デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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祝・お気に入り300件突破。書き始めた当初はこんなにも沢山の評価がいただけるとは思ってもいなかったので、喜びに打ち震えています。ので何かペースがめちゃくちゃ上がってます。ノリノリで行っちゃうぜー


第十七話『そして舞台の幕は上がる』

 

 来禅高校。五河士道、夜刀神十香、そして今は時崎狂三が通う学校。狂った想いが交錯し、数奇な運命の舞台となったその高校を一望できる高台に〝白〟はいた。まるで舞台の開演を待つ観客のような少女――――その真後ろに〝影〟が現れた。

 

「――――どういうおつもりですの?」

 

時崎狂三(・・・・)がそこにいた。誰もが美しいと言うであろうその美貌は、人を呑み込む超然としたその顔は間違いなく時崎狂三だ――――ただし、場違いなメイド服(・・・・)を纏っているという致命的な差異があるが。

 

「……ん、あなたですか。何かご用でも?」

 

「今言った通りですわ。あなた、何を考えていらっしゃいますの」

 

「さて、私にはなんの事だかさっぱり」

 

「とぼけなくて結構。『わたくし(オリジナル)』と違って、わたくしとあなたは常に(・・)繋がっていますわ。あなたが何処へ行ったかなどすぐに分かりますし、それを忘れるあなたではないでしょう」

 

 少女が首を捻り後ろを向くと、怒っている、と言うより呆れていると言った様相の狂三がそこにいた。まあ、彼女に気づかれるのは最初から分かっていたので、少女としても誤魔化すつもりはなくただ単純に暇潰しの問答だ。

 

「でしょうね。分かってて言いましたから」

 

「……『わたくし』に対してのわたくしの言動に呆れた割に、あなたも大概ですこと」

 

「褒め言葉として受け取っておきますよ」

 

「褒めているわけないでしょう。あなたバカですの?」

 

 辛辣なメイド狂三の言葉を受けても、さして気にした様子もなく残念、と再び高校へ視線を向ける。舞台の開演までもう少し時間があるようだし、戯れるのも良い時間潰しだと少女はようやく釈明らしい釈明を口にし始めた。

 

「狂三が申し付けたのは、五河士道とあの子との間の事柄だけでしょう? 私は夜刀神十香と話をしただけですから、何も責められるようなことはしていませんよ」

 

「世間一般では、そういう言い訳を〝屁理屈〟と呼ぶとのことですわ」

 

「なるほど、初耳でした。心に留めておきます」

 

 白々しいにも程がある、とメイド狂三は心の底からため息が出てきた。確かに少女が十香の元へ向かったのは狂三へのフォローではない……が、どうせ内容は士道に関することだろうと分かるので、セーフかと言われればかなりグレーゾーンだ。

 これはオリジナル(狂三)の言い付けだけに限った話ではなく、少女は狂三側に立っているのに士道側へ肩入れ(・・・)していたとしか思えない行動なのだ。

 

「それは、あなたの〝計画〟とやらのためでして?」

 

「……ん、そう取ってもらって構いません。私も色々と模索しなければならないんですよ。取れる〝択〟は多いに越したことはありません――――――全ては狂三次第、ですけどね」

 

 風が吹きすさぶ。メイド狂三は揺れる髪を押さえ、少女を見た。風に吹かれ靡くローブは、しかし頑なに少女の顔を見せることはしない。あまりにも()()()()()()()のに、自身を語ることは無い。そんな少女を象徴するのが全てを隠す白いローブだった。

 

「――――あなたは、どうされるおつもりですの?」

 

 故にこの問答に意味は無い。それは繰り返され続ける問いかけであり、返される答えは分かりきっているのだから。正体不明の少女が口にした答えは、やはり以前と何も変わらないものだったのだ。

 

「何も変わりません。全ては――――――我が女王(狂三)の為に。ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 下駄箱から上履きを取り出し履き替える。ここへ来て数度目になるその動作は、昨日までならたったそれだけで心が踊っていたと認めよう。あの方と同じ学校へ通う、その中にある繰り返される一つの工程。しかし今、彼女の胸に高鳴りはない。いるはずがない。何故ならば、自らが可能性を断ち切った筈だ。だから、彼女の目の前にその可能性がいるはずがない――――――

