デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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まあ狂三をメインヒロインとしている以上、原作にないキャラとのイベント進行もありますよね。狂三はある意味もう一人の主人公と言っても差し支えなかったり。そんな感じの第二十九話、どうぞ


第二十九話『その矛盾を知る者』

 

 

「……死ぬかと思った」

 

「向こう見ずも程々になさらないと、本当に身体を壊してしまいますわよ」

 

 予備の浴衣に袖通し、湯飲みに注がれたお茶を飲みようやく一息ついた士道。隣には呆れ気味ながら彼を気遣う狂三もいる。咄嗟の行動だったとはいえ、高所から海水へのダイブはなかなかにスリリングだった。二度と体験するのはゴメンだと思うくらいには。

 〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の回復能力のお陰でかなりの無理が利く士道の肉体だが、それ以外は普通の人間と大差がない。当然、海面に身体を打ち付けた上に冷水に全身を濡らして平然としていられるような耐久力はないので、狂三が助け出してくれなければ少し危なかったかもしれない。

 しかし、回復能力頼りで向こう見ずだったのは狂三の言う通りではあるのだが、他に方法がなかったのも事実なのだ……士道が何事にも動じない鉄の精神を持っていたら話は別だったかもしれないが。

 

「すまん、狂三がいてくれて助かった……けど、突然いなくなったと思ったらあんな所にいるだなんて、マジで心臓が止まるかと思ったぞ」

 

「うふふ……御二方が面白そうな話をなされていたので、わたくしもご相伴にあずからせてもらおうかと思いましたの」

 

「……なるほどな」

 

 笑顔であの場にいた理由を語ってくれた狂三を見て、士道は呆れ半分で息を吐いた。大変に眼福な光景ではあったが、危うく人間としての尊厳というか、色々なものを失いかけたので笑い事ではない。

 多分、彼女はそういった事態も考慮に入れ、士道へ助け舟を出すつもりでいてくれたのであろうが。

 

「てか俺が来るって分かってたのに、のぼせちまうくらい露天風呂の中で待ってたのか?」

 

「……えぇ、わたくしとした事が不覚でしたわ」

 

「本当に待ってたのかよ……」

 

 言えない。そんなに長い時間は待っていないが、聞いた時はやる気に満ち溢れて準備をしていたにも関わらず、いざ士道と裸同然の格好で顔を合わせると何だか妙に気恥ずかしくなって内心ではいっぱいいっぱいになってしまったせいだなんて、言えない。

 

「……ん。そろそろ良いかね?」

 

「あ、すみません令音さん。大丈夫です」

 

 タイミングを見て声をかけて来た令音へ頭を下げる。駆け込む先がここしか思い浮かばなかったのだが、狂三が同伴していても特に動じる様子がないのは流石と言うべきか。

 ぞんざいな締め方の帯のせいか、士道の言葉に頷いた際に浴衣から見えてしまった胸元(・・)が微妙に目に毒でサッと目をそらす。

 

 その瞬間、足を軽く抓られた。言うまでもなく、隣にいる狂三の指先で。

 

「っ……お、おい……」

 

「はい。何かございまして?」

 

「……ナンデモナイデス」

 

 小声の抗議は、狂三の笑顔にあっさり封殺された。なんだろう、怖い。笑顔なのに凄みがあるというか。とにかく、反論するには士道の勇気がいくつあっても足りなそうだった。

 

「……どうかしたかね?」

 

「い、いえ、なんでも。それより〈フラクシナス〉との通信は回復したんですか?」

 

 原因は不明だが少し前から〈フラクシナス〉との通信が途絶し、連絡が取れなくなっていた。精霊とコンタクトを取る上で彼らのフォローがないのは少々と不安なところがあったので、回復していれば良いと思っていたのだが……無言で首を振る令音を見て、僅かに肩を落とす。

 

「そう……ですか。えっと、じゃああの二人――――耶倶矢と夕弦は……」

 

