デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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ⅩⅠ

 世界が、崩落を始める。

 

 当然といえば当然の結果であり。避けられぬ世界の結末。この空間は、もとより『十香』と未零のみを受け入れる歪な境界。如何に澪と同じもの(・・・・)と定義したところで、力の規模が急速に増せば自ずと世界は崩壊へと向かう。

 だが、

 

「おいで――――――」

 

未零()が手を掲げる。そう、この方法で解決へと導くことができるのなら、未零とて初めから澪へ解を求めていた。

 未零が侵入し、精霊たちが道を繋ぎ、狂三が導く。その遠回しを以て、回りくどい道順を辿った今のみ、この選択肢は起こり得る。

 即ち、世界が崩壊する数秒(・・)の間があれば、『〝私〟』たちには十分すぎる。

 

 

「――――〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉」

 

 

 それは一つの世界。それは無限の世界。それは『〝私〟』たちの世界。

 十二枚羽の背にそびえ立つ尖塔。幹が少女を抱き、大樹が天を突く。

 世界が反転する。くるくる、くるくる。地面が、空が、上下もない空間が、パネルをひっくり返したように。

 白と黒の世界へ、漆黒の空が睥睨する世界へ。先とは違う無機質な意味を持った空間が、崩落する境界を侵食した。

 

「ァ――――――」

 

 そして、

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッ!!」

 

 

 『獣』が鳴く。哭く、啼く。精霊に対しての反逆を。持てる全ての本能を以て、『十香』は母へと逆らう。

 世界が違えど、思想が違えど、立場は違えど。相対するのならば、交わる他ない。生まれからの宿命だと。決するは運命だと。

 けれど、異なる運命はある(・・・・・・・・)

 

「……〝私〟が、あなたを受け止める」

 

 祈りを否定し、祈りを受けた精霊は、二人の運命を裁定した。

 即ち、また、或いは――――――どちらが消える運命など、願い下げだと。

 

 『十香』が剣を握る。五番目と、八番目。五番目の剣を突き立て、炎が上がる。八番目の剣を振るい、暴龍が襲う。

 

「…………」

 

「アアアアアアッ!!」

 

 腕を払い、霊力の壁を行使した未零。阻まれる炎嵐を厭わず、『十香』は四番目と九番目の剣をその手に収めた。

 灼熱の業火から、永久凍土の氷結へ。音の壁が未零の動きを縛り付け、人体を砕く炎氷風が未零を包み込んだ。

 

「――――【枝剣(アナフ)】」

 

 大樹から侵略せし剣は、容易くその縛りを切り裂く。

 『十香』が剣を新たな振るう。『獣』であろうと、否、『獣』であるからこそ彼女は全ての天使を躊躇いなく選択し、扱うことができる。超自然の結晶、形となった奇跡。知っているとも、識っているとも。『私』が創り出したものを、〝私〟は収めている。

 その力の規模。十の剣に秘められし権能。どれほど厄介で、どれほど手を焼く力か。澪に迫る力を得てしまった(・・・・・・)『十香』が扱うのだから、なお警戒は当然のこと。

 故に、未零は目を細め、動きもなく唇を動かした(・・・・・・)

 

「……ふむ。ではそれは、禁止(・・)しよう」

 

「……ッ!?」

 

 瞬間、『十香』の動きが不自然に止まる。正確には、剣を掴もうとした彼女の動きが止まる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 彼女が取り込んだ力は、九つ。九の天使、己の天使と魔王(・・)。それを未零は感知できていたからこそ、〈囁告篇帙(ラジエル)〉の持つ未来記載すら上回る権能を容赦なく振るうことができる。

 

 

「――――――君は、その剣を握れない(・・・・・・・・)

 

 

 〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉が持つ絶対権能。この世界は今、『〝私〟』たちのものだ。それがどれだけの不条理であれ、世界の法則(ルール)は『〝私〟』たちが決める。そう定められている。

 どれだけの力があろうと、始原より生まれし精霊の力は絶対のものだと。未零は裁定を下す。

 

 

「――――――」

 

 

 しかし、吼えた。声にならない咆哮。声すら超えた咆哮。『十香』は、『爪』を束ねた(・・・)

 金色の意匠を宿す、白金の剣を何の躊躇もなく手にした。それが必要だと、『〝私〟』を屠るにはその〝剣〟でなくては駄目だと本能が答えを出したように。

 

「……」

 

 未零は静かに呼吸をし、無数の枝剣を周囲に展開した。

 如何に〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉の力であっても、アレを縛ることは叶わない。凄まじい霊力を喰らい尽くした『十香』を縛る法則(ルール)など、せいぜいと一つか二つ程度。そしてもとより、『十香』にとって他の天使など攻撃の択にある武具に過ぎない。

 最後に示すは己が武勇。己が天使。『獣』に堕ちてなお勇猛果敢。手にした天使の剣・〈鏖殺公(サンダルフォン)〉。形無きものを裂く異形に対する脅威。法則(ルール)に対する反逆者。

 

 

「…………」

 

「――――」

 

 

 視線が数瞬の交差を行う。それすら、『十香』にとっては交差をしたなどと思ってはいないのかもしれない。

 剣と剣が見合う。殺しにくるものと、受け止めるもの。

 ――――――刹那。

 

 

「ァ――――――」

 

「……!!」

 

 

 『獣』が古びた霊装を揺らす。『〝私〟』が十二枚羽を散らす。

 無の法の司る者と、有の反逆者。窮極へと辿り着いた精霊同士の霊力が――――――白と黒の異界を染め上げた。

 

 

 

 迫る煌めきは一にして全。切り下ろし、袈裟斬り、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟、刺突。

 剣術の基本からなる九つの斬撃。驚くべきことに、『十香』はその剣術の基礎を徹底的に抑えている。剣を極めるとはこういうことだと、九つの斬撃を同時に放つ(・・・・・・・・・・・)

 剣技の極地。絶技の果て。世界を隔てる壁より分厚く、『夜刀神十香』という少女は剣技に置いて誰より〝最強〟の名を欲しいままとする。時崎狂三をして〝最強〟と称揚した少女が、『獣』に成り果てたその身で未零への剣舞をみせる。

村雨未零に(・・・・・)、その絶技は受け止められない。未零の身は『十香』には及ばない。彼女のような剣戟の極地へ至る可能性など皆無。どれほど研鑽を積もうと、答えは変わらない。

 

「……やっぱり、あなたはすごいね、十香(・・)

 

 賞賛を、喝采を。それは終に未零が持ち得なかったものだ。時崎狂三の()に立って戦うことのできる絶技。それを未零は純粋に賛美した。

 ――――――その攻撃を受け切りながら(・・・・・・・・・・・・)

 

 村雨未零が『十香』に勝ち得る可能性などない。あるとすれば、それは未零だけの可能性ではない。

 〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉を展開した未零の死角は存在しない。十香が同時斬撃という基礎を極めた剣技を披露するのなら、未零は空間を歪め四方より(・・・・)奇跡の体現に決して劣らぬ研ぎ澄まされた『法』の枝を使役する。

 

「ァ――――――アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ――――――ッ!!」

 

