デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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八舞編クライマックス。


第三十三話『八舞に相応しき者』

 

「こんの――――――わからず屋ああああああああッ!!!! 」

 

「応答――――――こちらの台詞です」

 

 風と風がぶつかり合い、しのぎを削る。人知を超えた神威の風。

 万象を薙ぎ払う颶風の女王。その名に相応しい少女が――――――二人。

 

「なんでわかんないのよッ!! どう考えても八舞に相応しいのは私よりあんたでしょ!!」

 

「反論。何度も言わせないでください。その名を持つに足る資格を持つのは耶倶矢だけです」

 

 夜空を駆けるは二対の流星。全く同じ速さで、全く同じ力で虚空に軌跡を描く。幾度となく繰り返される激突に、海は割れ、木々は吹き飛び、空に雲が渦巻く。

 

「あーもう、ホンットに我儘なんだから!! 夕弦のばか!! ばかばかばああああああかっ!!」

 

「激高。今のはカチンと来ました。夕弦がばかなら耶倶矢は大ばかです。世界一のばかです」

 

「なんですってええええええええええっ!?」

 

 顔を真っ赤にした耶倶矢が槍を構え、突進する。風を纏った必殺の一撃。夕弦も対応するように、身体に渦巻くペンデュラムに暴風を纏わせ突撃する。

 それぞれ、当たれば間違いなく勝敗を決する一矢必滅の技。

 

 激突した刺突は今まで以上の暴風を生み出し――――――尚、決着には至らない。

 

『ッ……!!』

 

 弾け飛ぶ。全く同じタイミングで、全く同じように。まるで鏡写し。今の一撃は、確かに互いを貫く必殺であったはずなのに――――――お互いが(・・・・)わざと力を抑えたとしか思えなかった。

 

 

「あんたが――――――」

 

「断言。耶倶矢が――――――」

 

 

 考えている事は同じでいて、違う。歪すぎる戦い。どちらかが倒れるまで続く闘争――――――殺し合いではなく生かし合い(・・・・・)

 

 

『真の――――――八舞!!!!』

 

 

 生まれながらにして背負う宿命。救われぬ業を背負った二人の女王。そう、救われない。救えるはずがない――――――ただ、一人の少年を除いては。

 

 

「いた――――耶倶矢、夕弦!!」

 

 

 何とか間に合った。嫌に重い身体に鞭を打ち、ひたすら走り抜けた先に二人はいた。正確には、壁となった荒れ狂う暴風の中に、二人の姿はあった。

 

 士道が十香に二人のことを相談し、それを耶倶矢と夕弦が聞いてしまったばかりにこの戦いは始まった……いや、恐らくそれがなくとも、いつかはこうなっていたのかもしれない。

 

「やめろ二人とも!! やめてくれ!! 二人が――――――ぐ……ぁっ!?」

 

「シドー!?」

 

 必死の叫びは風にかき消され、更には全身を襲う激痛に苛まれ膝をつく。隣にいる十香が心配そうな顔で支えてくれるのを、大丈夫だと声をかけ無理やり立ち上がる。

 

 どうする、どうすれば良い。何をすれば二人は止まる? とにかく声を届けなければいけない。そのためには――――――思考する士道の視界に、自らが持つ〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が映り込む。

 

「そうだ……十香! 〈鏖殺公(サンダルフォン)〉で二人を止められるか!? お前ならこれを使えば――――――」

 

「無理ですわ」

 

 その声を聞いてハッと振り返る。そこには、二人に追い付いた狂三が、物憂げな表情で空を見上げていた。そうして、一度目を閉じてから士道へ視線を向ける。まるで、士道を見定めるように。

 

「無理って……」

 

「〝天使〟は担い手に従うもの。わたくしは士道さんが(・・・・・)その(つるぎ)を召喚したと申し上げました。であれば、答えは明白ですわ」

 

「うむ……」

 

 十香が〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の柄に触れ、息を詰まらせた声を発する。その表情は、狂三の言葉が正しいものであると雄弁に物語っていた。

