デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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美九編プロローグ。今回も主人公とヒロインを存分にいちゃつかせることを目標とします(選手宣誓) 前章はそれまでの反動で少し控えめでしたけど、今回は多く書けると良いなと。プレイが特殊ですけど(小声)


美九トゥルース
第三十五話『百合の歌姫』


 

 

「くく……崇めよ士道。我らが自らこのような地へ赴いた事、光栄に思うが良いぞ」

 

「翻訳。遊びに来たので歓迎してください。してくれなければ寂しくて泣いてしまう、と耶倶矢は言っています」

 

「ちょ、違うし!! そういうんじゃないし!!」

 

「はは……」

 

隣のクラス(・・・・・)に遊びに来たと言うだけで、随分な騒ぎようだと士道は苦笑しながら仲睦まじい八舞姉妹(・・)を出迎えることになった。

 時は九月。長く、そして短くも感じる大変騒がしかった夏休みは終わりを告げ、二学期の始まりを告げる時期となった。元々、新学期に転入してくるという体で修学旅行に参加していた耶倶矢と夕弦なので、自然な流れでこの来禅高校に新学期付けで転入してきたのだった。事情を知る士道が言うのもなんだが、本当に転入生が多い学校である。

 八舞の二人はその仲睦まじさから……まあ、それが原因で二ヶ月前の騒動が起こったとも言うのだが、二人揃っていれば精神状態が安定するとのデータから隣のクラスへ転入したらしい。

 

 というわけで、早速士道のいるクラスへ遊びに来たらしいのだが……何やら、二人揃ってキョロキョロとクラス中を見渡していた。まるで誰かを探している(・・・・・・・・)ような様子に、士道は首を傾げる。

 

「誰を探してるんだ? 十香なら今は他のやつに連れられていねぇぞ」

 

「否。我が眷属は既に賛美を済ませている」

 

「疑念。狂三の姿が見当たらないようですが……」

 

「へ……」

 

 ポカンとした表情をして、彼女たちの言葉を飲み込んだ士道があーっと合点がいったという風な声を漏らす。どうやら、狂三に関してはあまり説明されていないらしい。てか、俺に丸投げしたんじゃねぇか? という疑念が浮かび上がってきた……我が妹ならやりかねない。

 

「……残念ながら狂三ならいないぞ。休学中だよ、色々あってな」

 

「む、なんだ士道。好きなおなごを繋ぎ止めて置けないとは情けないぞ」

 

「落胆。意外と甲斐性がないのですね」

 

「――――――ちょっと待った……!!」

 

 大急ぎで二人の肩を掴み、声が漏れないような距離まで詰める。先の発言でまた妙にクラスの視線が痛い。いやそんな事より、本当にそんな事より! 士道としては聞き逃すわけにはいかない発言が飛び出してきた。ここであー聞き間違えだなー、なんて聞き返せる図太い精神を彼は持ち合わせていなかった。

 

「なんだ急に。案ずるな、たとえ士道に甲斐性がなくとも我ら八舞の共有財産である事は揺るがんぞ」

 

「そういう話じゃねぇからな!? てかなんで知ってるの!? 俺言ってないよな!?」

 

「驚愕。気づかれていないと思っていたのですか?」

 

「…………嘘だろおい」

 

「いや、逆になんで気づかれてないと思ったの? あんた狂三の事あんなに好き好きオーラ出しまくってるのに」

 

 素に戻った耶倶矢の呆れを含んだ純粋な顔と言葉が、深く士道の胸に突き刺さった。まさか、常に仲睦まじくイチャついている八舞姉妹にそんな事を言われてしまうほど、自分がそんなオーラを出してしまっているとは露ほども思っていなかった。

 更に、夕弦が仕方ありません、みたいな表情で鋭い追撃を仕掛けてきた。

 

「白状。実は士道の告白シーンを収めた映像を、密かに拝見しました」

 

「凄かったわよ。素敵な告白だったけど、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃったし」

 

「こ・と・りいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!!」

 

