デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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ちょっとした箸休め回……かもしれない。


第三十七話『白の加護』

 

 

「つまり、こういうことですの?」

 

 トントン、と靴音を鳴らすと士織もとい士道が分かりやすく肩を揺らす。小動物のようで大変可愛らしい仕草なのだが、彼の悩みの中身を聞いた後の狂三は可愛らしさ半分呆れ半分といった表情だった。

 

「士織さんは無事、美九さんと接触する事に成功した。しかし、美九さんの言動に怒り頭に血が上った士織さんは、琴里さんの静止を振り切り精霊に対して〝嫌い〟と啖呵を切ってしまう」

 

「はい」

 

「その結果、美九さんの得意分野、美九さんの土俵で勝負を受ける事になり、負けてしまえば十香さん達、封印された五人の精霊全てが彼女の物になる。これでよろしいですわね?」

 

「……はい」

 

「士道さん」

 

「…………はい」

 

「向こう見ずも程々に……そう申し上げましたわよね、わたくし」

 

「申し開きもございません」

 

 士織の姿で土下座するのは二度目なので、非常に美しいフォームであった。ちなみに、一度目は司令官様含めた〈ラタトスク〉のメンバーに向かってである。その時は反論は行なったが、全面的に士道が悪いので無事に言い負かされた、いつもの事である。今回は、狂三のありがたい忠告を完全に投げ捨てた上での事なので文字通り弁解の余地はない。

 というか、狂三と勝負するだけに飽き足らず今度は別の精霊と喧嘩腰で勝負するなど、行き当たりばったりで生きていると思われても仕方がない。

 

「……まあ、士道さんが怒る理由も分かりますわ。わたくしが言えたことではありませんが、なかなかひねくれた倫理観をお持ちの方ですわね」

 

「や、やっぱり狂三もそう思うよな!?」

 

「だからと言って、出会ったばかりの時期に短気を起こして言うべき言葉ではありませんけれど」

 

「……ぎゃふん」

 

 上げた頭を再び前に倒した。理由は納得してもらえたが、琴里と全く同じ正論の刃で斬り伏せられてしまった。

 士道とて今回の件で琴里たちに相当な迷惑をかけ、精霊たちまで巻き込んでしまった結果になったのは反省している。しかし、どうしても我慢ならなかったのだ。

 

『また私好みの女の子を探す手間がかかっちゃいますしー』

 

『ほら、彼女、私のこと大好きですしー、私のために死ねるなら本望じゃないですかー?』

 

 誘宵美九という精霊を一言で語るのなら〝異質〟だった。自らがその場で歌いたいから(・・・・・・)と空間震を引き起こし、自らの為に周りの少女が死んだとしても幸せな事だと本気で思っている。

 自らがやっている事を自覚し、命の重みを知り、それでもなお狂気に身を浸していた狂三とはまた違う。悪意など、ましてや殺意すらない。目的すらないのかもしれない。ただ、それが当然である(・・・・・・・・)という価値観を美九は持っていた。

 

 誰もが自分に逆らわない。誰もが自分を肯定する。だから、言ってやりたくなった。悪い事を悪いと自覚出来ていない誘宵美九という悲しい精霊に、誰もがお前の思い通りになるわけじゃないと、誰でもない俺がお前を否定する(・・・・・・・・・)と。

 

「……けど、否定するって、美九に言ったこと自体は後悔してないんだ」

 

「そうでしょうね。救いようのない、こんなわたくしでさえ救いたいと仰る士道さんですもの」

 

「救いようのない、ってところは反論するぞ」

 

「うふふ……」

 

 自虐するような物言いにムッとした表情の士道が反論する。自らのことではないというのに、お優しい方だと手を後ろに組んで彼を見遣り狂三は微笑む。

 向こう見ず、と苦言を呈しこそしたが気持ちは――――――少し不本意ではあるが、恐らくこの方の妹と同じであった。

 

「わたくしは……士道さんの熱い想いを好ましいと思っていますわ」

 

「へ?」

 

「そのままの士道さんでいてくださいまし、という事ですわ」

 

「お、おう……」

 

 少し照れたように頭をかこうとして、ウィッグだと言うことを思い出したのか慌てて頬を掻き誤魔化す。あんなにも大胆な事をした後なのに、こういった純情な所もまた好ましいと狂三は笑みを深めた。

