デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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対応するタイトルが士道くんの復帰回。であるならば……


第二十四話『愛を捧げられし少女』

 

 

 目を覚ました狂三が認識したのは、見覚えのないマンションの一室だった。

 

「……あら?」

 

 見覚えがない、と思い浮かんでから彼女がその思考に疑問を感じて小首を傾げる。見覚えがないなら、なぜ今自分はマンションの一室(・・・・・・・・)だと思ったのだろうか?

 辺りを右に左に見渡すと、部屋として必要な物は一通り揃っているのが分かる。そして、その配置がまるで自らが行った(・・・・・・)かのように自然だった。

 

 一致しない記憶と認識に頭を混乱させている彼女の元に、誰かが鳴らした部屋のチャイムが届いた。

 

「……?」

 

こんな時間から(・・・・・・・)チャイムが鳴るだなんて珍しい――――ああ、また頭が混乱する。なぜ自分は、今の時間が早朝(・・)だと知っている?

 理解が追いつかない頭とは違い、身体は自然と玄関に向かって動いていた。廊下を渡り、やたら分厚いドアを狂三が開ける。

 

「――――おはようだ、狂三!!」

 

「……十香、さん? おはよう……ございます?」

 

制服(・・)に身を包み、元気一杯な挨拶をする夜刀神十香の姿が扉の先にはあった。恐ろしいまでに整った顔立ちから繰り出される愛くるしい笑顔は、自覚がある美少女の狂三をしても眩し過ぎると言い切ることが出来た。あまりに突然の事で、彼女にしては珍しく歯切れが悪い挨拶をしてしまった。その様子を見た十香が、首を傾げながら声を発した。

 

「む、どうしたのだ狂三。もしや、調子が悪いのか?」

 

「え……い、いえ。なんでもありませんわ。それより、十香さんの方こそこんな朝早くにどうなされましたの?」

 

「狂三こそ何を言っておるのだ。今日は学校(・・)へ行く日であろう」

 

「――――――ああ」

 

 十香の言葉を聞いて、ようやく彼女の中にストン、と納得が生まれる。

 今更、自分が十香と同じ制服(・・)を着ている事に気がついた。そうだ、なぜ忘れていたのだろう。今の狂三は十香と、そしてあの方(・・・)と同じ学校に通う――――()精霊なのだと。

 

 

 

「本当に大丈夫なのか? 何かあれば遠慮なく言うのだぞ」

 

「えぇ、ご心配には及びませんわ。少しらしくもなく、ぼんやりしてしまっていましたの」

 

「そうか……身体の調子が悪くなったら令音に見てもらうのだぞ!」

 

「はい。お気遣い感謝いたしますわ」

 

 先にこのマンションで人間の生活をしていた先輩……と言っていいのだろうか。そういう意味もあってか、十香は狂三をよく気にかけてくれていた。単純な人間生活、という意味合いでは人間社会に溶け込んでいた狂三の方が、実は圧倒的に先輩だったりするのだが……十香の気遣いが純粋に嬉しい狂三にとっては、どうでも良い事だった。

 それに、溶け込んでいたと言ってもこんな形で人間の少女らしい生活を送ることは、精霊になってから(・・・・・・・・)一度足りともなかった。

 

 これを、長らく忘れ去っていた、忘れようとしていたこの感情の名を――――――楽しい、というのだろう。

 

「……今日も、良い天気ですわねぇ」

 

「うむ! こんな日に食べるシドーの昼餉は、きっと物凄く美味しいのだろうな!!」

 

「うふふ、いつもはそうでないような言い方ですわね」

 

「なっ! そ、そんな事はないぞ!! シドーが作るごはんはいつだって美味しいのだ!!」

 

「もちろん、分かっていますわ。ちょっとした冗談ですわ」

 

 からかわれたと分かった十香がむぅ、と可愛らしく頬を膨らませ、狂三がそれを見てクスクスと笑みをこぼす。

 マンションの出入口へ向かうまでに行われるたわいのない会話。これが、なんてことの無い日常というもの――――一人の少女が心のどこかで望んでいた夢のような光景(・・・・・・・)

 

 

「おお、シドー! おはようだ!!」

 

「……!」

 

