デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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正直作者側の気持ちとして八割はボツにしようかと思案したネタです。警告はしたので後悔のないようお進みください。














警告はしました。それでは短編、どうぞ。




五河ドリーム
『いつかの夢』


「平和ね……」

 

 紅茶を一口。ほぅ、と琴里は思わずそう独り言を通す。

 静けさとはまさにこのこと。静寂と平穏。絶えることのない騒がしさが嫌いではない琴里だが、たまにはこういうのも悪くはないと手にした薄手の本を丁寧に読み進める。

 

「…………」

 

 平和だ。口にした言葉を、改めて己の中で噛み締める。

 書類に追われることもなく。無能な利権漁り共の相手をする必要はなく。まして、琴里の本職である〈ラタトスク〉司令官としての立場は、半ば形骸化しつつあった。

 当然といえば、当然の話だ。〈ラタトスク〉は精霊を保護するために生み出された組織であり、その精霊は――澪が生み出した存在だけを精霊と呼称するのであれば――全て存在を確認し、保護したということになる。

 ともすれば、〈ラタトスク〉の目的の半分は成し得たといっても過言ではない。仮にそれが――――――世界を創り変えた者(・・・・・・・・・)によって、結果的に手元に残されたものであったとしても。

 

「ま、私が言えたことじゃないか」

 

 独り言ちる琴里の顔は、自然と苦笑の形を描いていた。好き勝手に世界を変えた独裁者(かみさま)。それに賛同したのは、他ならぬ琴里なのだから。

 それに、形骸化したといっても精霊たちのこれから先をサポートしていく〈ラタトスク〉の明確な存在意義に変わりはない。保護して終わり、などと匙を投げることはできないのだ。来年には琴里たちも高校へ上がり、士道たちは大学。また、緩やかに忙しくなっていくことだろう。

 だから、たまにはこういう静かな日だって必要だ。これで愛しの人がいたならば言うことはないのだが……などと冗談を思う気持ちさえ産まれてくる。

 優雅に、再び紅茶を手にした琴里――――――――の目が、目映い極光に覆われた(・・・・・・・・・・)

 

 

「…………うっそでしょ」

 

 

 これこそ思わず、思いがけず言葉が零れ落ちた。ほんの少しばかり明滅した目を指で擦れば、一瞬の閃光が幻ではないことを示唆しているようだった。

 同時に、頭を抱える。現在、この家にいるのは琴里といつもの二人(・・・・・・)。そして、今の光は琴里ですらわかるほどの指向性を持っていた。まさに、士道の部屋がある2階から(・・・・・・・・・・・・)放たれたという意味でだ。これで頭痛を催さない人間がいてたまるものか。

 

「最近は大人しいと思ってたのに……」

 

 最近は、というより世界を創り変えてからは、だが。自然と訂正した言葉を口にする気にもならず、せめてもの救いはリボンの色をわざわざ変えずに済むタイミングだったことか、と琴里は息を吐いて椅子から立ち上がる。

 今の光、覚えがある。というより、覚えしかない(・・・・・・)。触れずに済むことが一番なのだが、琴里の立場を弁えればそうも言っていられない。

 まあ、とはいえと琴里は階段を登りながら思考する。兄はそこそこの常識がある方だし、隣に立つ彼女もあれでいて根本的な領分は弁えすぎるくらいだ。まさか、なんてありきたりな言葉を口にする事態にはなっていないだろう。

 

 ――――――数秒後、琴里はその甘い考えを放棄することとなる。

 

 考えても見てほしい。彼らは確かにそれなりの常識は持ち合わせている。士道に至っては、一年と半年前であれば琴里という妹を溺愛(個人的主張)する平々凡々な高校生だったのだ。持ち合わせていないわけがない。が――――――その良識と両立する非常識を持ち合わせていなければ、世界を変える選択など選ばなかった二人でもあるのだ。

 とどのつまり、常識外に常識を問う(・・・・・・・・・)など、彼女の言葉を借りればナンセンスな話だったのだ。

 

 そう。扉を開けた先で幼子――――――十、下手をすれば五には満たないであろう容姿を得た時崎狂三(・・・・)の姿を見れば、一目瞭然なのだ。

 

「あ」

 

「あら」

 

「……は?」

 

 三者三様。少なくとも、琴里は己の声が零度の如く低いものだと自覚していた。扉を開けた先に、そのような光景(・・・・・・・)が広がっていれば必然、誰が相手だとしてもそうなろう。

 その幼子(・・)を時崎狂三だと判断した理由は幾つかある。一つは、その類まれなる容姿。幼くなれど、射干玉の髪の質は保たれ、何より幼くなったことで大人しくなる、どころか異質さを感じさせる黄金の時計盤(・・・・・・)が見え隠れしている。それは、この時代において狂三(精霊)しか持ちえないものだった。

 もう一つ、確実な事柄があった。琴里の兄が『うわやっべ』という顔をしていることと、その手に箒型の天使(・・・・・・・・・)を手にしていることが最たる理由であり、結論であり――――――とっちめるには十二分なものだろうと、琴里は地を蹴った。

 言い訳は後で聞く。そして、こうなるのは久方ぶりだと懐かしさを感じながら、

 

 

「――――――さすがに見境を持て、このバカ兄がぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「全面的にごめんなさい!!」

 

 

 謝罪があるだけ、マシだったのかもしれない。兄を平行水平キックで蹴り飛ばしながら、琴里はそんな甘い感想を述べたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで」

