デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百六十七話『それでも、焔は前を向く』

 

「――――敵影確認!! 十――――いえ、二十……!? 新たに現れた精霊へ向かって、進行してきます!!」

 

 〈フラクシナス〉艦橋。〝敵〟となった令音の姿が消え、数秒と経たぬ間にその報告は飛び込んできた。

 令音に裏切られた――――いいや、彼女からすれば、それは正しくないのだろう。最初から、令音は味方ではなかった。

 あの時、あの瞬間、見せてくれていた表情、言葉、わかり辛くも優しい笑顔。今まで過ごした日々は、変え難いと思っていたものは、虚構に過ぎなかった。

 

「令音……ッ」

 

 打ち震えた拳と、くしゃりと歪んだ顔。今の琴里は司令官ではなく、ただの少女。親友を失い、心の支えを一つ折られてしまった年相応の子供だった。

 

 だが、滲みかけていた涙は見せない。五河琴里は少女であってはならない。ここに、司令席に座っている以上、座る資格がある以上、琴里はどこまでも〈ラタトスク〉の司令官でなければならないのだ。

 

「士道と狂三を救出するわ。DEMの艦隊が到着する前に、こっちで隙をみつけるのよ」

 

「し、司令」

 

「落ち着きなさい。令音は味方じゃなかった……それだけのことよ。今は、目の前のことに集中なさい――――私が、まだここにいるわ」

 

 そうでしょう。と、琴里が下段のクルーたちへ不敵に発破をかけた。

 彼らにも動揺はある。それでも、琴里という司令官は幾らか人望があったということなのだろう。ハッと目を見開いたクルーたちが敬礼を返し、各々のコンソールへ向き直った。

 

「……そうよ。まだ、何も終わっちゃいないわ」

 

 だから、泣くな、五河琴里。涙を流すことは、後でも出来る。悲しみにくれる時間を、これから作り出すのだ。

 前を向け、指示を出せ。それが務めだ。それが責務だ――――きっと彼女も、同じことを考えるはずだ。

 

「琴里」

 

「折紙?」

 

 意を決し、次なる指示を頭に浮かべようとしていた琴里の鼓膜を、折紙の声が震わせた。視線を向けると、恐らく折紙や二亜が纏めてくれたであろう精霊たちの姿も見て取れる。

 皆、各々の細かい反応は違うが、共通して困惑が強い。下手をすれば、霊力の暴走までありえる事態になっていたかもしれない。そう思い頭を下げ、折紙へ声を返した。

 

「……助かったわ、折紙。みんなをありがとう」

 

 まず素直に感謝を。いつ、誰が飛び出してもおかしくなかった。琴里に、それを止める余裕はなかった。折紙だって胸に激情が存在しているはずなのに、それを抑えられる冷静さに琴里は感服の念を抱く。

 折紙は琴里の感謝に、平静ながらも常時より感情が現れた顔で言葉を返してくる。

 

「構わない。それより今は、私たちを士道のもとへ送り出してほしい」

 

「……何ですって?」

 

 それが耳を疑うものだったことで、琴里は目を見開いて返すように声を発した。もっとも、折紙の表情は変わらず、聞き間違いという線は初めからなく、無駄に終わったが。

 

「駄目よ。あなたたちはここにいて。士道と狂三は、必ず連れ戻すわ」

 

「承服しかねる。あの精霊の力を考えれば、救出すら確実とは言えない」

 

「だからこそよ。令音の力を見たでしょう? 真那が攫われて、DEMの軍勢も迫ってきてる。あなたたちをみすみす送り出すことはできないの」

 

 狂三の分身と真那を一蹴するほどの力。士道と狂三の前に現れた精霊と同じ(・・)と令音は言っていた。なら、あの精霊も同様の、或いはそれ以上の力を持っているということだ。

 加えて、DEMの大艦隊。理由までは定かではないが、あれほどの艦隊を用意されては顕現装置(リアライザ)の技術で上をいく〈ラタトスク〉であっても、総戦力で対処する他ない。そして、今すぐには不可能だ。

 折紙たちが士道と狂三の救出に向かい、万が一にもそこへDEMの艦隊が現れては、最悪全滅もありえる。精霊を保護した責任者として、到底許可などできない。

 だが――――――

 

「危険なのはシドーたちも同じだ!! 琴里が止めても私は往くぞ!!」

 

