デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百七十三話『全ては我が女王のために』

「ぁ、が……っ、……!?」

 

 身体が、燃えている。

 肉体を引きちぎられる凄絶な痛みと、内側を駆け巡る灼熱による激烈な痛み。どちらがマシかと言えば、どちらも等しく地獄であろう。

 あえて幸運な一面をあげるのなら、明滅する視界によって少なくともここが天国ではないことがわかった、というところであろうか。

 あの世というものがあるのかは、齢十四の琴里にはわかり兼ねる。しかし、ここが天国でないというのなら、周りに広がる業火は地獄か――――否。

 

「っ……」

 

 横目から見える愛艦の残骸(・・)が、幽世の存在を否定している。

 ここは、現世だ。それも、澪によって地獄と化した(・・・・・・・・・・・)。何も変わっていなかった。目覚めは夢ではなかった証明。優しい幻想などありはしない。

 

「……どう、し、……て?」

 

 ならば、なぜ琴里は生きている。苦しみながら息を吐き、返されることのない疑問を浮かべた。

 生きている者など、いない。現に、琴里だって自分が死んだと思っていた。霊結晶(セフィラ)を抜き取られて、生きているはずがないのに、どうして琴里の身体は燃えている(・・・・・)

 

 なぜ――――〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の炎が生きている。

 

「あら――――思いの外、早いお目覚めでしたわね」

 

「!?」

 

 疑問に答えるものなど、いないはずだった。だが、その声は幻聴などではなく、確かに琴里の耳に届き、鼓膜を震わせた。

 見開いた目を必死に声がした方向へ向けると――――彼女は、いつものように超然と微笑んでいた。

 

「狂、三……!?」

 

 瓦礫の上に座るその姿さえ、悔しいくらいの美しさがある。足を組みかえ、手のひらで顔を支えながら、狂三は、メイド服(・・・・)を着た狂三は、琴里の驚きを容易く受け止めてみせた。

 

「うふふ。このわたくしが身を粉にして働いてみせたのですから、目覚めないなどありえないことでしたわ。おはよう……という時間でもありませんが、ご気分の程はいかがかしら、琴里さん?」

 

「なん、で……ぐ……っ」

 

 身体を起こそうとして、身体の中で暴れ狂う炎に諌められ顔を顰めた。

 荒れ狂う再生の炎は、琴里の意志を無視して体内を焼き尽くしている。相変わらず荒っぽい治療法だが、おかげでどうにか声を発する喉は元に戻りつつあるようだ。それに、動くには至らないとはいえ、四肢も完全に元の形を維持していた。

 

「命が惜しくば、迂闊に身体を動かすべきではありませんことよ。まあ、動こうと考えて動けるようであれば、琴里さんは死にかけていないのでしょうけれど」

 

「……皮肉を交えないと、何も喋れない頭でもしてるわけ?」

 

「あら、あら。それだけ憎まれ口が叩けるなら、もう心配はいりませんわね」

 

 くすくすと笑うその様は、とてもではないが琴里を心配していたとは思えなかった。もはや懐かしささえ覚える狂三の対応に、出るため息を抑えられない。

 とはいえ、自分の状態が半死半生なのはよくわかる。大人しく、寝かされていたストレッチャー用のマットに身を委ね、狂三へ視線を向けた。

 訊ねるように向けたそれは、聡い狂三が相手だ。正しく伝わったのだろうことが、彼女の表情から読み取れた。

 

「ふむ……どの道、琴里さんの再生まで時間がかかりますわ。わたくしの口で、何を語ってほしいんですの?」

 

「全部よ」

 

 迷わず断定する。

 

 どうして、琴里だけが生き残っているのか。

 

 どうして、琴里の中に精霊の力が残っているのか。

 

 この分身は――――一体何者なのか(・・・・・・・)

 

 何もかもが、今の琴里には理解の外であった。迷うことのない口調の琴里に、狂三は僅かながらの苦笑を混じえて返した。

 

「さすがは士道さんの妹君。欲張りな方ですこと。それでは、まず琴里さんが生き残った理由について。主な理由は、三つ」

 

 戯けるように三本の指を立て、狂三は続けた。

 

「一つ。始源の精霊が扱った『死』の天使。逃れ得ない死から、琴里さんを守った直接的な要因。こちらは、察しがついているのではなくて?」

 

 立てた指を一本に変え、狂三は琴里のある一点を指す。導かれるように手を動かし、ボロボロになった軍服の胸ポケット――――肌身離さず持っていた〝それ〟を握り、呟いた。

 

「……あの子の、お守り(・・・)

 

Exactly(イグザクトリー)。あの子の分霊ともいえる力を宿した宝具。それによって、琴里さんは『死』の概念を免れた、ということですわ」

 

 そのお守りは、狂三から士道へ託され、そして琴里へと行き渡った曰く付きな代物だった。大元は、あの少女が琴里を盤上から落とさぬように(・・・・・・・・・・・)という理由によって、根回しの末に託された。

