デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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ナイトメアの誘い。送筆なのが数少ない取り柄なんじゃないかなーとか思ったりする今日のこの頃


第三十話『悪夢の誘い』

 

『っ、ふぁ……っ』

 

『痙、攣。う……ぁ、っ』

 

「…………」

 

 浮気現場を覗く妻の気分は、もしかしたらこういうものだろうか。だとしたら、とてもとても貴重な体験をしているのかもしれない。画面の中で水着姿の耶倶矢と夕弦にローションを塗る士道を見ながら、狂三はなんとも言えない表情でそう思った。

 別に、士道が塗っているのは卑猥なものでも何でもなく、ただの日焼け止めローションなのだが……こう、士道がテクニシャンなのが原因なのか妙に二人の声が艶かしい。建前上はフォローという名目なので、インカムを渡され士道といつでも通信を繋げる状態ではあるが、フォローする必要すらなさそうだった。

 

 ……元々、狂三からすれば攻略のフォローなど必要ない。と言うより、士道が精霊の心を開かせる必要があるのに、そこに他の精霊である自分が表立って手を出すのはその妨げになるのではないか、というのが狂三の考えだった。

 自分が原因で、精霊攻略に士道が集中出来なくなる……なんて、自惚れた考えは持っていない。士道がそういう器用な人物でないことは、狂三自身がよく知っていた。そういう愚直で、優しいところが狂三にとっては好ましく、それでいて少し――――――思考していると、連絡用の端末から着信が鳴り響いた。スピーカーの状態にしてテーブルに置き、迷いなく声を発する。

 

「もしもし」

 

『――――はぁい、我が女王。バカンス、楽しんでます?』

 

 ナンパか。盛大に呆れを含んでそう思った。勿論、ナンパ師を連絡先に登録した覚えはないので、間違いなく聞こえてきているのは白い少女の声だ。

 

「それなりに、と言ったところですわ」

 

『……ふむ。五河士道は――――――』

 

『ぅ、あ、あぁぁぁっ!』

 

 大声が二人同時に聞こえてくる。どうやら、くんずほぐれつした後、二人揃って士道の神の指の餌食となったらしい。

 

「……可愛らしい御二方と、デート中ですわ」

 

『……デートと言う割に、随分と淫靡な声ですね』

 

 自分ではなく、このプランを取った令音に言って欲しい言葉だった。まあ、プライベートビーチで行われていることなので誰に見られる心配もなし、という事なのだろうが。

 

『……よろしいのですか? あなたなら、五河士道が他の精霊と相対している時だろうと介入する権利がありますし、彼もそれを拒まないでしょう』

 

「士道さんが精霊を封印できれば、それは将来的にわたくしの霊力となりますわ。なら、それを止める理由はありませんわ」

 

 元より、士道が勝負を受けた時から決めていた事だ。士道の精霊攻略が自身の戦略上、有効であるのは明白だ。それ以上に――――――あの方の精霊を想う純粋な気持ちを、土足(嫉妬心)で踏みにじる権利は狂三にはない。

 

 それに――――――

 

 

『ちょ、ちょっと大丈夫!? 大丈夫じゃない!! こ、こういう時はえーっとえーっと……!!』

 

『救急。落ち着いて、ひとまず湯船から引き上げるべきです。早急に』

 

『そう、それよそれ!! 流石は夕弦!!』

 

 

 ――――――もう少し悪い子たちだったら、嫉妬のしがいもあったというのに。

 

『……我が女王は優しいですね。男の浮気を許すのも、淑女の嗜みですか』

 

「そうですわね……精霊さんの十人程度なら、寛容な心で許して差し上げますわ」

 

『あらあら。ちなみに、もし精霊以外で浮気したら――――――』

 

「殺しますわ」

 

 

 沈黙。端末から乾いた笑いすら返ってくることはなく、聞こえてくるのは画面の中の三人の声だけである。

 

「……冗談ですわ」

 

『狂三が言うと冗談になりません。心臓に悪いです』

 