 自動ドアが開いた途端、十香が足早に駆け出して行く。その先にいた少年を見て、狂三は立ち止まった。少年を見ただけで、心臓の鼓動が高鳴る。沸き起こる歓喜の感情――――――同時に、狂三の聡明な頭脳がようやく正しく働いた。ああ、これはありえない(・・・・・)と。

 

 少年が十香を、そして狂三を見て笑顔を見せる。それは、屈託のないこの世で一番幸せだ、というのに相応しい笑みだ。毎日この微笑みが見られるだけで、きっと狂三は幸せな気持ちになれる。

 

「おう、おはよう十香――――おはよう、狂三」

 

 でも、そうはならなかった(・・・・・・・・・)。狂三はこの幸せな未来を観測する事は叶わない。時崎狂三は、時の精霊(・・)はこの未来を観測する資格がない。自らが観測者でないのなら、この未来を選び取る事は不可能なのだから。

 

 選び取らなかった(・・・・・・)未来。故にこれは幸福であり、残酷(・・)だった。それでも、狂三は笑った。この夢の続きを選び取った自分が、万が一にもいたのなら、どうかこの方の手を離さないようにと。

 

 

「おはようございます――――士道さん」

 

 

 ――――その優しい手を掴まなかった者の祈りにしては、歪で、滑稽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酷い、夢」

 

 こんな夢ばかり覚えているだなんて酷い話だ。狂三が身体を起こすと、以前感じた動けなくなる程の激痛は感じられなかった。あれだけのダメージがこんなに簡単に消えているという事は、自分の身体は精霊のまま……そんな当然の事実を確認してしまった事に、自嘲した表情を見せる。

 無くす事が出来たのに、それを選ばなかったのは他ならぬ狂三自身だと言うのに。

 

「お目覚めですか、我が女王。気分はいかがです?」

 

「……えぇ。不本意ながら、悪くありませんわ」

 

「それは何より。夢見が悪くないのは良い事です」

 

 備えられた椅子に腰掛ける白い少女の気取った言い回しに、寝起きにも関わらず慣れた対応を取る。最初に目覚めた時も近くにいたのだから、少女がいることはなんら違和感もない――――しかし、意識が落ちる直前、どこか雰囲気が違った気がした事を思い出し思わずじっと少女の顔を見つめてしまう。とはいえ、顔も何もローブに隠れて分からないのだが。

 

「……私に何か付いてます?」

 

「なんでもありませんわ。それより、わたくしが眠っている間の事を報告してくださいまし」

 

 如何に狂三と言えど、自身の意識がない時の事までは把握出来ない。あの後、何があったのか……あの方は、無事なのか。それを含めてすぐに把握する必要がある。普段なら分身体に報告させるところだが、少女がいるならそれでも問題はなかった。

 

「畏まりました、女王様――――あなたが回復に使った期間は三日と言ったところです。その間に、五河琴里の再封印(・・・)が成されました。鳶一折紙の暴走もありましたが、何とか全員無事に事は済みました……五河士道も含めて」

 

「……そう、ですか。折紙さんの暴走、とは?」

 

「五河琴里、〈イフリート〉が五年前に鳶一折紙の両親を殺した精霊……という誤解から彼女が強引に襲撃を仕掛けました。この襲撃の際、私が自己の判断で介入させていただきました。申し訳ありません」

 

「それがあなたの判断なら構いませんわ。わたくしは、あなたの意思を縛るつもりはありませんもの――――五年前の、精霊」

 

 五年前、炎の精霊――――――天宮市大火災。街を焼き払う焔、その業火を駆ける少年――――二人へ近づく〝何か〟の姿。そこまでキーワードとビジョンが浮かんだところで、狂三は頭痛を感じ顔を顰める。

 あの大火災は知っている。だが、狂三は突如起こった火災の様子を見に来ていただけ。なのに、なぜ自分はこんな光景を――――――そこまで考えたところで、狂三は少女の発した声を聞き思考を中断した。

 

「それともう一つ。申し訳ありません」

 

「……? なんの事ですの」

 

「言い付け……手を出すなという指示、破ってしまったでしょう」

 

