気のない幕切れ。状況を判断など、出来るはずもない。

 

「っ――――索敵は、していなかったの……!?」

 

 だとしても、と。真っ先に声を上げたのは折紙だった。

 そうだ。心神喪失をしている場合ではない。琴里は即座に言葉を投げ返した。

 

「していたわ!! どんなことがあってもいいように、どれだけ小さな反応でも見逃さないように指示を出していたのよ!!」

 

 何があっても、邪魔をしないように。そして、されないように(・・・・・・・)

 邪魔は琴里たちだけではなく、外部からのものも想定していた。DEM、ASTに対しての備え。二人の均衡は、介入があった瞬間に脆くも崩れ去ると容易に想像できるほど瀬戸際だったのだ。

 琴里の部下たちは、忠実に指示を実行してくれた。信頼がある。実績がある。だから、こんなことは起こりえなかったはずなのに。

 

 

「けど、何なのよ、あいつは……現れるまで何一つ反応がなかったなんて、そんな馬鹿な話があって――――――」

 

 

 言葉が途切れだだけでなく、嫌な汗が全身から吹き出す。悪寒、とでも言うものが、琴里を襲った。

 何一つ、反応がない。顕現装置(リアライザ)を用いた高度なセンサーをすり抜けて、瞬く間に目の前に現れる(・・・・・・・・・・・)

 

 どこかで、聞いたことがないか。

 どこかで、見たことはないか。

 

 それは正しく――――アンノウン(正体不明)の力では、なかったか?

 

 嫌な予感というものは、重なる。もう一つは、消えた少女と瓜二つの容姿を持つ、あの精霊に対する既視感。

 初めて目にした顔。間違いないはずなのに、琴里は誰かの面影を感じた(・・・・・・・・・)

 

 

『……久しぶり。ようやく会えたね――――シン』

 

 

 優しく囁くように、士道へそう告げた少女の声を聞いて。

 

 

「――――っ」

 

 

 気づいた。気づいて、しまった。まとわりつく霧が、晴れていくように。視線、思考、疑念。あらゆる感情がノイズによって〝消失〟させられていた――――それが、無くなっていく感覚。

 身を乗り出し、艦橋の左方を見やる。見慣れた席だった。

 〈ラタトスク〉の優秀な機関員。琴里の親友。村雨令音解析官の座る席だった。

 

 シン。それは、令音が士道を呼ぶ固有名詞。

 

 そして、あの精霊が持つ、儚げで端整な顔立ち。

 

 あの精霊は、まるで令音を数歳若くしたかのような姿をしていて。

 消えた少女は、またそれをほんの少し――――それこそ、琴里と同世代(・・・・・・)くらいの幼さの残る容姿を見せていた。

 

「…………」

 

 令音は静かに、モニタを見つめていた。涼しげで、眠たげで。気にかけていた少女が消えたことを、既に受け入れている異常な光景。

 常であれば、頼もしさを感じていたかもしれない。しかし今、村雨令音から感じるものは――――深淵にも似た、途方もない恐ろしさ。

 

 

「……令音、お願い」

 

 

 答えなど、見えている。だって、彼女を守っていた不可視の布は、取り払われている。

 だけど、微かな可能性に縋りたかった。共に精霊を救い、唯一無二の親友として歩んできた村雨令音へ、琴里は懇願のように声を震わせた。

 

 

「私の馬鹿な考えを否定してちょうだい。ただの偶然だって笑ってちょうだい。いつもの調子で、私を窘めてちょうだい」

 

「………………、琴里」

 

 

 長い沈黙と、短い吐息。

 

 

「……君は、本当に頭のいい子だ」

 

 

 一番正しく、一番聞きたくなかった言葉が、零れた。

 

「――――――」

 

 心臓が収縮する。冷静を保つことに必要な呼吸が、酷く乱れる。

 だが、五河琴里は〈ラタトスク〉の司令官だ。皆の命を預かり、間違うことは許されない責任を持つ者だった。

 その理性。或いは、情動。どちらだって構わない――――身体が、唇が、動いてくれるならば。

 

「マリア――――『狂三』!!」

 

『了解』

 

『きひ、きひひひひひひひひッ!!』

 

 艦橋のスピーカーから発せられる少女の声と、艦橋全体から(・・・・・・)重なるように響き渡る狂宴の歌声。

 一つ目は、令音が触れていたコンソールから火花が散る。

 二つ目は、艦橋のありとあらゆる場所から影が滲み、幾人もの『狂三』が令音へ向かって飛びかかった。

 過電流による電気ショック。本来であれば、侵入者による不正操作を防ぐプロテクトの一種。殺傷能力は高くないが、出力を上げれば人間を動けなくする威力はある。

 

「……ん。感情に流されない、冷静な判断だ。思い切りもいい」

 

 そのはず、だった。

 令音は、顔色一つ変えることなく平然と立ち上がり、迫り来る『狂三』たちを眺めた。

 

 

「……君たちも、相変わらず察しがいい。さすがは、『狂三』だ」

 