 静からの咆哮を、阿修羅を思わせる怒気の咆哮へ。

 膂力、反応速度、剣技。それら全てが狂っている(・・・・・)。四方八方から襲いかかる枝の刃を打ち払い、切り払い、掴み取り、叩き伏せ、激昂する。

 正しく『獣』。原罪の『獣』。原初の罪を受け継ぎ、その瞳は憎悪を超え、狂気に呑まれている。だというのに攻めへ転じ、防御へ転じる。天武の才とでもいうのだろうか。まったくもって理不尽の化身を相手取り、同じだけの理不尽の化身と共にある未零はふと、そうして言葉を吐いた。

 

「……お姉ちゃん」

 

『どうしたの?』

 

「……これ、慣れない」

 

『………………』

 

 神速の刺突を優に十は受け止めるだけの沈黙を挟み、未零が困り顔で放った言葉に澪も困った声音で返す。

 

『……あくまでメインは未零だから、慣れてとしか言えないよ?』

 

「……やー。私って、あなたの純粋な分霊の中だと、武闘派からは程遠いんですよねぇ」

 

 別にできないとは言わないし、できてはいる。が、それとこれとは話がまた別。この手の正面からの戦いは、相変わらず未零の性分ではなかった。

 

「万由里とかバリバリの武闘派ですし、凜祢も負けず劣らず、蓮は最終的には言わずもがな――――――妹の私だけ、不平等じゃないです?」

 

『……君には方向性の違いがあるじゃない』

 

「微妙に言葉を濁さないでくださいよ。拗ねますよ、ちょっと妹っぽいですし」

 

『歓迎するよ?』

 

「……やぶ蛇でしたか」

 

 他愛のない会話は、ここが日常的な空間だと錯覚させかねない。襲いかかる剣は、未零が纏う澪の霊装すら切り裂く非日常が形になって振るわれているようなものであるけれど。

 まあ、ただ、という気持ちはある。確かに武闘派ではないし、万由里たちに比べて能力的な劣化はある。だが、今の未零にはプライドがある。澪の能力、澪の霊結晶(セフィラ)を手にした時、誰よりも上手く力を引き出してみせる自信がある。

 それはかつて『私』がいたからではなく――――――未零が澪の()であるから。

 

「……ふ、ふふ」

 

 そんな自分の考えに、笑みが零れた。以前の自分、自身にできないことはあれど、澪にできないことはない――――――それがどうだ。これはまた、随分な成長じゃないかと本当の意味で自画自賛をし、

 

「はっ!!」

 

「ッ!!」

 

 渾身の【枝剣(アナフ)】で『十香』を打ち払い、距離を取る。

 十二枚羽を羽ばたかせる未零に対し、その全身が武器でもある『十香』は白黒の地面へ強引に踏み止まる。

 距離にして五十とない。彼女ならば一瞬で零の距離を作り出す程度の隙間。だが、彼女は踏み止まった自らの足、踵を地面に叩き付けた(・・・・・・・・・・)

 巨大な王座。白黒の景色に鎮座する、不遜な世界を破壊する王の玉座。『十香』の身の丈を超え、十の剣すら比較にならぬほどの大きさ。

 

 知っているとも。ああ、その存在こそ知らぬはずがない。『夜刀神十香』が、天使〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が持ち得る究極の一。破壊の意味そのもの。万物を破砕せしめる最終奥義――――――【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】。

 

 『十香』であるならば、扱えぬはずはない。物質の頂点を極めた剣の極地と彼女の極地。相容れこそすれど、相容れぬことはありえない。たとえ主が畜生に堕ちようと、天使は必ず主に従う。例外は、その主が二人いる場合のみ(・・・・・・・・)

 

 

「――――――――」

『――――――――』

 

 

 今こそ、その例外を返上しよう。心を一つに。思考を重ね。極地を超え、未零と澪は〝最強〟と相対する。

 

 黄金の剣、その白銀の刀身に鞘たる玉座が収束する。やがてそれは、一振の長剣を形作る。

 剣と呼ぶには、あまりに長大。

 剣と呼ぶには、あまりに不動。

 しかし、難なく刃を振り上げた『十香』は、

 

 

「――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――ッ!!」

 

 

 忘れ去られた貴き名に代わり、周囲の空間ごと、未零()を両断する咆哮(嘆き)と共に巨大な剣を振り下ろした。

 

 

 

 ――――――そう。或いは『十香』の選択一つで、決着は変わっていたかもしれない。

 今の『十香』が放つ【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】は、物質の頂点に位置する〈鏖殺公(サンダルフォン)〉と十の精霊の頂点に位置する『十香』が合わさり、形なきものさえ塵と還す権能を得た。

 或いは、未零()さえも滅ぼし得る。

 或いは、精霊の力を束ねた士道の見せた奇跡の天使(魔王)にすら比類する。

 或いは――――――その隣に、あのとき(・・・・)と同じように、彼女の愛する人がいたならば、届き得る奇跡だったのかもしれない。

 

 

「――――――虚しいんだよね、悲しいんだよね」

 

 

 だから未零は、その感情を抱いた。二亜の気持ちがわかる。恐らくは、あちら(・・・)の折紙も同じであった。いいや、あの天使全ての主たちが同じであったのかもしれない。

 

 極限の破壊を眼前に、未零はただ途方もない憐憫を覚えてしまったのだ。

 

 

「……だから『〝私〟』が、殺して(・・・)あげる」

 

 

 その狂獣は虚しく、悲しく、憐れだった。これほどの力を持ち、世界さえ壊す力を持ち――――――原初の罪と変わらぬ想いを抱いた。いや、彼女は澪以上であったかもしれない。彼女は、取り戻す術を浮かべられなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)

 たとえ偽りでも。たとえ叶うことのない虚構だとしても。救いのある選択肢を浮かべる前に、絶望を超え『獣』へ至った。

 天使は想いを映し、心を広げ、進化していく。放たれる力は意志そのもの。『十香』は確かに、根底にある心を映し、技を放った。だけどそれは悲しいまでに、だけどそれは虚しいほどに――――――目的も意味も見失った、憐れな心の形だった。

 

 

「〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉――――――」

 

 

 その一刀(想い)を、未零()は重ねた心を両手に載せ――――――

 

 

「――――【蕾砲(ヘネツ)】」

 

 

 極死の極光を解き放ち、迎え撃つ。

 

 

 『死』を齎す光が花開き――――――悲しき覇道を、殺した(・・・)

 

 

 

 

 

 

「――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 迫る。逼る。なおも、迫り来る。自らの最強最後を殺され(・・・)、なお彼女は強靭な脚力の一飛びで未零へと剣を振りかざす。

 長大に過ぎる剣を、未だ消えぬ怒り(絶望)が残る瞳で未零を捉え、振り下ろす。

 殺して(ころ)して(ころ)し尽くす。死んで()んで()に尽くせ。言葉はなく、彼女はきっとそうしてきた。そうするしかなかった。そしてこれからも、そうするのだろう。

 ここで滅してしまえば、彼女の苦しみは終わる。彼女の悲しみは終わる。だけど、だけど、だけど――――――鮮血が、舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァ……?」

 

「…………」

 

 困惑する『十香』へ、未零は優しく微笑みかける。

巨大な刀身を左手で受け止め(・・・・・・・・・・・・・)、白い肌に滴る血、鋭い痛みの全てを無視して、右手を突き出す(・・・・・・・)