 

 ブスっとした顔しながらトントンとテーブルを指で突けば、兄が対面でこちらも久しく見ていなかった肩身が狭そうな姿を披露する。

 琴里が懐かしさを感じるのも無理はない。何せ、成長していった士道は自分に押し通せる無理は積極的に胸を張って行っていた。身を縮めることはなく、ただ真っ直ぐに。

 しかし、物事には限度と見境というものが存在する。そして、過失割合という便利な言葉もだ。

 

「成り行きで狂三の子供時代(・・・・)の姿が見たい。そう言ったら狂三が思った以上に乗り気になってくれて、気が付いたら〈贋造魔女(ハニエル)〉を持ち出していた、と?」

 

「間違いありません」

 

 さて、それではこの場合はどうなるのか。言葉にするまでもないのだが、子供にもわかりやすく琴里が言葉にしてやろうと、一瞬見せた笑顔をカッと目を見開いた怒り顔で染め上げた。

 

「――――――擁護のしようがないじゃないの!!」

 

「申し開きのしようもございません!!」

 

 もうすぐ大学生にもなろう兄に説教とは、些かの情けなさとシュールさに琴里の頭痛が加速していった。

 素直に頭を下げる士道にため息を吐き、チラリと横を見遣る。

 幸いにも、それなりに広い家のリビング。それを大胆に活用した狂三(小)が自身の身体を興味深そうに眺めたり、その身体を器用に動かしたり、バク転をして――――――

 

「ちょ……狂三、危ないからやめてちょうだい」

 

「あら、あら。この程度は平気ですわー」

 

 ……子供時代は、こんなにもアグレッシブな子だったのだろうか?

 以前、狂三自身が提唱した『思考は身体の年齢に共鳴する』論を思い起こし、打って変わって元気が有り余る様子の狂三をハラハラとした心境で見守ってしまう。

 

「心配だわ……」

 

「……むしろ、琴里が狂三の状態に引っ張られてないか?」

 

「そ、そんなことあるわけないでしょ!!」

 

 無意識に零れた思考を士道に拾われ、慌てて否定の言葉を返す。司令たるもの、外見の年齢に惑わされるつもりはない。そもそもとして、琴里は以前から惑わす立場にあったわけなのだけれど。

 コホンと威厳ある咳払いを挟み、琴里は言葉を続ける。

 

「けど、もう少し考えて行動してほしかったわねぇ……」

 

「考えた結果こうなった」

 

「いきなり開き直ったわね!?」

 

 あまりに唐突すぎて、琴里以上に威厳がある雰囲気が感じ取れるようだった。

 

「琴里は気にならなかったのか!? 狂三の子供時代の姿が!! 物凄い貴重映像なんだぞ!!」

 

「そ、そうかもしれないけど……」

 

 立ち上がった士道の異様な情熱に琴里が圧されてしまったのは、単純な話として気にならないわけではない、ということを示している。

 実のところ、狂三の子供時代の姿は幻に近い。一度精霊たちが子供に化かされた時でさえ、単純に霊力を保有した彼女に七罪が仕掛けた〈贋造魔女(ハニエル)〉は通用しなかった。

 その上、狂三の過去を知った今となっては、おいそれと幼少期の写真など探し出せるはずもない。あるにはあるだろうが、狂三の経歴上、『この世界』において保管場所は大変にデリケートゾーンと言える。まさか、『見たいから』などという曖昧な理由で〈ラタトスク〉を動かすわけにもいかない。

 その辺り、諸々の事情を加味した結果、本人が乗り気ということで士道の〈贋造魔女(ハニエル)〉使用に踏み切られた……筋書きとしては、このようなものなのだろう。

 まあ、平時での天使使用の過失度を引けば、琴里とて士道の気持ちはわからなくもない。お互いの了承があったなら、とも思う。今や士道は、全ての精霊の力を備えた人間。琴里がとやかく言うより、自身の権能のことは彼自身が理解している。だからこそ、琴里は腕を組んで眉根を下げて苦言を呈するのだ。

 

「だからってねぇ……せめて、あなたたち二人の中だけで完結すればよかったじゃない。私にバレるくらい天使の出力上げて、何してるのよあなた」

 

 やるならバレないように。そうすれば琴里が苦言を呈することもないし、二人の目的は穏便に達成される。あくまで琴里の立場から言えるのは、その程度のことなのだ。本来なら、天使の使用をもっと咎めなければいけないのだが……琴里も、大概二人には甘いということになるか。

 そんな自身の甘さに深いため息を吐きそうになる琴里と、その助言とも言える苦言を前に、士道は困惑した顔で言葉を返した。

 

「ああ。そうしようとしたんだけど……」

 

「けど、何よ?」

 

 士道が言いあぐねる。というより、言葉にすることが難しい(・・・・・・・・・・・)と感じられる姿に、琴里は訝しみながら続きを促す。

 

「いや……なんつーか、俺の想像と勝手が違ったっていうか。なんて言えばいいんだろう――――――俺の想定した骨子(・・)が、ほんの少しズレてた、って言えばいいか」

 

「……なんですって?」

 

 ゆっくりとだが、確かに言語化されたそれに琴里は目を剥いた。にわかには信じ難く、組んだ腕に力が入る。

 琴里の反応を見て、慌てたように両手をこちらに向けた士道が声を発する。

 

「あ、大丈夫だ。それで込めた霊力が多くなったから、戻るのに少し時間がかかるだけだ。時間が経てば、狂三の意志で元の身体に戻れるからさ」

 