 

 

「――――おはよう、狂三」

 

 

 ――――――こんな()()()()()()()()()挨拶が、時崎狂三に向けられる筈がないのに。

 

「……ごきげんよう、士道さん(・・・・)。昨晩はよく眠れまして?」

 

 動揺を悟られまいと、靴箱を閉じ待ち構えていた士道へ微笑を作り挨拶を返す。無論、付け加えられた言葉は皮肉(・・)だ。だが、それを分かっている筈の士道は全く怯んだ様子もなく、皮肉をあっさり受け流した。

 

「ああ、お陰でぐっすり眠れたよ」

 

「あら、あら。てっきり、わたくしは悪夢(・・)を見たものと思っていましたけど……」

 

「いいや。お前とデート(・・・)する夢を見れたからな。今の気分は最高さ」

 

「……ッ!」

 

 ――――なんだ、これは。

 

 目の前にいるのは誰だ。言うまでもない、五河士道その人だ。なら、この強烈なまでの〝強さ〟はなんだ。違う(・・)。昨日までの士道とは明らかに違う(・・)。だと言うのに、狂三の全身の細胞がこの方は五河士道(・・・・)だと告げている。

 

 読めない。この方の思考が、想いが。狂三はほんの一歩、半歩にも満たない僅かな一歩だが彼女はその違和感(・・・)を恐れ身を引いてしまった。そんな狂三の様子を知ってか知らずか、士道は余裕の、しかし何かを決意した顔で声を発した。

 

「それとな、狂三――――――俺は、お前を救うことに決めた」

 

「――――――はっ」

 

 一瞬、呆気に取られた狂三は、すぐに表情を戻し……いや、昨日見せた冷徹な笑みに変え吐き捨てるような声を出す。

 

「気でも狂いまして? それとも、わたくしがおかしくなってしまったのかしら?」

 

「ああ、ある意味で俺が狂っちまってるのかもな。けど本気だ――――――お前に人を傷つけて欲しくない。真那に、お前を傷つけさせない」

 

「甘っちょろい理想論で欠伸が出てしまいますわね。今すぐ撤回なさった方がよろしくてよ」

 

「それは出来ねぇな。一度心に決めた事はやり遂げたくなる主義なんだ」

 

「――――――バカですの、士道さんはっ!?」

 

 それは何の怒りだったのか。思い通りにならないこの方への怒り? 反吐が出るほど甘いこの方の言葉への怒り? それとも――――――自分の身を顧みないこの方への怒り?

 どれにせよ、時崎狂三は五河士道へ初めて怒りという感情を見せた。士道はその激情を目にしても、変わらない。いや、微笑んで(・・・・)さえいた。

 

「かもしれねぇな。けど、俺が伝えたいのはこれだけじゃない。いや……どっちかって言うとこっちの方がお前を救いたい()()()()()()。勿論、さっきのも嘘じゃないけどな」

 

「へぇ……まだわたくしを苛立たせるお言葉をお持ちですのね」

 

「さて、そうとは限らないぜ。ここじゃ人が多いし、伝えるなら二人っきりが良い――――――逃げないでくれよ、お嬢様」

 

「っ……望む、ところですわ」

 

 あまりにキザったらしく言う士道から僅かに目を逸らし、放課後にお会いしましょうと言葉を残し足早に士道の前から立ち去る――――士道のそのキザなセリフに、赤くした顔を悟られぬように。

 

 

 

「まったく、困ったものですわ」

 

 屋上へ立った狂三は踊るようなステップを踏み、悠然と微笑み――――しかし、その優雅さを台無しにするようにガン! と苛立ちを隠すことなく力を込めて地面を踏みしめた。

 

 本当に、あの方には困ったものだ。どこかへ引きこもって震え怯えていれば、()()()()()()()()()()終わらせて差し上げたというのに。

 

 ――――その思考の中に、歪であったとしても士道を気遣うものが混ざっていることに、彼女自身が気づくことは無い。

 

「仕方ありませんわね――――――」

 

 踵で地面を蹴る。すると、そこを中心にして〝影〟が学校中を覆い尽くさんばかりに広がり続ける。

 