 狂三としてはほんの冗談だったのだが、かなり本気のトーンで抗議されてしまった。自分で思っているより、真に迫る声だったらしい。

 

『シドー!!』

 

『っ、十香……!?』

 

「あら……」

 

 戯れもそこそこ、画面に視線を向けると何やら少し遠くから十香の声が聞こえて来た。ご丁寧に、カメラが一台海の方向へ向けられ……めちゃくちゃなフォームでビーチまで泳ぐ十香と、対照的に美しいクロールで泳ぐ折紙の姿が確認できた。士道たちはレンタカーで移動するくらいには、この海岸まで距離があるはずなのだが、なんとも並外れた行動力と士道レーダーである。

 

「――――――『わたくし』」

 

 パチン、と指を鳴らす。すると、たちまち〝影〟が面積を増し、白い手が現れたと思えば狂三と全く同じ顔をした少女が部屋に現れた。定期連絡用の分身体。十香に動きがあったのなら、必ず監視対象(・・・・)にも動きがあると踏んでいた。少人数で孤立状態、更に沖へ泳いでいく目撃証言がある……となれば、DEM側からすれば十香を狙うにはこれ以上ない好機であろう。

 

「対象の動きは?」

 

「砂遊びをしていますわ」

 

「………………はい?」

 

「ですから、クラスの皆様と砂遊びをしていますの。身体をがっちり埋められていましたわ」

 

 分身体と仲良く困惑の表情を浮かべる。

 ……もしや、十香を狙っているという情報は勘違いで、純粋に遊びに来ているのではないか。そう考えてしまう狂三はきっと悪くない。なんで、DEMが誇る最強の魔術師が、士道のクラスメイトと仲良く、砂遊びをしているのだ。

『あははははは!! その様を見に行けないのが残念です』

 

「……夜闇に乗じて動くでしょうし、今は放っておきますわ」

 

『ああ、我が女王。余裕があれば自称・最強の魔術師に私からの〝贈り物〟をよろしくお願いしますね』

 

「分かっていますわ」

 

 とはいえ、相手は世界最強と謳われる魔術師。あんなふざけた物(・・・・・)を使う余裕が果たしてあるのかどうか。狂三は自分の力を過信しない。油断と慢心は最大の敵だ……もしや、枕投げや砂遊びは敵を油断させる作戦なのだろうか?

 

『――――聞こえるかい、狂三』

 

 と、唐突にインカムから令音の声が響く。理由は察しがつく。十香と折紙の介入による、プラン(・・・)の変更だろう。

 

『プランBへ移行する。手伝ってもらえるかね』

 

「――――了解ですわ」

 

 先ほど考えた士道の近くでの支援は避けたいと言う気持ちと、士道の近くへ行ける喜びが交錯する。そんな想いをまるで悟らせることなく、短く言葉を返した狂三が変装道具(・・・・)へと手を伸ばす。些か、不安の残る変装だが――――あの子(・・・)の力があれば、後はこれが後押しとなるだろう。この格好なら、士道を魅了する事なく文字通り影に徹する事が出来るはずだ、と狂三は素早く着替えを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「――――はっ!?」

 

 士道は目を疑った。目がおかしくなったのかと思った。耶倶矢と夕弦にインカムを通してアドバイスを出す筈の令音がいるのは、まあ直ぐに説明してもらえるだろう。だが、令音の隣にいる人物……の、格好が問題だった。

 

 帽子にサングラス。長い黒髪はポニーテールで括られ、普段とのギャップがまた愛らしい。更に、惜しげも無くさらけ出された美脚が究極に眩しく、一部の隙もなく羽織られたパーカーは〝履いてない〟と思わせてしまう絶対領域を生み出していた。

 

 最高だ。サムズアップをしたくなる――――ではなく、士道が彼女を見間違えるはずがない。間違いなく彼女は……。

 

