デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百八十一話『最後の攻略者』

 

「――――それだけの、ために……?」

 

 

 独白の果て、狂三はそう震える声で音を零した。

 時崎狂三に仕え。時崎狂三に従い。時崎狂三に何かを望んでいた少女。

 少女は伏せた目を上げ、迷いのない狂気を宿した瞳で、その時崎狂三だけを見た。

 

 

「そう――――たった、それだけ(・・・・)です」

 

 

 命を懸けて、命を賭して、命を投げ打って。少女は誰かのために戦っていた。〝計画〟成就のために、ひたすらに己を犠牲にする選択を取り続けた。

 狂気の執念。精霊の信念。何を犠牲にしても、愛する少女を――――――

 

 

「私は――――時崎狂三が生きていてくれれば、それでよかったんです」

 

 

 ただ、生き残らせる(・・・・・・)。崇宮澪と同じ貌を持つ少女は、澪と似て非なる妄執を開け放った。

 たった、それだけ。少女の語るそれを、士道たちは呆然と受け取った。だが同時に、納得のいくこともあった。

 白い少女の行動理念。少女は精霊たちに好意を示しながら、ただ一つの線引きだけはしていた。それは、時崎狂三へ害を為す行動(・・・・・・・・・・・)への、過剰なまでの敵意。

 剥き出しの敵意は、誰に対しても殺意を込める。たとえ、それが気にかけていた相手だったとしても変わりない――――当然だったのだ。

 

 〝計画〟の到達点を揺るがす可能性を持つ者を、少女は〝敵〟と見なさないわけにはいかなかったから。

 

「……あなたにとっては、きっと当然の行動だったのでしょう。後の絶望に比べれば、片隅に置いていて当然の記憶です。常に憎悪を心に秘めていた、あなたには」

 

「…………」

 

 狂三は未だ、少女の願いを呑み込み切れていない顔で、眉根を下げながら沈黙という言葉を返す。

 時崎狂三が、見知らぬ誰かを助けた記憶――――不思議なことではない。狂三であればそうするだろうと、本当の狂三を知る者なら苦笑混じりに返すはずだ。

 時崎狂三という女は、頑固者で、意地っ張りで、高くとまった不遜な人――――けれど、そんな仮面の下に、隠し切れない善性を抱えた人物だ。

 どれだけの絶望を見て、望まぬ狂乱を望むものだと言い聞かせ、己の罪に言い訳をせず許しを乞うことをしない。あまりに高潔で、それでいて誰にも理解されなかった生き方。

 そんな心を侵される狂気の中で、それでもなお時崎狂三は裡に秘めた『優しさ』を消すことが、遂に出来なかった人間なのだ。

 

 

「……けど、私にとって、あの時のあなたは――――私の全てを懸けるに足りる人だったんです」

 

 

 そんな時崎狂三だからこそ、白い少女は彼女の〝全て〟が美しいと思った。

 生まれながら、何も無いと自身を決定した少女が、そんな悲しい精霊が初めて目にした輝きは、少女にとっての〝世界〟そのもの。

 

 時崎狂三が、白い少女の生きる意味そのものになってしまった。

 

「……私があなたと会ったとき、言いましたよね。あなたが平穏を望むというのなら、私は力の限りを持ってあなたを日常へ返しましょう。あなたが世界を壊すというのなら、私は世界さえ滅ぼしてみせましょう――――全部、本気ですよ」

 

「っ……」

 

「……私は、あなたさえ生きていてくれればいい。あなたが幸せであればいい。あなたが望む生き方があればいい。あなたが絶望して世界を殺すなら、それだって構わないと思いました。あなたが本気で何かを望んだなら、私はそれが自分の死だって厭わない。あなたが逃げたいと言ったのなら、私は私の全てでそれを叶えようと思っていました」

 

 あなたが望むなら、それで構わない。そう、本気で言葉を語る少女の姿に、士道たちは畏怖すら感じ言葉を失った。

 少女は、本気だ。少女は、狂三が何かを本気で望むなら(・・・・・・・)、それを躊躇うことなく実行に移す。それこそ、少女が以前言っていた通り少女は狂三の全てを〝肯定〟する。そこに否定はない――――唯一、時崎狂三が生存を放棄すること以外は(・・・・・・・・・・・・)

 狂気に満ちて、だが能面のように感情の動きがなかった少女の表情が、ふと和らいだ。

 

「……まあ、そんな身勝手を望むような人じゃなかったのは、あなた方も知っての通りでした――――それを言ってしまえば、あなた方は皆、そうなのでしょうけれど」

 