「…………」

 

 納得のいく情報だ。が、琴里が違和感を感じたのはそこではない。狂三の安全面など、士道がいの一番に確認している。わざわざ琴里が心配するまでもない。

 問題は――――――あの士道が(・・・・・)、狂三を構成する骨子を見誤った、という点だった。

 見れば、狂三の幼少期の姿という点では合格だろう。〈贋造魔女(ハニエル)〉による見事な想像力と構成。故に、琴里は強烈な違和感を隠せなかった。変える手前(・・)において、士道が狂三に関してのミスを犯すことなどありえるのか、と。

 渋面を作る琴里……幾秒かそうしていると、服の袖がくいくい、と小さな指に引っ張られて視線を向ける。

 

「狂三……?」

 

 そこには、申し訳なさに満ちた(・・・・・・・・・)顔をした、幼い狂三の姿があった。琴里が椅子に座っていてなお、背丈が大きく低く見える幼少の姿に琴里の目が眩みそうになる中、少女が遠慮がちに声を発した。

 

「お……士道さんをあまり怒らないであげてくださいまし。わたくしも同罪ですわ」

 

「あ、いや、もう怒ってるってわけじゃ……」

 

 どうやら、琴里の思案顔に怒気の気配を感じたらしい。どこか言葉使いの端まで幼く感じられ、そのやり辛さに琴里は軽く髪を掻く。

 ――――――士道とて人間。何かの拍子でのミスなど付き物だろう。そう琴里は一度結論を出し、あくまで軽い調子の声音を披露する。

 

「そういうことなら仕方がないわね。なってしまったものは割り切って、時間が経つのを待ちましょう」

 

「ああ。本当にごめんな、琴里」

 

「申し訳ありませんわ、琴里さん」

 

「今度は先に相談するか、バレないようにしてちょうだい」

 

 琴里が肩を竦めて冗談を言うと、士道が曖昧に苦笑を返す。どちらにせよ、止めろと言い切れないのは形骸化した司令官らしいと琴里こそ、やはり苦い笑いを浮かべたいくらきだった。

 

「――――――そうだ。だったら、ちょっと買い物に行って来てもいいか?」

 

「ん、そういえば昨日の騒ぎで何も残ってなかったわね……」

 

 台所事情に関して、琴里が詳しく知るところではない。が、昨夜――――「脱稿記念の時間だぁぁぁぁぁぁ!!」――――などと押しかけてきた該当者一名、大騒ぎの化身の存在により、冷蔵庫の中身がすっからかんになっていることは琴里にも覚えがあった。

 お昼時にはまだ早いが、のんびりもしていられない。時間が経てば、続々と人が増えて日常の騒がしさを取り戻すことだろう。そういうことなら、と琴里は手で追い払う仕草を取りながら声を発した。

 

「じゃあさっさと行ってらっしゃい。狂三は私が見ておくから」

 

「ぐ……タイミングの悪さを恨むぜ、二亜……」

 

 本当なら、思う存分希少な狂三の姿を保存しておきたい。そんな士道の悔しさがありありと感じ取れる。これに関しては、二亜からすれば責任転嫁も甚だしいというものだろう。

 仕方ねぇか、と士道が腰を重そうに上げる――――――まさにその瞬間、小さな手が高々と上がった。

 

「でしたら、わたくしが代わりに行って参りますわ!」

 

「はい……?」

 

「く、狂三?」

 

 いつもなら狂三側のリアクションだろうものを見せてしまった琴里と、ここしばらくは目撃することのなかった心の底から困惑を見せる士道。兄妹揃って、目を輝かせたやけにテンションの高い(・・・・・・・・・・・)狂三に面食らってしまう。

 もちろん可愛らしさはあるし、小さな身体が今にも飛び跳ねそうな勢いがある。しかし、何というか――――――これが本当に狂三の幼少期になるのか? という疑問が二人を襲ったのだ。

 とはいえ、肉体に引っ張られているだけで完全に再現されているわけではない。否、だからこその違和感を覚えたのだが、そんな琴里たちを後目に狂三は捲し立てるように言葉を積み重ねていく。

 

「この身体、ただ待つだけでは退屈ですわ。またとない機会ですもの。視点を変え、様々なものを見て回れると考えれば悪くありませんわ!」

 

「……そうは言っても、ただの買い物じゃあ――――――」

 

「それでは、お二人は待っていてくださいましね!」

 

 侵略すること火の如く。いつもの落ち着きや優雅さはどこへやら、脱兎を思わせる――ここまで来ると、失礼ながら耶倶矢さえも連想させる――足踏みで小柄な身体を駆使した狂三が外へ向かって駆け出した。

 

「あー……」

 

「………………どうなってるのよ、これ」

 

 動かざること山の如し。明らかに様子がおかしい狂三に呆気に取られた琴里と士道が動き出すことができたのは、信じられないものを見たと互いの顔を見合わせた時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「――――って、この流れ前にもやったな……」

 

 狂三を見送ってしまった数分後。琴里に連れられた士道は、いつかの既視感に囚われながら琴里の執務室(・・・・・・)で呟きを発した。

 そう。場所は天宮市上空一万五千メートルに浮遊する空中艦〈フラクシナス〉内部、司令の琴里に設えられた執務室。一転して、地上から大空中へ鞍替えとなっていた。

 

「これが一番手っ取り早いじゃない。士道が天使を私用で扱うよりは、余っ程健全よ」

 

