デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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第百八十四話『不明者の優先順位』

「……精霊って、そういう道具は必要なのかな」

 

 ……少女は夜空を見上げ、何ともロマンに欠けることを呟いた。生憎と、孤独な風景にロマンチックなものを感じる趣味はないので、気にはしなかったが。

 精霊にそういった問題は、恐らく起こりえないだろうとは思う。可能か不可能か、だけで考えるのなら、そもそもと原初の精霊が模範を用いて産み直し(・・・・)を行っているので、可能ではあるのだろうけれど。

 一応、〈囁告篇帙(ラジエル)〉なら、精霊の機能そのものを知れるし、澪の記憶の中に存在している可能性もあったが……止めた。

 

「……ていうか、何で私がそんなことを……」

 

 気にする必要があるのは当人たちだろう、と少女は目にかかる髪を軽く払いながら、仰向けに寝転んでため息を吐く。

 目を閉じて数秒後……精霊マンションの屋上から、士道の部屋に目が向いている自分に気づいて、今度は大きくため息を吐いた。

 

「……あの二人、霊力を封印しちゃいけないってわかってるよね……?」

 

 気になるものは気になる、と言わんばかりに少女は独り言を零す。

 というのも、士道と狂三が澪という強大な存在の裏をかくことが出来たのは、両者の間にある特殊な経路(パス)の影響が大きい。それによるイレギュラーを差し引いても、今わざわざ狂三の霊力を封印し、経路(パス)を通常の流れに戻すことは少女としても避けたかった――――少女が理解しているのだ、狂三に理解できないわけがないともう一度目を閉じる。

 

「……保護者じゃないんだから」

 

 今度は目を向けぬよう、ごろりと反対側へ転がり無理やりにでも視線を逸らす。今更、少女の手など必要としていない。二人は、もう精霊たちと歩いていける――――少女の役目は、終わった。

 

「…………」

 

 そう。終わったのだ、少女の役割は。〝計画〟の最終段階、霊結晶(セフィラ)の譲渡まで遂に辿り着いた。喜びがないわけがない。少女は、本願を果たす力を狂三へ託すことが出来る。そこに、少女自身の感情は不要だ――――なのに、少女は生きている。

 『時崎狂三』は、敗北した。ありえない結果のはずだった。『時崎狂三』は何者にも敗北しない。少女はそれを知っていた――――知っていたのに、敗北の先を想定していた。

 心のどこかで、期待があったのか。五河士道なら、成し遂げられると。

 『時崎狂三』は、『時崎狂三』であるが故に誰にも負けない。

 しかし、時崎狂三(・・・・)であるが故に、敗北する。

 『時崎狂三』という狂気の修羅は、狂三(しょうじょ)の未来という不確かなものに敗れ去る。

 だから少女は〝計画〟を歪めた。

 だから少女は〈囁告篇帙(ラジエル)〉で未来を歪めた。

 だから少女は――――――

 

 

『お前は、お前たちは(・・・・・)――――――』

 

「っ……」

 

 

 過ぎる彼の姿に、息を詰まらせる。

 私たちが、何だというのか。今更(・・)、何だというのだ。崇宮澪が抱えた三十年の妄執――――少女の世界を生み出した、神様(・・)

 わからない。わかりたくもない。分かり合うことなど、諦めればいい。『私』を知っているから、少女(わたし)はあの人が怖い。崇宮澪は諦めたりしない。筋金入りという意味では、狂三にだって負けはしないだろう。

 怖いのだ。怖いから、あの人の邪魔をしたくなかっただけ――――――本当、に?

 

 本当に、そんな幼稚な感情だけが、崇宮澪に対する感情だったのか?

 

「――――やっと見つけた」

 

「っ!!」

 

 自分の考えさえ曖昧になったその瞬間、鼓膜を震わせた声に少女はハッと目を開く。その先には、二人の少女がいた。

 

「探したわよ。こんなところにいるなんてね」

 

「夜は冷える。……これを」

 

 呆れ気味に言う人と、少女を案じてタオルケットを手渡してくる人。しかも、自分たちの分まで揃えている周到さに、少女は彼女たちの名を呟いた。

 

「五河琴里……鳶一、折紙」

 

 今となっては、珍しくもない組み合わせ。ただ、行き先を告げなかった少女を簡単に見つけ出せた驚きはあったが。

 特に許可を取ることもなく、二人は少女の両隣に座って陣取りを行う。……出ていくわけにもいかず、少女は冷たくなった息を吐きながら身体を起こした。

 

「……何かご用ですか?」

 

「べっつにー。ご主人様に冷たい言葉を浴びせた従者様が、落ち込んでないかなって思っただけよ」

 

「…………」

 

 非常に意地が悪い琴里に、少女も思わず渋い顔を作る。というか、普通逆だろうと思わなくもないのだが……咄嗟のこととはいえ、他に言い方があったことは否定できない事実だった。

 無言で表情を変えた少女を見て、クスッと笑った琴里が膝の上に置いた手に顔をうずめて、隠れ見える感慨深い表情で声を発した。

 

「あなた、話す時はそんな顔をしてたのね。可愛いじゃない」

 

「……ん。ああ……」

 

 言われて、先程までしていたローブを取り払っていることに気づき、不思議と声が漏れた。普段、人に顔を見られるようなことがなかったので、忘れていたのだ。

 自分の顔を不思議そうに触る少女に、折紙が疑問符を浮かべて口を開く。

 