 それは『十香』の美しい貌――――――絶望に堕ちて、それでも暴力的なまでに美しい面を超え、煤けた髪を靡かせ、十二枚の翼が輝きを増し、そして――――――――

 

 

 

「――――〈   (アイン)〉」

 

 

 

 『無』の光が、境界の世界に満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ」

 

 

 ――――――あまりに長い、感銘の息だった。

 

「……ぁ、ァァ、あ……」

 

 消え入るような掠れ声は、彼女の涙の代わりとも思えた。

 長大な剣が崩れ去り、金色の剣を伝い、『爪』へと帰順する。十の剣を縛り付けていた『法』は、既に未零の手で解かれている。そのことさえきっと『十香』は、未零に背を向けている彼女は気づいていない。

 境界に開かれた『扉』の光、扉の先の匂い(・・・・・・)に、微かに残る感覚の全てを捉えられたように。

 

「……往くといい。あなたを求める世界へ(・・・・・・・・・・)

 

 その先に何が待つのか。あの人(・・・)が何を求めているのか。『十香』は知る由もない。

 だけど――――――未零は、生きていてほしいと願う者だから。

 誰かの笑顔のために、誰かの願いを叶える精霊だから。

 

 

「さようなら、十香。全部が終わったら――――――君を救う強情で意地っ張りな人(・・・・・・・・・・)に、よろしく伝えてね」

 

 

 必ず、救いはあると。

 届くことのない言葉と、伝わることのない微笑み。きっと、それでいいのだと未零は笑い――――――長い夢の終わりを求める『夜刀神十香』の旅立ちを、見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

『……無茶をする』

 

 モノクロの世界に開いた『扉』を両手をかざして塞いでいると、ふとそんな声が未零の中から聞こえてきた。

 集中を途切れさせる程ではないそれに、未零は顔を苦笑で崩して言葉を返す。

 

「どの辺りが、です?」

 

『……何もかも、だよ。『私』に霊力の制御を託して何をするかと思えば、【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】を素手で受け止めて、〈   (アイン)〉で強引に道を作るとはね』

 

 どちらかと言えば、令音の顔が浮かび上がりそうな苦言だった。未零と澪は心を通わせた、が……実のところ、最後の攻防は未零の独断、アドリブだった。

 相談の猶予はなしの一発勝負。衝撃を放出し尽くした【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】の斬撃といえど、一歩間違えれば腕ごと持っていかれていた。とはいえ、霊力の塊を出し尽くした『十香』が、その身一つで立ち向かってくることは澪とてわかっていたはず。後にも先にも、あのやり方以外はありえなかったと未零は考えている。

 

「私の〈擬象聖堂(アイン・ソフ・アウル)〉の特性を瞬時に見抜くような相手に、あれ以上は付き合ってられないです」

 

 〈擬象聖堂(アイン・ソフ・アウル)〉の特性、空間に対する『死』の事象を『十香』はいの一番に見抜いていた。だからこそ、物理的な波状攻撃からの時間加速(・・・・)による奇襲を選択し、見事速度で勝る未零を切り伏せてみせたのだ。

 その『夜刀神十香』を相手に、手加減など悠長な行為をしなければならないなど、一体何の冗談だと未零は物申す思いだった。

 

「だから、【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】を殺して、空間の修復を終えた時点で私にはあの択しかなかった――――――あなたの霊装の防御力、〝私〟が知らないはずがないでしょう」

 

 信用していた。崇宮澪が持つ始原の霊力、天使、霊装。それら全てを余すことなく出し尽くし、その上で未零は澪の全てに信頼を置いていた。最後の息を合わせられると思っていたし、どこまででも合わせてくれると思っていた――――――〝私〟に出来て、『私』に出来ないことなどないのだから。

 

『……信頼されていることに、悪い気はしないがね』

 

 それこそ、仕方がない(・・・・・)令音()がクスリと笑みを零す。目を閉じれば、同時に頬をかいた困り顔が見えるようだけれど。

 〈   (アイン)〉によって開かれた『扉』も、時期に修復が終わりそうだとほぅ、と未零は息を吐いた。

 

『……彼女は』

 

「……辿り着いた、と思いたいですけれど。これだけ〝壁〟を破壊して、無理やりにでも『十香』の感覚を引き寄せてもらいましたし」

 

 むしろ、そうであってくれなければ壊した価値がなくなる。こちら側に寄っていた『十香』の意識を逸らすためには、確実に向こう側の世界へと繋がる〝道〟を作り出し、さらに『声』の側から『十香』を導いてもらうことこそ最良――――――もっとも『十香』が感じたものは、『声』以上に()の存在があったのであろうけれど。

 

「……まあ、二度目はもう引き受けたくありませんし、あの人(・・・)を信じますよ。今度は許してもらえそうにはありませんしね」

 

『許せないし、許さないよ?』

 

「………………」

 

 温情とかはなさそうな上に、含みをもたせられて似合わぬ冷や汗が背中を伝った。

 

『その『声』にも事情があるだろうし、『私』としては理解は示す。けれど、君を巻き込んだことに対しては良い顔はできない――――――そう、『私』が考えることは『声』にもわかるはずだけれど』

 

「……どうでしょうね」

 

 それは肯定できず、眉根を下げてしまう未零がいた。その『声』は、確かに澪の考えをトレース(・・・・)出来るだろう。が――――――未零という存在がどういうものか(・・・・・・・)までは、経験していない(・・・・・・・)のではないかと思える。

 ただ、認知をすれば愛情を持つことに変わりはない。どちらにしろ、未零と澪にはわからぬことだが。

 

今はまだ(・・・・)

 

「……私は、どちらにせよ得るもの(・・・・)はありました」

 

『……ほう。それはなんだい?』

 

 独立した思考であるが故に、澪は未零が言う〝報酬〟に当たるものを見い出せず、小首を傾げて――あくまで雰囲気だが――不思議そうな声を発した。

 未零は不敵に微笑み、指を一つ唇に当てる――――――あの瞬間、『声』と繋がったのは『十香』だけではない。

 

 

「――――――まだ、秘密」

 

 

 ――――――空間の『扉』が塞がった。

 腕を下ろし、モノクロの世界を解放する。晴れていく境界の世界は、正しいものへと還る。あるべき姿へ、あるべき役割へ――――――これだけの壁を〝消失〟させたのだから、すぐに元通りとはいかないだろう。

 

『……ところで、最後に『十香』へ何かを伝えていたね』

 

 先の追求を諦めたのか、深追いはせず令音が問いを投げかける。

 ああ、と声を返して未零は続けた。

 

 

「……〈刻々帝(ザフキエル)〉の霊力だけ、妙に弱かった(・・・・)のはお姉ちゃんも気付いてたよね?」

 

『っ……まさか』

 

 

 そう。その〝まさか〟だと、彼女(・・)は得意げに返すのであろうさ、とカラカラ笑みを浮かべた。

 澪が生み出した士道に封印させるための霊力を持つ精霊たち。それらの天使を取り込み、使役した『十香』。だが、漠然とした違和感を『十香』は取りこぼしてしまったに違いない。

 

 天使〈刻々帝(ザフキエル)〉。彼の天使の霊力だけが、半分だけ削り取られたように(・・・・・・・・・・・・・)、ごっそりと失われていた。

 

