デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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お久しぶりです。投稿二周年記念に一発書いてみました。続くかは未定だし触りだけですが、どうぞ。

時系列は折紙デビル〜二亜クリエイションの間を想定しております。

それでは、皆々様――――――語られることのなかった戦争(デート)を始めましょう。





蓮ディストピア
『無価値と無為の少女たち』


「はは、あはははははははははっ――――あはははははははははははははっ!!」

 

 嗤う。少女が嗤う。道化の少女。解けた(・・・)少女が高らかに嗤う。

 

「はぁ、可笑しい。自分が目覚めるなんて、おかしくて可笑しくてたまらない。本当に、世界というのは儘ならないものだ――――ふむ?」

 

 そうして、混沌螺旋の世界で少女が首を傾げた。覆われた瞳で、囚われた腕で、果たして何が見えたのか。

 

「おや、おや。これは意外や意外。予想だにしない客人だ。なるほど――――『始める』には、十分だ」

 

 身を縛るものは多々あれど、少女の心に曇りはない。

 身を焦がす憎悪は、されど、その存在を知れたのならば価値あるものに値する。

 

「ならば幕を開けよう。涙の止まらぬ悲劇の幕を。笑いの止まらぬ喜劇の幕を――――さてさて、これよりご覧いただきますは、絶世可憐なる少女たちの狂宴」

 

 舞台の道化は語りかけ、暗き底より現れし物語の一幕へと誘う。

 

「願いは常に美しけれど、その思いが如何な結果に結びつくのかは誰にも知れません。希望溢るる少女たちの行く手に広がるは、楽土かはたまた地の獄か」

 

 ならば始めよう。語られることのなかった道化と道化の物語を。

 

「お相手仕りますは、わたくし、蓮。どうか皆々様に、享楽と喜悦のひとときがありますよう――――――」

 

 希望と絶望。望まれなかった者たちの表と裏と――――母と娘の戦争を、始めようではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 瞼を開いて、目と目が合う。紅色の瞳が煌々と輝き、黄金色の瞳がカチカチと時を鳴らす。

 

「おはようございます、士道さん」

 

 唇が触れ合うのでないかという距離に、少女はいた。美しすぎる、神に愛された極上の美貌。白磁の肌に差し込む朱色。

 

「……おはよう、狂三」

 

 吐息と吐息が触れ合う。そして、士道は。

 

「ふっ!」

 

 ゴロゴロとベッドを転がって、壁に頭を全力でぶつけた。

 ガンッ! と結構な音がして、元々から目覚めていた目がこれ以上なく開かれる。率直に言えば、痛い。

 

「あら、あら。奇っ怪な行動をなさるものですわね」

「起きた瞬間、超絶美少女が半ゼロ距離にいてみろ。まず夢を疑うだろ」

「現実は?」

「美少女はいた。俺の家に」

 

 ……今朝から、随分と頭の悪いことを言ってのける自分自身に驚きと呆れが隠し切れないというところだった。

 ムクリと起き上がり、腫れた頭を擦りながら立ち上がった少女の姿を眼窩に収める。

 時崎狂三。士道の運命、というと少し格好をつけすぎかもしれないけれど、それくらいに大切で、複雑で、大好きな少女にして精霊(・・)

 

「まあ、まあ。士道さんは起きがけでも変わりありませんのね」

 

 士道の大仰な物言いにくすくすと笑いを零し、釣られて士道もクスッと笑みを浮かべる。

 そうして、はたと疑問符を追加した。

 

「ところで、今日は朝からどうしたんだ?」

 

 一応、端的に言えば好き合っている(・・・・・・・)関係ではある二人だが、寝所を共にする関係には至れていない。互いを好きでいながら、ある種殺し殺され(・・・・・)という関係でもある故に、だ。

 

「ええ。たまには趣向を変え、朝から仕掛けるも一興と思いましたの。残念ながら、士道さんはあまり驚いてはくださらなかったようですけれど」

「これで驚いてないって判断がおかしくないか? いや、驚きすぎて逆に冷静になってるのかもしれないけど」

 

 肩を竦めて残念がった様子の狂三に、手を振りながら言葉を返す。

 愛する美少女が寝起きドッキリ。健全な……というには身を置く境遇がバイオレンスデートな士道だが、一般的な高校生と考えれば眉唾物のシチュエーションと言えるだろう。

 