 宝具、とは言い得て妙であり、的を射る表現だった。

 天使〈擬象聖堂(アイン・ソフ・アウル)〉――――『死』の天使〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉と同じ性質を持つ、かの天使。その力を宿した、まさに宝物じみた奇跡のお守りだ。

 この力がなければ、琴里も皆と同じく死の概念に呑まれていたはずだ。だが、これを肌身離さず持っていたことで、放たれた『死』という概念(・・)を、防いだ。言うなれば、対消滅させ琴里を救ったのだ。

 

「無論、力の規模は始源の精霊が圧倒的に上。多少の加護では、死から逃れられるものではありませんでしたわ。それゆえ、琴里さんの中に力の全てを溶け込ませ(・・・・・)、再生の範囲内へ抑え込んだ。しかし、再生の天使を失ってしまっては、それも意味を失うこと」

 

「そうよ。私は確かに、霊結晶(セフィラ)を奪われた……」

 

 あの一瞬の感触は、脳裏にこびりついて離れない。琴里の死は、確定した事項だった。

 けれど、琴里の心臓は動いている。手を当てれば、強い鼓動がその手を揺らし、這い廻る炎は止まることをしない。

 狂三は頷き、あくまで事実を否定はせずに二つ目の指を立て、続けた。

 

「二つ目の理由。霊結晶(セフィラ)を奪われたその瞬間、死に至る琴里さんの身体を随意領域(テリトリー)で保護した存在がいたんですわ」

 

随意領域(テリトリー)……?」

 

顕現装置(リアライザ)によって発現する、特殊領域。用途は様々だが、肉体の保護なども可能ではある。

 だからこそ、疑問は随意領域(テリトリー)そのものではない。誰がそんなことをしたのか(・・・・・・・・・・・・)、だ。深く切り込むのであれば、誰がそのようなことを可能としたのか。

 〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉による死の光を受けて、それでもなお琴里を守れるものなど――――――

 

 

「あ……」

 

 

 可能性を閃き、琴里は思わず声を零した。そして、告げる。唯一、可能性を持っている者を。

 

 

「――――マリ、ア……?」

 

 

人ではないが故に(・・・・・・・・)、ほんの僅かな時間だとしても、電子の海にて死から逃れ得た者の名を。

 驚嘆に打ち震えた琴里に、狂三は深く首を倒した。

 それはきっと、死を悼む者の顔だった。

 

「そう。マリアさんが自らの意志を振り絞って生み出した随意領域(テリトリー)は、たとえ数えられるほどの時間であっても、溶けたあの子の力と共に琴里さんを生きながらえさせた。僅かな生存の可能性を信じて、マリアさんは決断した。誇るべきですわ――――艦が、司令官であるあなたを生かしたことを」

 

「っ……」

 

 目の奥が炎では熱を帯び、顔を歪ませて閉じた目から涙が零れ落ちる。

 死の光を受けて、〈フラクシナス〉という肉体を失って、電子の海にある自身の(データ)までも滅びゆくその瞬間――――マリアは、最後まで乗組員(クルー)を生かすためだけに死力を尽くした。

 ごめんなさい。あなたを守ることが出来なくて。そして、

 

 

「……あり、がとう――――っ!!」

 

 

 最後まで自らの意志を貫き通した彼女の『愛』へ、敬意と感謝の念を送る。

 燃え盛る残骸と成り果ててもなお――――琴里の中に、勇猛なる空の覇者は生きている。

 

「さあ。天命などではない、意志によって引き起こされた奇跡によって、わたくしはあなたに〝託す〟ことができた。それこそ、琴里さんが生存した最大にして三つ目の理由」

 

「……!!」

 

 三つ指を立てた狂三がスカートを翻し、琴里へと歩み寄る。その指で、琴里の心臓部を押して、ニヤリと口を歪ませ、奇跡(・・)を起こした理由を放った。

 

 

「簡単な話ですわ。奪われた霊結晶(セフィラ)――――その代わりとなる霊結晶(セフィラ)を、新たに埋め込んだ。それだけですわ」

 

「――――は?」

 

 

 あまりに、理解の範疇を超えた回答に、素っ頓狂な声が零れる。言葉にならない声というものがあるのなら、琴里が発したものはそれであろう。

新たな(・・・)霊結晶(セフィラ)。意味は、わかる。失った心臓に代わる心臓を、という滅茶苦茶ながら単純な理屈。それでいて霊結晶(セフィラ)の特異性を考えれば、非常に理にかなったやり方。

 それで、琴里が助かったという。理屈は存在している――――道中が転げ落ちているため、納得などできないが。

 

「……あなた、分身じゃなくてオリジナルだったりするの?」

 

「何を寝ぼけたことを仰っていますの。大体、仮の話であれ『わたくし』の霊結晶(セフィラ)を琴里さんへと託すなど……わたくしのご主人様(・・・・)が琴里さんになるなど、ゾッとしませんわ」