「癖になっていたんじゃなかったの」

 

「……まあ、そちらも否定はしませんけれど――――気にするでしょう、特に狂三は」

 

この顔は(・・・・)、特に。

 意図に気づいた二人が、眉根をひそめた。彼女たちも、狂三の過去は知っているはずだ。この貌が――――崇宮澪と同じ貌がどういう意味を持つかも、知っている。

 

「……あの子なら、あなたをあなたとして見てくれるわよ」

 

「……それでも、理解と感情は別です。あの子は、まだ……」

 

 理由を知った。理解を示した。だから――――許せるわけが、ない。

 時崎狂三から全てを奪った存在……それが崇宮澪。白い少女のオリジナルであり、決して無関係でなどいられるはずもない。

 因果は結ばれ、故に憎悪と怨嗟は生まれ落ちる。『私』と少女(わたし)を別物だと定義したところで、少女は崇宮澪の出来損ない(デッドコピー)であることに変わりはなく、少女もまた狂三に討たれるべき精霊だ――――否、狂三だけではないと、少女は続けた。

 

「……狂三だけじゃなく……あなた方、全ての精霊にだって同じことです。私は崇宮澪の同一体。私は、あなた方の運命を歪めた存在と変わりないんですよ」

 

「馬鹿ね。誰もそんなこと思ってないわよ」

 

「……私は思っています。そうでなくても、私は知っていたんですよ」

 

 精霊たちがそれは違うと、幾ら繰り返しても、少女の中で納得は得られない。

 少女は、澪の全てを知っていた。村雨令音の真実を知っていた――――知っていて、止められなかった。凶行を、虐殺を、悲劇を。手を汚すことと、見過ごすこと。そこに、さしたる差があるとは少女には思えなかったのだ。少女だからこそ、思うわけにはいかなかった。

 けれど――――――

 

「でも、あなたは伝えようとしてくれた(・・・・・・・・・・)

 

「っ……」

 

 琴里は、穏やかな表情で少女を許そうとする。

 

「前にも言ったけど、私は頑張ったなら相応の見返りがなきゃおかしいって思ってるの。全部が全部、そんな綺麗事で通るわけじゃないのはわかってるわ。けど、あなたが狂三を想う気持ちと、そんなに差はないでしょ?」

 

「それは……」

 

 返す言葉に迷いが生じる。少女は、理不尽なことが嫌だ。それは、必死に生きている人たちが流転する運命に翻弄され、何であれ少女は許容をしたくないと思ってしまうこと。

 所詮は、綺麗事だ。万事全てが上手くいくはずもない。綺麗事だけで世界が回るのなら、因果の始まり、澪の悲劇(・・・・)など引き起こされていないのだから。

 けれど、琴里はわかっている。その理想は綺麗事だと。彼女は立場上、大人の汚い世界を見せられている。まだ齢十四にも関わらず、下手な大人より現実が見えてしまっている……それでも、琴里は俯かない。

 

「綺麗事は綺麗事。現実は違うかもしれない――――でも私は、そうなればいいと思って行動したいの。あなただって、そうだった。だから、私たちは生きてるんだもの」

 

「……私がしたことなんて、些細なものでしょう。あなたたちの努力があればこそです」

 

「だーかーらー、そういうのが不当な評価、理不尽(・・・)って言うのよ。あなたの情報がなかったら、未来の私たちは士道と狂三を過去へ送れなかった。それを認めないのは、あなたの嫌いな理不尽なことよ」

 

「……む」

 

 ビシ、と指を突きつけて少女を怯ませる琴里の反対側から、更に折紙が鋭く切り込む声を発する。

 

「根本的な原因を追求するなら、村雨先生の正体を知っていたあなたが情報を公開するのは困難。あなたの選択は正しかった。私は敬意を評する。そして、あなたに感謝を贈る……ありがとう」

 

「…………」

 

「あ、顔赤くなってる。さては、好きな子に褒められて照れてるんでしょ。何よー、可愛い子ねー」

 

 このこのー、と頬を指で突く琴里に顔を逸ら……すと折紙の顔が間近に迫るので、大人しく無心で正面を見ることにした。

 ……言われなくても、わかってはいるのだ。ただ、自分が認められないだけで――――誰かに許されたら、自分が自分を許してしまいそうで、少女は恐ろしい(・・・・)のだ。

 

「……私のことより、あなた方はいいんですか」

 

 そう、息を吐いて言ったのは苦し紛れだった。二人が帰るつもりがない以上、話題を別のものに出来ればいいと思った……だけだったのだが。

 

「…………」

 

「…………」

 

 揃いも揃って、表情を能面のように固まらせ真顔のまま目が死んでしまった。先程までの活発具合が嘘のようだ。……何かおかしなことを言ったかと焦るが、二人がブツブツと呟き始めたことにより疑問が氷解した。

 

「へ、平気よ。お、おおおおおにーちゃんがそんな簡単に越えられるわけないわよ。ヘタレでチェリーボーイな私のおにーちゃんなのよ!?」

 

「空気を読む。とても空気を読む。私は空気を読む。今、二人の邪魔をすることは、とても理不尽。今日だけは冷静。とても冷静。私は冷静」

 