 〝異質〟な価値観と巨大な力を持つ精霊を恐れず、正面に立ち続ける士道の生き方は危うく、それでいて眩しい。そんな彼の生き方に当てられてしまった者は――――――しかし〝異質〟が〝常識〟である誘宵美九の中に入り込んだ〝異物〟、つまり五河士織に対する好感度は下がっていないと聞いた。

 

 様々な人を従える『声』を持つ美九が、操れない〝異物〟である五河士織を欲する理由。それは……。

 

「わたくしが考えても、詮無きことですわね。士道さん、天央祭初日が勝負の日で間違いありませんわね?」

 

「ん、ああ。美九が自分からステージに立つから、俺もそうするようにって言われたよ」

 

「音楽関係で美九さんと勝負をするだなんて、本当に無茶をなさるお方ですこと」

 

「仰る通りです……」

 

 音に聞こえた誘宵美九とステージで勝負。勝率で言えば、誰にどう聞いたところで結果は決まっているとしか返って来ないだろう。向こうはプロの中のプロ、士道側は素人の集まり。狂三が改めて呆れた表情で頬を押さえるのも無理はない。

 

 とはいえ、美九側からすればかなり譲歩した条件ではある。美九は精霊の力の封印など望んでおらず、まず勝負を受ける理由がない。五河士織という〝餌〟を使い、勝負にまで持っていけたのは幸運な事と言えよう。後は、勝負を受けた者たちが勝つ為に最大限の働きをするだけだ。狂三が関わる領分ではない。

 

「うふふ、微力ながら応援していますわ。ご安心なさってください。負けてしまった時はわたくしが士織さんを美味しくいただく(・・・・)予定ですわ」

 

「……そりゃ、最高にありがたい応援だな」

 

 更に負けるわけにはいかなくなった、という意味で言葉を返す。つまり、美九との勝負に負けた時点で狂三との勝負も続行不能、という判定になるのだろう。

 負けるわけにはいかない。否、勝たねばならない。士道がこれから提案する、一つの〝誘い〟の為にも。

 

 

「そうだ。なあ狂三……良かったら、なんだけどさ――――――天央祭の二日目、俺と一緒に回らないか?」

 

「え――――――」

 

「俺と、デートしよう」

 

 

 天央祭、と聞いた時点で既に士道の中では決定事項ではあった。それでも、少し躊躇ったのは気恥しさか、彼女が受けてくれるかという不安か。天央祭実行委員を押し付けられ、それでも二日目のスケジュールを強引に勝ち取ったのは、全ては狂三をデートに誘うため。

 そう、目を見開いて驚く狂三と同じことを(・・・・・)彼は考えていた。

 

 咲いた花は、打算なく出た彼女の笑顔。差し出された手を……今度こそ(・・・・)狂三は手に取った。

 

 

「はい――――――わたくしでよろしければ、喜んで」

 

「うん、お前が良い。狂三が、良いんだ」

 

「ふふっ、士織さんのお姿ですと、わたくしも不思議な気持ちですわ」

 

「…………それは言わないでくれ……」

 

 

 はたから見たら少女が美少女を逢瀬に誘っているようにしか見えないのだ。考えないようにしていたが、やっぱ早めに男に戻りたいなぁと思った。いや、今も男なのは間違いないのだが。

 そんな士道の様子にクスクス、と笑う狂三が言葉を続ける。

 

「わたくしとのデートをご所望であれば……負けてはいけませんわよ。あなた様の全てをいただくのは世界でただ一人――――――この時崎狂三を措いて他にいないのですから」

 

「……逆だろ。狂三の全てを奪うのは世界でただ一人、俺だけだ。だから絶対、勝つさ」

 

「きひひひひ! 期待していますわ――――――それと、お身体の方はなんともありませんの?」

 

「へ……」

 

 突然の話題転換に面食らってしまう。彼女に身体を心配される案件と言えば……この前、白い少女に助けてもらった時の事だろうか?