『っ――――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

 激情に押し流されるように、令音の姿が『狂三』たちの波へと消え、潰される。

 そう。これが琴里の予測――――決着の際、琴里たちの邪魔が入らないよう、〈フラクシナス〉のあらゆる場所に〝影〟を仕込み、分身体を休眠(・・)させているであろうという。

 狂三には、幾らでも仕込みの時間があった。結局、琴里と狂三の利害は一致し、真那への牽制に終わったが、こんなところで使うことになるとは。そんなこと思いもしなかったし――――思いたくも、なかった。

 数秒の沈黙を挟み、一塊となった『狂三』たちの足元に巨大な〝影〟が現れる。それは沼に引きずり込むようにゆっくりと沈んでいき、

 

「――――!?」

 

 文字通り、弾けた(・・・)

 

 影に『喰われ』ていた令音から発せられた光に、『狂三』たちが一斉に吹き飛ばされる。壁に、床に、そして艦橋上段の琴里たちのところにも何人も飛ばされてくる。

 

「狂三さんたち、大丈夫ですかー――――わきゅ!?」

 

「な、何、今の……!?」

 

「驚愕。令音が……」

 

 ――――人間の技じゃない。

 電気ショックに怯みもせず、幾人もの分身体を瞬時に弾き飛ばす。冗談では済まない……アレ(・・)は、本当に令音なのかと戦慄の色を隠せなかった。

 幾人かの精霊が既に霊装を展開しようとしている。が、こんなところで複数の天使を使わせるわけにはいかない――――琴里より早く、吹き飛ばされながらも、咄嗟に美九の全身で受け止められた『狂三』の一人が叫んだ。

 

「ぐ……真那、さん!!」

 

「――――気に食わねーですが、乗ります!!」

 

 返した真那の身体には、〈ラタトスク〉製のCR-ユニットが展開されていて、意思の疎通が完了した頃には宙に飛んでその身を急降下させる。

 と、同時。未だ令音の足元には〝影〟が広がっている。そこから、無数の『手』が彼女の身体を捕らえた。

 

「はぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

 

 身体中を縛る『手』の拘束。目にも止まらぬ真那の斬撃。一部の迷いもない。それほどまでに、今の令音は〝危険〟そのものだった。

 ここで、止めるしかない。必殺の一刀が、令音へと届く――――はず、だった。

 

 

「いい手だ――――しかし、相手との戦力差を把握する前に、行動を起こすことは感心しないな」

 

「――――な」

 

 

 真那、琴里、クルーたち、精霊、誰もが目を疑った。

 一流の魔術師である真那の振るう刃の煌めきは、常人には捉えられるものではない。だが、令音は『腕』の拘束を振り切り、刃の軌道を見切り、止めた――――たった、2本の指で。

 

「く、この――――」

 

 そうして、離れようとする真那を制止するかのように、令音は拘束を強引に引き剥がした片方の手を真那の頭に翳した。

 ビクリと、真那の身体が震えた。

 

「っ、真那!?」

 

「――――み……お、さん……?」

 

「は……?」

 

 呆然と、驚いたように名を呼んだ。目の前の令音をみて――――『ミオ』、と。

 

「……ああ。少し待っていてくれるかい? シンはきっと、君を必要とするはずだから」

 

「待っ――――――」

 

 真那の叫びは届くことなく、消える(・・・)。人体の消失、ではない。その光景は、まるで〈フラクシナス〉の転送装置に運ばれたような既視感。

 

「真那!!」

 

「真那さん……!!」

 

 どうであれ、真那は消えた。恐らくは、移動させられた。琴里と四糸乃の叫びは虚しく響き、ふと、令音が視線を向けた。いつもと変わらないはずなのに、異質な視線を。

 

『……っ』

 

 息を呑みながら、琴里は精霊たちを守るように立つ。艦長席の隣にいる神無月も、その琴里を守れる位置へ場所を移動している。

アレ(・・)は、なんだ? つい、数分前と同一人物とは思えない。琴里、『狂三』、真那。普通の相手ならば、過剰とも思える戦力をもってして、行動を制限することさえできなかった。それどころか、みすみす真那を拐われてしまった。

 精霊の分身と、精霊と戦える魔術師を歯牙にもかけない力が、令音にはある。

 緊張感が艦に浸透していく。その沈黙を断ち切ったのは、令音の意外な言葉だった。

 

「……感謝するよ、琴里」

 

「…………何ですって?」

 

 不意に放たれたそれに、意味を捉えかねた琴里は眉をひそめた。令音は、そんな琴里に構うことなく言葉を続ける。

 

「……君には、いや――――君たち(・・・)には本当に世話になった。今までシンを守っていてくれて、本当にありがとう」

 

「……意味がわからないわ。どういうこと? それに、真那をどこへやったの?」

 

「……無事だよ。安全なところへ飛ばした。安心してくれたまえ」

 

「そう、よかったわ。今のあなたが言ったところで、説得力はないけれど」

 