「……ん、言葉が足りませんでしたね」

 

 ガタガタを身体を震わせる琴里に、明後日の方向を見ながら虚空へ説得を行う折紙。正直、適当すぎた言葉選びを猛烈に後悔した。

 触らぬ神に祟りなし、と少女は定番となった言霊を内心で再生しながら、足りなかった言葉に主語を付け加えた。

 

「そちらではなく……あの二人の目的に関して、ですよ」

 

 通じあってなお、神に逆らう道を選ぶあの二人を。

 少女の言葉に、折紙と琴里は表情を真剣なものへと変える。彼女たちにとっても、無関係ではない――――士道が、過去改変(・・・・)を最終目的としていること。

 しかも、ただの過去改変ではない。白い少女という確定していた死どころか、あらゆる悲劇を無くす究極の救済(・・・・・)にして、極限のエゴ(・・・・・)

 可能かどうか、の可能性を協議すると……不可能ではない、と少女は考えている。もっとも、前提にしてその前段階である崇宮澪の救済(・・・・・・)が不可能であると考える以上、それは無意味な可能性とは断じてしまえるのだが。

 なので、ここで可能か不可能かを協議するつもりはなく、単純に彼女たちの倫理(・・)の問題だ。即ち――――身勝手な独裁者を生み出すことを、許容できるのかということ。

 真っ先に答えたのは、やはりというべきか、一度世界に挑んだ経験のある折紙だった。

 

「私は、構わない。士道と狂三が選んだ道を阻むつもりはない。協力してほしいと言われなくても、協力するつもり」

 

「……そうですか――――あなたは、一度過去へ飛んだ経験もありますからね」

 

 それどころか、未来への跳躍まで経験したことがある折紙だ。過去と未来を経験したのは、彼女が世界で唯一と言っていい。

 ただ、一度過去改変で恐ろしい真実(もうどく)を得たというのに、どんなものでも支柱があるとこうも硬い(・・)のかと少女は息を吐いて続けた。

 

「……まあ、私に対して狂三への取り次ぎなんて無謀なことをしたあなたですから、そう答えるとは思ってましたけれど」

 

「反省はしている」

 

「……できれば反省を活かしてほしいんだけれど、君の性分は変えられないよね」

 

 たぶん、折紙の無茶と無謀は筋金入りなのだろう。あと、狂三と程度の差はあれど思い切りの良さも。

 心底、惚れた弱みというのは悲しいもので。その無謀さに実力が伴っているのも厄介なもので。もう隠す必要もないからと、はっきりため息を吐く少女に琴里が苦笑しながら声をかけた。

 

「苦労したみたいね。今に考えたら、気が気じゃなかったんでしょ?」

 

「……そりゃあ、もう。随意領域(テリトリー)に戦術の大半を委ねる魔術師ならともかく、精霊同士となると私も強くは出れません。万が一、衝突するようなことがあったとしたら、どちらも死なせない(・・・・・・・・・)必要がありましたから」

 

 ――――最悪の場合は、排除せざるを得ないと思っていたが。

 それは、本当に最悪の場合。時崎狂三を確実に殺す可能性がある……復讐心に囚われた鳶一折紙が、一番に可能性があったというだけのこと。

 だが、それ以外で狂三が精霊と衝突した場合、少女だけでなく澪の計画にすら支障をきたしかねなかった。搦手を含めた狂三の実力は、精霊の中でもトップクラス。狂三が加減を誤らなくとも、そこで生じるDEMの介入も計算に入れなければならない――――もっとも、士道と関わった狂三がそれを想定していないわけがないのだが。

 そういう意味では、反転(・・)時の衝突がかなり危うい事態だった。だからこそ、DEM本社での十香と狂三のぶつかり合いは、少女の肝が冷えるなんてものではなかったのだ。思い出したら、またため息が漏れてしまいそうなくらいに。

 折紙といい狂三といい、実力を信じられているからと無茶をしでかすのは控えてほしいのだが、なんて自身を棚に上げながら、少女は続けた。

 

「……鳶一折紙はともかく、あなたはどうなんです? 五河琴里」

 

「んー、そうねぇ……」

 

 新しいチュッパチャプスを、ぱくり。まるで世間話のような軽さで、琴里は少女の問いかけを受け止める。

 恐らくは、答えを持ち合わせているから。琴里にとってこの問いかけは、悩む必要のない……彼女なりの答えを、既に持っているものなのかもしれない。

 覗き込めば曇りのない、真っ直ぐに燃え上がる情熱の瞳――――琴里のそういうところを〝彼女〟は好ましいと、思っていたのだろうか。

 

「正しさとか、倫理観とか……そういうのだけで判断するなら、駄目なんでしょうね」

 

「…………」

 

 世界に仇なす行為。神に逆らう愚か者。過去を変えるということは、そういうことだ。そこに正しさなど存在しない。倫理が追いつく事象ではない。

 崇宮澪がそうであったように。

 『時崎狂三』がそうであったように。

 五河士道と時崎狂三は、世界という理不尽に反逆し、運命に背き世界を壊す(・・・・・)

 だけど、言葉とは裏腹に……五河琴里は、覚悟をもって微笑みを浮かべた。

 