「……せっかく人数が増えたんだ。あちらにコートを設置してある。ビーチバレーでもどうかな? ちょうど、旅行に来ていた私の友人(・・)が審判を買って出てくれてね――――時子さんと言うのだが」

 

「ぶはっ!!」

 

 堪えられなかった。時子って……いや時子って。他になかったのか。ペコリ、といつもとは違いさも普通の人です、みたいな様子で頭を下げて時子さんが挨拶をするが、こんな変装でみんなの目を誤魔化せる筈が――――

 

「ふん、まあ良かろう。何をしようと我が頂点に立つことは決まっているからな。両の眼を見開き、我が勝利を観測するが良い!!」

 

「承諾。構いません。どうせ勝つのは夕弦です。厳正なる審査を求めます」

 

「…………マジか」

 

 誤魔化せた!? なんでバレないの、俺がおかしいの? そんな士道の声にならない声は誰にも届くことなく、十香と折紙まで自称・時子さんに違和感を……折紙は怪訝な表情をしていたが、持つことなく移動を始めた。

 

「れ、令音さん」

 

「……ああ。十香と折紙というイレギュラーに対応してプランBを取らせてもらったよ。一緒のチームで戦う事によって、彼女らの結束、仲間意識を――――――」

 

「いやそっちじゃなくて!! 狂三ですよ狂三!! なんですか時子って!?」

 

「……ダメかい?」

 

 心底不思議そうな表情で首を傾げる令音に、むしろ、何が良いと思ったのか聞きたいくらいだった。ベッタベタな変装についてか、雑極まりない名前についてか。

 

「名前については、わたくしも異議申し立てをしたいところですわ」

 

「……そうか。時間があれば、もう少し良い名前を考えられたんだが」

 

「……別に嫌というわけではありませんけど」

 

「……すまないね」

 

 士道の知らぬ間に、二人が仲良くなっていることに目を丸くする。女性同士、何か通じ合うものがあったのかもしれない。それはともかく、色々と言いたいことが時子……もとい狂三にあったのでコートに辿り着く前にさり気なく隣を歩き小声で会話する。

 

「狂三。その変装……」

 

「ふふっ、みすぼらしい格好でしょう? ちょっとした裏技もありますが、お陰で士道さん以外にはバレませんでしたわ」

 

「――――――いや、んなことねぇよ。思わず見惚れちまった。すげぇ可愛いよ」

 

「な……っ!?」

 

 カァ、っと狂三の頬が分かりやすく熱を帯びた。前を歩く折紙が足音がズレたのを不審に思ったのか、振り向いて来たので慌てて頭を下げて誤魔化す。

 

「……わ、わたくしを口説いている場合ではありませんわよ」

 

「すまん。つい本音が出た」

 

「……あなた様のお言葉を疑う訳ではありませんが、こんな格好の何がよろしいので?」

 

「言い出したら止まらないぞ。それでも良いなら全部言うぜ」

 

「口惜しさはありますが、遠慮しておきますわ。本当に、士道さんは不思議な感覚をお持ちですこと」

 

 帽子を深く被る仕草をしながら、可笑しそうに狂三が笑う。

 いや、絶対領域は青少年の夢だと思うんだがなぁ。士道はほぼ狂三限定だし狂三だからこそ反応したのだが。仮に水着姿だったら、もっと露骨な反応で狂三をべた褒めした自信があった。なんて事を思っている間に、士道たちはバレーコートに辿り着いた。

 

厳正なる(・・・・)くじ引きの結果。Aチームは耶倶矢、夕弦、士道。Bチームは十香、折紙、令音。という結果になった。不満タラタラだろうが、くじ引きはくじ引きである。たとえ、絵柄の名前が令音にしか分からないものだろうと、くじ引きには変わりない。

 

 ちなみに、残っていた不満は勝ったチームにはシンの誰にも知られたくない秘密を教えよう、という一言で見事に解消された。士道の抗議は、当然のように受け入れられなかった。あと、サングラスの下で狂三の瞳が輝いていた気がした。四方八方、敵だらけなのは言うまでもない。