「私たちだけ、安全なところにいるなんて……そんなの出来ません……!!」

 

「ていうか、簡単に回収できるとも思えないんだよねー。出来たとしても、あっちはこの〈フラクシナス〉のことだってズバッとお見通しなわけだし」

 

「それは……」

 

『同意することに若干の腹立たしさは覚えますが、二亜の言う通りです。琴里、令音は知りすぎています(・・・・・・・・)

 

 二亜、そしてマリアの言う通り、令音があの精霊であるならば、この最新鋭の技術で開発された〈フラクシナス〉の機能、戦力、それらを知らないわけがない。

 仮に士道と狂三を転送装置で回収できたとしても、正体を現した彼女が逃がしてくれるとは思えない。どれだけ密閉しようと、精霊という存在は条理を外れて行動できるのだから。

 それに、十香や四糸乃のような子たちの意見も大半を占める。たとえ琴里が止めたところで、聞き入れてくれるはずもない。

 けれど、だからといって無策で行かせるわけにはいかないのだ。断腸の思いで、琴里も考えを口にした。

 

 

「だけど、あの精霊は――――あの子を殺したわ(・・・・)

 

『っ!!』

 

 

 言いたくなどない。けれど、現実として突きつけなければ折紙たちは止まってくれそうにない。

 〈アンノウン〉。琴里たちと深い縁を結ぶもう一人の精霊。その少女は、自分たちの手の届かない場所で、一瞬にして姿を消した。身体すら残さず(・・・・・・・)、消えてしまったのだ。

 息を呑む精霊たちへ、琴里は感情を抑え込みながら続けた。

 

「いい? 令音の分身は霊結晶(セフィラ)を私たちに与えた。そして、あの子がされたことを見るなら、逆もまた然りと考えるべきよ。彼女の目的が不透明な以上、迂闊に近づいたら、あの子の二の舞になる可能性だってある。無策で助けに行ったら、ミイラ取りがミイラになるかもしれない。それだけは避けなきゃいけない」

 

 目的がわからない以上、可能性の段階だ。しかし、未知の可能性がある以上、捨てるべきではない。

 目的不明。力は未知数。そんな相手に精霊たちを向かわせるわけにはいかない。これまでとは、何もかもが違う。助けに行って、逆に全滅しましたでは話にならないのだ。

 

「わかったら、ここで待っててちょうだい。大丈夫よ。士道には狂三がついてる。手早く合流して、態勢を立て直してから――――――」

 

「それでは、遅い」

 

 なおも、言葉を遮るように折紙が言い、琴里は咥えたチュッパチャプスを噛み砕いて立ち上がり、キッと折紙を睨みつけた。

 

「いい加減にしてちょうだい!! 私だって士道や狂三が心配よ!! 今すぐにだって飛んでいきたいわ!! でも、だからといって無策であなたたちを危険に晒すわけにはいかないのよ!!」

 

 この判断が正しいかなどわからない。だが少なくとも、作戦もなしに飛び込んでの全滅だけは避けられる。

 折紙たちは強い。精霊としても、人としても。しかし、相手は精霊を生み出してきた存在。士道と狂三が手の内にいる今、不用意に手を出してしまっては眠れる獅子を起こす結果になりかねない。

 臆病だと言われようと、泥を被ろうとも構わない。彼女たちを送り出して、命を無駄にさせるよりはマシだ。そんなことになったら、士道と狂三に顔向けができない。

 琴里の激情を受けた折紙は……こくりと頷いた。そして、諭すように声を発した。

 

 

「わかっている。あなたの心も、気遣いも。けど――――私は、あの子も助けたい」

 

「え――――?」

 

 

 意図しない言葉を聞き目を丸くする。あの子を――――〈アンノウン〉を、折紙は諦めていない。

 真っ直ぐな瞳が、それを如実に告げていた。

 

「あの子の霊結晶(セフィラ)は取り込まれた。けど、私たちと同じなら、それで身体まで消えてしまうのはおかしい。元になった肉体が存在しなかったと過程して、それなら――――――」

 

霊結晶(セフィラ)を取り返せば、あの子を復活させられるかもしれない……?」

 

 こくんと頷く折紙に、琴里の顔に迷いが浮かび上がる。

 確かに、霊結晶(セフィラ)を奪われ肉体まで消失したのは不自然だ。少女は、琴里たちとは違う形で精霊なった可能性がある。たとえば、本来そうだと想定されていた自然発生した精霊(・・・・・・・・)