 犯人特定。状況証拠と直感による士道名探偵の推理が冴え渡る。冴えわたったところで、彼のプライベートが平然とぶちまけられた事をなかったことには出来ないのだが。

 酷い、黒歴史をぶちまけられるより遥かに酷い。修学旅行が終わってから、妙に士道の体調を気にするようになったと思えばこの仕打ち。やはり愛する妹は悪魔か鬼であった。というか、どういう意図でそうなったのだ。

 

 ……新学期早々、心に深い傷を負った五河士道であった――――――新たな精霊との出会い、そして危機が迫っている事を知らぬまま、日常は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

「天央祭。天宮市内、十の高校が合同で行う文化祭。天宮スクエア大展示場を三日間貸し切って行われる、文化祭とは名ばかりの街全体の一大イベント」

 

「あなた、誰に向かって仰っていますの?」

 

「勿論、我が女王へ向かってですが」

 

 多分、ローブの下では笑っているんだろうなぁという事が手に取るように分かって、若干の呆れとイラッとした感情が湧き上がるが顔には出さないでいられた。

 別に少女の言いたい事が分からない訳では無いし、狂三とて天央祭の存在は知っている。知っているが、毎回毎回の当然の流れのようにえ、行かないんですか? 彼と? みたいなセリフを言われると精霊反論したくなってくるものだ。

 

「……まあ、士道さんと文化祭を回れたら良いとは思っていますわ。勿論、他意はなくあの方を落とす(・・・)為に、ですわ。えぇ、えぇ、他に理由などありませんわ」

 

「我が女王、今さら私の前でデレかけのツンデレみたいな事をされても困ります」

 

「どこでそんな言葉を覚えてきますのあなたは……!」

 

 そりゃあ、狂三としては士道と文化祭を回れたらと思っている。あの方と学園の出し物を回り、色んな会話をしながら楽しむ。それはもう、妄想するだけで期待に……ゲフンゲフン。そうではなく、士道をこの手で落とす(デレさせる)にはこれ以上なく絶好のイベントと言えた。出し物や文化祭準備の様子を分身体に探らせなければ、ともはや私情丸出しの指示を出してしまうくらいには本気だった。

 

 とはいえ、それだけにならず〝別件〟で分身体を動かしている方が本命だ。

 

「そんな事より、DEMの動きは如何ですの」

 

「きな臭いですね。ASTの実行部隊に、かなり強引な編入がなされてます。本格的にちょっかい出して来そうですね」

 

「ちょっかい程度で済むなら安いものですわ。そうでない可能性の方が高いのですから――――――狙いは、十香さんと士道さん(・・・・)ですわね」

 

 言葉による返事はない。が、縦に首を振る仕草だけで狂三と少女の予測は同じであると分かる。〈プリンセス〉と学校に通う夜刀神十香が同一存在である。この事実がDEM側に知られているのは確定的に明らかである。元々、事態がが長引けば遅かれ早かれ知られていた事だ。しかし、もう一つの要素……士道に関しては狂三からすれば苦い顔をせざるを得ない。

 士道が見せた〝精霊〟の力。DEMからすれば、人の身で〝精霊〟の力を扱う者など喉から手が出るほど欲しい人材であろう。たとえそれが、正規の手段ではなかろうと推し進めるのがDEMインダストリーという組織なのだ。

 

「渡すわけには参りませんわ」

 

「私としても大変不都合です。個人的な感情で言わせて貰えば、不快と言っていいかもしれません」

 

「あなたがその様な物言いをするのは珍しいですわね。DEMインダストリーがお嫌いなので?」

 

「正体を知って、好きな人は正気じゃないと思うくらいには」

 

「奇遇ですわね、わたくしもですわ」

 

 渡さない、渡してなるものかと狂三は不敵に微笑む。彼に目をつけたのは自分が先だ。彼の全てを奪うのは――――――この時崎狂三だけの権利なのだ。他の、誰にも譲るつもりは無い。

 

 向こうが裏側から襲うというのなら、それはこちらの領分となる。存分に――――――邪魔をして差し上げようではないか。

 

「取り敢えず、出来ることならさっさと諦めてもらって、お帰り願うのが一番の本命ですね。我が女王の文化祭デートの為にも」

 

「うふふ、言われずともおじゃま虫は早めに叩いておくに限りますわ。士道さんとはその後にゆっくり――――――」

 

