デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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祝・お気に入り400件突破。感謝感激。新しく完結までの目標にしていた400がこんなにも早く突破して驚きばかりです。これからも頑張ります


第二十二話『もう一人の復讐鬼』

 

 

 彼女にとってその炎は悪夢だった。全てを奪い去った焔だった。殺す、必ず殺す。何が起ころうとも殺す。彼女のこの五年間はその為だけに存在した。

 ようやく見つけた、両親の仇。ASTに入ったのも、顕現装置(リアライザ)を扱うための技術も、この瞬間のためだけに存在した。

 

 憎悪と呪いを胸に、彼女は……鳶一折紙は〝力〟へ手を伸ばした。後でどうなろうと構わない。全ては〈イフリート〉を――――――五河琴里を、殺すために。

 

 

 

 

『あら、あらあらあら。面白いですわねぇ。そちらの風景が視界のような鮮明さで映っていますわ。楽しいですわ、高鳴りますわぁ』

 

「……狂三がいないからって、何もあなたがやる必要はないんですよ?」

 

『うふふ、残念。わたくしも時崎狂三ですもの。だから、これは正当な権利ですわ』

 

 時刻は午前十時前。場所は天宮駅東口――――を一望できる場所に少女は座っていた。理由は、もちろん五河士道と五河琴里の〝デート〟を監視……という名の尾行である。前回までなら精霊の戦力把握と緊急時の対応が主な目的だったのだが、今回は前者の理由が置き換わりあくまで少女の個人的な事情でこうして足を運んでいる……いるのだが、狂三が起き上がれないのもあり一人でやるつもりだったはずなのに、何故か通信先から『狂三』の声が聞こえてくるので開幕から少し頭が痛くなった少女であった。

 

「……そういうの、世間一般では〝屁理屈〟って言うそうですよ。どこかの誰かが言ってました」

 

『あら、あら。初耳ですわね。心に留めておきますわ』

 

 暴論だが言っている事は間違っていないからタチが悪い。言うまでもないが、通信相手はメイドの狂三である。こういうのをなんと言うんだったか……因果応報?

 

「まったくもう……まあ、あなたには狂三を見てもらってますからそこから動かない範囲でなら好きにしてください。一応言っておきますけど、モニターは壊さないでくださいよ。覚えてはいますけど作り直すのは手間なんですから」

 

『言われずとも分かっていますわ。それにしても、これを作ったのはこちらに来てからでしょう? あなた機械に強いんですのね』

 

「いいえ、全然。ただ作り方を見てそのまま(・・・・)作っただけです。応用しろと言われたら、面倒なのでお断りですよ」

 

『あなたの場合は盗み見て、という言葉が間に入りそうですわね』

 

「私をなんだと思っているんですかあなた……」

 

 まあ、大体合ってますけど、と少女は内心で思っていたりする。なんて事は無い、少女は本当に設計資料を見て、その作り方をそのままで制作したに過ぎない。ただ図式を見てその通りに理解した、それだけだ。

 

 そんな事をしているうちに、視界の先にいる士道の元へデートの相手、琴里がやって来るのが見えた。いよいよ、始まるらしい。

 

『さて、この逢瀬が琴里さんにとって最後となるのかどうか……あなたはどう考えていますの?』

 

「……ん。五河士道なら問題ないと思いますよ、私は」

 

『きひひ、随分と士道さんを高く買っていらっしゃいますわね。『わたくし』に感化されまして?』

 

 それは偶然なのか、いつだったか狂三に対して言った少女の言葉のオウム返しだった。確かに、彼女の言う通り士道へあるゆる感情を向ける狂三に感化された面はあるかもしれない。けれど、それだけではないと少女はローブの下で笑みを浮かべた。

 

「否定はしません。でも、私が五河士道を信頼した理由の大半は他にありますよ」

 

『お聞かせいただいてもよろしくて? それとも、秘密主義者のあなたはこの理由まで隠してしまうのかしら』

 

「……秘密も何も単純な理由ですよ。彼は――――ん?」

 

 目の前の光景に思わず少女の言葉が途切れた。会話をしながら、二人とも士道たちから目を離していなかったのだが……なぜか、その〝たち〟の部分が増えた。具体的には、二人とパペット一名が。