 

 『私』の知らない、『私』。

 

 令音が語った言葉が頭を過る。今は『私』になった、とも語っていた。その言葉が正しいのであれば、少女の正体も始源の精霊に近しいものだと推測できる。

 肉体が単純な死滅(・・)を起こしていたならば、即座に否定していたかもしれない。だが、そうでないのなら――――まだ、希望(・・)が残っているのならば。

 決意の表情を浮かべ、折紙は覚悟の灯る言葉を放つ。

 

「私は諦めない。僅かでも可能性があるのなら、それに賭ける」

 

「共感。お供します、マスター折紙」

 

「……私も、行きたい」

 

 折紙、夕弦、そしてあの七罪が、迷いのない意志を灯した瞳が琴里を射抜く。

 加えて、電子音声――――マリアまでもが精霊たちの援護に回るように音を発した。

 

『琴里、今はリスクを承知の上で行動のプランを推奨します』

 

「っ……」

 

『無謀な作戦ではありますが、このまま手をこまねいていては手遅れになりかねません。――――まさか、負けることを前提にしているのですか?』

 

 半ば確信めいたマリアの声に、返す言葉がなかった(・・・・・・・・・)

 正しく、その通りだったからだ。琴里の胸には、ある確信がある。このまま精霊たちを行かせては、間違いなく全滅する(・・・・)と。

 恐らく、これは琴里の感情ではない。胸ポケットに手を当て、強く握りしめる。あるもの(・・・・)の感触から伝わってくる――――今すぐ、逃げろ。そう、訴えかけられているようだった。

 

アレ(・・)は根源の渦。

アレ(・・)は祖なる者。

アレ(・・)は原初の零。

 

 彼女こそが――――神と呼ばれし、来るべき絶望。

 

 わかっている。逃げたところでどうにもならないと。士道と狂三を〈フラクシナス〉で救出したところで、あの精霊からは逃れられはしない。

 けれど、琴里には言えない。言えるわけがない。士道と狂三のために、皆で死にに逝け(・・・・・)などと。

 

「……やっぱり駄目よ。せめて、何か策を……」

 

 頭を振ってそう言い、琴里は自ら頭を抱えるように手を当てた。

 一体、どんな策があるというのか。こちらの手の内は全て見通されている相手に、こちら側は向こうの手の内がまるでわかっていない。

 盤上――――あの子が言っていたように、ゲームの駒で例えるなら、琴里たちの駒の動きは読み切られ、士道という(キング)にいきなりチェックを突きつけられているようなものだ。そんな状況で、どうやって攻め込む策を生み出せと――――――

 

 

「――――策があれば、いいんですのね?」

 

 

 その声を聞いて、ハッと顔を上げる。声の主は、気を失って美九の膝の上にいた――若干看護者の手つきが怪しかった――狂三の分身の一人。彼女が、急に意識を取り戻して起き上がってきた。

 

「い、生き返ったぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「こ、こういう時は落ち着いて脈を測らないとですよぉ!!」

 

「もともと死んでいませんわよ。それと美九さん、脈を測ると言いながらスカートの中に入り込まないでくださいまし」

 

「えへへへへ。絶景ですぅ……」

 

「聞いていませんわね……」

 

 現実逃避なのか混乱していると見るべきなのか、ともかく耶倶矢と美九にそれぞれツッコミを入れた『狂三』は、改めて艦橋内の惨状……数多の分身たちを見遣り、片手で髪を跳ね上げため息と共に声を発した。

 

「ふん、随分と暴れてくれたものですわ。こうして動ける分身が残っていたのは奇跡――――いえ、美九さんに感謝するべきでしょうか」

 

「そんなのいりませんよぉ。私と狂三さんの仲じゃないですかー。こうしてご褒美ももらっちゃいましたしー」

 

「差し上げたつもりはないのですが……まあ、美九さんが満足ならそれでいいですわ」

 

 他の分身たちと違い、どうやら起き上がれたのは美九が身を呈して吹き飛ばされた『狂三』を受け止めたのが要因だったらしい。

 とはいえ、スカートの中に侵入した美九を意に介さないのはどうかと思う――――いや、そんなことよりと、呆気に取られていた琴里は慌てて狂三(・・)に声を発した。

 

「『狂三』……いえ、あなた――――狂三、なの?」

 