 精霊が望めば、世界を壊すことが出来る。精霊が願ったのなら、それは現実となる。

 世界を殺す天使。形のある奇跡。それらは等しく、神なる者の権能――――だが、誰一人としてそれをしなかった。

 誰かに止められた。絶望の向きが世界ではなかった。そういった者もいたであろう――――――けれど、誰もが、誰かを想える、誰かと繋がりたいと願った優しい少女たちだった。

 そのとき、耶倶矢と夕弦が困惑した声を発した。

 

「……本気で、そう思ってんの? 何かが欲しいとか、生きていたいとか、ないの?」

 

「請願。好きな人がいるのなら、その人の感情を理解できるはずです」

 

「……ああ、あなた方はそうでしたね。八舞耶倶矢、八舞夕弦。互いのために、己を敗者と選んだ精霊――――ええ、理解はしています(・・・・・・・・)

 

 耶倶矢と夕弦は、互いに互いを生かそうとして、己を消すために相手を慮っていた精霊だ。

 相手のために自らを消す。耶倶矢たちと似ている。似ているが、少女のそれはあまりに一方通行。そして、理解していると言った少女は――――その程度の思考は、とうに過ぎたと表情が告げていた。

 

「……理解をしたところで、私が望む結果は変わらない。何かが欲しいだなんて、私にとっては余計なものです」

 

「余計、だと……?」

 

「……余計なんですよ。初めから、消えることが決まっている(・・・・・・・・・・・・)私は、価値なんて必要ないんです」

 

 十香の鋭い視線を、あくまでも冷たく映し返す少女の思考は、頑なで、悲しくて――――少女は、事実を語っていった。

 

「……さっきの私、見たでしょう? 私が望もうと望むまいと、『私』に喰われる未来は変わらないんですよ」

 

「あれは、あなたが望んで起こしたものではないの?」

 

「半分はそうです。けれど、もう半分は〝侵食〟のようなもの。私の中にある『私』は、力を行使する度に私を呑み込む――――それを意図的に進めただけです。近い未来、間違いなく私は『私』に呑まれて消える(・・・)

 

「……!!」

 

 士道は腹の底から冷えるものを感じ、己の中にある『崇宮真士』の記憶を思い起こした。

 士道と真士。士道の中に封じられた真士の記憶は、士道の中で溶け合って融合した。士道は士道のまま……だから澪は、士道の記憶を『消す』ことで真士を完成させようとしていた。

 だが、少女は違う。記憶を主観として受け止めた士道と違い、少女は澪の記憶を客観的に受け止め、それゆえ自我を確立した。

 唯一、この中で感覚としてそれが理解できた士道は、唾を飲み込んで声を発した。

 

「お前の中にある澪の記憶が、お前を澪として存在させようとしてる……そういうことだな」

 

「……【四の弾(ダレット)】で戻せたのは、恐らく受け入れる直前までです。それに、私の生まれに『私』がいる以上、この終わりは解決できないんですよ」

 

 答えをはぐらかさず、真っ直ぐに事実だけを突きつける。眉根を顰め――――しかし、少女の状態を聞いて、士道の中にあった考えが、また一つ確かなものへと変わる。

 

「……なら、もう少し有効活用をしたかったんですよ。あなた方が私の考えを認めないのは理解しています。けれど、他に方法がありますか? 知ったはずですよ――――崇宮澪の力を」

 

 認めるわけにはいかない。それは士道たちの総意。しかし、少女とて退けない理由がある――――誰より、崇宮澪という神に等しい存在を識る者だからこそ。

 澪と同じ貌をした少女は、ここに至って初めて狂三を〝否定〟する。

 

「……未来であの人の力を、考えを観測したのでしょう? それでもなお、私の犠牲なくしてあの人を倒そうと考えているのなら――――私は、私の〝計画〟を進めるだけです」

 

「わたくしの言葉でも、聞けないと?」

 

 目を細め、色違いの眼で少女と相対する狂三。こんな状況でなければ、少女は間違いなくこの美しき女王に従っていたのだろう。

 けれど、退けない理由がある。少女の〝計画〟を知った士道には、わかる。

 澪と同じ貌をした少女は、皮肉とも思える澪と同じ微笑みで狂三を見やった。

 

 

「……あなただからですよ、我が女王。私は、あなたの生存が唯一絶対の目的。あなたの言葉は本気だとわかる。五河士道と、どのような形であれ道が交わったというのなら、祝福しましょう――――でも、聞けないよ。私を生かしたままあの人と対峙するなら、あなたは、あなたたちは未来と同じ結末(・・・・・・・)を迎えるもの」

 

 