「まあ、士道さんには正攻法が効果的、という検証結果を得られただけで良しとしますわ。それでは、わたくしはこれで失礼いたします」

「ん、なんだ。もう行っちまうのか」

「ええ。本日は予定が混み合っていまして。ですから――――会えない分、士道さんのお顔を拝見しておきたかった……という理由で、士道さんは心躍らせてくださいますかしら?」

 

 ――――指を一つ薄紅の唇に当て、恥ずかしげに微笑む愛しい少女の姿。

 士道だけに見せて、士道だけに伝える愛情の証。同じように赤面を、さりとて受け答えの不敵な笑みを士道は返した。

 

「ああ、めちゃくちゃドキッとしたよ。同じようにやり返せないのが、少し残念なくらいさ」

「ふふっ。士道さんであれば、わたくしは一向に構いませんのに。――――ですけど、今日のところは、士道さんのお心を揺らすことができたと満足を得ることにいたしますわ」

 

 それでは、また――――と、狂三がスカートを摘み上げ、足を引いて礼を取る。その瞬間、少女の足元に〝影〟の領域が侵食し、淑女の姿勢を取る狂三を呑み込み、姿を消した。

 静寂。初めからこの部屋には、士道一人しかいなかった。そう錯覚させる平穏と静寂が訪れる。

 だが、網膜を焼き尽くすような美しい貌。仄かに鼻腔をくすぐる狂三の残り香。何よりこの心臓の高鳴りが、時崎狂三がそこにいたことを証明してくれていた。

 息を吸って、吐いて、一言。

 

「――――デレさせられるかと思った!!」

 

 我ながら、酷く情けない一言が飛び出したものだと思った。

 動揺をしなかったのは、本当に驚きが勝りすぎていたから。本気の理由であり、狂三の前だからこそ耐えねばならなかったのだ。おかげで、振り戻しによって心臓爆裂な心音が胸を叩いている。

 

「はぁー……マジでびっくりした」

 

 ぼふっと布団の上に背を置いて、嵐のように過ぎ去った狂三を想う。デレさせた方が勝ち(・・・・・・・・・)の勝負。互いに想い合う関係で、一瞬の攻防がこうして綱渡りなのだと実感する。朝の襲撃では逆に反応が薄いと、勘違いさせることができたのは幸いだ。同じことを繰り返されては、今度こそ心臓が破裂しかねない。

 頭の裏に両手を乗せてベッドの上で身動ぎをする――――と、士道の鼓膜を妙な音が叩いた。

 

「ん?」

 

 音源の枕元へ顔を向けると、そこには見慣れない『筺』があった。

 

「……なんだこれ? 狂三の忘れ物、って感じじゃないよな」

 

 蛇の模様に、手のひらに乗せられるサイズの小さな筺。一瞬、狂三の忘れ物かとも考えたが、こういったデザインは彼女の趣味ではない。プレゼントでも同様、口では猟奇的な物言いで脅かしにかかる狂三だが、その実可愛いものを好むということは(いつの間にか)周知の事実となっていた。

 

「蛇の模様ねぇ……みんなでこういう趣味なのは、耶倶矢か? ああいや、耶倶矢の場合は筺そのものに興味を示しそうだな……」

 

 耶倶矢の場合は蛇の模様がどうとかより、『何か封印されてそうなデザインでいい』みたいな反応をする自称覇王様が目に浮かび、想像でプッと吹き出してしまった。

 とにかく、眺めていても埒が明かないわけだが、宛先があるわけでもない。

 

「とりあえず、みんなに聞いてみるか。――――今日は、あいつ(・・・)のところに誰かいるかもしれないな」

 

 休日一日目ということもある。朝早いとはいえ、あの少女の病室(・・)に見舞いへ行っていてもおかしくはない。

 善は急げ。急がば回れ。どちらでも構わない士道は、今朝の高鳴りから一転して緩やかな朝の準備を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それで、『わたくし』は何をしていらっしゃいますの?」

「大胆なことをしでかした弊害で、時間差で倒れてしまいましたわ。ただ今介抱の途中ですわ」

「ちょっとあざとすぎませんこと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 コンコン、と病室の扉をノックする。すると、とある女性の声が返ってきた。