 

 ああ、この憎まれ口は間違いなく狂三の分身だ、と琴里は奇妙な感慨と安心感を抱かずにはいられなかった。

 ようやく服装と似合う発言が飛び出したのはともかく、なおのこと琴里にこびり付く疑問は晴れない。

 

「だったら、一体誰のものを……」

 

「あら、異なことを仰いますこと。琴里さんの身体に溶け合う(・・・・)ほど、深く刻まれたモノを考えるのなら、適合に叶う霊結晶(セフィラ)などただ一択。謎掛けにすらなりませんわ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。確かにそうかもしれないけど、あの子(・・・)霊結晶(セフィラ)は令音に……!!」

 

 そう。たとえ、琴里の身体に適合するその霊結晶(セフィラ)が存在していたとしても、琴里に埋め込むことは不可能なはずである。

それ(・・)は令音……澪の手で、真っ先に取り込まれた霊結晶(セフィラ)であるのだから。

 

「き、きひ、きひひひひひひひッ!!」

 

 そんな考えを抱いた琴里を、狂三は我慢の限界というように腹を抱えて高らかに笑う。

 その屈折した笑みに浮かんでいた表情の意味。それは――――観客を騙し切った手品師のようだった。

 

 

「そうですわ、そうですわねぇ!! 不可能なことですわ!! ええ、ええ。ありえないことですわ。ですが――――ありえてしまったのですわ」

 

「何を……」

 

霊結晶(セフィラ)を複製した? 霊結晶(セフィラ)を新たに生み出した? いいえ、いいえ。理由は至極、単純明快――――元から(・・・)、あの子の霊結晶(セフィラ)二つ存在した(・・・・・・)。この大掛かりな仕掛けは、そんな子供のような理屈でしたのよ」

 

 

 そういって、絶えず笑い続ける狂三に圧倒され、琴里は数秒の間言葉を発することができなかった。

 ああ、そうだ。あの子の出自は、誰も知らなかった。琴里の知る精霊は誰しも、例外なく一つの霊結晶(セフィラ)を共有している。

 だが、同じ霊結晶(セフィラ)二つ以上(・・・・)存在しないなど、誰が言っていた? 誰がそれを断定した?

 十に分けた霊結晶(セフィラ)――――そこに属さない白い少女の霊結晶(セフィラ)が二つあるなど、誰が予想できたことだろう。

 

「あの子は『わたくし』にのみ、力を譲渡(・・)することができますわ。けれどその間、あの子は力を振るうことが叶わない。あら、あら。おかしいですわ、おかしいですわ――――わたくしはあの時、あの瞬間、あの子と共に天使を纏い、存在していたというのに」

 

「あの時……っ!!」

 

 ぶわり、と。琴里の全身がその瞬間の記憶を呼び起こし、脳裏に浮かび上がらせた。

 あの時――――二亜を救出したあの瞬間、〈擬象聖堂(アイン・ソフ・アウル)〉は二つ存在した(・・・・・・)

 少女の纏う者と、狂三が纏う者。力の譲渡によって可能となる、他の精霊が少女の天使を従える事例。時崎狂三(オリジナル)が行使する時間に、白い少女は同時に、同空間に姿を表したことは一度たりともなかった――――唯一の例外が、あの事件における一瞬の出来事だったのだ。

 

「答え合わせですわ。わたくしは、あなた方の前で、あの子の力を存分に振るうことが叶っていた。その理由は……」

 

「――――もう一つの霊結晶(セフィラ)の権限を、ずっとあなたに託していたから」

 

「き、ひひひひひ!!」

 

 狂気的な笑みと妖しく輝く紅と金色の瞳が、言葉の代わりに正解だと如実に告げる。

 

「存在が知れたのなら、これほど簡単な話はありませんわ。あとは、生き残った琴里さんに、あの子から託された霊結晶(セフィラ)を与えた。これが、あなたが生き残った全ての真相ですわ」

 

「あの子の霊結晶(セフィラ)が、私に……」

 

「そのとき、長年身体と融合していた精霊(ちから)の残滓が同調、増幅し、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の力が表へ押し出されたことは、意外ながら幸運な結果でしたわね――――この結果さえ、あの子は識って(・・・)いたのかもしれませんけれど」

 

 肩を竦め、付け加えるように狂三は言う。

 幸運な結果――――いや、そんな楽観的な偶然で片付けていいものではないと琴里は首を振る。

 琴里たちの知らないものを、少女は知っていた。〈囁告篇帙(ラジエル)〉を手にし、望むものを識る(・・)力を手にしていた。

 そんな少女が導いた琴里の生存(・・・・・)は、偶然の一言で済ませられるものではない。

 

「あの子は……いいえ。あなたたち(・・・・・)は、何を考えていたの?」

 

「…………」

 

「聞かせてくれないかしら。あなたたちの〝計画〟を」

 