 ああ、まったく……あの方のバカさ加減(お人好し)を甘く見すぎていたらしい。〝真実〟を見せて尚、この期に及んでまだあのような世迷言を口にすると言うならば――――――

 

 

「もう少し、悪夢を見せて差し上げましょう――――――ねぇ、〈刻々帝(ザフキエル)〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『……もう大丈夫そうだね、シン』

 

「はい。いつでも行けます」

 

 放課後、狂三の指定した時刻。今朝方渡された無くした(・・・・)インカムと同型のものを装着し、令音の眠たげな声にしっかり言葉を返す。

 いつもなら聞こえてくる琴里の声は、今は響いてこない。何やら別件(・・)があるらしく席を外している。こんな時に、と思ったが令音の念押しもあり妹を信じることにした――――何より、今は狂三以外の事を考える余裕が無い。

 

 ……結局、狂三は授業中から放課後に至るまで士道の方を振り向くことは無かった。まるで、狂三が転校してきた時と真逆だな、とどこかおかしくて笑ってしまう。

 不思議な気持ちだ。落ち着いているような、気分が高揚しているような、二律背反な心。正直、今自分が考えていること、やろうとしていることを言葉にするとバカなのではないか、と狂三に言われるまでもなく自分で思っている。しかし、精霊への対処法・デートしてデレさせる、という方針から外れている訳では無いので琴里も許してくれるだろう。ある意味、士道のこれはその方法の延長線上(・・・・)にあるものなのだから。

 

 

『……何よりだ。今朝の狂三との会話も良いものだった。狂三の感情値は、こちらの計測できる範囲でもかなり揺れていたよ』

 

「え゛…………もしかして朝の会話、令音さん達も聞いてました……?」

 

『……ああ。君を心配していた琴里も大層、笑顔になっていた。安心したまえ』

 

 違う、そういう意味じゃない。というか、琴里は確実に安心とかそういうのじゃなくて絶対()()()()()()()()()()という類の笑顔だ。

 

 なんというか、凄い顔が赤い気がする。これはそう、黒歴史(・・・)を明かされそうになった時に似た、というよりアレの小規模バージョンの気恥しさだ。

 朝の時より幾分か冷静になった士道だが、朝はもうとにかく酷かった。狂三を見て妙にテンションが上がってしまったというか、一時の気分の高揚とでも言うのだろうか。お陰で、狂三を相手にしても動揺せず会話は出来たのだが……スラスラと口に出せた代償として、恐ろしく小っ恥ずかしいセリフを言った気がする。なんだ、お嬢様って。ちなみに、デートする夢を見たのは本当だ。

 

「ぜってぇ後で琴里にからかわれる……」

 

『……気にする事はないさ。これからも精霊との会話役を続けるなら、またそういう(・・・・)セリフを言う機会もあるだろう』

 

「勘弁してください……」

 

 〈フラクシナス〉から指示が飛んでいたならともかく、朝の士道は素で(・・)あのキザったらしく寒気がするようなセリフを言ってしまったのだ。言ったこと自体に後悔はないが、狂三がドン引きしなかったかだけが士道の不安である。

 熱を持った顔を手で冷まし、意を決して狂三の元へ向かおうと足を動かし――――

 

「…………ぐっ!?」

 

 自身の体に振りかかった異常に、思わず片膝を突いて眉を顰めた。襲いかかるとてつもない倦怠感を堪え、なんとか立ち上がり辺りを見渡す。

 異常が起きたのは自分の身だけではない。否、士道は周りの異常に比べればかなりマシな方だと気づく。慌てて倒れた生徒たちに声をかけるが、既にその意識はない。

 

 倒れた生徒たちの姿を見て、士道は既視感を覚える。そうだ、自分はこの光景を()()()()()ではないか? それも、つい昨日の話だ。

 

「――――――狂三、か……!」

 

『……まず間違いないだろう。高校を中心とした一帯に、強力な霊波反応が確認された。広域結界……範囲内にいる人間を衰弱させる類のもののようだ』

 

「っ、気が早いお嬢様だ……!」

 

 どうやら、士道がデートの待ち合わせ場所までたどり着くまで、もう待ってはくれないらしい。ならば、これ以上の遅刻は士道としても避けたいところだ。だがその前に一つ気がかりを確かめたく、気怠い体に鞭を打ち足を動かして……。