 

 ……確実に競技を間違えている十香のネットを貫く弾丸サーブから始まり、無事試合開始と相成った。

 

「往くぞっ!!」

 

 勇ましい声で、意外と綺麗なフォームで耶倶矢が相手にボールを放つ。

 

「おお、来たぞ!」

 

「邪魔しないで」

 

 十香が動く前に辛辣な声で制する折紙に相変わらずだなぁ、と思ったのは一瞬のこと。レシーブされたボールを、後ろの令音が綺麗なトスを上げ――――――凄まじい暴力の塊であるその胸が揺れに揺れ、士道は思わず視線を釘付けにされた。悲しいかな、男の本能というものである。

 

『し・ど・う、さぁん?』

 

「ひ……っ!?」

 

「警告。危険です」

 

 分かる。言われなくても分かる。耳元のインカムから聞こえたはずなのに、恐ろしい殺気が士道の全身を穿つ。今すぐ彼女の前に馳せ参じて、土下座の一つで許してもらえれば盛大な措置だろう。

 当然、そんな殺気を感じ取れたのは士道だけなので、夕弦の警告は別のものだ。高々とジャンプした十香が、勢いよくボールを叩きつけた。

 

 その弾丸に士道は反応できなくとも、精霊である耶倶矢と夕弦は容易く反応し滑り込む――――――が、同じ位置に駆けたものだから、当たり前のようにお互いの頭をぶつけて倒れ込んだ。

 

「くあっ! なっ、何をしているのだ夕弦!!」

 

「反論。こちらの台詞です。邪魔をしないでください」

 

 ピーッと無情なホイッスルの音が鳴り響く。チラッと、その笛の主の顔を見るが……凄い、笑顔だった。ただし、凄絶な、という前置きが付け足された。点が入った事で喜ぶ十香たちの隙を見て――――――素早くジャンピング土下座を決めた。男の仕事の八割は、決断で出来ているのである。

 

 士道の情けない決断はさておき、夕弦と耶倶矢の言い争いは今なお続いている。やっぱ、一緒のチームで結束意識を高めるとか無理じゃないかなぁ、と思っていると。

 

「――――――ふっ、なんだ、耶倶矢と夕弦も大したことがないな!」

 

「――――――期待はずれ。この程度で私に挑もうだなんて身の程知らず」

 

 妙に見え透いた十香と折紙の挑発が、凄い偉そうに見下ろしながら聞こえて来た。狂三は令音が二人に耳打ちするのを見ていたので意図は分かるのだが、こんな安っぽい挑発で大丈夫なのだろうか……そんな不安を他所に、耶倶矢と夕弦の二人はピクリと肩を揺らし、目を細める。

 チョロい。自分の負けず嫌いを棚に上げて、狂三は思ったとか思っていないとか。

 

「……ねえ夕弦」

 

「返答。なんでしょう」

 

「……やっちゃう?」

 

「同調。やっちゃいます」

 

 ――――空気が変わった。どこかわざとらしい(・・・・・・)と思えたいがみ合いの雰囲気は消え、自然な空気の流れが二人の間に出来たことに狂三はサングラスの下で視線を鋭くした。

 試合が再開する。さっきまでのチグハグな動きは存在しない、完璧とも言える二人の動きがそこにはあった。

 

 そんな中、十香の放ったボールが士道の顔面に直撃した。ネットを易々と貫く弾丸ボールが、である。

 

「ぐぇッ!?」

 

『士道さん、危ないですわ』

 

 いや、警告が遅いというか。さっきのトラウマで集中出来なくてこんな事になったというか。そんなのんびりとした狂三の声を聞きながら、遠退く意識で彼は賞賛の言葉を受けた気がした。

 

「賞賛。ナイスです――――設営。耶倶矢」

 

「おうとも!!」

 

 夕弦が両手を合わせて手の平を上へ。そこへ耶倶矢が迷いなく疾走する――――八舞が、空へ躍り出る。

 

 

「――――はあああああああっ!!!!」

 