「けどね、正しさなんて、〈ラタトスク〉っていう世界の敵を救う組織(・・・・・・・・・)に入った時点で、自分だけのものなのよ。正義は人それぞれ違う……在り来りな台詞でしょ。世間に知らしめれば、私たちの行動は間違いなく狂人のそれよ」

 

 鼻で笑い飛ばした琴里は、ニヤリと唇を歪め続ける。

 

「私たちは、私たちが正しいと思ったことをする。それが精霊を救うこと……世界を変えることがそれに繋がるなら、とことんまで付き合ってやろうじゃない」

 

 そうして、不敵に笑った琴里は、決意を絶やすことなく世界へ啖呵をきった。

 

 

「あの二人が苦しんで、悩んで、必死になって繋げた願い。ずっと見守ってきた私が、世界に負けて嘘を吐きたくないの――――たとえ世界中の人が否定しても、私は二人の願いを肯定するわ」

 

 

 こういうのを、カリスマ(・・・・)というのだったか。人を惹きつける強い魅力。

 五河琴里は強い。自身の心さえ不明瞭な少女より、ずっと――――いいや、人とはそういうものなのかもしれない。

 それ故に少女は、美しいかの女王に自身の〝世界〟を見たのだから。

 結局、わかりきっていた問いかけだったと少女は唇に弧を描き声を発した。

 

「……世界を壊す魔王様御一行、ってところです?」

 

「人聞きが悪いわね。世界をちょっと良くするだけよ……私たち好みにね」

 

「……それ、思いっきり悪役の台詞なんですよねぇ」

 

 十四の少女とは思えない悪い顔に、将来は〈ラタトスク〉の老害共など相手にならない女傑になりそうか、などとあまり嬉しくない予感まで過ぎる。

 頬をひくつかせる少女を見てクスッと笑った琴里が、ふと表情を変え言葉を続ける。

 

「……ほんと、想像も出来なかった。いつの間にか狂三に絆されてた自分に、驚いてるわ――――ちなみに、あの子を頼みます、なんて遺言は受け付けないからよろしく」

 

「琴里に同じ」

 

「…………」

 

 そんなにわかりやすい表情をしていただろうか、とぺたぺたと顔に触れてみる。やはり、隠せないというのは不便なものだなと思う……それが普通だと言われれば、返す言葉もないのだが。……二人に半目で睨まれても、同じく返す言葉はなかった。

 

「まったく……ま、みんな(・・・)同じ意見じゃあないの」

 

「え……?」

 

 呆然と言葉を零し、ようやく(・・・・)気がつく。

視線が多い(・・・・・)。それも、この屋上の入口付近から――――八人(・・)。ちょうど、残りの精霊たちと合致する人数。渋い顔で、少女は白い吐息を吐き出した。

 

「……いつからです?」

 

「初めの方からよ。てっきり、気がついてるかと思ってたわ」

 

「……少々、他に気を取られることがありましてね。迂闊でした」

 

 というか、入口側は都合よく折紙が視界を遮っている。極力見ないようにしていたが、それが仇となってこんなにわかりやすい気配に気がつけなかった。他に理由があったとはいえ、これは相当不用意だったと言わざるを得ない。

 少女の飛ばした視線が、向こうにも伝わったのだろう。屋上の入口から騒がしい声と人が入り込んできた。

 

「ふっふっふ、バレてしまっては仕方がありませんねー」

 

「怪盗『ミッドナイト・カイト』が、君のハートを奪いにきたぜ!! さあオリリンも一緒に!!」

 

 訂正しよう。恐ろしく騒がしく、それでいて派手な決めポーズで美九と二亜が乗り込んできた。ちょうど、一人分が空いたちょっと古風な怪盗ポーズなのだが……チラリと折紙に視線を向けると、真顔だった。ちょっと頬に赤みが刺した。

 

「……折紙?」

 

「記憶にない。私は怪盗を名乗ったことはない。きっと人違い」

 

「ええー!! そりゃないよーオリリン!! また怪盗しようって約束したのは嘘だったの!?」

 

「そうですよー!! 一緒に〈アンノウン〉さんのハートを盗んで……うへへへへへ」

 

「盗むという話なら、私は既に彼女の心を盗んでいる」

 

「ちょ……っ!?」

 

 自爆するなら他所でやればいいものを、何故かこちら巻き込んでいくものだから、思わず立ち上がって思いっきり息を詰まらせながら抗議をした。

 

「わ、私を巻き込まないで……っ!!」

 

「でも事実」

 

「事実だからって、言っていいことと悪いことがあるでしょ!?」

 

「好意を示すことは恥ずかしいことではない。人間の正しい本能で――――――」

 

「あなたのそういうところ、好きだけど嫌い……!!」

 

 淡々と小っ恥ずかしいこと言う折紙に、面と向かって……は恥ずかしいので顔を逸らして叫びを上げる。妙に顔が熱いし、これも見られていると思うと熱が加速していく気がした。

 

「く……と、尊い。これは……永久保存、です……ぅ……」

 

「みっきー!! 傷は浅い、しっかりするんだみっきー!! みっきぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 ……鼻血を垂らして倒れる美九と、変な小芝居をする二亜はともかく――美九はどの道変わらないが、二亜の評価を訂正したくなった――少女は段々と騒がしくなってきた屋上に、頭を痛めるように手を当てた。その間にも、遅れて続々と精霊たちが静かだった屋上に足を踏み入れる。