 

『……どうぞ』

「あれ?」

 

 聞き慣れた女性の声に士道は首を傾げる。正確には、女性の声がしたこと自体にではない。彼女が病室にいることは不思議ではないからだ。

 故に、基本的には返ってくる件の少女の声――と言っても印象は聞いたそばからなくなってしまう不思議な声質――が聞こえないことに、士道は嫌な予感を覚えながら扉を開けた。

 

「……やあ、シン」

「おはようございます、令音さん」

 

 眠たげな双眸に、眠たげな声。そして隈深い目。いつ倒れてもおかしくなさそうであり、彼女こそが病人なのではないかと勘違いしてしまいそうな女性が士道を出迎えた。

 村雨令音がいつもそうなのだと知っている士道は、大して驚きもせずに挨拶を返し――――もぬけの殻(・・・・・)になった病室のベッドを見て、頬をひくつかせた。

 

「令音さん、もしかしてですけど……」

「……ああ。察しがいいね」

 

 察しも何も、遭遇率はそれなり。加えて、起伏を多く行わない令音の表情筋が絶妙に変化しているとなれば、士道でなくとも理由は知れるというものだ。

 

「これ、何回目の脱走でしたっけ?」

「……万由里の一件から、数えるべきかな?」

 

 ――――精霊〈アンノウン〉。白の少女が病室からまた(・・)脱走したということくらいは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっと見つけたぞ……っ!」

 

 脱走から一時間後。市内を駆けずり回って、汗を流し息を絶え絶えにしながら、士道はとある喫茶店で少女の姿を見つけた。

 

「……あれ、五河士道じゃないですか。どうしたんです、そんなに慌てて」

 

 キョトンとした顔――――と言っても、少女の顔は白い外装で隠れているため、伺い知れるのはさも〝不思議です〟と言わんばかりに斜めになった少女の仕草のみ。

 これからいよいよ肌寒い時期になるというのに、お洒落な喫茶店のテラス席で過ごしていた少女……に向かって士道は額に怒りを浮かべて声を発した。

 

「だ・れ・の・せ・い・だっ!!」

「私でしょうね。はい、お詫びのジュースです。歩き回って疲れたでしょう」

「え……お、おう」

 

 サラッと押し付けられたオレンジジュース。喉がカラカラになっていたのは事実なので、流れでストローに口をつけてしまう。

 

「これで、私と関節キスですね」

「っ、ごほっ!」

「……冗談ですよ。私のはこちらです」

「おま……え、なぁ!」

 

 気管に入って噎せた士道に、少女が揶揄うようにカップ(角砂糖が溶け切らずに見え隠れしている)の飲み物を見せびらかす。

 

「ふふ。顔もわからない私に遊ばれる程度じゃ、我が女王と戦えませんよ」

「う……わ、わかってるっての」

「……ま、あの子はあの子で、似たようなものですけれど。どうぞ、座ってくれて構いませんよ」

 

 何事かを小声で呟いた少女が、向かいの席を促す。先の飲み物といい、士道が来るを前提とした振る舞いにため息を吐きながらも、大人しく促されるまま座る。

 

「で……何してんだよ、こんなところで」

「何って……甘い物が食べたくなったんですよ。はい、あーん」

「いや、あーんって――――んぐっ!?」

 

 差し出されたパンケーキの切れ端を口元に押し込まれ、無理やり咀嚼させられる。何故だろう。美九センサー曰く危ないレベルの美少女(・・・・・・・・・・)がこの精霊であるはずなのだが、甘いシチュエーションに比べてそれっぽい雰囲気はまるで感じられなかった。ちなみに、パンケーキは馬鹿みたいに甘かった。

 

「ん……く。お、おまえさ、自分がどういう状態なのか理解してるよな?」

「してますよ。安心してください」

「できないからこうして探しに来たんだろうが……」

 

 病室に隔離されていることから、当然少女の肉体は普通の状態ではない。初期の危険からは脱したものの、未だ絶対安静なのだ。

 が、少女は恐らく(・・・)何食わぬ顔でパンケーキを切り分け、その見えない口に頬張って飲み込んで声を返した。

 