 

「狂三の言う通りだ。今の私にこの〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は使えない。〝霊力〟を持つ者の願いによって顕現するのが〝天使〟だ――――――シドーの願いによって召喚された〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は、私に扱う事は出来ん」

 

「そん……な……」

 

 諦めろと言うのか、このまま。二人の戦いを見過ごして、どちらかが犠牲になる未来を見届けろと。それが、五河士道に許された〝選択〟だと。

 

 あんなにもお互いを慮って、あんなにもお互いを褒め称えて、あんなにもお互いを愛し合って。なのに、自分自身が消える未来を選ぶ彼女たちを、見捨てろと言うのか。

 

 お前には、何も出来ないと。そう、諦めてしまえと――――――

 

 

「そんなこと――――――出来るわけねぇだろうがっ!!!!」

 

 

 叫んで、剣の柄を握りしめる。こんな所で諦めるほど、全てを受け入れてしまえるほど、五河士道という少年は諦めが良くない。

 狂三を見やる。十香や狂三を巻き込むのはお門違いだと分かっている。それでも、あの暴風の中へ士道を投げ入れる(・・・・・)手伝いくらいはしてくれる筈だ。捨て身でもなんでも、士道は二人に声を届けなければならない。

 

「狂三、頼みが――――――」

 

「士道さん。あなたが選んで(・・・)くださいまし」

 

 士道の言葉を遮り、狂三が問いかけにも似た言葉を投げかける。

 

「選ぶ……?」

 

「えぇ、えぇ。耶倶矢さんを取るか、夕弦さんを取るか」

 

「っ、そんなの!!」

 

「それとも――――――士道さんだけに許された選択を取るか」

 

 目を見開く士道を見て、狂三はいつものように怪しく微笑む。そして言葉を紡いだ。先程の忠告(・・)とやらの続きを。

 

 

「〝天使〟は心を映す水晶……鏡ですわ。怒りを込めれば怒りを返し、悲しみを込めれば悲しみを返し――――――祈りを込めれば、祈りを返す」

 

「水晶……」

 

「あなた様の願い、お聞かせくださいませ」

 

 

 狂三の微笑みが、士道を見守るような優しいものに変わった、気がした。

 

 込める願い。士道の願い。それは――――――初めから決まっていた。ずっとそうしてきたではないか。十香の時も、四糸乃の時も、琴里の時も……今なお続く、愛しい少女(狂三)の時であっても。

 

『ああ、それは少し違いますわ。このお二人、恐らくは同じ存在(・・・・)ですもの』

 

『あなた様は、何を(・・)選択なさいますか?』

 

 思い出したのは狂三の言葉だった。同じ存在、彼女はそう言った……そして、彼女は言っていたではないか。どちらを(・・・・)ではなく、何を(・・)選ぶのかと。

 

 

「――――――狂三、お前は言ったよな。あいつらは……同じ存在だって」

 

「申し上げましたわ。しかし、同じであるが故に、耶倶矢さんと夕弦さんは戦うしかないのですわ」

 

「いいや。違うな」

 

 

 焔が、身体の内から燃え上がる。再生の炎はまるで、燃え上がる少年の心を映し出したような熱さだった。

 

 

「同じだってんなら……どっちかがいなくなったら、それはもう八舞じゃねぇだろ!! どうしようもない〝自分殺し〟だ。もううんざりなんだよ、そんなの!!」

 

 

 うんざりだ。どいつもこいつも、人を慮ってばかりで、自分を殺そうとする(・・・・・・・・・)ことばかりで。そんなの、士道が一番嫌う行為だ。だから、どこまでも優しく、どこまでも欲深い少年は――――――ただ一つ、険しい〝選択〟を選び取る。

 

 

「何を選ぶかなんて、最初から決まってるさ。俺は二人を選ぶ(・・・・・)。二人揃っての八舞なら――――――どっちも揃ってなきゃ意味がないっ!!!!」

 