 おずおずと少女へ声をかけてきたのは、騒がしくなった場所に相応しいとは思えない穏やかな気性を持った精霊、四糸乃だった。

 

「あの……ごめんなさい。お邪魔、してしまって……」

 

「……ん。別に、悪くはないですけれど……」

 

 一人になりたかったというよりは、狂三や士道とは顔を合わせたくなかっただけだ。申し訳なさそうにしている四糸乃を見ると、逆に申し訳なさがせり上がってくる。主に、罪悪感で。

 それでも、気にかかった。このように良い子(・・・)が、士道と狂三の選択をどう感じたのかを。

 

「……あなたは、どう思ってるんです? あの二人が望む、世界を」

 

「私、ですか……?」

 

 夜に光る碧の瞳を困惑に歪め、けれど無下にすることなく手に着けた『よしのん』と顔を見合せ、じっくりと、しかし少女が驚くほど心の籠った声を四糸乃は返した。

 

「……幸せな世界を創るのは、きっと……辛くて、大変なことだと、思います……士道さんと狂三さんが望むものだから……人を傷つけることより、ずっと……」

 

「……そう、なのでしょうね」

 

 静かな吐息を、少女は頷き同意した。ただ世界を変えることより、望む世界を創ることより、険しく辛い道のり。

 幼いながらも、四糸乃はそれがわかっている。他者を傷つけないために……そんな、力を持つ者が忘れていく優しさを持つ四糸乃だからこそ、二人が選んだ修羅の道を理解している。

 しかし、四糸乃のまた、理解しているが故に琴里と同じ答えを出す(・・・・・・・・・・)

 

 

「だから――――そんな優しい世界(・・・・・)を、士道さんと狂三さんだけに背負わせないように……少しでもお手伝い出来たら……私は、そう思います」

 

 

 ――――優しい世界を生み出す罪を、二人だけのものにしないために。

 本気で思っているのだろう。本気で……四糸乃は二人を慮り、誰かを傷つけないよう、救いたいと願う。

 幼い少女の強い意志。以前から思っていたことだが、その容姿や控えめな言動とは裏腹に、氷のように砕け得ぬその覚悟と優しさ。それに少女は、心から感服してしまう。

 

「……前々から思っていましたけど、聖人も驚きの慈悲がありますよね、この子。ねぇ、魔女っ子ちゃん」

 

 四糸乃の裏に隠れた七罪に唐突に話を振ると、微妙に身体を揺らし四糸乃以上におどおどとした仕草で声を返した。

 

「ど、どうして私に振るのよ……」

 

「……いえ、何となく。一番彼女のことをわかっていそうだなぁ、と」

 

「え、うん……そりゃあ、私なんかと違って四糸乃は女神級に優しいし、その意見には全面同意するけど……」

 

「な、七罪さん……!!」

 

 恥ずかしがる四糸乃に、正気に返った七罪がハッとなり顔を真っ赤にし始めた。……なんというか、弄りがいがある子だなぁと思いながら、また斜め上の七罪ネガティブを発動される前に少女が言葉を続ける。

 

「事実を恥ずかしがることはないでしょう。内容による程度の差はあれど、ですけれど」

 

「そこで私を見るのは、何故」

 

「他意はないよ。恨みはあるけれど」

 

 ニッコリと折紙へ微笑みかける。言っておくが、羞恥の恨みは根深いのだ。相変わらず無表情に見える折紙からの抗議はさておき、少女は気を取り直して四糸乃たちのフォローを行った。

 

「……ま、本当に凄いと思いますよ。いやほら、そこの二人に望む世界を聞いてみてください。物欲塗れですよ」

 

「みなさんがアイドルデビューする過去を作りまーす!!」

 

「みんなに漫画制作の技術を教えた過去を捩じ込んで、仕事場の修羅場を減らしたいです」

 

「微妙に現実的なのが生々しいわね……」

 

 苦笑いを隠さないコメントの琴里に、少女も予想以上に我欲塗れの美九と二亜に若干引いてしまった。

 というか、美九はともかく二亜のそれは、げっそりとした顔をしている自業自得な本人次第で解決できるのでは……? とも思ったのだが、たぶん公然の事実だろうと黙っていることにした。それに、そんな願いが通るわけもないとわかっているだろうし、もちろん冗談だろう……恐らくは。

 

「むん」

 

 と、騒ぎに関せず、少し離れて少女を観察していた精霊、星宮六喰がその長い金色の髪を揺らし、見定めるように声を放つ。

 

 

「うぬの考えは、どうなのじゃ。主様と狂三が世界を変えること――――其の方、目に迷いが見えるのぅ」

 

「――――!!」

 

 

 六喰の瞳が、少女の迷いを映し出していた。彼女の瞳は大きく、広大な宙を抱かせる。その瞳は他者の迷いを射抜く賢者の意思さえ、備わっているように思えた。

 答えられなかった。驚いた、というのも否定はしない。けれど、少女の答えは決められているはずなのに――――答え、られなかったのだ。

 動揺を見せた少女が何を考えたのか……それを別の解釈で捉えたのか、耶倶矢が相変わらずの決めポーズとわかるんだかわからないんだか、結果よくわからない言語で少女へ語りかけた。

 

「呵呵、案ずるな始原なる者の姉妹よ。我が宿敵(とも)を殺させぬという願い、然と感じ取った。必ずや、強大なる運命を打ち破ってみせようぞ!!」

 