 次なる疑問は、白い少女とこの分身の関係。なぜ、こんな大切なものを琴里へ託そうとしたのか。一体、どこまで事態を予測していたのか。どうして、二つの霊結晶(セフィラ)を所持していたのか。

 目を細めて琴里の言葉に応えた狂三は、もう一度瓦礫の上に腰を落とす。

 

「……?」

 

 その時、狂三の仕草に乱雑な――――言ってしまえば、身体から力が抜けてしまった。そんな風に見える動きがあったような気がして、琴里は彼女らしくないと首を傾げた。が、狂三が何事もなく声を発し始めてからは、話に集中するため疑念は溶けて消えてしまった。

 

「わたくしでも、あの子の〝計画〟の全てを知っているわけではありませんの。お話することができることは、わたくし自身の想像が多分に含まれますわ」

 

「いいわよ、別に。多少の過大解釈があったって、今さら誰が何を隠してたとしても驚いたりしないわ」

 

 わざわざ何かに驚くことに労力を使う、ということに疲れ果ててしまった。令音が始源の精霊で、琴里は半死半生から九死に一生を得て奇跡的に生き返った。これ以上、何をどう驚けというのか。

 どっちみち、琴里の肉体はまだ再生の最中。話を聞く時間は残されているのだ。

 琴里の言葉にそれもそうですわね、と苦笑した狂三が続ける。

 

「わたくしは『時崎狂三』の分身。他の個体と差異は存在いたしません。ある一瞬(・・・・)の時間から生み出された、狂三という精霊の一人。違いがあるとするならば、分身であるが故に共犯者(・・・)ではなく協力者(・・・)であったこと」

 

「共犯者と、協力者……」

 

 白い少女にとって時崎狂三(オリジナル)は、もっとも優先すべき対象であり、狂三の悲願成就を願う――――道を同じとする共犯者。

 対して、この『狂三』は悲願成就までは同じながら、白い少女の〝計画〟の一部を担う――――秘密を抱えた協力者。

 

「あの子の霊結晶(セフィラ)は二つある。……ですが、それは全く質を同じとする(・・・・・・・・・)霊結晶(セフィラ)が、二つ存在しているというだけ。あの子一人では持て余すもの……あの子自身の身体も、当然含めていますわ」

 

「…………」

 

 琴里は無言で顔をしかめた。少女自身は隠したがっていたが、少女の肉体は通常の精霊のそれとは異なる。ある種、虚弱体質ともいえる状態。

 精霊の中で真っ先に保護すべき対象を選べ、となれば琴里は真っ先にあの少女を候補に挙げる。これは私情などではなく、少女の事情を知るものなら誰もが首を縦に振るものだろう。横に振るのは、それこそ少女くらいなものだった。

 同質の霊結晶(セフィラ)が二つ。しかし、持ち主はそれを活かすことができなかった。ソフトを動かすハードが、追従できるだけの強度を持っていなかったといえる。

 

「だからこそ分身の一人、つまりはわたくしに片方の天使の力を譲渡することによって、ただの分身であったわたくしを自在に暗躍させることが叶った――――それが、表向きの理由(・・・・・・)

 

 意味深な言い方に、琴里の眉根がぴくりと上がる。表向きの理由、つまり少女にとって力の譲渡は……。

 

「あの子には、あなたに力を譲渡した本当の理由があった、ってこと?」

 

「ええ。今の琴里さんを拝見して、わたくしの仮説が正しかったことが証明されましたわ」

 

「今の、私を見て……?」

 

 少女の霊結晶(セフィラ)を取り込んだ、琴里ということか。

 こくりと首肯をみせた狂三は、謎を解き明かす探偵のように得意げな顔で言葉を紡ぐ。

 

「まず、計画の中核――――『わたくし』の悲願の達成を目前とした状況。恐らく、ここがあの子にとっての分かれ目でしたわ」

 

「狂三の悲願。始源の精霊……いいえ、澪が生まれる過去を、『なかったこと』にする」

 

 その悲願成就の目前――――つまり、莫大な霊力を保有する士道との決着。

 

「あの子にとって、士道さんの存在は計画の前提。つまり、『わたくし』と士道さんを出会わせる、そこまでは計画の範囲内ということになりますわ」

 

「……でも、そこであの子にとって〝誤算〟が生まれた」

 

「そう。よりにもよって、殺し殺され(・・・・・)の関係であった二人は、互いを想い人としてしまった。それが過ちであったかどうか、それはわたくしには関わりのないことですわ」

 

 狂三の分身であるというのに、ドライな言葉を使う『狂三』。構うことなく、彼女は言葉を続ける。

 

「当然、あの子にとっては計算外の出来事だったことでしょう。士道さんの中に霊力を封印し続ける選択とは、皮肉なことに倒すべき始源の精霊と同じ手段でしたわ」

 

「けど、あの子は……」

 

「ええ、ええ。『わたくし』の想いを最優先とし、健気に付き従った……どうやら、あの子の計画は、『わたくし』の意志を最重要事項に置いていたようですわね」

 