 

「もしかしてこの前の事か? あの時はあいつに助けられたからなんともなかった、ありがとな」

 

「いえ、そちらではなく……まあ、ちょうど良いですわ。士道さん、あの子(・・・)から預かり物がありますわ」

 

「預かり物?」

 

 えぇ、と頷いてここに来る前に渡された〝あるもの〟を取り出す。話題に出したのならちょうど良い。ただ、預かり物と言っても――――――

 

 

「これは士道さんにではなく――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ただい――――まあ゙!?」

 

「遅いわよ!」

 

 士道の脛に蹴りが炸裂。クリティカルスパーキング!! リビングからとは言わず玄関で出待ちしていた琴里の必殺キックが見事に突き刺さり、靴を脱ぐ前に足を抑えてうずくまる羽目になった。

 

「こ、琴里……バンド練習と実行委員で忙しい俺を労わってくれ……」

 

「前者は自業自得でしょスカポンタン。それより、今日狂三と会ったわよね?」

 

「え……ああ、うん。学校の屋上でちょっとな」

 

 どう考えても、ちょっと所の話ではない交流だった。思わず、といった様子で呑気に答えた士道に目を釣り上げた琴里がビッ、と指を顔に突き付け声を発した。

 

「ちょっとな、じゃないわよ!! 会ったならその時点でこっちに連絡寄越しなさいよ!!」

 

「わ、悪かったよ。そこまで頭が回らなくてな……」

 

「まったく、何のために〈ラタトスク〉があると思ってるのよ」

 

 言いながら、腕を組んで怫然とした表情の琴里へ士道は頭を下げて今一度謝る。ことこれに関しては士道の過失だと分かっているので、素直に謝っておく。士道は今の狂三は平気だと確信しているが、琴里としては万全を期して望みたいという想いがある。

 他の精霊相手なら即座に助けを求めるのだが、狂三だけは特別になってしまっている節がある……そもそも、女装姿を見られたくないのであれば〈フラクシナス〉に連絡すれば良かったと今になって彼は気づいた。後の祭りである上に、琴里が許可してくれるとは思えなかったが。

 

「悪い、次からは気をつける」

 

「しっかりしてよね……狂三と何を話したの?」

 

「あー……美九の事とか、色々と」

 

「何? こっちのこと詳しく話しちゃったわけ?」

 

「あ、すまん。ダメだったか?」

 

「……いいわ。どうせ、こっちの事なんて元から筒抜けなんだろうし」

 

 狂三に対して口が軽すぎると思ったが、あの二人に隠したところですぐ筒抜けになってしまうだろうと予想出来た。あの二人が精霊攻略を邪魔する気がないのであれば、士道が口を滑らせても問題はない。こればかりは、精神的に成熟している精霊という事に感謝しておいた。

 

「あと……天央祭の二日目、狂三とデートする事になった。その時にサポート頼めるか?」

 

「当たり前でしょ。そのための〈ラタトスク〉よ。ま、士織ちゃんが一日目に勝てなきゃ、それも水の泡だけど」

 

「……精一杯、頑張らせていただきます」

 

 皮肉げに笑う琴里に、士道が深々と頭を下げる。

 

「よろしい。心配しなくても、〈ラタトスク〉が全力でサポートしてあげるわ。だから、士道は大船に乗ったつもりで頑張りなさい」

 

「ああ。頼りにしてるよ」

 

 変な三択式の選択肢はともかく、〈ラタトスク〉の力にはいつも助けられているのは事実。琴里たちの助けがなければ精霊を、狂三を救う事さえ難しいだろう。最初は巻き込まれた形ではあったが、今は色々と士道も感謝していた。

 あまりに素直な彼の言葉に照れたのか、琴里は少し頬を赤くしながら言葉を返す。

 

「そ、そう――――――ねぇ、狂三と会って身体に変化はない?」

 

「変化……?」

 

「えぇ。あの子と会って、身体の調子が変になったとか」

 

「……いや、大丈夫だ。どうしたんだよ、琴里まで狂三みたいなこと言って」

 

 寧ろ、狂三にあって色々と元気になったくらいなのだ。士織の事での悩みも消えて、デートの約束も取り付けてモチベーションもバッチリだ。やはり、士道が修学旅行から帰ってきてから、琴里が彼を心配する事が多くなったのは気のせいではない。

 

「狂三が……?」

 

「おう。身体の方はなんともないかって――――――もしかして、なんか知ってるのか?」

 

 鈍い士道と言えど、体調は万全であるにも関わらず日に二度も別の人に似たような心配をされては訝しむのも無理はない。

 しかし、琴里は彼の問に答えることなく顎に手を当てしばらく考え込んだかと思うと、頭を振ってリビングへと歩き出した。

 