「請願。どうか、夕弦たちと異なる道ではなく、重なる道を選んではいただけないでしょうか?」

 

「っ……」

 

 耶倶矢と夕弦――――声にはしていないが、他の精霊たちも同じなのだろう。

 数々の出会いが定められ、数々の運命を掴み取り、道を同じくする選択を成したあの二人。

 少女はそれを祝福した。その気持ちに嘘偽りはない。それに、出来るのなら(・・・・・・)、それが精霊たちにとって最善になることは理解している。

 始源の精霊を〝攻略〟する。少女は澪と記憶を共有するものだ。故に、わかる……それがどれほど困難なものかを。失敗した先に待つ、最悪の未来。時崎狂三が生き残る道を選ぶなら、あまりに現実からかけ離れた選択。

 確実性でいうならば、少女を犠牲にする選択が賢いものだ。少女はそれを受け入れている。つまり、迷いは少女自身ではなく――――――

 

「…………」

 

「む……?」

 

 不意に視線を向けられた十香が、意図を計りかねて小首を傾げた。

 夜刀神十香。少女と同じ、始源の精霊から生まれた精霊。少女と違い、名と意味を持った精霊。

 少女の選択とは、犠牲を支払い確実に狂三と多数を取ることに他ならない。結果、どのような形でも始源の精霊を討滅することができる――――少女の迷いの一つに、十香がいることは否定しない。彼女は狂三の大事な友達、だから。

 

「私は……」

 

 だが、それだけではない。声が震え、心が酷く痛むのだ。少女の計画への迷いは、士道たちが示した可能性を望むことを選ばせるに足るのかもしれない。

 

 けれど、士道たちの願いは――――――

 

 

「――――『私』、は……」

 

 

 崇宮澪の――――救いになり得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――この部屋、必要なものは揃えてあるから、好きに使ってくれていいわ。あ、勝手にいなくなったりしないでよ。明日の作戦、見届けてもらわなきゃ困るんだから」

 

「……わかってますよ」

 

 どれだけ信用がないのか。人をフラフラと立ち去る風来坊だとでも思っているのか、玄関前で扉を手で抑えながらジト目で少女を見やる琴里に、平坦な声音に僅かな呆れを混ぜて返す。

 もっとも、令音と常日頃から付き合っている琴里には効くはずもなく、ニッコリと笑顔で打ち返されてしまったのだが。

 

「素直でよろしい」

 

「……この部屋、よく用意していましたね」

 

 軽く見て、掃除なども行き届いていることに気がつき、少女は何となしにそう呟いた。

 通常、精霊マンション内の部屋というのはその精霊の攻略中、或いは攻略後に用意されるものだと思っていたが、少女の特殊な事情と時期を鑑みると恐らくこの部屋、別の精霊(・・・・)を想定していたもののはずだ。

 事情を一番把握している琴里は、「あー……」と一瞬言葉を濁しながらも言葉を返す。

 

「元々、狂三用に準備していた部屋なのよ。『安心していいぞ。精霊マンションの部屋はもう用意してあるからな』……って口説き文句のために、前もって準備してたんだけれど」

 

「……なるほど」

 

 士道のモノマネをしながら理由を語る琴里に相槌を打ち、大体の事情を察した。

 その口説き文句が採用されたかどうか――あの士道なら、もっと過激にやる気がしたが――はともかく、今現在の事情を垣間見るに半ば空き部屋になってしまったのだろう。わざわざ用意してもらうのは忍びないが、そういう事情なら関係者である少女が今日くらいは引き取ってもいいだろう。

 

「……それじゃあ、ありがたく使わせていただきます」

 

「今日だけと言わず、明日も明後日も使ってくれて構わないわよ。それじゃ、おやすみ」

 

 ジョーク混じりのそれに少女はおやすみなさい、と返し扉を閉める琴里を見送り――――彼女が振り返り、別れ際に続けた。

 

 

「――――ありがとう。今の私たちを、助けてくれて」

 

「っ……」

 

 

 ――――違う。

 

 少女は、見捨てた(・・・・)。未来の彼女たちを、狂三を生かすためだけに……見捨てたのだ。

 

 

「今度は、私たちがあなたを救うわ。嫌って言われても、無理やりね」

 

「……期待はしてません、と言わせていただきますよ」

 

 

 愚かだとわかっていても、そんな選択しかしなかった少女は、救われようとは思わない。

 それでも、少女の皮肉に勝気な微笑みを浮かべた琴里は――――彼女たちは、最後まで見捨ててはくれないのだろう。

 

「…………」

 

 見送られ、薄暗い廊下を明かりも付けずに歩く。最初に辿り着いたのは、鏡のある洗面所――――憎たらしいほど綺麗な貌が映り込む。

 

「……ほんと、こんなところは完璧なんだね」

 

 崇宮澪の出来損ない。精霊の不純物。白い少女が唯一、崇宮澪から正しく受け継いだのはこの貌だけ。

 だから、これだけは否定したくなかった。少女の何を否定しようとも、澪から正しく受け継がれたこれだけは――――これを否定してしまっては、澪を否定することになるから。

 髪の色。色を帯びた瞳。端整な顔立ち。自信がありながら、見せることがなかったそれは。

 