 まさかとは思う。だが、独特の雰囲気を纏う『狂三』は、狂三(・・)として首肯した。

 

「察しがよくて助かりますわ。手短に申し上げますと、あちら(・・・)にいるわたくしと思考の共有を行いましたの。このわたくしは、時崎狂三(オリジナル)と解釈していただいて相違ありませんわ」

 

 全員が狂三の説明に呆気に取られ、言葉を失ったのは言うまでもない。が、付き合っている時間はないと言わんばかりに狂三は続けた。

 

「理由などの質問は受け付けませんことよ。わたくしも今試したばかりですので、正直余計なことを思考できる自信がありませんの」

 

「……オーケイ。理解したわ。なら、必要なことを手短にお願い」

 

「ええ。伝えたいことは三つ。あの精霊の目的は……崇宮澪の目的は、士道さんの記憶を消し、崇宮真士さんを甦らせること」

 

『な……!?』

 

 指を立てた一つ目の内容から、驚きの余り声を荒らげた。士道が目的とは考えていたが、士道の記憶を消すなど精霊たちが、琴里が許容できるはずもない。

 ガバッと狂三のスカートを跳ね上げ中から現れた美九――士道がいなくて今だけはよかったと思う瞬間だった――が眉根を下げて声を発した。

 

「た、大変じゃないですかぁ。今すぐだーりんを助けに行かないとー!!」

 

「そうだねぇ。危険でもなんでも、少年の危機となりゃあ向かわない選択肢はないっしょ」

 

「ところが、そうとも限りませんの。二つ目――――澪さんは、あなた方の霊結晶(セフィラ)も回収するつもりですわ」

 

 二つ目の驚き……だが、こちらはすぐに受け入れられた。タダより高いものはない、とはよく使われる言葉だ。

 そして、狂三がこういう言い方をするのであれば、霊結晶(セフィラ)を奪われた時、その精霊はどうなるのか、容易に想像ができた。

 やれやれ、と肩を竦めて琴里は言葉を返した。

 

「用事が済んだから返してくださいって? まったく、悪趣味なことしてくれるわね」

 

「その物言いなら、奪われた後(・・・・・)の説明は必要ありませんわね。それでは三つ目。こちらは、伝えたいことと言うよりは皆様が取るべき選択肢ですわ」

 

「もったいぶらないでいいわ。私も、澪って子の力は何となく理解してるから」

 

 嫌でも伝わってくるから、琴里は次の選択肢を選びかねていた。普段、これが精霊攻略に提示される選択肢だったなら、ご機嫌を伺う女の子の好感度の低下は免れなかったことだろう。

 だから、正直助かった。狂三はそうやって、事実上の一択(・・・・・・)を示してくれたのだから。

 

 

「では選択肢を――――死に抗うか、逃げて僅かな生存に縋るか、ですわ」

 

 

 選択肢は、まるで死刑囚に告げられたもののようで。決意で固まっていた少女たちを凍りつかせるには、十分すぎるものだった。

 

「……あの子を失ったことで、わたくしの【十二の弾(ユッド・ベート)】での遡行も確実は言えなくなりましたわ。まあ、わたくしが違う決断(・・・・)をしていたのなら、話は別でしたけれど」

 

「――――後悔、してる?」

 

 士道の手を取り、本来なら澪を消滅させられた手段を、失ってしまったことを。

 そう問いかけた琴里へ――――狂三は、鼻で笑いながら吐いて捨てた。

 

 

「一切、しておりませんわ。未来が沈黙するのであれば、わたくしは士道さんと未来を叩き起します(・・・・・・)。皆様を巻き込んでしまったことは、申し訳なく思っていますけれど」

 

「はっ、何言ってんのよ。今までを〝なかったこと〟にされる方が迷惑だっての」

 

 

 狂三は、未来を視れる。それが何を意味するのか。未来を叩き起さねばならない状況が今ならば、狂三が視た未来は恐らく――――――逆に、腹を括ることができた。

 

「あなたが伝えたいことはわかったわ。あとは、私から言わせてちょうだい」

 

 ふぅ、と息を吐き。改めて精霊たちを見やる。そして、さっきは言えなかったことを、琴里は言葉にした。

 

 

「ごめんなさい、みんな。本当は、あなたたちを守る立場なのは理解してる。逃げたいって子がいるなら、絶対に手出しはさせない。今すぐ逃げてほしい、そう思ってる。でも、願うことなら――――――おにーちゃんが手にした未来を守るために、力を貸して」