 瞬間、マンションのガラスを震わせる空間震警報(・・・・・)に二人の表情はなんとも言えないものになった。

 

「……あー、狂三。まだ五河士道と文化祭を回れないと決まったわけじゃないですから……」

 

「……そうですわね」

 

 優しい慰めが辛い。多分、会うにしてものんびり文化祭を回るという普通のデートは難しいだろうなと空間震警報を聞いて狂三は悟った。なんてことは無い――――――乙女の勘、というやつだった。空間震警報をこんな理由で残念がる精霊も、恐らく狂三だけだろう。

 

 

 

 

 

「……歌」

 

『歌、ですの?』

 

 空間震が引き起こされた現地にたどり着き、まず精霊の聴力が拾ったのはその〝歌声〟であった。

 

「えぇ、歌です。今、狂三が聞こえる位置まで走ります」

 

 少女が軽く跳躍する。それでけで人では登ることすら時間がかかる場所まで、容易く一息にたどり着きあっという間に天宮アリーナの内部まで侵入した。少女が捕捉される心配など元より皆無ではあるが、空間震の影響で人っ子一人いないため誰にも見られることなくたどり着くことが出来た。

 

 ――――――歌姫が、いた。

 

「あれは……」

 

『あら、あら……悪くない、歌声ですわね』

 

 伴奏があるわけではない。マイクがあるわけでもないし、特別な演出が見て取れるわけですらない。しかし、彼女の――――――紫紺の髪と銀色の瞳、そして〝霊装〟を纏った〝精霊〟の歌声は、万物を魅了するのではないかと、その様な不思議な力強さと美しさを兼ね備えたものだった。それこそ、狂三がつい本音を漏らしてしまうくらいには、非の打ち所のない見事な独唱であった。

 

 そんな万人が聞き惚れるであろう声を止めたのは、缶を蹴っ飛ばしたかのような甲高い音だった。

 

「……ん。五河士道ですね」

 

『きひひひ。士道さんらしい登場ですわね。お手並み拝見ですわ』

 

 大方、暗い中でゴミでも蹴ってしまったのだろう。だが、歌を中断した精霊の歌姫は特に気にした様子もなく、音を出した士道へのんびりとした声で呼びかけていた。どうやら気分を害したわけではなく、来客に興味を抱いたようだった。〈ラタトスク〉側としては幸運であろう。

 

 十香、四糸乃、琴里、八舞……数々の精霊を封印してきた士道だが、こういう形で接触を測るのは四糸乃以来という事になる。狂三の言う通り、一癖も二癖もある精霊を相手にしてきた彼のお手並み拝見といったところか。

 程なくして、士道がステージへの階段を上がり精霊の元へたどり着く。恐らく、インカムからいつもの指示が飛ばされたのだろう、言葉を紡いで――――――両者(・・)の様子が変わる。

 

「……何か、様子が変ですね」

 

『挨拶したばかりですのに、一体何をして――――――』

 

 狂三の言葉の途中で、精霊が息を大きく吸い込んだのが見えた。それも、強烈な敵意(・・)を持った目で士道を睨み付けながら〝霊力〟を込めた動作で。

 不味い。少女が一瞬そう考えた時、精霊が〝声〟を解き放った。

 

 

「――――――わッ!!!!!」

 

「ぐあッ!?」

 

『士道さん!?』

 

 

 〝音圧〟。ただ一声、少女がいる上の場所まで衝撃波が届くような音の壁(・・・)。その不可視の圧力が、士道の身体を軽々と吹き飛ばした。狂三の悲鳴に思わず少女が身を乗り出し神速を持って彼を救おうとしたが……まだ、早かったようだ。咄嗟に手を伸ばした士道は、ステージの蓋にしがみつくように何とか場に留まることに成功した。

 それを確認した事で安堵の息が耳元から聞こえ、少女も釣られて息を吐く。精霊とひとくちに言っても千差万別ではあるが、人がいると分かり自ら誘ったのに、いざ人が見えたら攻撃するなど流石に少女からしても想定外な行動だった。一体、ものの数分の間にどんな心変わりがあったというのか。

 

 