 いつもの皮肉顔で胸元に手を当てる狂三――――その顔に、少しばかりの口惜しさが感じられた……ような気がした。

 

「ともかく、『わたくし』と士道さんは次々に精霊を封印。悲願成就へあと一歩――――同時に、『時崎狂三』が〝敗北〟する可能性も、現実味を帯びていましたわ」

 

「……あの子は、それが〝計画〟にとって最善になるかを探っていた」

 

「そのことがわかっていらっしゃるのなら、話が早いですわね。勝利と敗北。どちらの可能性も、あの子は予見せざるを得なかった。それは、あの子の霊結晶(セフィラ)使い道(・・・)に密接に関わっていることでしたから」

 

霊結晶(セフィラ)の……使い道?」

 

 自らの命と言っても過言ではない霊結晶(セフィラ)。それを少女は、使い道(・・・)として用意していた、ということ。

 事実、少女の懸念と期待通り『時崎狂三』は敗北――――正確にいえば、士道と狂三は互いの敗北を認めた。結果として、二つの霊結晶(セフィラ)は澪、そして琴里を生き長らえさせる使い道(・・・)となった。

 

 

「恐らく、これこそが〝計画〟の最終段階。なぜあの子が、わたくしへ霊結晶(セフィラ)の権限を譲渡していたのか。それは――――『わたくし』にその霊結晶(セフィラ)を託すため、ですわ」

 

「っ……狂三に、霊結晶(セフィラ)を……」

 

 

 息を呑む驚きと――――納得があった。あの子が命を賭して何かを為すのは狂三か……もしくは、折紙か。妥当といえば妥当であり、納得がいくもの。しかし、だからといって憤りを感じないわけではなかった。

 冷静な狂三は、なおも己の考察を言葉にして聞かせてくる。

 

「ただの譲渡ではなく、属性を染め上げる。〈刻々帝(ザフキエル)〉との完全同調を果たし、始源の精霊に対抗し得る力(・・・・・・)を『わたくし』に授ける。そのために、もう一つの霊結晶(セフィラ)をわたくしという『狂三』と接続することで、わたくしの色に染め上げた」

 

「完全、同調……」

 

「あの子の霊結晶(セフィラ)を受け取り、適合した琴里さんには、感覚で理解してしまえるのではなくて?」

 

 狂三は唇の端を上げ、フッと微笑み視線を向けてくる。応じるように、琴里は再び胸元に手を当て、意味(・・)を感じ取る。

 ――――わかる。霊結晶(セフィラ)を通じて伝わってくる。

 だが、わかるが故に、琴里は眉根を下げて声を返した。

 

「……けど」

 

「ええ、ええ。そうはならなかった(・・・・・・・・・)。本来なら、士道さんの霊力を〝喰らう〟ことに成功した『わたくし』に、時間を遡行し過去を改変する力としての一端を担うはずだった」

 

 そう。はずだった(・・・・・)。真剣な面持ちの狂三が表現したように、そうはならなかった。

 だから琴里は、こうして生きている。琴里が少女の霊結晶(セフィラ)を持っていることこそ、本来あるべき〝計画〟から外れてしまったこの証明なのだ。

 

「故に、あの子は〝計画〟に幾つかの分岐を備えていたのですわ。『わたくし』が悲願を果たす未来。士道さんの手を取り、そして仇敵である始源の精霊の横暴を許してしまう、今の未来――――どちらにせよ、あの子は自身の命を代用品(スペア)として扱うつもりでしたのでしょうけれど」

 

「そんなの……っ!!」

 

 無慈悲な物言いに琴里は感情的に声を荒らげて……狂三の顔を見て、止める。

 少女の決意に対する感情を、この狂三にぶつけたところで意味はない。そして、ぶつけようとも思えなかった――――狂三のその表情を見て、喚き散らせるほど琴里も子供ではなかった。

 

「……ごめんなさい」

 

「なんのことですの。わたくしは、事実を申し上げただけですわ」

 

 そう言って、狂三は気丈に顔を上げてみせる。顔を伏せては、琴里に見えてしまうだろうその顔を隠すように。

 どれほどの想いが、あったことだろう。狂三は〝計画〟を悟っていた――――悟っていながら、少女を見殺し(・・・)にせざるを得なかったのだ。それはどれだけの、苦痛であったことか。

 人より知れてしまうことが、幸せとは限らない。人の死に纏わるものなら、尚更。

 

 

「さて、ここまで丁寧に説明して差し上げれば、もうおわかりでしょう? あの子は時崎狂三の代用品(スペア)として成り上がり(・・・・・)を果たした」

 

「そして――――もう一つ、あの子の色(・・・・・)を保有した霊結晶(セフィラ)を、私へ託した。澪への、最後の切り札(・・・・・・)として」

 

 