 

「あれは夜刀神十香に〈ハーミット〉……これ、五河琴里とのデートだったのでは?」

 

『世の中には、探せば男の方が一人女の方が三人の〝トリプルデート〟だってあるかもしれませんわよ』

 

「私が知っている〝デート〟は男女二人でするものなので、ありえないくらい珍妙なデートはあって欲しくないですね」

 

 どんな稀代のプレイボーイだ。いや、五河士道は世界の救世主とも言える稀代のプレイボーイかもしれないが。流石にあってたまるかそんなデート、と少女は思いながらも成り行きを見守り状況を分析する。

 五河士道は驚いた様子を見せているが、五河琴里はどうだろうか。彼女は司令官として、普段は精霊と士道のデートを見守り指示を出す側なのだ。

 

 

「……いや、これは五河琴里が許容しているパターンが――――」

 

「――――――へぇ、なかなか思い切ったことをするのねぇ、士道。今から楽しみだわ」

 

 

 なかった。キレていた。少女とメイド狂三をして凄い迫力だと思った。良い笑顔なのが逆に怖い。背景にオーラを纏っていそうな雰囲気すらある。というか纏っている。

 

『怒っていますわね』

 

「……怒っていますねぇ」

 

 ついでに言えば、士道が戦いている様子も見える。

 

『士道さん、本当に大丈夫なんですの?』

 

「……大丈夫だと、私は思いますよ」

 

 心無しか、さっきより少し不安そうな声だと聞き手は思ったそうな。

 

 

 前途多難で始まった五河士道たちのデートだったが、一行は無事目的地に到着した。舞台はオーシャンパークと呼ばれるテーマパーク。プールなどの大型施設から成るウォーターエリアと、遊園地がメインとなるアミューズメントエリアで構成された人気スポットの一つだ。

 彼らが今いるのは前者、ウォーターエリア。時期は少し季節が外れた6月という事もあり見たところ客入りは少ない。

 

「なんでこの時期にプールを選んだんでしょうね? 少々時期外れだと思うのですが」

 

『あら、だから良いのではありませんの。無粋な混雑ではデートの雰囲気が台無し、というものですわ』

 

「そういうもんですか……」

 

 少女としては好きな人と行ける場所なら大体楽しいんじゃないか、くらいの感覚なのでそこまで深く考えていなかったが……彼女の言う通り夏の大混雑に来たところでデートの雰囲気にはなりそうにもないのかもしれない。どちらかと言えば家族で遊びに、的な感覚になる。

 

「私は、こういった経験がないのでよく分からないですね……」

 

『うふふ、こういった事を察して殿方を立てるのも淑女の嗜みですわよ』

 

「……淑女はメイド服を普段着に選ぶんですかね?」

 

 少女がイメージする淑女とかなりズレている気がしたが、まあ彼女が淑女というならそれが淑女なのだろう。今更(・・)、彼女のメイド服にとやかく言うつもりはない。なぜなら狂三本人がもっと凄い(・・・・・)のを過去に何着も着ていた事があったからだ。

 ちなみに、今も狂三に内緒で後生大事に保管してある。五河士道に見せてあげたら面白そうだな、ちょっと思ったのも内緒である。

 

 そうこうしているうちに、士道が琴里の水着を照れながら褒めているのが見て取れた。まあ、これは流石に少女にも分かる。女の子が男の子のためにオシャレをしているなら褒めてやる、定番中の定番だ。とはいえ、普段彼へ指示を出す側に回っている五河琴里だ。最初こそ頬を赤くして効果あり、と思ったがすぐに冷静になって切り返していた。

 

「どこがどう可愛いのか……ですか。難しいこと聞きますね」

 

 相手は可愛らしい水着姿、しかも長年共に過ごした妹が相手だ。さて五河士道はどう返すのか――――――

 

 

「えぇっと……その……膨らみかけの胸が特にたまんないな」

 

「な……ッ!?」

 

「……えぇ……」

 

『……士道さん、あちら側のお方でしたのね』

 

 

 琴里は顔を真っ赤に、だがどこかほんの少し嬉しそうに(・・・・・)し、少女とメイド狂三は若干引き気味の反応を見せる。

 いや落ち着け。琴里が不在でも士道の耳にはインカムがあった、つまりこれは空の上の戦艦からの指示という事になって……それはそれで問題なのではないか?