 

 

 深く、深く頭を下げる。司令官としてではなく、士道の妹として。

 こんなもので責任が取れるとは思っていない。琴里は、言ってしまったのだ。士道のために死んでくれ(・・・・・・・・・・・)、と。

 死なせるつもりはない。だが、生存の可能性は果てしなくゼロに近い。ああ、矛盾している。

 

 

「当然だ!!」

 

 

 だが、そんな矛盾を打ち砕くように、全てを理解してなお、少女たちは一歩足りとも引かなかった。

 

「私はシドーに救われた。恩義がある――――恩義以上に、私はシドーを助けたい。皆を助けたい!!」

 

 十香が。

 

「駄目だって、最初から諦めてたら……きっと、もっと駄目になります。士道さんが諦めなかったから……狂三さんも、ここにいると思うんです。だから私も、諦めたくありません……!!」

 

 四糸乃が。

 

「令音が始源の精霊だったとか、ついでに〈ファントム〉だとか、てんこ盛りがすぎるとは思う。けど、やることは変わんないっしょ」

 

「協力。我ら八舞……いえ、皆が力を合わせれば、創れない未来などありません」

 

 耶倶矢が、夕弦が。

 

「私たちだけ仲間外れなんて、初めっから選択肢にありませーん!!」

 

 美九が。

 

「……以下同文。――――みんながいなくなるとか、死んだ方がマシよ」

 

 七罪が。

 

「いやはや、なっつんはこんな時でも筋金入りですなー。ま、あたしもあたしなりに頑張ってみるさね。ムックちんはどう?」

 

 二亜が。

 

「むくの答えは初めから同じなのじゃ。困っている家族(・・)を助けることに、難しい理由など必要なかろう」

 

 六喰が。

 

「同意見。将来は家族になる(・・・・・)のだから、水臭い」

 

 折紙が。

 

「どうやら、未来の選択は為されたようですわ」

 

 狂三が、誰一人として惜しむことはなく、さりとて捨てるつもりのない勇気の心を、揃えた。

 さも、選ばせた(・・・・)ような口振りの狂三に、琴里はフッと唇の端を上げて笑った。

 

「よく言うわ。初めから、こうなることわかってたくせに」

 

「そうでもありませんことよ。琴里さんの英断がなければ、そもそもわたくしが間に合っていなかったのですから」

 

「あら、そ。私の臆病風も役に立つのね」

 

「英断、ですわ」

 

 念を押す狂三にはいはいと返事を返し、琴里は司令席を前へ向けた。

 会話は聞こえていたはずだが、クルーたちに動揺は見られない。まったく、よく出来た可愛げのある部下たちだと――――琴里は、瞳に二度と消えない焔を灯した。

 

 

「狂三の指示に従って、作戦を始めるわ。目的は士道の救出。そして始源の精霊、崇宮澪を止めること。及び――――全員の生存よ。異論は認めないわ」

 

 

 まあ、異論があるとも思えなかったが、戦意高揚は司令官の務めだ。大目に見てほしいと琴里は仄かに笑う。

 腰元のホルダーからチュッパチャプスを取り出し、いつもの司令官としての自分を奮起させ――――ふと、言葉が脳裏を過る。

 

 

『これから、あなた達は残酷な現実を見させられる。それでも、あなた達はきっと前に進む。私も、それを信じたいと思う』

 

 

 残酷な現実は、訪れた。そして、琴里たちは選択した――――前へ、進むと。

 大いなる神に抗う愚かな行いなのかもしれない。だけど、怯えて滅びを待つことなどできなかった。

 そして、琴里は誰かを信じる人間だ。だから――――自身を信じてくれたのなら、その信頼も裏切りたくない。

 

 

「いくわよ、みんな――――目一杯、神様に逆らってみせようじゃない」

 

 

 希望を、未来を変えるために。

 

 

「さあ――――始めるわよ。私たちの戦争を」

 

 

 少女たちは、絶望へと突き進んだ。

 

 

 






その先に、絶望しかなかったとしても。

合流直前までのお話。如何に強靭な精神があろうと、本質的に力の差を理解させられては――――少女がそれを伝えるためだけに彼女に何かを託したというのなら、そこまでの未来だったのでしょうけれど。

未来を創るために母なる神へ挑む者たち。原初の零を前に、士道たちの運命は。

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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