「それでこそ――――――わたくしが好きな士道さんですわ」

 

 

 その愛はあまりに大きくて、その愛はあまりに優しくて――――――だからこそ、狂三は士道が選び取る〝選択〟を信じていた。

 

「その真っ直ぐな願いを〝天使〟に込めてくださいまし。必ず、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉はあなた様の想いに答えてくれますわ……御二方を救うだけの〝力〟があると、今ここに示して差し上げましょう」

 

「ああ……!!」

 

 士道がやらねばならない。士道が、二人を救える〝力〟を持っていることを、あの馬鹿騒ぎしている精霊に教えてやらなければ止めることは出来ない。

 

「十香さん、士道さんにお手を」

 

「む……?」

 

「士道さんが召喚した物とはいえ、この〝天使〟は本来、十香さんの物ですわ。少しは力になるかもしれません」

 

「……分かった」

 

 神妙な顔付きで事を見守っていた十香が、狂三の言葉を聞いて手を取った――――――何故か、狂三の手を。

 

 

「…………あの、十香さん。わたくしではなく士道さんの手を……」

 

「うむ――――――二人より、三人だっ!!」

 

「きゃっ……!?」

 

 

 どんな理屈だ、子供の足し算か。わざわざ狂三の元まで駆け寄り、勢いよくその手を引いて士道に手を添える十香にそのようなツッコミは無意味だ。なし崩しに、狂三まで士道に手を添える形になってしまう。二人にくっつかれた士道も、顔を赤くして驚いてしまっている。

 

「お、おい……!?」

 

「心を静めろ。シドーが思い描く願いを、ただ一つ〈鏖殺公(サンダルフォン)〉に込めるのだ」

 

「そ、そうですわ。十香さんの言う通りに……士道さんの願い――――――祈りを、心に」

 

 この状況で無茶を言っているとは思うが、士道は二人の言葉に耳を傾け、剣を掲げ目を伏せて呼吸を整える。

 

 ――――――俺の願い。

 

 救う。馬鹿みたいに優しい、あの二人を。欠けさせない、欠けさせてはならない。ふざけた運命を変えて、絶対に救う。

 

 そのための力を――――――ここに!!

 

 

「――――――っ!!」

 

 

 見開いた目の先に、光があった。眩い、夜闇を照らす強い輝き。黒き極光と対極を成す――――――正しき心で振るわれる、白き極光。

 

 狂三と十香が頷き、重ねられた二人の手に力が入る。そして、士道は大きく〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を掲げた。

 

 憎しみではなく、怒りでもなく、正しき祈りを込めて――――――今、この一振りに全てを。

 

 

 

「とど――――――けえええええええええええええええええええええッ!!!!」

 

 

 

 閃光が夜空に轟いた。黒き極光にも劣らぬそれは、荒れ狂う烈風をものともせず斬り裂いて、勇者の放った一撃は――――――女王に、届いた。

 

 

「な――――――」

 

「焦燥。これは……」

 

 

 風を止め、雲を割いた一撃に耶倶矢と夕弦の意識がお互いから逸れる。視線はこの驚異的な〝霊力〟を放った士道へ、ようやく向けられた。

 

「士道……!? 今の、もしかしてあんたが……?」

 

「驚愕。まさか。凄まじい霊力でした」

 

「いいか。よーく聞けお前ら!!」

 

 頭が割れるように痛い。全身が砕け散るのではと思える激痛が、士道を苛む。それでも少年は、その両の足で立ち上がり、喉を目一杯に震わせて声を張り上げた。

 

 

「俺を裁定役に選んだのはお前らだ!! そして、俺はその役を降りたつもりは無い!! だから決めた――――――真の八舞に、相応しい精霊を!!」

 

 

 二人が息を呑み、その上で視線を鋭くしたのが分かる。膨れ上がるプレッシャーの正体は、間違いなくこの二人それぞれのものだ。どちらも、自分を選んだら分かっているのだろうな、という考えが手に取るように分かる。分かるからこそ――――――士道は、言葉を止めない。