「……なんでもないわ。士道は気にしなくて良いことよ」

 

「お、おい――――――あ、そうだ! お前に渡したいものがあるんだ」

 

「……渡したいもの?」

 

 ピタ、と歩みを止めて綺麗な反転を見せる琴里にああ、と頷いて近づきながら〝それ〟を差し出す。

 

「――――――お守り?」

 

「ああ。帰り道、なんかこう……ビビっと来てな」

 

 若干苦しいかもしれないが、笑顔で押し通す事にする。勿論、そんな事を考えている時点で裏があるのは前提の話である。士道は、屋上での会話を思い出していた。

 

 

 

『――――――琴里に?』

 

『えぇ。あの子が琴里さんに渡して欲しいそうですわ。出来ればご本人には私からと伝えずに、と仰っていましたわ』

 

 手渡された〝お守り〟をじっくりと眺めて見るが、なんて事はない普通の白いお守りに見える。

 

『なんで琴里にこれを……?』

 

『さあ、そこまではわたくしも。ただ、怪しいと思ったなら捨ててもらって構わないとも仰っていましたわ』

 

『……いや、そう言われて捨てられるやつはいないだろ』

 

 何度も助けてもらってる人物からの預かり物を捨てられるほど、士道は恩知らずな人間ではなかった。とはいえ疑問は浮かぶ。何せ、琴里とあの少女の繋がりがイマイチ分からない。以前、妹を守ってくれた事はあったがあの時は二人に直接面識はなく、それは琴里本人も認めるところではあった。

 ただのお守り、と考えるほど士道は呑気ではない。しかし、今更あの少女が自分たちに害を成すような物を、わざわざ狂三を経由して渡してくるとも思えなかった。

 

『分かった。何とか理由つけて、俺から渡して見るよ』

 

 

 

「何よそれ。ついに頭がボケ始めたわけ?」

 

「いやそうじゃなくて……とにかく、気休め程度に貰ってくれないか?」

 

「……こういう贈り物は、他の精霊にしなさい。安定してる私より――――――」

 

「そうかもしれないけど――――――俺は琴里も心配なんだよ。くだらないかもしれないけど、なんかの役に立つかもしれないだろ? 琴里だって何があるか分からないんだからさ」

 

 受け取って貰うための建前を考えていた筈なのだが、出てきたのは思わぬ本音だった。司令官としての心労や、戦艦に乗っているとはいえDEM社にも同じようなものがあると聞いた。決して、彼女の周りは安全とは言いきれない。

 確信のない直感でしかないが、このお守りはきっと琴里を助ける〝何か〟になると思った。あの白い少女がわざわざ琴里を指名したのだから、〝何か〟がある筈だと。

 とはいえ、プレゼントを自分からだと嘘をついている事には変わりないので、どこかぎこちない笑みの士道を訝しげに見つめる琴里。しかし、フッと頬を緩めて奪い取るようにお守りを掴んだ。

 

 

「そ。士道がどうしてもって言うなら、受け取ってあげるわよ――――――ありがと」

 

 

 黒リボンの琴里特有のぶっきらぼうな言葉遣いではあったが、リビングへと向かう背中は少し揺れ動いていた。素直じゃねぇなぁ、と後ろ髪を掻きながら士道もその背中を追いかけて行った。

 

 ――――――その日の琴里は、どこか機嫌が良さそうだったと士道は思った。

 

 

 

 







書いたあと思ったのは、十三話くらいでデート誘っただけでお互いてんやわんやになってた頃に比べると二人とも随分成長したんだなって(しみじみ) 階段めちゃくちゃすっ飛ばして命取り合う仲になったらデートくらい軽いもんですよ、多分。

なんて言うか私の書く琴里ってツン要素薄めになってるんじゃないかと常々思っています。狂三が関わらず変更ない原作場面は基本カットなのもありますけど、優しい(当社比)場面が多い気がします。まあ近くに狂三がいるというのが大きいんですけど。

果たして士織ちゃんは勝負に勝つことが出来るのか。白い少女は何を渡したのか。急転直下の美九編。色々理由つけて気をつけないとパワーバランスが凄いことになるから怖いですね!(本音)
感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!
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