 ぱちぱち。と、正しい答えを見つけた生徒を褒め讃え、狂三が手のひらを叩く音が響く。

 本来、狂三へ託すべき色を変えた霊結晶(セフィラ)を己の裡に秘め、あの子は狂三の代わりに消滅した。

 もう一つは、どこかのタイミングでこの狂三へ託し――――霊結晶(セフィラ)を奪われた琴里を救うために、誰にも悟らせない伏せ札として存在させた。

 

「あの子、どこまで……」

 

 感服と畏怖の念を込めた言葉が、自然と琴里の口から零れ落ちた。

 こうなることを予測していた。言葉にするのは簡単だが……こうなること、とは、精霊たちの死(・・・・・・)を少女は予見していたことになる。

 それは、当然といえば当然の結実なのだろう。少女の数々の言動は、始源の精霊を知っていなければ説明がつかない。否、令音の言葉が正しいのであれば、知っていたのではなく、少女が始源の精霊そのものだったということだろう。

 ああ、だからこその異常。始源の精霊という死の運命を前にして、自らの命を厭わず使い(・・)、精霊たちを慮りながら――――

 

 

「――――これが全部、狂三のため(・・・・・)だっていうの?」

 

 

 愕然と目を見開いて、琴里は身体を震わせた。

 それはいっそ、狂気的(・・・)だ。本来の〝計画〟でさえ、狂三が悲願を果たせば澪と連なる白い少女のまた、消える。

 自分の命を必要がないと切って捨てる、その歪さ。狂三のために何もかもを犠牲にできる、崇宮澪の同一体。

 

 その全ての根源、言うなれば愛が、たった一人の少女――――時崎狂三のために、存在していた。

 

 

「あなたは、一体――――――」

 

 

 何を、望んでいたというの。

 

 もはや問いかけるべき少女は、いない。少女は自らの命を賭して、希望を残した。

 救いたい者たちは、琴里の他にもいたはずだ。琴里が特別だったわけではない。琴里を取り巻く環境(・・・・・・・・・)が、計画に適していたというだけのこと。

 〈灼爛殲鬼(カマエル)〉という生存に適した天使。琴里を救うために動ける周りの存在。少女の力を宿したお守りによって、琴里の肉体そのものが少女の霊結晶(セフィラ)に近しい色として、気付かぬうちに再構成されていたこと。

 それら全ての要素を計算に入れ、私情を抜きに少女は琴里を選んだ。

 

 そうだ、全ては――――――

 

 

「――――我が女王のために。あの子の、口癖でしたわね」

 

 

 込められた感情は、不思議とはっきりとはしていなかった。姿を隠す天使は、既に琴里の中にあるというのに。

 ゆっくりと、狂三は穏やかに……悲しげに、瞳を閉じた。

 

 ――――瞬間。

 

「――――っ!!」

 

 熱が迸る。炎が燃え上がる。身体の中が、魂が、激熱する。

 先程までの痛みを伴う炎ではない。まるで、ギア(・・)を入れたような肉体と力の噛み合い。懐かしい全能感が血肉を満たす。それでいて、極限まで冷えきった思考回路。以前までにはなかった、圧倒的な力の循環。自らの意思(・・・・・)で、制御ができる。

 そのことに驚きながら、琴里は身体を起こす。その動作も靱やかに行われ、つい数秒前まで動かすことが叶わなかった身体の変質にも驚愕して、思わず自分の手と身体へ視線を送る。

 

「これって……」

 

「あら、どうやら琴里さんの肉体が相応に馴染んだ(・・・・)ようですわ。少なくとも、その霊結晶(セフィラ)に込められた〝計画〟を果たせる程度には、ですけれど」

 

「……!!」

 

 狂三が示す通り、霊結晶(セフィラ)を通じて琴里の中に想いが伝う。

 言葉と、込められた想い――――琴里に果たしてほしい役割。

 

「これが、あの子の狙い……」

 

「〝計画〟の最終章、その一歩手前、といったところでしょうか。その分、最大の障壁が存在していますわ。賭けに等しい、あの子の願い。今一度、『死』の前に立つ覚悟――――あなたには、ありまして?」

 

 あくまで問いかけるように、意地の悪い夢魔が笑う。

 狂三の紅の瞳に、己の瞳が映る――――業火の如く燃える烈火が、自身の答えを映していた。

 

 

「拾った命の使い方を決めるのは私よ。けど、命の恩人に報いるのも悪くないし――――何より、喧嘩しなくちゃいけない相手がいるのよね」

 

 

 誰より、親友であった彼女と――――初めて本気の喧嘩(殺し合い)をしなければならないらしい。

 琴里の答えにニヤッと楽しげな微笑みを浮かべた狂三が、導くように右手を掲げ、芝居がかった口調で声を発した。

 

 

「よろしいですわ。さあ――――――」

 

 

 そうして、狂三が笑った、その刹那。

 

 

「……は?」

 

 

 狂三の手が、黒く変色した(・・・・・・)