 重すぎる言の葉が、精霊たちから返す言葉を失わせた。

 未来の時間軸。あらゆる手を尽くし、立ち向かった先で、崇宮澪に勝てないと知った。

 それは、澪を観測した狂三の未来視がある過去(いま)の時間軸に置いても、変わることはない。このまま、澪とぶつかり合うことが引き起こされれば――――士道たちは、今度こそ敗北する。

 澪は原初の精霊であり、精霊の母。澪の力を分散させた個々の精霊たち――――ましてや、未だ未熟な士道では勝ち目などない。だからこそ、イレギュラーな〝進化〟の因子を持つ少女の霊結晶(セフィラ)が鍵に――――――――

 

 

「――――――――」

 

 

 鍵に、なる。なってしまう(・・・・・・)

 

 

『私は人間みたいに弱くない。だから、死を望んでも死ぬことは出来ない――――君たちのように強くあれたなら、よかったのかな』

 

『――――未来のあなたは、ちゃんと笑えてる?』

 

 

 ――――士道と真士の記憶だけでは、確信には至らない。

 

 けれど、少女へ言葉を告げるだけであれば、十分なものだった。

 

 

「……本当に、それがお前の全て(・・)だったのか?」

 

 

 故に、士道は精霊を〝攻略〟する。武力ではなく、口説くことで(・・・・・・)

 

「え……?」

 

「士道……」

 

 眉を寄せ、首を傾げる少女。不安を残す顔で、それでも士道を止めない琴里。それに精霊たち――――狂三は。

 

「士道さん、わたくしは……」

 

「わかってる――――真打の前に、俺が決めたいだけさ」

 

「……ふふっ。キザなお方」

 

 彼女へパチンとウィンクをして、その一歩を少女へ。

 

「士道?」

 

「お前が願っていること。お前が叶えたいと思ったこと……やっと、理解できた。俺を守ってくれたのは、俺が『崇宮真士』の器で――――狂三のことを、助けようとしていたからなんだな」

 

 少女の行動には、必ずそれ(・・)が存在していた。

 始まりの後には、少女の感情があったのだろう。だが、士道を好ましいと思ったこと。折紙に好意を抱いたこと――――それらの始まりには、必ず時崎狂三への感情があった。

 

 士道は狂三への好意があったから。

 折紙には狂三と重なる生き様を見たから。

 

 少女が育て、連ねる感情には狂三がいた。狂三の存在があった。狂三が見ているから、狂三が気にかけているから、狂三が殺したくないと思っているから――――狂三が、未来を望むならばと。

 

「……そうだよ。私が〝彼〟じゃなく君を信じた理由は、君のその真っ直ぐな好意があったからだ。君なら、もしかしたら狂三を……頑固な狂三を変えることなんて出来ないって思っていた私が、そう信じられるくらい君は素敵な人だよ、士道」

 

「光栄だな。だったら、俺を信じて俺たちに協力する、って選択は出来ないか?」

 

「……出来ないよ。出来るわけがない。私はね――――私の神様が、怖い」

 

 そう、緩やかに言葉を紡ぐ少女からは、恐怖は感じられなかった。自分の死への恐怖は、なかった。

 ただ、誰かの命が失われることへの強い恐れを、物憂げな瞳の奥から感じさせたのだ。

 

「……あの人は、止まらない。私が士道を信じたのだって、私の霊結晶(セフィラ)があれば最悪の場合(・・・・・)でも、狂三の命だけは助けられると考えていたから。事実、厄介であるはずの狂三を、あの人は見逃していたんでしょう?」

 

「そうだな。だからこそ、俺と狂三はここにいる」

 

 それは間違いなく、正しい。澪は殺戮を行う者ではあるが、その殺戮を楽しんだことなど一度たりともない。

 深い敬意と感謝。彼女らの死を悲しんでさえいた。だけど、それを踏み越えてでも『シンにもう一度会う』確固たる覚悟がある。

だからこそ(・・・・・)、狂三を殺さなかった。命を拾った琴里を、逃げろと見逃そうとした。何故なら、必要がないから(・・・・・・・)。シンを甦らせるために必要な犠牲は厭わないが、必要のない犠牲までは求めない。傲慢と思われようと、それを可能にする力を持つのが崇宮澪なのだ。

 頷いて肯定した士道に、少女は微笑みと共に声を発した。

 

「……うん。だから、私が――――――」

 

「けど、それだけじゃなかった」

 

 それだけでは、なかった。少女の言葉を遮り、士道は続ける。

 

「澪が狂三を見逃したのは、お前の影響(・・・・・)があったからだ。必要がなかっただけじゃない――――お前たち(・・・・)は、互いに影響を与える存在なんだよ」

 