「……これを」

 

 士道の問いに頷いて、ノートパソコンを操作した令音が画面を見るように促してくる。それに従って覗き込んだ画面の中には、望遠で撮影されたと思われる風の中で踊る二つの人影が映し出されていた。表示された細かな数値や文字列は分からないが、人影だけでもそこに映る人物は想像するに難しくなかった。何せ、士道はこれと似た光景を実際に今日、目にしているのだから。

 

「――――耶倶矢さんと夕弦さん、ですわね」

 

「……ああ、恐らくね。彼女らは我々の中ではちょっとした有名人でね……その反応を見るに、狂三は知っていたようだね」

 

「えぇ、えぇ。実際に立ち会うのは初めてですが、わたくしの耳にもよく入っていましたわ。暴風を司る二人組の精霊さんのお話は」

 

 ……何やら令音と狂三は二人で納得しあっているようだが、事情が分からない士道にも分かるように説明して欲しかった。

 

「あの……有名人、っていうと」

 

「……彼女らは〈ベルセルク〉と呼ばれている。君も見ただろうが、風を伴う精霊だ」

 

「御二方は世界中で現界なされているのですが、その度にじゃれ合い(・・・・・)を続けているのですわ――――精霊同士(・・・・)のじゃれ合い、と言えば士道さんにもよくお分かりになりますでしょう?」

 

「ああ……」

 

 頬をかいて昼間の事を思い返す。一瞬で気候を変化させ、辺り一面を地獄絵図へと変えた驚異的な暴風。精霊にとってはじゃれ合い(・・・・・)程度でも、人類にとってそれは〝天災〟に他ならない。狂三の言うように、精霊の力をよく知る士道は彼女の言いたいことを察する事が出来た。

 

「各地で起きている突発性暴風雨の何割かは、彼女たちが引き起こしたものだろう。その上、目撃情報も非常に多いときている」

 

「きひひひ! 精霊の存在を隠し通したい皆様からすれば、無自覚に天災を撒き散らす厄介な存在ですわ。何せ、空間震の反応を頼りにしていては捉えようがありませんもの」

 

「空間震……そう言えば、警報が全然なら鳴らなかったけど、あの二人は静粛現界したのか……?」

 

 あれほど近くに精霊が現れたというのに、空間震警報が発令された様子は全くなかった……そこまで考えて、ふと別の疑問が生じた。

 

「……静粛現界って言えば、狂三たちはどうしてるんだ? 一度も空間震から現れたところ見たことないけど」

 

 狂三と白い少女は両者共に神出鬼没な精霊だ。その上、あくまで予想の話になるが二人は同時に行動していると見られている。士道としても、その辺の事情は聞ける時に聞いて見たかった。

 彼の問いかけに、存外あっさり彼女は口を開いてくれた。

 

「どうしてる、と言われましても……わたくしたち、隣界からは来ておりませんわ」

 

「は……? せ、精霊は隣界から来てるんじゃないのか!?」

 

「そういう子が大半でしょうけど、少なくともわたくしとあの子は違いますわ。そもそも、いちいち向こうから来ていたら目立ってしまいますもの。不便ですわ」

 

 その通りではあるが、精霊の常識とされていた事を〝不便〟の一言で片付けた事に士道は唖然となる。なんて事はない質問に答えた、と言わんばかり平然とした狂三が嘘をついているようには思えない。それに、こんな事で嘘をつく理由はないし、常にこちらにいるというなら別々の精霊が二人同時に活動している事も辻褄が合う。

 

 衝撃の事実に驚く士道とは正反対に、さして驚いた様子が見られない令音が話を続ける。彼女の場合、驚いていても表情に出なさそうでどの道、士道にはどちらか判別出来ないが。

 

「……話を戻そう。二人は静粛現界をしたわけでも、ましてや狂三達のようにこちらに留まっていた訳でも無い」

 