「さいですか……」

 

 それはそれで、立派な職権乱用なのではないのか。士道は思いこそしたが、得意げな琴里を相手にわざわざ興を削ぐこともあるまいと口を噤んだ。よくマリアが文句を言ってこないものだ、とは聞いておきたかったけれど。

 ついでにいえば、既視感があって当然なのだ。似たような流れは『村雨令音わらしべ長者事件』で体験している。……以前であれば令音の『いつも』がどういう意味なのか判断の難しさがあったものだが、時たま未零がどことなく疲れた表情で令音と帰っている日があることを鑑みれば、大方の察しはつく。不思議な魅力というのも考えものかもしれない。

 士道個人の既視感はともかくとして、机の上の端末に映像を出力し始めた琴里へ声をかける。

 

「……けど、ここまでするか?」

 

「何よ、士道だって気になってるんでしょ」

 

「う……まあ、なぁ」

 

 気にならない……と断言してしまうことは嘘になる。そんな在り来りな答えさえ濁した士道に、琴里が訝しむように顔色を変えた。

 

「変ね。いつもの士道なら積極的に関わろうとするはずよ」

 

「そこまで強く断言されるか」

 

「事実じゃない」

 

 確かに、事実ではある。琴里は一度端末の操作を止め、軽く握った拳で顔を支えながら士道を見遣る。その表情には、あからさまな疑問が浮かび上がっていた。

 いつもの士道なら――――――琴里らしい表現だ。そして、士道自身それを否定する気にはならない。

 

「まだ何か隠してるなら言ってごらんなさい。あの狂三が分身でした、って告白しても怒らないわよ」

 

「や、それはない……と、思う」

 

「……?」

 

 士道の回答に首を傾げた琴里。これも言わんとしていることはわかるし、次に発せられる言葉は未来予測など要さず予知できる。

 

「随分と曖昧ね。初めてね、あなたが狂三の見分けで曖昧な判断を下すのは」

 

「ああ……」

 

 首肯を返し、士道は初めての経験に戸惑いを隠せなかった。

 今朝方、狂三と出会った時。その時は、大きな違和感ではなかった。しかし、〈贋造魔女(ハニエル)〉の効果を狂三へ振るってから、奇妙な感覚が士道の中でわだかまっている……それさえ、ような気がする(・・・・・・・)でしかないのだが。

 

「狂三の感覚は感じられるし、絶対に分身じゃないのは断言できる。だけど、なんて言うかな――――――違和感が違和感として成り立ってない。そんな気配が感じられるんだ」

 

「……もう少し具体的に言語にしてくれないと、私にはわからない感覚だわ」

 

「だよなぁ」

 

 眉をひそめた琴里に、士道は短く同意をした。

 ありのまま、何とか言葉にはしてみたものの。結局は士道と狂三の関係というものとなれば、他の人間には理解できない。極端で乱暴な言い方をしてしまえば立ち入れない(・・・・・・・)ものがある。そもそも、士道自身が感覚として確かなものを得ていない以上、それを理解できる者などいるはずがない。

 結局のところ、彼女は時崎狂三だと結論を出さざるを得なかった。それほどまでに、幼少期の姿を取った彼女の気配は狂三なのだ。それなのに、こうして士道と琴里が言葉を重ねる理由といえば……、

 

「……それ以上に、何か様子がおかしかったしな」

 

「ええ。さすがにねぇ……」

 

 互いに腕を組んで唸る。それほどまでの違和感、士道と琴里は同じ感想を抱く――――――幼くなったと言っても、あのテンションは何なのか、と。

 

「意外と子供の頃はお転婆だった……とか?」

 

「いや、狂三のご両親はかなり過保護だったと思うけどなぁ」

 

 それこそ、蝶よ花よとお嬢様として育った狂三の姿だ。士道が困り顔で髪を掻き上げ、否定をする程度には現実味がない(・・・・・・)

 それが二人が頭を悩ませる一番の要因。出かける直前、狂三の性格が豹変した(・・・・)としか思えぬ変化を目の当たりにした。

 議題は〈贋造魔女(ハニエル)〉による性質変化。だとしても、何かを隠しているとしか思えない豹変っぷりに、さしもの士道たちとて無視することはできなかった。

 しかし、だからといって出かけた狂三に直接話を聞くことは叶わないし、何より聞いたところでだ。『あなたは狂三ですか?』などと失礼すぎる問いかけは言わずもがな、仮に聞けたところではぐらかされるのがオチだろう。

 故に、ここは最新鋭の設備に頼るに限るということだ。

 

「よし。準備完了よ」

 

「……あんまり褒められた手段じゃないよな、これ」

 

「今さら?」

 

「…………」

 

 その常識外に助けられてきた士道が返せる言葉などなく、そっと妹から目を逸らした。

 やることは単純。自律カメラを放ち、それによりどこへいようと狂三をモニタリングできるという寸法だ。余談にはなるが、以前にも増して多機能かつバッテリー増設により長期運用が可能になった……と胸を張る妹様が孫を褒めているようで印象的だった。

 士道にツッコミを入れた手前だからか、クスッと自嘲するように笑った琴里が言葉を返す。

 

「ま、あなたの気持ちがわからないわけじゃないわ。けれど、未零の一件も解決したばかりだし、用心するに越したことはないでしょ? 何事もなければ、私たちの杞憂で終わることよ」

 

「そうだな」

 