「――――私、が……?」

 

 理解が及ばないというように、訝しげな顔で小首を傾げる少女。

 ああ、やはりそうだ。士道は心の底で、また確信へと近づいた。

 澪が必要がないというだけで、狂三を見逃すはずがない。親友の琴里でさえ、立ち向かうなら容赦などなかった。狂三は、あの時点で澪の中で最大の障害。立ち向かってくるなら……たとえば、復活した十香が現れた時点で、狂三を諦めていてもおかしくはなかった。

 それをしなかったのは――――――

 

「お前の〝自我〟は、澪に非合理な行動を取らせるくらい、強い影響を与えていたんだ――――お前の中にあるもの(・・・・・・・・・)と、同じくらいに」

 

「――――っ」

 

 息を詰まらせた少女を見て、士道の中に微かな迷いが生まれる――――少女も、心のどこかで気がついていたはずなのだ。自身の行動にあった〝矛盾〟に。少女を蝕んでいる〝感情〟に。

 確信ではない。けれど、士道は言わなければならない。あまりに残酷で、少女に与えられた〝価値〟を。

 

「お前は、何かを求めた(・・・・・・)。自分に意味がないって思っていたなら、迷わず消えることを選んだはずだ。けど、そうしなかった。そうしなかったから、お前は狂三と出会った――――お前の意志は、最初からあったんだよ」

 

 何もなかったのなら、少女は狂三と出会わなかった。少女は、澪の記憶に抗った――――抗わなければいけないほどの〝願い〟が、そこにあったはずだ。

 自分の価値を大きく否定した。果てに死しかないのなら、価値を求める意味もないと。

 

 けれど、それは――――本当に、少女だけの感情なのか(・・・・・・・・・・)

 

「お前は、生きた。それを選んだのは、お前自身の感情だ。狂三の会う前に芽生えていた、生きることを願ったお前のはずだ」

 

「……何が、言いたいの」

 

 微かな怒気すら感じさせる少女の空気に負けず、士道は息を吐き出し続けた。

 

「きっと、お前の中にお前のものじゃない〝願い〟がある。それがお前を縛り付けて――――殺そうとしている」

 

 避けては通れない。もう一つの現実(・・・・・・・)を、含めて。士道が言わなければならない。彼女たちに(・・・・・)。そうでなければ、士道と狂三の願いは果たされない。

 そうでなければ、それを自覚しなければ、少女は永遠に澪の影に犯される。自分を無価値と思い込んで、縛られてしまう。

 

 

「お前は、お前たちは(・・・・・)――――――」

 

 

 漣の音を切り裂き、踏み込もうとした瞬間――――――

 

『――――肝心な場面ですが、失礼します』

 

 そんな音声(・・)とも思えるものが仮想訓練室に響き渡り、〝攻略〟は唐突に中断された。

 その声の主は、誰もが知る有能なAI。船の中であれば、どうであれ声が届くからこそ士道と琴里は『彼女』へ言葉を返した。

 

「マリア!?」

 

「どうしたのよ。あなたにしては空気が読めないわね……二亜に似ちゃった?」

 

「……え、さりげに酷くない妹ちゃん。あたし今回ばかりは、そこそこかっこよく決めたと思ってるんだけど。あたし空気読めてたよね?」

 

『二亜と一緒くたにされるのは心外です。AIの人権侵害です。〈フラクシナス〉から放り出しますよ、二亜』

 

「あたしかい!!」

 

 そういうところじゃないかな。という空気はともかく、遊んでいる暇はないとマリアは粛々とそれ(・・)を告げた。

 

 

『緊急事態です――――令音が〈フラクシナス〉へ帰還しました』

 

「……!!」

 

 

 風雲急を告げるそれに、誰もが顔色を変える。

 村雨令音。彼女の存在が〈フラクシナス〉にないこと自体、以前までならば違和感を覚えさせるものであったのだが――――今は、士道たちに冷や汗さえかかせる緊急事態(・・・・)だった。

 露骨に眉根を顰めた琴里が、舌打ち混じりに声を発した。

 

「ちっ、予定より早いわね。仕事熱心なのはいいことだけど、上官の命令は聞いてほしいものだわ」

 

「ど、どうするの? 私たち、本当はここにいないわけでしょ? それに狂三だって見られたら……」

 

 七罪の言う通り、本来なら(・・・・)この時間軸で彼女たちは〈フラクシナス〉にいない。狂三もこの場にはいないし、ましてや〈アンノウン〉など以ての外だ。

 令音に勘づかれてしまえば全て水の泡となる以上、少しでも疑念を減らすために精霊たちは接触させたくない。

 故に少女と、士道の選択は決まっていたのだろう。

 