「じゃあ、どうやって……」

 

「――――空間震は起こっていた。ただし、この島から遥か離れた位置で。そうですわよね、村雨先生?」

 

 狂三の確信に満ちた言葉を聞いて、士道が目を丸くして彼女を見遣る。その不敵な微笑みは、当てずっぽうで放たれた言葉のものでは無い。令音が小さく首を倒した事で、それは正しいものだと証明された。

 

「……その通りだ。予兆は確認されていた――――太平洋沖の遥か上空で、ね」

 

「そこから、数百キロという距離を移動なされて来たのですわ。僅か数分足らず、わたくしでさえ反応が遅れてしまうほどの速度で」

 

「な……っ!?」

 

「幸運ですわね、士道さん。いいえ、運命とでも言うべきかしら。これを逃せば、もうお二人を封印する機会はございませんわよ」

 

 悪戯っぽい笑みで告げる狂三に、士道はゴクリと息を呑む。これまでの情報を整理すると、自ずと彼女の言っている意味がよく分かる。

 同じ精霊の狂三でさえ、反応が遅れたと言わしめる移動速度。幸か不幸か、上空での現界により予兆を確認しても対応が遅れ、現界し切ってから追ったところで風の精霊に誰が追いつけるというのだろう。狂三の言う通り、そんな風の精霊と出会い、あまつさえ目をつけられてしまうなど、とんでもない幸運(・・)と言うべきものだった。

 

「……そう。この機を逃したなら、何の冗談でもなく封印のチャンスは二度とやって来ないかもしれない。そこで頼みがある――――君たち、二人に」

 

 それぞれ視線を飛ばされ、士道は目を丸くし狂三はピクリと眉を上げる。

 

「狂三も……ですか?」

 

「……ああ。まずはシン。今回はかなり特殊なケースだ。どちらが君を籠絡できるか競う精霊……仮にどちらかにキスをしたとしよう。その時、どうなるかな?」

 

「それは……」

 

 都合よく二人とも封印、なんて事は起こらないだろう。同一の精霊……しかし、封印が片方に施された時にもう片方がどうなってしまうのか。少なくとも、良い結果は得られそうにない。

 

「……様々な危険が伴う事は想像に難しくない。だから一つ、策を講じさせてもらった。彼女らと話し、修学旅行の最終日――――つまり明後日の朝までに、君にどちらが魅力的かを選択させると」

 

「……明日一日で、耶倶矢と夕弦をデレさせろ、と?」

 

 かなり無茶な話ではある。一日の猶予で、二人を同時に攻略する。しかも、キスの問題を解決出来てはいない。

 士道の疑問を読み取ったのか、少し違うと首を横に振った令音が……耳を疑うような一言を告げた。

 

 

「……今回、私は(・・)、君をデレさせる(・・・・・)

 

「――――――――は?」

 

「……だから君は、その上で二人をデレさせてくれ(・・・・・・・)

 

 

 言ってる意味が分からなかった。あんぐりと口を開けた士道に対して、令音は至って真面目に言葉を続ける。

 

「……私が耶倶矢と夕弦にインカムを渡し、君を〝攻略〟する手助けを行う。君の協力で、私のアドバイスが的確である、という信頼を得る事が出来れば――――二人同時に(・・・・・)、君にキスをさせることだって出来るかもしれない」

 

「……っ!」

 

 理論上の話ではあるが、確かにその方法であれば安全な封印が可能かもしれない。が、それはあくまで可能性(・・・)の話であって、そこに至るまでの道が無茶だ。今は、〈フラクシナス〉のサポートを受ける事が出来ないのだから。

 

「……無論、苦渋の策には変わらない。〈フラクシナス〉との通信が出来ない以上、〈ラタトスク〉からのサポートは受けられず、君への負担は相当なものになる」

 

 一度、令音が言葉を区切り狂三に視線を向ける。そして士道にとっては、さっきの発言以上に耳を疑ってしまう言葉を発した。

 