「あと、子供の姿で何かしらのトラブルになった時に面倒だわ。狂三が犯人を半殺しにした時の後処理が」

 

「……そ、そうだな」

 

 大変に同意したくはないが、仕方なく同意せざるを得ない。チュッパチャプスを新たに一本咥え、非常に辛辣な琴里へ冷や汗を流す。

 万が一。その言葉は有り得るからこそ存在している。たとえば皆との豪華客船のクルージングに大層と胸を躍らせていた可愛らしい精霊が、シージャック犯を相手に最悪の精霊になったりとか――――――そういう話も、ありえないというわけではないのだ。

 とまあ、建前は十分。その実、琴里は友人として心配なのだろうと隠した兄目線も加わったりしている中、彼女が端末を操作した数秒後、端末の画面に自律カメラの映像が出力された。

 

『――――――じゃあ行きましょう、狂三さん』

 

『ええ、ええ。参りましょう、四糸乃姉様(・・)

 

『……!! ね、姉様なんて、そんな……』

 

『あはーん。ここは四糸乃の大人の魅力を存分に発揮する場面だねぇー』

 

 

 

「……増えてる」

「……増えたわね」

 

 目を離した十数分で、同行者が増えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 ステップを踏んで、ご機嫌に鼻歌まで歌ってしまう。

 いつもとは違う景色を。普段とは違う雰囲気を楽しむ。丁寧に結ばれた左右の髪をゆらゆら、ゆらゆら。少女は思うがままに、一人で街並みを眺めながら足を進める。

 

「ふふっ、うふふふ。たまには(・・・・)、こういう気分も悪くありませんわ」

 

 誰かと共に歩くことは好きだが、希少な体験(・・・・・)を得ることは人としての喜びだ。

 だが、あまりこちら(・・・)を楽しんでばかりもいられない。時間は限られているし、手早く済ませて戻るべきかと思案した狂三が舗装された道を歩いていると――――――

 

「狂三、さん……?」

 

 疑問含む、少女の脳に刻まれた声音。鼓膜を震わせ、足を止めるには十分なものだった。

 狂三の背丈を遥かに越える、と言っても琴里とさして変わらぬ体躯。蒼色の光沢を見せる瞳と、可愛らしい帽子に合う背まで伸びる髪。そして、手に付けられたウサギのパペット。

 あら、と声を零した少女は、彼女をしっかりと認識して言葉を返した。

 

「四糸乃――――さんではありませんの。よしのんさんも奇遇ですわね。どうされましたの?」

 

『どうされましたの、って……そりゃこっちの台詞だよー』

 

「その、どうしたんですか……?」

 

 二人の返しにキョトンとした顔をしてしまう少女だが、ふと思い返す。そういえば、あちらから見れば(・・・・・・・・)視点がおかしいのだった。

 滞りなく返した言葉で『時崎狂三』であると判断をしたのだろうが、なぜそうなったかまではさすがに予測などできないだろうことは目に見える。

 

「ああ、ああ。実はですね――――――」

 

 かくかくしかじか。適当な座り場を見繕い、掻い摘んでここまでの経緯を大まかに説明する。これでも、それなりに説明は得意だという自負はあり、理解力のある四糸乃たちも、その納得したような頷き具合からすんなりと呑み込んでくれたようだった。

 

「そういうこと、だったんですね……」

 

『いんやぁ、士道くんもなかなか自分の欲に忠実になってきたわねぇん。これはよしのんたちが世界を支配する日も近いね!』

 

「ふふっ、飛躍しすぎですわ。――――――そういうわけですから、わたくしは少しばかり買い物をしてから士道さんのご自宅へ戻りますわ」

 

「――――――それなら、私も手伝わせてくれませんか?」

 

 意外かつ、即興の提案を耳にした少女は、浮きかけた身体を硬直させ四糸乃へ視線を戻した。次いで、四糸乃が続ける。

 

「あ、その……今の狂三さんの身体じゃ、色々大変だと思って……」

 

「ああ……」

 

 言われてみれば、と思わなくもない。だが、これでいて少女は人並みとは比べ物にならない膂力を持ち合わせている。四糸乃が心配するほどのことは起こりえないのだけれど――――――彼女の意図を読み取り、少女はくすりと笑みをこぼした。

 四糸乃の中にあるのは純粋なる善意の形。そして、庇護欲(・・・)に似たものを少女は感じ取った。

 まあ、それほど難しい疑問ではない。四糸乃は精霊の中では幼い部類に入る。もっと具体的に言えば、同世代、上世代は数多くいるが、下世代とはあまり縁がなかったのだろう。そう考えれば、普段は見ることのできない四糸乃の可愛らしい一面だ。受け入れず、結果後悔をするのは少女であろう。

 

「確かにその通りですわ。では、お願いできますかしら」

 

 自然と手を差し出し、握ってくれと意思表示をすると、四糸乃の顔がパッと明るくなった。

 

「!! はい! 行きましょう、狂三さん」

 

「ええ、ええ。参りましょう、四糸乃姉様」

 

「……!! ね、姉様なんて、そんな……」

 

『あはーん。ここは四糸乃の大人の魅力を存分に発揮する場面だねぇー』

 

 戯けるよしのんが発した言葉に、また少女は一つの微笑みを浮かべた。妙な感覚だ――――――少女から見れば、そんなことをしなくとも四糸乃が大人に見えるのだから。

 

 

 

 

 ――――――同行してもらう、とは言っても。

 