 

「あの戦艦のクルー……こんな指示飛ばす人しかいないんですかね……」

 

『案外、士道さんの本心かもしれませんわよ? ほら、『わたくし』は着痩せするタイプですので士道さんも実は――――』

 

「それ、狂三が起きたら絶対に言わないでくださいね」

 

 正常な状態の狂三ならともかく、変な時に言ったら変な誤解を生みそうだった。そう言えば、夜刀神十香たちの水着を彼が選んだ時も、〈ハーミット〉の水着に一番の反応をしていた事を思い出し、なんかちょっと不安になった少女であった。

 なお、少女たちは知る由もないが、〈フラクシナス〉のクルーは変人ばかりではあるが今回の選択肢は変態(神無月)の独断だと付け加えておく。

 

 その後は〈ハーミット〉が暴走する些細(?)なトラブルがあったが、デートは着実に進んでいた。こちらから見て、改めて五河琴里が彼に胸を褒められた事を少し嬉しそうにしていたり、ナンパに偽装した組織の工作員を、五河琴里が一瞬で見抜いた上に全員の名前まで一語一句間違えずに覚えていたことに、司令官としての彼女に賞賛の念を抱いたり……その他諸々、少女たちは観察を続けていたが――――――

 

「……五河琴里のご機嫌、上がってると思います?」

 

『いいえ。むしろ時間が経つ事に冷めていると、そうわたくしには見えてしまいますわ』

 

「気のせいじゃありませんでしたか……」

 

 どうにも順風満帆な様子ではなく、少女は不安げな表情で昼食を取る彼らを見る。彼女の言う通り、琴里はつまらなそうに腕を組み昼食に手をつけてすらいない。どこからどう見ても、恋をさせてデレさせるなんて次元のご機嫌ではない。

 組織からの支援が彼女からすれば目に見えてしまっているからか、はたまた士道のエスコートがどこかぎこちない(・・・・・)ものだからか。

 少女から見ても、今日の彼はどこか今まで見た士道とは違っていた。なんと言うか、気を張り過ぎているように見える。相手は長年共に生きてきた妹だと言うのに……それが理由なのか、今日がリミット(・・・・)だと感じさせない琴里の気丈な姿がそうさせてしまっているのか。

 

「五河士道なら大丈夫だと思っていましたけど、これは間に合うのかどうか……」

 

『――――その事については心配ありませんわ』

 

 冷静な声で確信を持って告げられた言葉に、少女は驚きで目を見開く。その声色は、狂三が疑問の答えを見つけ出した時とまったく同じものであった。

 

「……どういう意味です? あの機嫌じゃ封印なんてとても……」

 

『あら、あら。そもそも前提が間違っていますわ。このデートの合否がどうであれ、琴里さんの霊力は封印出来てしまいますもの』

 

「……はい?」

 

 訳が分からない。精霊に心を開いてもらう――――有り体に言えば、恋をさせる。それが五河士道が封印を行う前提条件だ。相手は妹なので、心を開くという点ではクリアしているだろうが男性としての好感度は、デートの様子を見ていると上がっているようには思えない……そこまで考えて、少女は思い返す。確かに不機嫌そうには見えるが、士道にセクハラまがいの発言をされたのに彼女はどこか嬉しそう(・・・・)だった。

 

「――――もしかして、五河琴里は……」

 

『ようやくお気づきになられまして? そう、これは戦争(デート)としての価値はありませんわ。けれど、琴里さんのデート(・・・)としての価値はある。ふふっ、あなたも案外鈍いのですね』

 

「……私が恋をする予定は無いので、別に分からなくても問題ありません」

 

 少し悔しかったので、少女は強がりだと見透かされるのを分かっていても反撃とも言えない言葉を口にした。

 なるほど、彼女の言う通りこれは戦争(デート)の意味は無い。琴里の感情を完全に無視するなら、今やっていることは戦略的な意味などない(・・)。自然と精霊攻略の流れになっていたので見落としていたが、最初から気づくべきだった。元々、五河琴里は霊力を封印されていた(・・・・・)のだ。それを含めて、メイド狂三は気づいていたのだろう。