 

「――――――だから、狂三にシンのサポート(・・・・)を頼みたい」

 

「………………はぁ!?」

 

「……シンと彼女たちのデートを、君がフォローしてやって欲しい」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!! それは……」

 

「士道さん」

 

 

 凛とした声が響き、士道が口を出すことを狂三が自ら制する。

 思わず隣に座る狂三の表情を見るが、いつものような微笑みは見られない。ただ、無表情で令音を見つめていた。隈に飾られた水晶のような瞳と、血のように紅い瞳、時を奏でる金の瞳が真っ直ぐにぶつかり合う。

 

 令音はとんでもない事を言っている。狂三の事を理解していて、こう言っているのだ。士道が他の女を落とす(・・・)事の手伝いをしろ、と。冷や汗をかく、とかいう次元の話ではない。

 

「自分が何を言っているのか……お分かりですの、村雨先生」

 

「……分かっている。その上で、君の力を借りたい――――――シンを、頼む」

 

 令音が深々と頭を下げる。それを見ても、狂三の表情は揺るがない。士道は唾を飲んで見守る事しか出来なかった。

 士道と狂三の関係を知った上で、令音は士道が他の女とデート(・・・)する事を受け入れ、更には上手くいくようフォローしてくれと直球に言っている。

 狂三の機嫌を損ねる危険性のある、分の悪い賭けだ。同時に、狂三にこれからの精霊攻略を〝許容〟してもらえるかもしれない選択でもある。

 

 狂三が、小さく息を吐く。それだけで、士道は肩を揺らして判決を待つ罪人のような気分になった。

 

 

「そういう言い方は、ズルいですわ」

 

「……すまない。何分、私は口下手でね。気を悪くしたなら謝罪しよう」

 

「必要ありませんわ――――――引き受けましょう」

 

 狂三から飛び出た言葉にギョッと驚きを見せる士道。頭を上げた令音が、今一度狂三に礼を述べた。

 

「……ありがとう」

 

「構いませんわ。わたくしにとっても、利になる事ですもの……それを分かっていて、提案したのでしょう?」

 

「……さて、ね」

 

「狂三……」

 

 良いのか。そう士道は聞きたくて微笑みを戻した狂三の名を呼んだ。その想いを汲み取ったのか、はたまた別の理由か。彼女は視線を向けて鋭く士道を射抜くように見つめる。

 

「このままでは、あの二人のどちらかは消滅しますわ」

 

「っ!」

 

 主人格をかけた争い。決着がつかなくとも、いずれはどちらかが消滅してしまう運命。ならば、この手でその座を勝ち取る。そんな理不尽な勝負が士道の目前で繰り広げられている。

 

 

「――――――士道さん、わたくしに見せてくださいまし。決められた運命(・・)を覆す力が、あなた様にあるのかどうかを」

 

 

 士道がやらなければ、確実にその未来が訪れる。そうなってしまったら、誰も救われない。手を伸ばすことを躊躇っていたら、誰も救えない。士道が二人の霊力を封印する事さえ出来たのなら、決められた運命とやらを変えることが出来るのだ。

 

 ――――見せてみろ。狂三はそう言った。士道にはそれが、本当に狂三を救えるのか(・・・・・)、その力があるのか……その可能性を見せて欲しい。と言っているように聞こえた。

 

 

「わかった――――やってみる。俺は、あいつらを救ってやりたい(・・・・・・・)

 

 

 危険だとか世界がどうだなんて関係ない。理不尽な運命なんて、変えてやる。その程度の事が出来ない男なら――――――好きな女一人(・・・・・・)救うことなんて出来はしない。

 

 力強く頷く士道を見て、狂三が笑みをこぼす。それはまるで、士道ならそう言うと思った……そんな、優しげな微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「なぜ、村雨先生はわたくしを精霊さんの攻略にお誘いになったので?」

 

「……うん?」

 