「……これで十分ですわね。さあ、帰りましょう」

 

『全速前進、ヨーソロー!』

 

 どこで覚えたか、そんな元気な声を発するよしのんとこくりと頷く四糸乃。

 実際のところ、特に苦労はない。二人で買い物袋を下げ、帰路に着く。必要なものはいつも見ていた(・・・・・・・・)から、少女にとっては容易い。足りない部分も、それとなく四糸乃に問いかけて見れば簡単に解決することができた。

 今日の夕飯は何にするか、午後からはどうしようか。日常、言うなれば取り留めのない話が続いていく――――――新鮮だ。ここにきて、何度目かの笑みを零した少女に、四糸乃が小首を傾げた。

 

「どうか、したんですか……?」

 

「いえ、いえ。強いていえば――――――」

 

 ふむ、と内心で言葉を選ぶ。あいにく、この楽しい時間はあまり残されてはいない。ならば、選ぶべき言葉はそう多いものではない。

 

 

「――――四糸乃姉様は、士道さんのこと、好きですの?」

 

 

 だからこそ、搦手などなく、少女は直線的な言葉を繰り出した。

 小首を傾げたままキョトンと少女の問いを受け取った四糸乃だったが、

 

「え、……そ、それは……」

 

 意図を理解した途端、頬を赤く染めて恥ずかしげによしのんで顔を隠した。まあ、その反応で大体は察せるものがあると少女も苦笑してしまう。

 

「うふふ、少し意地が悪い問いかけでしたわね。――――――ですが、『わたくし』はどうなのでしょう?」

 

「え……?」

 

「将来――――――」

 

 そう、将来(・・)。その気持ちを抱えて、彼女たちはどうなっているのだろう。何を思っているのだろう(・・・・・・・・・・・)

 少しばかり、賢しい(・・・)。思いながら、少女の唇は音を奏でることを止めなかった。

 

「変わっていきますわ。景色、関係、居場所。その時、士道さんに対する気持ちを、あなた方は――――――」

 

 ああ、ああ。本当に狡賢い。今、この瞬間にしか聞くことができない。その本音をこじ開けることは、少女でさえもわかる狡賢い所業だ。

 けれど、

 

 

「――――――好きでいます」

 

 

 大人びた彼女は、その綺麗で美しい声音で、慈しみに溢れた言霊を紡いだ。

 

「士道さんのことが好きです。同じくらい(・・・・・)、狂三さんのことが好きです……!!」

 

「同じ……?」

 

 少女は、理解しきれなかった――――――人に向けた感情はそれぞれ、違う。少女にさえわかるものだ。果たして、人間の根源的欲求の数々が――――――恋と友愛は、釣り合うものなのだろうか。

 

 

『――――――場合によっては、劣らないと思いますよ』

 

「……!!」

 

 

 本音だ。四糸乃の言葉は、間違いなく心の底からのものだ。狂三が相手だから(・・・・・・・・)、嘘偽りのない思いを――――――たとえ少女が相手でも、そうであったのかもしれないけれど。

 そして、言葉はなお続く。

 

 

「だから、ついて行きます(・・・・・・・)。士道さんと狂三さんが創った世界で、大好きな皆さんと――――――置いていかれないように、胸を張っていきます……!!」

 

『まあ、狂三ちゃんたちの場合、置いていかれるより無理やり連れていってくれそうだけどねー。――――――心配しなくても、よしのんたちも欲張りさんだよ』

 

 

 ――――――皆が一緒に。

 恋に劣らぬ友愛で。友愛に劣らぬ恋で。人の感情が誰かを排することなどなく。それは少しばかり歪なのかもしれないけれど――――――与え合う愛の形。

 

『――――にしても、どったの狂三ちゃん。士道くんハーレムに物申す! みたいなこと聞いちゃってさー。確かに狂三ちゃんの比重は大きいだろうけど、士道くんはそこのところわかってよしのんたちのこと見てくれてるよん』

 

「……いえ。少しばかり、記憶が混濁しているようですわ。すぐに戻るとは思いますけれど」

 

『えぇー! それを早く言ってよー。じゃあビシッと言っちゃおう。みんな、狂三ちゃんのことが大好きで、狂三ちゃんもよしのんたちのことが好き! ね、四糸乃』

 

「うん……!」

 

 だから共にある。だから繋がっている。だから時間を共にする。

 

 

「なるほど――――――」

 

 

 美しい考え方だ。そして、夢物語のお話だ。だけど――――――

 

 

「ええ。ええ。誰かが欠けてしまうことが耐えられないのは、わたし(・・・)も同じですわ」

 

 

 大切なものを手放さないことの想いを、少女は理解している。

 だから、幼き(・・)笑顔を返す。

 

「ありがとうございます、お二人とも。――――――我が儘を押し通した甲斐が、ありましたわ」

 

「い、いえ。上手く答えられて、よかったです」

 

『うんうん。まま、狂三ちゃんの我が儘にはなれてるからねぇ』

 

「……それはそれで、どうなのでしょう?」

 

 曖昧に笑う少女に、二人が不思議そうに首を傾げた。

 

「なんでもありませんわ――――――四糸乃姉様」

 

 なんてことはない――――――こちら側(・・・・)の呟きだと、少女はただ微笑みを浮かべ帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りましたわ」

 

「ただいま、です」

 

『よしのんのご帰還だぁー!!』

 

 

「おかえり。四糸乃も一緒だったんだな」

 