 狂三の時は単純に彼女の変化に気づいて、自身が持つ記憶(・・)を頼りにそうなのだろうなと結論付けたに過ぎない。まさか、五河琴里がそれほど(・・・・)とは先入観で気づきもしなかった。誰が思おう、彼の妹がそんなにも――――お兄ちゃん大好きっ子なのだと。

 

 しかし、それがわかった以上このデートを続けさせる利点(・・)はない。少女の予想では、琴里の身体は今現在も間違いなく無事ではない。少女でさえ危険性が分かるのだ、それが分からない五河琴里ではない筈だが……多分、分かっていてもこうなる事を望んでしまうのが〝恋〟なのだ。不条理で、理不尽で、理屈ではなくて、人を狂わせる感情。少女はそれを経験してはいない――――けど、よく知っている(・・・・・・・)

 

『琴里さんだけが移動なされますわね。どうされますの?』

 

「……五河琴里を追いかけます」

 

『レディの諸事を覗くご趣味がおありとは、士道さんに負けず劣らずですわねぇ』

 

「分かってて言ってるでしょう……あと、私も女の子なんですよ、一応」

 

 一応と付けたのは、ローブで姿を隠しているので少女自身あまり説得力がないと、少し自分でも悲しいが思ったからだ。

 席を立った五河琴里を追いかける。席を立つ前、様子がおかしかったのは見ていた。だからほぼ確信に近いほど、その先にある光景が少女には予想出来ている。

 

 

「ぁ――――ッ!」

 

「……大丈夫かい、琴里」

 

 

 その光景は完全に予想通りだった。ただし、当たって嬉しい予想ではなかったが。

 さっきまでの気丈な姿が嘘のように、酷く苦しげな様子で頭を押さえへたり込む琴里と、彼女を気遣う解析官が少女の視界に映っていた。予想は出来ていた。自分が自分でなくなってしまう恐怖と、襲い掛かる破壊衝動が常に彼女を襲っているのだ。その身が自分のものでなくなっていないこと自体、彼女の強靭な意思が起こしている奇跡のようなものだ。そして、それ以外にも理由はある。

 

「ええ、何とかね……でも危なかったわ……お願い」

 

「……今朝の時点でもう既に、通常の五十倍(・・・)もの量を投与しているんだ。これ以上は命に関わる恐れがある」

 

「ふふ……精霊化した今の私なら、薬物程度で死にはしないわよ」

 

 薬物投与。その尋常ではない量はもはや強引な延命措置に等しい。精霊とはいえ万能ではないのだから、かかる負担も並大抵ではない。そうしてまで五河琴里は――――――

 

 

「……お願い。士道との――――おにーちゃんとのデートなの」

 

 

 五河士道とのデートを選んだ。純粋な願い、強い想い。ただそれだけが、五河琴里を支えていた。この切なる願いを耳にしてしまった時点で……少女の取るべき択は一つに絞られた。

 

 

『意外ですわね』

 

「何がです」

 

『あなたが五河琴里に同情……とも言えるものを抱いたこと、ですわ。あなたはいつも『わたくし』を通して(・・・)人物を判断されていましたから』

 

「……ん」

 

 琴里たちから離れ元の場所まで戻った少女が、僅かな肯定を含んだ小さな返事を返した。彼女の言っていることは間違っていない。少女は常に狂三に利があるかないか、それで人を判断してきた。

 五河士道はその力があったからこそ、狂三に強すぎる影響を与えたからこそ気にかけた。〈ハーミット〉は狂三が気にかけたから、狂三の言葉もあって彼女を救う手助けをした。夜刀神十香は五河士道の大切な人だからこそ、狂三と気兼ねなく話してくれたからこそ少女は再び相対した。

 

 全ては、時崎狂三のためだけに。そんな少女が、五河琴里に同情にも似た念を抱いている。本来、琴里が自らの意思ではないとはいえ狂三を傷つけた事を考えれば、メイド狂三は疑問を持たずにはいられなかった。

 

 

「――――――理不尽だと、思っただけです」

 

 