「……こういうのを、ナルシズムって言うのかな?」

 

 その貌に触れて、微笑んで――――それが、少女の中にある答えの一つなのだろう。

 ただ、その答えより大切な答えが少女にはあった。それだけの話だ。

 少女は何を望むのか――――変わらない。時崎狂三の生存。

 けれど、ただ生きているだけではダメだ。ダメになってしまった。狂三に、大切なものが増えすぎたから。

 

「……私は」

 

 今一度、零した声に……未だ先はなかった。

 少女と、少女ではない〝何か〟が不協和音を強いている――――不協和音だと、思い込んでいるのか。

 考えたところで、答えは現れなかった。いつまでもこの貌と向かい合っていては、色々な意味で複雑だと場を離れベッドが設置された部屋へと向かい――――それはそれとして、ため息の種を見つけてしまうのだ。

 

「……不法侵入」

 

「――――過去のあなたに聞かせて差し上げたいお言葉、ですわねぇ」

 

 そう、ベッドの上に我が物顔で座り、顔に手のひらを添えた彼女……少女にとっては見慣れたメイド服を着こなす時崎狂三(分身体)は皮肉げに微笑んだ。

 突然の来訪に平坦な声音で応じた少女を見て、その皮肉は残念そうな笑みに変わる。

 

「残念ですわ。驚かそうと思っていましたのに」

 

「……私が、知っていないわけがないでしょう」

 

 そもそも、精霊たちの気配に気がつけなかったのは、彼女が近づいて来ていることに気を取られたせいなのだ。ここまで接近されていて、いることに気がついていないはずがないだろう。

 少女と彼女を繋ぐ霊結晶(セフィラ)の繋がり。それは未だ継続されたままだ――――それに、と少女は続けた。

 

「あなたなら、記憶しているのでしょう。【六の弾(ヴァヴ)】は、そういう特性を所有した銃弾ですから」

 

 〈刻々帝(ザフキエル)〉・【六の弾(ヴァヴ)】。その特性は、対象の意識を数日前の時間軸へ飛ばすこと。士道は狂三と共に過去を超えたようだが、狂三に連なる分身も同じように未来から過去へ導かれる。

 彼女もまた、例外ではない。計画が正常に進行したのなら――――未来で死んだ、『狂三』である彼女も。

 肩を竦め、何も語らぬ彼女に、少女は細く息を吐き、続けた。

 

「……何のご用で? あなたに死んでくれ(・・・・・)と願った、親友の仇である私に――――――」

 

「勘違いなさらないでくださいまし」

 

 凛と、少女の声をかき消す声。異形の瞳は澪と同じ貌をした少女を、けれど澪と違うものとして見ていた。

 

 

「わたくしは、あなたに願い請われた(・・・・・・・・・・)。間違っても、あなたが『私』と呼ぶ存在ではありませんでしたわ。あなただから引き受けた。時崎狂三を愛したあなたであればこそ――――それが、わたくしの矜恃ですわ」

 

 

 そう言って、目を見開く少女を超然とした微笑みで見つめ、彼女は言葉を継ぐ。

 

 

「それと、わたくしもまた『時崎狂三』であるということを……お忘れなく」

 

「……忘れてなんて、いませんよ。死んだって、忘れられません。神様より頑固で、神様より負けず嫌いな私の女王様だから。私の願い、叶えてくれてありがとうございます――――我が愛しき女王」

 

 

 声を形にするだけで愛おしく、死んで忘れられるくらいなら、少女は初めから生きていない。

 『狂三』は狂三だ。何が起きて、何を経験しようと、狂三が出す結論を『狂三』は肯定するのだ。だから、先の言葉は、先の言葉も(・・・・・)、時崎狂三が感じ取り、言霊としたものなのだ。それを否定できるのは、少女ではなく狂三だけだった。

 ……と、考えついた故に返した言葉だったのだが、彼女は少々と不機嫌に顔を歪めポツリと一言を零した。

 

「……鈍いお方。ま、我慢して差し上げますわ」

 

「……?」

 

「なんでもありませんわ。わたくし、空気が読めますので。時崎狂三(オリジナル)の立場を奪う不躾なことはいたしませんわ……それにしても、澪さんが神様とは」

 

 何かの納得を彼女の中で得たのか、少女がわからぬまま別の方向に話題を変える。感心の声音ではなく、皮肉たっぷりのそれに少女は苦笑を交えながら声を発した。

 

「……納得がいかない、って表情をしてますね」

 

「当然ですわ。確かに、澪さんが神如き権能を自在に扱えることは否定いたしませんけれど――――神が、自らの願いのために選択を他者に委ねるわけがありませんでしょう」

 

 ここで時崎狂三の言う神とは、全能の存在。全てを必然で決め、必然で事を成す――――機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)

 崇宮澪はそうではない。〈(デウス)〉の名で呼ばれた窮極の精霊でありながら、澪は針の穴を通さねばならない儚き希望に縋り、その希望は澪の願いに反旗を翻している。そこには必然だけでなく偶然が生じる。

 事象に偶然など存在しない、全てが必然だと決められるのなら、澪は神なのであろうが――――狂三が否定した必然を、少女は思わず笑みを零して受け入れた。狂三が訝しげな顔をして声を発する。

 

「どうなさいましたの?」

 