 何事もなかった風を装い、玄関先で三人を出迎えた士道。当然、放っていた目で知っていたことも知らぬ振りをしておく。

 控えめながら、やり取りに慣れた四糸乃と相変わらずムードメーカーなよしのん。精霊マンションの存在があったとしても、士道の家に『ただいま』と言ってくれるのは嬉しく、士道の『おかえり』に笑顔を見せる四糸乃にさらに嬉しくなる。

 

「はい士道さん。お約束の品ですわ」

 

「お約束って言っても、あなたがいきなり出ていっただけじゃない……」

 

「よいではありませんの。たまには、というものですわ」

 

「あなたの気まぐれはたまにじゃないから困るのよねぇ」

 

 買い物袋を士道へ渡しながら、同じく出迎えにいた琴里と変わらぬ(・・・・)やり取りをする『狂三』――――――そう、知っていなければ(・・・・・・・・)できない。

 四糸乃との会話。今朝からの違和感にならない違和感(・・・・・・・・・・・)。士道は膝を折り、彼女の顔を覗き込むように視線を合わせた。

 

「っ……士道、さん?」

 

 紅潮した頬。幼さを押し出す小柄な体躯。僅かな動揺。しかし、そこに含まれた士道への感情は――――――

 

 

「――――――()、は……」

 

 

 意識などない。感覚、直感。士道の奥底で時を刻む天使が告げる不可思議な音。

 ただ、そう問わねばならない気がしたのだ。驚いたように目を丸くした少女が、フッと笑みを浮かべたことで、予感から確信へと至る。

 

「……くっ、ふふ。どうやら、ここまでのようですわね」

 

 それは、その笑みは狂三のものではない。まるで、鏡を見たような(・・・・・・・)笑み。

 そうして一瞬、硬直した士道――――――

 

 

「――――――答えは、いつの日かあなた方(・・・・)の口から、きっと聞くことができますわ」

 

 

 その頬へ(・・)口付けを落として、少女は走り去っていった。

 

「あ……!!」

 

「っ、待ちなさい!!」

 

 咄嗟に追うことのできない士道の代わりに、琴里が走り出して後ろ姿を追いかける。直後に士道、何事かと目を剥いた四糸乃も続くが――――――

 

「な……いなくなった……?」

 

「…………」

 

 玄関口を過ぎ、小さな身体を隠す僅かな塀へ向かって曲がった少女の姿は、誤差と称することの出来る間にて消え失せていた。

 どういうことだ、と訝しむ一同。その中で、士道だけは眉を揺らし〝彼女〟を察知した。

 

「狂三……」

 

「え!?」

 

 士道の声に反応した琴里が声を上げ、辺りを見渡す。どこに、と士道へ問うより先に結果はあっさりと現れる。

 ――――家の前にゆっくりと一台の車が止まり、その後部座席から渦中の人物が優雅に降り立った。

 

 

「あら、あら。士道さんに琴里さん、四糸乃さんまで。このような車道の前で、如何なさいましたの?」

 

 

 出迎えにしては、あまり褒められた位置ではありませんわね。肩を竦め、軽いお洒落に小綺麗な買い物袋を携えた狂三はそう言葉を発した。

 三人とパペットが一人。互いに何度も顔を見合わせ、再び狂三へと視線を向ける。すると、その反応の意図が読み切れなかったのか、狂三は逆に不思議そうな声音で返してくる。

 

「……本当に、如何なされましたの?」

 

 わけがわからない。いや、こちらの台詞ではあるのだけれど……と全員が困惑する中、琴里が代表してスっと片手を上げた。

 

「ねぇ、狂三。あなた、今日はどこに行ってたの?」

 

「見ての通り、ショッピングですわ。今朝早くから未零と令音先生に誘われましたので、これから先の季節へ良い機会だと思いましたの。都合よく誘えたお方も、見事コーディネートして差し上げましたのよ」

 

「都合よく誘えた?」

 

 運転席と助手席から軽く手を振る姉妹に手を振り返しながら、ふふんと可愛らしく得意げな狂三へ士道は疑問の声をあげる。狂三と未零と令音、それに誰かいるということになる。

 

「では、皆様にお見せいたしましょう。――――――いつまで隠れていらっしゃいますの?」

 

 狂三の声掛けに、人の驚きとしては大きめのビクッ、とした動きに車が揺れた。……それだけで、誰なのかは容易く予想ができるものである。

 

「……は、恥ずかしいから、このまま帰りたいんだけど……」

 

「そこで『似合わない』と仰られない進歩に、わたくしは感動を覚えますわ」

 

「覚えられても困るんだけ――――――にゃあっ!!」

 

 思いっきり噛んだのだろうか。狂三に抱えられた小動物が美しい放物線を描き、士道たちの前に着地した。

 

『おぉ……』

 

「わぁ……」

 

「……うぅ」

 

 兄妹の感銘が重なり、四糸乃が彼女の煌びやかな装いに手を合わせ声を上げる。

 恥ずかしげにスカートを握り、シワになることを防ぐためか次いで顔を覆った少女の装いは、本当に煌びやかなものだった。付け加えるのであれば、以前彼女にもたらしたコーディネートは彼女の年相応に合わせたものであったのだが、今目の前にあるものは彼女――――七罪を大人っぽく(・・・・・)魅せる見事な手腕だと言うべきものだった。

 その感銘に満足を得たのは、そのコーデを見繕った一人、狂三であった。ポンと手を叩き、いい笑顔を声を発した。

 