 理由にすればたったそれだけの話だ。仮に、五河琴里が普通と変わらぬ精霊だったなら、少女は普段通り五河士道が精霊を救うことに、必要とあらば手を貸していた。そこに余計な感情はない。 だから、今回のように最後まで危険なデートを見届ける(・・・・)と決め、五河琴里に肩入れするのは、ただ彼女の境遇が理不尽(・・・)だと思ったから。

 

「勝手に力を押し付けられて、その上それが不良品(・・・)みたいな出来で……それでも、色んな重圧を背負って立つ五河琴里の心からの願いを叶えてあげて欲しい。そう、思ってしまっただけです」

 

 ――――もう一つだけ、五河琴里を気にかける理由が少女にはあるのだが、それを言葉にする時はきっと来ない。

 

『お優しいこと』

 

「どこがですか。最悪、私が責任取って五河琴里を止めるっていうだけです。まあ――――そんな心配はなさそうですけどね」

 

 そう言った少女の視界に映るのは、覚悟を決めたいつも通り(・・・・・)の五河士道。

 

 

「俺――――――実はプールより遊園地の方が好きなんだ」

 

 

 ああ、少女が信じた(・・・)精霊を救う少年の姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

「上手く、行きそうですね」

 

『きひひひひひ。それはそうでしょうとも。要は、琴里さんは士道さんとデートがしたいだけ(・・・・・)なのですから。琴里さんは士道さんの事を一番よく知っている……そして、琴里さんはそんな士道さんが〝大好き〟なのでしょうね』

 

「……だから周りが余計な気を回さずとも、五河士道がいつものように五河琴里と過ごせば良かった。ということですか。叶えて欲しいとは言いましたが、なんというか――――――」

 

『茶番、などと言うつもりはありませんわ。わたくし、乙女の気持ちという物にも理解がありますもの』

 

「悪かったですね、鈍くて」

 

 軽口を叩けるくらいには安心して見ていられる、と少女はフッと微笑む。

 夜刀神十香は〈ハーミット〉と別の遊び場へ向かい、士道と琴里は遊園地へと場所を移してデートを再開していた。その中身は、さっきまでの不安が全部吹き飛んでしまうくらいには、まったく案ずる必要もないと思えるものだ。なんというか、いつも通りの着飾ることがない二人、とでも言えばいいのだろうか。

 

『あなただって言っていたではありませんの。琴里さんは様々な重圧を背負っている、と。琴里さんの立場、士道さんの立場……その両方を考えれば、お二人の逢瀬の機会というのは限られてしまいますわ』

 

「五河士道の妹にして、組織の司令官……立場というのは、面倒なものですね」

 

 おそらく一番、士道に近い関係であるはずの琴里はしかしその立場故、精霊を攻略するという使命がある士道とデートをする、というのは難しいものがあったのかもしれない。だからこうして、精霊攻略という大義名分をつけて無理にでもデートをしたかった……見たところ、少し素直ではないところがあるので、それも原因かもしれなかったが。

 

『立場……と言えば、琴里さんが今の地位にいらっしゃるのは精霊となって(・・・・・・)からのお話でしょう? あなたは琴里さんがいつ精霊になられたのかも、知っていらっしゃるのでして?』

 

「五河士道が力を封印した最初の精霊、それが五河琴里だと分かった時点で予想だけなら。確証はありませんけど、恐らく五年前の――――?」

 

 少女が言葉を切り眉をひそめる。視界の先、ベンチに座る士道と琴里の様子におかしなところはない。だが僅かな違和感と、そして奇妙な駆動音(・・・)を少女の聴覚が捉える。何かが近づいてくる(・・・・・・)、そう少女の感覚が確信を持って告げていた。

 視線をさ迷わせ辺りを見渡す。当然、琴里は精霊の力を使っていないし、一般人も大勢見受けられる。だから、その〝ほぼ〟ありえないだろうとしていたのだ――――故に、遥か上空を見上げ少女は目を見開いた。

 

 

「――――鳶一、折紙……!?」

 

 