 皮肉を受けても眉一つ動かさずにいる令音。今度は、僅かに身を乗り出すように折紙が震えを感じさせる声を発した。

 

「……村雨令音――――いいえ、始源の精霊(・・・・・)?」

 

『……!!』

 

 そのありえない(・・・・・)呼び名を前に、琴里たちは目を見開き、令音は、言葉を以て肯定(・・)した。

 

「……どちらでも構わないよ。折紙、君は少し特別だったね。あの子(・・・)が特別な好意を寄せる子。そんなあの子の忠告が、効いたかな?」

 

「忠告――――!!」

 

 琴里は、折紙は、聞いていた。他ならない、消えてしまった白い少女から、忠告(・・)を。

 残酷な現実。嫌でも目にすることになる。そして、容赦はするな(・・・・・・)、と。

 彼女が、村雨令音こそが、そうなのだと告げている。状況が、言葉が、何よりも明確な真実を告げてしまっていた。

 

「そう……あなたが、そうなのね。なら、あなたとあの少女。そして、〈アンノウン〉。一体どういう関係なの?」

 

 わからない。〈アンノウン〉はこの事態を予期していた。だと言うのに、モニタに映る少女へ取り込まれるように消えた。

 同じ顔をしながら、差異のある精霊。入り組んだ状況が、混乱を呼び真実を見えなくさせる。

 答えが返ってくるとは限らなかった。だが、令音は隠すほどのものではない、と言わんばかりに淡々と続けた。

 

「……『あれ』は、『私』。『私』そのもの。そして、〈アンノウン〉と呼ばれたあの子は――――『私』の知らない『私』、かな」

 

「あなたの、知らない……?」

 

「……『私』は『あれ』であり、『あれ』は『私』。あの子もまた、今は『私』になった(・・・・)。狂三の分身体とは違って、一つの意思に二つの身体と思ってくれていい。こちらの私にも仕事があるのでね。分けておいた方が都合が良かったんだ――――皆に霊結晶(セフィラ)を与える際には、特にね」

 

「っ、やっぱりあなたが――――〈ファントム〉!?」

 

 平然と発せられた言葉に動揺が走る。

霊結晶(セフィラ)を、与える。それは〈ファントム〉と呼ばれた謎の精霊の特徴であり、始源の精霊と同一の疑いがあった。それをまさか、彼女によって裏付けられるとは。

 モニタに映る少女と令音は『私』。〈アンノウン〉は『私』の知らない『私』。今は、『私』になった? 何がどうなっている。それに、令音が正体を明かし、始源の精霊が現れた意味は――――士道。

 

「……さて、私はそろそろ行かねばならない。琴里、君と過ごした日々は楽しかったよ。けれど、もう終いだ」

 

「何を――――ッ」

 

「約束のときは、過ぎた(・・・)

 

 目を伏せて、歓喜と祝福を捧げるように。

 

 

「……私の願いが叶うときがきた。

私の悲願が成就するときがきた。

全てはこのときのために。

全てはこの瞬間のために。

私が切り捨てた全ての人間に祝福を。

私が踏み躙った全ての生命に感謝を。

私は――――もう一度彼を手に入れる」

 

 

 令音が床を蹴る。咄嗟に、手を伸ばした。伸ばさずにはいられなかった。

 友として。一時のことであったとしても――――大切な、友人だったのだ。

 

 

「待ちなさい、令――――――」

 

 

 ああ、けれど。村雨令音と呼ばれた人は、ただ、今までの日々を虚構へ変えて――――琴里たちの前から、幻影のように消えていった。

 

 

 

 






昇格(プロモーション)。最奥まで進んだポーンが役割を変えること。
ポーンの少女は誰がために役割を、未来を変えたのか。幾度となく繰り返した言葉だけが、その答え。

全ては――――我が女王のために。


澪バッドエンド編、開幕です。作中屈指の実力にしてチートの権化。崇宮澪が遂に姿を現し、白い少女は姿を消した。
村雨令音と崇宮澪、そして〈アンノウン〉。彼女たちと精霊の因果が絡み合い、主導者が消えた中で計画の真相へ迫る章でもあります。
少女は何を望み、何を願ったのか。前章が士道と狂三が紡いだ精霊たちの総決算であったならば、澪バッドエンドと次章は狂三リビルドという物語の最終章。黒幕と密接に関係する精霊〈アンノウン〉が遂にそのベールを脱ぐ、ということ。
もちろん、主役は士道と狂三。答えを重ね合わせ、道が交わった二人の未来。この章は折紙、琴里にも注目していただければなと思います。それぞれの方面でヒロインたちと関わった白い少女と、その計画。最後までお付き合いいただければ幸いです。

章の始まりで長くなってしまいました。ちなみに白い少女の容姿は澪を少しばかり幼くして瓜二つな感じです。令音が大人バージョン、澪が高校生くらい、白い少女が中学生に近い感じ……というイメージですかね。あの抜群なプロポーションが中学生サイズになった言っても色気とか胸とか合法的にヤバそry

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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