 未零がそのことに気がついたのは、『十香』が〈刻々帝(ザフキエル)〉を宿した剣を握った瞬間のこと。二重の驚きで動揺してしまったものだが、しかしあの剣に込められた霊力が正常であったのなら、未零は今頃この世にいないだろう。

 

 嗚呼、嗚呼。まったく、つくづくと思い知らされ、尽くを凌駕していく人。

 

 

「……世界の一つが違っていても、強かで賢しくて諦めが悪くて――――――本当に、綺麗な人」

 

 

 ――――――全ての意味で、未零は彼女に勝てないということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 瞬間、世界が鼓動した。

 

『……!!』

 

 万由里の〈滅殺皇(シェキナー)〉がその役割を果たし、『傷』による破壊が現れなくなってから十数分。士道と精霊たち全員が固唾を呑んで待ち構えていた真正面に、驚異的な空間の振動が発生した。

 全員が目を見開く。しかし、そこに恐怖はない。それが何なのかを理解しているから。それが誰なのか(・・・・)、士道たちは教えられずともわかっていたから。

 

 眩い極光。現世への回帰を促す十二枚の白き翼。極大なる十二枚羽の中心地、そこに無色の宝石と見紛う霊結晶(セフィラ)が現れ、段々と人の形を持つシルエットを描いていく。

 少女が世界へ顕現するのに、そう時間はかからなかった。身に纏いしは極光が如き幻想なるドレス。その威容は、かつて過去となった未来(・・・・・・・・)で目撃した崇宮澪と同じもの。だが、星を頂く光臨の役割を担うようにその十二枚羽が羽ばたいている。そこから、士道は少女の正体を察する。

 あまりにも美しく。数多の神話に数えられる『神』を思わせる少女。しかし、士道はその威容に圧倒されることなく、家族を迎え入れる時と同じ微笑みで、己の唇を開いた。

 

 

「――――おかえり、未零、澪」

 

「――――ただいま、士道、みんな」

 

 

 静かな、そして確かな帰参の証を立てて――――――精霊たちが色めき立ったのは、次の瞬間だった。

 全員が一斉に未零()へと駆け寄り――空中でコケる器用な二亜もいたりしたが――また一斉に声を張り上げた。

 

「むん。よくぞ無事に帰った。褒めて遣わすのじゃ」

 

「安堵。そして、不安をかき消す素敵な姿です。これには涙目の耶倶矢も感動で咽び泣くことでしょう」

 

「そのネタはもういいわ! ま、まあ、無事だったのはいいことだし、喜んでるし!」

 

『あはー、耶倶矢ちゃんがすごい安易なツンデレちゃんになってるねぇん』

 

「安易ってなに!?」

 

 次から次へと言葉が繰り出されるものだから、当事者の未零が一番に困り顔で頬をかいている姿を見て、どちらの気持ちも理解ができる士道は苦笑を浮かべて声をかけた。

 

「ほらみんな、一斉に喋りかけたら未零と澪が困っちまうだろ」

 

「はっ! それならこの誘宵美九が代表して未零さんと澪さんにハグを! これぞ一石三鳥――――――」

 

「ちょうどよかった。私もハグをしたい気分だった」

 

「あー! 折紙さんやめてくださいそれはハグじゃなくてヘッドロックですぅぅぅぅぅ!! ……あ、でも折紙さんのふくよかな部分に当たってこれはこれで……」

 

「聞いてるようで聞いてねぇな……」

 

 軽いプロレスに美九が新たな扉を開きかけているのはともかくとして、士道とて気持ちは理解できる。自身の経歴から相変わらずどちらも(・・・・)という立場にはなってしまうのだけれど。

 すると、喜ばしい雰囲気の中で十香だけが虚空を見上げ、何かを感じ取るように――――――己であって己でない者(・・・・・・・・・・)の存在を、一人感じ取っていたように。

 

「未零、あの者は……」

 

「大丈夫」

 

 しかし、そんな十香の憂いを未零は強く否定し、同時に首肯した。未零にしては珍しい断定したものに十香が面食らっている中、少女は優しげに目を伏せて続ける。

 

 

「……あなたと同じだよ、十香(・・)。あの子を――――――彼女を肯定する人と、ちゃんと出会えるから」

 

 

 だから、大丈夫だと。別の世界の自分(・・・・・・・)を信じていいのだと、未零は十香を肯定(・・)する。

 祈りと予感と、祝福と。少女からの言霊は、

 

 

「――――――そうか。ならば、よかった(・・・・)

 

 

 紫紺の瞳を、迷いのない輝きに戻すことができたのだろう。

 十香の中で何があったのか。何を思ったのか。彼女(・・)の存在は十香にとってどう映ったのか。それは士道にもわからないことだが――――――『この世界』の十香は、また別の道を辿るということだけは確信できた。

 

「……あの」

 

 と、穏やかに言葉を交わす中、四糸乃が控えめにふわりと〈氷結傀儡(ザドキエル)〉から未零の傍に降り立ち、その左手に触れた(・・・・・・・・)

 その動作自体は、何ら激しいものではない。触れた四糸乃の性格を考えても当然であり――――――だからこそ、触れられた瞬間、僅かに眉尻を下げた未零の仕草は、士道にとっては意外すぎるほどに目立つものだった。

 

「……四糸乃?」

 

「手、怪我してますよね――――――七罪さんが、教えてくれました」

 

「え……」

 

「うぇ……」

 

 驚いたような声音の未零と、別の意味で驚く七罪の声が重なる。前者は見抜かれるとは思っていなかったからか、後者単純に性格の話なのだろう。

 まずは七罪に向いた視線だが、多少の後退を挟みながらも遠慮がちな声にして返してくる。

 

「……何か、動きがちょっとおかしかったから。見た目は何もないけど、だから変に見えたって言うか……多分、怪我してるのはその手だけじゃないでしょ」

 

 遠慮こそあるが、指摘自体は半ば確信を持つものだ。士道には普段通りにしか見えず、精霊たちと顔を見合わせた。

 未零の表情の起伏、その低さより七罪の観察眼が上回ったということ。皆の視線と、そしてもう一人が咎めるように鋭く声を飛ばした。

 

「諦めなさい。あんた、隠し事できないんだから」

 

「〈囁告篇帙(ラジエル)〉からは逃げられても、なっつんからは逃げられなかったみたいだねぇ」

 

 万由里と、繋ぐように二亜が荘厳な本を閉じて促すように視線を流す。

 精霊たちと士道、全員からの視線――――十中八九〈フラクシナス〉からも――を受けて、未零は右指に髪を絡めながら声を発する。

 

「……わかってますって。いい機会ですし、荒療治でも受けたものは活用します……コホン」

 

 わざとらしく、恐らくは中にいる澪との会話を打ち切るように咳払いをした未零。だが、なんと言えばいいのか……その覆った口元と恥ずかしげに顔を逸らす仕草が、妙に色っぽいというか、士道としてはむず痒くなってしまうというか――――――

 

「……士道」

 

「お、おう」

 

「…………」

 

 名前を呼ばれ、小さく手招きをされる。壮大な翼を持った『天使』が人を呼び込む仕草としては、大変に庶民的だった。士道としては、それ以上に自分の胸の高鳴りが不思議だったけれど――――――久方ぶり、というほどではない。