 はて、と少し首を傾げてから、記憶を瞬時に掘り起こしようやく合点がいった。いったが、少女のあまりの律儀(・・)さに狂三は吹き出してしまう。

 

「そんなこと、謝る必要はありませんわ。あなたがいなければ危ないところでしたわ。むしろ、わたくしがあなたに謝らねばなりませんわ」

 

「狂三が……?」

 

「えぇ、えぇ。長くは待たせないと言いながら、わたくしが気まぐればかり起こしているせいで、あなたの〝計画〟が遅れていると思いましたの。でも、心配いりませんわ。わたくしは必ず士道さんを――――――」

 

「狂三」

 

 言葉を止める。いや、止められた。初めて聞く、少女の咎めるような(・・・・・・)声色に狂三は目を丸くした。

 

「私はあなたの指示、あなたの選択に従います。けど、それはあなたの選択ではない(・・・・・・・・・・)

 

「…………」

 

「私の〝計画〟を……あなたが道を選ぶ理由(・・)にしてはいけない――――逃げ道に、してはいけないんです」

 

 

 ――――ああ、嗚呼。この子の言う通りだ。

 

 今、時崎狂三は逃げた(・・・)。あの方を〝喰らう〟。それは、狂三が〝悲願〟を成す為に狂三自身が選んだ道だ。誰のものでもない、彼女だけが持つ激情によって選択されたもの。それを狂三は、たった今曲げてしまった。自分の〝悲願〟の為ではなく少女の〝計画〟の為にあの方を〝喰らう〟と、責任を別の物に押し付けて逃げ出したのだ。

 なんて、無様。なんて、愚か。自分が背負うべき咎を、狂三は都合よく逃れようとした。何より、そんな当たり前の事を言われなければ気づかない自分に、ほとほと呆れ返ってしまった。

 

「――――分かって、いますわ」

 

「……はい」

 

「分かっています。士道さんはわたくしの〝悲願〟に必要なお方なのですわ。そんなこと、わたくしが一番わかっているのですわ。だから、だから……」

 

「……選べないでしょう。今のあなたには。自分をあんなにも追い詰めて、自暴自棄になっても、狂三は五河士道を取り込む事をしなかった。それは――――――」

 

 その先の言葉は、狂三が一番よく分かっていた。

 時崎狂三は致命的な想いを抱いてしまった。それは修羅を征く者には不要で、不条理で、必要のないものだった。しかし、それを切り捨てることが出来ない。狂三には、出来なかった。

 ちぎれんばかりにシーツを握りしめ、感情を押さえ込もうとする。けど、出来なかった。

 

 狂三は初めて(・・・)、少女の前で感情をぶちまけた(・・・・・)

 

 

「えぇ、えぇ。分かっています――――分かっていますわ、そんなこと!! 認めて差し上げますとも!! わたくしは、士道さんの意志を蔑ろにしてあの方を喰らうだけの覚悟も強さもないと!!!!」

 

 

 情を抱いた。どんな時でも厳しく自分を律してきた彼女が、偶然にも抱いてしまった感情。嫉妬であり、憧れであり……優しいからこそ、失わせてしまった命に報いる為に地獄を選んだ少女が、その光を求めてしまうのは偶然であり、必然だった。

 

 

「なら、どうしろと言うんですの!! わたくしは立ち止まってはいけないのですわ!! 悲願を諦めて――――――紗和さんを見殺しになど絶対に出来ませんわ!!!! なのに、なのに、どうして……わたくしは……」

 

「…………」

 

「わかっていますのに、これしかないと。ですのに――――どうして、わたくしが(・・・・・)士道さんと出会ってしまったのでしょうね……」

 

 

 出会わなければ、きっと違う未来があったはずなのに。でも、出会ったからこそ狂三はこの想いを抱いた――――それを否定したくない心が、まったくもって憎たらしい。

 肩で息をして、放っておけば泣き出してしまいそうだった。いつもの超然と、自信に満ち溢れた狂三の姿はどこにもなかった。だから、少女は――――――

 

 

「……狂三」

 

「なんで――――きゃっ!?」

 

 一発、デコピン(・・・・)をお見舞いしてやった。

 

「っ、い、いきなり何をいたしますの!?」

 