「……いえ、その解釈は合っていると思いますよ――――崇宮澪(オリジナル)も、同じことを考えていますから」

 

 崇宮澪は人のように弱くはなかった。

 崇宮澪は人のように強くはなかった。

 

 神など所詮、人間の空想が生み出す存在。多種多様な意味を持つ言葉の一つでしかない。神と呼ばれし澪は神であることを否定し、澪を宿敵とする狂三も彼女は神ではないと定義した。……もっとも、同一の答えを出した狂三は、恐ろしい形相で憎々しげな感情を顕にしていたのだが。

 

「……あはは、不満そうですね」

 

「当然ですわ。不愉快ですわ。まったく、笑い話にもなりませんわね――――なら、あなたにとって神という澪さんはどういう存在ですの?」

 

「……ん。簡単な話ですよ。私が世界を見つけるために必要なものをくれた――――私の神様。私にとって(・・・・・)、あの人は神様というだけのことなんです」

 

 誰の神でもない、少女の神様。少女に世界を歩く足をくれて、少女に世界を見る目をくれて――――意味のない存在を生み出した、少女の神様。

 大層な言葉を使っていたからか、狂三が不思議そうな顔で言葉を返してくる。

 

「神様……という割には、あなたは『わたくし』を優先いたしますのね」

 

「うん? 私は神様より女王様の方が大切だから、当然のことだよ」

 

 少女の比重は神様より女王様。それこそ、それだけのことだ。

 当然のことを軽く即答した少女に、珍しく狂三が少し引いていた。

 

「迷いがありませんわね……」

 

「迷う必要がありませんから。私、分身のあなたと崇宮澪(オリジナル)のどちらか、と聞かれたとしても、分身のあなたと答えますよ」

 

「……ありがとう、ございます?」

 

 首を傾げ、相当珍しい困惑したリアクションを取った狂三にクスッと素の笑いが零れた。

 

 ――――本当に、そう思っている。

 

 少女の中の優先に、絶対的な存在として狂三がある。その次に彼女たち分身の存在がある。分身は時崎狂三のために消える。彼女だって、狂三の悲願があるからこそ、少女に力を貸しているという前提は覆せないものだ。

 それがなければ、如何な感情があろうと時崎狂三は少女を捨てる――――捨てるはずだった。

 

 捨てずに済む選択肢を手に取り、それが澪の救いではなくとも、澪のことを――――――

 

 

「――――――――」

 

 

 そう考えた時――――不思議と、その優先度が高いことに気がついたのだ。

 ああ、そうだ。少女の迷いには彼女がいて……狂三ほどではないにしろ、それを考えて迷えるくらいに、少女は――――――

 

 

「――――それでも(・・・・)

 

 

 〝計画〟は、変わらない――――最後にどうなるかは、わからないけれど。

 優雅に座る狂三を見遣る。視線に晒された狂三が、不敵に微笑んだ。

 

「あら、あら。何か、このわたくしに頼み事ですの? ちょうど、手が空いてしまっているのですけれど」

 

「ええ。我が儘な女王様がいらっしゃるものですから――――――」

 

 少女に未来はわからない。少女に結末はわからない。少女に、どちらの願いが勝るかなど、わからない。

 

 だが――――――

 

 

「――――私の〝計画〟を、少し修正しましょうか」

 

 

 生み出された希望を、もう少しだけ、見定めようと思う。

 

 

 

 




私の神様、ただし我が女王の方が上。たぶん、これも読者の皆様は大体察せられてましたね……。自分の神様より大切と即断即決即答できるのもどうかと思う。澪泣いちゃうよ。
前回ボカしたのに開幕から直球勝負な子。もう隠すこともありませんので言いますけど、こういうところは令音に近くちょっとズレてます。心配するところはそこなのか。

ミッドナイト・カイトはアンコールが出典。でも士織ちゃんに釣られたオリリンも悪いと思うの。
ちなみに、少女が折紙に極端に弱いのは惚れた弱みもありますけど、単純に過剰な友愛に対する耐性がないんですよ、この子。それは澪の記憶にも存在していませんし、単純な経験値の差です。自分はいいのにやられる側になると弱くなる。価値観的な話も含みますが、ぶっちゃけた話、折紙が特別直球すぎるだけ。
じゃあ恋愛面はどうなのかと言うと、主観ではないとはいえ強烈な記憶があるので、ご存知の通り狂三の恋心に対してはうまい付き合いをしました。じゃあ、自分自身はというと……それは、まだ秘密です。

神ではない。神であるならば、サイコロを振ることはない。仇敵との答えの一致。さてはこれ私の性癖相当バレてry

単純な優先順位は狂三の分身も相当上。ただし、彼女たちは狂三に尽くすために生まれてきたとも言えるので、そこに折り合いは付けています。狂三を生かす為ならば、と。ただ、優先順位自体は高いので必要のない犠牲は許容しません。百六十話くらい前の狂三フェイカー編、真那から分身を救った時とかね!話が前すぎて自分でもビックリしました……。

原作20巻以降の伏線をチラッとお見せして、おや?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。はてさて、どうなることやら。

さあ、次回からはいよいよ……ここまで来ると、本当に終盤という感じがします。ラスト付近を書いていると、ああ、ここまで来たんだなぁ……と。高評価とか増やしてもらえるとクオリティ高まると思うので、よろしくお願いします、直球に!!

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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