 

 

「俺が選ぶのは、真の八舞に相応しいと思うのは――――――お前たち二人だ(・・・)!!」

 

「……何それ」

「軽蔑。小学生以下の――――――」

 

「――――――俺には!! 精霊を封印する力がある!!!!」

 

 

 耶倶矢と夕弦が驚愕で目を見開く。ここから先は賭けだ。信じてもらわなければいけない。士道にその力がある事を、この二人に伝えなければならない。

 目が掠れる。視界の先にある二人の姿が、もうよく見えていなかった。けれど、止まらない。ここで止まってしまえば、彼女たちは永遠に失われてしまう。

 

 

「その力で、お前たちの精霊としての力を無くす!! そしたら、お互いが争う必要なんてない!! 二人が揃って(・・・・・・)生き残る事が出来るだろ……っ!!」

 

「何言ってるの……そんなこと、可能なはずがないじゃない……」

「疑念。そうです。そんな方法、聞いたことがありません」

 

「お前らの自慢の風――――――切ってやったのは誰だ?」

 

 

 士道が笑う。強がりな笑みだ。人の身で人ならざる者の力を振るった代償は、既に士道の身体を蝕んでいる。口の中に、嫌な味が広がっているのは本人が一番よく分かっていた。

 だが、その強がりは二人を動揺させるには十分だったらしい。息を呑む様子が霞む視界でもよく分かった。一気に、畳み掛けるように力を振り絞って、士道は喉を震わせた。

 

 

「頼む!! 信じてくれ(・・・・・)!! 俺にその力があるって事を……自分自身より相手を思いやる気持ちがずっと強い、馬鹿みたいに優しいお前らを救うチャンスを!! 一度だけでいい!! 俺を、信じてくれ……っ!!」

 

『っ……』

 

「たの、む……俺、が……二人を、救って――――――」

 

 

 言葉が途切れ、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が光へと還る。咳き込み、吐き出した()をそのままに、士道は地面へと倒れ込んだ。

 十香が肩を揺すって必死に呼びかけているのを遠退く意識で感じながら――――――士道は、愛しい少女の温かい手の温もりを、感じた。

 

 

「耶倶矢さん、夕弦さん」

 

 

 穏やかな、それでいて凛として引き込まれる声だった。きっと、このまま二人に〝選択〟を委ねるべきなのだろう。けど、狂三は言葉を紡ぐ事を止められなかった。

 

 

「信じられないのも無理はありませんわ。ですがどうか、どうか……一つだけ信じてあげてくださいまし」

 

 

 理由なんて、分からない。それでも言葉を止めないのは、この瞬間だけは心が彼女の全てを動かしているから。

 

 

「この方の……士道さんの、命を賭したお言葉を、どうか――――――!!」

 

 

 らしくない行動をしているのは分かっている。出過ぎた真似をしているのも分かっている。しかし、愛する少年の願いを、無にすることだけは――――――!!

 

 沈黙が落ちる。士道を、狂三を見やり、そしてお互いを見て、その唇を開いた――――――

 

「何……?」

 

「注視。あれは……」

 

 その声を遮ったのは、巨大な駆動音(・・・)。耶倶矢と夕弦、二人が浮遊する更に上空……その果てに、巨大な戦艦(・・)がいた。全く持って、空気が読めない(・・・・・・・)来客の姿に狂三は顔を顰める。同時に、連絡用の端末から音が鳴り響く。誰からかは見るまでもなく分かる。即座にそれを繋げた狂三が、簡潔に声を発した。

 

「状況は」

 

『〈フラクシナス〉に派手にやられた戦艦がそちらに向かってます――――――いや、もう見えてますか』

 

「えぇ」

 

『本人がいなくとも全く問題がないとは、流石は五河琴里が指揮する艦ですね』

 

「素晴らしいですわ、素晴らしいですわ――――――では、後始末はこちらで請け負いましょう」

 