 瞬間、五河琴里だけ(・・)に爆撃が降り注いだ。黒煙が巻き上がる、ついで引き起こされたのは一般人たちの悲鳴。辺り一帯がいきなり焦土と化したのだから、人として当然の行動だ。少女が驚いたのはその悲鳴でも、放たれたミサイルを難なく炎で防いだ琴里でもなく、鳶一折紙がそんな凶行(・・)を行ったという事実であった。

 少女の視界に捉えたということは通信先の彼女も事態を把握している。呆気に取られる少女の耳に、嫌に冷静で冷たいメイド狂三の声が届く。

 

『あら、あら……わたくし、折紙さんはもう少し聡明な方だと思っていましたのに、大胆な事をなさるのですね』

 

「大胆で済めば良い方でしょう。彼女、一人で戦争でもする気ですか……!!」

 

 鳶一折紙はワイヤリングスーツこそ普段のものだが、彼女の装備が問題だった。取り付けられたミサイルポットに両腕のパーツからは大型のレーザーブレード、更に外側には巨大な砲門が二対。これを見て戦争を思い浮かべるな、という方が難しい。まるで小型の戦艦(・・)……明らかに普段見るASTの装備ではない。

 

『琴里さんを狙っての事でしょうし、戦争という表現は間違っていないかもしれませんわね』

 

「それにしたって、なんでこんな後先も考えない事を――――――」

 

 ASTの技術や活動は秘匿事項。精霊という存在を含めて、だ。それを知らない鳶一折紙ではないし、それを無視して関係ない人間を巻き込みかねない行動を、少女が調べた鳶一折紙がするとは信じられなかった。

 

 だがどれだけ調べても所詮、それだけでは上っ面だけにしかならない。人の感情は、人を突き動かすものは本人とそれを知るものにしか分からない。

 そして少女は鳶一折紙を見る。琴里とぶつかり合う、折紙の〝瞳〟を。

 

 ――――憎悪にまみれた、悲しくも優しい瞳を。少女はこの〝瞳〟を知っている(・・・・・)。記憶からではなく、少女自身がそれをずっと見ていた(・・・・)から。

 

 

「――――狂三」

 

『? 『わたくし』がいかがなさいましたの?』

 

「っ……いいえ。とにかく、どっちが勝ってもろくな事にはならなそうです――――借りを返しに行きます」

 

 静観の選択肢はない。これは、狂三に直接関係がある訳では無い。けど、士道が関わった時点で捨て置く事は出来ない。例えそうでなくても、少女個人の理由が少しだけ出来てしまっていた――――戦う二人の少女、両方に、だ。

 

 少女が地面を蹴り上げ、一直線に戦場へ跳ぶ。奇しくも、鳶一折紙の使っているユニットは白……少女とまったく同じ色。

 

 

「〈イフリート〉!! お父さんとお母さんの――――――仇ッ!!!!」

 

 

 折紙の叫びが少女にも聞こえる。もしかしたら、彼女のこの行動は正当な理由があるのかもしれない。もう一人の復讐鬼と呼べる折紙を止める権利は、おそらく少女にはない。

 

「やっぱり――――あなたも優しいんですね」

 

 けれど理由はある(・・・・・)。少女は呟いた言葉とは裏腹に、同じ白を容赦なく蹴り飛ばした(・・・・・・)

 

「ッ――――誰っ!?」

 

 五年前からの復讐鬼が〝白〟と相対する。少女が返す言葉は、相変わらずどこか気取ったものだった。

 

 

「通りすがりの、精霊ですよ――――!!」

 

 

 

 







通りすがりの精霊だ、覚えておけ!(例のBGM)
乙女心は大変ですねって言う。最近シリアス続きで色々堪えきれなかった部分が如実に出ている気がする。琴里のデートの詳細が知りたい方はデート・ア・ライブ四巻『五河シスター』をどうぞご購入ください。あと原作の美しくも恐ろしい狂三を見たい方は三巻『狂三キラー』もどうぞよしなに。

白い少女のこと、少しは伝わったら良いなーと思いながら今回と次話を書き進めています。まだまだ秘密だらけですけどね、この子。次回、襲来した五年前の復讐鬼、そして琴里封印はどうなるのか、一話で纏めるつもりです。その後は、いよいよ……

それではまた次回。感想、評価などなどどしどしお待ちしておりますー!

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