 いつだって、『この世界』になってからも、士道の生活は刺激的だった。士道の心は、変わることはない。狂三のことが好きで、精霊たちのことが好きで――――――胸の高鳴りは、それこそ確信だったのだ。

 

 

「ん……」

 

「――――――!!」

 

 

 近づいて、その口づけを。幾度となく行われてきた儀式を。幾度となく繰り返された快感を。飽きることのない、愛の祝福を。

 

「わぉ!!」

 

「うっひゃー……」

 

「…………」

 

 周りの反応はそれぞれだったが、如何な士道といえどわかるのはそこまで。全て、目の前で閉じられた瞼に。この世の芸術を超えた端正な貌に。愛おしいキスの味に。

 十二枚の翼が、その役割を終えて未零の内側へと還っていく。祝福のように舞い散る白い羽。やがて、士道の中に温かな霊力が流れ込むと共に、未零の纏う霊装の光が空を舞い、解けて消えていく中――――――未零の背、つまりは士道が未零を見るさらに先に、構成された粒子と宝石が一人の精霊を形作った。

 

「――――ふふっ。お熱いね、士道」

 

「…………」

 

焚き付けた(・・・・・)やつが言うことか、という半目の視線も何処吹く風。引き継ぐように幻想の色を纏う澪は、微笑ましげに士道を未零を見守っていた。

 長い、とても長い口づけだった。唇を離し、全ての霊力を封印した士道の身体に、未零が寄りかかる。甘えるように、或いは美しすぎる裸体を士道の身体で守るように。昔なら、動揺して仕方がなかっただろうけど、今の士道は未零を落とさぬようにしっかりと抱き返した。

 

 

「……ちょっと頑張ったから、そのご褒美。もらっちゃいました」

 

 

 いつから、こんな甘え上手になったのだろうか。囁くような声で、自身の権利を主張する未零に、士道は周りの視線など気にもせず――――――もう一度、キスをした。

 

「…………一回で、いいのか?」

 

「……もう、二回もしちゃってるじゃないですか」

 

「欲張りが足りないぜ、未零」

 

 何回でも、してやろう。不敵に未零を口説く士道に少女は、何かを求めることが不器用な少女は――――――

 

 

「――――――努力するよ、これからね」

 

 

 これから咲き誇る花の笑みを、士道に思わせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「む……?」

 

 少し先を歩いていた十香が足を止める。訝しげな彼女の声音に問いの言葉を投げようとして、折紙もまた足と言葉を止めた。

 理由は、単純明快。

 

「……ぐ」

 

 何故か呻き、病室の扉に手をつき何かを葛藤する七罪の姿を見たからである。七罪が何を考えているか……なんて、それなりの付き合いになった折紙なら、というより折紙でなくともわかるというもの。

 

「何をしているのだ、七罪よ」

 

「ひゃぁっ!!」

 

 そんなに驚くことなのか、と聞くべき飛び上がり方を十香に声をかけれただけでした七罪が、手で心臓の辺りを抑えながらようやく折紙と十香が来ていることを認識した。

 

「あ……十香に折紙」

 

 何しに、までは繋がらなかった。折紙が持つ見舞いの花束を見れば、同一の目的なのは一目瞭然だった。

 

『……ところで、士道を血だらけにはしたくないので一旦離れてくれません?』

 

『吐きそうなくらいに辛いならもっと早く言ってくれよ!?』

 

 脳裏に思い起こされた光景のことを考えれば、結果として随分と平和的な見舞いになってくれて折紙もため息が下がる。無論、憤りや不満がないわけではないが、無事に帰ってきてくれたのなら強く言うつもりはなかった。今回は(・・・)、だが。

 なお、その相手役の士道は、折紙たちと共に来ていたところを強制検査だと令音に連行されていった。恐らく、その時に七罪とは入れ違いになったのだろう。

 

「うむ。……入らぬのか?」

 

 挨拶もそこそこ、切り出しはやはり十香から。

 

「え…………わ、私なんかの見舞いとか、逆に体調不良にならないかって。最悪の場合そのまま長期入院なんてことも……!」

 

 返しは普段通り、相変わらずの七罪だった。とはいえ、予測可能な返答に首を振ることこそ折紙の役目だった。

 

「彼女は思わない。あなたのことを歓迎する」

 

「……う、うん。わかってる……」

 

「ならいい。今日は一人で来たの?」

 

 だとしたら、そちらの方が珍しいと折紙と十香は首を小さく傾けた。来るならば、渋る七罪を連れてやってくる精霊の誰かがいると考えたからだ。事実、今朝方の七罪が不在でなければ折紙たちが誘うつもりではあった。

 すると、七罪は何やら両指をつんつんと合わせ言葉を濁す。

 

「あ、いや……実は、その――――――」

 

「な・つ・み、さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 気配を消して飛びかかる美九と、脱兎の如く十香の後ろに退避する七罪。どちらも、折紙が感心してしまうほどの攻防だった。もっとも、一瞬で体力を使い果たした七罪は十香にもたれ掛かりながらではあるが。持久力が課題か、と折紙の脳内で何故かトレーニングメニューが思い浮かび始めた。

 抱き締める予定だった両手が空振りし、美九が不満げに唇を尖らせる。

 

「あーん、二回も避けるだなんて酷いですよー。七罪さんのいけずぅ」

 

「さ……けるに、決まってるでしょぉ……」

 

「……何をしているのだ、美九よ」

 

 先の問いと言葉であるのとは裏腹に、わかりきった半目で美九を見遣る十香。彼女にしては珍しい表情は、美九の前科が何犯あるかを如実に物語っている。

 しかし、これで大体は予測できた。七罪は美九の襲来で見舞いのメンバーとはぐれ、先に来ていた折紙たちを入れ違いで追い越し、さらに追いかけてきた美九が合流、奇襲が二度目というところか。〈ラタトスク〉の地下施設は広く、言い得て妙ではあるが人が入れ違うのにそう苦労はしない。

 事実――――――

 

「おぉー、みっきーは本日も絶好調だねぇ」

 

「良きことか、とは口が裂けても言えぬがの」

 

「こんにちは、みなさん」

 

 気楽な二亜、神妙な六喰、丁寧な四糸乃。そして四糸乃の口ぶりから、今度は反対方向、つまり折紙たちの背に新たな影。

 

「会釈。こんにちは、そして合流です」

 

「くく、我が友の闇の儀式によくぞ集った、皆の衆よ!」

 

「……素直にお見舞いって言えないの」

 

 微笑する夕弦。気取った耶倶矢。困り顔で笑う万由里。

 

「全員、揃った」

 

「考えることは、皆同じだな!」

 

 そして、折紙と十香。〈ラタトスク〉のメンバーとして当然先にいるはずの琴里、加えて〝彼女〟を除けば、あの日のメンバー全員が時間を揃えたわけでもなく、偶然に同じ目的で居合わせた。それもかなりの入れ違いがあったであろう。

 奇妙な偶然に、折紙はらしくもなく感慨を覚え、不思議と言葉と笑みが零れた――――――それほどあの子を思っている気持ちは、誰もが同じなのだろうから。

 