 〝影〟が現れ出づる。今の狂三はこれ以上なく〝不機嫌〟であった。

 ああ、嗚呼。あんなもの(・・・・・)にこの方の願いを遮られるなど――――――本当に度し難い。

 

「十香さん、士道さんはお任せしますわ」

 

「……! うむ、任せるのだ!!」

 

 士道を抱え頷く十香に笑みを向け、狂三は空へと飛び立つ。〝影〟は地にのみ現れる物ではない。海に、そして空に浮かび上がり――――――

 

 

「さあ、『わたくしたち』。立場を弁えない愚かな者たちを――――――存分に喰らい尽くして差し上げましょう」

 

 

 〝影〟より出でる者たち。それら全てが狂三が従える『狂三』である。指揮者のように腕を上げ、迫り来る人形兵器に向かい振り翳す。

 

 

『きひ、きひひひひひひひひひひひひッ!!』

 

 

 それは、正しく〝悪夢〟の舞台であった。飛び回る人形兵たちは、目標とした者たちに辿り着くことさえなく蹂躙されていく。腕を、足を、頭を、ダンスを舞うように引き千切られる。

 

「嘘……あんた……!!」

 

「驚愕。あなたも……」

 

「えぇ、えぇ。隠していた事、ここで謝罪させていただきますわ」

 

 地獄の様相を見せる周囲などには目もくれず、スカートを摘み空に浮かぶ二人と相対しながらお辞儀をする狂三。

 

 

「――――――これで、信じてくださいませんこと? 士道さんには御二方を救う〝力〟があるということを……この〝精霊〟であるわたくし、時崎狂三が保証いたしますわ」

 

 

 狂三の目的は、偶然にも告げてあった。そう、当初の彼女たちと同じく士道を落とす(・・・)こと。それはつまり、五河士道には〝精霊〟である狂三が執着するほどの〝価値〟があるということに他ならない。

 

 

「あとは、耶倶矢さんと夕弦さんが決めることですわ。わたくしとしては――――――あの方のお言葉を、信じてくださると嬉しいのですけれど」

 

 

 手にした交渉のカードは全て切り終えた。少々、手を貸し過ぎだとは思うが命をかけた士道への――――――そして、見ず知らずの(・・・・・・)狂三の身を案じてくれた(・・・・・・)彼女達への、ご褒美と言ったところか。

 

 一度、微笑む狂三をじっと見つめた二人が、穏やかな表情でお互いの顔を見合わせる。

 

「……ねぇ、夕弦。聞いてくれる?」

 

「応答。なんでしょうか」

 

「私ね――――――信じて、みたい」

 

 その可能性を、ありえないIFの物語を。誰もが(・・・)考える、もしもの可能性。それをもし、手にする術があるのなら……。

 

 

「ずっと、嘘ついてた。私は、私、ね……夕弦と、一緒にいたい!!」

 

 

 自然と涙が零れていた。隠していた感情が溢れ出す。そうだ、ずっと、ずっとだ。耶倶矢はずっと、心の片隅で〝それ〟を思っていた。

 

 

「夕弦と色んなところに行きたい!! 夕弦と一緒に色んなものを見たい!! 私……消えたくなんて、ないよ……!!」

 

「応、答――――――」

 

 

 〝それ〟を思ったのは、夕弦も同じ事。ひとすじの涙がその証だった。一人ではなく二人で(・・・)……その心に秘めた願いさえ、二人は同じだったのだ――――――何故なら、二人で八舞なのだから。

 

 

「夕弦も、同じです。耶倶矢と同じものを見て、同じものを感じて、一緒に――――――」

 

「うん、一緒に――――――」

 

 

 全く同じ答えを、示し合わせるわけでもなく、全く同じ動きで唇を動かし……その願いは、しかと聞き届けられた。

 

 

 

『――――――生きていたい』

 

 

 