「……ふむ。分離体の調整は入念に行ったと思いますが、それでも流石の速さですね――――さて、時間はあまりありませんよ。大体、私たちが何だというんです。どうであれ、あの人と戦うというのなら――――――」

 

「そもそも――――前提が間違っているのではなくて?」

 

 焦りと緊迫を消し去る、女王の宣言(・・・・・)

 その威厳と人望は、正しく彼女に相応しいもの。

 その不敵な笑みと大胆な発想は、正しく彼女そのもの――――今回は、士道も半分といったところだと唇の端を上げ微笑んだ。

 

 

「お前の〝計画〟で、確かに狂三は澪を〝観測〟した。けどな――――いつ俺たちが、澪を倒そうとしてる(・・・・・・・・・)なんて言った?」

 

「何、を――――?」

 

 

 そう。その顔は、未来で澪がしていたもの。士道もそれを〝観測〟した。

 崇宮澪には勝てない。敵わない。〈アンノウン〉というイレギュラーの二つの霊結晶(セフィラ)を駆使し、士道たちの力を総動員すれば或いは勝ち得るであろう――――だが、それでは意味がない(・・・・・)。士道たちが戻ってきた、意味がない。

 士道は約束した。狂三は手を取った。ならば、士道が約束を違えるわけにはいかず、狂三は諦めを口にはしない。

 完全無欠のハッピーエンドを目指すために、全ての力を(・・・・・)。まさに、そんな理想を集めるための力が――――いるじゃないか、ここに(・・・)

 自らを指で指し示し、士道は強く言葉を告げた。

 

 

「お前は、誰より知ってるはずだぜ。俺がどういう存在か(・・・・・・・・・)。相手がどうであれ、精霊だっていうなら――――俺は負けるつもりがないんだよ!!」

 

「……っ!! 待って士道、それは――――!!」

 

 

 少女が崇宮澪の記憶を持っているのなら、それの知識がある。

 恐怖と戦慄を味わった。澪がどんな存在かを知った――――神に等しくも、彼女は神ではないことも知った。

 顔色を変えた少女に対し、士道は――――士道と狂三は、絶対的な不敵の微笑みを崩すことなく、突きつけた。

 狂三の微笑み(奥の手)を出したならば、勝つ。士道はそう決めている――――――ただし、士道の舞台の上で、だが。

 

 

「お前が終わるしかないっていうなら、そうじゃない運命を見せてやる。お前たち(・・・・)が生き残れる運命を、創る。覚悟しろよ――――俺たち(・・・)が、お前たちを〝攻略〟する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……!!」

 

 ピクリと眉根を揺らし、目的の人物が足を止めたのを見た。

 それもそのはず。士道がここにいることは、彼女にとっても予想外であるのだから。とはいうものの、彼女も似たようなものなのだろうと苦笑し、士道は壁から背を離して〈フラクシナス〉の廊下で彼女と相対した。

 

「こんにちは、令音さん」

 

「……ああ。こんにちは、シン。どうしたね、こんな場所で」

 

 ニコリと微笑みを向ければ、令音が普段通りの調子で返してくる。

 ……『シン』という呼称を、もう純粋に受け取ることの出来ない寂しさを隠し、士道はあくまでも士道らしく言葉を返す。

 

「令音さんこそ。休暇中だっていうのに、どうしたんですか?」

 

「……少々と、忘れ物をね」

 

 こういった嘘は吐きなれていないのか、僅かばかりに目を逸らす令音。急な休みに、手持ち無沙汰になったということか――――だからこその、行幸。

 

「あはは。何か、令音さんらしくないですね」

 

「……ふむ。そうかね。いや、恥ずかしいところを見られてしまったな」

 

「そんなことないですよ。でも、ちょうど良かった。令音さん――――――」

 

 女性の目を見つめて話す。基本中の基本。基礎訓練の賜物か、もはや一年前の士道はいない。

 精一杯の感情と、好意(・・)を込めて、五河士道は――――――

 

 

「――――明日、俺と、デートしませんか?」

 

 

村雨令音(崇宮澪)へ、高々と戦争(デート)の狼煙を見せつけた。

 

 

 






少女が生まれ落ちた時、感じたことは……本当に、それだけだったのかな?

俺たちが。そう、澪と少女を攻略するのは士道一人ではありません。……最後の攻略対象者は、奇しくも同じ貌を持つ精霊。はて、さて、どう転ぶのでしょう。

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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