「律儀ですねぇ。心配してもらわなくても、時間が経てば帰りますよ。いつまでも解析官と二人切りは、ただ気まずいというだけですから」

「はぁ……そういう感じはしないけどなぁ」

 

 士道の知る限りで、世話を焼く令音と焼かれる白の少女に違和感らしい違和感はない。気まずい、というのは士道の目に見える範囲にはない。

 少女としても、その言い訳が適していないと思ったのか、言葉を改めた言い訳を並べた。

 

「じゃあ、病院食の味が薄い」

「病人に出すものだからな!? ていうか、甘い物食べたいなら令音さんか琴里に相談すればいいだろ」

「私、食に興味があるわけではないので。あなたが苦労しないよう、わかりやすい喫茶店を選んでるだけですから」

「……もう、俺にはおまえがわからんよ」

 

 脱走の行き場がいつも喫茶店に偏っていた理由はそれか、と脱走の癖に奇妙なところで士道に気を遣う少女に呆れた吐息を吐き出す。

 結局、この少女が何を求めているのかわからなかった。わかることと言えば、食に興味がないからといって、好みがないわけではない、ということか。

 角砂糖をぶち込んだ飲み物に甘ったるいパンケーキ。どことなく令音を思わせる辺り、気まずいなど嘘としか思えない。

 

「たくっ、理由がないなら、それ食ったら帰るぞ。病人が何してんだか……」

「他ならないあなたの頼みとあらば、仕方ありませんね」

「…………」

 

 本当に、掴みどころがない――――ただ一点、士道と少女を結ぶ『時崎狂三』の共通点を除いては、だが。

 外装という仮面を被る道化師の真意。それはいつでも時崎狂三のためにある。その果てにあるもの。そのために少女自身すら厭わぬ意味――――未だ士道は、少女の仮面の全てを見抜くことは叶っていなかった。

 と、案外と一口が小さい少女の飲食を腕を組んで眺めようとして、ポケットの中にある〝モノ〟の感触にあ、と目を口を開いて取り出した。

 

「そうだ、〈アンノウン〉。これに見覚えないか?」

「はい? なんです――――――」

 

 ――――空気が変わった。

 少女を纏う空気は異質だ。いるようで、いない。少女の白い外装はあらゆる違和感を遮断、或いは存在すら見えなくさせる。

 だが、それが揺らぐ。以前のように、少女の負った深い傷の影響か――――この『筺』が、それほどのものなのかと士道は息を呑んだ。

 

「……それを、どこで」

「気づいたら枕元に置いてあったんだ。狂三が直前で来てたんけど、明らかに狂三の趣味とは違うだろ?」

「……あの子が? 狂三は気がつかなかったんですか?」

「あ……言われて見れば、そうだな……」

 

 これだけ目立つ外観なのだ。気がついてもよかったはずだが、狂三からは何も言及がなかった。自他共に目の良さを認める狂三が、この筺に気がつかなかったことは言われてみれば違和感がある。

 偶然か、それとも本当に狂三が――――差し出した筺を、白の少女が手に取る。

 

「あ」

「……拝借します。開いても構いませんか?」

「ん、いいけど……」

「……失礼」

 

 士道のものではないし、勝手に開くのもどうかと思っていたのだが、少女のただならない雰囲気に押されて首肯する。まあ、それで持ち主がわかるのなら行幸かもしれない。

 少女が筺に手をかけ、開く――――瞬間。

 

「……っ!?」

 

違和感(・・・)。得も言えぬ、言葉にできない何かが士道の背筋をぞくりと貫く。

 同時に、その筺の中身が()であることに気づき、目を丸くした。

 

「空、か……?」

「…………」

 

 空の筺。意味深に置かれていた割には、拍子抜けだった。誰かのイタズラにしては意味がなく、士道が忘れているだけで買っていたとでもいうのだろうか。

 

「……申し訳ないですが、私には心当たりがありませんね」

「え……あ、ああ。わからないなら、いいんだ」

 

 と、少女が吐息を零して筺を閉じ、返してきた。意味深な態度を取っていた少女は、身に纏う雰囲気を違和感でありながら違和感のない、つまりは天使の権能を纏うものに戻す。

 

「……『私』が気がつかない? それに狂三の願いは回収して……ううん、まだ決めるには……私の天使が弱まっているときに――――――」

「……?」

 