 

 遥か上空のボールを、耶倶矢が捉えた。刹那、放たれる一陣の風にも似た弾丸は他の反応を許さず敵コートに突き刺さった。

 文句の一つさえ出ない、完璧な一撃。狂三がホイッスルを鳴らすと、ガッツポーズを取りながら地に降り立った耶倶矢が一目散に夕弦の元へ駆けた。夕弦も同じである。さっきまでの険悪な雰囲気はどこへやら、ハイタッチまでし始めた。

 

「いぃぃやっほぉう!」

 

「歓喜。いやっほー」

 

「やー! 今のは完璧だったね夕弦。びゅーんいったよびゅーん!」

 

「肯定。見事な一撃でした。さすが耶倶矢です」

 

「いやいや、あれは夕弦が――――――」

 

 

「……なるほど」

 

 最初に彼女の頭に浮かんだ予測が、形となって見えてきた。元から、疑問ではあったのだ。

 

『この我と二五勝二五敗四九分け(・・・・・・・・・・)で戦績を分けているだけのことはある』

 

 同一存在であるからこそ、二人は両立し得ない。故に戦うは道理。そして、互角であろうとも物事には〝運〟というものが存在する。互いが全力で戦えば、力は互角でも勝負は明確についているはずである――――全力で、あるならば。

 

 ありえない話だと、以前までの狂三なら切って捨ててしまったかもしれない。己を犠牲に(・・・・・)、人を救うなど……バカを見るだけだと(・・・・・・・・・)

 

 けど、知ってしまったから。狂三は、己の犯した罪によって信じられなくなっていたその想いを、一人の少年によって魅せられ、取り戻してしまっていた。

 

 

「なんて――――――茶番(優しい子)なのでしょう」

 

 

 感情を込めたその言葉は、この、時崎狂三とあろうものが随分と甘くなったと、自嘲にも似たものだった。

 

 きっと、士道が彼女の気持ちを聞いていたのならこう言ったであろう――――――狂三は、最初から優しいと。

 

 

 

 

 

『士道さん、大丈夫ですの?』

 

「あ、ああ……まあ、なんとか……」

 

 気絶から目覚め、一先ずトイレ入口へと避難した士道。どちらかと言えば、顔面の痛みより耳元から聞こえる狂三の声の方が気になった。こう、普通に聞こえる時でも魅力的なのに、耳に直接響くと脳内がいけない事になっているというか……まるで聞く麻薬のような感覚だった。多分、士道特化の効力だろうが。

 

『――――耶倶矢さんがいらっしゃいますわ』

 

「え?」

 

 狂三の言葉から数秒と置かず、壁からひょこっと耶倶矢が姿を現した。みんなと待っていた筈だが、一体なんの用があるのだろう。

 

「士道……ちょっと、いい?」

 

「俺は構わないけど……その口調のまま続けていいのか?」

 

「――――あ」

 

 露骨に今気づきました、やらかした。という感じの表情になった耶倶矢が、仕切り直しと言わんばかりに格好良いポーズを取る。言うまでもなく手遅れなのだが。

 

「くく……我が道化芝居に謀られたな。我が手の上で踊る貴様は大層滑稽であったぞ」

 

「……別に無理しなくて良いんだぞ」

 

「……だ、だって、私、精霊だし。こう、超凄いじゃん? だったらやっぱそれなりの威厳というかさ、そういうのが必要なわけじゃん?」

 

 凄い漠然とした理論が飛び出してきた。……まあ、特別な力もなくそういう時期(・・・・・・)があった士道が言えたことではないが。

 

「そういうもん……かぁ?」

 

『うふふ、士道さんだって覚えがあるのではありませんの?』

 

「……ノーコメントだ」

 

 小声で苦々しく返答する。出来れば、狂三の前では掘り返されたくない過去筆頭だった。

 

「まあいいや。めんどくさいからこのまま続けるけど――――あんた明日、私と夕弦のどちらか選ぶわけじゃん? 決着をつけるためにさ」

 