 いいや、変色したなど生易しいものではない。狂三の扱う〝影〟を思わせる深淵の黒。それが狂三の手を染め上げていた。

 目を疑う光景は、狂三が目をぱちくりとさせ、煩わしげに黒く侵食された手を眺めたことで、決して錯覚などではないと思わされた。

 

「あら、あら。空気が読めない身体ですこと」

 

「あなた、それ……っ!!」

 

「ん、ああ……大したことはありませんわ。分身であるわたくしの、単なる生存限界(・・・・)ですもの」

 

 他人事のようにふざけたことを口走る狂三に、琴里は目を剥いて詰め寄りながら叫びを上げた。

 

「な、何よそれ!! なんでそんなことになるのよっ!!」

 

「なんで、と申されましても……。元々、分身体の身体は不安定ですし、寿命もたかがしれていますわ。それを外部からの天使で強引に支え、あまつさえ一度高純度の霊結晶(セフィラ)を宿した――――ま、それを手放せばどうなってしまうか、自明の理ですわね」

 

 狂三が呑気に言葉を紡ぐ間も、黒の侵食は止まらない。肩をすくめる狂三の身体は、崩壊し続ける。

 

「それに、琴里さんを死の淵から呼び戻すため、わたくしの霊力と時間も根こそぎ使い切ってしまいましたもの。あの子だけでなく、わたくしにも感謝してくださいましね?」

 

「っ、してるに決まってるでしょ!! そんなこと聞いてるんじゃないわよ!!」

 

 琴里が言いたいのはそんなことじゃない。目の前で消える〝命〟に対しての、激しい感情だ。

 だが、狂三は心底理解できないと言うかのように首を傾げる。

 

「なら、何を怒っていらっしゃいますの? 琴里さんは以前、わたくしの分身と対峙し、味わっているはずですわ。『わたくし』は、幾らでもいる(・・・・・・)。オリジナルある限り、わたくしたちは存在し続ける。新たに生まれ続ける。何を悲しむことがありましょう。そのような感傷など、時間の無駄ですわ」

 

「っ……!!」

 

 一瞬、言葉に詰まった。ああ、その通りだと。琴里は、狂三と分身体を殺している(・・・・・)。何人も、何人も――――未だ、そのおぞましい感触を、琴里の手が覚えている。

 けれど、だから、五河琴里は覚えているから――――〝命〟として、『狂三』を覚えているから。

 

 

「――――うっさい!! それの何が悪いのよ(・・・・・・・・・)!! 狂三は沢山いるかもしれないけど、私と今話した狂三は、あなただけでしょ!?」

 

「は……?」

 

 

 琴里は、叫ぶことを止めなかった。らしくもなくぽかんと口を開いて、その動いた表情すら闇に呑まれかける狂三を相手に、感情の迸るまま唇を動かし続けた。

 

「私を助けてくれた狂三は、あなただけなのよ!! それが急に死ぬだなんて……あなたが納得できても、私が納得できないわ!!」

 

「……わたくしを個の命として扱うだなんて、士道さんのようなことをいたしますのね」

 

「悪い!? 私は士道の妹なのよ!! だから、だから……っ」

 

 ――――ああ、駄目だこれ。

 耐えていたのに。考えないようにしていたのに。強い琴里でいようって、思っていたのに。

 目の前の『死』が、琴里の抑え込んでいた感情を、『強い琴里』を打ち負かす――――解けかけた黒リボンが、はらりと落ちた。

 

 

「――――誰も……、死んでほしく、なかったのに……っ!! 令音に誰かを傷つけてほしくなんて、なかったのに――――っ!!」

 

 

 惨めにも、無様にも、打ち明けてしまった。

 

 マリアの時だって、我慢していた方なのだ。今はそれ以上に、ぽたぽたと涙が零れ落ちてしまう。

 司令官として己を律して、司令官として皆を守らなければならない――――守れなかった。今この未来には、愛するクルーも、友達も……大事な親友も、琴里の前から消えてしまった。

 琴里だけが生き残って、琴里の両肩には大事な人たちの命が重くのしかかって、これから相対するのは大切な親友で……自分を救ってくれた恩人の死に、律していた感情が雪崩のように崩れて崩れ去った。

 

「ぅ、……ぁ、あぁ……っ」

 

「……まったく。消える間際に、とんだ失態を犯してしまいましたわ。この時崎狂三、一生の恥ですわ」

 

 ふぅと息を吐いて、狂三が指で琴里の涙を拭い、落ち着かせるように頭を撫でる。

 黒い手に、感触は残されていなかった。時間が存在しないその腕に――――けれど、もし琴里に姉がいたのなら、こんな優しい手のひらがあったのかもしれないと、思った。

 

「死を恐れなくなった者は、人ではなく怪物……。ふふっ、でしたらわたくし、まだ人であったようですわ」

 

「……?」

 

「――――大丈夫。琴里さんは、戦えますわ」

 