 少女が何かを呟いている。が、士道にはそれがどんな意味でどんな言葉なのか認識できない(・・・・・・)

 

「なあ、〈アンノウン〉――――――あ」

 

 やはり何か知っているのかもしれない。筺をポケットにしまい込み、改めて問いかけてみようとしたところで、遠目からフラフラとした足取り(・・・・・・・・・・)でこちらへ向かってくる、私服に着替えたある女性の姿が士道の目に映った。

 

「あー……〈アンノウン〉? あのさ……そのー……」

「……? どうかしましたか? 何もないなら、私はこのまま二件目に――――――」

「……いや、君の二件目は病室だ(・・・)

「げ……ひゃあっ!?」

 

 ……すごく可愛らしい悲鳴が聞こえて、少女の小柄な身体が浮き上がった。

 一体、どれだけ競歩でやって来たのだろう。少女どころか少し目を離した士道すら見逃す速度で、少女を抱える女性――――村雨令音がそこにいた。

 

「……帰るよ。なに、そんなに甘い物が食べたいのなら、私が作ろう。プロ並みとはいかないが、文句はあるかい?」

「く、プロより上手いくせによく言う……は、離してくださいっ! 自分で歩きます! あなた、また出し抜かれたからって八つ当たりしてるんじゃ――――――」

 

 珍しい光景に士道は目を丸くする。少女を脇に抱え、有無を言わさず持ち帰ろうとする令音と、そんな令音に口では抵抗しているものの、いつものすばしっこい動きは見られない。

 理知的な令音にしては親しみあるやり取り。そして相変わらず令音に対しては強く出ない白の少女。

 

「……母娘? いや、のんびり目の姉にお転婆な妹……?」

 

 どちらも合っていそうなような、間違っていそうなような。……何を考えているのか、自分でも混乱する士道だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さてさて、夢か現か幻か。訪れたるは己と引き換えに全てが叶う、自由な世界。さぁさぁ、叶えたい願いを持った本日のお客様は――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――――久しぶりに自らの意志で選んだ睡眠は、快眠とは言い難いものだった。

 

「…………」

「――――お目覚めになられましたかな? 本日のお客様――――〈アンノウン〉様、とお呼びしても?」

 

 実像がない。足場がない。あるのは、己と目の前の少女の肉体のみ。

 滅紫の髪を靡かせ、両目を包帯で覆い隠した道化のような姿をした少女。

 全てが外装に包まれ、両目どころか顔を合わせることを拒む少女。

 演じる者は同じなれど、その様はまるで違う少女たちが対面した。

 

「……お好きなように。つかぬ事をお伺いしますが、あなたは?」

 

 あくまで初対面(・・・)として、少女は問いかける。滅紫の髪を揺らした少女は、姿見そのものに大仰に――――少女以上に〝道化〟を演じて、答えた。

 

「おっと、これは失礼。自分としたことが、礼を欠いてしまいました。――――自分は、この虚ろな世界の住人にして夢の請負人。希望の導き手にして哀れな道化。名を『蓮』と申します。どうぞ、お見知りおきを」

「……ふぅん。それで? その道化師様が、私のような余り物の精霊(・・・・・・)に如何な用です?」

「――――これはこれはご謙遜を」

 

その言葉にだけは(・・・・・・・・)、蓮の僅かな吐息(感情)が混じっているように思え、少女は外装の下でぴくりと眉根を揺らした。

 だが、一瞬の後にそれは消失した。大仰なる道化師が、その目的を口にしたからである。

 

「自分の用件はただ一つ。――――あなた様の願いを叶えることにございます」

「願い、ですか」

「ええ、ええ! 理想の世界! 全てを欲しいがままにできる富と名声! 全てはあなた様の願い通りに! どのような願いであろうと――――この蓮が三つ(・・)、叶えて差し上げましょう」

 

 あまりに荒唐無稽。胡散臭いという言葉を表現しろ、と問いを出されれば蓮と名乗る少女の態度は満点の解答として用意できることだろう。

 

「なるほど――――では、明日一日、五河士道と時崎狂三が憂い、使命、そういうものとは無縁の立場(・・・・・)で、デートをさせてあげることはできますか?」

「――――――はい?」

 