「そのままだと泣きそうな顔してたので。泣くなら私の前じゃなくて五河士道の前で泣いてくださいね、我が女王」

 

「なっ。だ、誰が……っ!!」

 

「――――沢山、悩めば良いじゃないですか」

 

 え? と額を押さえて呆然とする狂三を見て、少女はローブの下で微笑んだ。

 まったく、色々と急ぎ過ぎなのだ……この愛おしい女王様は。

 

「急ぎすぎなんですよ。狂三は頭が良いから、さっさと結論出してしまいますけど、選べないならもっと悩んで良いんです。止まったっていい、弱音だって私の前で遠慮せず吐けば良い」

 

「けど、わたくしは……」

 

「止まれない。そうでしょうね。でも、立ち止まってもまた(・・)歩き出せば良い。悩んで、いっぱい悩んで、答えを見つけてから動き出しましょう。他の誰が、あなたが立ち止まることを許さなくても――――私が許します(・・・・・・)

 

 許されない。彼女はそう言った――――なら、少女がそれを許そう。傲慢だと言われようと、誰が時崎狂三を否定しようと、少女だけは狂三を受け入れると。

 

「例えばそうですね……こんなのはどうです? 狂三はさっき五河士道の意志を蔑ろにして、と言いました。だったら、五河士道に(・・・・・)そう言わせてやれば良いんですよ」

 

「……は?」

 

 何を言っているのだ、この子は。という表情で見やる狂三に、少女は構わず観衆を笑わせるピエロのように言葉を続ける。

 

「ですから、狂三の魅力で言わせてしまいましょう。ああ、ああ、狂三様。どうかわたくしめをあなたに捧げさせて(・・・・・)くださりませんか……とかね。そうすれば彼は狂三と一緒にいられて、狂三も悲願を果たせてお互いウィンウィンの関係。ほぉら、万事解決でしょう」

 

「――――ぷっ、ふふふふ……な、なんですのそれ。めちゃくちゃですわ、狂人の発想ではありませんの!」

 

 ああ、おかしいですわ。と心から笑いが止まらないという様子の狂三。こんなに笑ったのは、一体いつぶりだろうか? すっかり、忘れてしまっていた気がする。

 

 ふと、狂三の視界が反転する。いや、反転というのは正しくない。少女が、狂三を抱きとめて(・・・・・)いた。急にされたことなのに、ローブの上から感じる少女の温もりはとても心地が良くて、身を任せたくなるものだった。

 

「……ん。やっぱり、狂三は笑ってる方が似合いますよ」

 

「あら、あら。わたくし、口説かれているのかしら?」

 

「はいはい、愛していますよー狂三ー」

 

「感情が篭っていませんわねぇ……」

 

 どちらからともなく笑い出す。こんな軽いやり取りも、本当に久しぶりだった。ここに来て、悲願が現実に近づいてきて、こんな冗談を交えたやり取りをしている余裕さえなくなっていた気がする。

 

「……どんなに悩んだって良いんです。人は、考えられるから悩む事が出来るんでしょう?」

 

「わたくし、人ではなく精霊ですのよ」

 

「あなたは精霊になる前は人だったでしょう。それに、考える事が出来るなら人も精霊も変わりませんよ」

 

「屁理屈ですわ」

 

「なんとでも」

 

 狂三の悲願を知っている。背負うものを知っている。時崎狂三という少女がどんな想いを抱こうと、時崎狂三という精霊に譲れないものがある事を知っている。だから少女は、時崎狂三を受け入れる。

 

「……五河士道のこと、彼の周りのこと――――『始原の精霊』のこと。どんなに時間がかかっても悩むだけ悩んで、それから答えを出してください」

 

 そうやって出した結論が、たとえどんなものだったとしても――――――

 

 

「狂三の出した答えを、私は受け入れます。その答えがどんなに酷いものでも、世界中の人に聞き入れてもらえない物だとしても、誰に否定されようとも――――――私だけは、その答えを肯定(・・)します」

 

 

 誰に望まれた訳でも無い、生まれた意味などない(・・・・・・・・・・)精霊だとしても、それが少女の生きる意味。生きている価値。それだけの、話なのだ。

 

「……あなた、どれだけわたくしの事が〝好き〟なんですの」

 