 先程とは違う別室にて、士道を風邪の看病(・・)という名目で〝攻略〟しようとする耶倶矢、夕弦をカメラ越しに見やりながら、狂三は令音へ問いただした。コテン、と問いかけに首を傾げながら彼女は口を開く。

 

「……利になること。そう、君も言っていただろう?」

 

「リスクが高すぎますわ。気に入らないからとわたくしが癇癪を起こし、全てを台無しにする事だって考えられましてよ」

 

「……ん。君ならそういう事はしないと、私は思うよ」

 

 狂三にとっても利にはなる。狂三が士道の霊力を求める以上、彼が精霊封印を続ける事は彼女にとってはメリットの塊なのだ。しかし、それを手伝えというのは狂三の〝想い〟を知っている筈の令音が取る選択としては些か軽率だと思えてしまう。加えて〈ラタトスク〉の支援が受けられない状態だと、あっさり明かしてしまったのだ。

 

「楽観的ですわね。わたくしが、嫉妬の一つもしない誠実な女だとお思いですの?」

 

「……いや、その感情は人として正常なものだ。けど、君はそれを抑える事が出来る子ではないかね」

 

「……買いかぶりすぎですわ」

 

 フッと、暗くした表情で自虐するように笑う。何を持って狂三をそこまで評価しているのかは知らないが、随分と信頼されたものだ。

 確かに、秘めた感情を振り回して理不尽に相手に押し付けるほど狂三は子供ではない。しかし、自らの感情を完全に制御出来るなどという驕りも、今の狂三には存在しなかった。

 

 ――――自分でも少しだけ、怖いのかもしれない。この、新たに芽生えた感情が。

 

 

「……そうかい?」

 

「そうですわ。淑女たるもの、そういった事に気を使っているのは事実ではありますけど」

 

「――――――君なら、いざという時にシンを守ってくれると思ってね」

 

 

 最初の質問の答え、なのだろう。突然放たれた令音の言葉に、狂三は僅かに驚くような仕草をしてから、呆れ気味にその言葉に返事を返す。

 令音が狂三に頼んだ本当の理由は理解出来る。理解は出来るが、それは彼を殺そうとしている(・・・・・・・・・)精霊に頼むことではない。

 

「……何を、言っていらっしゃいますの」

 

「……ふむ。不服かい?」

 

「当たり前ですわ。わたくしは士道さんの命を狙っていますのよ。そんなわたくしに、あの方を守る事を願うだなんて馬鹿馬鹿しいですわ。一体、何を考えてそのような事を――――――」

 

 狂三の険しい表情で放たれた言葉は、令音の静かな、しかし強い意志を感じられる声によって遮られた。

 

 

「――――――愛とは、矛盾するものだろう?」

 

「――――――――」

 

 

 目を丸くし絶句する。時崎狂三とあろうものが、人の前で一瞬とはいえ思考を停止させてしまった。それ程までに、令音から放たれた言葉が衝撃的すぎた。目の前の、大人の雰囲気を醸し出す村雨令音から、真顔で言い放たれたものとは思えなかったのだ。なんというか本当に……〝意外〟の一言だった。

 

「…………き、ひひ、きひひひひひひひひひひひ!! なんですのそれ! おかしいですわ、おかしいですわ。笑ってしまいますわ、笑ってしまいますわ!!」

 

「…………」

 

 笑いが止まらない。ポリポリと頬をかいて困っている令音には悪いが、狂三が溢れ出るこの笑いを止めることは出来そうになった。

 

 愛は、矛盾するもの。何の恥ずかしげもなく、あの令音の口から出た言葉という笑いと――――――それを分かってしまった(・・・・・・・・)自分への、自虐的な笑い。

 

 だって、時崎狂三は知っているではないか、その矛盾を。何せ自分は、殺そうとした(・・・・・・)相手に〝恋〟をして、失いたくない(・・・・・・)と思ってしまった矛盾だらけの精霊なのだから。