 ふわりと、魔法のように指が動いて、琴里の髪を撫でた。

 一瞬の間に拾われた黒のリボン――――『強い琴里』と。

 取り出された白のリボン――――『弱い琴里』を。

 カードの裏と表のように交わることのなかった二人の琴里を合わせるように、白と黒のリボンで髪が結われる。

 

「あら、可愛らしいですわ。とてもお似合いですこと」

 

「え……で、でも……」

 

 不安な気持ちを覚え、琴里は片方の白いリボンに触れた。

 これは、これから向かう戦場には似つかわしくない。琴里は黒いリボン――――誕生日に士道から贈られたプレゼントを結ぶことで、意図的なマインドセットを施していた。

 それは琴里が司令官でいるために必要なことであり、琴里の強さの証明。戦うために不可欠な自己暗示のようなもの。同時にそれは――――琴里の弱さの証明。

 これでは駄目だ、戦えないと、琴里は白いリボンを解こうとして……狂三が手を添えるように、それを制止した。

 

「死を恐れ、誰かの死に涙すること。あなたのそれは、弱さではありませんわ。ご自身の強さを、履き違えてはなりません」

 

「私の、強さ……」

 

「その黒いリボンでは、言えぬ言葉があったことでしょう。故にあなたは涙し、悲しんでいる。けれど、その白いリボンでは戦えぬ者がいたことでしょう」

 

司令官(五河琴里)として、言わなければならないことがあった。皆に、死んでくれ(・・・・・)と。

士道の妹(五河琴里)として、言いたい言葉があった。皆に、生きてくれ(・・・・・)と。

 

 結局、琴里はどっちつかずに終わってしまった。死んでほしくなかった人たちに、未練を残してしまった。傷つけてほしくなかった人に、何も伝えることができなかった。もっと語りたいことが、想いが、沢山あった。

 それらが涙になって、琴里の心を縛っている。まだ生きている人達がいる。いかなければならない。だけど、こんな弱い心でどうすればいいの。

 

 

「けれど、二つ揃えば伝えられるはずですわ。士道さんに、『わたくし』に――――あなたの親友に」

 

 

 だけど狂三は、それは違うと優しく否定してくれた。

 身体が死という闇に覆われてなお、狂三は温かさで包み込むように、琴里の頬を撫でた。

 

 

「涙のない強さとは、〝未練〟ですわ。未練があるからこそ、強く在らねばならなかった。でも、強さだけでは何も伝えられませんわ――――わたくしのように」

 

「え――――――」

 

 

最後に(・・・)見せたそれは、穏やかで、でも悲しげで――――――

 

 

「結局あの子は最後まで――――わたくしの名を呼んでは、くれませんでしたわね」

 

 

 たった一つの〝未練〟を、残した顔で。

 

 

「くる――――っ」

 

 

 琴里の目の前から、〝命〟が消え去った。

 掴んだと思った手の中には、何もなく。ただ、影に還るように、失われた時間のように――――そこには、何もなかった。

 

 何もなかったのだ。伝えられなかった未練は、未練のままに消えて。

 

 

「……何よ、それ」

 

 

 ただ、無力な琴里の声だけが、燃え盛る炎の中にあって。

 

 

「どいつも、こいつも……なんなのよ、それ……っ!!」

 

 

 死んでほしくなかった人たちが、琴里の心にだけ残って。

 

 

「っ――――――あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

 

 

 守りたい人たちと、言葉(・・)を伝えたい親友が、まだ生きている。

 

 吼える。全身から溢れる激情の炎を烈火の如く――――――

 

 

「〈灼爛聖鬼(カマエル)〉――――ッ!!」

 

 

 掻き立てられるまま、己の裡に叩きつけた。

 

 燃え盛る炎が、白く(・・)

 

 纏う衣を、白く(・・)

 

 白の両翼を、小さな背に羽ばたかせ。

 

 開いた熱い両の眼に、強さと弱さの涙を流し――――白い炎を纏いし少女が、飛んだ。

 

 

 

(キング)を動かす、最後の切り札(ルーク)は飛翔する。

 繋ぎ止めた未来を、引き継がせる(・・・・・・)ために。

 






時崎狂三・分身特異個体。
他の分身と大きな差は存在しない。ある一瞬、ある強い感情を抱いた時間から切り離された分身。ただ、その感情を見せることは、ましてや伝えることはなく彼女は計画においての役割を終えた――――ただ一つ、強さと引き換えた未練を残して。

彼女が一体、どんな願いを受け継いで生まれ落ちたのか。それはご想像にお任せします。ですが彼女もまた、時崎狂三の悲願成就を願った一人の狂三だったことは確かです。

そんな分身に対して、少女は告げた。私のために、死んでくれと。『私』ではなく、私のため……全ては、我が女王のために。
明かされた計画の全貌。数々の屍を超えたその根幹、到達点は、果たして。

役割を継いだ琴里。この物語でしか起こりえない可能性を加え、次回、澪バッドエンド編クライマックス。
感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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