 蓮が、少女の願いに首を傾げた。

 

「できませんか?」

「……いえ、いえ。そのようなことはございません。どのような願いも皆平等。自分が叶えてしんぜましょう」

「そうですか。では、二人のデートを整えてあげてください。ああ、中身はあの二人に任せて結構です。必要なことは二人の立場――――狂三の譲れない願いを、ほんの一時だけ休ませてあげてください」

 

 ――――これが、狂三の信念を侮辱する行為だということはわかっている。

 それでも、少女は願った。単に、少女が欲しいものなどない(・・・・・・・・・・・・)、というのもあるのだけれど。

 

「あなた様の願い、承りました。己ではなく、他者のために迷うことなく願いを届けるそのお優しい心。この蓮、感服いたしました!」

「……見え透いたお世辞は結構です。――――この結果如何で、私の本当の願い(・・・・・・・)を聞いていただくことになるだけですから」

「――――――! なるほど、なるほど……それでは、その期待に応えてみせねばなりますまい。では、自分はこれにて。またの機会に――――あなた様の本当の願い(・・・・・)を叶えるそのときに、お会い致しましょう」

 

 ――――少女の気配が、遠ざかっていく。

 

「……さてさて、私が引き受けられたことが幸運だったのか。それとも、『私』が狙いであったのか。……鬼が出るか――――(へび)が出るか」

 

 狂三が今探し回って(・・・・・)いるものの正体。これが繰り返されたものなのか(・・・・・・・・・・・)どうか、今の少女では知ることは叶わない。

 三十年前の因縁。無価値な精霊の前に現れた、価値がありながら求められることのなかった精霊(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……『私』が撒いた種を、あの子たちに背負わせるわけにはいかないよね。本当に、どうなることやら。ねぇ、愛しい愛しい――――我が(憎悪)よ」

 

 価値のない精霊と、価値を押し付けられた精霊――――原初の母に求められなかった者たちの開口は、静かにその『筺』を開いていた。

 

 

 






蓮と未零が絶妙に要素被ってるのはマジの偶然なんです。意図してないんですすいませんゆるして。ちなみに劇場版とゲームのマリアを除くあの三人ヒロインの中で一番好きなのは蓮です。……私の好みがモロバレだぁ。

さてさて皆々様、お久しぶりです。そうでない方もいらっしゃるでしょうけれど、二周年に帰って来ました。くるみんに夢を見て士道くんを書き続ける男、いかです。
先ず久しぶりなので書き方とか、キャラに違和感があれば申し訳ないです。如何せんこの時系列ってどういう感じだっけな、というのがありまして……まあ士道くんと狂三はいつも通りでしたが。お互いに甘々ですねぇ。
けど、書いていてこういうシチュというか駆け引きは本編でももっと入れるべきだったかなーと反省しました。まあ書けるようになったのリビルド書き終わってからだとも言いますが。

なぜ蓮なのかと言えば、ネタが新婚プレイ編か蓮かで迷ったからです。純粋に未零を入れてあることをしたくなったので蓮を入れました。まあそこまで辿り着くのにどれだけかかるかわかりませんけれどね!!
未零は懐かしさを感じさせる時期ですが、ああ変わらんなぁこの子ってのを感じ取っていただければ。皆様の目には全て明らかになっている今、施しの精霊が蓮に何を思い、そして士道と狂三に何を与えようと言うのか……プロローグのみですが、お届けいたしました。

さて、ここからは近状報告です。次に書くやつ決めてたのに思いつきで始めた作品に時間費やして進んでません。はは、こやつめ。
実はその作品も同じデアラではあるのですが……その……かなり人を選ぶと思われますので、気になった方でもお気をつけを。一応同一人物が書いてます、はい。

この続きになりますが、私にもわかりません。そのもう一つの作品はモチベのせいで基本的に毎日更新を続けている(支離滅裂な発言)ので、こちらは数ヶ月後とか平気で有り得ます。あまり期待せずお待ちください。

それでは、望まれた物がないと思い込む少女と、必要のない物を押し付けられて生まれた少女。似て非なるものたちと、ヒーローとヒロインが織り成す物語。再びこの言葉を使わせていただきましょう。次回をお楽しみに!
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