 

「……私も、一人の女性という事さ」

 

「えぇ、えぇ。そうでしょうとも。けど――――――それなら、仕方ありませんわね」

 

 不思議だ。いつもなら、こんな本音で言葉を交わすことはありえない。狂三という精霊は、己の内を簡単に明かすような人物ではない。強情、とよく言われてしまう程の精霊なのだ。だから、本当に不思議だった。気づかぬうちに、本音を晒して話す感覚。覚えがある。そう、まるで――――――

 

 

『――――いッ、いやああああああああッ!?』

 

「……あら」

「……おや」

 

 画面から響く甲高い悲鳴。普通なら女性側のものだと思うのだが、上げているのは女性ではなく男性。さっき、カッコよく宣言をした士道の非常に可愛らしい――狂三主観――悲鳴であった。……ちょっと唆るというか、邪な考えをもってしまった狂三は悪くない筈だ。

 

 自己弁護もそこそこに、画面を確認すると……何故か士道の服を脱がしにかかる二人の姿が映っていた。普通、逆のシチュエーションだと思うのだが八舞の二人は既にあられもない姿になっている。士道がしたとは思えないし、自らやった事なのだろう。

 

 最初の光景の時点で、二人がするには急に雰囲気が変わっていたとは思ったが……と、狂三の〝影〟から白い手が彼女を小突く。分身体の定期連絡だった。一度令音を見やり、分身体の事は知られているし問題ないだろうと、指示を出して影から分身体を出現させた。

 

「――――はあ、十香さんと折紙さんが原因でしたのね」

 

 耶倶矢が添い寝、夕弦が士道の汗を舌で直接(・・・・)舐めとる。という攻めを繰り出していたが、どうやら他人からの入れ知恵だったようだ。どちらがどちらのアドバイスか……まあ、言うまでもなく添い寝が十香、変態行為が折紙だろう。前者はともかく、後者が羨ましいかは狂三にとって悩ましいところであったが……悩ましいと思う時点で、少し手遅れだとこの場にいない少女なら突っ込んだ事だろう。

 

「それで、今お二人は? …………は? 件の対象と共に枕投げ?」

 

 ……何をしているのだろうか。警戒して分身体を放っていたが、なぜ例の魔術師がそんな事に巻き込まれているのか、如何に聡明な狂三でも理解できそうにもなかった。

 労いの言葉と共に分身体を下がらせ、令音を見遣る。無言で数秒見つめ合ったが、そんな事をせずとも次に取るべき行動は決まり切っていた。

 

「……わたくし、士道さんを連れ戻しに行きますわ」

 

「……すまないね」

 

 

 ちなみに、再び裸同然で部屋から飛び出したところを狂三の影に保護された士道は、ちょっと心に傷を負って寝込んだ。好きな少女に見聞きされるのは、男の矜恃を傷つけるには十分だったらしい。

 

 

 








その矛盾を語る人物としてはこれ以上ないと思っています。今は深くは語れませんがね。

隣界についてちょっとだけ触れましたけど、多分もう触れる事はほぼない気がします。てか触れようがないんですよね収拾つかなくなりますし。せいぜい真那と狂三関連で過去にあった事が若干変化してるんじゃないかなぁくらいですし……狂三が色々やって真那が追いかけてた構図は変わりませんしね!(知っての通り要素が重なってやった事は少しだけマイルドになってます)

最近書いててこの主人公とヒロインナチュラルにイチャついたり、お互い心の中でシレッと欲望ダダ漏れしてんなってなってます。この小説やってる事は本来起こるイベントシーンに狂三が関わったりして会話シーンが変化したり時にはイベントそのものが変化する、って感じなのでいちゃつく二人はノリと勢いで入れていきたいスタイル。

次回、果たして八舞の二人は狂三の目にはどう映るのか。感想、評価などなどお待ちしております。次回をお楽しみに!

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