「ああ、そうだな……ってお前、それは流石に――――――」

 

『ねぇ、士道さん。耶倶矢さんのお言葉、わたくしが当てて差し上げますわ』

 

 へ? 聞こえて来た狂三の言葉に思わず言葉を止める。けど、そんなもの考えるまでもなく分かるものだろうと士道は思った。だって、一人で会いに来るのだから当然、自分が勝てるように根回しに来たと考えるのが普通だろう。

 

 それが、大きな間違えであると……士道は全く同時に放たれた二人の言葉によって思い知らされた。

 

 

「士道、あんた明日――――夕弦を選んでよ(・・・・・・・)

『明日、夕弦さんをお選びになってください、でしょう?』

 

「――――え」

 

 

 予想だにしない衝撃的なセリフと、それを完全に読み取っていた狂三に、士道は僅かに声を漏らし目を見開く事しか出来ない。

 

 

「請願。士道、この勝負、是非耶倶矢を選んでください(・・・・・・・・・・・)

『耶倶矢さんをお選びになってください――――まあ、こちらは言うまでもありませんでしたわね』

 

「――――――」

 

 

 次は、声さえ出なかった。狂三の言う通り、予想出来てしまったのだろう。お互いが、その選択を取るであろうという事を。しかし、理解出来なかった。

 

「なん、で……」

 

「説明。耶倶矢の方が夕弦よりも遥かに優れているからです。士道も耶倶矢の可愛らしさを知っているはずです」

「だって夕弦、超可愛いじゃん。愛想はないけど従順だし、胸大きいし。妄想が形になったような超絶萌えキャラじゃん?」

 

 否、理解をしたくなかった。というのが正しい。なぜならそれは、その選択の先にあるのは――――――

 

 

「っ、でも! そしたらお前は……!」

 

「うん――――――消えちゃうわね」

「当然――――――消えます」

 

 

 ――――――自分自身の、消滅。

 

 心臓が嫌な音を奏でる。あまりにも重い、二人の想いと、決断。

 

 

「だったらなんで――――」

 

「そりゃ私だって消えたかないけどさ。でもそれ以上に私は――――――夕弦に生きて欲しいの。もっともっと色んなものを見て、思いっきり世界を楽しんで欲しいの」

「願望。耶倶矢には生きて欲しいのです。もっと色んなものを見て、この世を楽しんで欲しいのです――――――耶倶矢こそ、真の八舞に相応しい精霊なのですから」

 

 

 その想いは同じもので、とても優しいもので、決して相容れる事は無い。

 一つの迷いもない二人の笑顔に、士道は心を穿たれたような痛みに襲われる。

 

 

「念押。士道、明日は耶倶矢を選んでください。さもなくば――――――」

「――――――この島ごと、あんたの友達みんな吹っ飛ばしてやるんだから」

 

 

 脅し文句さえ全く同じものと……士道の心に、重い感情の渦を残して二人は去って行った。

 

『さあ、士道さん』

 

 それは天使か、はたまた死神か。それとも――――――悪夢へと誘う囁きか。

 

 

『――――――あなた様は、何を(・・)選択なさいますか?』

 

 

 

 






理由のない浮気ダメ・絶対。

きょうぞうちゃんの殺しますわ。の発音はマジトーンで低いかそれとも気軽に明るい感じなのか。読者様のご想像にお任せします。ご自由に脳内再生してください。きょうぞうちゃんジョークですよ、多分、きっと。

この小説に置ける狂三の癖、みたいな台詞回しがありますけど私の趣味だとバレてしまう。いや、絶対似合うと思うんですよ。色んな表情で独白する狂三って。間違いなく似合いますって(ゴリ押し)

果たして士道くんは狂三に信念を示す事が出来るのか。狂三が士道に望む選択とは。そして今のところ報告と地の文でしか出番がない人類最強さんの運命は!!
感想、評価などなどお待ちしておりますー。それでは次回をお楽しみに!!
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