 

「シドー……!」

 

「ッ、十香っ!」

 

 教室から聞こえてきた声にすぐさま振り向き叫ぶような声を上げる。頭を押さえ辛そうにこそしていたが、他の生徒と違って士道と同じく結界の中でも無事だった十香の元へ駆け寄り安堵の声を漏らした。

 

「良かった……大丈夫か、十香?」

 

「う、うむ……だが、どうも身体が重苦しい……」

 

「俺と同じか……けど、どうして俺と十香だけ無事なんだ……?」

 

『……シン。精霊の霊力を封印していている君の身体は、その加護を受けているに等しい状態だ。同じ霊力による影響は少なくて済む。十香も封印されているとはいえ精霊、同じ事が言える』

 

「霊力……」

 

 令音の言う通り、士道の身には複数の精霊の力が封じ込められている――――――そしてそれは、時崎狂三も知っている(・・・・・)。それ故、この結界の所有者である狂三も士道に効力が薄いことは百も承知の筈。彼女がその事に気づいていない……? そんな事はありえないと士道は断言出来る。なぜなら彼女はそれほどまでに聡明(・・)だと確信を持って言えるからだ。

 だからこそ、この結界は士道を止めるためのものでは無い。これは挑発(・・)だ……あの時(・・・)と同じ。再び狂三は、士道を呼んでいる。

 

 ――――――望むところだ。

 

「……十香、ここで休んでてくれ」

 

「シ、ドー……?」

 

「心配すんな。俺がお前を――――狂三も、助ける」

 

 十香の頭を撫でるように触れ、身体に力を入れ駆け出す。目指す場所は分かっている。あの時(・・・)と同じく、士道は誘われるように上を目指す。あの時と違うのは、彼の全身が〝それ〟を肯定しているということ。迷いは、もうない。既に狂三へ告げる〝答え〟を彼は持ち合わせている。纏わりつく重さも、彼の歩みを止めることは出来ない。寧ろ、階段を駆け上がるくらいの力がどこからか湧いて出てくる。

 

『……シン。狂三に会う前に、こちらで調べた事を君に伝えておこう。狂三は――――――』

 

 令音から告げられた〝真実〟を聞いた士道は、悲しさと嬉しさが入り交じった顔で――――――

 

 

「――――――ああ、やっぱり」

 

 

 ――――――笑った。それは納得だった。彼女なら、そうだろうという納得と。それでも彼女が選択した深い〝罪〟に感じる悲しさと。狂三を――――絶対に救うという強い意思。

 

 斯くして、少年は扉の前へ辿り着いた。誰に命じられた訳でもない。自らの意思で彼はこの〝選択〟を受け入れた。そして、扉は開かれる。

 

 

戦争(デート)への遅刻は感心しませんわね」

 

 

 紅が舞う。黒が踊る。美しき女王が、いた。その時が止まるほどの美しさを目の前にして、少年は初めて、その美しさを()()()()()。彼女は美しい、誰よりも美しい――――――ああ、()()()()()()()。だから、少年はここにいる。

 

 

「そいつは謝らないとな。悪いな、待たせちまったか――――――狂三」

 

 

「えぇ、えぇ。わたくし、待ち焦がれすぎて死んでしまいそうでしたわ――――――士道さん」

 

 

 

 狂気に彩られた少女と、狂気に魅入られた少年の――――――舞台の幕が、上がった。

 

 

 






Q.士道くんテンションおかしくない? A.原作でもそのうち好き好き大好き。結婚しよう愛しい君(マイハニー)とか言えるようになるので大丈夫です(愛しい君しか合っていないではありませんのby.狂三)

主人公も覚醒しついにクライマックスへの幕が上がり切りました。対時崎狂三恋愛特化仕様になった五河士道をとくとご覧あれ。

次回『女王へ捧ぐI love you』……真面目ですよ?なんだったら一番気合い入れて全身全霊で書いた間違いなく過去最長の長さです。私の厨二力とウルトラロマンティック(爆笑)を全部ぶち込んだ回になります。不安か?私も不安だ。

感想、評価などなどお待ちしております。では次回をお楽しみにー

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