「いやー、抜け駆けしてれーちゃんをあたし専属のセラピストに改めて勧誘しようかなー、って思ってたんだけどなぁ。……少年も一緒に」

 

「あー! ズルいですよ二亜さーん。未零さんは私専属の付き人的癒し人にスカウトする予定なんですからぁ。……だーりんも一緒ですぅ」

 

 後半は小声で付け加えられたものだが、聞き逃す人は一人としていない。

 

「や、何かおかしくない? ていうか、どうせ中身は未零の自由意志ないんじゃない……? あと士道を巻き込むとすごいの来ると思うけど」

 

「むん。当事者の性格を利用するのは目に余る行為じゃの」

 

「未零さんと士道さん、優しいですから……あまり、よくないと思います」

 

『……うぅ』

 

 中学組、果ては心優しい四糸乃にまで諭され、大人二人が押されて萎縮する光景は些か呆れと微笑ましさが溢れていた。そのうち、未零の勧誘には専用の条例が組まれる日が来るかもしれないと冗談半分で考える。

 ちなみに、士道に関しては既に組まれている、折紙の中で。

 

「そもそも、あいつは今私と大学に行ってるんだから、困らせるのは程々にね。まあ、勧誘を止めはしないけど」

 

「瞠目。大人の対応。さすがは夕弦の成分を受け継いだ万由里です。暗に無理だと思うけれど、という声が聞こえてきます」

 

「いや夕弦の言い方もおかしいし。ふふん、それに大人の成分っていったら私でしょ」

 

「嘲笑。ぷっ、嗤笑。大人(笑)の成分ですか。万由里に失礼というものです」

 

「新しい感じでバカにするバリエーション増やすなし!」

 

「……両方とも、私に失礼じゃない?」

 

 病院で騒ぐな、という注意も厳密には病院ではなく、これでは精霊全員で騒がしく押しかけてきたのと変わりはない。そう思う折紙だったが、これも未零は受け入れてしまうのだろうという思いも存在して、それは士道とて同じことで――――――

 

 

「折紙?」

 

「ん――――――なんでもない」

 

 

 ただ――――――恋と友情、どちらも前途多難であると思ったまで。

 けれど喜ばしく、そして清々しく。十香が目を丸くするほど穏やかな表情で、折紙は命の恩人から友になった人の病室を、真っ先にノックするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……なるほどね」

 

 そう息を吐き、ベッドの上で身体を起こした未零と手にした端末を見比べながら、もう一度大きく息を吐く。揺れる赤いツインテールと、どこか萎びたように見える飴の棒から彼女の心労が見て取れるようで、しかし当事者としてはどうにもならない未零は苦笑いで声を発した。

 

「……成功してます?」

 

「自分が一番わかってるでしょ――――――人並みの回復力にはなってるわ。それは、素直におめでとう」

 

 端末内のカルテを閉じたのだろう。テーブルの上に置き、頬杖を突いた琴里はとてもではないが祝っているようには見えない。それも、当然ではあると未零は受け入れていたが。

 未だ痛みの残る己の身体――――――正確には、残した(・・・)傷。見た目の応急処置は融合時に済ませていたが、それ以外は自然治癒に任せる(・・・・・・・・)形にしたのだ。

 無論、そんなことをすれば、虚弱体質の未零は数ヶ月ベッドに括り付けられることを避けられない。が、未零はそれなりの自由を保証された生活を送れている。その理由こそ、わざわざ傷を残した意味でもあったのだ。

 

「……確かに、あなたの体質は元々『澪』の願いが引き起こした矛盾。融合した澪、何よりあなたの意識が既に改められた今なら、こういう結果を引き起こすこともできたでしょうけれど……」

 

「わかってます。私だって、自分から死にに行ったりはしてませんよ。偶然に状況が重なったから、次のためにできることをしておきたかっただけです」

 

「次、なんてのはあまり考えさせないでほしいわねぇ……」

 

 そうは言うが、〝次〟があれば琴里は迷いなく対処をしてしまうのだろう。その優秀な司令官を平時で疲弊させないためにも、これからは気を遣う必要があるなと未零はフッと頬を緩めた。

 ――――――人並みの回復力。それを得るには、二つのことが必要だった。

 一つは単純な〝意識〟だ。存在矛盾を無くすことができる、即ち未零と澪の意志。今だからこそ(・・・・・・)、なのは言うまでもない。

 もう一つは、肉体意識の問題。そうだ(・・・)と定義し、思い込んだ肉体が単なる意識一つで改善するなら苦労はしない。だからこそ、自然な治りが正常である(・・・・・)と認識させる必要があった――――――トリガーとなるのは単純な話、未零が瀕死に近い負傷をするというだけだったのだ。たとえば、天使に切り裂かれる(・・・・・・・・・)、とか。もっというのなら、澪との融合という特別な力も。

 とにかく、平時では叶わない状況が偶然重なり、未零は〝荒療治〟という体で虚弱体質の改善に取り組んだ、という後日結果が残された。いつかはやらねばならなかったことだが、この平和な世界、こんなものが巡って来る方がおかしいなどと考えながら未零は言葉を継ぐ。

 

「……まあ、そうそう次はないです。今回の一件も、私たちの世界というよりは、私たちの世界と似た世界(・・・・)の問題でしょうから」

 

「そうだといいわね。詳しいことは、あなたと令音しかわからないことだけど……」

 

 琴里たちからすれば、現場対処を頼まれているうちに現場的な被害は――折紙が隊長殿の猛烈な愚痴を受け止めたとは聞いたけれど――抑えられ、何もなかったといえる。

 こちら側には何も起こらない。厳密には、起こさせず、起こしてもならなかった。少なくとも、『十香』を似て非なる世界へ送り届けるまでは。

 

「……大まかには、二亜から?」

 

「ええ。あなたを通して〈囁告篇帙(ラジエル)〉から『十香』の一部始終はね。……並行世界、か」

 

 ふと、眉根を下げた琴里が暗い顔で呟く。

 『夜刀神十香』のこと。かの世界にて引き起こされた悲劇のこと。()を失った世界。考えることは様々だと未零にもわかる。

 だからこそ、未零たちには言えることがある。

 

 

「……私たちの世界にも、そういう〝可能性〟はあったのでしょう。事実、私がそうなのですから。でも――――――」

 

 

それでも(・・・・)

 

 

「――――――この世界を創った(・・・)神様ってやつは、そんな悲劇をクソッタレ(・・・・・)だと蹴り飛ばす人達だった、でしょ?」

 

 

 故に、悲劇は終わりを告げた。

 言葉を切り、琴里と笑い合う。そう、この世界でこれ以上の悲劇はなく、これ以上は幸せな物語。ありえるはずのなかったハッピーエンドの世界。

 仕方がないのではなく、当たり前のことなのだ――――――身勝手な神様が世界を壊し定義したものを、世界で一番物騒な愛を超えることなど、そう簡単にできはしないのだから。

 

「大丈夫よね、『十香』は」

 

「……ええ。あの人(・・・)が信じたあなた方(・・・・)なら、必ず」

 

 そして、いつも良いところを持っていく大胆不敵で唯我独尊、難攻不落な女王(・・)の手で、必ず。

 できることはした。あの人(・・・)の願いは叶えた。ならば、未零の領分はここまでだ。未零は主役(ヒーロー)を引き立てる役回り。相応しい人たちへ、知られることなく託す。それだけで、十分だ。