「――――――え、なんでしがみついてるんですかぁ? なんで落ちてないんですかぁ? なんで死んでないんですかぁ? 可及的速やかにこのステージからこの世界からこの確率時空から消え去ってくださいよぉ」

 

「……ん。我が女王――――――」

 

『残念ながら耳がおかしくなったわけではありませんわね』

 

 

 少女の思考は先読みされていたらしい。女神のような微笑みと、そのセリフのギャップがあまりにもあり過ぎて少女は己の難聴を疑ったのだが、狂三も同じように聞こえたようだ。

 

 心変わり、なんてレベルではない。好感度が地獄の底まで突き抜けているような感じだった。

 

「え、えと……今――――――」

 

「何喋りかけてるんですかぁ? やめてくださいよ気持ち悪いですねぇ。声を発さないでくださいよぉ。唾液を飛ばさないでください。息をしないでください。あなたがいるだけで周囲の大気が汚染されてるのがわからないんですかぁ? わからないんですねぇ?」

 

「……人嫌い、ですかね?」

 

「えっと、き、君は――――――」

 

「人の言うことを聞かない人ですねー。一刻も早く消えてくれませんかぁ? あなたの存在が不快なんですぅ。なぜ私があなたの手を踏みにじってあなたをステージから落とさないかわかりますかぁ? たとえ靴底であろうとあなたに触れたくないからですよー?」

 

『でしたら、音がした時点で誘う事などしない筈ですわ。それにしても、人畜無害なお顔をしていらっしゃる士道さんがなぜ……』

 

 尽く士道の言葉は遮られ、もうギャップとかそんな次元ではないものが吐き出されていく中、冷静な考察を二人は行う。さり気なく惚気というか狂三の補正がかかったとしか思えない発言はスルーした。と言うより、次に起こった出来事によってスルーせざるを得なかった。

 

 妙な音が外から漏れ出た――――刹那、衝撃と共にアリーナの天井が崩壊した。

 

「……AST」

 

『折紙さんもいらっしゃいますわね――――――あら、余計な来客がお見えになられましたわ』

 

 ASTがいつもの装備を纏い精霊を囲い込むように展開していく。その中に、謹慎処分が解けたのだろう折紙……そして、狂三の言う余計な来客(・・・・・)である欧米人がいた。一人や二人ではない、国内の部隊という事を考えればありえない数だ。

 と、囲まれたにも関わらずさして焦った様子を見せることなく、それどころか歓喜の表情(・・・・・)で目を輝かせた歌姫の精霊が声を発した。

 

「まぁ、まぁっ! いいじゃないですかー。すばらしいじゃないですかー。そうですよぉ、お客様といったらこうじゃないとぉ!! ああ、そうですねー、特に――――――ねぇ、あなた私の歌を聴きたくないですかー?」

 

「――――――ッ!!」

 

 音を鳴らし、歌姫の姿が消える。精霊の力を利用した彼女が次の瞬間に現れたのは、鳶一折紙の背後。甘く、甘く、万人を蕩けさせる声が折紙の耳元で囁かれ――――――彼女が光の剣を振るう。

 

「ああん、いけずぅ」

 

「……な、なんですか〝アレ〟」

 

 囁かれた折紙はポーカーフェイスを保ってこそいたが、不快だったのか精霊へ連続攻撃を仕掛ける。だが、精霊は楽しそうな表情のまま見えない壁で連撃を難なく受け止めていた。少女が気になったのはそこではなく、違いすぎる対応(・・・・・・・)の方である。

 

『ああ、ああ。そういう事ですのね』

 

「……え、分かったんですか? 今ので?」

 

『あそこまで露骨なものなら、逆に分かりやすいですわ。しかしそうなると……厄介ですわ、厄介ですわ。今までで一番の難物と言えるかもしれませんわねぇ』

 

 相も変わらず察しが良すぎる狂三は何か分かったようだが、少女は頭の中に疑問符を何個も浮かべる結果にしかなっていない。理解が追いつかない、というのが正しいかもしれない。何せ元々知っている、記憶にある(・・・・・)感情論ならまだしも、あんなにもジェットコースターな対応の違いは初めて見た。だって精霊が折紙に向けた感情は……その、いやしかし……と少女の頭がパンク仕掛けた時、赤髪の欧米人が士道の存在に気づいた(・・・・)