生きたい(・・・・)。ただ、二人で一緒に(・・・)。優しさに満ちた少女達の切なる願いは、今ようやく少年の願いによって打ち明けられた。

 

 涙を拭い、耶倶矢と夕弦がコクリと頷く。考えていることは、口に出さなくとも分かった。

 

「――――――カカ、褒めて遣わすぞ真紅の吸血鬼よ。我ら八舞(・・・・)の時を稼いだ事を」

 

「きゅ、吸血鬼……ですのね……?」

 

 様々な呼ばれ方をされてきた狂三だったが、流石に耶倶矢のような例え方は初めてで困惑の表情を作る。狂三とて人の血を吸う趣味はない……まあ、血代わりに〝時〟を吸い取っていたので、そう間違った表現ではなかったりするのだが。

 

 額に手を当てカッコいいポーズを取る耶倶矢に、夕弦がジト目で鋭くツッコミを入れる。

 

「指摘。それは安直と言います。耶倶矢のセンスに狂三も困惑です」

 

「……し、仕方ないじゃん!? だってこんなにカッコいいし!! 分身使えるなんてずるいし!! なんかそれっぽいし!?」

 

 困惑の表情は更に深まる。狂三の分身体を見て驚くなり慄くなりの行動はされてきたが、純粋に羨ましがられるのは初の体験だった。ここまで来ると困惑と言うより、珍しい狂三の照れ(・・)と言ってもいいかもしれない。さぞ、地上にいる士道が悔しがる光景であろう。 

 コホン、と自らの表情を整えるように咳払いをし、二人を見つめる。何となく、彼女たちが次に取る行動は分かっていた。だからこそ、既に分身体は退かせてある(・・・・・・)

 

 

「おまかせしても、よろしくて?」

 

「当然!」

「肯定」

 

「では、存分に――――――颶風の力、振るいになってくださいませ」

 

 

 狂三が指し示した先にあるのは、巨大な鉄の塊(・・・)。そう、人が作り出した叡智だろうと、精霊にとってそれは〝障害物〟でしかない。

 

 耶倶矢が左手を、夕弦が右手を、寸分の狂いもなく合わせる。それぞれの霊装が光輝き、羽は弓へ。夕弦のペンデュラムが〝弦〟へ、耶倶矢の槍は〝矢〟へ姿を変える。

 

 二人が持つ〝天使〟。その終局点にして、究極の形。これこそが――――――八舞の真なる姿なり。

 

 

 

『〈颶風騎士(ラファエル)〉――――――【天を駆ける者(エル・カナフ)】!!』

 

 

 

 

 颶風が舞う。必滅の矢は、余波でさえあらゆる者を薙ぎ倒す。その風を止められるものなどいない。八舞の風こそ、最強なる一撃だと。

 

 その矢は残された人形を吹き飛ばし、二人の新たなる門出を祝福するように――――――夜空を、赤く染め上げたのだった。

 

 

 






書いてて思うんですけどきょうぞうちゃん凄い士道くんに私情でゾッコンな感じが地の文から滲み出てる気がする。原作と違って変なのぶっぱしたせいで原作より身体ボロボロの士道くんをフォローするヒロインの鏡って事にしときましょう(

形のある奇跡。天使に関しては割と独自な解釈で進めることがあると思います。そうじゃなかったら刻々帝がなんか進化したりしてませんしね(小声) 最終的に根源的な存在の例の精霊さん強すぎねぇ?って考える度になってry

次回は八舞編エピローグ。番外編に関しては活動報告に書きました。もうやるかもって書くとやらなきゃ見たいな使命感に駆られてしまうので、気まぐれに書いてそのうち気が向けば投稿みたいな形にしようと思います。詰まるくらいなら本編進めるのが優先だと思うので(苦しい言い訳)

八舞姉妹の可愛いやり取りをもっと見たい方はデート・ア・ライブ5巻『八舞テンペスト』を是非よろしくお願いします。というか二人のやり取りが基本的に長回しなのもあって本家がないと魅力が伝えきれない…

感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!

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