 

「そう。――――――でも、その『声』は結局、どうして『十香』を自分たちの世界へ呼び込んだのかしら」

 

 解せない最後の疑問。あごに指を当て、不思議そうに唸る琴里。

 『十香』を救う――――――それだけなら、こんなに苦労することはない。如何に『十香』の力が強大といえども、『この世界』の精霊は今だ健在であり、『十香』一人なら幾らでも救いようはある。その『声』の目的が『十香』を救うことだけであったならば、今回のような苦労はしなかったであろうことは明白だ。

 『声』の目的。今は(・・)繋がりが薄い壁の向こう側ということもあり、〈囁告篇帙(ラジエル)〉の知識に深く刻まれてはいなかったのだろう。

 

「……『十香』がどうしても必要だった、のでしょう。一方的ではなく、世界の壁を超え、尚且つ強固に繋げることができた〝道〟を辿り、自らの世界へ帰還できるだけの力を得た『夜刀神十香』が」

 

 故に道標が必要であり、修正が必要だったということだ。数ある可能性の中で、極めて近く、限りなく遠い世界。繋がる可能性がある世界。それでして、限定的な存在。

 『声』の目的は――――――『世界の意志』が求めたものは、

 

 

「……きっと、帰してあげたかったんだ。――――――本当に、仕方のない人」

 

 

 この世界にはない、可能性の帰還(・・・・・・)

 彼の世界で、〝私〟のもう一つの望みは果たされなかったのだろう。けれど、それは決して――――――救いがなかったわけでは、ないと思う。

 

「………………、そう、ね。本当に、仕方ないみたいね」

 

 未零の言葉から、表情から、幾らかの察しはついたのか。琴里は含みを持たせながらも、追求をすることはしなかった。

 そうして、よし、と立ち上がった琴里は厳しい司令官の顔に戻る。自分たちの日常へ、少しずつ帰っていくために。

 

「それじゃあ、しっかり養生してちょうだい。回復力が人並みになったといっても、あなたの怪我は本来なら医療用顕現装置(メディカルリアライザ)を使わなきゃいけないようなものなんだから」

 

「……ええ。個人的な用事には、まだ少し時間があると思いますので、そうさせてもらいますよ」

 

「…………その言い方」

 

 嫌な予感からか、未零から見て大分の渋面を琴里は披露する。慣れてはいるが、慣れたくはない。そんな顔だった。

 

「今度はちゃんと相談してよね。今回の件は仕方ないけど、次はないってみんな口を揃えてるんだから」

 

 それでも、尊重はしてくれる優しさを見せ、未零はありがたく好意を受け取るのだ。

 

「……わかってます。次は、心配のない人助け(・・・)ですよ」

 

「……はぁ。ほんと、わかってるんだか不安だわ」

 

 じゃあね、と手を振って病室を後にする琴里を手を振り返して見送る。

 もちろん、嘘は言っていない。

 

 

「――――――嘘は言わずとも、本当のことを仰らないのは、よくないところが誰かに似てしまいましたわねぇ」

 

 

 〝彼女〟の言う通り、未零の真意を見せたわけではないけれど。

 〝影〟が人の形を造り、〝影〟は少女そのもの。射干玉の髪を揺らし、紅の瞳で未零を射抜き――――――時崎狂三は、音もなくそこに存在した。

 いつか見た、しかしあの頃とは何もかもが違う――――――いつも、彼女とはそうである気がして、抑え切れぬ微笑みと共に未零は唇を離した。

 

「……さて、誰のことでしょう。あなたでしょうか、我が女王?」

 

「あら、あら。懐かしいですわね。わたくしではなく、澪さんに決まっていますでしょう。――――――それで、あなたにはまだやり残したことがあると?」

 

 議題は直通、未零の目的(・・・・・)だと狂三は琴里が座っていた椅子に、これまた優雅な仕草で座り、こちらと対面する。未零しかいないというのに、無機質な椅子すら上品に見える令嬢のような姿に見惚れながらも、未零は言葉を返す。

 

「……はい。私個人の目的(・・・・・・)があります。というより、出来ました」

 

 床に伏せる、は些か過剰な表現だが、似たような状況でも未零は悪びれもなく受け答える。

 生憎と、この身は弱く、脆く、我欲というものは薄く――――――それでも、望むものは人一倍押し通したくなる厄介な代物だ。それを理解し、体感もしている狂三は、深々とため息を吐いた。

 

「まったく。自分自身と仰いながら、その実他者のための望み。自覚を持つということは、決して無条件に祝福できるものではありませんわね」

 

「……そうすることが、〝私〟の願いに繋がるものですから――――――ごめんね。きっとまた、〝私〟は同じことをする。自分に出来ることをする」

 

 未零はそっと手を伸ばし、狂三の左眼にかかる髪を手に乗せる。そこには、精霊の証(・・・・)である金色の左眼が、正しい時を奏でていた。

 時崎狂三にあるべきものであり、少女にあってはならないもの。封印されるべきもの。精霊・時崎狂三は澪を超えたイレギュラー(・・・・・・)として『この世界』にある。

 士道の霊力封印能力は、澪の想定によって造られた機能だ。そこに、澪の想像を超える、原初の精霊さえも上回る力を得て、さらには想定されていた繋がりなど無視してしまうほどの関係を築き上げた。

 そんな狂三の力を封印など、そう簡単にできるものではない。士道と狂三は、もはや一心同体。どちらかが動けば、必ず力は動く。今回のように【0の弾(エフェス)】を扱うようなことがあれば、ゆっくりと馴染ませていた封印は再び緩んでしまう――――――もっとも、士道と狂三が封印を望むかと言われれば、そうではないのであろう。

 

 

「構いませんわ、構いませんわ。わたくしたちもまた、自分自身のために、あなた方が生きる世界を創ったのですから。――――――お好きになさいな。わたくしが生き、あなたが生きる。それが許されることこそ、『この世界』の意味ですわ」

 

 

 二人は未だ、満足などしていない(・・・・・・・・・)。『この世界』の先、約束の果て。完膚無きまでのハッピーエンド。その先でようやく、二人は力を使うことがなくなる。そんな予感があった。

 なんと我が儘なことか。なんと身勝手な神様か――――――そんな二人に惚れ込んだ未零たちは、もう手遅れということなのだろう。

 包み込むように、肯定を示し、未零の手をその華奢な手で、世界を創り変えた手で触れる。

 

「ですが、未零のその顔を見ることが出来たのなら――――――」

 

 手を伝い、未零の頬に手を伸ばす。触れる。愛おしく、優しい少女の手。それが触れる、触れることがおこがましいとは思わない。

 だって、未零は見つけた(・・・・)から。自らの意味を。時崎狂三は笑っている(・・・・・・・・・・)。その笑顔が、未零の存在があるからというのなら――――――

 

 

「――――――世界を一つ、ぶち壊して差し上げた〝価値〟がありましたわ」

 

 

 村雨未零は自分を――――――狂三の友の笑顔を、受け入れていけるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……さ、士道。『あーん』です」

 

「あ、ああ」

 

 世間一般、男子高校生が可愛い女の子から『あーん』という素晴らしいハイパームテキなシチュエーションのアプローチを受け取って、それでリアクションをしない人などまずいない。一般論とは、相対数が多い故に一般論と呼ばれるのである。