 

「あれハ……」

 

「……ちっ。気づかなければ良いものを」

 

 小さく舌打ちして、少女は思考を切り替えていつでも飛び出せる体勢になる。やはり気づいたのだろう、赤髪の女が同じ目的を持つ仲間と通信をして士道へ向かって突撃した(・・・・)。一般市民を保護する、とかそんな生易しい表情ではない。アレは対象を捕獲(・・)しようとか、そういったものだ。

 

 巨大なスタンロッドを引き抜き、彼へ迫る――――――瞬間、間に入ったのは白髪の少女だった。

 

 

「流石――――――そうだと思いましたよ!!」

 

 

 神速が駆ける。赤髪の女と折紙の武器がぶつかり合い、火花を散らした刹那の時間を使い、白い少女がステージに掴まっていた士道の身体を掴み取り、駆け抜ける。予想通りだ、鳶一折紙なら事態を把握出来ずとも必ず五河士道を助けるために動く、その確信があった。お陰で、気づかれることなく彼の安全を確保出来る。

 

「ぐ……ぁ!? お前……!」

 

「喋ると、舌噛みますよ!!」

 

 駆け上がる。人間一人を背負ったところで、少女の神速は揺るがない。一度ステージの下まで降りたかと思えば、士道が強烈な加速の圧力に目を瞑った時には少女の身はステージ内部にはない。一瞬、夜の空に身を躍らせながら残された屋上を足場に、一気に駅前広場までノンストップで到達して見せた。

 多少荒っぽくなったが、あの場にいるよりは安全だろう。

 

「……ご無事で?」

 

「っ、はぁ……ああ、何とか」

 

「それは良かった。御身に何かあれば我が女王に叱られてしまいますから」

 

『余計な事は喋らなくてよろしいですわ……!』

 

 もう怒られてしまった。少女としては素直に士道の事を心配している、と告げた方が好感度的にも良いと思ったのだが。

 

「〈アンノウン〉……で、いいのか?」

 

「お好きなように。私に名など意味の無いものですから」

 

 どう呼ばれようと構わない、興味が無い。そんな物言いの少女に士道が表情を歪める。何か言いたそうであったが、少女にとっては自らの事は本当に意味の無いもの(・・・・・・・)なので、彼の表情の変化に首を傾げる。

 

「……何か?」

 

「…………嫌じゃないのか、こんな名前で呼ばれるの」

 

「特には。どう呼ばれようが、私にとっては意味の無いことです。それに、最後には――――――」

 

「最後、には……?」

 

「……ん。なんでもありません。それより、早く五河琴里の元に帰るべきです。ここにいては、戦闘に巻き込まれる可能性があります」

 

「あ、ああ。助けてくれてありがとな」

 

 少女が言及した危険性は向こうも理解しているのだろう。程なくして、〈フラクシナス〉の転移装置が作動し士道の姿が消えた。

 

『……ご苦労さま。戻ってきてくださいまし』

 

「了解です」

 

 ふぅ、と息を吐きアリーナ方面を見遣る。あちら側では、未だ精霊とASTの戦闘が続いていた。しかし、士道がこの場を去った以上、今日の邂逅はお開きという事になるだろう。

 歌姫の精霊の豹変、DEM側の動き。考えなければならない事が一気に増えたように感じる中――――――少女が思い返すのは、五河士道の言葉だった。

 

 

「名前、かぁ――――――」

 

 

 その名称は大切なもの。人物を表すもの。ある人は親から、ある精霊は大事な存在(・・・・・)から与えられた物。生涯、存在する上で名乗るべきもの。だが、だからこそ――――――白い少女には、やはり持つ事が出来ぬものだった。

 

 

 

 

 








なに人の獲物に手を出してんじゃゴラァ(訳:士道さん大好きなので横取りは絶対許さん)

新たな精霊、常に意識をしている狂三がいる中で、士道くん白い少女に気を回すことが出来るのか。こうして書くとなんだか難易度高そうに見える。

次回、謎の美少女降臨。一つだけ言っておくと特殊プレイな絡みになって書いた本人が困惑しました。

感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!

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