「七罪さんも来年には高校生ですわ。少しばかり先取りをし、楽しんでおくのも悪くないと思いましたの」

 

「体のいい理由付けて、やっぱり狂三の趣味じゃない! 恥ずかしいし、まだ気が早いわよ……」

 

「そんなことありません……!」

 

「ひゃっ……」

 

 四糸乃が両手で顔を覆った手を取り、七罪が素っ頓狂な声を上げる。ちなみに、よしのん側は器用に口部分で七罪の手を咥えている。

 

「とっても、似合ってます! 本当に素敵です……!!」

 

「……そ、そう? えへ、へへへ……」

 

 いつになく押しの強い四糸乃に圧倒され、何より仲が良く、嘘をつけない女神のような四糸乃の褒め言葉だったからなのだろう。七罪が満更でもなさそうに相好を崩す。狂三も言っていたが、なかなか目に見えた成長で士道までもが嬉しくなる。

 狂三が「今度は四糸乃さんや六喰さんもご一緒にお出かけしましょう」など仲睦まじい会話を交わす中、温かな気持ちに包まれていた士道を琴里が現実に引き戻した。

 

「ちょっとちょっと、癒されてる場合? あの『狂三』のことは……」

 

「あ、や……忘れてないさ。……忘れては、ないんだがなぁ」

 

 そう琴里へ返し、士道は困ったように頬をかく。恐らく、あの少女が見つかることはもうないだろう。そんな予感からだった。

 今朝方には感じなかった――――――正確には、感じることができなかったもの。言葉として曖昧ながら、それは士道にとって明確な違いだった。

大人の姿で(・・・・・)、士道の狂三への感覚を誤認させる。分身体では決して行うことのできない御業だ。

 

「……まさか」

 

 それこそ、士道が〝まさか〟と言いたくなる予感。

 違和感にならない違和感。己の中で、敢えて意味を持たせるとすれば、それは常に身近にある感覚。故に気がつくことができないもの。

 

自分が自分へ感じる感覚(・・・・・・・・・・・)

 

 

「――――――まさか、なぁ?」

 

 

 楽しげに微笑む狂三――――――あの少女の笑みはとてもよく似ていた。

 似ているだけなら良い。しかしあの笑みには確かに士道の――――――えもいえぬものを感じ、士道はそれを表情に貼り付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……それで、満足いく答えは得ましたか?」

 

「半々ですわ。思考としての納得は、しかねますわねぇ」

 

「……彼女たちの過程を知らず、彼女たちの答えだけズルをして得ればそうなるでしょうね」

 

「う……何だかトゲがありますわ」

 

「我が儘に付き合わされる身になればわかりますよ。安芝居まで見せられましたし」

 

「し、仕方ないではありませんの! せっかく七罪姉様から指導していただいたというのに、元の姿に戻ってしまったんですもの……元の姿にも細工をしておいて助かりましたわ」

 

「加えて、私の天使があってよかったですね。まあ、用意してあれでは〝よかった〟とは言えない0点の芝居ですけれど」

 

「道化師様は演技元に対しての贔屓が過ぎますわ……」

 

「なんとでも。あなたを一人で来させないで正解でしたよ。ほら、帰りますよ。こっぴどく叱られにね」

 

「……うぅ、やはり道化師様に見つかったのは失敗でしたわ」

 

 得たものはあったが、わからないものがほとんどだ。

 それでも少女は頬笑みを浮かべ、矛盾した結末に言霊を残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、いつかわたし(・・・)と会いましょう――――――お父様、お母様」

 

 

 

 




「……急な誘いは、君にしては珍しいね。藪から棒じゃあないか」

「……まあ、あれです。珍しい相手から頼まれ事をされたので、引き受けようと思ったまでですよ」




本当は書くつもりなかった。二次創作を書く作者としてはナンセンスだと言わざるを得ないというか、でも過去と現在を扱って未来を扱わないのもナンセンスというか。そして頂いたネタが悪魔合体した結果というか。面白いかどうかの是非は私の視点ではわかりかねるので皆様に委ねます。
正直、想像におまかせしますとしたかったんですよね、このネタ。本編の後は必ずハッピーエンドですと太鼓判を押していますし。なので、今回登場した少女も細かいところはかなり曖昧にしています。一応私の中で設定はありますけど明かすつもりはないです。それこそ、ご想像におまかせします。母君と違ってカラコンくらいは付けられる程度のことは教えてry

普通に誤魔化しを貫通してきそうな面子はちょっとした依頼で解決しています。初見の戸惑いで士道は誤魔化せてもあの演技で七罪の目は誤魔化せないかな……。実際、登場人物を誤魔化せたのは『まあありえないでしょ』という先入観です。それがなけりゃ天使でも誤魔化せるもんじゃありません。それでも来てしまったのは……この膨大と言っていい積み重ねの上に成り立つ関係の不思議さを、理解したかったのかもしれませんねぇ。

ちなみに二度は書きません。触れません。本編上でも半パラレル扱いと思ってください。いつかの明日、いつか先にある夢が叶い、出会うことがあれば。そんな幕間のイマジナリーなお話でした。



残すは三話。

EXTRA TIME 『そして、悲劇は終わる』

狂三if。ありえならざる世界の物語。終わる悲劇の中で、救われぬ少女の後語り。

感想、評価、お気に入りなどなどありがとうございます!いつでもお待ちしておりますー。また期間が空きはしますが、必ずお届けいたします。次回をお楽しみに!!
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