 同時に、経験豊富といえる――幾らかの風評被害を含む――士道とて、その一般論には大いに同意する。たとえば、目の前で天使のように愛らしい貌を向ける少女が、自分に向かって『あーん』をしようものなら、男子たるもの据え膳食わぬは男の恥というか。無事口に含めた唐揚げはとても美味だというか。

 嬉しい。大変に嬉しいのだが。

 

「……はい。では次は――――――」

 

「待て待て待て、ちょっと待て」

 

 これがひたすらに続き、もはや士道が手を動かすまでもないというのはさすがに問題ではないかと、動かさない手で静止を促す。

 

「……?」

 

「いや、さも『どうかしましたか?』みたいな顔は可愛いんだが、俺は要介護が必要な怪我はしてないぞ」

 

 むしろ、相手方の未零が病み上がりの状態だろうに。

 

「……嫌です?」

 

「嫌じゃない」

 

 小首を傾げたそれには即答を返す。すると、ふむとあごに手を当てた未零が、令音を思わせる穏やかな説得力を込めた声音で声を発した。

 

「……なら、問題はないですね。あなたは私に『あーん』されて嬉しい。私はあなたの笑顔が見れて嬉しい。とても健全で健康的で建設的な関係じゃあないですか」

 

「そうじゃなくてだな……」

 

 その声音は素晴らしいものだが、いくらなんでもそれは通らないと士道は頭を抱える。素直に士道へ望みを言ってくれるようになったかと思えば、素直すぎて奉仕の精神が恐ろしく滲み出ている。ここで幾らかの説得を試みなければ、誰かしら駄目人間(犠牲者)が出てもおかしくはない。

 

「あのな、未零。デートっていうのは、一方的に相手に尽くすだけじゃなくて……」

 

「ええ、知ってますよ。見てましたし」

 

「じゃなんでこうなる!?」

 

 叫ばざるを得なかった。今日は人気が少ない高台の公園であったことが救いか。

 

「……つい?」

 

「〝つい〟で済ますなよ! おまえと狂三は〝つい〟を言っておけば許されると思ってるだろ!」

 

 断っておくが、お茶目をして〝つい〟で許されるのは貌の良い美少女だけである。……二人は思いっきり条件を満たしていて、反論としては0点だった。

 士道の荒声にくすくすと笑う未零を見て、やはりからかっていたのかと思いの外お茶目な少女に呆れと笑みを返し、士道はようやく自身の箸を手に取り弁当箱に詰め込まれたいっぱいの料理をひとつまみ。それを未零の方へと差し出した。

 

「ほら、未零も」

 

「……ん」

 

 これまた思いの外――――というほど、未零はひねくれてはいないか。士道の取った卵焼きを口の中へしまい込み、自分自身で作った料理の味を味を噛み締めるようにゆっくりと咀嚼していく。早く、それでいて味わう十香とは別に、のんびりと味わう未零の姿も士道には嬉しいものだった。

 

「……けど、よかったのか。デート(・・・)の場所がここで」

 

 未零が幾らか食を進め、しっかり飲み込んだことを確認してから、士道はふと気になっていたことを問うた。

 そう、これはデート。物騒なことなど何一つない、未零とのデート。未零から望んだデート(・・・・・・・・・・)だ。しかし、意外な、と言っていいものか。未零が選んだのは未零自ら弁当を作り、近くの公園で時間を過ごすこと。

 街を巡るわけでもなく、遠出をするわけでもなく、店を予約して……そういったものではなく、未零はわざわざここを選んだ。士道は、その理由をまだ聞いていなかったのだ。

 すると未零は箸を置き、唇に小さく笑みを描き、言う。

 

「うん。あなたとなら、いいと思える。それに――――――」

 

「それに?」

 

 一瞬、逡巡するように言葉を呑み込もうとした未零が、グッとそれを堪えるように胸に手を当て、白い頬をほんのりと赤く染めた。

 

 

「これからも、士道とデートがしたいから」

 

 

 今は、ここがいいと。次は、別の場所をと。

 未零の言葉で、未零の意志で。消え入りそうなくらい小さいけれど、ちゃんと求めるように。

 

 

「ああ。どこへだって連れていってやるさ」

 

 

 士道の言葉で、士道の意志で。力強く受け止める。好きな女の子の好意を、士道は逃げずに受け入れる。

 皆と共に生きる『この世界』で、デートを続ける。それが、五河士道の選んだ最高最善の道なのだから。

 村雨未零のその笑顔は、五河士道にとって最高の報酬だ。

 

 

 

 

「……けれど、次のデートは少し先になるかもですね。行くところがありますから」

 

「ん? 何か遠出の予定でもあるのか?」

 

 そういう話は聞いていないし、比較的短かったとはいえ入院期間でも話題には上がっていなかったはずだが。と、士道が首を傾げると、未零は誰かさんに似た悪戯娘の笑みを携え、声を発した。

 

 

 

「……ええ、ええ――――――少々と、別の世界まで(・・・・・・)

 

「………………は?」

 

 

 

 

 




ここからは補足とか諸々。

十二枚羽は澪単独より上とかではなく、単純に分散した精霊たちの天使の代用として未零の霊結晶の特殊能力を組み合わせてブーストすることで、あくまで霊力分散前のオリジナルに等しい霊力を未零と共に振るう。という感じですね。ぶっちゃけ天使分散させて火力落ちてるとは思えないですけれども。
以前までだと『私』という定義の関係で叶わなかったです。あくまで澪と未零で別れたからこその荒業。ちなみに未零メインですが普通にメイン澪バージョンも存在します。自由ですね。

澪の死への願いと澪を滅ぼせる自分という矛盾の祈りによって生まれたこの子は、だからこそ澪の力を澪と共に振るうことが出来る唯一無二の分霊です。本人も言っていますが、他の子と比べて武闘派からは離れているのが自虐ネタ。ちゃうねん、他の子が色々と万能すぎるねん。
そういえば未零が正式な〈万象聖堂〉を使うのは初めてでしたね。お気づきかとは思いますが、あの撃ち合いは澪の力を取り込んだ十香戦の対比となっています。この作品、十香編を省いたのを口実に【最後の剣】を好き放題するのが趣味みたいなところあります。
総評としては、楽しかったです。男はこういう厨二ロマンバトルが好きなのかも知れません。のんびり構成で積み重ねていたのをここぞとばかりに発散しました。

ちなみに解決方法も補足しておきますが、単純ですね。空間を無理やり安定させて、崩壊を防ぎながら『無』の権能でリビルド世界より本来行き着くべき世界へ大きな『孔』を開きました。つまるところゴリ押しである。要は『十香』がリビルド世界に現出してしまったら届かなくなる道を、そうなる前に無理やり作って何とかしただけですからね。それでどうなるのか、未零は何をしたのか……それはまた次回。

さて、平和な日常へ戻り行き。無事、己の答えを見つけた駄目人間製造機もとい村雨未零。好意は素直でありながら、行為には素直でなかった少女の士道とのデートでのギャップが可愛く描けたと思いたい、多分。そんな少女がこの一件に望む最後の願いとは。次回、未零アナザー編エピローグとなります。

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみ!!
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