「さっき言ったじゃないですか。愛していますよ、狂三」

 

「き、ひひ。それにしては、必ず答えを出せだなんて厳しい事を仰りますわね」

 

 自らの腕で少女から離れ、見合う。紅の瞳、時を奏でる黄金の瞳……その両方が力強く彼女こそが『時崎狂三』だと告げていた。

 

「私の知ってる狂三は、物事を中途半端に放り投げたり出来ない子ですから」

 

「ああ、ああ。その通りですわ、その通りですわ。だって、わたくしが――――時崎狂三なのですから」

 

 悠然と、超越者のように笑う。大胆不敵で、相手を魅了し、手玉に取る。優しいくせに素直じゃなくて、強情な、彼女がいた。

 神に愛された美貌を持ち――――五河士道に愛された、時崎狂三がそこにいた。

 

「……ん。もう大丈夫そうですね」

 

「らしくない所をお見せしてしまいましたわ。感謝いたします……少し、迷う事を覚えてみますわ――――――これからは(・・・・・)

 

「はい…………ん?」

 

 今度は少女が狂三の言葉に目を丸くする番だった。

 狂三は笑っていた。さっきのような可愛らしいものではなく、凄絶で狂人(・・)のような笑みで。

 

 

「……狂人の発想だと言ってませんでしたか、我が女王」

 

「きひ、きひひひひひひ! えぇ、えぇ。そうですわ、そうですわ。ですがわたくし――――とっくに狂って(・・・)いますもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あなたの思い描いたシナリオ通り、という結果でよろしいのかしら?」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれませんね」

 

 なんですのそれ、と呆れ顔で白い少女を見やる狂三。ただし、メイド服の、と付く狂三だが。部屋に狂三(オリジナル)は既にいない。二人は仲良くお留守番、というやつである。

 

「ある程度の期待がなかった、と言えば嘘になります。けど、こんな結果になるなんて私には想像出来ませんでしたよ」

 

「わたくし、あなたは物語の黒幕のような存在だと思っていましたわ」

 

「私にそんな力はありませんよ……いえ、あったとしても、誰にも分からないでしょう。男女の〝恋〟なんて理不尽で不条理で、そのくせ世界を狂わせるような感情は」

 

 当初は少女も、目の前にいる彼女だって狂三が目的に〝条件〟を付けるだなんて思いもしなかった。どんなに惹かれたとしても、狂三は最後にはなりふり構わず悲願を果たそうとすると思っていた。実際、そうしようと動いたはずだ――――それを覆した五河士道の強さが、予測不能な結末、否、始まり(・・・)を作り出した。

 

「あら、あら。案外ロマンチストですわね」

 

「言ってなさい。私は知ってるだけですよ。そういう〝恋〟に狂った方を」

 

 空を見上げる。澄み渡る夜空だ。絶好のデート日和と言えるだろう。

 〝悲願〟も〝計画〟も、状況だけ見れば遠退いた。だがまあ、少女としてはより良い結果(・・・・・・)になる可能性が出来たことが喜ばしい。

 

 恐らく――――どこかの亡霊(ファントム)も一安心しているのではないだろうか。

 

 

「〝器〟の完成に必要な力はあと――――――さて、どうなることやら」

 

 

 少女の独白は、誰にも聞こえることなく星空へ消える。かくして、正体不明の少女が見た二人の歪な物語は、新たに始まろうとしていた。

 

 さあ――――素敵な戦争(デート)を始めましょう。

 

 

 







時崎狂三が悩み、受け入れるものとは何か。彼女が出す答えとは。次回、アンサー編最終回及び第一部完、のようなお話になるかと思われます。もちろん、物語の締めくくりはあの二人です。

全力で出張った白い少女の出番もまた次章へ。ある意味狂愛とも言える物を見せた少女は何者なのか、まだまだ全ては明かせませんが……正直、書いてみてこんな強烈な忠犬のようなキャラになるとは思いませんでした(小声)
フォーカスの大半は士道くんと狂三に当たっていますが少女にフォーカスが当たる機会がまたそのうち来るかもしれませんね。

ではまた次回をお楽しみに! 感想、評価などなどお待ちしておりますー
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